『劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』:2009、日本

あるスタジアムに「いよいよ始まるライダーバトル。全ライダーが戦い、最強のライダーが決定する」というアナウンスか流れ、門矢士が登場した。彼がディケイドに変身すると、最初の対戦相手である仮面ライダーアマゾンが実体化した。2人が互いにジャンプしてパンチを繰り出すと、周囲の風景は林に変化した。ディケイドは次々にフォームチェンジし、最後はアマゾンと同時にキックを出し合った。
三日前。光写真館の中で、光夏海が小野寺ユウスケに「ここは一体、何の世界でしょう?」尋ねる。士は2人に、その世界で撮った写真を見せる。ピンボケせずに撮影できているので、夏海は「もしかして、ここは士君の世界?」と口にした。そこに夏海の祖父・栄次郎が来て、「この家の写真、どっかに飾ってあったな?」と口にする。キバーラは士たちを、壁に飾ってある写真の所へ案内する。その写真には、どこかの家の玄関が写っている。そして玄関の向こうには人が立っており、今の士と同じコートを着ていた。
士がコートのポケットに手を入れると、家の鍵が見つかった。士は「俺はこの家を知っている……」と呟く。士、ユウスケ、夏海は、写真の屋敷へ向かう。3人が鍵を使って扉を開けると、2階からピアノの音が聞こえてきた。3人が2階へ行くと、小夜という少女がピアノを弾いていた。士の顔を見た彼女は、「お兄ちゃん、帰って来たのね」と抱き付いた。しかし士は「俺はお前の兄貴なのか?」と困惑する。ユウスケは小夜に、士が全ての記憶を無くしていことを教えた。
小夜によると、彼女と士は10年前に両親を亡くした。1年前、士は写真を撮って来ると言い残して家を出たきり、帰らなかったのだという。そこへ月影ノブヒコという男が現れ、士を見て「いつ戻られたんですか」と驚く。月影はこの1年、小夜の面倒を見て来た男だった。バルコニーから外を見ていた夏海が、「あっ、見て下さい」と遠くを指差した。建物が消滅していくのを目にした士は、「この世界でも滅びの現象が起きているのか」と口にした。
月影は士に、「それは世界が一つになろうとしているからです。それぞれの世界に、それぞれの仮面ライダーが生まれました。しかし今、ライダーの力が互いを引き寄せ、世界を一つにしようとしています。そうなれば全ての世界は消滅します」と語った。「どうすれば世界を救える?」と士が尋ねると、彼は「世界は消滅を防ぐ方法はただ1つ。最強のライダーを決めるんです。それもたった一人」と述べる。ユウスケの「そんなことが出来るんですか」という問い掛けに、月影は「士さんが世界を渡り、世界を繋ぐ橋を作ってくれたおかげです。士さんの旅のゴールは、最強のライダーを決めることでした」と言う。その時、失っていた記憶が蘇った士は、「月影、全てのライダーを集めろ」と命じた。
再び3日後のスタジアム。ディケイドはアマゾンを破り、その戦いをスタンドでユウスケ、夏海、月影が見守っていた。次に現れたのは仮面ライダーBLACK RXだったが、ディケイドは軽く倒した。ユウスケは月影に肩を叩かれ、うなずいてグラウンドへ向かう。彼はスタンドへ歩いて来た士から「俺たちはいずれ、戦う定めだぞ」と言われるが、「その時は俺が倒す」と明るく告げる。ユウスケはグラウンドに足を踏み入れ仮面ライダークウガに変身して仮面ライダーXと戦い始めた。
クウガとXの他にも、別の場所では龍騎とZX、ブレイドとストロンガー、イクサとスカイライダーが戦っていた。最後の6人となったところで、勝ち残ったライダーによる3対3のバトルが行われることに。その時、スタジウムにはギギの腕輪を奪った海東大樹が現れた。大樹は「僕の実力ならシードは当然さ」と微笑した。ディケイド、ディエンド、クウガのトリオは、BLACK、V3、スーパー1と戦う。すぐにディエンドはインヴィジブルで撤退し、クウガはディケイドを庇ってユウスケに戻った。
ディケイドが一人で3人を倒し、優勝が決定した。月影は拍手し、「おめでとうございます。全て、思惑通りに行きましたね」と口にした。するとスタジアムが崩れ、地底から巨大な建物が浮上した。ユウスケと夏海の前に地獄大使が現れ、「ようこそ、大ショッカーへ。全世界の悪が大同団結した秘密結社、それが大ショッカーである。そして、我が偉大なる大首領様をご紹介しよう」と語った。
そこへ栄次郎が「大丈夫か」とやって来るが、地獄大使に突き飛ばされた。すると栄次郎は不敵に笑い、死神博士に変身する。死神博士は改めて、大首領を紹介した。螺旋階段を降りて来た大ショッカーの大首領は、士だった。首座に腰を降ろした彼は冷徹にユウスケと夏海を見据え、「お前らはいい仕事をした。褒めてやる」と告げた。彼の目的は全てのライダーを討伐し、大ショッカーによって世界を征服することにあった。士は無表情のまま、「消滅よりはマシだろ」と口にした。
夏海とユウスケは、士によって落とし穴に落とされてしまう。屋敷に戻った2人は、ピアノを弾いている小夜の元へ行く。ユウスケが「小夜ちゃんは知ってたのかい、士が大ショッカーの大首領だって?」と訊くと、小夜はそれには答えず、「この曲ね、ドビッシーの『月の光』っていうの。巣から旅立てない雛が、一人でさびしそうに月を見上げてるの」と話す。夏海が「もしかして士君は、小夜ちゃんのためにあんな連中と手を組んだんじゃ?」と言うと、小夜は「お兄ちゃんは自分のためにやってるだけだよ」と吐き捨てた。
