『キャプテンハーロック』:2013、日本

遥かな未来、あるいは遠い過去かもしれない。他の銀河にまで進出し数多の植民地星を開拓した人類は、いつしかその勢力を失い始めていた。異星文明との共存もついに果たせず、人類は孤独の内に衰退し、地球への帰還を望むようになった。しかし、宇宙に広がった人口は5000億を超え、地球に住める数は限られていた。地球居住権を巡る争いは血みどろの戦いに発展し、カム・ホーム戦争と呼ばれた。人類はこの戦争を調停するため、ガイア・サンクションという統治機構を生み出した。「地球は永遠の聖地として、何人たりと立ち入ることは許されない」ということになり、地球は封印された。
寂れた惑星に、広域指名手配犯のハーロックが艦長を務めるアルカディア号が降り立った。酒場にいた4人の男たちは、アルカディア号へと走った。乗務員補充の噂を知っていた彼らは、連れて行ってほしいと頼んだ。乗組員のヤッタランは「1人しか要らない」と言い、「何のために乗るのか」と質問した。他の3人が失格する中、「自由」と答えたヤマが採用された。女性乗組員のケイは、「忘れないで、それがこの船の旗印よ」とヤマに告げた。ハーロックはケイに、ヤマの面倒を見るよう命じた。
アルカディア号はガイア・フリートのパトロール艦と戦闘を開始し、ヤマは銃座から密かに信号を送った。白兵戦に突入する中、ガイア・フリートの兵士がヤマに接触して網膜に探知機を装着した。ヤマはガイア・フリートの送り込んだスパイなのだ。アルカディア号は戦闘に勝利し、ハーロックは連合の追尾を振り切るよう指示した。ガイア軍の若き長官であるイソラは、総官と元老たちにヤマの潜入成功を報告した。元老たちはイソラに、100年に渡って反逆しているハーロックを必ず始末するよう命じた。イソラは妻のナミから、なぜ弟のヤマを危険な任務に行かせたのかと問われる。イソラは「不服か?決めたのはあいつだ」と告げた。
ヤッタランはヤマに、アルカディア号には自己修復機能があること、ダークマター機関が保証する航測距離は無限大であることを語った。ダークマター機関とは、カム・ホーム戦争の遺産である。失われた異星文明「ニーベルング族」が開発した永久エネルギー機関だが、原理は分かっていない。それを扱えるのは、ニーベルング族の唯一の生き残りであるミーメだけだ。ヤマはヤッタランに、ハーロックが100歳を超えているという噂について尋ねる。ヤッタランは「英雄に伝説は付き物さ。あんまり詮索するな」と告げた。
船内を探っていたヤマは、謎の鳥であるトリさんを追って中央コンピューター室に足を踏み入れた。するとハーロックが「友よ、もうすぐだ。俺ちの長い旅」とコンピューターに話し掛けていた。ヤマが気付かれないよう銃に手を掛けようとしていると、ミーメが現れて「ここには無い。時が来る。決断なさい」と告げた。ミーメはハーロックに、「なぜ彼を乗せたの?分かっているのでしょう。何かを待ってるみたい」と言う。ハーロックが「奇跡、と言ったら笑うか」と話すと、彼女は「私はただ、見届けるだけ」と口にした。
ゴーラム星系第八惑星トカーガに到着すると、ハーロックは「99基目はこの星に仕掛ける」と述べた。これまでアルカディア号は、98の星に次元振動弾を仕掛けて来た。トカーガは、人間が一度は植民地惑星にしようとして諦めた星だ。ケイは「いつも以上に危険な仕事よ」と言い、志願者を募るが、誰も手を挙げない。ヤマが名乗りを挙げると、ケイは新入りなので却下しようとするが、ハーロックは承諾した。ケイはヤマを小型艇に乗せ、トカーガへと降下して次元振動弾の設置作業を行う。
ケイはヤマに、「やり直すのよ。この宇宙のどこを探したって、地球の他に人類が故郷と思える星なんて無かった。帰りたいのよ、みんな。なのにガイア・サンクションが地球を不可侵の聖地にしたせいで、私たちは帰る故郷を失った」と話した。ヤマが「仕方ないさ。みんなが帰ったら地球はパンクしちまう」と言うと、彼女は「でも、人類の寿命はもうすぐ終わると言われてるわ。最期の時ぐらい、自分たちの星で過ごしたいと思わない?」と語る。
ケイは「方法は1つ。遠い昔、人間が地球で暮らしていた頃に時間を戻す。時の結び目をほどいて、時間を制御する。だけど、そのためには莫大なエネルギーを使って宇宙の所々にあるほころびを1つ1つほぐす必要がある」と言い、100基の次元振動弾を一斉に起爆させようとハーロックが計画していることを明かした。「でも、下手すりゃみんな滅びちゃうんじゃないのか」と疑問を呈すると、「私はキャプテンを信じる」とケイは述べた。
