『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』:2013、日本

宿海仁太は本間芽衣子を背負い、橋を渡って超平和バスターズの秘密基地を目指した。安城鳴子、松雪集、鶴見知利子、久川鉄道の4人が待つ秘密基地へ辿り着いた時、仁太は急に芽衣子の姿が見えなくなってしまう。それに気付いた芽衣子は、泣きながら「かくれんぼだよ」と嘘をついた。仁太が彼女を探しに基地を飛び出すと、他の4人も急いで後を追った。芽衣子は「ちゃんとお別れしなきゃ」と呟き、5人に向かって「まあだだよ」と告げた。
芽衣子は幼少時代のことを振り返る。神社の境内でかくれんぼをした時、仁太は芽衣子の腕を引っ張って御堂に隠れさせた。自分は除け者だと思っていた芽衣子に、初めて声を掛けてくれたのは仁太だった。彼女は仁太を通じて、超平和バスターズの面々とも仲良くなった。かくれんぼで他の面々は全員が見つかり、残るのは仁太と芽衣子だけになった。仲間たちに御堂に隠れていることを見抜かれると、仁太は芽衣子の手を引っ張って逃げ出した。
超平和バスターズの面々は芽衣子への手紙への手紙を書こうと決めたが、鳴子は内容が決まらずに悩んでいた。電話で相談を受けた知利子は、「伝えておかなきゃいけないことを書けば?」と促した。鳴子は仁太のことが大好きだったが、それを打ち明けられずにいた。彼女は秘密基地で、仁太に芽衣子への恋心を確認したことがあった。仁太が狼狽すると、集が冷静に「正直に言えよ。超平和バスターズに隠し事は無しだよ」と述べた。恥ずかしがった仁太は、「誰がこんなブス」と言ってしまった。
仁太はバイト先で休憩に入った時、芽衣子への手紙を書いた。仁太は文面に悩むこともなく、「どうでもいいことが、すげえなと思えるのって、お前のおかげなんだと思う」と綴った。彼が自宅でTVゲームに没頭していた時、芽衣子は急に姿を現した。父である篤の様子を確認した仁太は、芽衣子の姿が見えていないのだと悟った。芽衣子は仁太に、「ただね、お願いを叶えてほしいんだと思うよ」と告げた。しかし彼女は、その願いが何なのか分かっていなかった。「分かんなくちゃ叶えようがないだろ」と仁太が言うと、芽衣子は「みんなじゃないと叶えられないお願いだったと思うよ」と言い、夏の日差しの中へ彼を強引に連れ出した。もう5年も経過しており、仁太は無理だと思っていた。しかし芽衣子が戻って来たことを、最初に鉄道が信じてくれた。
鉄道は一人で秘密基地へ行き、過去を振り返った。あの日、彼は倒れた芽衣子を目撃していた。しかし怖くて何も出来ずに逃げてしまい、そのことを謝りたいと思っていた。だから仁太から芽衣子がいると聞かされて、鉄道は嬉しかった。だが、いつまで経っても芽衣子の姿が見えないので、ムキになってしまった。「成仏させてやりてえんだ。俺の前にも現れてくれよ」と彼が頼むと、芽衣子は「めんまだって、みんなとお喋りしたいよ。でも、分かんないんだもん」と泣き出してしまった。
集は学校の図書室で、静かに手紙を書いていた。彼は正直に、「走ることで、お前のいない現実から逃げたかったのかもしれない」という気持ちを綴った。集は仁太に掴み掛かり、「あの日、めんまが死んだのは俺のせいなんだ。俺がめんまに、あんなことを言わなければ、めんまは死ななかった」と泣きながら吐露したことがあった。「でも、俺の前には現れなかった。だから、めんまはもういないんだよ」と彼がいうと、芽衣子は仁太に「めんまはいるよ」と伝えてもらう。さらに彼女は、「パッチン、ありがとう。ごめんね」という言葉も仁太に伝えてもらった。ずっと芽衣子が好きだった集は、仁太には絶対に勝てないのだと認識した。