小夜は「10年前、私は両親が死んでから外に出るのが怖くて、ずっと家の中にいた。一人で寂しい思いをしていた私は、この世界とは違う別の世界を見ることが出来るようになった。お兄ちゃんは別の世界へ渡れるようになって、私を巣に置いたまま、一人で飛び回って」と涙声で語った。「私には、待つことしか出来なかった。いつも、たった一人で」と彼女が言うと、月影が来て「私はずっと傍にいます。小夜様を守ります。その大切な小夜様の世界を」と声を掛けた。
ユウスケが「士も小夜ちゃんの世界を守ろうとして、こんなことをしたのかも」と話すと、小夜は「違う。世界を旅するのが楽しいだけだよ。そんなお兄ちゃん、要らない」と言う。小夜は胸に下げていた「血の石」を手に取り、「これは究極の闇をもたらすんだって」と言う。彼女が石を押すと、月影がシャドウムーンに変身した。小夜は血の石に触れ、光線を発射してユウスケに浴びせた。
大ショッカーの本部で士が「なぜ世界は未だに消滅に向かっている?」と漏らすと、月影が来て、「誤解されているようだ。世界の融合とライダーとは、何の関係もありませんよ」と教える。そこへ白いベールをかぶった小夜が現れ、「貴方はもう大首領じゃないわ」と士に告げる。驚く士に、彼女は。「お兄ちゃんが知ってる小夜はもういない。みんなは私を大神官ビシュムと呼ぶわ」と冷たく言う。
月影は士に「この玉座に座るのは、手ぬるいお前より、創世王たる私の方がふさわしい。ライダーバトルのためにお前を担ぎ上げたが、もはや用済みだ。消えろ」と言い、剣で斬り掛かる。士が落とし穴に落ちると、そこにはユウスケがいた。彼はクウガに変身すると、士に掴み掛かる。動揺する士の耳に、「この子は最も邪悪なライダー、ライジングアルティメットクウガ」という小夜の声が聞こえた。小夜は「巣に置き去りにされた、雛のことを考えたことある?」と問い掛ける。士は夏海のいる写真館に戻り、扉を開けるよう求める。しかし夏海は「これ以上、貴方には騙されません。帰って下さい。私の世界に逃げ込まないで下さい。ずっと貴方を信じて来ました。でも裏切られました。貴方は酷い人です」と拒絶した。
地獄大使の「時は来た。我が大ショッカーが世界を征服するのだ」という号令により、大ショッカー戦闘員たちが本射から発車された。戦闘員たちが街を破壊する中、夏海は逃げ惑い、「世界はもうおしまいだわ」と頭を抱えた。そこへ鳴滝が現れ、「警告したはずだ。ディケイドは世界の破壊者だと。大ショッカーの世界征服は次々に広がってる。君を助けてあげよう」と言う。鳴滝は夏海の手を取って別の世界へ移動するが、そこにも既に大ショッカーの魔の手が及んでいた。
夏海と鳴滝は、大ショッカーの戦闘員たちに包囲される。だが、戦闘員の一人が仲間たちに攻撃を仕掛ける。彼はディエイドに変身し、戦闘員たちを蹴散らした。変身を解いた大樹は、「士は世界を奪おうとしてたってのに、こんなにしょぼいの、要らねえよ」と戦闘員のマスクを捨てる。夏海が「士君の正体を知ってたんですか」と訊くと、彼は「まあね。このディエンドライバーだって、大ショッカーから盗んだお宝だし」と述べた。その時、鳴滝は「ディエンドの世界を渡り歩く能力があれば、大ショッカーの野望を阻止できるかもしれない。生き残ったライダーを集めて、力を合わせるんだ」と口にした。
士が「妹も、仲間も、すべて失った。俺はどうすればいい?」と悩んでいると、一人の男が近付き、いきなり彼を殴り倒した。「かつてお前は、俺の右腕を奪った。組織を裏切ったという理由でな」という言葉に、士は「結城丈二……」と相手の正体に気付く。「今度は俺が奪う番だ」と結城が掴みかかると、士は「ちょうど良い。消してくれ。どうせ俺には、もう何も残ってないんだ。俺はライダーたちを潰した。せめてもの償いだ」と漏らした。
結城は怒りの表情を浮かべ、「死ねば罪が消えるとでも思っているのか。今のお前には殺す価値も無い」と士を突き放した。その時、2人の元へ大ショッカーの戦闘員たちが迫って来た。結城は右腕をもぎ取り、戦闘用の義手を装着した。彼は士に「罪は消せない。背負って生きていくしかないんだ例え孤独でも、命ある限り戦う。それが仮面ライダーだろ。戦うとはこう言うことだ」と言い、戦闘員たちに戦いを挑む姿勢を見せた。
大樹は王蛇とキックホッパーに会い、大ショッカーとの戦いに参加するよう誘う。しかし2人が大ショッカーに付くと言い出したため、大樹はディエンドに変身し、仮面ライダーライア、ガイ、パンチホッパーを召喚した。ライアたちが王蛇&キックホッパーと戦っている間に、ディエンドは夏海を連れて建物から出ようとする。怪人軍団と大ショッカー戦闘員が来たため、2人は森へ逃げるが、ジャーク将軍が待ち受けていた。そこへ士が登場し、「俺は全ての世界から拒絶された。どの世界も俺の世界ではない。裏を返せば、どの世界も俺の世界に出来る。とりあえず俺の世界は俺が片を付ける。だから大ショッカーは俺が潰す」と宣言した…。

