『劇場版 ATARU ‐THE FIRST LOVE & THE LAST KILL‐』:2013、日本

ラスベガスでベラージオホテルの噴水を眺めていたアタルは、アレッサンドロ・カロリナ・マドカのことを思い浮かべた。ある情報を読み取ったアタルは、電話を掛けることにした。ラリー井上は蛯名舞子に電話を掛け、チョロのヌイグルミを探していたらアタルがいなくなったことを話す。「連絡があったかどうか知りたくて」とラリーが言った直後、アタルから電話が入ったことを部下が知らせる。アタルが「SPBの外に出てくれ」と言っていることを知ったラリーが電話を切った直後、彼のいる建物が爆発した。
警視庁捜査一課には、成田超特急で送電線事故を起こすことを予告するメールが届いた。予告通りの事故が起き、沢俊一は鑑識課へ赴いた。鑑識の水野流美は、焦げた送電線にチョロのヌイグルミが引っ掛けられていたことを沢に教える。科捜研連絡係の渥見怜志は、送電線のシステムにウイルスが仕込まれていたことを語る。しかしロンドン金融特区のサーバーを経由しているため、追跡は不可能だった。
送電線のバーストには以前の事件と同じ手口が使われており、ウイルスも同じ「ウィザード」だった。沢はラリーから、ウィザードはマドカが作った物であることを聞かされていた。そのラリーは、保護されたアタルと再会した。ラリーは部下から、ネットワークにウィザードが侵入し、過剰な高圧電流を流すプログラムが仕込まれていたことを聞かされる。すぐにラリーは、アタルが事前に爆発を察知し、自分を逃がすために電話を掛けて来たのだと確信した。
高輪奈署には送電線事故に関する捜査本部が設置され、沢の他に中津川洋治や野崎蓮生、高輪奈署に異動した我孫子智たちが参加した。そこに管理官として現れたのは、エリート上司の判断ミスで片脚を失った星秋穂だった。沢がマドカのことを語り、事故が彼女の仕業だという考えを述べた。我孫子は星に促され、小折岳志という15年前の殺人事件の犯人について語る。小折は昨年に満期出所し、成田超特急に乗っていた。そして彼の座った指定席の下には、蓄電器が置かれていた。小折は席を外していたが、座っていれば感電死していた。現在、小折は警察の保護ブログラム下に置かれている。星は沢たちに、この一件が小折を狙った殺人未遂だと考えていることを話す。
ラリーが仲間を引き連れて捜査本部に現れ、星は刑事部長からFBIとの合同捜査を命じられた。アタルもラリーに同行していたが、星は彼が捜査チームに入ることへの不快感を露骨に示した。見学者として警察署に来ていた蛯名舞子は捜査本部に乗り込み、アタルとの再会を喜ぶが、すぐに追い出された。ラリーは星たちに、マドカが16の容疑で2008年に逮捕されたこと、犯罪者を標的にしたため多くの賛同者がいたこと、刑務所で16本の歯を叩き割って精神鑑定を受けたこと、2012年に出所していることを話した。
捜査本部の調べにより、日本に入国したマドカが蒲田のホテル神織韮に宿泊したことが判明した。そのホテルでは火災が起きて1人の若い女性が死亡しているが、遺体の損傷が激しく身許は明らかになっていない。金歯だったことからマドカの可能性が濃厚だと星たちは考えるが、ラリーはDNA鑑定を要求した。警視庁には男が鎖に繋がれて監禁されている動画が送られてくるが、今回もロンドン金融特区のサーバーを経由していた。その動画を見たアタルが謎の数列を口にしたので、沢はメモを取り、舞子に電話で知らせた。
鎖に繋がれている男は、4年前に車を突っ込ませて園児を死なせる事故を起こしていた。園児の隙だった知恵の輪が、監禁部屋の仕掛けとして使われていた。それを外せば、鎖が外れるようになっているのだ。アタルの発した数列を調べた舞子は、知恵の輪と電波時計の商品番号、それと漏電遮断器の型番号であることを突き止めた。漏電遮断器はリコールされた不良品で、ホテル神織韮でも使用されていた。舞子から情報を貰った沢は、マドカが園児と同じように犯人を焼き殺そうとしているのだと確信した。