集が手紙を書き終えて美術室へ行くと、知利子は超平和バスターズの絵を描いていた。既に手紙を書き終えていた知利子は、集が去ってから回想する。ずっと知利子は集のことが好きだったが、彼が芽衣子に片想いしていることも知っていた。芽衣子がいなくなって、彼の傍にいられればいいと思っていた。彼女は傷付くことを恐れていたが、芽衣子が戻って来たと聞いて心が揺らいだ。知利子は鳴子から電話を受け、改めて手紙の内容について助言した。
鳴子は電話を切ると、ようやく手紙を書き始めた。彼女は真っ直ぐに人を見つめる芽衣子が羨ましかった。大事だと思えば思うほど、鳴子は視線を逸らしてしまった。芽衣子が戻って来たことで仁太と再び近付くことが出来て、彼女は嬉しかった。一緒に芽衣子の日記を読んだ時、そこには仁太の母である塔子の見舞いに行った時のことが記されていた。日記を読んだ仁太たちは、ロケット花火を作って手紙を入れ、神様に届けようと芽衣子が言い出したことを思い出した。そして、それが彼女のお願いだろうと推測した。
仁太は芽衣子のためにバイトを増やし、過労で倒れてしまった。その時に居合わせた鳴子は、「もうやめようよ、こういうの。じんたんだって、充分傷付いてるじゃない」と言う。すると仁太は「こういうのって何だよ」と反発し、仕事に戻ろうとする。鳴子は後ろから彼に抱き付き、「行っちゃやだ。あの時だって、行ってほしくなかった」と泣く。しかし仁太は彼女を無視し、仕事に戻った。鳴子は手紙を書いていた店で感情的になってしまい、隣に座っていた婦人たちに励まされた。
下校しようとした知利子は、集が校門前に立っているのを目にした。彼女は「私たちは、いつも迷ってばかり。だからこそあの時、少しでも迷いを減らしたくて」と心で呟きながら、過去を振り返る。さよならパーティーを秘密基地で開いた時、芽衣子は翌日に成仏すること、最後まで仲良くしたいことをノートの文字で仲間に伝える。集は余興を提案し、「決起集会なんだろ。もっかい、あの日やるとかさ」と言い出した。仁太は反対するが、鳴子と鉄道は集に促されて同じ言葉を口にした。仁太が逃げ出そうとすると、鉄道は「そこで逃げたら同じことになるぞ」と告げた。
仁太は町を歩きながら、過去を振り返る。彼が「このまま、ここにいればいいじゃねえか」と言った時、芽衣子は「成仏しますよ。成仏しないと、生まれ変わりが出来ないもん。みんなとちゃんとお喋りできないもん」と口にした。仁太は芽衣子の弟である聡史を呼び出し、蒸しパンを渡した。それは芽衣子の仏壇に供えてもらうため、父に教わって作った物だった。どうやって塔子が作っていたか仁太は全く知らなかったが、篤はホットケーキミックスを使っていたことを教えた。
鳴子が告白しようか迷っていると、仁太が来たので狼狽した。仁太に「行かねえのか、基地へ」と言われ、鳴子は彼と一緒に基地へ向かう。その道中、彼女は他愛も無い会話しか交わすことが出来なかった。かつての仲間が合流し、手紙のお焚き上げをすることになった。だが日が暮れてから始めることになり、それまで基地に残っていた花火をやろうと鉄道が提案した。仁太たちは去年のロケットは花火のことを語り合い、鳴子は「めんまも喜んでくれたよね」と呟いた。
仁太たちが用意したロケット花火は、無事に打ち上がった。しかし芽衣子の姿は消えず、それが彼女のお願いではないことが判明した。どこかでホッとした仁太だが、芽衣子の願いが分からなくなった鳴子たちの気持ちは内へと向かった。彼女らはくすぶっていた思いを叫び、仲間の前で号泣した。少し落ち着きを取り戻した一行は、ちゃんと芽衣子を呼んで願いを叶えてやろうと誓い合った。仁太が連れて来る役目を任され、秘密基地で集合することになった。その頃、芽衣子は仁太の家で衰弱し、もう願いが叶っていたことに気付いた。彼女は塔子と約束したことを思い出した。塔子は自分のせいで仁太が気を張って泣かなくなったことを話し、芽衣子は「絶対に泣かせる」と彼女と約束したのだった…。

