『CAT’S EYE』:1997、日本

女強盗団のキャッツ・アイから県立横浜美術館に、「今夜0時6枚目のクロダコレクションをGET!!」という予告状が届いた。キャッツの 正体は、来生泪、瞳、愛という3姉妹だった。港町警察署の内海俊夫が責任者として現場の警備を統率していると、刑事課長の柴田が 現れた。これまで俊夫が5回もキャッツに逃げられているため、任せておけないと考えたのだという。停電と共に絵が消失すると、柴田は 警官たちにキャッツを捜索するよう命じた。
警官隊が部屋を去ると、部屋に愛が現れた。柴田は偽者で、その正体は変装した瞳だった。しかし俊夫は偽者だと気付いており、警官隊を 率いて現場に戻って来た。愛と瞳は絵を盗んで美術館から脱出し、待機していた泪の車に乗り込んだ。警官隊の追跡をかわしたキャッツ だが、俊夫だけは諦めずに追い掛けた。しかしキャッツは様々な乗り物を使い、彼を振り切った。翌朝、柴田から叱責された俊夫は「次に 捕まえられなかったら刑事を辞めます」と宣言し、辞表を叩き付けた。
警察署を出た俊夫は、近くにある馴染みの喫茶店「キャッツ・アイ」に赴いた。そこは来生3姉妹が営んでいる店で、俊夫は瞳と同級生で 恋人同士だ。彼は3姉妹がキャッツだと知らずに、瞳と交際していた。俊夫は瞳から「刑事は向いてないのよ。やめちゃえば」と言われ、 「お前に言われたくないね」と言い返す。泪は「瞳がイライラしているのは、最近、俊夫さんかデートに誘わないからよ。次のお休みは デートしてあげて」と俊夫に告げた。
瞳は別のテーブルにいた浅谷光子という客に、ジュースを運んだ、グラスを渡そうとすると、浅谷はわざと手を離す。落下するグラスを キャッチした瞳に、浅谷は「すごい反射神経ね。まるで猫みたい」と告げて去った。彼女は警視庁国際警察の刑事だった。浅谷は射撃場で 野球のボールを投げていた俊夫に声を掛け、「キャッツ・アイの正体を教える代わりに、私の捜査が終わるまで、貴方の捜査を中止して ほしい」と持ち掛けた。浅谷が追っている国際的な犯罪組織「紅龍団」が、キャッツ・アイを狙っていた。そこで彼女は、キャッツ・アイ を泳がせれば必ず紅龍団が現れると考えていた。俊夫は「この話は聞かなかったことにする」と取引を拒否した。
紅龍団のMISS王が皇帝を連れて来日し、日本のアジトへ赴いた。アジトのボスだった楊が入ろうとすると、MISS王の手下が「中には誰も 入れません」と遮った。楊が激怒していると王が出て来て、「皇帝は、ここのボスに私を任命なさったわ」と言う。反抗的な態度を取る楊 を、彼女は殺し屋の黒旗に始末させた。大学でロボットを作っていた愛は、留学生の李と出会う。かつて父が日本にいたが、日本を良く 知らないという彼に、愛は「僕が色んな所へ連れてってあげるよ」と告げた。
俊夫は瞳をデートに連れ出し、キャッチボールをする。刑事は嫌いだと言う瞳に、彼は「刑事を辞めたら俺と結婚するか?」と告げる。 瞳に指輪を渡した俊夫は、「決めたんだ、キャッツ・アイを辞めたら刑事を辞める」と宣言する。一方、父親が画家だと話す李に、愛は 「僕のお父さんも画家だよ。でも、僕が赤ちゃんの時、いなくなったんだ。でも、いつか会えるって信じてるんだ」と話した。
3姉妹は店の地下にあるアジトに入り、次の標的について相談する。梅原という富豪のコレクションルームに、姉妹の父の自画像がある。 コレクションルームは、部屋全体が金庫になっている。瞳は泪に「俊夫さんから明日の警備体制を聞き出して」と言われ、顔を曇らせた。 彼女はプロポーズされたことを明かす。泪が「あと3枚で父さんの絵が全て集まる。それまで俊夫さんはキャッツ・アイの敵よ」と釘を 刺すと、瞳は「分かってるわよ」と指輪を外した。
黒旗はMISS王から、「キャッツ・アイを皆殺しにしておしまい」と命じられる。キャッツの予告状を受け取った梅原は、絵を抱いて金庫に 閉じ篭もった。俊夫たちが警戒する中、キャッツ・アイは梅原の屋敷に忍び込んだ。愛と瞳が金庫に行くと、梅原が死んでいた。瞳は罠 だと察知し、「絵を盗んだら私たちが殺したことになる」と計画を中止して戻ろうとする。だが、愛は「諦められない」と父の絵を手に 取った。そこへ黒旗が現れ、絵を真っ二つに切り裂いた。
愛と瞳は屋敷の外へ逃げるが、黒旗が追い掛けて来た。黒旗は愛を捕まえるが、その顔を見ると思わず力を抜いた。そこへ浅谷が現れて 黒旗に発砲し、愛と瞳を逃がした。MISS王は黒旗に「あの娘は殺せない」と言われ、「私に背くのか、この親不孝者」と鞭で打つ。直後、 「分かっておくれ、全部お前のためなんだよ。キャッツ・アイと皇帝を殺せば、皇帝の血統はお前一人だ」と抱き締める。黒旗は「皇帝に なりたいのは母さんだ。僕はなりたくない」と反発した。MISS王は、自らキャッツを殺して息子を皇帝にすると誓った。
翌日、喫茶店に浅谷が現れた。彼女は3姉妹が20年前に誘拐された黒田画伯の娘だと知っていた。浅谷は姉妹に、中国を終われた秘密結社 の紅龍団が、滅びた劉王朝を再興しようとしていることを話す。さらに、黒田を誘拐したのは紅龍団であること、黒田が横浜に来ている ことを教えた。横浜に潜伏した幹部の中に、皇帝の肖像画を描かされている男がいるというのだ。
肖像画を描かされている男が父だと確信した愛は、瞳と泪に「今すぐに父さんを捜しに行こう」と言う。瞳たちは紅龍団を警戒し、敵の 出方を見るべきだと考える。しかし愛は拒絶し、一人で横浜へ向かった。切り裂かれた肖像画を眺めていると、黒旗が現れた。彼は「僕、 この人を知ってる。一緒に来て」と言い、ある建物の前にやって来た。彼は「ここで待ってて」と言い、中に入っていった。愛は中にいる 黒田に気付き、ドアを叩いた。「父さん」と叫んで中に入ると黒田が消え、愛はMISS王に捕まった。
泪はチャイナタウンの路地裏にある店が紅龍団の取り引き場所だと突き止め、瞳に教えた。彼女は瞳に「父さんのことで、今まで秘密に してきたことがあるの」と述べ、殺された母が「父さんを捜してはいけない」と言い残していたことを告げる。瞳はガードナーという婦人 に変装し、紅龍団の店へ赴いた。彼女はMISS王を脅して父の居場所を吐かせようとするが、そこへ拘束された愛が連行されてきた。
瞳は紅龍団と戦い、愛を店の外へ逃がした。彼女は父を見つけて、「一緒に逃げましょう」と手を取った。しかし黒田は「私は逃げない。 逃げたらお前たちが殺されてしまう」と言い、瞳はMISS王に捕まった。MISS王は瞳に変装し、助けに来た愛たちと合流してアジトに潜入 した。彼女は愛のポケットにフロッピーディスクが入っていることを指摘した。愛がパソコンにフロッピーを入れるとMISS王のホログラム が浮かび上がり、「キング財団にある龍玉を盗めば、黒田画伯は返してあげる。期限は明日の0時まで」と告げた…。