ヤマとケイが作業をしていた場所は岩ではなく、巨大生物の背中の上だった。その生物が動き出したため、ヤマとケイは危機に陥る。ヤマはケイを蹴り飛ばし、ヤッタランの救助艇にキャッチさせた。落下したヤマは死を覚悟し、過去を回想する。かつて彼は、亡き母のように植物観察者になることを夢見ていて。彼は地球でしか咲かない花を火星に根付かせるという母の夢を引き継ぎ、ビニールハウスで花を育てていた。しかし花が全て枯れた時、イソラの反対を押し切って装置を起動させ、爆発事故を起こした。事故のせいでイソラは両脚が不自由になり、エリートコースから外れた。責任を感じたヤマに、イソラは「俺の足になれ。それが俺への報いだ」と告げた。
ヤマは駆け付けたハーロックに救われるが、彼に銃口を向ける。ハーロックはヤマの動きを無視し、次元振動弾を切り離す作業に集中する。「なぜだ、気付いていたんだろ」とヤマが言うと、ハーロックは「アルカディア号に乗っている限り、お前は俺の部下だ」と告げた。ヤマが「馬鹿げてる。俺の任務は、次元振動弾の奪還と、アンタを殺すことだぞ」と語ると、ハーロックは「お前が望んだことか?やり遂げたとしても称賛される者はいない。そんな馬鹿げたことを命じられるのはただ一人、自分自身だ」と述べた。
ヤマはハーロックに協力し、2人は無事に脱出した。ハーロックは彼に、「自由を求めてアルカディア号に乗ったと聞いたが?それが本当なら、自分を縛る物と戦え。それでも俺を殺したければ、その時は撃て。お前なら俺を殺せるかもしれん」と告げた。彼は乗組員を集め、最後の次元振動弾を地球に設置することを通達した。アルカディア号が太陽系に向かっていることが判明し、イソラはカレイドスター・システムの使用を認めてほしいと元老たちに申し入れた。一つ間違えば宇宙が吹き飛ぶことになるが、総官は使用を了承した。
イソラはナミから「見捨てるつもりだったのね。そんなにヤマが憎いの」と批判されるが、冷たい態度で無視した。イソラは主幹艦隊に太陽系絶対防衛ラインでの迎撃を告げ、作戦開始を命じた。ハーロックは敵の大艦隊を見ても迂回せず、ヤッタランに強行突破を指示する。連合艦隊は一斉砲撃を行うが、ハーロックはホログラフを使った計略で対抗する。ハーロックはイソラに通信を入れ、ヤマを喋らせる。ヤマはイソラに、「艦隊を下がらせてくれ。ハーロックの目的は宇宙の破壊じゃない。元老たちの言い分は一方的だ。話せば分かり合える」と訴える。しかしイソラは「お前には失望した」と冷徹に告げ、通信を切断した。
彼はカレイドスター・システムを配置し、アルカディア号を破壊しようとする。しかしアルカディア号はイソラの作戦を予期しており、ホログラムを使って攻撃を回避した。アルカディア号はガイア・フリート艦隊を壊滅状態に追い込み、イソラを人質に取った。元老たちを欺くため、アルカディア号は連合艦隊を囮にする作戦を採用する。それはヤマの提案によるものだった。自分の計略が全て見抜かれたことに関し、イソラはナミがヤマに情報を漏らしていたのだと悟った。
ヤマは兄に、「彼女を責めないでくれ。俺はハーロックに賭けてみたい。時の結び目をほどくことで、人間はもう一度やり直せるんだ」と熱く訴えた。するとイソラは笑い出し、「やり直すだと?お前は何も分かってない。ハーロックはお前たちを欺いている。その目でしっかり確かめてみろ」と述べた。アルカディア号が不可侵領域に入ると、青い地球が突如として真っ赤に変貌した。地球の青さはホログラフによる偽装であり、実際は荒廃して人類が住むことなど出来ない状態になっていたのだ。
驚愕するヤマに、イソラは「ハーロックの犯した大罪だ」と言う。ハーロックはケイから事情を問われるが、何も答えようとしない。代わりにナミが、100年前の出来事を語る。ガイア・サンクションが地球を不可侵領域に決めた際、ハーロックはガイア・フリートの精鋭であるデスシャドウ艦隊の艦長として警備を担当した。しかしガイア・サンクション幹部は各惑星の為政者たちは、地球への移住を決めた。それが和平の交換条件だったのだ。ハーロックは反乱を起こすが、ガイア・サンクションの攻撃を受けて追い詰められた。彼はダークマター機関を解放するが、そのせいで地球は滅びてしまったのだ…。

