『映画 妖怪学園Y 猫はHEROになれるか』:2019、日本

宇宙のヒーローに憧れる平凡な少年の玉田マタロウは、なぜか日本一のエリート校「Y学園」に入学した。「たまたま」が重なったおかげで、入学試験に合格したのだ。マタロウは運任せの自分も変われるかもしれないという期待を抱き、Y学園に登校した。敷地に入った途端、彼は巨大隕石が落ちて来る幻覚を見た。これまでマタロウは何度も予知夢を見ていたため、今回も同じことが実際に起きるのではないかと不安になった。
マタロウは新入生の寺刃ジンペイと小間サン太夫の両名と知り合い、彼らが勉強は苦手だがYSP基準で合格したことを知る。YSP基準は今年から新設された枠だが、どういう意味なのかは謎だった。Y学園は日本最大級のマンモス校で、街としての機能を持っていた。また、社会の仕組みを体現するため、学園ポリスか学園マフィアという組織が存在していた。マタロウは発明が得意で空飛ぶブーツを履いた新入生の姫川フブキと出会い、彼女に一目惚れした。
入学式で学園長の大王路キンヤが話している時、マタロウは空中を自由に飛び回る大きな赤い猫を目撃した。しかし他の生徒たちには全く見えていないらしく、何の反応も見せていなかった。そんな中でジンペイが猫と同じ動きを見せたので、マタロウは「見えてるの?」と問い掛けた。ジンペイは「見えてない」と否定するが、猫と彼のダンスは完全にシンクロしていた。猫は姿を消し、マタロウは安堵した。しかし担任教師の臼見沢ハルヒコが教室に現れた時、猫が付いて来た。マタロウが驚いていると、猫は彼に体を寄せた。
マタロウがサン太夫と生徒宿舎に行くと、ハルヒコが管理人を務めていた。マタロウが部屋に入ると、あの猫が待ち受けていた。マタロウは猫のせいで全く眠れず、翌朝を迎えた。マタロウはジンペイに猫が見えていると知り、相談を持ち掛けた。するとジンペイは放っておくよう軽く言い、他にも怨霊は大勢いるのだと告げる。お色気ムンムン保健医の園等なつきが歩いて行くので3人が見とれていると、あの猫のバケーラが現れた。なつきがバケーラに狙われていると確信した3人は、急いで後を追った。
ジンペイたちが追い付くと、バケーラはなつきのバッグに頬ずりしていた。なつきはバケーラが見えている様子を見せ、その場から逃げた。バケーラは怪物に変身して暴れ出し、マタロウは街の面々に怨霊が見えていたことを知った。何度か妖怪と戦った経験を持つジンペイとサン太夫は、バケーラを軽く成敗した。その様子を密かに観察していたなつきは、「第一関門突破」と呟いた。バケーラは強い奴が好きだと言い、ジンペイに懐いた。
なつきは保健室にジンペイとサン太夫を呼び、YSP基準とは霊的に大きなパワーを持つ者の基準だと説明する。彼女は学園最大の一大事を救うために2人が呼ばれたのだと言い、テストを受けてもらうと通告する。彼女は2人にYSPウォッチを渡し、メダルを入れることで様々な力を発揮できると話す。ジンペイは彼女の指示に従い、YSPウォッチをバケーラに近付けた。するとバケーラはYSPウォッチに吸い込まれ、5枚のメダルが飛び出した。なつきはジンペイたちに、怨霊の力をメダルにして再生できるのだと解説した。
なつきは「学園に蔓延する暴力を撲滅してもらう」と言い、盗み聞きしていたマタロウにも手伝うよう命じた。彼女が3人に課した任務は、急に暴力的になった雷堂メラを成敗することだった。メラは総番長の座に就き、妖力を使って暴れ回っていた。ジンペイたちはメラの元へ行き、総番長補佐の獅子黒カズマが怨霊で実行犯だと知る。ジンペイはバケーラを呼び出して戦わせるが、まるで歯が立たなかった。なつきはジンペイに、怨霊を取り込んで変身するよう指示した。
ジンペイはバケーラを取り込んで剣豪紅丸に変身し、カズマを成敗した。メラが襲い掛かると、ジンペイは元の姿になってから撃退した。メラは母が病気で学費が払えなくなったこと、学園マフィアから「金をやるから従え」と命じられていたことを打ち明けた。ジンペイは彼の境遇に同情し、学費は自分が払うと約束した。メラは感激し、ジンペイを兄貴と呼んだ。サン太夫はYSPクラブを作り、学校の七不思議を解決することにした。ジンペイとメラに加え、嫌がるマタロウも強引に引き入れられた。YSPの意味を勘違いしたフブキも入部したので、マタロウは喜んだ。
ジンペイたちは校長室に呼び出され、キンヤから悪霊に憑依された娘のエマを救ってほしいと頼まれた。キンヤがエマを閉じ込めた剣の塔にジンペイたちが行くと、「建付けの古いらせん階段。重さ制限により定員一名」と書いてあった。マタロウが指名されるが、怖がるのでジンペイが立候補した。するとフブキは、空飛ぶブーツを貸した。ジンペイは螺旋階段の上を飛んでいる途中、罠に掛かったデブネズミのモモを発見して助けてやった。
螺旋階段が崩れ始めたのでジンペイは慌てて登るが、モモは転落した。モモは死亡し、ジンペイのメダルになった。ジンペイがエマの元に着くと、彼女は怨霊について何も知らない様子だった。ジンペイはエマを窓から連れ出そうと考え、メダルでモモを呼び出した。モモはネズミではなくモモンガだと言い、ジンペイとエマを背中に乗せて地上に降りた。連絡を受けたキンヤが駆け付けると、怨霊のオヤノメが出現して彼を飲み込んだ。オヤノメは憑依した人間の家族だけを狙うため、ジンペイたちの前では何もしなかったのだ。
ジンペイは剣豪紅丸に変身し、メラはカズマを憑依させて獅子王に姿を変えた。2人はオヤノメと戦い、見事に退治した。エマは助けてくれたお礼として、ジンペイを食事に誘う。エマが告白しようとすると巨大な蛇に変貌し、その場から逃亡した。ジンペイたちが困惑していると、フブキは「恋愛すると学園を去ることになる呪いが存在している」と教えた。サン太夫はマタロウに、それは学園の七不思議の1つだと説明した。
マタロウは退学者リストを入手し、ジンペイたちは11名全員が女子生徒であること、サバイバルゲーム部と俳句研究クラブに集中していることを知った。その2つのクラブの部室からは、テニスコートが良く見えた。テニス部には学園位置のモテ男である九尾リュウスケが所属しており、彼を好きになった女子が呪いに掛かったのだとマタロウは推理した。ジンペイたちはリュウスケを訪ねるが、彼は何も知らないと告げる。しかしジンペイは、獣の匂いがすると指摘した。
リュウスケは怨霊のイズナを呼び出し、憑依させてナインテイルに変身する。ジンペイとメラも変身して戦うと、リュウスケはなつきに見とれて敗れた。彼はなつきの指示で呪いの謎を追っていたこと、女子生徒たちは退学ではなく行方不明になっていることをジンペイたちに教えた。マタロウは「誰かが恋愛して探ればいいのでは」と提案し、自分がフブキに告白することになった。だが、彼が告白する前に、なつきに惚れていたリュウスケが蛇に変身した。ジンペイとフブキが追跡しようとするが、蛇に逃げられてしまった。
サン太夫はポケットアルマジロのコマジロに蛇を追跡させており、体育館にいることを突き止めた。ジンペイたちが体育館に行くとなつきがいて、妖気を感じて来たばかりだと言う。しかしマタロウは彼女が犯人だと指摘し、その根拠を説明した。なつきはレジェンド怨霊のメデューサに変身し、サン太夫は彼女が憑依されているだけだとジンペイたちに説明した。ジンペイとメラは変身し、メデューサと戦う。サン太夫もリトルコマンダーに変身し、蛇になっていた生徒たちを元の姿に戻した。リュウスケはナインテイルに変身し、ジンペイたちに加勢した。するとメデューサは生徒たちから思春期の衝動を吸収し、異形魔獣ドクロスに変貌した…。

