『映画 妖怪ウォッチ シャドウサイド 鬼王の復活』:2017、日本

かつて妖怪を操る腕輪を持った少年がいた。彼は妖怪たちを仲間にして、数多くの偉業を成し遂げた。しかし少年が成長して大人になった時、妖怪の姿が見えなくなった。腕輪は人間界と妖魔界のバランスを崩す危険な存在とされ、時空の彼方へ葬り去られた。それから30年後。月浪トウマは目を覚まし、昨夜は泊まりの仕事で帰宅しなかった母親から届いたメールを読む。「今日は遅くなりそうだから」という文面を見た彼は「今日も、だろ」と呆れてため息をつき、支度を済ませて学校へ向かった。
天野ナツメは登校途中、橋に集まる野次馬を目撃した。川でおぼれている男児を見た彼女は、飛び込んで救助した。野次馬や男児の母親が悪意に満ちている様子に、ナツメは全く気付いていなかった。ナツメは幼い頃、川に溺れて誰かに救われていた。それを思い出した彼女は、親友の町田早希に声を掛けられた。ナツメはずぶ濡れなのでバスに乗れないと言い、歩いて学校まで行くと告げた。歩いている途中、彼女はトウマに気付いた。
有星アキノリは自転車で登校する途中、不気味な月を目撃した。急いで自宅へ戻った彼は、おばばに空を見るよう告げる。水晶玉を見たおばばは、鬼まろが近付いていることをアキノリに教える。有星家は妖術を語り継ぐ一族であり、おばばは不気味な月が世界滅亡の危機の前触れだと言う。鬼まろを迎え撃つことが出来るのは妖怪の力だけだが、彼らを使うための妖怪ウォッチは妖魔界の掟により破棄された。しかし、おばばは古の民によって作られた別のタイプも存在することをアキノリに明かす。それを見つけるための妖魔レーダーをおばばは発明しており、アキノリは探しに出掛けることにした。
蛇王カイラは七賢者を抱き込み、妖魔界の大王の座を奪い取った。しかし妖怪たちは誰も彼を支持せず、大臣も呼び出しに応じなかった。彼は側近であるウーラの前で、今もエンマが指示されていることへの不快感を見せる。牢に監禁されたエンマ大王の元へ、ぬらりひょんが密かにやって来た。エンマは鬼まろが予定より300年早く地上へ到達すること、太古の昔に作られたエルダン魔導鏡が自分たちの知る妖怪ウォッチを凌ぐ力を秘めていることを語る。既にエンマはエルダン魔導鏡を手に入れ、妖怪ウォッチエルダとして回収していた。しかしエルダが人間を受け入れていないため、起動できない状態となっていた。
鬼まろのオグ、トグ、モグはトウマに闇の匂いを嗅ぎ付け、様子を観察する。トウマは不良学生3人組に難癖を付けられ、殴られて金を奪われる。トウマが激怒すると、オグたちは体内に入り込んだ。トウマが鬼まろの圧倒的な力を見せると、3人組は怖がって逃げ出した。オグたちはトウマに、「俺らと契約を交わさないか。その存在を、もっと世界に示すんだ。お前のその力をやる。代わりに体を貸せ」と持ち掛けた。ずっと自分の存在感が希薄だと感じていたトウマは、その取引を承諾した。すると鬼まろリーダーがトウマの体内に入り込み、鬼まろに操られているた屈強な体の鬼島ゲンジと戦うよう指示した。
おばばはアキノリに同行し、「鬼まろってどんな奴なの?」と質問される。おばばは彼に、「人間の悪意に感染して数を増やしていく。数千年に一度、空からやって来る。人の心を食らって悪意を増長させ、死ぬまで罪を犯させ続ける」と説明した。トウマがゲンジを倒すと、鬼まろリーダーは使えそうだと感じて鬼眼ギアをプレゼントした。オグたちが鬼眼ギアをトウマの左腕に装着させ、リーダーが「それを使えば仲間に指示を出して操れる。仲間を増やして組織を作れ。お前の存在を世界に認めさせるのだ」と告げた。
エンマはぬらりひょんに協力してもらい、結界を破って牢獄から脱出した。カイラとウーラは、エンマの動きに気付いた。妖魔レーダーを見ていたおばばは、鬼まろの反応が広がり始めたこと、妖怪ウォッチを管理する執事妖怪が近くにいることを知った。ナツメは学校からの帰り道に知らない道へ迷い込み、執事妖怪のウィスパーと遭遇した。ウィスパーは彼女に妖怪ウォッチエルダを渡し、「俺の友達、出て来いジバニャン」と言うよう指示した。
ナツメは言葉を間違えるが、エルダが拒絶反応を示さなかったのでウィスパーはガチャを回すよう指示した。ナツメがカプセルを開けると、ミツマタノヅチが出現して襲い掛かった。ウィスパーは「妖怪ウオッチを使って倒せば合格です」と言うが、ナツメは何のことだか全く分からないまま逃走する。そこへアキノリが駆け付け、ナツメに妖怪ウォッチの使い方を教えてひも爺を出現させる。ミツマタノヅチがひも爺に退治されると、おばばやウィスパーも現場にやって来た。
ウィスパーは妖怪ウォッチを使って世界の危機を救うようナツメに訴え、おばばは「鬼まろは人間の悪意を食らって怪物に変身させる。その蔓延を止めねばならぬ」と説いた。しかしナツメは全く相手にせず、エルダをアキノリに渡して帰宅した。すると母と弟が怪物に変身しており、ナツメに襲い掛かった。ナツメが慌てて家の外へ逃げ出すと、ウィスパーが来て妖怪ウォッチエルダを装着させる。おばばがアキノリと共に駆け付け、母と弟が鬼まろに取り憑かれていることをナツメに教えた。
