『クレージーメキシコ大作戦』:1968、日本

殿様として城で高らかに歌う夢を見ていた酒森進は、留置場で目を覚ました。大酒飲みの彼は警察に保護されることが何度もあり、その度に美大生である恋人の村山絵美が迎えに行っている。一方、組長である花岡平造の身代わりで刑務所暮らしをしていたヤクザの清水忠治が、刑期を終えて出所した。迎えに来た兄貴分の松村に、清水はパチンコ屋の店員である秋本光子のことを尋ねる。清水は出所したら光子と結婚させてほしいと花岡に頼み、その約束を取り付けていたのだ。松村は彼に、花岡が光子の面倒を見ていることを告げた。
花岡興行の事務所には、銀座のバー「人魚」のマダムである由香利が乗り込んでいた。彼女は花岡が自分を捨てたことに憤慨しており、事務所へやって来た清水にも彼の悪口を告げて立ち去った。花岡の秘書をしているのが光子だと知り、清水は美しく成長した彼女に驚いた。花岡は清水を部屋に呼び、頼みたいことがあると述べた。希望銀行の主任を務める鈴木三郎は、集金の仕事で料亭「大和」を訪れていた。店で働く相川雪子は、恋人である鈴木が常務の娘と婚約したという噂について確認する。鈴木は婚約を否定し、銀行に戻った。部下の石山を注意した後、彼は大林常務と会った。鈴木は出世のために、大林の娘である令子と婚約していた。
日曜日、鈴木が令子と銀座でデートしていると、酒森と絵美が「泣き売り」の詐欺で集まった人々に着物を売り付けようとしていた。鈴木はインチキ商売だと簡単に見抜き、その場を去った。そこへ雪子が現れたので、鈴木は近くで開催されていたメキシコ秘宝展の会場に逃げ込んだ。その会場には、清水と松村も来ていた。花岡は展示してあるオルメカの石像を盗むようアメリカのシンジケートから求められ、その仕事を清水に任せたのだ。
松村が火事を起こして見物客が一斉に逃げ出す中、清水は石像を盗んで鞄に入れた。しかし学生バイトの警備員に気付かれたため、慌てて逃走する。会場を出た彼は、絵美が投げたバナナの皮で足を滑らせた。宙を飛んだ鞄を酒森と絵美がキャッチし、清水は警備員に追われて逃げ出した。鈴木は雪子に見つかり、常務の娘との婚約を認めた。「会社員だから常務の申し出は断れない」と言い訳する鈴木に、雪子は諦め切れない気持ちを訴えた。
鞄の中身を確認した絵美は、それがオルメカ文化の遺産であることを酒森に説明した。興味の無さそうな酒森に、絵美は外国へ行きたい願望を語った。酒森は石像を持ち主に売り付けて稼ごうと考え、絵美に偽物作りを要請した。鞄にバー「人魚」のマッチと煙草の「朝日」が入っていたため、それを手掛かりにして持ち主を見つけ出そうと彼は考える。バー「人魚」へ赴いた酒森は、「朝日」を吸っていた男に声を掛けた。すると由香利が、芸能プロモーターの伊沢だと教えた。
伊沢がアメリカで踊るゴーゴーダンサーを探していると知った酒森は、ピッタリの女がいると告げる。彼は絵美の元へ伊沢を連れて行き、契約を済ませて金を受け取った。困惑する絵美に、酒森はアメリカへ行けること、その代わりにナイトクラブでゴーゴーを踊ればいいことを説明した。絵美はアメリカへ行けるというだけで、単純に喜んだ。清水は由香利から、光子が花岡の愛人になったと聞かされた。花岡への怒り心頭で店を出る際、清水は酒森とぶつかった。清水は「朝日」を落とし、それに酒森が気付いた。
清水は事務所に戻り、光子が花岡の秘書として一緒にアメリカへ行くことを知った。社長室に乗り込んだ清水は、花岡に怒りをぶちまけて立ち去った。花岡が困惑していると、松村は由香利が妙なことを吹き込んだのではないかと告げた。酒森は事務所を訪れ、石像を買うよう花岡に持ち掛けた。値段交渉の末、酒森は500万を受け取って贋作を引き渡した。どこで石像を欲しがっていることを知ったのかと松村が尋ねると、酒森は「人魚」で聞いたことを明かす。そこで花岡と松村は、ますます由香利を生かしておけないと考えた。
酒森は絵美を空港まで送り、石像は50万でしか売れなかったと嘘をついた。さらに彼は、取り分の25万を物に換えたと説明し、彼女に真珠のネックレスをプレゼントした。絵美は喜ぶが、それは偽物だった。松村は事務所に呼び出した由香利を絞殺するが、清水が来たので身を隠した。清水は拳銃を発砲した後、由香利が死んでいるのに気付いた。自分が殺したと清水が思い込んでいるところへ、松村が現れた。彼は殺しの責任を取るよう要求し、死体を片付けろと清水に命じた。そして彼は、既に花岡が渡米したことを教えた。