監督は荒牧伸志、原作総設定は松本零士、脚色は福井晴敏、脚本は福井晴敏&竹内清人、製作は高木勝裕&中山圭史&木下直哉&村松秀信&間宮登良松、企画は森下孝三&清水慎治&小口久雄、エグゼクティブプロデューサーは北ア広実&深澤恒一、プロデューサーは池澤良幸&工藤レイ&ジョセフ・チョウ、CGスーパーバイザーは竹内謙吾、アート・ディレクターは上野拡覚、アニメーション・スーパーバイザーは田中剛、音楽は高橋哲也。
主題歌「Be the light」歌:ONE OK ROCK、作詞:Taka、作曲:Taka。
挿入歌「愛はあなたの胸に L'amour dans ton coeur」歌:加藤登紀子、作詞:加藤登紀子、作曲:加藤登紀子、編曲:THATRE BROOK。
声の出演は小栗旬、三浦春馬、蒼井優、古田新太、福田彩乃、森川智之、坂本真綾、沢城みゆき、大塚周夫、小林清志、有本欽隆、土師孝也、島田敏、中博史、石住昭彦、麦人、楠大典、曽世海司、真殿光昭、上田燿司、浜田賢二、乃村健次、川田紳司、大畑伸太郎、四宮豪、安元洋貴、最上嗣生、金本涼輔、中村千絵、奈良徹、大林洋平、山本和臣、山崎健太郎、荒井聡太、竹内栄治ら。


松本零士の漫画『宇宙海賊キャプテンハーロック』を基にした3DCGアニメーション映画。
監督は『エクスマキナ』『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』の荒牧伸志、脚色は小説家の福井晴敏、脚本は福井と『エクスマキナ』『ギャルバサラ -戦国時代は圏外です-』の竹内清人による共同。
ハーロックの声を小栗旬、ヤマを三浦春馬、ミーメを蒼井優、ヤッタランを古田新太、トリさんを福田彩乃、イソラを森川智之、ナミを坂本真綾、ケイを沢城みゆき、総官を大塚周夫、ナレーターを小林清志が担当している。

ハーロックの声優をオファーされた小栗旬は、自分の声が求められていると思っていたら低い声での演技を要求され、自分じゃなくても良かったんじゃないかと感じたらしい。
ようするに、製作サイドは小栗旬の声がハーロックにピッタリだと思ったわけではなく、彼の声優としての技量を買ったわけでもなく、単純に人気と知名度を欲しがったのだ。他に三浦春馬、蒼井優、古田新太、福田彩乃という面々を揃えているのも、同じことだ。
有名人の訴求力に期待しようってのは、他のアニメ映画や外国映画の吹き替え版でも見られることだ。有名人の訴求力に期待して声優にキャスティングしたケースの大半は、期待したほどの観客動員に繋がらない一方で、声優として上手くないために作品の質を落とす結果に繋がっている。
チョイ役や脇役なら傷は浅いが、主要キャストに起用してしまったら手の施しようがない。たまに本職じゃなくても声の仕事が上手い人はいるけれど、最初から声優としての質を評価して起用しているわけでは無いので、外れを引くことも多い。