監督は金田治、特撮監督は佛田洋、アクション監督は宮崎剛(ジャパンアクションエンタープライズ)、原作は石ノ森章太郎(石森章太郎プロ)、脚本は米村正二、プロデューサーは白倉伸一郎&武部直美&和佐野健一&梶淳(テレビ朝日)、製作は鈴木武幸(東映)&亀山慶二(テレビ朝日)&高橋浩(東映アニメーション)、企画は中曽根千治(東映)&梅澤道彦(テレビ朝日)&日達長夫(東映ビデオ)&篠田芳彦(アサツー ディ・ケイ)&松田英史(東映エージエンシー)&竹中一彦(バンダイ)、エグゼクティブプロデューサーは杉山登(テレビ朝日)、撮影は いのくままさお、照明は斗沢秀、美術は大嶋修一、録音は和久井良治、編集は須永弘志、キャラクターデザインは早瀬マサト(石森プロ)&PLEX、ライダーマンデザインは雨宮慶太、キングダークデザインは出渕裕、ビシュムデザイン/造型は竹田団吾、音楽は鳴瀬シュウヘイ&中川幸太郎。
主題歌 The Next Decade/GACKT 作詞:藤林聖子 作曲・編曲:Ryo。
出演は井上正大、村井良大、森カンナ、戸谷公人、荒井萌、大浦龍宇一、石橋蓮司、大杉漣、GACKT、奥田達士、賀集利樹、倉田てつを、市川理矩 、石井萌々果、高岩成二、永徳、伊藤慎、渡辺淳、横山一敏ら。
声の出演は桐山漣、菅田将暉、萩野崇、徳山秀典、関俊彦、沢城みゆき、関智一、鈴村健一、稲田徹、藤本たかひろ、田中大文、根本幸多、大村亨、穴井勇輝、坂倉徹、丹野宜政、吉野正裕、SATOSHI、加藤精三ら。