事務所の外へ出た清水は、鍵の掛かっていない車を見つけて死体を後部座席に滑り込ませた。清水が走り去った後、車の持ち主である鈴木が令子とのデートを終えて戻って来た。鈴木は死体に気付かないまま、車を発進させる。途中で気付いた鈴木は、令子に気付かれないよう誤魔化した。令子を家まで送り届けた鈴木は、死体を橋から捨てようとする。そこへ警官2人が来て免許証の提示を求めたので、鈴木は仕方なく応じた。警官2人が去った後、彼は死体を捨てた。それは屋根を突き破り、酒森の寝ているベッドに落下した。泥酔していた酒森は由香利が訪ねてきたと思い込み、そのまま眠り込んでしまった。
翌朝、清水はサンフランシスコ行きの貨物船を見つけ、麻袋に隠れて密航した。酒森は由香利が死んでいることに気付き、医者に変装して医科大学へ赴いた。彼が「解剖用の死体を持って来た」と看護婦に説明していると、癌治療の権威である中村博士が通り掛かった。彼は死体の到着を喜び、リヤカーに積んであると酒森が言うので見に行く。医大を見張っていた日系人のケンとコステロ一家の連中は、酒森を中村と間違えた。彼らは酒森を殴って昏倒させ、トラックに押し込んだ。
結婚式の控室で待機していた鈴木は、由香利の死体が発見されたことを報じるテレビのニュースに目を留めた。自分も重要参考人になっていることを知った鈴木は、式場に塚田刑事たちが来たのを見て逃げ出した。鈴木がタクシーで逃げ出すと、式場に来た雪子が後を追った。大林や令子たちも、パトカーで追跡した。羽田空港に到着した鈴木は大和の女将と遭遇し、1千万を銀行で預かってほしいと言われる。彼は金の入った風呂敷を受け取り、そのまま飛行機でアメリカへ逃亡した。
汽笛の音で目を覚ました酒森は、サンフランシスコにいることをケンから知らされる。ケンは酒森を中村と誤解したまま、マフィアのボスであるルウ・コステロの腫瘍摘出を要求した。アメリカの名医でも無理だと言われたため、コステロ一家は中村に目を付けたのだ。摘出しないと日本へは帰さないと言われたため、酒森は中村に成り済ました。彼はアメリカの名医であるベン・ケーシたちが待ち受ける中、手術室へ赴いた。ケンの吐き出したガムを拾った酒森は、それを摘出した腫瘍に見せ掛けた。
サンフランシスコに到着した清水は展望双眼鏡を覗き、レストランで食事中の光子を発見した。レストランへ赴いた清水に、光子は自分が本当に秘書として来ていること、花岡と男女の関係が無いことを説明した。清水は光子に、花岡に頼んで結婚するはずだったことを語る。しかし光子は結婚の意志が無いことを告げ、店を後にした。酒森は海へ飛び込み、コステロ一家から逃亡した。清水は橋から身投げしようとするが、日本から来た塚田に制止された。
清水と塚田は助けを求める酒森に気付き、救急車を呼んで病院へ運ぶ。塚田は清水に、銀座のマダム殺しの第二容疑者である鈴木を追って来たこと、第一容疑者が酒森であることを説明した。病院に到着すると、清水は早々に立ち去ったる。病室で目を覚ました酒森に、塚田は警視庁の刑事であることを告げる。塚田が手錠を掛けようとするが、酒森は病室から逃走した。外へ出た彼は鈴木と遭遇し、札束の入った風呂敷包みに目を留めた。そこへ清水が現れ、酒森を助けたのは自分だと述べた。
鈴木は刑事が追って来ていることを聞き、詳しいことを知りたいので酒森と清水を自分の住む安アパートへ連れて行く。酒森のブラフに騙された清水は、自分が由香利を撃ち殺したことを白状した。酒森は刑事を詐称し、証拠品として風呂敷包みを持ち去った。鈴木と清水は酒森が刑事でないことを悟り、すぐに後を追った。酒森が路面電車で逃亡を図ると、たまたま乗っていた雪子が風呂敷包みに気付く。彼女が風呂敷包みを取り上げると、酒森は奪い返そうとする。しかし他の乗客たちが止めに入ったため、酒森は電車を降りた。
酒森が通り掛かった車に乗り込むと、ケンとコステロ一家の姿があった。清水と鈴木は、走り去る車のナンバーを覚えた。ケンは酒森をホテルに連れて行き、コステロが手術に感謝してパーティーに招待したことを話した。余興として登場したダンサーが絵美だったので、酒森は驚いた。絵美は自分を騙した酒森に怒っており、平手打ちを浴びせた。コステロは奥の部屋へ行き、花岡から石像を受け取る。だが、石像を割っても目当ての地図が無かったため、偽物だと知って憤慨した。
