『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命-』:2018、日本

その日、翔北大学付属北部病院ではトロント医科大学との合同デモンストレーションでクリッピング手術が実施されることになっていた。記念講堂には多くの関係者とマスコミが集まり、手術を待っていた。執刀医は脳外科部長の西条章ではなく、助教授の新海広紀が担当した。一方、藤川一男はドクターヘリ体験デーに集まった子供たちの前で説明を行っていた。幕を持つ仕事を任された緋山美帆子と冴島はるかは、愚痴をこぼした。
名取颯馬や灰谷俊平、横峯あかり、雪村双葉は災害治療の講習会に出席し、白石恵が講師を務めた。成田空港消防司令室からドクターヘリの要請が入り、スカイベトナムの旅客機が乱気流に巻き込まれて怪我人が出ていることが伝えられた。白石は橘啓輔の指示を受け、冴島と灰谷の3人で出動した。3人が空港に到着すると、既にトリアージが行われていた。そこへ富澤未知という乗客を抱えた藍沢耕作が現れ、40分前にトロントから戻って来たことを語った。
未知の処置に当たろうとした白石は、彼女の頭髪が無いことを知った。未知は吐血し、病院へ搬送された。藍沢は白石たちと病院へ行き、患者の治療に当たった。緋山は白石に、リハビリを兼ねて緒方博嗣と料理をするが面倒だと話す。彼女は居候している白石の家から来週に出て行くことを決めているが、緒方と同棲するつもりは無かった。緋山は「文句があるなら、自分で作ればいいじゃない」と緒方に言ってしまい、そのことで落ち込んでいた。
挙式を来週に控えた藤川は、ウエディングドレスを決めてほしいので写真を冴島に見せる。しかし冴島は「そんな物を持ってこないで」と注意し、藤川を立ち去らせた。白石は未知に、怪我は肋骨骨折と肺挫傷だと告げる。彼女は灰谷から、未知がスキルス胃癌のステージ4であることを知らされた。未知は白石たちに、「安心して。長期入院で診療報酬がカットになる前に、私は死ぬから」と告げた。藤川は冴島を結婚式で驚かせるため、白石にビデオメッセージを頼んだ。白石は仕方なく彼からカメラを受け取るが、緋山は「お祝いなら、個人的にするから」と協力を拒否した。
未知の両親は白石から娘の状態について説明を受け、怪我が治るまで持たないことを覚悟した。白石が他に伝える相手がいないか尋ねると、母親は結婚するはずだった岩田彰生という男性の存在を口にした。しかし父親は、「彼には知らせないでおこう」と告げた。横峯は藤川からビデオカメラを託され、帰宅しようとする雪村にビデオメッセージを頼んだ。そこへ雪村の姉である若葉が車を運転し、母の沙代を運んできた。泥酔している沙代は、包丁が頭に突き刺さっているのにヘラヘラと笑っていた。雪村は顔を歪めて他人のフリをしようとするが、母に気付かれてしまった。
藍沢たちが処置に当たろうとすると、沙代は勝手に包丁を抜き取った。雪村は若葉に、何故すぐに救急車を呼ばなかったのかと責めるように訊く。若葉は母が何度も問題を起こしていることに触れ、「アンタはもう忘れたの?アルコール依存症の母を持つ娘の生活」と告げる。彼女は「ここに連れて来たのは、貴方が務めてる病院だから。私だって1人になりたい」と冷たく告げ、病院を去った。未知は彰生が病室に来ると、「逃げ出したくせに。今さら何よ」と帰るよう要求した。彰生が「後悔してるんだ。最後まで傍にいたい」と言うと、彼女は「そうね、あと数週間だもんね」と嫌味っぽく告げた。
彰生が去った後、未知は緋山と冴島に本当は彼が来てくれて嬉しかったことを明かす。しかし彼女は、「ダメよ。彼、やっぱり結婚しようって」と述べた。雪村は沙代に気付かれないよう去ろうとするが、見つかって嫌味を浴びせられた。沙代は彼女を睨み付け、「親は一生、親なのよ。どっちが死ぬまではね」と告げた。藍沢から沙代の治療法について決めるよう促された雪村は、「姉に聞いてください。母とは関係ない所で生きるって決めたんです」と冷淡に告げた。横峯は真剣に考えるよう諭すが、雪村は感情的になって拒絶した。
彰生は翌日も病院へ来るが、未知の病室に入ることは遠慮した。未知から「どうしたらいいと思う?」と相談された緋山は冴島の経験について語り、最後まで向き合う時間の大切さを説いた。未知は彰生を受け入れ、来週の挙式を決める。しかし未知は大量に吐血し、ICUに収容された。そこで冴島と藤川は自分たちの式場を2人に譲り、結婚式を挙げてもらうことにした。未知は式場で吐血し、病院へ搬送された。彼女は意識が朦朧とする中で冴島の手を握り、結婚式を挙げてほしいと告げた。
そこへドクターヘリの出動要請が入り、フェリーが濃霧で海ほたるに衝突して大勢の怪我人が出ていることが伝えられた。白石は緋山たちに後から合流するよう告げ、藍沢と雪村の3人で先に出動した。現場に到着した3人は、まだ収容できていない怪我人の担当を任された。フェリーに乗り込んだ藍沢たちは、車内で鉄パイプが腹に突き刺さっている杉原という男性の処置に当たる。レスキュー部隊は鉄パイプを切断するためエンジンカッターを使おうとするが、ガソリンが漏れて引火の危険があるため中止された。
杉原の息子である剛志は近くで見ており、雪村は彼が不安を抱いているだろうと感じて声を掛けた。すると剛志は冷たい態度で、「心配してません。ただ後味が悪くて。1人で惨めに死ぬって言った後だから」と告げた。緋山たちも後から駆け付け、海ほたるで患者の治療に当たった。灰谷は中国人女性から、少年が海に浮かんで動かなくなっていることを知らされた。藍沢は杉原の体が持たないと考え、腹部を切って鉄パイプから外すことを提案した。ただし今まで経験の無い手術であり、リスクも大きかった。
白石は剛志に許可を求め、父親についての情報が欲しいと頼む。すると剛志は、11歳の時に自ら児童相談所へ電話して「父に殺されるかもしれないから助けて」と訴えたこと、それから今日まで10年も会っていなかったことを語った。「ホントは惨めに死ねなんて言うつもりじゃなかった」と彼が吐露すると、藍沢は「子供は親を選べない。出来るのは逃げることだけだ。君は勇敢だった」と告げた。剛志は泣き出し、雪村も涙をこぼした。
藍沢たちは剛志の承諾を得て杉原の腹部を切断し、鉄パイプを外した。海に浮かんでいた14歳の岡崎達也は病院に運ばれたが、橘と新海は脳死と判定した。フェリーのエンジンルームで意識不明の患者が発見されたという連絡が入り、藍沢たちは現場へ向かう。漏電に気付いた藍沢は、雪村の危険を察知して突き飛ばした。彼は感電して階段から転落し、意識を失った。すぐに白石と雪村が処置を行って藍沢は病院へ搬送されるが、意識は回復せずに昏睡状態が続いた。
岡崎の両親が病院へ到着したので、灰谷は彼の衣服を渡す。上着のポケットに入っていた臓器提供意思表示カードで、岡崎は「臓器を提供します」に丸を付けていた。ただし彼は15歳未満なので、法的な意味は無かった。白石は藤川に、頼まれていたビデオメッセージのDVDを渡した。藤川が苦労しただろうと告げると、白石は藍沢だけが文句も言わずに快諾してくれたことを話す。藤川が「あいつは意外と優しいからな」と言うと、彼女は泣き出した…。

