『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』:2016、日本

ある朝、テレビのニュースでは昨晩に目撃された巨大な飛行物体のことが報じられた。UFOの母船ではないかという見方もあることが報じられるとウィスパーは興奮するが、ケータは「無いでしょ」と否定した。ジバニャンはブシニャンやロボニャンと共に、ニャーKBというアイドルグループのコンサートに出掛けていた。コマさんとコマじろうは、ソフトクリームを食べながら町を歩いていた。その時、巨大なクジラが上空に出現し、大きな声で吠えた。その鳴き声の衝撃は強く、ケータは両耳を押さえた。
ケータが目を開けると、全てが実写化されていた。両親も自宅も実写化されているのを見た彼は、困惑しながら町へ出た。ジバニャンが彼の元へ走って来て、人間は溶け込んでいるのに妖怪は混乱していることを話す。ケータは状況確認のため、フミカの家へ行く。塾へ行くため家を出て来たフミカは、すっかり大人っぽくなっていた。ケータが商店街へ移動すると、クマとカンチがガチャガチャで遊んでいた。クマがレアフィギュアを出すと、カンチは3万円で売ってほしいと持ち掛けた。
エミを見つけたジバニャンが後を追った後、ケータはコアラのヌイグルミに似た妖怪を発見した。ケータは世界の質感を変えた犯人だと確信して詰め寄るが、妖怪は否定する。ケータは妖怪にコアラニャンと名付け、バクロ婆を呼び出して情報を探ろうとする。しかし言葉が分からないため、バクロ婆は役に立たなかった。ケータが何気なくコアラニャンの鼻を押すと、全てが2Dアニメの世界に戻った。そこへフユニャンが現れ、今回の異変に妖怪が関わっていることを指摘した。彼は世界が変化した理由を尋ねるため、えんま大王の元へ向かうことを告げて飛び去った。
フユニャンと入れ違いでUSAピョンが現れ、世界が変化するとイナホが妙な薬の調合を始めたことをケータたちに話す。ケータは見た目が変わるだけでなく、個性が強まるのだと知った。上空にクジラが出現して吠えると、また世界は実写化した。イナホの薬が完成することを危惧したUSAピョンは、慌てて走り去った。そこへ嘆いているジバニャンが現れ、ため息をついた。エミが「デザイナーなんて興味無い」と言ってファッション雑誌を捨てるよう母に頼んだり、飼い犬を可愛がったりする様子を目撃したのだ。
ジバニャンがコアラニャンの鼻を押すと、世界は2Dアニメに戻った。ハッとしたケータは、コアラニャンの鼻が世界の切り替えスイッチになっているのだと気付いた。街に出た彼は興味ある場所でコアラニャンの鼻を押し、実写の世界を楽しんだ。町を歩いていたケータは、コアラニャンの弱点が水だと知った。2つの世界の大きな違いについて考えていたケータは、クジラの存在だと気付いた。クジラのヒレに付いているマークを見たジバニャンは、文房具店の看板と同じだと気付いた。
ジバニャンは文房具店の向かいを見て、いつもの世界には存在する駄菓子屋が無いこと、病院が建っていることを知った。病院の屋上にいるカナミという少女を見つけたケータは、「君なんでしょ、この世界をおかしくしてるのは。元に戻さなきゃ」と言う。するとカナミは、「戻す必要なんかない」と告げる。クジラが吠えるとカナミはアニメ化し、空に浮かんでバレエを踊り始めた。ケータは実写世界に戻し、カナミを地上へ戻した。カナミは「なぜ邪魔するの?」と抗議し、「踊れないと誰も見てくれないの。私は踊らなきゃならないの」と訴えた。そこへバクロ婆が現れ、カナミの心を読み取った。
幼い頃にバレエスクールへ通い始めたカナミは、定期公演で主役に抜擢された。やがて彼女はジュニア・バレエコンクールで優勝し、講師の木下紗枝から「一緒に世界を目指しましょう」と言われた。しかしカナミは自動車事故に遭って足に怪我を負い、踊れなくなってしまう。病室の窓からクジラの看板を眺めた彼女は、「あのクジラが空を飛んだら。そんなバカげたことが起こる世界なら、私の足だってきっと前みたいに」と考えた。
カナミの思いは現実となり、クジラは空を泳ぎながら世界を変化させた。カナミが大事にしていたヌイグルミは、妖怪のコアラニャンに変貌した。実写世界にもクジラが出現し、ケータはカナミの思いが強くなったせいだと確信する。彼は飛び去ったカナミを追い掛けようとするが、コアラニャンに導かれてバレエスクールへ出向いた。紗枝はケータからカナミのことを問われ、「事故のせいでバレエを捨ててしまった。でもバレエを諦めたのは、あの子自身よ」と述べた。
ケータは妖怪たちに協力してもらい、カナミを発見した。するとカナミは姿を変化させ、ケータたちを攻撃してきた。そこへフユニャンが駆け付け、「強い嘆きが心の闇となって、俺たちの世界とこの世界を繋げてしまった。このままでは、彼女は人間じゃなくなってしまう。心の闇を取り除くしかない」と話す。彼はえんま大王とぬらりひょんに会い、異変を調べるよう依頼していた。えんま大王は邪悪な妖魔の関与を突き止め、えんまブレードを渡した。ケータはメダルとブレードを使い、カナミから闇を振り払おうとした。するとカナミの体内から、大妖鬼ホゲホエールが現れた…。