花岡は酒森を見つけ、偽物を掴ませたのは奴だとコステロに教えた。そこへ清水と鈴木が乗り込み、酒森を捕まえようとする。しかし花岡の姿に気付いた清水は、標的を変更した。清水たちに不審を抱いた警官隊が突入し、全員に制止を命じた。花岡やコステロたちは逃げ出し、警官隊が追い掛ける。鈴木は警官に逮捕され、ホテルを出た清水はワゴン車に飛び込んだ。酒森は通り掛かった車に乗せてもらおうとするが、そこにはケンや花岡たちがいた。酒森は逃げようとするが、捕まってしまった。
鈴木はメキシコからの密入国者と誤解され、強制送還されることになった。鈴木の持ち逃げした金を取り戻すためにアメリカへ来た石山は、空港でケンたちに連行される酒森と遭遇した。塚田は雪子が働く日本料理店を訪れ、鈴木を追っていたがメキシコへ送られたこと、予算尽きたので帰国を決めたことを話す。そこへ石山が現れ、自分も鈴木を捕まえに来たことを塚田に話す。彼がメキシコまで追い掛ける意欲を示すと、塚田も同行することにした。
酒森はセスナ機に乗せられ、花岡から地図を出すよう要求されていた。酒森は「破って捨てた。中身は頭の中だ」と嘘をついたので、花岡は地図を書くよう求めた。酒森は低空飛行するよう要請し、セスナ機から飛び降りた。鈴木と遭遇した彼は、一緒に町へ向かう。するとマリアという少女が路上で踊りを披露し、少年が客から金を集めていた。酒森はスペイン語の分かる鈴木に、少年を呼んで踊り子の名前を尋ねるよう指示した。少年が鈴木に気を取られている隙に、酒森は彼の帽子に入っていた小銭を盗み取った。
盗んだ金で買ったバナナを食べた酒森と鈴木は、酔っ払っている清水と遭遇した。彼の逃げ込んだ車にはウイスキーが積んであり、それを飲んで酔っ払ったのだ。清水は「自分がマダムを殺したせいで迷惑を掛けた」と謝罪するが、酒森と鈴木は怒らなかった。清水は2人に、花岡と光子の前で自殺するために持って来たダイナマイトを見せた。3人はマリアの家を見つけ、酒森は誘い出すための歌を歌う。するとマリアの同居人である男が、ベランダから水を浴びせ掛けた。
翌朝、清水はマリアが山賊に拉致される様子を目撃し、酒森と鈴木に教える。3人は山賊を尾行して村へ行くが、捕まって牢に入れられた。マリアは山賊から拷問を受け、祖父から貰った地図を出せと脅されていた。マリアは鞭で殴られて気絶し、牢に運ばれた。そのままだと銃殺されることを知った酒森たちは、逃げ出すための方法を考える。3人は鶏にダイナマイトを結び付け、山賊に投げ込もうと目論んだ。作戦は失敗しそうになるが、鶏に気付いた山賊の1人が仲間たちの元へ運び、そこで爆発が起きた。
酒森、清水、鈴木はマリアを運び出し、通り掛かったバスを停めて病院まで乗せて行ってもらう。メキシコシティーで入院したマリアは、3人に「もしも自分が死んだら、ペンダントをグアダルーペ寺院のマリア様に返して欲しい」と頼む。それは祖父がオルメカのピラミッドから持ち出した物で、それから家族に不幸が続いたのだと彼女は話す。山賊がマリアを襲ったのも、ピラミッドの財宝を手に入れるためだった。マリアはピラミッドへの道を知っていることを告げ、気を失った。
酒森たちはマリアが元気になってから一緒にピラミッドへ行くため、準備金を稼ぐことにした。その方法は、清水が駐車中の車に泥を塗り付け、酒森と鈴木が窓拭きの仕事で小銭を稼ぐというものだ。そんなインチキ商売を始めた3人は、メキシコ大学に留学中の立原という男と出会った。立原は3人が金に困っていることを知り、仕事を回すことを提案した。彼の父親は日本で芸能プロモーターをやっており、こちらにタレントを呼んでショーを開催しようと考えたが、予算の関係で多くのスタッフを雇うことが出来ないのだという。
立原は酒森たちの裏方の仕事を持ち掛け、既に雇った在留邦人3名を紹介する。その3人は、塚田、ケン、石山だった。ケンは日本人がパーティーを台無しにしたという理由で、コステロからクビにされたのだと酒森たちに述べた。塚田は酒森と鈴木、石山は鈴木を捕まえる目的がメキシコへ来たのだが、「今のままでは日本に戻れないのだから、帰国するまで仲良くして下さい」という立原の言葉に納得した。酒森は「どうせからショーに出よう」と提案し、7人はステージに立とうと考えた。
立原の元には父親からの手紙が届くが、そこには金もタレントも送らないこと、勘当することが記されていた。立原は借金を抱えていることを明かし、7人は靴磨きで稼ごうとする。しかし集まったのは少しの金と1枚の宝くじだけで、ケンは呆れて立ち去った。酒森、清水、鈴木は病院へ行き、マリアの背中に地図が彫られていることを知った。宝くじが当選して金が手に入ったので、3人はマリアを連れてピラミッドへ向かう…。

