『キャラクター』:2021、日本

山城圭吾は寝る時間を削り、アパートでサスペンス漫画を描いていた。同棲中の川瀬夏美が心配して少しは眠るよう忠告すると、山城はヒットメーカーである編集者の大村誠に見てもらえるチャンスが今日の15時しか無いのだと告げた。漫画を完成させた彼は編集部へ行き、大村に見てもらう。すると大村は、キャラクターにリアリティーが無いと指摘した。出版社を出た山城は勤務先の夏美に電話を入れ、これで最後と決めていたので漫画を辞めると伝えた。
山城はアシスタントをしている本庄勇人の仕事場へ赴き、今日で漫画を辞めることを話す。本庄は自分のアシスタントに専念するよう提案するが、山城の考えは変わらなかった。深夜、本庄はアシスタントの面々に、誰が見ても幸せそうな一軒家をスケッチしてくれと注文した。他のアシスタントが忙しそうだったので、山城が名乗り出た。山城が部屋を出て行った後、本庄は他のアシスタントに「あいつはいい奴だから悪人が描けない」と語った。
自転車を借りて住宅街へ向かった山城は、船越家の邸宅に目を付けた。家の中から大音量でオペラが流れていたが、彼は構わずにスケッチを始めた。彼が門に近付いて描いていると、玄関のドアが開いた。住人の姿は見えなかったが、山城は慌てて事情を説明する。すると相手は何も言わず、ドアを閉めた。直後、隣人が山城に呼び掛け、「音楽うるさいんだけど」と苦言を呈した。「この家の人間じゃないんで」と山城は説明するが、隣人は船越家の人間に迷惑だと注意するよう要求して「警察を呼ぶ」と警告した。
山城は門を開けて敷地に入り、インターホンを押した。反応は無かったが、ドアの鍵が開いていたので彼は勝手に上がり込んだ。するとリビングでは家族4人が縛られて惨殺されており、山城は刺身包丁を持った犯人の両角が庭にいるのを目撃した。山城は口を押さえ、彼に気付かれないようにした。通報を受けた神奈川県警捜査第一課警部補の真壁孝太は、山城の事情聴取に巡査部長の清田俊介を同席させる考えを上司の奥村豊に告げた。奥村は難色を示しながらも承諾し、清田を暴走させるなと釘を刺した。警察署に戻った真壁は、山城の事情聴取を清田に任せた。清田は山城に尋問し、彼の描いたスケッチを確認した。
真壁から犯人の似顔絵を描くよう頼まれた山城は、顔を見ていないと嘘をついた。山城のアリバイは確定したが、清田は怪しいと感じた。帰宅した山城は、船越家の事件をモデルにした漫画を描き始めた。真壁は16歳の頃に一家4人を殺害した50歳の辺見敦という男が船越家の近所に住んでいると知り、清田たちと赴いた。辺見は逃亡を図るが、刑事たちに囲まれると「私がやりました」と口にした。辺見は具体的な供述を何も喋らなかったが、奥村は真壁に迅速な処理を命じた。辺見の逮捕をテレビのニュースで知った山城は、すぐに犯人とは別人だと確信した。彼は再び作業に戻り、両角をモデルにした犯人が登場する漫画を完成させた。
1年後、原家の父は妻と2人の子供を車に乗せ、山道の奥にある民宿へ向かっていた。歩いていた両角は声を掛けられ、車に乗せてほしいと持ち掛けた。彼は「4人家族って幸せそうでいいですよね」と言い、「3人や5じゃダメなんです」と告げた。両角は息子が読んでいる漫画雑誌『ライジングサン』に気付くと、掲載されている漫画『34』に登場するダガーという殺人鬼について「僕に似てない?」と告げた。彼は何も無い場所で「この辺で大丈夫です」と言い、原家の母に「もしかして僕のこと、気味悪がってます?」と問い掛けた。
原家の4人は縛られて惨殺され、車は崖下に転落していた。山梨県警の面々が現場検証を行っていると、船越家の事件との関連性を疑った真壁と清田が到着した。清田は車の天井の裏側を調べ、凶器の包丁を発見した。彼は真壁に、『34』に描かれた手口と同じだと教えた。彼は辺見が無実であり、船越家と原家を殺した犯人が別にいると推測していた。山城は妊娠した夏美から家族に報告したいと言われ、彼女を連れて久々に実家へ戻った。山城の実家では父の健太、母の由紀、妹の綾が暮らしていた。
清田と真壁は大村に案内してもらい、山城の元を訪れた。山城は『34』の大ヒットで高級マンションに引っ越し、夏美は彼の頼みで家具店の仕事を辞めていた。清田は原家の事件が『34』の内容を模倣していることを説明し、犯人の心当たりを尋ねた。山城は無いと答え、清田からダガーのモデルについて問われるとオリジナルのキャラクターだと告げた。清田と真壁が去った後、山城が「連載を止めた方がいいんじゃないでしょうか」と言うと、大村は「模倣犯が出ただけで、そういう段階じゃないですよ」と述べた。
山城がガード下の飲み屋に入ると、尾行していた清田は偶然を装って声を掛けた。彼は名刺を渡し、何かあれば連絡するよう告げた。真壁からの電話で清田が店を出ると、両角が山城に「ファンです」と話し掛けた。両角の顔を見て、山城は驚愕した。両角は「分かりますよ、ダガーの気持ち。やっぱり4人家族ですよね、幸せの象徴って」と言い、「先生が描いた物をリアルに再現しておきましたから」と笑った。彼は名刺に気付き、それを手に取って眺めた。
両角は山城が『34』で描いた天井の裏側の包丁について、その後の展開を何も考えていないと指摘した。その上で彼は、いいストーリーを思い付いたと告げた。両角は山城の耳元で自分のアイデアを囁き、店を後にした。山城がコースターに両角の似顔絵を描くと、店主が気に入って壁に貼った。マンションに戻った山城は、心配する夏美に苛立ちをぶつけて漫画を描き始めた。清田は真壁から、原一家の車で発見された包丁が船越家事件の凶器と判明したことを聞かされる。清田は真壁に、最新話の『34』と全く同じ展開であることを教えた。警察は辺見を釈放し、弁護士は記者会見で厳しく批判した。
両角は川へ行き、キャンプをしていた杉村一家を惨殺した。現場に赴いた清田は、最新話の『34』と同じ内容であることを確認した。彼は山城と連絡が取れないため、飲み屋へ出向いた。コースターのイラストを見た彼は、自分が来た夜に山城が話していた客の似顔絵だと店主に聞かされた。山城は夏美の定期健診に付き添った帰り、駐車場で待ち受けていた両角に声を掛けられた。両角は夏美に挨拶し、漫画のアドバイザーだと自己紹介した。夏美の妊娠を知った彼は、だからベビーベッドを買ってたんだ」と告げた。
山城は夏美を車に乗せ、逃げるように去った。彼は夏美に、両角が連続殺人犯であり、目撃していたことを告白した。山城は清田を呼び、事実を告白した。彼は犯人が両角と名乗ったこと、それ以外は何も知らないことを話して謝罪した。山城は編集部に連載終了を申し入れるが、編集長の加藤一郎は休載という形を取ろうと提案した。山城が書店にいると両角が現れ、なぜ休載するのかと抗議した。山城が「警察に全部話した」と言うと、彼は「あと1つで連載に追い付くから、せめて最終回はやろうよ」と告げて去った。
清田や真壁たちは、古川急便の事務所で働いていた男が両角と名乗っていたという情報を入手した。山城から預かった船越家のスケッチに、古川急便のトラックが描かれていた。古川急便の事務所を訪れた清田たちは、両角修一という若者の履歴書を見せてもらった。履歴書に書かれていた住所に彼らが行くと、両角の母親が暮らしていた。母親は息子について、10年近く会っていないと告げる。卒業アルバムの写真を見せてもらった清田たちは、犯人が両角修一とは全くの別人だと確信した…。