この映画に関しては、三浦春馬や蒼井優、古田新太は、ほぼ問題なく声優業をこなしている。福田彩乃が担当するのは鳥の声だから普段の芸の延長だし、何の問題も無い。
最後に残った主役の小栗旬は、たまに「小栗旬」が出てしまう部分があるものの、かなり頑張ってハーロックを演じている。ただ、「頑張っているんだけどねえ」という感想になってしまう。
決して声優としての仕事が下手なわけではないのだ。ただ、「ハーロックの声」としては、残念ながら合っていないんだよね。
もっと貫禄があって、大人っぽさを感じさせる声が欲しいのだ。つまり、そんなに無理をしなくても低くて渋い声が出るような人が望ましいのだ。

しかし、この映画で何よりも問題なのは、福井晴敏を起用していることだ。
この人は今まで『ローレライ』『戦国自衛隊1549』『亡国のイージス』では原作を担当し、『日本沈没』に出演し、『真夏のオリオン』は脚色と監修を務めている。
なんと恐ろしいことに、それら全てがポンコツ映画だ。
原作担当の映画は脚色や演出の問題も大きいだろうし、『日本沈没』に関しては出演しただけだから本人の責任は皆無に等しい。
だが、とにかく「福井晴敏が関わった映画は全て駄作」という、歩くデスノート状態になっているのだ。

この映画に関しては脚色と脚本を手掛けているので、その責任は相当に大きい。っていうか、この映画がダメになった責任の大半は彼にあると断言してもいいんじゃないか。
脚本のダメな点を挙げるとキリが無いが(むしろ良い点が何も無いと言ってしまってもいい)、一番のマイナスはハーロックの人物像を大幅に変えてしまったことだ。
福井晴敏はアニメ版のようなハーロック像だと現代の観客には受けないだろうということでキャラ設定を大幅に変更したらしいが、いやアホかと言いたい。言い含めたい。言いくるめたい。
受けないなんてことは無いって。漫画やアニメ版のようなハーロックでも、ちゃんと作れば絶対に受けるって。

本来のキャプテン・ハーロックは、若者を導く指導者だ。義理人情に厚く、仲間を大切にする優れた艦長だ。器が大きく、クールで渋い男の中の男だ。男の子なら誰もが憧れるような英雄だ。
だが、この映画を見ても、ハーロックに対する憧れの気持ちは全く湧き上がって来ないし、アルカディア号に乗りたいとも感じない。
この映画には、男たちの夢やロマンが何も詰まっちゃいない。
この映画の主人公は、我々が知っているキャプテン・ハーロックではない。きっと、その名を騙る偽者に違いない。

我らのハーロックは、乗組員の志願者を「望んでいるのとは違う答えを出した」というだけで抹殺したりしない。
イソラがヤマに銃を向けた時、こっそりと背後から近付いて撃つような卑怯なことはしない。
次元振動弾の起爆スイッチをヤマに渡し、「また人が過ちを犯しそうになったら、ためらわずに押せ」なんて冷徹なことは言わない。
敵に捕まった時、すっかり気力を失って抜け殻のようになったりはしない。
ハーロックは若者を元気付けて導くべき存在なのに、ドップリと落ち込んでしまい、ヤマに励まされてようやく立ち上がるんだぜ。そんな情けない姿なんて見たくないよ。っていうか、絶対に偽物だよ。

アメコミ映画のヒーローたちはウジウジと悩みまくっているけど、そういう影響でも受けたのか。だけどハーロックは、そいつらの仲間入りをさせさゃダメなんだよ。男の子にとって、永遠に憧れのヒーローであるべきなんだよ。
そもそも、ハーロックは完全無欠の英雄であり、動かしにくいからこそ別の人間を主人公に据えたんじゃないのかよ。だったら、ちゃんとハーロックをそういうポジションのキャラ設定に徹底すべきだろうに。そして「若者から見たハーロック」という描き方をして、その若者がハーロックに導かれたり、指針になるような言葉を貰ったり、男として憧れを抱いたりすべきじゃないのかよ。
未熟なハーロックなんて見たくないし、見せるべきじゃない。
ハーロックはカリスマ中のカリスマなのだ。いわゆる「カリスマ美容師」みたいなレベルとは全く違って、男の中の男なのだ。

