『クローズド・ノート』:2007、日本

教育大学に通う堀井香恵は、古いアパートで一人暮らしを始めることになった。母親が再婚し、しかも出来ちゃった結婚だったので、邪魔できないと思ったからだ。香恵は親友の池内ハナに手伝ってもらって荷物を運び込み、大好きな俳優・夏目涼のポスターを壁に貼った。彼女が鏡を開くと小さな棚があり、そこには前の人の忘れ物が残っていた。ノートが気になった香恵だが、ハナが「見ていいの?前の人が取りに来るかもよ」と冗談めかして言うので、棚に戻した。
窓の外に目をやったハナは自転車の男性が部屋を見ているのに気付き、「変な人が覗いてる」と香恵に知らせる。2人が視線を向けると、男性は逃げるように去った。ハナはロンドンへ1年間の留学を控えており、しばらく香恵は彼女と会えなくなる。ハナには鹿島という恋人がいるが、当然のことながら遠距離恋愛になる。「彼も分かってくれてる」とハナは言うが、「ホントは寂しいんじゃないかな」と香恵は口にする。「私も寂しい」と香恵が告げると、ハナは握手を求めて強く抱き締めた。
香恵は大学でマンドリン部に所属しており、1ヶ月後の定期演奏会に向けて練習を積んでいる。顧問の瀬川は細かいミスを見逃さず、厳格な態度で注意する。香恵は学業と部活動の他に、万年筆の専門店でアルバイトをしている。先輩の可奈子に売るコツを尋ねると、「売り手の知識や経験にもよるけど、大事なのはストーリーかな。人の心を動かすのって簡単なことじゃないからね。恋愛と一緒」という答えが返って来た。
夜、アパートでテレビを見ていた香恵はノートが気になり、ページをめくった。すると最初のページには「真野伊吹」という名前が書いてあり、それが2006年4月5日から付けられた日記帳であることが分かった。日記は万年筆で書かれており、小学校の遠足で撮られた写真が挟まっていた。それを見た香恵は、伊吹が小学校教師だと知った。日記は始業式の前日から始まっており、初めて担任として受け持つことに対する心構えが綴られていた。4月6日、若草小学校4年2組の子供たちと初めて会った伊吹は、「太陽の子」と呼ぶことにした。素直に伊吹の言葉を受け取った子供たちに、彼女は「お互いに家族のように助け合っていきましょう」と述べた。
ある日、香恵が万年筆店で働いていると、アパートを見ていた男が客としてやってきた。彼は香恵がアパートの住人だとは気付いておらず、万年筆の握り具合を確かめる。香恵が試し書きを勧めると、彼は紙に水玉模様の猫の絵を描いた。香恵は「万年筆は文字を書くものですから、何か文字を書かれてみた方が」と言い、自分の名前を書くよう提案した。すると彼は、「石飛リュウ」と紙に書いた。鹿島が来て「ハナのことで相談に乗って欲しいんだよね」と香恵の手を握り締めている間に、リュウは店を去った。
アパートに戻った香恵は、また日記を読んだ。2006年4月11日、伊吹は子供たちの個性を見つけ出してあげることが大切だと感じ、些細なことでも「伊吹賞」を与えることにした。例えば黒板の掃除をしていた女の子には、「掃除大臣賞」として手作りのメダルを贈った。表彰は優れた行動だけでなく、走るのが遅くて転倒してしまった男の子には「走れメロス賞」を贈った。4月24日、近くの小川へスケッチに出掛けた伊吹は、「心の力」という言葉を思い付いた。心が持っている力は強く、色んなことを可能にするんだということを子供たちに話していきたいと、彼女は思った。
香恵は万年筆店の喜一郎所長から、万年筆で好きな言葉を書いてみろと促された。「太陽の子」と香恵が書くと、彼は「前にも同じことを書いた奴がいたな」と口にした。リョウが再び店を訪れ、香恵の胸ポケットに入っていた万年筆に目を留めた。彼はその万年筆で試し書きし、「これ売ってるの?」と尋ねる。それは喜一郎の試作品だったので、可奈子は申し訳なさそうに売れないことを告げる。しかし喜一郎が奥から出て来て、「売ってやれ。欲しい奴が持っていればいいんだ」と告げた。
香恵が日記を読み進めると、伊吹が小テストの問題を作るために行った図書館で隆という男性と再会したことが記されていた。大学時代は親しかったが、随分と会っていなかった。大学時代の伊吹は自分を受け止めてほしいという気持ちばかりが強く、それが隆に通じないので疲れてしまい、疎遠になっていた。香恵は可奈子から、リュウがイラストレーターだと知らされた。可奈子か見せてくれた中沢正道による新聞の連載小説には、リュウの挿絵が使われていた。