監督は永井聡、原案は長崎尚志、脚本は長崎尚志&川原杏奈&永井聡、製作は石原隆&松岡宏泰、企画は川村元気、プロデュースは村瀬健、プロデューサーは唯野友歩、撮影は近藤哲也、照明は溝口知、美術は杉本亮、録音は石貝洋、編集は二宮卓、劇中漫画(山城)は江野スミ、劇中漫画(本庄)は古屋兎丸、音楽は小島裕規“Yaffle”、主題歌『Character』はACAね×Rin音 Prod by Yaffle。
出演は菅田将暉、Fukase(SEKAI NO OWARI)、高畑充希、小栗旬、中村獅童、中尾明慶、松田洋治、宮崎吐夢、岡部たかし、橋爪淳、小島聖、見上愛、テイ龍進、小木茂光、玉置孝匡、吉本菜穂子、池田優斗、冨樫真、石川真希、田中壮太郎、永倉大輔、永野典勝、中田敦夫、ヨネヤマママコ、奥田洋平、鈴木晋介、岸田研二、瀬口寛之、野中隆光、内野智、空美、呉城久美、佐久間哲、安藤彰則、内村遥、崔哲浩、森レイ子、鈴木隆仁、二宮聡、福田弘宜、岸端正浩、高原知秀、永栄正顕、保科光志、土屋壮、松田幸起、新虎幸明、参川剛史、木村康雄、渡部遼介、福田周平ら。


