『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』:2021、日本

深山大翔は神奈川県の不里崖を訪れ、河野穂乃果と明石達也に事件を再現してもらった。彼は漁師の加賀郁夫から弁護の依頼を受け、事件を調べていた。加賀は1ヶ月前、同じ漁協で縄張り争いをしていた東野颯太を崖から突き落として殺人罪で起訴された。加賀は「東野に呼び出されて襲われ、抵抗して突き飛ばしたら崖から転落した」と説明し、正当防衛を主張した。さらに彼は、以前から東野の嫌がらせを受け、警察に被害届を出したのに取り合ってもらえなかったと語った。
穂乃果と明石に事件を再現してもらうと、岩場なので歩くと音がすることが分かった。東野が接近すれは加賀は気付くはずであり、深山は正当防衛の主張が正しいのではないかと考えた。彼は現場で空き缶に入った吸い殻を発見し、鑑識の分析で東野のDNAが検出された。東野が待ち伏せていた可能性が濃厚となったが、検察側は三田仁という目撃者を新しい証人として出して来た。佐田篤弘は深山たちに、加賀が東野の遺族から損害賠償の民事訴訟を起こされていること、遺族の弁護士を南雲恭平が担当していることを教えた。
穂乃果は東野を被害者にしておくため、南雲が三田を証人としてデッチ上げたのではないかと推理する。南雲が以前も同じ手口を使っていたことから、佐田も彼女の考えに同調した。深山は丸川貴久から警察の資料を見せてもらい、加賀が嫌がらせを受けていたのは事実だと確認する。警察が被害届に対処しなかったことを隠蔽するため、加賀を加害者に仕立て上げたのだろうと彼は睨んだ。深山は穂乃果と明石に加えて藤野宏樹と中塚美麗にも手伝ってもらい、改めて不里崖で事件を再現した。
三田は不里崖で事件を目撃した後、18時に肥後もっこす料理屋「鉄喜刺寿(てきさす)」を訪れたと証言していた。深山は店へ行き、当日は祭りで交通規制が掛かっていたことを知った。彼は裁判で三田を尋問し、証言が嘘であることを指摘した。三田は事件の首謀者であり、東野に加賀を襲われていたことを取り調べで白状した。佐田が南雲の目的に疑問を抱くと、深山は三田の証言が嘘だと見破らせたかったのだろうと述べた。三田が殺人の首謀者だと名乗り出るよう仕向けたことで、南雲は依頼人の加賀と家族を守ったのだ。
エリがウィーン国際コンクールで最優秀賞を受賞し、帰国した彼女は空港で大勢の記者に囲まれた。近くで見守っていた南雲は、「週刊ブロース」の記者から「エリは15年前の天華村ワイン毒物混入事件で4人を殺した山本貴信の娘だろう」と指摘された。南雲が怒って掴み掛かると、記者は「大声を出しますよ」と不敵な笑みを浮かべた。南雲が「娘に付きまとうようなら訴える」と告げても彼は余裕を見せて去り、翌日には週刊誌に記事が掲載された。
南雲の家には大勢の記者が押し掛け、彼はエリから説明を要求された。南雲が黙っていると、彼女は「嘘つき」と怒って家を飛び出した。山本は2006年5月13日の祭りで振舞われたワインに毒物を混入させ、4名を殺害した容疑者として逮捕された。山本は最後まで否認したが最高裁で死刑判決が下り、獄中死していた。その裁判で山本の弁護を担当したのが南雲で、エリを引き取って娘として育てていたのだ。佐田はエリから電話を受けて会いに行き、南雲が最後まで主張したのだから山本は無実かもしれないと話す。エリは事件を調べ直すよう依頼し、佐田が「もっと辛い思いをするかもしれない」と告げても決心は揺るがなかった。
佐田は南雲の元を訪れ、エリから再調査を依頼されたので当時の資料を出してほしいと告げる。彼は南雲に、しばらくエリを家で預かることを伝えた。資料に目を通した深山は、二審の裁判長が川上憲一郎だと知る。山本の妻である咲子は、一審判決後に心労から亡くなっていた。資料を読んだ深山は疑問を抱き、南雲の元へ行く。証人として呼んだワイン卸業者の更家歩に何も質問していないことを深山が指摘すると、南雲は「事件には関係ない」と告げる。深山は祭りの映像に唐揚げを二度揚げする山本の姿が映っていたことを伝え、人を殺す前の行動ではないと語った。
深山は天華村で調査することを決め、穂乃果と明石が同行した。3人がワイナリーを調べていると村民の太田保や重盛寿一たちが押し掛け、すぐに村から出て行くよう要求した。重盛の息子である守は立ち去る3人を追い掛け、当時は4歳だったが気になることがあると告げる。幼馴染のケイタが村を出て行く時、「犯人は山本という人じゃないと思う」と言っていたのだ。その後、ケイタは一家で海外へ行き、音信不通になっていた。守は深山たちに、真実を知りたいので協力させてほしいと申し出た。
藤野たちは当時の毒物分析の担当者と会い、話を聞いて深山に伝えた。当時の技術では、被害者の衣服に付いていた吐瀉物から検出された毒物と、ワイン樽に混入された毒物が一致するとは断定できなかった。担当官はサンプルを保管しており、現在はアメリカの最新実験装置を使えば断定も可能だが費用は高額だった。深山たちは天華村へ戻り、当時の祭りを再現することにした。深山に恩義のある劇団の面々が協力を快諾し、守の頼みを受けた村民も仕方なく参加した。
大きなワイン樽は神輿で運ばれ、ワイナリーの中と外に1つずつ置かれた。村長が予定より早く到着したため、祭りは10分早めて始まった。ワイン樽の鏡割りのため、村民はワイナリーに入った。しかし唐揚げを揚げていた山本だけは、そのまま外に残った。ワイン樽の鏡割りが終わって、山本がワイナリーに入って来た。彼が外に一人でいたのは、その7分間だった。外に出た村民が振る舞われたワインを飲むと、中毒症状で倒れた。山本は自分の車を使い、妻と共に倒れた村民を病院へ搬送した。
再現を終えた深山が「犯行に使われた薬品のボトルは誰が見つけたんですか」と尋ねると、村民は一斉に顔を下げて黙り込んだ。山田という青年がゆっくりと挙手し、葡萄畑に捨てられていたのを見つけたと証言した。山本の動きを再現していた中塚は、ボトルを捨てに行く余裕は無いと断言する。南雲は斑目法律事務所に現れ、山本を無罪にできる可能性はあったと深山たちに話す。更家が彼を訪ねて、「事件当日、山本がワイナリーに入った後で、こっそりワインを試飲した」と証言したのだ。しかし不審に思った南雲が問い詰めると、山本に恩義があるので嘘をついたと白状した。
南雲は更家が偽証すると分かっていながら、山本を助けたい一心で証言台に立たせた。しかし結局は何も質問せずに終わらせ、後悔の念を抱えていた。深山たちは山本が5年間で95本の薬品を購入したが、薬品会社の記録では96本になっていることを知った。深山たちは何者かが山本の名前を使い、薬品会社から購入した可能性があると考えた。深山は山本がワイナリーに入った後、約1分間はカメラが固定されていることに気付いた。自由に動ける時間があった撮影者は太田だった。
薬品会社を訪れた深山は当時の担当者に会おうとするが、既に辞めて死去していた。山田が薬品会社に現れ、箱で薬品を受け取る様子を彼は目撃した。咲子が車を出した後でなければ、ガレージから薬品の箱を持ち出せないことが明らかになった。守は父から話を聞き、深山たちに来てもらった。重盛は自分から聞いたことを決して口外しないよう約束させた上で、「太田が山本の名前を使って薬品を購入していた」と告白した。
深山はタイミングが良すぎることから、重盛の告白に不信感を覚えた。しかし報告を受けた佐田は、迷わず再審請求を決めた。再審請求が大きく報じられると、太田が真犯人だという情報が拡散された。太田は会見を開き、同席した弁護士の大友修一は「太田は購入した薬品を使っていない」と説明した。彼は未開封のボトルを証拠として見せ、「太田を犯人扱いした」と斑目法律事務所を糾弾した。深山は川上に呼び出され、「過去の事件を蒸し返して多くの人を傷付けている」と非難した。深山は自分たちに過ちがあったことは認めた上で、「まだ事実に辿り着いたわけじゃありません」と告げた…。