何より酷いのは、この映画のハーロック(を名乗るバッタモン)は、テメエの愚かな行為で地球を崩壊させており、それを無かったことにするための計画を密かに進めていることだ。
まず「地球を滅亡させている」という時点で、何をやろうと贖罪できないことなので、その設定の段階でアウト。
「過去の罪に縛られており、そこから解放される」というドラマをやろうとしているのは分かる。
だけど、過去の罪が重すぎて、「そこから解放されようなんて甘いこと考えてんじゃねえぞ。死ぬまで苦しみ続けろ」と言いたくなる。

しかも、偽物のハーロックは死ぬまで苦しみ続けるのが嫌だから、それを無かったことにしようとするのだ。まるで『逆襲のシャア』のシャア・アズナブルみたいな危険思想に染まっちゃって、ただの狂信的なテロリスト状態なのだ。
っていうか、イソラの「あの男は罪の重さに耐えきれず、全てを終わらせようとしている」ってのは、その通りなのだ。
ようするに偽物は、自分の犯した罪を無かったことにするために、宇宙を破壊しようと目論んでいるのだ。色々と理屈は付けているが、彼がやろうとしているのは人類滅亡計画なのだ。
しかし本物のハーロックは仲間を大切にする男であり、自分を信じる乗組員を欺いて人類滅亡計画に加担させることなんて絶対にしない。

偽者のハーロックは人類滅亡計画について「俺の償い」と言っているけど、彼のやろうとしていることは償いなんかじゃなくて、自分の犯した罪からの逃避行動だ。こんなカッコ悪いハーロック、いやカッコ悪いどころか不愉快で嫌悪感さえ抱かせるハーロックなんて、誰が見たいと思うのか。
どうせ偽者なので、いっそ処刑してもらいたいと思うぐらいだが、「不死身」という設定が用意されているんだよなあ。
もうねえ、ハーロックの句的が云々とか、ウジウジ悩むのが云々という以前に、「不死身」という設定だけでも大きなマイナスだからね。
他にも「アルカディア号が無敵」とか、「ヤッタランがヒーロー的な男になっている」とか、福井晴敏が持ち込んだであろう改変ポイントが、ことごとく「改悪」になっている。
なんでハーロックじゃなくてヤッタランが英雄化しちゃってるんだよ。

世界観の設定には、大いに疑問がある。
冒頭で「他の銀河にまで進出し数多の植民地星を開拓した人類は、いつしかその勢力を失い始めていた。異星文明との共存もついに果たせず、人類は孤独の内に衰退し、地球への帰還を望むようになった」という説明があるんだけど、まず勢力を失った要因や、異星文明との共存を果たせなかった理由が分からないという問題がある。
そこを受け入れるとしても、その後に「宇宙に広がった人口は5000億を超え」という説明が続くので、そこに違和感を感じる。
「人類は孤独の内に衰退し」と言ってたのに、5000億を超えているのよ。ちっとも衰退している印象を受けないぞ。

それと、数多の植民地星を開拓しているのに、地球へ帰還することに大勢の人々が固執し、戦争が勃発するってのも引っ掛かるんだよな。
「ホームシックで戦争が起きた」ってのは、ちょっと無理があるんじゃないかと。
そもそも、地球で生まれ育った人類の方が、たぶん少数派のはずだし。
地球のことなんて知識としてしか理解していないような人類が、「最後の時ぐらいは故郷の星で迎えたい」と感じるってのは、ちょっと分かりにくいる。

海外で生活している日系四世や五世の人でも、日本に対して「故郷」という感覚を抱く人はいるだろうし、それと似たような感覚なのかなあとは思うけど、「大半の人類が地球へ戻ることを望んで戦争を起こす」というのは違和感が強い。
地球以外にも人類の生活に適した星があり、だからこそ人類は数多くの星を植民地にしてきたはずで。
戦争を起こしてでも地球に帰りたいと思うぐらい、その星での生活を嫌うって、よっぽどのことでしょ。
ケイは「この宇宙のどこを探したって、地球の他に人類が故郷と思える星なんて無かった。帰りたいのよ、みんな」と言うけど、それは大半の観客を納得させられる言葉じゃないと思うぞ。