監督は坪島孝、脚本は田波靖男、製作は渡邊晋&大森幹彦、撮影は内海正治、美術は竹中和雄、録音は増尾鼎、照明は小島正七、編集は武田うめ、音楽は萩原哲晶&宮川泰。
[メキシコ国立劇場ショー]監督は小谷承靖、企画構成は河野洋&田村隆、振付は小井戸秀宅。
出演は植木等、ハナ肇、谷啓、藤田まこと、浜美枝、大空真弓、園まり、アンナ・マルティン、犬塚弘、桜井センリ、石橋エータロー、安田伸、ザ・ドリフターズ、ザ・ピーナッツ、中尾ミエ、中丸忠雄、天本英世、藤岡琢也、春川ますみ、田武謙三、人見明、浦辺粂子、浦山珠美、塩沢とき、東郷晴子、十朱久雄、桐野洋雄、草川直也、デッド・ガンサー、広瀬正一、小川安三、鈴木和夫、大前亘、緒方燐作、豊浦美子、生方壮児、オスマン・ユセフ、ハロルド・コンウェイ、ハンス・ホルネフ他。


クレージー作戦シリーズの第11作。
監督は4作連続で坪島孝、脚本は6作連続となる田波靖男。
酒森役の植木等と清水役のハナ肇が並列で最初に表記される。それ以外のクレージーの面々は、鈴木役が谷啓、塚田役が犬塚弘、ケン役が桜井センリ、石山役が石橋エータロー、立原役が安田伸。
他に、中村を藤田まこと、絵美を浜美枝、光子を大空真弓、雪子を園まり、マリアをアンナ・マルティン、松村を中丸忠雄、山賊の頭領を天本英世、伊沢を藤岡琢也、由香利を春川ますみ、花岡を田武謙三、留置場の警官を人見明、鈴木の母・うめを浦辺粂子、令子を浦山珠美が演じている。