平成仮面ライダーシリーズ第10作である特撮TVドラマ『仮面ライダーディケイド』の劇場版第1作。
士役の井上正大、ユウスケ役の村井良大、夏海役の森カンナ、海東役の戸谷公人、栄次郎役の石橋蓮司、鳴滝役の奥田達士は、TV版のレギュラーキャスト。
他に、小夜を荒井萌、月影を大浦龍宇一、結城をGACKTが演じている。
また、『仮面ライダーアギト』で津上翔一を演じていた賀集利樹、『BLACK』&『BLACK RX』で南光太郎を演じていた倉田てつをが、それぞれ同じ役で友情出演している。

TVドラマは平成仮面ライダー10周年記念・テレビ朝日開局50周年記念作品として製作され、平成ライダーシリーズに登場するライダーが全て登場するクロスオーバー作品となっていた。
ディケイドは平成の主役ライダー9人に変身することが可能で、それぞれのライダーが存在するパラレルワールドを巡る内容になっていた。
また、同時期に放送されていたスーパー戦隊シリーズの『侍戦隊シンケンジャー』ともクロスオーバーしていた。
シリーズ後半に入ると、平成ライダーだけでなく、昭和ライダーのいる世界も新たに登場した。

さて、この映画の感想に入ろう。
これは本作品に限定したことではなく、TVドラマ版も含めての感想ということになるのかもしれないが、話がややこしくないか。
そりゃあ平成に入ってからは「大きいお友達」の視聴者や観客も増え、それを意識している部分はあるのかもしれない。
だけど基本的には、「子供向け特撮ヒーロー番組」のはずだよね。
それにしては、設定が複雑すぎるんじゃないかと。

この作品に始まったことじゃなくて、平成に入ってから、どんどんライダー作品の設定が複雑化しているような印象があるんだよなあ。
子供たちは単純に「色んなライダーが登場する」というところだけを楽しんで、複雑な世界観やストーリーは大きいお友達だけ付いて行くという感じなのかなあ。
それとも、今の子供たちなら、世界観やストーリーを難しくしても、ちゃんと付いて行けるってことなのかなあ。
だとしたら、今の子供ってすげえなあ。

月影は
「それぞれの世界に、それぞれの仮面ライダーが生まれました。しかし今、ライダーの力が互いを引き寄せ、世界を一つにしようとしています。そうなれば全ての世界は消滅します」
「世界は消滅を防ぐ方法はただ1つ。最強のライダーを決めるんです。それもたった一人」
と語るのだが、どういう理屈なのかサッパリ分からない。
「最強のライダーを決める→ホニャララがホニャララになる→だから世界の消滅が防がれる」という論法の、「ホニャララがホニャララになる」の部分がスッポリと抜け落ちているんだけど。
何の説明も無しに「風が吹いたら桶屋が儲かるよね」と言われているみたいなモンだよ。

