『コンフィデンスマンJP -英雄編-』:2022、日本

フランス・パリ。インターポール特別捜査官のマルセル真梨邑は特殊部隊を率いて建物に突入し、椅子に縛り付けられた少年を保護した。ボナール伯爵夫人が少年を抱き締めて無事を喜ぶ中、真梨邑は椅子に置いてあったツチノコのカードを発見した。昭和初期・東京。初代のツチノコは富を独占する政治家や財閥から財産を奪い、貧しい人々に分け与えた。ツチノコの名は腕を持つ者によって密かに受け継がれ、2年ほど前に三代目が亡くなった。そのことを真梨邑は、伯爵夫人に説明した。
東京。赤星は警視庁捜査二課の丹波刑事からダー子たちの詐欺事件について質問され、騙されたことを否定した。手を組むよう誘われた彼は、「自分の問題は自分で解決する」と断った。ダー子は2年もオサカナ釣りをしていないことに不満を漏らすが、ボクちゃんは足を洗う潮時だと告げる。リチャードは三代目ツチノコが死んで情熱を失ったと話し、ダー子も同じではないかと指摘する。ダー子たちは三代目ツチノコの元で出会い、一緒に仕事をするようになったのだった。
ダー子はボクちゃんとリチャードに勝負を持ち掛け、「負けた者は勝った者に従う」という約束を交わした。2ヶ月後、マルタ共和国に入った3人は、7日間で最も稼いだ者が勝利するゲームを開始した。1日目、ダー子は五十嵐とちょび髭とモナコを従え、既にオサカナも定めていた。ボクちゃんは謎の女から道を尋ねられるが、ダー子の子猫だと確信して相手にしなかった。リチャードは波子を連れて来て、パスタを出す露店のタンポポを営業させていた。
ダー子は元マフィアのジェラール・ゴンザレスをオサカナに決め、20億円の資産価値がある彫刻の「踊るビーナス」を狙っていた。彼女はゴンザレスに麗奈という内縁の妻がいることを五十嵐に教え、近付くよう指示した。ダー子と五十嵐は美術商に化けてゴンザレスと麗奈に接しくしようとするが、先にボクちゃんが骨董屋として親しくなっていた。そこでダー子は作戦を変更し、軍服女子が好きなゴンザレスな性癖を利用することにした。彼女と五十嵐は海上自衛隊の佃麻衣と外交官警備対策官の富田林保を詐称し、踊るビーナスが狙われていると説明してゴンザレスに接触した。
ゴンザレスはダー子たちが去った後、何者かに電話を掛けて「お前の言う通り、怪しい奴が来た」と連絡した。ダー子は贋作師の元へ行き、踊るビーナスの贋作を3日で完成させるよう要求した。ダー子は部下たちを引き連れてマルタに来た赤星を目撃し、姿を隠した。2日目、ダー子たちがゴンザレスの邸宅へ行くと、彼は友人の真梨邑を呼んでいた。真梨邑は踊るビーナスを守るため、リカルドとフレディを連れて来ていた。ダー子は素性を怪しんだ真梨邑から探るような質問を受けるが、冷静に対応した。丹波はゴンザレスの邸宅を訪問してダー子を捜していることを話すが、目の前にいることには全く気付かなかった。
3日目。ダー子はゴンザレスに、踊るビーナスを大使館へ預けるよう進言した。彼女はダミーを用意すると告げるが、ゴンザレスは承諾しなかった。4日目、ダー子はちょび髭とモナコに協力させ、五十嵐が踊るビーナスを狙う男に襲われたように偽装した。この芝居を受け、ゴンザレスは踊るビーナスを大使館に預ける計画を受け入れた。5日目。ダー子はダミーを受け取った直後、麗奈が誘拐されたという連絡を受けた。彼女が急いでゴンザレス邸へ行くと、ボクちゃんも一緒に拉致されていた。
真梨邑はダー子に、犯人はツチノコを名乗る人物だと告げる。それから彼は、この2年ぐらいでツチノコが高価な美術品を次々に入手していること、1年ほど前にツチノコが養護施設の少年を誘拐してボナール伯爵夫人が所有する名画『我が家』を手に入れたことを話した。犯行現場周辺では、日本人男女の目撃情報が幾つもあったらしい。真梨邑の話を聞いたダー子は、2年前のことを振り返る。彼女は自分が四代目を継ぐと確信していたが、三代目から「お前じゃない」と言われていた。ゴンザレスはダー子たちに、麗奈は心臓が悪いと話した。そこへ犯人から、「明日15時、セントジュリアンマリーナ」とメールが届いた。