ザ・ドリフターズの面々が、それぞれ1シーンずつ登場している。
最初は加藤茶で、メキシコ展のバイト警備員。
他の面々は、全て警官役。いかりや長介は、由香利の死体を運び出した清水に近付く警官。荒井注と仲本工事は、橋から由香利を捨てようとした鈴木に声を掛ける警官。高木ブーは、大林たちが鈴木を追う時に乗るパトカーの警官だ。
また、メキシコで酒森たちがショーをするシーンでは、中尾ミエとザ・ピーナッツが参加している。
アンクレジットだが、ラストシーンではマリアの恋人役で沢田研二が出演している。

冒頭、江戸時代の城が画面に写し出され、殿様姿の植木等が腰元たちをバックダンサーに従えて歌い踊る様子が描かれる。
それは酒森が留置場で見ている夢なのだが、その入り方は違うなあ。
これが日本を舞台にした現代劇なら、「現代劇のはずなのに時代劇」という違和感はプラスの効果を生む。しかし「メキシコ大作戦」なのに時代劇っぽい始め方をするのは、飛躍が過ぎてマイナスだ。むしろ、いかにもメキシコっぽいオープニングの方が効果的。
それを考えると、どうせ夢のシーンなんだから、時代劇じゃなくてメキシカンな雰囲気のある内容にしておけば良かったんじゃないかと。

この映画の上映時間は、162分もある。
それだけの長尺なので、作戦シリーズは基本的に二本立て興行だが、これは一本立てだ。他の東宝クレージー映画も含めて最長の上映時間であり、途中で休憩時間が用意されている唯一の作品だ。
前年の『クレージー黄金作戦』が157分の大作で、これが観客動員290万人の大ヒットだったので、渡邊晋は味を占めたんだろう。
だが、観客動員が170万人まで落ち込む大失敗となった。

そもそも、途中で休憩を入れなきゃいけない長さのコメディー映画という時点で、大減点である。
しかも、「メキシコ大作戦」というタイトルなのに、メキシコが舞台になるのは休憩を挟んだ後半からだ。それは明らかに引っ張り過ぎ。
そこまでの長さを取るだけの充実した中身が、前半部分にあるわけでもない。薄っぺらい内容を引き延ばしているだけなのだ。
この中身だったら、2時間以内で確実に収めることが出来るし、収めるべきだ。

今回の映画は、酒森にしろ、鈴木にしろ、かなり不愉快なキャラクターになっているというのも大きな欠点だ。
鈴木は出世のために常務の娘と婚約しておきながら、それを隠して雪子との交際を続行する。そこには罪悪感のカケラも無い。
雪子にバレてから謝っているけど、それは誠意のある言葉ではなく、ただ言い訳をして取り繕っているだけだ。
女将から預かった1千万を持ち逃げするのも言語道断。
っていうかさ、飛行機に1千万の現金を持ち込むことなんて不可能だろ。

酒森なんて、絵美を金で売り飛ばしているんだよな。
それは笑って見過ごせないわ。
おまけに、石像を売った金額も嘘をつくし、真珠のネックレスさえ偽物を渡している。こいつも、やはり罪悪感はゼロだ。
そりゃあ、当時は男尊女卑の考え方が残っていて、特に映画業界は「フェミニズムなんてクソ食らえ」的な世界だったってのはあるんだろうけど、それにしても酷すぎるわ。ただのクズじゃねえか。

清水は光子が16歳の時に彼女の世話をしていた設定なので、「妹のように可愛がっていた」ということなのかと思ったら、花岡に「約束通り、結婚させてくれるんですよね」と言っている。
だけど、久々に会った時、それが光子だってことも分からなかったのに、それで結婚させてくれってのは、どうにも誠実さに欠けるように感じるぞ。
それだと、「収監する前から結婚するつもりだった」ということよりも、「久々に見たら美人に成長していたから」という部分が大きいように感じ取れるし。