監督は長井龍雪、原作は超平和バスターズ、脚本は岡田麿里、製作は夏目公一朗&現王園佳正&石川豊&植田益朗、チーフプロデューサーは清水博之&山本幸治、プロデューサーは斎藤俊輔&尾崎紀子、キャラクターデザイン・総作画監督は田中将賀、絵コンテは長井龍雪、演出は吉岡忍、アートディレクターは石垣努、美術監督は福島孝喜、プロップデザインは冷水由紀絵、色彩設計は中島和子、編集は西山茂、撮影・CG監督は森山博幸、音響監督は明田川仁、フォーリーは倉橋静男、録音調整は安齋歩、音楽はREMEDIOS、音楽プロデューサーは佐野弘明。
主題歌「サークルゲーム」ガリレオ・ガリレイ 作詞・作曲:Galileo Galilei、編曲:Galileo Galilei&POP ETC。
声の出演は入野自由、茅野愛衣、戸松遥、櫻井孝宏、早見沙織、近藤孝行、田村睦心、瀬戸麻沙美、豊崎愛生、小形満、大原さやか、大浦冬華、水原薫、金光宣明、葉山いくみ、潘めぐみ、種田梨沙、大西沙織、村田太志、石川界人、上田晴美、興津和幸、林和良、赤羽根健治ら。


2011年にフジテレビ系深夜枠で放映され、多くのファンに支持されたTVアニメの劇場版。
原作として表記される「超平和バスターズ」は、監督の長井龍雪、脚本の岡田麿里、キャラクターデザインの田中将賀によるアニメーション制作チーム。
仁太の声を入野自由、芽衣子を茅野愛衣、鳴子を戸松遥、集を櫻井孝宏、知利子を早見沙織、鉄道を近藤孝行、幼少時代の仁太を田村睦心、幼少時代の集を瀬戸麻沙美、幼少時代の鉄道を豊崎愛生、篤を小形満、塔子を大原さやか、イレーヌを大浦冬華、聡史を水原薫が担当している。

仁太が芽衣子の姿を捉えられなくなるシーンを最初に配置し、そこから芽衣子の幼少時代を回想として描く。タイトルが表示され、それが終わると現在の鳴子が登場する。
この構成だと、鳴子のシーンが「芽衣子の成仏から1年後」であることが分かりにくい。分かりにくいどころか、たぶん事前に情報を入れておかないとサッパリ分からないんじゃないか。
最初に芽衣子が消えるシーンを配置するのであれば、ちゃんと「芽衣子が仲間に見送られて成仏しました」というところまで描いて、それを経て1年後に移るべきだ。
なのに、芽衣子の語りで回想シーンを挟んでしまうから、シーンが上手く繋がらない。

そもそも、芽衣子が消えるシーンから入る意味が全く無い。「芽衣子の成仏から1年後の超平和バスターズ」から始めても何の支障も無いし、むしろそっちの方が分かりやすい。
ひょっとすると、一見さんを意識して芽衣子が消えるシーンから始めたのかもしれないが、だとしても全く役に立っていない。
TVシリーズを見ていない人にとっては、中途半端な形で最終回のシーンを見せたところで全く意味が無い。
あくまでも、TVシリーズを見ていた人のためのファン・ムービーなのだ。