それと、数多くの星を植民地化できたってことは、テラフォーミングの技術が確立されているはずだと思うんだよね。
だったら、地球が崩壊しても、テラフォーミングで何とかならないもんかと思ってしまう。
それと科学の進歩に関連して気になるのは、イソラが爆発事故の影響で下半身不随になったままだということ。
植物人間のナミがホログラムで会話を交わせる装置があるぐらいだから、下半身不随を元に戻せるような医療技術もあるんじゃないかと。

ヤマ、イソラ、ナミの三角関係は、描写不足だし邪魔なだけになっている。ヤマのせいでイソラが下半身不随&ナミが植物人間になったという設定を用意し、「ヤマが自分の犯した罪への悔恨から自由になる」という話を展開させようとしているけど、あまりにも愚かしい行為で兄とと愛する女を傷付けているので全く同情心が沸かない。
あと、イソラがカッとなって生命維持装置を抜き、ナミを殺してしまうのもアホにしか見えないし。
っていうか、すぐにコードを戻せば、たぶんナミは助かっただろうに。
それと、最終的にイソラを改心させているけど、段取りを消化しているだけにしか見えないぞ。

ヤマは「スパイとして潜入し、ハーロックを始末しようとする」→「ハーロックに心酔し、スパイの任務を放棄する」→「イソラから地球に関する事実を知らされ、兵を率いてアルカディア号を制圧する」→「イソラにナミを殺され、捕まっていたアルカディア号の乗組員を助け出す」という風にコロコロと態度を変えることを繰り返す。
なので、一貫性が無い奴に見えてしまう。
一応、ヤマが寝返る時にはそれなりの理由があるんだけど、短い期間で3度も寝返るような奴は信用できないし、キャラとしての魅力が無いってことになる。
そもそも「彼から見たハーロック」という見せ方を目論んでいるはずなのに、肝心のヤマがフラフラしていたら、そこが成立しないし。

他にも気になった点を挙げていくと、ホログラムが無敵すぎる。
っていうかホログラムによる偽装は、レーダーか何かで判別できないのか。
ハーロックが「友よ」とトチローのことを思い起こすシーンなんかは、アニメ版や劇場版『銀河鉄道999』を見ていないと分からない。
ダークマター機関やらカレイドスター・システムやらといった設定を持ち込んだために、いちいち「それが何なのか」ってのを台詞で解説しなきゃいけなくなっている。

ホログラムで地球を偽装していた総官は、その真実が暴露されると「我々の聖地は青い地球だから他の真実は要らない。だから地球なんて消滅させろ」と命じるが、メチャクチャな奴にしか思えない。
ハーロックは地球への攻撃を防ぐためにダークマター機関を全解放するが、それによってミーメが消滅するのは、どういう理屈か良く分からない。
死んだように描写されていた乗組員たちが生きており、命を捧げたはずのミーメも復活するってのは萎える。
偽物が眼帯をヤマに渡し、「ヤマが新たなハーロックになる」みたいな形にしているくせに偽者のハーロックも生きていて「アルカディア号、発進」とヤマに命令しているので、どういう着地にしたいのかサッパリ分からん。

最後に映像について触れておくと、どうやら高く評価している人も少なくないようだけど、まるで優れているとは思えなかった。
荒巻監督が手掛けた2004年の『APPLESEED アップルシード』から技術は間違いなく進歩しているが、根っこの部分は変わらない。
これがコンピュータ・ゲームのプロモーション映像であれば「質の高い映像表現」と感じるかもしれないけど、アニメーション映画としては人間の表情や動きがリアル志向だけど本物と比べるとギクシャクしているため、どうしても「不気味の壁」を感じてしまう。
それに、本物の人間に比べると、その表情や仕草が放つ「気持ちを伝える力」は弱くなってしまうし。

(観賞日:2015年2月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会