2ヶ月前。ボクちゃんはダー子から勝負を提案されて受諾した後、リチャードに話を持ち掛けていた。彼はダー子を引退させるための協力を要請するが、リチャードに断られた。ボクちゃんは五十嵐に取引を持ち掛け、情報を流す約束を取り付けた。彼は五十嵐から、ダー子の動きや麗奈に関する情報を流してもらった。ボクちゃんは麗奈と共通点がある男を偽り、彼女の気持ちを掴んだ。彼は贋作師の元へ行き、自分にダミーを売却するよう持ち掛けた。
4日目。ボクちゃんは麗奈を説得し、踊るビーナスを売却してダミーと摩り替える計画への協力を取り付けた。5日目。彼は計画のために麗奈と外出するが、仮面の集団に襲われた。麗奈が車で誘拐され、助けようとしたボクちゃんも捕まって隠れ家へ連行された。ボクちゃんは麗奈の拘束を解いて一緒に脱出するが、犯人グループに見つかって連れ戻された。2年前。ボクちゃんは三代目ツチノコから、ダー子を守るよう頼まれた。「ダー子の父親ではないのか」とボクちゃんが尋ねると、三代目は笑って否定した。
6日目。犯人グループは隠れ家から姿を消し、残されたボクちゃんと麗奈は真梨邑たちに保護された。真梨邑は現場でツチノコのカードを発見し、ボクちゃんに美術品強盗事件が連続していることを教えた。ボクちゃんはダー子に、犯人がリチャードではないかと話す。ダー子はモナコに連絡を入れ、ビーナスを取り戻すための行動を指示した。麗奈が心肺停止に陥り、ボクちゃんは激しく動揺した。丹波は彼に詰め寄り、「ツチノコはどこだ?」と声を荒らげた。
2ヶ月前。リチャードはボクちゃんの提案を断り、自分の本当の力を見せると宣言した。4日目。リチャードは丹波とフレディと地元のチンピラ2名の前で、わざと波子に平手打ちを浴びせた。彼は丹波たちを隠れ家へおびき寄せると前金を渡し、協力を取り付けてツチノコと名乗った。6日目。リチャードや丹波たちは仮面のグループとして麗奈を拉致し、ビーナスを入手した。2年前、リチャードは三代目に「君は英雄にはなれない」と通告され、欲しくなったら自力で英雄の称号を騙し取ると述べた。
7日目。ダー子はリチャードの居場所を突き止め、踊るビーナスを見せてもらった。そこへボクちゃんが来ると、リチャードは自身の勝利を宣言した。しかしボクちゃんは真梨邑と警官隊を呼んでおり、3人とも逮捕された。ダー子たちは手錠を掛けられて連行され、牢屋に入れられた。ボクちゃんは麗奈が心肺停止になったことを話し、彼女を巻き込んだダー子とリチャードを非難した。彼はダー子を抱き締め、「一緒に罪を償おう」と涙で告げた。その様子を、真梨邑や丹波たちが監視カメラで見ていた。
2週間前。真梨邑はゴンザレスを訪ね、踊るビーナスが狙われることを知らせた。1日目。ゴンザレスは真梨邑に電話を掛け、怪しい奴が来たことを伝えた。2日目。真梨邑は丹波に質問し、赤星の情報でマルタに来たことを知った。真梨邑は赤星と会って脅しを掛け、ダー子たちに関する情報を入手した。3日目。丹波とフレディは聞き込みに出て、波子の存在を知った。4日目。丹波はリチャードが麗奈を誘拐する気だと知り、真梨邑に連絡した。すると真梨邑は誘拐をやらせるよう指示し、犯行が終わってから逮捕すると告げた。
6日目。リチャードは丹波とフレディを薬で眠らせ、踊るビーナスを持って姿を消した。しかし真梨邑は麗奈の心肺停止で心を痛めているボクちゃんを説き伏せ、ダー子とリチャードの情報を聞き出した。7日目。丹波がダー子たちの取り調べを要求すると、真梨邑は却下した。彼は麗奈の心肺停止が医者や看護師たちを使った芝居だと明かし、丹波を馬鹿にして追い払った。8日目。真梨邑はダー子たちを外へ連れ出し、超法規的措置として始末しようとする。ダー子は銃を奪って反撃しようとするが、すぐに取り押さえられた。
そこへ丹波が現れ、赤星に土下座をして詐欺事件の被害届を出してもらったことを真梨邑に話した。彼は逮捕状を見せ付け、そこに日本の大使や政府官僚たちが現れ、ダー子たちの身柄引き渡しを真梨邑に要求した。相手が日本政府の代表なので、真梨邑は従った。ダー子は船で移動中、ポケットにツチノコのカードが入っていることに気付いた。カードの裏を見ると、「I win」と書かれていた。一方、真梨邑は捜査官の芝居を終わらせ、踊るビーナスを美術品のコレクションルームに持ち込んだ…。