監督は木村ひさし、脚本は三浦駿斗、企画は瀬戸口克陽、エグゼクティブプロデューサーは平野隆、プロデュースは東仲恵吾&辻本珠子、トリック監修は蒔田光治、共同プロデュースは大澤祐樹、ラインプロデューサーは鈴木大造、撮影は坂本将俊、録音は仲山一也、照明は横山修司、美術は中村綾香、編集は富永孝、音楽は井筒昭雄、主題歌『Find The Answer』は嵐。
出演は松本潤、香川照之、杉咲花、岸部一徳、笑福亭鶴瓶、奥田瑛二、石橋蓮司、高橋克実、西島秀俊、榮倉奈々、木村文乃、青木崇高、片桐仁、マギー、馬場園梓、道枝駿佑(なにわ男子)、蒔田彩珠、渋川清彦、ベンガル、映美くらら、池田貴史、岸井ゆきの、畑芽育、馬場徹、勝野洋、遠山景織子、平田敦子、片山萌美、R-指定(Creepy Nuts)、オカダ・カズチカ、村田秀亮(とろサーモン)、ヨシタツ、後藤洋央紀、こがけん、セルジオ越後、吉田ウーロン太、鈴木もぐら、メイ・イズモト、小日向流季、本多カ、 大島由香里、ぽんず、メガマスミ、橋本美和、みずと良、プチ・ブルース、渡遷唯、岡野優介、南智章、佐野啓、柳亭小痴楽、くどうたけし、深貝大輔、大川泉、今井久美子ら。
ナレーションは石塚運昇。