香恵は鹿島に誘われ、喫茶店へ赴いた。ハナのことで相談があるのだと思っていた香恵だが、鹿島から恋愛感情を告白されて困惑する。逃げるように店を去った彼女はハナに電話を掛けるが、繋がらなかった。香恵はノートを開き、伊吹と子供たちが遠足に出掛けた5月29日の日記を読む。以前から学校を休みがちだった君代の不登校が本格的に始まったため、全員での集合写真は叶わなかった。伊吹は君代の家を訪ねるが、彼女の母から「会いたくないみたいで」と言われてしまう。伊吹は君代の母から、自分の「頑張ろうね」という言葉が君代にとっては重荷になっていたことを聞かされた。
窓の外に目をやった香恵は、リュウが見ているのに気付いた。そこに香恵が住んでいることを知ったリュウは、部屋を見せてもらえないかと頼んだ。香恵は彼がその部屋を狙っていたのだと解釈し、招き入れてジャスミンティーを出した。マンドリンに興味を抱いたリュウに求められ、香恵はロシア民謡を演奏した。するとリュウは「そこにいて」と告げて部屋を飛び出し、外の階段に座って香恵をスケッチした。香恵はリュウに定期演奏会のことを話し、「花束とか贈って来る人がいるみたいなんですけど、私には気を遣わなくていいです。まだ2年生だし、あんまり大きい花束だと目立って困っちゃうんで」と微笑を浮かべながら告げた。
リュウは花束を用意し、定期演奏会の会場へ赴いた。しかし特大の花束を抱えた鹿島が香恵に呼び掛けているのを見て、静かに立ち去った。香恵は鹿島から花束を渡され、困惑した表情を浮かべた。伊吹は放課後に貧血を起こし、保健室で休んだ。子供たちが心配して様子を見に来たので、目を覚ました伊吹は元気な笑顔を見せた。児童合唱コンクールの開催を知った彼女は、クラスで参加することにした。「歌が上手だった君代ちゃんのために出て来ない?」という誘いに、子供たちは喜んで賛同した。
伊吹は君代にもコンクールへの参加を促すが、無言のまま拒絶する態度を取られてしまった。伊吹が部屋で落ち込んでいると、隆が急に訪ねて来た。登校拒否の経験があるという隆の「続けていれば、きっと届くよ」という言葉が、伊吹に頑張る気持ちを取り戻させてくれた。隆が帰った後、伊吹は寂しさを感じた。伊吹は子供たちと一緒に、学級新聞「太陽の子通信」を作り始めた。君代の元へ持って行くと、コンクールの参加曲『翼をください』のテープが流れて来た。伊吹は嬉しくて涙を浮かべた。
香恵は可奈子から、喜一郎が演奏会のロビーで小さな花束を持ったリュウを見たことを聞かされた。平静を装った香恵だが、嬉しい気持ちは隠し切れなかった。香恵はリョウと会い、スケッチブックを見せてもらう。「恋人の絵は無いんですか?」と尋ねると、「書けなかった。照れ臭くてさ」とリュウは口にした。初めての個展を開くというリュウに、香恵は何か手伝わせてほしいと申し出た。するとリュウは、マンドリンの演奏をお願いした。
香恵は伊吹の日記を読み、彼女が隆に差し入れしたウズラの卵入りミートボールを作った。香恵はミートボールを弁当箱に詰め、リュウのアパートを訪れた。リュウは「一緒に食べる?」と言い、彼女を招き入れた。浮かれる香恵だが、リュウの仕事の面倒を見ているという山崎星美が来たので顔を強張らせた。2人の様子を見ている内に居心地の悪さを感じた彼女は、弁当箱を持って早々に立ち去った。伊吹の日記には、隆に対して独りよがりな態度を取ってしまう自分を反省する気持ちが綴られていた。さらに香恵が日記を読み進めると、気まずい気持ちの伊吹が橋で隆と遭遇したことが記されていた。隆は伊吹に、その川には七色の鯉が住んでいて、見た者の願いが叶うという伝説があるのだと語った。そして彼は、七色の鯉を見たら君代が学校に来られるように願っておいてやると伊吹に告げた。伊吹は、その言葉だけで嬉しいと感じた。
橋で日記を読んでいた香恵は、リュウを見つけて声を掛けた。香恵はリュウに誘われ、自転車の後ろに乗せてもらった。伊吹の日記には、君代が学校に来たこと、一緒にコンクールに参加したことが綴られていた。「子供たちに勇気を貰った」と書かれた伊吹の日記を読み、香恵はリュウのアパートへ行く。ドアが開いており、中にリュウがいると思い込んだ香恵は「石飛さんのことが好きです」と告白する。だが、そこにいたのは星美で、彼女はリュウが一人の女性を愛し続けていることを香恵に明かす…。