捜査会議の途中で、またアタルが謎の言葉を口にした。沢と外で盗み聞きしていた舞子はメモを取るが、星はアタルに不快感を示した。渥見が捜査本部に来て、遺体のDNAがマドカと一致したことを報告した。アタルがウィザードの作成も再現も可能であり、融特区のサーバーに不正アクセスできると知った星は、彼を第一被疑者として監視下に置くよう命じた。アタルが留置場に入れられ、ラリーは沢と舞子に「アタルが事件を起こした可能性は否定できない」と言う。彼はマドカが黒幕であることは確信していたが、アタルが彼女によってマインド・コントロールされている可能性を考えたのだ。
アタルが捜査本部で発した言葉から、渥見は彼が監禁部屋の経度と緯度を割り出したことに気付いた。熊本市の水防倉庫だと判明し、すぐに熊本県警の警官隊が向かった。しかし突入した直後、トラップが作動して爆発が起きた。トラップが発動した時、アタルは隠し持っていた小型パソコンのボタンを押していた。監視カメラの映像を見た星は、アタルがトラップを作動させたのだと確信する。舞子はアタルの無実を証明するため、彼の弟である介と会った。するとトラップ発動の時間、アタルが介とオンラインゲームをしていたことが分かった。だが、そのことを舞子から知らされた沢は、「証拠にならない」と述べた。
舞子はラリーに頼み、アタルが噴水前にいた時間のリアル映像を送ってもらう。それを彼女が見ていると、沢はアタルに見せることを提案した。沢は星に内緒で、その映像をアタルに見せた。するとアタルは、モールスコードを口にした。すぐにラリーは、アタルが噴水を通じてマドカのメッセージを受け取ったと確信した。ラリーは沢と舞子に、アタルが「罪深き大人たちは罰せられなければならない」と捜査本部で呟いていたこと、それがマドカの口癖だったことを明かした。ラリーは沢たちに、「アタルはマドカとシンクロしてしまった。これはマドカを切り捨てた自分への復讐だ」と語る。
渥見はアタルの使っていた全てのパソコンを調べ、作成したプログラムがホテル神織韮と成田超特急に不正アクセスしていたことを星に報告した。すぐに星は、不正アクセスと殺人及び殺人未遂でアタルの逮捕状を申請するよう指示した。マドカは留置場に侵入し、アタルを屋上へ連れ出した。マドカは障害灯を遠隔操作し、小岳を乗せたヘリコプターを送電線に接触させた。ヘリコプターの爆発で送電線から火花が散る様子を眺めたアタルは、無邪気に「キレイ、キレイ」と喜んだ。その後、マドカはアタルを留置場に戻らせた。
高輪奈署に設置された監視カメラの映像には、アタルが留置場を出る様子だけが写し出されていた。アタルが隠し持っていた小型パソコンには、障害灯に不正アクセスした痕跡が残っていた。星はアタルの犯行と断定し、翌日の送検を指示した。渥見は沢と舞子に、ウィザードの魔方陣を解析すると「アタル、貴方は犯罪者になる」という英文が出て来たことを知らせた。さらに彼は、科捜研のDNA照合ソフトがウィザードに感染している可能性を口にした。
渥見はアタルのパソコンにあったプログラムを改めて解析し、それがウィザードそのものではなくウィザードを検索するソフトだったことを突き止めた。ウィザードはDNA照合ソフトにも送られており、沢はマドカが生きていることを捜査会議で報告した。その時、仲蒲田の河川中央送電所にウィザードが送られた反応がパソコンに表示された。出動しようとする沢に、星は「河川敷広場にある水防倉庫が、例の漏電遮断器を使ってる」と知らせた。
星は沢から、犠牲者を出したくなければパソコンをアタルに渡すよう促された。星は密かにパソコンを持ち出し、留置場のアタルに渡した。沢たちは倉庫に到着し、監禁されている男を救い出そうとする。マドカはウィザードを使い、倉庫を爆破しようと試みる。しかしアタルのハッキングによって、爆発は阻止された。星はアタルに謝罪し、送検を撤回して釈放した。彼女はマドカを第一被疑者に変更し、捜査体制を立て直すことにした。
沢はラリーが電話を終えて立ち去ろうとするのを目撃し、声を掛けた。するとラリーは、「一緒に来ますか」と誘った。沢を車に乗せたラリーは、マドカが孤児院にいた時のシスターが日本にいることを話す。1991年、マドカはサンパウロの教会に置き去りにされていた。男性名を付けられていた彼女にマドカという名前を与え、面倒を見たのがシスターのアリーニ・マツバラだった。マドカは車にはねられて左脳を損傷し、やがてサヴァン症候群の症状が出た。そして8歳の時、ラリーはマドカをSPB訓練生として引き取ったのだった…。