監督は西浦正記、脚本は安達奈緒子、製作は石原隆、藤島ジュリーK.&本間憲&市川南、プロデュースは増本淳、プロデューサーは若松央樹&甘木モリオ、撮影は安藝孝仁、美術は飯塚洋行、照明は稲木健、録音は小松将人、編集は柳沢竜也、アソシエイトプロデューサーは梶本圭、ラインプロデューサーは福島聡司、音楽は佐藤直紀&得田真裕&眞鍋昭大、主題歌はMr.Children『HANABI』。
出演は山下智久、新垣結衣、戸田恵梨香、比嘉愛未、浅利陽介、椎名桔平、安藤政信、杉本哲太、有岡大貴、成田凌、新木優子、馬場ふみか、新田真剣佑、かたせ梨乃、丸山智己、伊藤ゆみ、古本新乃輔、伊藤祐輝、岩井拳士朗、下垣真香、歸山竜成、山谷花純、平埜生成、田中えみ、青野楓、平子悟、熊王涼、赤屋板明、赤間麻里子、佐藤貢三、井川哲也、渡辺杉枝、古山憲太郎、岡村まきすけ、オウヨシコ、熊江琉唯、鳥谷宏之、紺野ふくた、河瀬祐未、原圭介、松永かなみ、山元隆弘、鎌田みさき、小嶋彗史、石田尚巳、坂口さゆり、小林喜日、古川凛、吉澤梨里花、竹野谷咲、鴇田蒼太郎、榎本司、川島風駕、Gaz M、Massimo Biondi、 Colin M、Jonathan S、Chuck J、高橋逞仁ら。