監督は高橋滋春、製作総指揮/原案・脚本は日野晃博、原作はレベルファイブ、製作は日野晃博&藤田浩幸&久保雅一&川崎由紀夫&市川南&堀内大示&鎌田和樹&奥野敏聡&裃義孝&滝山正夫&井口佳和&都築伸一郎&麻生昇&渡辺章仁&水野英明&山口宏昭&三谷克樹&下山明、アソシエイトプロデューサーは青木昌也&縄田正樹&平岡利介&沢辺伸政&秋本武英&梶原清文、プロデューサーは柿崎真吾&古澤泉&長岡道広、妖怪&キャラクターデザイン原案は長野拓造&田中美穂&板橋由里子、アートコンセプトは梁井信之&前田啓亨、企画設定協力は本村健&深見敦子&岩渕由樹&莫卓娜、キャラクターデザインは山田俊也&寺澤伸介、総作画監督は山田俊也&田中紀衣&武内啓、色彩設計は角野江美、美術監督は釘貫彩、撮影監督は柚木脇達己、編集は小守真由美、音響監督は はたしょう二、音楽 作曲・編曲は西郷憲一郎、主題歌「メテオ」はピンク・レディー。
声の出演は木村佳乃、渡部建(アンジャッシュ)、りりり、増田恵子、田村睦心、井上麻里奈、遠藤綾、戸松遥、増田俊樹、沼倉愛美、関智一、小林千晃、竹達彩奈、大友龍三郎、小野友樹、日野聡、石上静香、小桜エツコ、佐久間元輝、浜添伸也、辻親八、佐藤健輔、村上裕哉、高橋伸也ら。