監督は木村ひさし、脚本は櫻井武晴、製作統括は岩原貞雄、エグゼクティブプロデューサーは濱名一哉、プロデューサーは植田博樹&韓哲&東信弘&大原真人&和田倉和利、共同製作は市川南&石川豊&安田猛&飯島三智&本田正男&加藤直次&森越隆文&国貞泰生、ラインプロデューサーは森賢正、撮影は唐沢悟、照明は石田健司、美術デザインは大西孝紀&大木壮史、美術プロデューサーは後藤洋、録音は仲山一也、編集は富永孝、音楽プロデュースは志田博英、音楽は河野伸&Roh Hyoung Woo&羽深由理。
主題歌「自由へ道連れ」作詞・作曲:椎名林檎、歌:椎名林檎。
出演は中居正広、北村一輝、栗山千明、玉森裕太(Kis-My-Ft2)、村上弘明、松雪泰子、市村正親、前田美波里、岡田将生、堀北真希、嶋田久作、田中哲司、千原せいじ、中村靖日、庄野崎謙、島崎遥香、光宗薫、中村昌也、三好博道、利重剛、原日出子、菅原大吉、奥貫薫、佐藤蛾次郎、日比大介、大河内浩、エハラマサヒロ、橋本マナミ、内田愛、若尾義昭、佐藤旭、中西学、永田裕志、佐々木俊彦、黄田明子、辻本耕志、林田直樹、入月謙一、チップ青木、カロリナ、296、七尾優紀、駒田健吾(TBSアナウンサー)、渡辺大知、永井努、遠藤要、狩野謙ら。


2012年にTBS系列で放送されたTVドラマ『ATARU』の劇場版。
TV版の演出を手掛けていた木村ひさしが、映画初監督を務めている。脚本の櫻井武晴も、TV版からの続投。
アタル役の中居正広、沢役の北村一輝、舞子役の栗山千明、舞子の弟・昇役の玉森裕太(Kis-My-Ft2)、ラリー役の村上弘明、中津川役の嶋田久作、渥見役の田中哲司など、TVシリーズのレギュラーは揃って登場。
マドカ役の堀北真希と介役の岡田将生は2013年1月放送のスペシャルドラマからの登場。星役の松雪泰子、マツバラ役の前田美波里といった面々が、新たに登場する。

TVドラマの劇場版では御馴染みの後継だから、今さら本作品だけをアレコレ言っても始まらないのだが、やはりTVドラマを見ていることを求められる映画となっている。人間関係や世界観の設定などは、TVドラマを見ていないと把握できない。
そして本作品の場合、TVシリーズだけでなくスペシャルドラマも見ていることが要求される。マドカはスペシャルドラマの登場人物であり、劇中で「この前の事件と同じ手口」と語られる事件はスペシャルドラマで起きているのだ。
さすがに、スペシャルドラマの続きとして映画版を作るってのは、一見さんを無視しすぎじゃないかと思ってしまう。
しかし、TV版のファンだけでも充分に儲けは出せるから、一見さんはどうでもいいってのが製作サイドの考えだったのかもしれない。
そこまで割り切って、TVドラマの視聴者だけをターゲットにした純然たるコミューン映画だとしたら、信者ではない部外者が見てしまったのが大きな間違いということなんだろう。

TV版を見ていた人なら「今さら何をかいわんや」ということなんだろうけど、アタルの特殊能力の凄さが今一つ伝わって来ない。
彼が噴水を見てラリーに電話を掛けたり、謎の言葉を呟いたりした時点では、彼が何のメッセージを受け取ったのか、何のヒントを掴んだのかは分からない。
後になって、「実は噴水がモールト・コードになっていた」とか「実は数字の羅列が商品番号だった」ということが周囲の人間によって解説される。
ただ、その解説が入っても、「なるほど」という風には思えない。「ミステリーの答えが出た」という意味での気持ち良さを感じられないんだよな。