2016年と2018年にTBS系列「日曜劇場」枠で放送されたTVドラマ『99.9-刑事専門弁護士-』の劇場版。
監督はTVシリーズの演出も務めた木村ひさしが担当。
脚本はTVドラマ『警視庁いきもの係』『執事 西園寺の名推理』の三浦駿斗。
深山を松本潤、佐田を香川照之、穂乃果を杉咲花、川上を笑福亭鶴瓶、大友を奥田瑛二、南雲を西島秀俊、彩乃を榮倉奈々、丸川を青木崇高、明石を片桐仁、藤野をマギー、美麗を馬場園梓、守を道枝駿佑(なにわ男子)、エリを蒔田彩珠、山本を渋川清彦、太田をベンガル、重盛を高橋克実、加賀をR-指定(Creepy Nuts)、三田を村田秀亮(とろサーモン)が演じている。

冒頭で描かれる事件は、その後で深山たちが調べる事件とは何の関係も無い。
「どちらも南雲が関わっている」という形で関連性は用意しているが、事件そのものの繋がりは無い。
そしてプロローグである不里崖の事件が解決されるとタイトルロールが入り、そこで区切りを付けて「これから本編です」という流れになっている。
今さら南雲を紹介するためのパートが必要だとは思わないけど、本格的に物語へ突入する前にプロローグ的なパートを用意するのは理解できる。

当然っちゃあ当然ではあるが、TVシリーズでも多く見られた「ユルいギャグを幾つも挿入する演出」は劇場版でも健在だ。
例えば肥後もっこす料理屋「鉄喜刺寿(てきさす)」という店名はダジャレで、店主は『太陽にほえろ!!』でテキサス刑事を演じていた勝野洋。客として、石原裕次郎のそっくり芸人であるゆうたろうが来ている。
祭りのポスターには松野明美とゴリけんとくまモンが映っており、深山は「熊本城に、くまモン登場」とダジャレを言ってニヤニヤする。赤身肉を注文した後、ゆうたろうに「松野明美」と言わせてから「僕、待つの、赤身」とダジャレを言ってニヤニヤする。
完全に外した後、穂乃果が林家パー子のように笑うトコまで含めてのギャグだ。
そして、それを含めても、完全に外していて寒々しい。

深山がダジャレを多く発するだけでなく、他の箇所でもダジャレや言葉遊び的なネタは使われている。
例えば32年前の祭りのタイトルは「天華一葡萄会」で、アメリカの最新実験装置の名前は「スーパーセイヤジン3」。
わざわざ説明する必要は無いかもしれないが、どちらも元ネタは『ドラゴンボール』だ。
それらは声高に主張される形だが、他にも画面の端っこにこっそりとネタがあったりする。
そういう遊びを探すのも、ファンとしては楽しみの一つだろう。