『MASTERキートン』や『20世紀少年』などを手掛けた漫画原作者の長崎尚志が、原案を務めた作品。
監督は『帝一の國』『恋は雨上がりのように』の永井聡。
脚本は長崎尚志、『触れたつもりで』『向こうの家』の川原杏奈、永井聡による共同。
山城を菅田将暉、両角をFukase(SEKAI NO OWARI)、夏美を高畑充希、清田を小栗旬、真壁を中村獅童、大村を中尾明慶、辺見を松田洋治、本庄を宮崎吐夢、加藤を岡部たかし、健太を橋爪淳、由紀を小島聖、綾を見上愛、浅野をテイ龍進、奥村を小木茂光が演じている。

なぜ山城がサスペンス漫画にこだわっているのか、その理由がサッパリ分からない。
大村は「キャラクターにリアリティーが無い」と指摘し、本庄は「山城はいい奴だから悪人が描けない」と評している。でも、あらゆるキャラクターにリアリティーを持たせることが出来ないわけじゃなくて、「善人だから悪人を描けない」ってことなんでしょ。
だったらサスペンスに固執しなければ、悪人の出て来ない漫画もあるはずで。
山城の目標は漫画家デビューであって、「サスペンス漫画でデビュー」という狭い目標じゃないはず。ずっとデビュー出来ずにいたんだから、色んなジャンルに挑戦してみれば良かったんじゃないかと。

長崎尚志が原案と脚本を務めているので、漫画家が夜中に家のスケッチを命じるのは実際にあることなのかもしれない。ただ、「暗いからスケッチには不向きだろ。明るくなってからの方が良くないか」と思ってしまうし、そこにストーリー展開の強引さを感じてしまう。
それは置いておくとしても、船越家の隣人が山城に「迷惑だと言ってくれ」と要求して「警察を呼ぶ」と脅すのは「なんでやねん」とツッコミを入れたくなる。その要求を山城がOKしちゃうのも同様。
「警察を呼ばれたら本庄に迷惑が掛かると思った」という言い訳を用意しているけど、別にスケッチするのは船越家じゃなくてもいいんだし。勝手に門から入り、ドアが開いてるからってことで侵入するのも、行動としてメチャクチャだなと感じるし。
あとさ、深夜に大音量でオペラが流れている時点で、「誰が見ても幸せそうな一軒家」のイメージからズレているように感じるぞ。

本庄は山城を「いい奴」と評するけど、ホントにいい奴なら、犯人を目撃したのに警察には言わず、そいつをモデルにした漫画でデビューするような行動は取らないだろ。「編集者に説得されて迷った末に」みたいな経緯があればともかく、自らの意思で積極的にやっているし。
後から「いい奴だから悪人が描けなかったわけじゃなく、単純にキャラクターを勃てる才能が無かった」と明らかになるわけでもなく、「いい奴だから悪人が描けない」という設定は否定されないままなので、整合性が取れていないってことになる。
そんな奴が主人公なので、犯罪に巻き込まれても同情心が1ミリも湧かない。「巻き込まれた」と書いたけど、全ては自らの愚かしい行為が招いた結果だからね。
そのせいで巻き込まれる周囲の人間は可哀想だけど、山城に関しては自業自得に過ぎない。なので、「両角に殺されればいいのに」とさえ思ってしまうぐらいだ。