ナツメはアキノリの指示を受け、妖怪ウォッチエルダでミツマタノヅチを呼び出した。ミツマタノヅチは人間タイプで出現し、ミッチーと呼ぶよう求めた。ミッチーはナツメの母と弟を石化し、動きを封じた。アキノリはナツメに、「みんなを救うには、妖怪たちを仲間にして全ての鬼まろを駆除するしかない」と語った。その様子を上空から眺めていたエンマは、ぬらりひょんに「よりによって、あの少女が妖怪ウォッチの所有者に選ばれるとはな」と述べた。彼は鬼まろが現れる時、それ以上に厄介な存在が蘇ることを知っていた。それは鬼まろが集めた悪意を食らって力を増す鬼王・羅仙であり、妖魔界にとって最悪の敵だった。
トウマは鬼まろリーダーから、新たな秩序を作るよう勧められる。警察を制圧して社会のゴミを掃除しようと持ち掛けられた彼は、警察署へ乗り込んで警官たちを怪物に変身させた。おばばは鬼まろの増殖を知り、強力な妖怪を呼び出して戦えば勝てるとナツメに話す。するとウィスパーは「あまり会いたくはありませんでしたが」と前置きした上で、ジバニャンのいる魔の交差点へ一行を案内する。ジバニャンが以前と全く異なる姿に変貌していたので、ウィスパーは戸惑った。ナツメから協力を要請されたジバニャンは、「俺には関係ない」と拒絶する。しかしナツメがトラックにひかれそうな野良猫を助ける様子を見てジバニャンは、力を貸すことにした。
エンマはぬらりひょんを伴い、フドウ雷鳴剣が眠る幻魔洞窟へ赴いた。フドウ雷鳴剣には羅仙を討つ力があるが、妖魔界の最高賢者たちが決死の妖力で封印した恐ろしい剣だ。しかしエンマは人間界と妖魔界の危機だと感じ、命懸けでフドウ雷鳴剣を手に入れようと考えていた。そこへカイラが現れ、フドウ雷鳴剣を狙っていることを明かす。彼はフドウ雷鳴剣を使い、羅仙を制御しようと目論んでいた。エンマは制御など不可能だと告げるが、カイラは耳を貸さずに襲い掛かった。
トウマは鬼まろリーダーから、空港を占拠して仲間を世界中に飛ばそうと促される。トウマは空港を制圧するため、怪物たちを率いて空港へ向かう。ナツメやアキノリたちは妖魔レーダーの反応を辿り、空港に潜入した。トウマがリーダーだと知ったナツメが驚いた直後、一行は怪物たちに包囲される。ナツメはトウマに、「とっても優しい人だったじゃない」と話し掛ける。かつて彼女が公園で傷を負った時、トウマは心配して駆け寄りハンカチを傷口を当ててくれたのだ。
しかしトウマはナツメを冷淡に突き放し、「僕のことなんて誰も気にしていない。だから僕の存在を知らしめてやるんだ」と告げる。彼が怪物たちに攻撃を命じると、ジバニャンが蹴散らした。トウマはジバニャンに襲われると、軽く弾き返した。ナツメはアキノリに促され、キュウビを召喚した。しかしトウマはキュウビを簡単に消滅させ、ナツメたちを結界に閉じ込めた。エンマはカイラと戦い、王の座に固執する理由を尋ねた。人間と妖怪の両方の血を持つ自分が妖魔界で蔑まれたことへの恨みをカイラが口にすると、エンマは「お前の出生のせいではない。闇を抱えていたからだ」と指摘した。
エンマは覚醒してカイラを倒し、一緒に来るよう誘う。彼はカイラに、「俺一人ではフドウ雷鳴剣を引き抜けなくことが出来ない。出来たとしても、俺を支配するかもしれん。その時は、お前とぬらりで俺を討つのだ」と述べた。アキノリは母の形見であるアークをナツメに渡し、コマさんを召喚させた。コマさんが小便を浴びせると、結界は消えた。トウマが苦悶する様子を見た鬼まろリーダーは、大きな善意による拒絶反応だと分析した。彼は「もう用済みだ」と言い、トウマを殺そうとする。オグたちが「俺たちに任せろ」と言うと、リーダーは「目障りだ」と攻撃しようとする。するとトウマがオグたちを庇って攻撃を浴び、「こいつらは仲間だ」と口にした。
ナツメが妖怪たちを率いて駆け付けると、鬼まろリーダーは笑いながら逃亡した。エンマはフドウ雷鳴剣を引き抜こうとするが、まるで動かなかった。彼はぬらりひょん、カイラと3人で挑むが、弾き飛ばされた。フドウ雷鳴剣に「我をなぜ欲する?」と問われたエンマは、「より強大な力に対抗するため」と答えた。フドウ雷鳴剣は「なら力は貸せん」と言うが、エンマは引き下がろうとしなかった。ナツメやジバニャンたちは衰弱しているトウマを公園で心配していると、エンマがぬらりひょんを伴って現れた。彼はトウマを治療するが、一時的な処置だとナツメたちに告げた。
エンマはナツメから鬼眼ギアを外す方法について訊かれ、「闇に浸食された心を切り離さねばならん。心の中に入り込む必要がある」と説明した。しかし妖魔界には、そのための妖術が存在しなかった。おばばは一族に伝わる話として、幽霊族の生き残りである鬼太郎なら人の心の中に入り込む妖術を使いこなせるかもしれないと語る。ナツメ、アキノリ、ジバニャンは灯篭トンネルを通ってゲゲゲの森へ行き、鬼太郎や彼の仲間と会って事情を説明した。鬼太郎は協力を快諾するが、トウマの心に入るのは記憶の中にいる者でなければ無理だと言う。そこでナツメが志願し、鬼太郎は彼女をトウマの世界へ送り込んだ…。