監督は林海象、原作は「キャッツアイ」北条司(集英社/ジャンプコミックス刊)、脚本は林海象&土屋斗紀雄、企画は北林由孝& 久板順一朗&周防郁雄、エグゼクティブプロデューサーは松下千秋&佐藤信彦、プロデューサーは宅間秋史&臼井裕詞&古賀俊輔& 和田倉和利、撮影監督は長田勇市、編集は冨田伸子、録音は浦田和治、照明は豊見山明長、美術監督は木村威夫、美術は菊川芳江、 衣装デザインは伊藤佐智子、メカニカルデザインは林田裕至、造型デザインは原口智生、特殊視覚効果は伊藤高志、アクション監督は 齋藤英雄、音楽は めいなCo.、主題歌 「CAT'S EYE-2000-」杏里。
出演は内田有紀、稲森いずみ、藤原紀香、寺尾聰、チャン・ウェンリー、原田喧太、山崎直子、ケイン・コスギ、佐野史郎、麿赤児、 大泉滉、修健、佐伯秀男、TERU、神野三鈴、LILY YI、伊東静、坂間恵、森由美子、萬代峰子、東静子、いか八郎、マーガレット・ ケンドール、重水直人、前原実、稲宮誠、橋川剛、古谷充康、市原昭仁、マック後藤、早馬愼二、俵一、山下均、アリ・アーメッド、 坂本隆、山岡一、雨空トッポ・ライポ、白井ちひろ、溝呂木萌、玉崎梨花、古賀智子ら。


