『映画 妖怪ウォッチ FOREVER FRIENDS』:2018、日本

老人の下町シンは妻を運転手付きの高級車に残し、出逢頭大橋へ赴いた。彼は川に向かい、「先日、タチの悪い病が見つかってな。ここに来るのも今年が最後だ」と話し掛ける。彼は「全てはここから始まったんだ」とイツキに呼び掛けるが、何の応答も無いので去ろうとする。その時、大きな変化が起き、シンは驚いた。少年時代、彼は新聞配達で金を稼ぎ、病床にある母の幸子のために大判焼きと新発売の薬を購入して帰宅した。幼くして父を亡くしてから、シンは母と2人で貧しくも平穏な日々を送っていた。シンは全く気付いていなかったが、彼には常に守護霊が同行していた。
幸子はシンに感謝し、来月からは仕事に戻れることを話す。だが、彼女は何かに憑依されて外へ飛び出し、車にひかれて死亡した。シンが絶望して橋から川へ身投げしようとすると、高城イツキという少年が制止した。彼は「死んでも母ちゃんには会えないぜ」と言い、自分と一緒に犯人を捜さないかと持ち掛けた。彼はシンに、「お前の母ちゃんと俺の姉ちゃんを殺した犯人だ。全ては妖怪の仕業だ。妖怪は人に取り憑いて、魂を奪う。魂を取り戻せば生き返る」と語った。
イツキは物陰にいた有星タエという少女に気付き、鋭く詰問した。するとタエは、シンの背後に守護霊がいることを教えた。タエに守護霊が見えると知ったイツキは、自分たちの犯人捜しに協力するよう要請した。イツキはシンとタエを豪邸へ連れ帰り、執事の臼田に会わせた。彼は自室へ2人を招き入れ、妖怪に関する資料を見せた。彼は倒すべき妖怪が玉藻前であることを教え、妖怪を呼び出せる3つのアークを見せて「妖怪の力を上手く利用して玉藻前を倒す」と説明した。
イツキが持っている3つのアークには、それぞれ猫又、河童、座敷童子の姿が描かれていた。イツキはシンとタエに、妖怪を呼び出すには山姥屋敷にある妖怪ウオッチが必要だと告げる。屋敷に忍び込んだイツキは、山姥の弱点がおはぎだとシン&タエに話す。タエは「こっちの方が効果あるかも」とお札を差し出し、そこは祖母で妖術師のキネが暮らす家であること、自分は妖術師見習いであることを打ち明けた。彼女は妖怪探知機を使っていて、イツキとシンに遭遇したのだ。
タエはイツキとシンに、キネが山姥に憑依されてしまったことを語る。イツキは彼女に、山姥を倒してキネを助けようと告げた。3人は山姥に襲われ、タエは妖術で攻撃するが全くダメージを与えられなかった。そこへシンの守護霊が姿を現し、おはぎを渡した。シンは山姥におはぎを叩き付け、イツキがお札を貼った。すると山姥はキネの肉体から離脱した。イツキはタエに止めを刺すよう指示するが、シンが「そんなに悪い奴じゃなさそうな気がするんだ」と反対する。タエも彼に同調し、山姥は隙を見て逃走した。
イツキはキネに事情を語り、妖怪ウォッチを貸してほしいと頼んだ。するとキネは、「妖怪の力を必要とするならば、妖怪を仲間とせねばならん」と語る。イツキが妖怪ウォッチを装着すると外れてしまい、キネは「選ばれし者でなければ使えない」と教える。シンが装着すると、妖怪ウォッチは外れなかった。イツキはシンとタエに、幼い頃に母が死んだこと、大会社を経営していた父は不正の罪を着せられて失脚して病死したことを語った。
シンの守護霊は名前を問われ、名乗る資格が無いのでスーさんと呼んでほしいと告げる。彼は刀を失って力が無くなり、自分が何者なのかも覚えていないのだと言う。豪邸に戻ったシンたちは、妖怪ウォッチの力を試すことにした。シンは臼田に使い方を教わり、猫又、河童、座敷童子を召喚した。しかし全く役に立ちそうにないので、イツキは呆れ果てた。玉藻前の捜索に出たイツキは、大判屋の店員が妖怪だと気付いた。正体を知られた妖怪は、玉藻前の姿になった。イツキは弱点が鏡だと見抜き、玉藻前を退治した。
イツキに詰め寄られた玉藻前は、全ては閻魔大王の指示であること、奪った魂は彼の元へ送り届けたことを話す。イツキたちは妖怪電車に乗り、妖魔界へ赴いた。3人は閻魔大王が宮殿にいること、明日は新しい閻魔を決める武闘会が開かれることを知った。宮殿に乗り込んだ3人は捕まり、ぬらりひょんと閻魔大王の元へ連行された。イツキの抗議を受けた彼らは、犯人が閻魔大王の息子である紫炎だと説明する。魂を取り戻すには紫炎を止める以外に方法は無く、だから武闘会を開くのだと閻魔大王は告げた。
イツキたちが武闘会への参加を志願すると、ぬらりひょんは反対する。しかしシンの妖怪ウォッチに気付いた閻魔大王は、参加を承諾した。武闘会は勝ち抜き戦で、勝者は敗者の妖力を奪うことが出来る。紫炎の側近であるカラス天狗は仲間を斬ってパワーアップし、閻魔大王の用意した妖怪たちを一掃した。シンはイツキの指示を受けて玉藻前を召喚するが、まるで歯が立たなかった。次に猫又を召喚すると竜巻に飲み込まれるが、怪猫カマイタチに変身してカラス天狗を倒した。
紫炎は閻魔大王に、勝負を要求した。閻魔大王が「王座を奪っても真の王にはなれんぞ」と諭しても、彼は耳を貸さなかった。閻魔大王を倒した紫炎は、シンたちを始末しようとする。シンを庇ったイツキは、自分が既に死んでいたことを思い出した。姉を救おうとした時、彼も命を落としたのだ。彼は玉藻前に魂を奪われず、縁結びの神様であるククリ姫に声を掛けられた。ククリ姫は目的を達成できるまで、命をレンタルしてくれたのだ。イツキが紫炎に戦いを挑もうとすると、彼の守護者である賢神アマテラスが出現した。アマテラスはイツキにエルダー魔道鏡を与え、猫又、河童、座敷童子を進化させて紫炎と戦う…。