由香利の死体が処理される過程は、まず清水が車の後部座席に入れて立ち去るのが違和感。
それは「処分した」とは言えないでしょ。すぐに死体が発見されることになるんだからさ。
死体に気付いた鈴木が、令子にバレないよう誤魔化しているのも違和感。結婚を控えて余計なことに関わりたくないという事情はあるにせよ、むしろ死体を隠蔽する方が余計なことになっちゃうでしょ。
「死体を通じて酒森、清水、鈴木の3人に繋がりが生じる」という筋書きの面白さも、流れがスムーズじゃないから感じられない。
ただし、死体に成り切って瞬き一つせずに硬直している演技を続ける春川ますみは御見事。

メキシコへ直行させられない事情もあってか、サンフランシスコのシーンを挟むのだが、これが完全に無駄な手順になっており、すんげえダラダラしてしまう。心底から「さっさとメキシコへ行けよ」と言いたくなる。
酒森が中村と誤解されてコステロの手術をさせられるエピソードなんて、ホントに無駄な寄り道でしかない。
そういう手順を踏まないと、酒森を絶対に日本から連れ出せないわけでもないでしょ。何か他に手はあったでしょ。
大体さ、世界的な名医たちが見守る中で、噛み終えたガムを腫瘍に見せ掛けるなんてのは無理があり過ぎるし。

さっさとメキシコに舞台を移して、さっさとメインの3人を絡ませてほしいのよ。酒森、清水、鈴木を分断したまま延々と話を続けても、これっぽっちも話が弾まないんだから。
そんで中盤に酒森、清水、鈴木は合流するけど、それはサンフランシスコ。なんで「メキシコ大作戦」なのに、合流ポイントが日本でもメキシコでもなくサンフランシスコなのかと。
もうさ、それなら「サンフランシスコ大作戦」でいいんじゃねえかと思ってしまう。その方が時間短縮になるし、何かと都合がいいでしょ。
もちろん、次の年にメキシコ五輪が開催されるから、メキシコを舞台にしたってのは分かるのよ。だけどメキシコへ行くまでに、すんげえ無駄な手間と時間を費やしているので、「もういいわ」と言いたくなっちゃうんだよね。

清水がアメリカ人から展望台の双眼鏡を貸してもらうとか、光子がレストランで食事をしているのを目撃するとか、そういう都合のいい偶然は別に構わない。
ただし、光子を見つけた清水が走り出し、カットが切り替わるとレストランで彼女と会っているのは、さすがに無理があるだろ。
あれだけの距離があって、しかも初めての場所だからレストランの場所や名前だって分からないはずなのに、すんげえ簡単に見つけてるのよね。しかもヒッピーみたいな格好だから、普通は入店を断られるだろ。
それなら、「清水が歩いていたら、たまたま光子と遭遇する」という出来過ぎた偶然の方が遥かにマシだわ。
光子が独りで食事を取っているのも不自然だし。「花岡はホテルでアメリカのボスから連絡を待っている」という理由は付けてあるけど、だったら通訳として光子が必要なはずでしょ。

冒頭で酒森が『人生たかが二万五千日』を歌い上げるシーンの後、ずっとミュージカル・シーンが無かったもんだから、石山と塚田がメキシコへ向かうことを知った幸子が鈴木を心配して『あなたのとりこ』を歌唱するシーンは、かなり違和感が強い。
普段のクレージー映画だと「カットが切り替わると、すぐに歌い出す」というパターンばかりなのに対し、そこはドラマからの繋がりで歌い出しているから、ミュージカル・シーンとしての流れはある。
だけど、1つ目のミュージカル・シーンから間隔が開き過ぎだわ。
1時間半ぐらい空いてから2つ目なんだから、それは上手くないよ。