『週刊少年ジャンプ』で1981年から1984年まで連載され、アニメ化もされた人気漫画を基にした実写映画。
アニメ版は日本テレビ系で放送されたが、この映画版ではフジテレビが製作に関わっている。
監督は“濱マイク”シリーズの林海象。
愛を内田有紀、瞳を稲森いずみ、泪を藤原紀香、黒田を寺尾聰、MISS王をチャン・ウェンリー、 俊夫を原田喧太、光子を山崎直子、黒旗 をケイン・コスギ、 柴田を佐野史郎、 梅原を麿赤児が演じている。

原作では、三姉妹の中でもメインとなるキャラクターは次女の瞳だ。
彼女には店の常連客である俊夫という恋人がいて、彼は刑事としてキャッツ・アイを追い掛けている。
俊夫はキャッツが三姉妹だと知らない。
瞳は彼と結婚したいという気持ちを抱きながらも、泥棒稼業を続けている。
キャッツが特捜班に追われながら泥棒を繰り返す話だけでなくて、そういう恋愛ドラマも描かれていた。

この映画版でも、「瞳と俊夫が交際しており、俊夫はキャッツの正体を知らずに逮捕しようとしている」という設定は使われているものの 、そこがメインになっていない。
何しろ、トップ・ビリングは愛を演じる内田有紀なのだ。
「バーニング・プロダクションが企画協力に入っているので、所属タレントである内田有紀が主役なのか」と思ったけど、瞳を演じる 稲森いずみもバーニングなのよね。
ただし、公開当時のタレントとしてのランクを考えると、内田有紀の方が上なので、まあ彼女がメインってことになるわな。
で、タイプ的に彼女を瞳役に据えることは出来ないので、瞳じゃなくて愛がメインという、おかしなことになっちゃってるわけだ。

キャッツのコスチュームは、原作やアニメ版ではレオタードなのに(1980年代にはエアロビクスが流行したので、その影響だろう)、この 映画版ではレオタードを着用しない。
ボンデージ風のコスチュームだし、マスクも被っている。
「泥棒をするのに、あんなカラフルなレオタード姿ってのは目立つし、変な格好だ」ということで変更したのかというと、そうじゃ ないんだよな。
だって、この映画で着ている黒猫スーツの方が、もっと目立つコスチュームだよ。

原作と全く違う設定は他にもあって、キャッツ・カードがカードじゃない。
あと「今夜0時6枚目のクロダコレクションをGET!!」って、その「GET!!」はどうなのよ。
それと、アニメ版と同じ主題歌を使っているのはいいけど、余計なアレンジを加えてダメにしちゃってるし。
俊夫が警備中に野球のボールを持っていて、それをカードやキャッツ目掛けて投げるってのも、どういう改変なんだよ。
射撃場でもボールを投げるぐらい野球にこだわっているけど、脱力感しか沸いて来ないわ。