監督はウシロシンジ、製作総指揮/原案・脚本は日野晃博、原作はレベルファイブ、妖怪&キャラクターデザイン原案は長野拓造&田中美穂、アートコンセプトは梁井信之、企画設定協力は本村健、アソシエイトプロデューサーは臼杵照裕&奥野敏聡&佐上靖之&川崎由紀夫&沢辺伸政&和田誠&梶原清文、プロデューサは李尚鎮&古澤泉&長岡道広、製作は日野晃博&吉崎圭一&久保雅一&市川南&奥野敏聡&垰義孝&近藤正人&宮本明彦&井口佳和&麻生昇&三谷克樹&伊藤誠一&堀内大示&滝山正夫&弓矢政法&都築伸一郎&黒岩克巳&荒波修&水野英明、キャラクターデザインは寺澤伸介、コンセプトデザインは宮崎真一&上津康義&寺澤伸介、総作画監督は寺澤伸介&新村杏子&武内啓、色彩設計は角野江美、特殊効果は太田憲之、美術監督は釘貫彩、撮影監督は柚木脇達己、CGIプロデューサーは坂美佐子、CGIスーパーバイザーは近藤潤、編集は小野寺絵美、音響監督は はたしょう二、録音は阿部直子 (レベルファイブ)、アニメーションプロデューサーは井上たかし、アートディレクターは佐々木志帆、音楽 作曲・編曲は西郷憲一郎。
エンディングテーマ「雪の日の再会」唄:岡本幸太、作詞:高木貴司、作曲・編曲:菊谷知樹。
「ようかい体操第一 ゲゲゲの鬼太郎Ver.」唄:キング・クリームソーダ.、作詞:ラッキィ池田&高木貴司、作曲・編曲:菊谷知樹。
声の出演は上白石萌音、千葉雄大、田村睦心、真山亜子、関智一、黒田崇矢、木村良平、子安武人、福山潤、緒方賢一、小野坂昌也、平川大輔、津田健次郎、置鮎龍太郎、宮澤正、矢部雅史、戸松遥、遠藤綾、代永翼、斉藤次郎、三宅健太、伊藤静、野沢雅子、島田敏、大塚明夫、皆口裕子、塩屋浩三、江森浩子、コロコロカーくん、アイクぬわら(おはスタ)、岩井勇気(おはスタ)、坂東尚樹、笹本優子、安野希世乃、羽多野渉、石塚運昇、下山吉光、藤原夏海、佐藤はな、佐藤恵、遊佐浩二、森川智之ら。