それと、『あなたのとりこ』の歌唱で休憩に入るってのも、タイミングとしてイマイチだわ。
そもそも、鈴木がメキシコへ送られたことは分かっているけど、酒森と清水に関してはメキシコへ向かった理由や経緯が明かされていないんだから。
それは「メキシコ篇」という表示の後、彼らが再登場した時に明かされるけど、それは構成として上手くないよ。
前半の内に「彼らがこういう流れでメキシコへ向かった」ということを描いて、それから後半に入るべき。

鈴木に関しては、アメリカのパートでは酒森に金を騙し取られるなど、基本的には被害者の立場になるから、不快指数は一気に減少する。
しかし酒森はアメリカ篇でも鈴木から金を騙し取るし、絵美を売り飛ばしたことに全く反省の色を見せない。メキシコ篇に入っても、少年から小銭を盗み取っている。
だから、彼の不快指数は減るどころか上昇する一方だ。
そして、少年から盗んだ金で買ったバナナを鈴木も平気な顔で食べていることから、彼も再び「不快な男」の仲間入りをする。

牢に入れられた酒森たちが、鶏にダイナマイトを結び付けて山賊の元へ投げ込もうとするのは、当時はうるさく言われなかったんだろうけど、完全に動物虐待だ。
だから、鶏が牢の中で暴れ出したのでアタフタするとか、外へ投げたのに牢の近くで鶏が座り込んだので焦るとか、そういうドタバタ劇も笑えない。
大爆発で牢屋まで吹っ飛んで酒森たちも被害を受けるってのも、それだけなら喜劇なんだけど、拷問で傷付いたマリアまで巻き込まれていることが引っ掛かっちゃうから笑えないし。
しかも、銃殺刑を回避して逃げ出すための行動とは言え、それは大量殺人だからね。

っていうかさ、メキシコを舞台にしているから現地の女優を使いたいってことだったのかもしれないけど、マリアって全く要らないキャラなんだよな。
これが「有名女優のゲスト出演」という扱いならともかく、そうじゃないんだし。マリアを絡めることで、無駄にモタモタするし、何の得も無い。
渡辺プロが売り出そうとしていた新人歌手ってわけでもなく、ただの無名タレントなんだから、そんな人を使わず話を進めりゃ良かったのよ。
その一方、メキシコ篇に入って絵美、光子、雪子の出番が著しく少ないのは不満だし。
そういう女優陣の出番を増やして、そっちを使って話を膨らませようぜ。

メインとなる酒森、清水、鈴木の行動目的がなかなか定まらないってのも、映画の魅力を削いでいる一因だ。
メキシコで合流した直後には「協力して花岡を見つけ出そう」という目的が設定されるが、そこから「拉致されたマリアを助けに行く」とか「牢から脱出する」とか「ピラミッドへ行くための金を稼ぐ」といった別の目的が次々に生じるため、いつの間にか花岡を見つけ出す目的は忘れられる。
巻き込まれ型ストーリーとしての勢いやパワーも足りないし、そもそも巻き込まれ型としての印象も中途半端。
花岡やコステロといった周囲の連中が前半の内からピラミッドの地図や財宝を巡る行動を開始しているんだから、さっさと酒森たちの目線もそっちへ向けた方がいい。少なくともメキシコ篇に入ったら、ピラミッドや財宝を彼らの目的に設定した方がいい。
ところが実際には、マリアからピラミッドのことを聞かされても、すぐに向かうわけではなく、「行くための金を稼ぐ」というトコでダラダラするんだよな。

「立原が在留邦人を裏方として雇う」という形でクレージーキャッツの面々を合流させるのは、無理が有りすぎるわ。
ケンなんて「クビにされたから」という理由を付けているけど、メチャクチャだ。
後になって「実はクビにされたと見せ掛けて酒森たちを見張っていた」と明かしているけど、だったら靴磨きを始めた時に立ち去るのは辻褄が合わないし。
その手順を踏まないと7人が揃わないという事情はあるけど、酒森たちがピラミッドや財宝を目指す道中で遭遇する形に出もすりゃ何とかなるでしょ。どうせ7人が合流しても、そのまま一緒にピラミッドへ向かうわけじゃなくて、すぐに2つのグループに分断しちゃうんだし。

(観賞日:2015年5月31日)

 

*ポンコツ映画愛護協会