2008年から2017年まで3シーズンに渡って放送されたTVドラマの劇場版。
監督の西浦正記、脚本の安達奈緒子はTVシリーズのスタッフで、これが映画デビュー作。
TVシリーズからの出演者は、藍沢役の山下智久、白石役の新垣結衣、緋山役の戸田恵梨香、冴島役の比嘉愛未、藤川役の浅利陽介、西条役の杉本哲太、新海役の安藤政信、橘役の椎名桔平、名取役の有岡大貴、灰谷役の成田凌、横峯役の新木優子、雪村役の馬場ふみか、緒方役の丸山智己、町田役の伊藤ゆみ、洋子役の古本新乃輔、早川役の伊藤祐輝、鳥居役の岩井拳士朗、広田役の下垣真香、優輔役の歸山竜成。
他に、岩田を新田真剣佑、沙代をかたせ梨乃、未知を山谷花純、杉原を平埜生成、若葉を田中えみが演じている。

最初の3分半ぐらいはTV版の映像が流され、「出会い」「自立」「継承」という文字が途中で入る。
「出会い」が第1シーズンで、他の2つはそれぞれ第2シーズンと3シーズンの映像になっている。
「これまでの簡単な粗筋を紹介し、初見の人にも分かりやすくするための親切設計なのね」と思った人がいるかもしれないが、そうではない。ただTVシリーズの映像をコラージュしただけなので、初見の人が「これまでの粗筋」を理解できる可能性は皆無と言っていい。
その冒頭部分は、TVシリーズのファンに「こんなこともあったよね」と懐かしく思ってもらうための時間だ。

この作品は「一見さんお断り」仕様であり、完全無欠のコミューン映画だ。
TVドラマは大人気で視聴率が高く、だからこそ第3シーズンまで続いた。なので、ファンは日本中に大勢いる。ってことで、「TVシリーズのファンだけに観客を絞り込んでも充分に儲けが出る」と製作サイドは確信していたんだろう。
実際、この映画は大ヒットしたし、充分すぎる黒字を出した。なので商売としては、大正解だ。
っていうか、これってファン・ムービーだからね。そう考えれば、何の問題も無いのよ。

端的に言うと、これは「あの5人に、また会えるよ」という作品だ。第1シーズンからのメンバーである藍沢、白石、緋山、冴島、藤川の5人の「その後」を描くことで、ファンの皆さんに喜んでもらおうという企画である。
純然たるファン・ムービーなので、それだけでも充分に成立する。
っていうか、それ以外に必要なことなんて何も無いと言ってもいいぐらいだ。ファンとしては、その後の5人が見られるだけでも嬉しく思えるものだからね。
もしも不幸になっていたり、辛い目に遭っていたりしたら嫌だけど、そんなことをファン・ムービーで描くはずもないしね。

メインになっているのは第1シーズンから登場している5人だけど、その中でも明確なランク付けがある。
藍沢、っていうか山下智久だけは、別格の扱いになっている。
他の面々が「病院で仕事をしています」という形で順番に登場する中、まだ藍沢は登場しない。白石たちが空港に駆け付けた時、藍沢は未知を抱えて登場する。
その際、最初は顔を写さず、「若い女性を抱えた男が飛行機から降りてくる」という姿をカメラが切り取る。そしてカットを切り替えてから、「真打登場」という感じで山下智久の顔を見せるのだ。
いかにもスターらしい登場シーンの演出が施されているわけだ。

タイトルが表示された後、休憩に入っている緋山の姿が写し出されると、「人は厄介だ。理解し合いたい、そう思うくせに、実際は衝突ばかりだ」というモノローグが入る。白石と会話を交わし、また「大切な人間関係は幾つもある。だが、そのほとんどで人はすれ違う」とモノローグが入る。
このシーン、ホントは会話だけで事足りる。
緋山のモノローグは、そこで語った出来事に関する文学的な感想だ。小説なら不自然に感じないかもしれないが、映画だと「うるせえよ」と言いたくなる。せめて緋山の話を聞いた白石のモノローグにしないと、ただの自己陶酔にしかならない。
でも、それも含めて「ああ、帰って来たな」と思えてこそ、本当のファンなのだ。

1つの事件や事故、1人の病気や怪我だけで1本の長編映画を構成するのは難しいので、複数の案件を持ち込んでいる。
実のところ、その気になれば1つの案件だけで構成することは可能だ。例えば大規模な事故とか、ウイルス感染のパンデミックとかを扱えば、それだけで長編を構成できるだろう。
ただ、そういう案件を持ち込んだ場合、話のスケールが大きくなってしまい、それ自体がメインになってしまう。
この映画はあくまでも「その後の5人」を描くことが目的であって、事件や患者はそのための道具に過ぎない。なので、あまり大きな案件だと、それが邪魔になってしまうのだ。