レベルファイブのゲームソフト『妖怪ウォッチ』シリーズを原作とするTVアニメの劇場版第4作。
前作までの脚本はレベルファイブ代表取締役社長の日野晃博が加藤陽一と共同で担当していたが、今回は初めて単独で手掛けている。
監督は1作目から全てウシロシンジが担当している。
ナツメの声を上白石萌音、トウマを千葉雄大、アキノリを田村睦心、おばばを真山亜子、ウィスパーを関智一、ジバニャンを黒田崇矢、エンマを木村良平、ぬらりひょんを子安武人、カイラを福山潤、ウーラを緒方賢一、ミツマタノヅチを小野坂昌也、コマさんを平川大輔が担当している。

私は前作の批評において、もっとケータというキャラを丁寧に扱い、シリーズの主人公として育てることを考えるべきではないかと苦言を呈した。
しかし本作品は、とうとうケータを主役の座から完全に追放してしまった。
終盤に成長した姿がチラッと写るものの、実質的にはケータというキャラを葬り去ったと言っていいだろう。
ナツメは「成長したケータの娘」という設定だが、それを無邪気に喜べる人、歓迎できる人は少数じゃないかと。

ケータを捨てて別のキャラを主人公に据えることに対して違和感を禁じ得ないのだが、それだけでなくキャラクターデザインも変更しているし、作品のテイストも変えている。
アニメ作品の人気が大ブームだった頃と比べて落ちる一方だったことは事実なので、リニューアルしてテコ入れを図ろうとするのは理解できる。
ただし、だからってケータを捨てて30年後の世界にするってのは、賛同しかねる。
ケータは残して、新キャラや新しい設定を持ち込む形でも良かったんじゃないのか。

どうしても主役を変更したかったとしても、ちゃんとTVシリーズのファンには「ケータとのお別れ」をさせて、主役交代の儀式を用意した方がいいんじゃないかと。
何の前触れもなく、いきなり「ケータが主人公ではない30年後の世界」を用意するのは、これまでシリーズを見てきたファンに対して不誠実ではないか。
キャラクターデザインとテイストの変更についても、「少し上の世代」を意識したらしいが、このシリーズって基本的に子供向けのはずだよね。
そりゃあ当初のファンは年齢を重ねているだろうけど、そこの客層を追い掛けても意味が無いわけで。そのせいで、当初の視聴者層と合致しない作風になったら、本末転倒も甚だしいわけで。

オープニングでおばばの「かつて腕輪を持った少年が云々」という語りが入るのだから、そこから30年後に飛んだら、まずは「新しい妖怪ウォッチを使える主人公」を登場させるべきだと思うのよね。
しかし実際にはトウマが最初に登場するので、それは構成としておかしい。
さらに困ったことに、実質的な主人公はトウマになっており、ナツメの存在意義は乏しい。そう考えると、「トウマは主人公だから最初に登場させるのは間違っちゃいない」ってことになるが、そういう問題じゃないからね。
絶対にナツメを主人公として動かさなきゃダメなはずなので、それはキャラの配置が間違っているってことになる。