映画用の新撮シーンも用意されているが、実質的にはTVシリーズの総集編だ。
1年後の超平和バスターズを描く新撮シーンは、そこから回想としてTVシリーズのダイジェスト映像に入るためのパートに過ぎない。そこに意味のある内容など、ほとんど無い。
しかも回想はキャラごとに行われるため、TVシリーズの総集編パートは時系列がバラバラになっている。無駄にややこしい構成になっているため、これが余計に一見さんからすると厄介な問題になる。
ナレーション・ベースによる進行ってのも邪魔で、TVシリーズを見ていた人なら脳内補完できるだろうが、それでも感動を削ぐ要因になっているのは間違いない。

1年後の超平和バスターズを描くという触れ込みで公開しておきながら、新撮シーンには「後日談」としてのドラマなど皆無に等しい。
実質的には総集編と化しているんだから、それはファンに対して不誠実じゃないか。
結局のところ、「安く仕上げて大きく儲けよう」という劇場版でしかないわ。
で、それならそれで、普通に時系列で出来事を追い掛けた総集編として構成すれば良かったのだ。ファンのためには「その後の超平和バスターズ」を描いた方がいいに決まっているけど、そういう気は毛頭無かったみたいなのでね。

純然たるファン・ムービーとして作ったのではなく、仮に一見さんにも見てもらいたいという狙いがあったとしても、だったら尚のこと、時系列順でTVシリーズを再編集した内容にしておくべきだった。
皮肉なことに、新撮シーンを用意したせいで、総集編パートに使える時間が削られている。
そもそも総集編という時点で、当然のことだが全てを盛り込むのは不可能なので、TVシリーズに比べれば感動は弱まる。
そこに加えて、時系列の組み換えやナレーションベース、新撮シーンの皺寄せで削られた尺という問題が重なり、ますます減退する羽目になっている。

一見さんであっても、「仁太たちは幼い頃からの仲間」「仁太が酷いことを言ってしまった後に芽衣子が事故死」「5年後に芽衣子が幽霊として出現」「芽衣子の願いを叶えるために仁太たちが行動」「芽衣子は成仏して姿を消した」ってのは、話が進む中で少しずつ分かって来るようになっている。
ただし、あくまでもボンヤリとした形であり、一見さんにとって厳しいことは否めない。それぞれのキャラの回想を頭の中で繋ぎ合わせて組み替えなきゃいけないので、余計な労力が必要になる。
しかも回想シーンは断片的なので、良く分からないことも少なくない。
例えば仁太が引きこもりだったこと、芽衣子がクォーターであることなどは、映画だけを見ても分かりにくい。集が女装姿で逃亡を図るシーンに至っては、何のこっちゃサッパリ理解できないだろう。
また、超平和バスターズの面々が回想しているはずなのに、誰の回想でもない芽衣子の様子が挿入されたりするので、ますます構成としてギクシャクしてしまう。

回想シーンが断片的というだけでなく、肝心な部分を排除しているという問題もある。
後半、仁太が衰弱している芽衣子を発見し、彼女の願いは既に叶えられていたことを知るという展開がある。この時、芽衣子は塔子との約束について話し、仁太を泣かせることが叶えたい願いだったことが明らかになる。
ってことは当たり前だが、そこまでに「仁太が芽衣子の前で涙を流す」というシーンが必要になるはずだ。
ところが、仁太が泣くシーンは回想の中で1度も登場していないのだ。
願いの内容を知って仁太が泣き出すと芽衣子が「また泣いた」と言うけど、「いや初めてだぞ」とツッコミを入れたくなってしまう。

前述したように、これは実質的にファン・ムービー以外の何物でもない。
そしてTVシリーズを見ていた人からすると、もちろん「あの時に仁太は泣いていたよね」と振り返ることが出来るだろう。
しかし、そうであっても、やはり仁太が泣いたシーンを省略したまま「芽衣子の願いは彼を泣かせることだった」ってのが判明する手順に至るのは、手落ちでしかないと思うのだ。
その後で仁太が初めて泣いた時のシーンが用意されているけど、それはタイミングが違うわ。

(観賞日:2017年8月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会