ともかく仮面ライダーバトルが開始されるんだけど、個人的には、そんなに見たいと思わないんだよね。
だってさ、どっちも特撮ヒーローだからさ。ゴジラとガメラの戦いとか、そういうのとはワケが違うのよ。
実際、この映画を見ても、ライダーバトルには全くワクワクしなかったし、ちっとも魂が燃え上がらなかったなあ。
そこに至る流れが無くて、いきなり登場して、ただ戦って、それで消えていくだけというのも、影響しているしね。
やっぱり、戦いに向けて、そこに高揚感を持たせるための、何らかのドラマってのが欲しいのよ。で、そういうドラマさえあれば、「仲間であるはずの仮面ライダーが敵味方に分かれる」というバトルにも、テンションが上がったんじゃないかと思うんだけどね。

あと、戦うってことは、どちらかが負けないと終わらないわけで。
これはディケイドの映画だから、当然のことながら、ディケイドと戦う他のライダーたちは、次々に敗れ去っていく。ほとんど使い捨てのような扱いなのだ。
それって、ディケイド(&ディエンド)の強さをアピールするために、それ以外の仮面ライダーが、ただの踏み台や噛ませ犬として利用されているだけに思えてしまうんだよなあ。
歴代のライダーに対するリスペクトが感じられないので、なんか不愉快だ。

あと、ディエンドは途中で姿を消し、クウガは変身が解けただけなのに、それでも「敗北」ってことになっちゃうのね。
他のライダーにしても、まだ余力がありそうな状態でも、強制的に退場させられてる感じがするし、最強ライダーを決めると謳っている割には、バトルが中途半端なのね。
しかもラストは3対3で、タイマンじゃなかったのに、それで「最強のライダーが決定」っていうのも、どうなのかと。
ディケイドは3人を相手にして倒したんだから、強いってのはいいけど、ディエンドとは戦ってないしな。いいのか、それで。
あと、ディエンドはギギの腕輪を奪っているけど、ギギの腕輪を奪われたらアマゾンは死んじゃうはずじゃないのか。

それと、歴代ライダーを集合させるのは「大きいお友達」の動員を狙った部分が大きいと思うんだよね。
で、そうであるならば、ライダーだけじゃなくて、それを演じていた役者も出来る限り登場させるべきだよ。
マニアやオタクって、むしろ、そっちを喜ぶ人の方が多いんじゃないかと思うんだけどなあ(ちなみにワシは、そっち派だ)。
全員を集めるのは絶対に無理だけど(オダギリジョーや村上弘明は断るだろうし、山口豪久は死去している)、その気になれば、かなりのメンツは集められたんじゃないかという気がするんだけどなあ。

で、歴代の仮面ライダーを演じた俳優たちが変身して、全てのライダーが協力し、大ショッカー軍団と戦うというシンプルな構成でも良かったんじゃないかと。
正直、ライダーバトルの続く前半戦が、すげえ退屈なんだよなあ。
ディケイドのファンからすると、そんなに退屈は感じないのかもしれんけど。
ただ、頭が固くて古臭いだけなのかもしれんけど、やっぱりライダーって、悪の軍団と戦ってナンボの存在じゃないかと思うのでね。

繰り返しになるけど、これって基本的には「子供向け特撮ヒーロー番組」のはずだよね。それにしては、主人公の設定に問題がありすぎやしないか。
「実は大ショッカーの大首領でした」って、んなバカな。
そりゃあTV版を見ていた人からすると、「まあ、そうだろうな」という予定調和であり、そんなに意外性は無いドンデン返しだったかもしれない。
ただ、それまで子供たちが「頑張れ、負けるな」と応援していた僕らのヒーローが、実は悪のボスだったという展開は、「子供向け特撮ヒーロー番組として、果たして本当にそれでいいのか」と首をかしげたくなる。
あと、栄次郎が実は死神博士だったというのも、メチャクチャだなあとしか感じない。
しかもラスト、栄次郎は普通に写真館へ戻って士たちと一緒にいるんだけど、いいのか、それで。