トウマはオグたちから契約を提案された時、「僕の存在なんて」と心で呟く。ここで「自宅に親がいない」というカット、授業参観に親が来ていないことを示すカット、同級生数名が楽しそうに登校するのを見ているカットが挟まれる。さらに鬼まろリーダーが、「お前は世の中に不満を持っている。ろくに友達だっていないし、世の中の誰もお前のことを認めていない」と語る。
つまりトウマは「なかなか親と会えないことを寂しく思っている」というだけじゃなく、「孤独で世の中を憎んでいる」というキャラ設定なのだ。
だけど、そこまでのシーンでは「トウマが母親のことで寂しさを感じている」ってのは薄く感じられたものの、そこまで世の中に対する悪意を持っているような描写は全く無かったでしょ。
「友達がいなくて学校でも孤独」ってのは、オグから契約を提案された時のカットでしか表現できていない。
父親に関しては、存在しているのかどうかさえ明示されていない。ただの地味で陰気な男にしか見えなかったし、「リーダーに選ばれるほど強い悪意の持ち主」という設定に対して事前の描写が全く足りていない。

鬼まろはナツメが男児を助けるシーンから既に登場しており、その後でカイラが大王の座を奪っていることが示される。
だから、鬼まろの蔓延はカイラの策略なのかと思ったら、ここは何の関係も無いのよね。
人間界に危機を及ぼしているのは鬼まろだけであって、カイラは特に何もしていない。だから、この2つの要素は何の関連性も無いのだ。
だったら、カイラって要らなくないか。

そもそもカイラって、何が狙いなのかサッパリ分からないんだよね。
大王の座を奪っても妖怪や大臣は全く服従していないのに、それに対して行動を取ろうともしていない。エンマは結界で封印しているだけで、始末しようと目論んでいるわけでもない。
七賢者を抱き込んで大王の座を奪ったらしいが、その七賢者は登場しないし、妖魔界でどんなポジションにあるのかも良く分からない。
ここの要素をバッサリとカットして、ナツメが妖怪ウォッチで鬼まろから人間界を守ろうとする話に集中した方が良くないか。

しばらく話が進むと「カイラがフドウ雷鳴剣を手に入れて鬼王・羅仙を制御しようと考えていた」という設定が提示され、そこでカイラのエピソードと鬼まろのエピソードを関連付けようとしている。
だけど、完全に後付けの設定としか思えない。
そんな風に思っていたのなら、カイラは登場した時点から、その目的に向かって何かしらの行動を取っているべきだろ。羅仙を制御して何がしたいのかも不明だし。
カイラに「幼い頃から皆に認めてもらいたいと思っていた」という設定を用意して、そこでトウマと重ね合わせようとしているんだろうけど、まるで成功していないし。

カイラが王の座に固執する理由については、「人間と妖怪のハーフだから妖魔界で蔑まれ、認められなかった」という恨みを抱いていたことが語られる。
それに対してエンマは「出生のせいではなく闇を抱えていたからだ」と指摘するが、蔑まれたせいで闇を抱えた可能性も無くはないよね。
ただ、どっちにしても、カイラの孤独や心の闇なんて、まるで描かれていなかった。トウマにも増して、カイラに関する描写は薄い。
だから、なおさら「カイラの存在を削ってトウマだけに絞り込み、置かれている環境や心情を描写するための時間をもう少し確保すればいいのに」と思ってしまうのよね。

トウマはオグたちから「警察がどんなに頑張っても犯罪は増える一方だ。お前が警察をコントロールできるようになったらどうだ。俺たち
が犯罪を見つけて、お前が正義の下に成敗すればいい」と言われ、警察署へ乗り込んで警官たちを怪物に変身させる。
だけど、トウマが「社会のゴミを一掃したい」と思うほど嫌な目に遭っていた描写なんて、ほとんど無いのよ。
学校でイジメを受けるとか、社会の理不尽なルールに苦しめられるとか、そんなのは無かったでしょ。鬼眼ギアを貰う直前にカツアゲを食らっていたけど、それだけじゃ全く足りていない。
だから、こいつの動かし方に無理を感じてしまうのよ。

おばばはウィスパーがジバニャンの知り合いだと知ると、「数々の妖魔を退治した伝説の猫妖怪」と驚いている。ナツメは魔の交差点で「トラックをペシャンコにする妖怪が現れる」と聞かされ、ジバニャンがどんなに恐ろしい妖怪なのかと怯えている。
そんな分かりやすい前フリがあるので、「どんなに恐ろしい妖怪かと思っていたら、見た目の可愛いジバニャンが現れる」というギャップを付けるんだろうと思っていた。
ところが、姿を現したジバニャンはマッチョな容貌で、以前とは全く違うのである。
それは全く歓迎できないわ。