監督は行定勲、原作は雫井脩介『クローズド・ノート』(角川書店刊)、脚本は吉田智子&伊藤ちひろ&行定勲、製作は島谷能成&安永義郎&細野義朗&村松俊亮&宍戸健司、エグゼクティブ・プロデューサーは市川南、企画・プロデュースは春名慶、プロデューサーは甘木モリオ、アソシエイトプロデューサーは山内章弘&臼井央、撮影は中山光一、美術は都築雄二、照明は中村裕樹、録音は伊藤裕規、編集は今井剛、衣裳デザインは伊藤佐智子、絵は志茂田昌克、音楽は めいなCo.、主題歌『LOVE & TRUTH』Lyrics & Music YUI。
出演は沢尻エリカ、竹内結子、伊勢谷友介、永作博美、中村嘉葎雄、石橋蓮司、篠井英介、黄川田将也、サエコ(現・紗栄子)、山口愛、田中哲司、板谷由夏、中山祐一朗、粟田麗、佐藤寛子、大久保綾乃、宮台真司、谷口達彦、伊藤高史、原金太郎、大谷亮介、三浦誠己、朝日梨帆、友利侑希、松井香、田中彩瑛、尾林優樹、森山拓哉、細谷楓、高橋直也、山崎玲奈、中嶋和也、濱川歩、神林秀太、矢島夏美、矢代奨馬、根木翼、松島広太郎、権藤彪冴、宮坂健太、東圭太、齋藤里緒菜、江藤郁乃、吉澤秀彦、川嵜海、瀬野リリカ、橋本薫乃、山崎汐音、安西壱哉、鈴木保菜実、赤田実果、南川ある、小作龍汰、清水萌々子、渡辺友裕、為谷龍児、大塚友稀、佐藤優里奈、甲野優美ら。


雫井脩介の同名小説を基にした作品。
監督は『世界の中心で、愛をさけぶ』『遠くの空に消えた』の行定勲。
脚本は『Life 天国で君に逢えた』の吉田智子、『世界の中心で、愛をさけぶ』『春の雪』の伊藤ちひろ、行定監督の共同。
香恵を沢尻エリカ、伊吹を竹内結子、リュウを伊勢谷友介、可奈子を永作博美、喜一郎を中村嘉葎雄、 中沢を石橋蓮司、瀬川を篠井英介、夏目を黄川田将也、ハナをサエコ(現・紗栄子)、君代を山口愛、鹿島を田中哲司、星美を板谷由夏が演じている。

エリカ様の有名な「別に」発言が飛び出したのは、この映画の舞台挨拶だった。
その発言や不機嫌そうな態度がワイドショーなどで大きく取り上げられ、エリカ様がバッシングを浴びたことは、この映画に携わった関係者からすると痛い出来事だったかもしれない。
しかし、ある意味では、そういう騒ぎが起きてくれたことが映画に取って救いになっているとも言える。この映画は興行的に失敗したが、「あの発言や一連の報道やバッシングがあったからだ」と言い訳することが出来るからだ。
映画の出来栄えからすると、そんなことが無くてもコケた可能性は充分にあるのだが、責任転嫁のための対象をエリカ様が作ってくれたという見方も出来る。

序盤から無駄な要素が多い。
まずハナの存在が要らない。
まあリュウに気付いたり、ノートを見つけたり、現在の香恵の状況を説明したりするために会話劇を使った方がスムーズに進行できるということなら、そこに友人を配置するのは別にいいだろう。
ただし、「ロンドンへ留学する」とか「遠距離恋愛になる恋人がいる」とか、そんな要素は要らない。ぶっちゃけ、そこだけで出番を終えるチョイ役ぐらいの存在でもいい。
鹿島も要らない。どうせ香恵は彼に対して全く気持ちが揺らがないんだし、いつの間にか鹿島もハナも物語から退場しているし、だったらバッサリと削ってスッキリさせた方がいい。