監督は田中亮、脚本は古沢良太、製作は小川晋一&松岡宏泰、企画・プロデュースは成河広明、プロデューサーは梶本圭&古郡真也、撮影は板倉陽子、照明は緑川雅範、録音は高須賀健吾、編集は河村信二、美術は あべ木陽次、美術プロデューサーは三竹寛典、アートコーディネーターは大野恭一郎、アソシエイトプロデューサーは大坪加奈&水戸理恵、音楽はfox capture plan、主題歌はOfficial髭男dism『Anarchy』。
出演は長澤まさみ、東出昌大、小日向文世、生瀬勝久、江口洋介、角野卓造、瀬戸康史、松重豊、小手伸也、織田梨沙、瀧川英次、マイケル・キダ、山田孝之、阿部寛、柴田恭兵、真木よう子、広末涼子、石黒賢、城田優、生田絵梨花、厚切りジェイソン、ダンテ・カーヴァー、嶋政宏、梶原善、徳永えり、榎木智一、成田マイケル理希、ジャッキーちゃん、原沢侑高、垂水文音、渡辺圭悟、平良美寿紀、奥村隆正、勝川千晶、秋吉花音、依光玲奈、花田里香、大嶋隆義、MARIKO、後藤真由美、Haruka、Sakura.H、加藤琢未、安田龍生、吉田壮志、松本賢紀、長上賢人、堀大夢、宮ア美光、深井大煕、池田諒、大関友貴、浦井敬太、中島慶次郎、河合大樹、藤澤智、和気啓吾、川村朋栄、大塚しおり、水沢まこ、秋本鈴果、透菜、今井智尋、佐藤峻輔、細井鼓太、小島瑶笑ら。


フジテレビ系で放送されたTVドラマ『コンフィデンスマンJP』の劇場版第3作。
監督の田中亮と脚本の古沢良太はドラマ版のスタッフで、劇場版も全て担当している。
ダー子役の長澤まさみ、ボクちゃん役の東出昌大、リチャード役の小日向文世、ホウ役の生瀬勝久、赤星役の江口洋介、五十嵐役の小手伸也、モナコ役の織田梨沙、ちょび髭役の瀧川英次、バトラー役のマイケル・キダは、劇場版第1作からのレギュラー。
コックリ役の関水渚やトニー・ティン役の柴田恭兵は、前作からの続投。
三代目ツチノコを角野卓造、丹波を松重豊、真梨邑を瀬戸康史、ゴンザレスを城田優、麗奈を生田絵梨花、謎の女を真木よう子が演じている。

一言で表現するならば、後出しジャンケンみたいな映画である。
最終的にダー子たちが勝利するのも、ピンチに陥っているように表面上は見えていても「実は最初から全て分かっていた」という設定なのも、騙されたと見せ掛けて敵を上回る作戦を進めていたのも、シリーズを見て来た人なら全てお見通しだろう。
それが分かっているから、ハラハラドキドキを味わうことは難しい。
終盤に「実はダー子が敵の狙いを知った上で作戦を仕掛けていた」という逆転劇がある構成を知った上で、「そこまでの道筋を楽しんでね」という作品だ。