ナツメが猫を助けた直後に、ジバニャンは以前の姿になる。だけど、それはそれで「どういう理由?」と引っ掛かるのよね。
あと、姿が変わっても声や喋り方はマッチョな時と同じなので、意味が無いなあと思っちゃうし。
ジバニャンは絶対にキュートであるべきだ。なんで声優を小桜エツコから黒田崇矢に変更しちゃったのかなあ。
しかもジバニャンだけかと思ったら、コマさんも全く別の姿で登場するのだ。「お前は誰だよ」とツッコミを入れたくなるぐらい、全く別物になっている。キュートさがゼロだし、こちらも声優が今までとは異なる。
そこのリニューアルは、微塵も賛同できないぞ。

鬼まろリーダーがトウマを始末しようとすると、オグたちが「俺たちに任せろ」と言って守ろうとする。オグたちが鬼まろリーダーの攻撃を浴びそうになると、今度はトウマが庇って「こいつらは仲間だ」と口にする。
だけど、トウマとオグたちが互いに仲間意識を持つようになるためのドラマなんて、何も描かれていなかったでしょうに。
そもそもオグたちは名前こそ付いているものの鬼まろの一味なのに、なぜ「人間の善意に感化された」みたいな扱いになってんのかと。それは設定が破綻しちゃうでしょ。
それに、トウマの闇が晴れるのはナツメの献身のおかげなんだから、オグとの間で中途半端に友情を描いても意味が無いぞ。

今回は『ゲゲゲの鬼太郎』のキャラクターがゲスト出演するってのが、大きなセールスポイントになっている。
でも上手く融合していないし、見せ方に無理がある。
何より引っ掛かるのが「鬼太郎は人の心に入り込ませる妖術の使い手」という部分で、なんで勝手な設定を付け足しているのかと。
登場させるにしても、ちゃんと『ゲゲゲの鬼太郎』の世界観やルールは守った上で、『妖怪ウォッチ』の物語に参加させるべきじゃないかと。

そう考えると、前半から鬼太郎ファミリーを登場させた方がいいんじゃないかとも思っちゃうんだよね。
具体的には、双方の世界で事件が発生し、それを解決するために両方の作品のキャラクターが力を合わせるという流れにすればいいんじゃないかと。
ただし、そこで協力するのはナツメやアキノリではなく、絶対にケータであるべきだ。妖怪たちも、「ケータの仲間としてのジバニャンやコマさん」であるべきだ。
「御馴染みのキャラクターと鬼太郎ファミリーが共闘する」という形だからこそ、ワクワクできるわけで。
初めて見るナツメたちが鬼太郎ファミリーと力を合わせても、それは高揚感に繋がらないのよ。

しかも、鬼太郎ファミリーはナツメがトウマの心に入って彼を闇から解放すると、後は自分たちで戦うよう告げて去ってしまう。
鬼太郎はともかく、他の面々は「ただ出て来ただけ」という扱いだ。鬼太郎にしても、ほぼ存在意義は無い。
「ナツメをトウマの心に送り込む」という仕事をするだけであり、「それは彼じゃなくてもいいだろ」と言いたくなる。
鬼太郎ファミリーを登場させるなら、ちゃんと戦いの中で活躍の場を与えるべきだわ。こんな扱いなら、出さなくてもいいわ。

ナツメが心の中に入り込むと、トウマはあっさりと闇から解放される。しかしトウマは「ナツメに救われる少年」という役回りだけでなく、その後には「トウマが妖怪ウォッチオーガを使って敵と戦う」という展開が用意されている。
だけど、そこまではナツメを主人公として動かしていたわけで。
終盤に入って、それまで敵に利用される立場だったトウマが急に主人公のポジションを奪い取るってのは乗れない展開だ。
ケータだけじゃなくて、その娘であるナツメの扱いまで雑なのかと。

フドウ雷鳴剣を引き抜くのも、それを使ってラスボスの羅仙と戦うのもトウマが担当する。一応はナツメも最終決戦に参加しているけど、主人公の座は完全にトウマが奪い取っている。
「ダブル主役」として設定しているつもりかもしれないけど、ナツメの扱いが終盤に入って下がったようにしか思えんよ。
あと、トウマが戦っている時はナツメが傍観しているだけ、ナツメが戦っている時はトウマが傍観しているだけという感じで、ちっとも「共闘」してくれないんだよね。
羅仙を倒す仕事もトウマが担当しており、ナツメは全国の妖怪に協力を呼び掛けているものの、あくまでもサポート役に過ぎないんだよね。

(観賞日:2019年3月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会