次に要らないと感じるのは、香恵が夏目涼主演のドラマを見ているという状況設定。
その中で香恵は日記帳を呼んだり写真を見つけたりするのだが、そういう行動とドラマの映像をカットバックで見せるという演出の意図がサッパリ分からない。
日記や伊吹と夏目涼は何の関係も無いんだし、ただ邪魔なだけにしか思えないぞ。
後で夏目涼を物語に関与させる演出はあるけど、それも含めて要らない。その演出に関しては後述する。

それと、そこで気になるのは、「他人の日記を勝手に読むなよ」ってことだ。
そりゃあ、好奇心が湧くのは理解できる。ただし、そこに何の迷いも罪悪感も見えないってのはマズいでしょ。「気になるけど、やっぱりマズいことだよな」という揺らぎがあって、それを経て読む手順に入った方がいい。
香恵が日記を読み進めるのは、「自分が教師を目指しているから」というのも関係しているんだろう。
ただし、香恵が教師を目指していることはハナのセリフで申し訳程度に触れているだけなので、「彼女が伊吹を理想の教師像として捉え、自らの希望する将来と重ね合わせ日記を読み進めている」という印象は全く受けない。

っていうか、香恵が伊吹の日記を読むシーンこそ、ハナを利用すればいいんじゃないかと。
香恵が「やめた方がいい」と言っているのにハナが勝手に日記を開いて読み始め、何か気になることが書いてあったので香恵も読む、という流れにでもしておけばいい。
そうすれば、「香恵が他人の日記を勝手に読んだ」という罪が随分と軽減されるはず。
ハナの存在意義って他に見当たらないんだから、そういう箇所にでも利用しておかないと。

この映画を観賞する上で重要なのは、「ファンタジー」を魔法の言葉として受け入れることが出来るかどうかだ。
しかも、この映画で使用されているファンタジーは、そんじょそこらのファンタジーとは段違いだ。ファンタジーにも色々なレベルがあるが、本作品で用いられているファンタジーは相当の高さだ。
ただし誤解を招く恐れがあるので説明しておくが、それは決して「ファンタジー映画として質が高い」という意味ではない。「ファンタジー」として許容している範囲が、ものすごく広いという意味だ。
そして、それは観客が求められる許容範囲の広さでもある。

若草小学校4年2組の子供たちは、とても素直で行儀の良い面々ばかりだ。
生徒の数の少ない田舎の小学校であれば、純朴で聞き分けのいい子供たちばかりが揃っていても、そんなに違和感なく受け入れることが出来る。しかしアパートの場所からしても、36人という生徒数からしても、それほどド田舎ってわけではない場所にある小学校だと思われる。
そんな地域に住んでいる2006年の小学4年生が、みんな素直で聞き分けがいいってのは、どうも現実味の乏しさを感じる。
つまり、それが受け入れるべきファンタジーってことだ。

子供たちはとても健やかで爽やかなので、伊吹の教師生活は平穏に過ぎて行く。
しばらくすると君代の不登校という問題が出て来るが、クラスメイトはみんな友達思いだし、伊吹が合唱コンクールに参加することを決めてテープを渡すと君代は学校へ来るようになる。
一応、それなりに伊吹は悩んだり落ち込んだりしているが、かなり簡単に不登校問題は解決されるという印象だ。それは、君代も他の子供たちと同様、素直で聞き分けが良い子だからだ。
ここに出てくる生徒たちは、まるで『天然コケッコー』の子供たちのように純朴なのだ。

香恵は何日にも分割して、少しずつ日記帳を読み進めて行く。毎日、バイトを終えて帰宅すると、日課のようにそれを少しずつ読む。
だが、それが日課になっているってのも不自然だし、あの分量なら2日か3日もあれば読破できるだろう。
しかも、アパートだけじゃなくて、万年筆店や橋へ持って行って読むんだぜ。すんげえ不自然だ。
それと、バカ丁寧に前から順番に読み進めて行くのも、あまりリアリティーが無い。何ページかパラパラとめくった後、順番に読み進めていく前に、最後のページが気にならないものだろうか。
っていうか物語の進行を考えても、先に最後のページが破られていることに香恵が気付いておいた方がいいんじゃないかと思うんだけど。

伊吹が「図書館で、なんと隆に会った」とモノローグを語るシーンで、隆の顔は画面に写し出されない。
この段階で、たぶん大半の観客が「隆の正体はリュウ」と気付くんじゃないだろうか。
香恵が「隆、どんな人だろ?」と漏らして夏目涼のポスターに視線を送り、彼女の妄想の中で隆が夏目涼の姿で伊吹と話すという手順があるけど、何のミスリードにもなっていない。
そこで気付かないとしても、早い段階で多くの観客が「隆=リュウ」と気付くだろう。だから、それを隠したまま進める構成が、愚かしいというか、陳腐に思えてしまう。
香恵が後半まで気付かないのは別にいいとしても、観客には早い内から隆の正体を明かした状態で進めても良かったんじゃないか。