真梨邑がツチノコのカードを発見した後、「昭和初期・東京」と文字が出てシーンが切り替わる。
ところが、そこに登場するのはダー子やボクちゃんたちであり、ちっとも昭和初期の東京ではない。
しかも、真梨邑は初代ツチノコについて説明するが、それを描いているわけでもない。
「あくまでもイメージ映像です」ってことかもしれないが、「だったら仕方が無いよね」とは思わない。
このシリーズはずっとアンフェアなことをやりまくっているので、「そこもなのか」と感じるだけだ。

マルタ共和国でのゲームが開始されると、まず最初はダー子sideの様子が描かれる。
しばらく話を進めて誘拐事件が発生すると、今度は「ボクちゃんside」として2ヶ月前からの回想パートに移る。
そしてボクちゃんが丹波に追及されると、「リチャードside」の回想パートが入る。
ダー子たちが捕まると、今度は「狼たちside」が描かれる構成になっている。
そうやって複数の視点から同じ出来事を描くわけだが、ザックリ言うと回想パートは全て後出しジャンケンである。

ただ、それよりも問題なのは、「実は裏でこんなことやってました」と回想パートでボクちゃんたちの動きを描いても、究極を言うと「何の意味も無い」という結論に至ることだ。
ダー子たちが個人でどんな動きをしていても、最終的には「実は真梨邑の目論見を見抜いており、騙すために最初から作戦を立てて実行していた」という絵図が明らかになる。
そういう絵図が判明した時に、「3人のゲーム」という見せ掛けの絵図に対する「実は裏でこんなことしてました」という趣向は、まるで意味を成さなくなるのだ。

そもそも提示されている表向きの情報が少ない状態で、いきなりボクちゃんたちの「実は」という種明かしが始まるため、「謎が解ける」という心地良さは無い。
下品な言い方をするならば、他人のオナニーを離れた場所から見せられているような感じなのだ。観客を欺くために、本来なら意味も必要性も無いはずのコン・ゲームが長々と続けられている。
一応は「ボクちゃんを騙すためのゲーム」という設定だが、ボクちゃんを騙す意味が乏しい。
そこも「ボクちゃんが最大の力を発揮するのは本気になっている時だから」という説明があるが、下手な言い訳にしか聞こえない。
そもそも、本来は騙す側にいるべきコンフィデンスマン3人組の1人を、最後まで騙される側で動かすのは、いかがなものかと。

あと、ホントにコン・ゲームの心地良さを観客に与えたいのなら、真梨邑がビーナスを狙っている悪党なのは序盤で明かした方が得策じゃないかな。
この映画だと、彼がインターポール捜査官じゃなくて卑劣な美術品コレクターなのを明かすのは、もう物語も佳境に入った辺りだ。
そして、それを観客に明かした直後に、「実は」とダー子たちの作戦を明かす逆転劇に移る構成となっている。
でも、それだと逆転劇のカタルシスは弱くなるのよね。

日本大使がダー子たちの身柄を引き取りに来るシーンは、その段階でネタが割れている。
何しろ、大使が特殊メイクなのもバレバレだし、その正体が赤星なのもバレバレなのだ。
でも前述したように、全ては後から回想シーンで「実はこんな裏がありまして」と明かす手順で作っているはずで。
それなのに、そこだけ種明かしする前からバレバレになっているのは、中途半端でしょうに。
あと、ダー子と三代目の絆を使って感動の要素を持ち込もうとしている部分があるけど、完全に外しているぞ。

ダー子の仕掛けた作戦や裏事情が全て明かされた時に、「周到な準備を重ね、綿密な計画を実行したコン・ゲームに、見事に騙された」という爽快感を味わえることは無い。
「張り巡らせた全ての伏線が綺麗に回収された」とか、「バラバラだったパズルのピースが一気に完成した」という心地良さを味わえることは無い。
情報量が多すぎて感覚が麻痺しちゃうのか、何でも有りでルール無用だから高まらないのか、ずっと気持ちは「凪」の状態だ。

(観賞日:2023年2月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会