レベルファイブのゲームソフト『妖怪ウォッチ』シリーズを原作とするTVアニメの劇場版第6作。
脚本はレベルファイブ代表取締役社長の日野晃博が担当。監督はシリーズ4度目の登板となる高橋滋春。
ジンペイの声を田村睦心、マタロウを井上麻里奈、サン太夫を遠藤綾、フブキを戸松遥、メラを増田俊樹、なつきを沼倉愛美、ハルヒコを関智一、リュウスケを小林千晃、エマを竹達彩奈、キンヤを大友龍三郎、バケーラを小野友樹、カズマを日野聡が担当している。
他に、マイの声をりりり、マタロウの母を増田恵子、メドゥーサを木村佳乃、プロレス同好会のタベケンを渡部建(アンジャッシュ)が担当している。

このシリーズは、たぶん同じくテレビ東京で放送されている『ポケットモンスター』シリーズを目指して製作されていたんだと思われる。
しかし残念ながら放送当初は勢いがあって『ポケットモンスター』を凌ぐほどのブームを巻き起こしたものの、長くは続かなかった。
状況を打破する必要に迫られた製作サイドは、そこから次々に間違いを繰り返す。
劇場版3作目で実写パートを混在させ、4作目ではケータを主役の座から完全に追放した。

TVシリーズも2019年から『妖怪ウォッチ シャドウサイド』に変更したが、約1年で終了した。しかも、『シャドウサイド』の放送中に公開された劇場版5作目は、そのキャラを1人も使っていなかった。御馴染みの連中を使わず、全て映画オリジナルのキャラという見事な迷走ぶりを露呈していた。
その後、TVシリーズは再びケータを主人公に戻した『妖怪ウォッチ!』を開始したが、1年に満たない期間で終了。
そんな迷走は、この映画でも続いている。また新たな世界観、新たなキャラクターで作っているのだ。
ここから新しいシリーズの『妖怪ウォッチJam 妖怪学園Y 〜Nとの遭遇〜』に繋げているけど、失敗の積み重ねにしか思えないわ。
っていうか、ケータを軽視した頃の失敗が大きいので、今さら何をやっても取り返せなくなってんのよね。

序盤、マタロウがジンペイ&サン太夫と知り合った後、オープニングテーマ曲が流れてオープニング・クレジットに突入する。この際、まだ映画には登場していないキャラクターが登場したり、マタロウたぢが学園生活を送る様子が描かれたりする。
映画のオープニングとして、ふさわしいとは思えない。
しかし、この後にTVシリーズ『妖怪ウォッチJam 妖怪学園Y 〜Nとの遭遇〜』が始まることも含めて考えれば理解できる。この作品は、TVシリーズに向けたパイロット・フィルムなのだ。
ただし、それでも映画に合わせたオープニングを用意した方がいいとは思うけどね。
でも、そんな繊細な感覚があれば、『妖怪ウォッチ』もこんな状態には陥っていないわな。

構成を見ると、見事なぐらいのパイロット版である。
短編を幾つも並べて100分の尺にしてあるのだが、「TVシリーズの序盤の話を順番に見せている」というだけだ。「ここで一区切り付けて次のエピソードに移る」という箇所も、分かりやすく用意してある。
もはや映画としての体裁を取っているとさえ言い難いぐらいだ。
こんなのを映画として公開し、お客さんから金を取っちゃダメだよ。特典目当てで来てくれる子供たちはいるだろうけど、中身は映画じゃないよ。
こんなのを平気で作っているんだから、ますます『ポケモン』との差は広がるばかりだし、ジリ貧になっていくだけだぞ。