TVドラマの劇場版や続編映画において、「お馴染みの面々が顔を揃える」というのはファンに対する最低限のサービスと言ってもいいだろう。
だから第2シーズンのレギュラーだけでなく、第1シーズンのレギュラーだった榮倉奈々、青木崇高、奥田瑛二も登場するのは、ファンとしては嬉しいサービスだろう。
ただ、「TVシリーズの続編」ではなく、厳密に言うと『完全新作SP 新たな出会い篇〜映画公開前夜祭〜』の続編だ。単なる後日談ではなく、完全新作スペシャルで初登場したキャラがガッツリと絡んで来る。
そりゃあファンならTVスペシャルもチェックしているかもしれないけど、やり口としては、あまり綺麗じゃないなあ。

TVシリーズと同じく、プロレス関連のネタが多く盛り込まれている。
彩乃は佐田に経費の明細を渡す時、「金の雨が降り過ぎましたか」とオカダ・カズチカのフレーズを引用する。彼女が帰国した理由は、IWGP世界ヘビー級選手権を見るためという設定。オカダ・カズチカ、ヨシタツ、後藤洋央紀は本人役で登場する。
プロレスネタの多さは作品の特徴でもあるし、映画版で急に無くなったらそれはそれで変だし、それが悪いとは思わない。
ただ、彩乃が帰国した後の小料理屋「いとこんち」のパートは、ちょっと厳しいなあ。

そのシーンではオカダ・カズチカと後藤洋央紀が来店し、彩乃と美麗が喜んで一緒に飲む。その様子が、そのシーン全体を貫くモタモタ&ダラダラ感に貢献してしまっている。
それ以外でも、深山が料理を作りながら事件を推理しているのだが、調理の描写がミステリーへの集中を削ぐ形になっている。
色々とギャグ的要素を盛り込んで緩和させまくっておいて、「ひらめいた」というタイミングで一気にトーンやテンポを変化させたいのなら、やり過ぎだとは思うが、演出としては分からんでもない。
でも、謎を解いた深山がダジェレを連発してユルいノリに持って行くので、全く功を奏していない。

この作品のユルいギャグの数々には何となく、堤幸彦が手掛けた『トリック』を連想させるノリが漂っている。小さな役やポスターの中でタレントや芸人を起用するとか、その辺りのノリなんかもね。
だけど『トリック』に比べると、シリアスとコミカルのバランスが悪い。
『トリック』は扱う事件が荒唐無稽で、かなり現実離れしていた。しかし本作品は、現実に即した事件を取り扱っている。
しかも今回に至っては、あの有名な事件を下敷きにしていることが誰にもハッキリと分かるようになっているのだ。

きっと気付く人は少なくないだろうが、天華村ワイン毒物混入事件のモデルになったのは名張毒ぶどう酒事件で、和歌山カレー事件も元ネタになっているらしい。
そういうシャレにならない事件を調べている連中が悪ふざけを繰り返すのが、どうにも失礼で不誠実に思えてしまう。
あと『トリック』に比べて、こっちの方が主人公が積極的に笑いを取りに行っているんだよね。
「ちゃんとやろうとしているけどユルい笑いが発生する」というんじゃなくて、狙って悪ふざけを繰り返しているので、タチが悪いなあと。

終盤、深山は村民の嘘を次々に暴き、真実に繋がる証拠を提示していく。この時、ものすごく得意げで、どこか楽しそうな様子を見せる。
そのため、最終的に「これが真相だ」と明かされた時に、何だか嫌な気分になってしまう。
完全ネタバレだが、ワイン樽に毒を入れた犯人は幼少期の守とケイタだ。殺意があったわけではなく、守は父からボトルの薬品について「ワインが美味しくなる薬」と言われていたので、美味しくするために入れたのだ。
そして犯人が守たちだと知った村民は、山本に罪を着せて犯行を隠蔽したのだ。

深山が真実を明らかにした後、佐田は再審請求を出す。請求は認められるが、時効が過ぎていたので村民は誰も罪に問われない。
言わずもがなだが、例え真実が明らかになっても山本夫妻は戻って来ない。完全に名誉が回復されたとは言い難いし、エリが受けた誹謗中傷の問題もある。
結局、誰も救われていないんだよね、この話。
しかも、罪を背負うべき人間が誰も罪を背負わずに済んでいるし、かなりモヤッとする結末になっている。

(観賞日:2024年1月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会