それに、あまりスケールの大きな事件や事故を早い内から扱うと、藤川の立ち振る舞いが完全なる場違いになってしまうからね。
この映画でさえ、未知の病室にいる冴島にドレスの決定を求める藤川の軽薄な態度は、「はしゃぎすぎ」と感じるしね。
ただ、それは前述した緋山のモノローグと同じで、「お帰りなさい」と好意的に受け止めなきゃいけない。
そういうのを本気で「もっと真剣に仕事をしろよ」とかマジで批判したくなるような人は、この映画を見るべきファンではない。

むしろ、ファン・ムービーであることを考えると、未知と沙代の案件には問題がある。
それぞれのエピソードにおける未知と雪村の扱いの大きさには、「それでホントにいいのかな」という疑問があるのだ。
っていうか、ファン・ムービーじゃないとしても、バランスとしてどうなのかと。
特に未知に関しては、そのエピソードにおける実質的な主役になっているからね。まだ白石、緋山、冴島はともかく、藍沢と藤川は完全にカヤの外になっているし。

未知が冴島の手を握って「式を挙げて」と告げるシーンは、普通の感覚なら、少し余韻を持たせてから、彼女の処置がどうなったのかを描いて区切りを付けてから次のエピソードへ移るだろう。
しかし直後にドクターヘリの出動要請が入り、海ほたるのエピソードに突入する。未知の処置がどうなったのかは描かれず、雑に放り出される。
冴島に「結婚式を挙げて」と告げたら、もう未知の仕事は終わりってことで荒っぽく切り捨てるのだ。
一時的に未知が主役のようになっていたが、「5人を引き立てる道具に過ぎないのだ」ってことを、その辺りで思い出したんだろう。

海ほたるの事故は「スケールの大きな出来事になっているんじゃないか」と思うかもしれないが、レギュラー陣を描くための舞台を用意しているだけだ。
もしも「なんか『海猿』みたいだな」と思った人がいたら、「それは思っても口に出しちゃダメ」と言っておこう。
そこでは少しだけ剛志が存在感を強めにアピールするけど、それは「藍沢が語り掛けて剛志と雪村を感涙させる」ということを見せるための道具だ。
杉原は一刻を争う危険な状態なのに、剛志が「11歳で児相に電話して云々」と父との関係や自分の気持ちを語り、藍沢も落ち着き払って「子供は親を選べない」どの何だのと喋るのは、マトモに考えれば「ダラダラと喋ってる場合かよ」とツッコミたくなる。
でも、『海猿』でも似たような演出があったし、たぶんフジテレビが製作する映画の仕様なんだろう。

前述したように、藍沢はスターらしい演出で登場するし、その後も常にクールでイケてる男として振る舞い続ける。
それは最後まで徹底すべきなので、海ほたるのエピソードにおける彼の見せ方には大いに疑問がある。それは、雪村を助けて感電するシーンだ。
雪村を助ける行動も、感電して意識不明になるのも問題は無い。でも、階段から転落して水に浮かぶ様子が、ものすごくカッコ悪いのだ。
そのせいで、せっかくの「雪村を救って意識不明に」というヒーロー的な活躍までがマヌケに見えてしまう。

「その後の5人」を描くことが目的だと書いたが、第3シーズンから加わった後輩のフライトドクター候補生たちをフィーチャーするためのエピソードも用意されている。
その面々を好きになったファンにも、ちゃんと目を配っているってことだ。
ただ、名取なら「緋山への感謝と自立」、灰谷なら「脳死判定された少年と両親への対応」、雪村には「母や姉との関係」という要素が用意されているのに、横峯は特に何も無いんだよね。
それは手落ちなんじゃないかと。

剛志は幼い頃に「父に殺される」と自ら児相に助けを求めているんだから、きっと暴力を受けるなど辛い目に遭っていたんだろう。しかし彼は藍沢の言葉で涙を流し、父を助けてほしいと頼む。つまり、父への憎しみは消えたってことだ。
雪村はアル中の母に怒りを覚え、家を飛び出している。母は入院するが、相変わらず雪村に迷惑を掛ける厄介な存在のままだ。しかし雪村が気持ちをぶつけると母は後悔の念を示し、酒を断つことを誓って2人は和解する。
ホントなら、そんなクズ親を持ったら子供は簡単に許せないだろうし、許すべきでもない。でも、そこを深く掘り下げて重厚なドラマにしたら、ファン・ムービーとしては邪魔になっちゃうからね。
なので、安易丸出しの結末へと簡単に着地しても、それでいいのだ。

(観賞日:2019年11月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会