で、実は月影に利用されていただけと知らされた士は、そこから夏海に助けを求めたり、弱気なところを見せたりするが、一度はユウスケと夏海を騙して利用し、しかも世界征服を企んでいたのに、そんな奴が急に「助けてくれよ、俺の帰る場所はここしかないんだよ」と弱々しくすがってきても、そりゃあ全く同情できんよ。
あと、そんな士を利用していた月影の行動がアホすぎるのは何なのか。
なぜ彼は本部でシャドウムーンに変身して、士を始末しようとしないのか。
なぜ外の世界に通じている落とし穴に士を落とすのか。
クウガに攻撃させているのに、それで士を始末せず、なぜ簡単に逃げられているのか。

悩んでいる士の前に結城丈二が現れるんだけど、そこも全くテンションが上がらず、取って付けた感しか抱けないよ。
だって、オリジナルのキャストじゃないんだから。
それに士が「結城丈二……」と言っても、ライダーマンを知らない人からすると、「誰なの?」ってことになるだろ。
右腕を奪われる時の回想シーンが挿入されるけど、それも本作品のために用意されたシーンであり、そんなことが実際に過去のTVシリーズであったわけじゃないしね。

大体さ、悩んでいる主人公に喝を入れて、戦う気持ちを芽生えさせるという重要な役割を、なんで初登場のGACKTが担当しちゃうのかと。しかも結城丈二としてだぜ。
せめて、これまでのTVシリーズで彼が既に結城丈二を演じていた経験があるというのなら、オリジナルキャストじゃなくても、まだ受け入れられたかもしれん。だけど、そうじゃないんだぜ。
藤岡弘、とか、宮内洋とか、他に適役は幾らでもいたはずだぞ。そこの違和感はハンパないよ。
唐沢寿明が結城丈二として登場するなら、まだ受け入れられたかもしれんけど(かつて唐沢はライダーマンのスーツアクターをやったことがある)。

しかも「結城丈二」と名乗っているのに、ライダーマンに変身するわけじゃなくて、なんか変な義手(カセットアームではない)を装着している以外は、人間の姿のままで戦おうとしている(実際に戦うシーンは無い)。
で、後のシーンになると、それとは別にライダーマンが登場している。
いやいや、どうなってるんだよ。まるでワケが分からん。
ライダーマンじゃないのなら、ますます結城の登場したシーンの意味が分からんぞ。

ともかく、なぜか戦う意識の芽生えた士は
「俺は全ての世界から拒絶された。どの世界も俺の世界ではない。裏を返せば、どの世界も俺の世界に出来る。とりあえず俺の世界は俺が片を付ける。だから大ショッカーは俺が潰す」
と言って変身する。
でも、ちっとも応援したくならない。
だって、「世界を救うため」とか「人類の未来のため」とか「悪を滅ぼすため」とか、そういうヒーローらしい意識に目覚めたわけではないのよね。

個人的な目的であったとしても、例えば「誰かを救うため」とか、「何かを守るため」とか、そういうことなら感情移入できなくもない。
だけど、「ショッカーに捨てられて居場所が無くなったから、自分の居場所を作るために戦う」ってだけでしょ。
ようするに士って、単にジコチューなだけの奴なのよ。
もしもショッカーの大首領のままでいたとしたら、世界征服計画を進めていたんでしょ。
「例え孤独でも、命ある限り戦う。それが仮面ライダーだろ」というメッセージで目覚めるのはいいけど、「じゃあ何のために戦うの?」という部分がジコチューなので、ちっとも応援したくならない。

ディケイドがピンチに陥った時、一度は倒したライダーたちが駆け付けて協力するってのも、まるで気持ちが盛り上がらん。
むしろ「他のライダーで世界を救うから、ディケイドはどっか行ってろ。美味しいトコだけ持っていこうとするな」と言いたくなる。
そんで、戦っていると次の仮面ライダーであるWが駆け付けるんだけど、完全に欲張り過ぎ。処理能力をオーバーしちゃってる。
それならW登場だけを売りにすべきであって、歴代ライダーを全て登場させた上で、さらに新ライダーまでってのは、ただ単に話をグチャグチャにしているだけ。
で、新ライダー登場が、ますます歴代ライダーの使い捨て感を強く感じさせることに繋がっている。

(観賞日:2012年11月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会