監督は高橋滋春、製作総指揮 原案・脚本は日野晃博、原作はレベルファイブ、プロデューサーは李尚鎭&古澤泉&長岡道広、製作は日野晃博&吉崎圭一&久保雅一&市川南&奥野敏聡&裃義孝川崎由紀夫&山口宏昭&井口佳和&麻生昇&三谷克樹&下山明&堀内大示&都築伸一郎&黒岩克巳&田中祐介&水野英明、アソシエイトプロデューサーは青木昌也&奥野敏聡&縄田正樹&押田裕一&沢辺伸政&和田誠&梶原清文、妖怪&キャラクターデザイン原案は長野拓造&田中美穂、アートコンセプトは梁井信之、企画設定協力は本村健、絵コンテは高橋滋春&矢野博之&清水聡&富田浩章&高橋ナオヒト、キャラクターデザインは山田俊也&寺澤伸介、コンセプトデザインは宮崎真一、総作画監督は山田俊也&寺澤伸介&武内啓、色彩設計は角野江美、美術監督は木下了香&釘貫彩、撮影監督は柚木脇達己、編集は小守真由美、音響監督は はたしょう二、アニメーションプロデューサーは井上たかし、音楽は西郷憲一郎、主題歌『大好きだった』は東方神起。
声の出演は種ア敦美、木村良平、東山奈央、小栗旬、ブルゾンちえみ、内田直哉、佐藤はな、真山亜子、関智一、小桜エツコ、黒田崇矢、檜山修之、浅沼晋太郎、竹内良太、鈴木れい子、大原さやか、大友龍三郎、子安武人、遊佐浩二、八代拓、高橋英則、榎木淳弥、久野美咲、西村知道、はやみけい、日野未歩、佐藤健輔、奈良徹、矢部雅史、坂東尚樹、太田悠介、綱嶋瑞恵、村上まなつ、清都ありさ、中島卓也、二ノ宮愛子、外崎友亮、広瀬さや他。