浅谷はキャッツ特捜班じゃないし、俊夫に好意を持っていない。
また、原作の浅谷はキャッツの正体が3姉妹ではないかと疑っていたが、それは勘によるものだった。しかし本作品の浅谷は、最初から 3姉妹の正体を知っている。
で、彼女にそれを指摘された3姉妹は、シラを切ろうともせず、あっさりと認めている。
あと、その浅谷が目立ちすぎる。もっとチョイ役でもいいぐらいなのに、すげえ重要な役割を担っている。
終盤の展開でも、浅谷はキャッツと一緒になって敵と戦っているし。
浅谷より俊夫の方が影が薄い始末だ。

林海象監督の中には、「なるべく原作ファンを大事にしよう」とか、「原作をリスペクトした内容にしよう」とか、そういう意識は全く 無かったようだ。
で、そんな彼が何をやりたかったのかというと、それは日本版&女性版『バットマン』だ。
キャッツのコスチュームはキャットウーマンを意識したモノだし、冒頭のシークエンスでキャッツが逃げる時に使う車は明らかに バットモービルだ。

和製『バットマン』がやりたければ、それは別に構わないよ。
ただし、オリジナル作品として作ってくれ。
『キャッツ・アイ』という名前を利用して、和製『バットマン』を作るのはダメでしょ。コンセプトも全く違うんだし。
例えばさ、焼きそばを注文したのに和風パスタが出て来たら、「いやいや、注文した料理と違いますけど」ってことになるでしょ。
この映画は、そういうことをやってるのよ。
なんか例えはイマイチだけど、ようするに「やっちゃダメなことをやってる」ってことよ。

細かいことを言うとさ、クロージング・クレジットの「原作「キャッツアイ」北条司」という表記にも、製作サイドのリスペクトの無さを 感じてしまうんだよね。
原作でもアニメ版でも、「キャッツ」と「アイ」の間にハートマークが入るのよ。
それを省くってのは、どういうつもりなのかと。
ハートマークを省くなら、せめて表記は「キャッツアイ」じゃなくて「キャッツ・アイ」にすべきでしょ。原作の吹き出しの中でも、 確か「キャッツ・アイ」という表記だったはずだよ。

父親をドイツ人画家のミケール・ハインツから黒田という日本人に変更したのはOK。
ただし、「生きていた彼を救うためにキャッツが行動」というのを内容に入れたのは失敗。
そして「実は黒田が皇帝だった」という設定は大失敗。
何だよ、それ。ギャグのつもりなのか。
だけど苦笑か嘲笑しか誘わないぞ。

しかも、この映画版の黒田は悪玉という設定なんだよな。
もうメチャクチャだよ。
そこは「生死不明の父親を三姉妹が捜している」という程度に留めておけばいい。父親は登場させなくていいのよ。
ぶっちゃけ、原作でも、父親捜しの話って、あまり惹かれなかったんだよな。

原作とは内容や設定が大幅に異なっていても、独立した映画として面白ければ「これはこれでアリかな」ということになったかもしれない 。
しかし、この映画、原作やアニメ版を度外視して見たとしても、やっぱり駄作なんだよね。
まずメインキャストの芝居が下手。
3姉妹に加え、二世タレントの原田喧太(原田芳雄の長男)と山崎直子(山崎努の娘)、カタコトのケイン・コスギが揃って討死に。

筋書きの方もグダグダで、「黒旗が愛に惚れるけど、愛は彼が敵だと知らずに戦う」とか、「黒田の正体が皇帝で悪玉」とか、色々な要素 を盛り込みすぎてグチャグチャになっている。
終盤のミッションで瞳が偽者になっており、それに2人が気付かないまま行動しているという展開もダメでしょ。
しかも、そのミッションは「龍玉を盗む」というものであり、敵と対決するわけではないのよね。
その玉がどういう意味を持つのか良く分からないし、すげえゴチャゴチャしている。

1本の映画として作るのであれば、物語としては「瞳と交際している俊夫がキャッツの正体を調べ、瞳は何とか知られないようにしよう とするが、やがて俊夫は三姉妹に疑いを持つようになって」みたいな感じで、瞳と俊夫の関係を軸に据えるべきだったと思うのよ。
だけど、「スケールのデカい話にしなきゃ」という意識があったのか、そういうのを完全に脇へ追いやり、「中国の秘密結社が絡む巨大な 陰謀」という要素を膨らませようとしている。
もうねえ、完全にアホですわ。

(観賞日:2011年11月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会