この手の映画で警察がボンクラなのは良くあることだが、さすがに「私がやりました」という自白だけで具体的な供述ゼロの辺見を犯人と断定して事件解決にしちゃうのは無能すぎる。
これが警察の腐敗でもテーマに掲げているならともかく、純粋にサイコキラーの恐怖を描く作品のはずで。
「実は警察が何か隠蔽しているのか、陰謀が隠されているのか」と言いたくなるぐらい、2021年の警察の描写としては、やたらと早期解決を図る不自然さがノイズになっている。

原家の殺害事件が発生するのは、船越家の事件から1年後だ。つまり山城が漫画『34』の連載を開始してから、1年も経っていないわけだ。
それで超が付くぐらい高級なマンションに引っ越しているのは、有り得ないだろ。
例え『34』が連載直後から大人気になったとしても、そんなにすぐに莫大な収入を得られることは無いぞ。
漫画ってのは雑誌の原稿料なんか大したことが無くて、単行本の売り上げで儲けを生み出すシステムになっているんだから。

大村は「500円の単行本が100万部売れたら、その10%が作家の収入になる。1年で3冊か4冊の単行本が出る」と説明し、真壁が「年収、億超えですか」と驚いている。
でも、それはあくまでも、1年で4冊の単行本を出版し、1巻から100万部を超えるヒットを記録している場合に限る。
前述したように、山城は連載開始から1年も経っていない。だから、まだ単行本を3冊も4冊も出している状態ではないはず。
それに、最初から大ヒットしたとしても、いきなり億ションに引っ越すことは無いと思うぞ。
初めての週刊連載で多忙だったら、そんなことに気を取られている余裕は無いはずだし。

山城は飲み屋で両角に挨拶され、顔を引きつらせる。だけど船越家の事件で両角を目撃したのに黙っている時点で、もっと罪悪感に苦しむべきだろ。
いやホントは、すぐ警察に言うべきなんだけどさ。それはひとまず置いておくとして、せめて激しい罪悪感に苦しむべきだろ。
そういう最低限のことさえ、山城には足りていない。原家の事件が起きても、まだ彼は両角のことを内緒にしているわけで、クズ野郎としか思えない。
どれだけ菅田将暉が頑張っても、山城への同情心は全く喚起されない。彼が両角のことを内緒にして野放しにしたせいで、多くの犠牲が出ているわけで。
最終的に両角が捕まっても、贖罪としては全く見合っていないのよ。

清田は山城から「船越家で犯人を目撃していた」と告白された時、全く怒りを見せない。
それは表面的に装っているわけではなく、本当に彼は全く怒っていない。それどころか、「新作のことでも考えれば?」と優しい言葉を掛ける。
だけど、もっと激怒すべきでしょ。
山城が犯人の情報を隠していたせいで、さらに多くの犠牲者が出ているわけで。ある意味、両角の連続殺人に加担していると言ってもいいぐらいの行為なんだぞ。
それを優しい言葉で済ませるのは、あまりに甘すぎるだろ。

清田は山城からの証言で、両角が漫画の内容を模倣しているだけでなく、何度か接触したことも分かったはず。それなのに、どうして警察は山城に見張りを付けないのか。「両角が山城を狙うかもしれない」と全く思わないのは、警戒心が無さすぎる。
そんで完全ネタバレを書くと終盤に入って辺見が清田を殺すんだけど、「なんで?」と言いたくなる。
両角がそそのかしたと思わせる描写もあるけど、どういう手を使ったのかはサッパリ分からないし。そうなると両角に別の要素が乗っかるから、それも邪魔だし。
あと、辺見が清田を殺害した後、特捜が「辺見を追う」と決めて両角を軽視するのもアホすぎるぞ。

山城は決着を付けるため、自分と両親&妹を囮にする。でも、それで本人はいいとしても、命の危険がある作戦を両親&妹が快諾するのは都合が良すぎるだろ。
それと、その作戦を立てて実家を警護してもらうだけで、夏美に危険が及ぶことは全く念頭に無いのはアホすぎるし。
山城が放置しているのも、警察が全く警護しないのも、どっちもアホだよ。
「4人家族じゃないから」ってことで軽んじているのかもしれないけど、「だったら仕方ないよね」と納得できる余地なんてゼロだぞ。

(観賞日:2022年8月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会