レベルファイブのゲームソフト『妖怪ウォッチ』シリーズを原作とするTVアニメの劇場版第5作。
脚本はレベルファイブ代表取締役社長の日野晃博が担当。
監督は1作目&2作目をウシロシンジと共同で担当した高橋滋春が単独で務めている。
シンの声を種ア敦美、イツキを木村良平、有星タエを東山奈央、紫炎を小栗旬、玉藻前をブルゾンちえみ、空亡を内田直哉、イツキの姉を佐藤はな、キネを真山亜子、臼田を関智一、猫又を小桜エツコ、怪猫カマイタチを黒田崇矢が担当している。

このシリーズはケータというキャラクターを雑に扱い、第4作ではとうとう主人公の座から追放してしまった。
それに伴い、TVシリーズも『妖怪ウォッチ シャドウサイド』に変更された。
ただ、どうやら子供たちからの評判は芳しくなかったらしく、約1年でTVシリーズは終了に至っている。
とは言え、この映画が公開されたのは『妖怪ウォッチ シャドウサイド』の放送期間中なのだから、そのキャラを使うべきだろう。

ところが、なぜか今回のメインとなる3人のキャラクターは、初登場の連中だ。『妖怪ウォッチ シャドウサイド』終了後の新シリーズに繋がるキャラクターでもない。この映画にしか登場しないキャラなのだ。
なぜTVシリーズのキャラを使わず、映画オリジナルの連中を使おうとするのか、その狙いがサッパリ分からない。
しかも、せめて妖怪はTVシリーズで御馴染みの連中かというと、こちらも違うのだ。なぜかウィスパーやジバニャンなど、子供たちに人気のキャラは登場させない。
このシリーズはケータという主人公を大切にしなかっただけでなく、これまでの失敗から学習して改善せず、新たな失敗を積み重ねている。

新キャラを登場させておきながら、「完全に今までと異なる新キャラ」ってことかというと、そうではない。臼田は見た目こそ違うものの、そのポジションも、声優も、喋り方も、何から何までウィスパーだ。猫又に至っては、見た目もジバニャンとほとんど変わらない。
それなら、ウィスパーとジバニャンでいいでしょうに。新キャラにしているメリットが何も見えないぞ。
しかも、メインの連中を新キャラにして新たな物語を作っているから、全てゼロから説明しなきゃいけなくなっている。
これが「ケータやウィスパーの物語」であれば、基本の世界観やキャラ紹介の手順は省けるわけで。

「老人シンの少年時代の物語」ってことで、時代設定を昭和にしてある。これのメリットも全く見えて来ない。
子供向け映画なんだから、普通に現代の物語でいいでしょうに。昭和の時代にすることで、保護者のノスタルジーを刺激しようという狙いでもあったのか。
ただし、そうだとしても、そんなにノスタルジーを喚起するような描写なんて何も無いからね。
当時の世相や風俗、アイテムやファッションなどの「昭和ノスタルジー」に繋がるような描写なんて、何も無いからね。

序盤、幸子が妖怪に憑依されて家を飛び出し、車にひかれて死ぬという展開が用意されている。
これには呆れ果てた。
これってファミリー向けのアニメ映画のはずでしょ。それなのに、そんな残酷すぎる悲劇を用意して、何が嬉しいのかと。
子供たちにショックを与えることが狙いなら、それは成功していると言ってもいいだろう。でも、そんなショックを与えても、何の得も無いぞ。
あと、「妖怪の仕業なので魂を取り戻せば生き返る」と説明するけど、子供たちに「誰かが死んでも魂を取り戻せば生き返る」という誤った知識を植え付けることに繋がる恐れがあるぞ。真面目なことを言うと、それは人の命を軽んじているようにも感じるし。

イツキは妖怪が見えるわけじゃないのに、なぜ「全ては妖怪の仕業。人に憑依して魂を奪う」という情報を知っているのか。なぜ「魂を奪った犯人は玉藻前」とか、「妖怪を使うには妖怪ウォッチが必要」という情報を知っているのか。
なぜ彼は、アークを持っているのか。なぜ妖怪ウォッチが山姥屋敷にあることを知っているのか。
こいつの妖怪に関する知識は、あまりにも都合が良すぎるぞ。
終盤になって、「ククリ姫から魂を奪ったのが妖怪の仕業だと聞いている」ってことは明かされるが、それで全てが納得できるわけでもないぞ。