マタロウがバケーラについてジンペイに相談している時、サン太夫が「完全に取り憑かれてますね」と言い、ジンペイに同調する。
つまり「彼も怨霊が見えている」ってことなのだが、なぜかマタロウは「君も見えてるの?」と驚かず完全にスルーしている。後になって「君も気付いてたんだね」と反応するようなシーンも無い。
だけど、いつの間にか「サン太夫も怨霊が見えているのをマタロウも理解している」という状態になっている。
それは完全なる手落ちだ。

っていうかさ、前日の入学式の時点で、マタロウは「ジンペイには明らかにバケーラが見えている」と感じたはずでしょ。
だったら、教室に戻った時にでも「見えてたよね?」と改めて確認すればいいでしょ。
その時はスルーして、翌朝になってから質問するのは変じゃないか。
「生徒宿舎でもバケーラがいて驚く」という手順を踏みたかったとか、翌朝のシーンで一気に「なつきがバケーラに追われて」というトコまで進めたかったのか、事情は知らないけど、シナリオの都合でキャラの動きがギクシャクしている。

ジンペイたちがバケーラを成敗した時、マタロウは「なぜ自分に付きまとったのか?」と質問する。しかしジンペイとサン太夫が「なつきのパンティーは何色だったのか?」と尋ねて、マタロウの質問に対する答えは出ないまま次のシーンに移る。
でも、マタロウにしてみれば「バケーラが時分に付きまとった理由」は是非とも知りたい疑問じゃないのか。
その後に「強い奴が好き」ってことでバケーラはジンペイに懐いているわけで、ますますマタロウからすりゃ「自分は強くないのに、なぜ付きまとったのか?」と気になるはずでしょうに。
そこをスルーしているのも、これまた大きな手落ちだ。

ジンペイに助けられたモモが、その直後にあっさりと死ぬのはダメだろ。助けた意味が無いじゃねえか。
そんでモモは死んだ途端にメダルになるんだけど、それは変だろ。モモはYSPウォッチの近くで死んだわけじゃないし、怨霊として退治されたわけでもないのに。メダルになる法則が全く定まっていない。
っていうか、「怨霊になった」と説明されるけど、モモは誰にも恨みなんか抱いちゃいないんだから、それを「怨霊」と呼ぶのも違うだろ。
あと、ジンペイはモモを助けた時、ネズミだと思い込んでいるのよ。なので、エマを連れて塔から脱出する時、モモを呼び出すのは筋が通らない。デブネズミの怨霊なんか呼び出しても、どうにもならないでしょうに。

オヤノメが出現した時、メラがカズマを取り込んで獅子王に変身するのは変でしょ。
今まで彼は、そんなこと一度もやっていなかったはず。なんで当たり前のように、カズマを取り込んでいるんだよ。
サン太夫がリトルコマンダーに変身するのは、もっと変。リトルコマンダーに関しては、そんなメダルを持っていたことさえ初めて分かるし。
それにリトルコマンダーは怨霊に見えず、何なのかサッパリ分からない。リトルコマンダーは蛇になった生徒を元に戻すけど、そういう能力があることも、そのシーンで初めて分かるし。

フブキが恋愛の呪いについて語った時、サン太夫はマタロウに「学園の七不思議の1つ。この学園には生徒に恐れられる七不思議がある」と教える。
でも、そもそもサン太夫はYSPクラブを作る時、「学校の七不思議を解決していく」と言っているのよね。
その場にマタロウはいないけど、そのタイミングで彼に「七不思議ってのがあってて」と教えておくべきでしょ。
恋愛の呪いに触れるシーンまで彼が七不思議を知らないまま放置しているのは、明らかに手落ちだわ。

ジンペイたちがメダルの怨霊を憑依させて変身するのは、「仮面ライダー」シリーズを連想させる。校舎が変形して巨大ロボットになり、そこにジンペイたちが乗り込んで敵と戦うのは、「戦隊ヒーロー」シリーズを連想させる。
後者に関しては、パロディー的な部分もある。
ただ、どちらの要素も、「人気シリーズの美味しいトコを拝借しよう」という意識が強く感じられる。
そもそもの『妖怪ウォッチ』の魅力だけじゃ子供たちを引き付ける力が足りないから、そういうトコに頼ろうってことじゃないかと思っちゃうのよ。ジンペイたちがロボットで戦い始めたら、妖怪ウォッチって全く関係ないし。
その後のマタロウの戦いもそうだよね。

(観賞日:2020年12月31日)

 

*ポンコツ映画愛護協会