星がアタルを殺人や殺人未遂の犯人だと考えるのは、かなり無理を感じる。
アタルが捜査本部に来た時、星は「知的障害者である彼が捜査に携わることなんて絶対に出来ない」と見下し、会議中にブツブツと呟いたり食事を取ったりすることに腹を立てていた。つまり彼女は、アタルを「捜査能力の無い知的障害者」として見ていたはずだ。
それならば、そんな人間がパソコンを駆使した高度な犯罪を遂行したと考えるのは、論理的に矛盾しているだろう。
舞子やラリーが「アタルはウィザードを作成したり再現したりできるし、金融特区のサーバーに侵入するのも可能」と説明しても、それを星が簡単に信じるのは不可解だ。
ついさっきまで、星はアタルを「捜査能力の無い知的障害者」とみなしていたのに、そういう時だけ「アタルはズバ抜けた知能の持ち主」という説明を鵜呑みにするのは都合が良すぎる。言葉による説明だけで、実際にアタルの能力が優れていることを目にしたわけでもないのに。

星がアタルを犯人と決め付けたところで、こっちはアタルが犯人じゃないのも、マドカにマインド・コントロールされていないのも、そのマドカが生きているのも、全て分かっている。だから、そこにミステリーとしての面白さは無い。
また、アタルが犯人扱いされても、「主人公が窮地に追い込まれる」というサスペンスの面白味は無い。
まず当人のアタルは状況を理解できていないから、犯人扱いされても焦ることは無いし、無実を証明しようと奔走することも無い。周囲の人間の「無実を証明しよう」という行動も、あまり盛り上がらない。
そもそも、アタルが簡単に窮地から脱するだろうってことも見え見えだしね。

アタルが犯人として疑われた大きな要因は、彼のパソコンにウィザードが見つかったからだ。ところが、その後で「改めて解析すると、それはウィザードそのものじゃなくて、ウィザードを検索するソフトだったことが判明する」という展開が待ち受けている。
そうなると、最初の解析は何だったのかと言いたくなる。鑑識は最初の解析でソフトの正体を見抜けないボンクラ揃いなのか。アタルの容疑を濃くするための設定は、色々と都合が良すぎるだろ。
っていうか、そもそも「アタルが犯人扱いされる」というプロット自体、どうなのかねえ。前述したように、それが映画の面白さに貢献しているとは思えないんだよなあ。
それよりは、アタルの周囲の人間が犯人扱いされる内容にした方が、やりようが色々とあったんじゃないかと。

言葉の聞き間違いネタを何度も盛り込んだり、クセの強いキャラクターを登場させたり、プロレスラーの中西学と永田裕志を出演させたり、色々なトコで遊んでいるのは、見ていなくてもTVシリーズから行われている演出だってことは分かる。
ただ、そういう遊びが多すぎて、気が散ってしまう。
メインとなる物語が、その手の軽いノリでも大丈夫な内容なら別に構わない。しかし、そうではない。
むしろアタルとマドカの絆を中心として、人間ドラマや心理描写を充実させなきゃいけない内容なのだ。

マドカの心情、彼女のアタルに対する思いってのも、その描写が薄っぺらくなっている。
本来ならば、彼女への同情心が沸いたり、アタルとの絆に心を揺れ動かされたりするぐらいじゃないとダメなはずなのに、そこがペラペラだ。
しかもメインの物語は、コミカルな要素が介入する余地など全く無いので、シリアスとコミカルのバランス調整ができておらず、まるで融合せず、完全に分離したままになっている。
どれだけマドカがシリアスに犯罪を遂行し、シリアスにアタルへの思いを表現しても、他の面々がユルい笑いを取りに行くことで邪魔されてしまうのだ。

終盤、「ウィザードに使われていた魔方陣の数字を1から順番に繋ぎ、最も重なる部分を抽出すると全米の地図が浮かび上がる。最後の数字は、初めてアタルとマドカが事件を解決したルート66のキングストンになる」という展開にバカバカしさを感じるが、さらに驚くのは、その前夜に姿を消したアタルが、翌朝にはキングストンへ来ているってことだ。
しかも、アタルの失踪を知った沢と舞子も、その直後にはアメリカに来ている。
私が知らない間に、日本とアメリカはそんなに近い距離になったのか。何の準備も要らず、飛行機にも乗らず、すぐに行ける距離にでもなったのか。
それとも、この作品の世界観だと、日本とアメリカは隣り合わせだったりするのか。

(観賞日:2015年1月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会