万年筆店で会ったことがあり、それとなく好意を抱いていたにせよ、詳しい理由も聞かずにリュウを部屋に招き入れる香恵の行動は、やや尻軽っぽい。
で、いつの間にか香恵はリュウのアパートやメールアドレスを知っているんだけど、かなり積極的なのね。
そんな香恵は彼のアパートへ行き、星美をリュウと間違えて告白する。
そこの積極性に違和感はあるけど、もっと違和感があるのは「なぜ先にメールでも打ってリュウがアパートにいるかどうかを確かめないのか」ってことだな。

告白のことを星美から知らされたリュウは香恵のアパートを訪れ、伊吹の姿を重ね合わせていたことを明かす。
彼は「俺は君に酷いことをした」って言うけど、その通りなんだよね。
リュウが香恵に対する恋愛感情を微塵も抱いていなかったことが明らかになると、こいつは全く好感の持てない野郎に成り下がるんだよな。
そのくせ「勝手なお願いだけど、個展には来てほしい」って、ホントに勝手だよ。

終盤、香恵から伊吹のことを問われた女子小学生が「お亡くなりました」「真野先生はお亡くなりました」と間違った日本語を話すのは、どういう意図があるんだかサッパリ分からない。
そこは「伊吹が既に死んでいると知った香恵がショックを受ける」という重要なシーンであり、同時に観客にも驚きを与えるべきシーンなんだけど、それよりも言葉の間違いが気になってしまう。それは明らかに、不必要で邪魔な引っ掛かりでしょうに。
その後、階段で座り込んでいた香恵が靴紐を結び直している女児を見つけ、日記帳に貼ってあった小さな写真と見比べて「それは伊吹の教え子」と気付くという展開がある。
「たまたま香恵の目の前で伊吹の教え子が靴紐を結び直す」ってのも、「その少女を見た途端に香恵が伊吹の君代の教え子ではないかと思う」ってのも、たまたま目の前に現れた女児の写真が日記帳に貼ってあるってのも、かなり陳腐な御都合主義だ。
でも、それは「ファンタジー」として受け入れるしかない。

香恵はその女児たちに学校へ連れて行ってもらい、君代と会わせてもらう。そして彼女に、自分が伊吹のアパートで勝手に日記を読み、心の力を貰ったことを語る。
そんなことを小学生に明かしても、「そんなの知らんよ」って話だろう。
しかし君代は物分かりの良い少女で、ちゃんと段取りに従って対応してくれる。それどころか彼女は、お別れ会の日に伊吹が窓から飛ばしたという紙飛行機を見せる。それは日記の最後の1ページで、リュウの個展を訪れた香恵はそれを読み上げる。
他人の日記を勝手に読んだだけは飽き足らず、大勢の前で読み上げるんだから、遠慮ってモノが無い人だ。
それは明らかに、自分の気持ちをスッキリさせるための行為だよな。

それにしても、リュウへの気持ちを綴った日記のページを破り、ニコニコしながら紙飛行機にして飛ばすってのは、どういう心情なのかサッパリ分からない。
しかも、その日記を書いているのがアパートじゃなく学校の教室で、窓から校庭に向けて飛ばすんだぜ。
そんなことをしたら生徒に発見される可能性が高いのに、何を考えているのか。
もしも「誰にも見られたくない」ということなら普通に処分すべきだし、何を目的とした行動なのか理解不能だ。

その後、香恵が学校へ行くと、なぜか伊吹の教え子たちが教室で待っている。そして校庭に向かって、一斉に紙飛行機を飛ばす。
その紙には「伊吹先生、心の力をありがとう」というメッセージが記されているけど、それを香恵に向かって飛ばすことに何の意味があるのかサッパリ分からない。
そういうシーンを先に思い付いて、そこから逆算して「伊吹が最後のページを紙飛行機にして飛ばす」という筋書きにしたのかもしれんけど、そこに感動なんて無いからね。
子供たちが一斉に紙飛行機を飛ばしても、「はあっ?」と思うだけだからね。

(観賞日:2014年10月22日)


第1回(2007年度)HIHOはくさい映画賞

・最低監督賞:行定勲
<*『遠くの空に消えた』『クローズド・ノート』の2作での受賞>
・最低主演女優賞:竹内結子
<*『ミッドナイト イーグル』『クローズド・ノート』の2作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会