しかも、イツキはククリ姫と会ったことも、まるで覚えていなかったんでしょ。
だったら、イツキがアークを持っていることや、妖怪に関して詳しい情報を持っていることに対して、シンが「なぜなのか」と疑問を提示する手順は用意すべきじゃないのか。で、それに対してイツキが「なぜなのか分からない。覚えていない」と答えるやり取りがあるべきじゃないのかと。
っていうかさ、彼がククリ姫から聞いた情報は少しだけで、大半は後から得ているでしょ。アークにしても、ククリ姫から貰ったわけじゃないでしょ。
そうなると、やっぱり何も疑問は解消されないんだよな。

なぜイツキは、シンを仲間として引き入れたのか。
「たまたまシンの姉が死んだ出来事を目撃していて、妖怪に身内を奪われた仲間として引き入れる」という流れになっているけど、その時点では「一人じゃダメな理由」は何も無いわけで。
イツキは姉の魂を取り戻したいという思いで行動しているわけで、なぜ一人で妖怪と戦おうとは思わなかったのか。
彼は自力で妖怪に関する情報を集め、アークも所有している。そして妖怪ウオッチがある場所も知っている。シンを仲間にしなきゃいけない理由なんて、何も無いのだ。

タエの絡ませ方も、シンと同じぐらい強引すぎる。
こいつは身内が妖怪に殺されたわけじゃないし、ただ「守護霊が見えた」というだけ。
それでイツキが仲間に引き入れるのは無理がある。
後から「実は山姥屋敷が祖母の家で、祖母が山姥に憑依されている」ってことかが判明するけど、だったらタエは、その辺りで初めてシン&イツキと関わる流れにしておけばいいでしょ。シンとイツキが妖怪ウォッチを入手するために山姥屋敷へ赴き、そこでタエと遭遇して「実は彼女の祖母が云々」という展開にした方がスムーズでしょ。

タエは山姥屋敷で山姥に追い詰められた時、「もう逃げ切れない」と弱音を吐く。イツキが「簡単に投げるな」と言うと、タエは祖母から妖術の稽古中に言われた言葉を思い出し、妖術で山姥に立ち向かう。
そういう流れになっているのなら、タエは妖術で山姥を退治しなきゃダメだろう。
ところが実際には、何のダメージも与えられないのだ。
だったら、「祖母の言葉を思い出して弱気を振り払い、敵と戦う」という手順は無駄でしかないでしょ。

シンはイツキが山姥に止めを刺すよう言った時、「そんなに悪い奴じゃなさそうだ」と擁護する。それにタエも同調し、山姥を逃がしてしまう。
でも、山姥はキネに憑依しただけでなく、シンたちに襲い掛かって来たのよ。それは決して「攻撃するフリ」ってことじゃなくて、本気で攻撃してきたのよ。
その2つだけでも、充分に悪い奴でしょ。
「妖怪を根絶やしにすべき」というイツキの主張を「行き過ぎ」という形にしているけど、そういう見せ方をするなら山姥の邪悪度はもっと下げておく必要がある。
終盤になって「実は山姥の正体が月神ツクヨミだった」と明かされるけど、それで山姥としての行動が全て帳消しになるわけでもないぞ。

イツキは玉藻前の正体を突き止め、弱点を見抜いて退治する。何から何まで、全ては彼の仕事だ。
シンは妖怪ウォッチを装着しているから妖怪を召喚する時には仕事をするが、それも全てイツキの指示に従っているだけ。タエに至っては、もはや妖術を使う必要性も無いので、ただ同行している少女というだけだ。
妖魔界へ行くと、イツキはエルダー魔道鏡を手に入れて戦うし、紫炎の良き心を見つけるのも彼の仕事だ。シンもタエも、まるで存在意義が無い。イツキと強い絆で結ばれているわけでもないし。
シンが母親の魂を妖怪に奪われたことから話が始まっているのに、彼が主人公としての行動を全く取らせてもらっていない。
スーさんが真の力に目覚めた後、ようやく少しだけシンは手を貸している。でも、その程度じゃ焼け石に水でしかない。

(観賞日:2020年3月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会