監督はウシロシンジ、原作はレベルファイブ、脚本は日野晃博&加藤陽一、製作総指揮/原案は日野晃博、製作は日野晃博&吉崎圭一&久保雄一&市川南&奥野敏聡&峠義孝&太田哲夫&大野淳二&岩村卓&植山義幸&松井正憲&伊藤誠一&堀内大示&山本雅&弓矢政法&都築伸一郎&林真司&水野英明&荒波修、アシスタントプロデューサーは橋本友宏&金子栄一郎、キャラクターデザインは山田俊也&寺澤伸介、総作画監督は寺澤伸介&竹内杏子、色彩設計は角野江美、美術監督は釘貫彩、撮影監督は柚木脇達己、編集は小野寺絵美、音響監督は はたしょう二、録音は八巻大樹、アニメーションプロデューサーは井上たかし。
声の出演は戸松遥、関智一、小桜エツコ、浜辺美波、潘めぐみ、立木文彦、木村良平、子安武人、重本ことり、遠藤綾、梶裕貴、坂東尚樹、佐藤智恵、永田亮子、笹本優子、さとうあい、日野未歩、矢部雅史、阿井莉沙、安野希世乃、加藤安奈、萩原あみ、七瀬亜深ら。
[実写パート]
実写パート監督は横井健司、プロデューサーは坂美佐子&前田茂司、撮影は神田創、照明は佐藤宗史、録音は柳屋文彦、美術は佐久嶋依里、編集は神谷朗、キャラクタースーパーバイザーは前田勇弥、特殊メイクは石野大雅。
出演は南出凌嘉、浜辺美波、武井咲、斎藤工、山ア賢人、遠藤憲一、黒島結菜、澤部佑、渡辺優奈、松田沙紀、戸次重幸、三津谷葉子、石井心愛、里愛奈、白鳥玉季、福田徠冴、中尾百合音、萩野友里、萩野村修一、諏訪太朗、稲川実代子、岩井勇気ら。


レベルファイブのゲームソフト『妖怪ウォッチ』シリーズを原作とするTVアニメの劇場版第3作。
今回はアニメパートと実写パートを複合させた構成になっている。
アニメパートの監督は、1作目からの連投となるウシロシンジ。前2作は橋滋春との共同だったが、今回は単独での監督。実写パートの監督は、『イヌゴエ』『今日からヒットマン』の横井健司。
脚本は前作に引き続き、レベルファイブ代表取締役社長の日野晃博と加藤陽一。
アニメパートでは、ケータ役の戸松遥、ウィスパー役の関智一、ジバニャン役の小桜エツコ、USAピョン役の重本ことり、コマさん&コマじろう役の遠藤綾らがTVシリーズのレギュラー声優陣。コアラニャンを潘めぐみ、クジラを立木文彦が担当している。
実写パートでは、ケータを南出凌嘉、カナミを浜辺美波、紗枝を武井咲、ぬらりひょんを斎藤工、エンマ大王を山ア賢人、じんめん犬を遠藤憲一、エミを黒島結菜、クマを澤部佑が演じている。

シリーズ3作目にして、実写パートを混在させるという意外なアイデアを持ち込んできた。
ひょっとすると前2作の評価やTVシリーズの人気が思ったほど高くないので、大きな変化を付けなきゃマズいと思ったのかもしれない。
ただ、ケータを実写化させるなど、自分たちで作ったアニメキャラクターを大切にしていないという印象を受ける。
目先の利益を考えて安易に奇をてらったことをするのではなくて、もっとケータというキャラを丁寧に扱い、シリーズの主人公として育てることを考えた方がいいような気もするんだけどね。

「ケータたちの住むの世界が実写になる」というアイデアを持ち込んだことによって、いつものアニメを虚構として強調する結果になっている。
もちろん虚構であることは事実だが、そうすることで観客の子供たちとの間に境界線をハッキリと用意するのは、どうなのかなあ。
実写化させたいのなら、いつものシリーズとは別物として作れば良かったんじゃないか。
あと、当然のことながら妖怪はCGで表現されているのだが、これが実写の映像と完全に馴染んでいるわけではないので、そこも虚構としての存在感が増してしまう。

ケータの両親が登場する時には、「お母さん登場まで」「5、4、3」といった文字を出して、カウントダウンで姿を見せている。
でも、そうやって登場した人物が超有名人ならともかく、戸次重幸と三津谷葉子なので微妙な反応になってしまう。
三津谷葉子に至っては、下手をすると誰か分からないようなメイクだし。
パッと見て分かるのは澤部佑ぐらいで、ケータやフミカやカンチは子役が演じている。
ここが全て有名人ってことなら、そこに面白さはあるだろう。でも、そうじゃないので、仕掛けとしては弱くなる。

「世界が実写化すると人間の個性が強まる」という設定を持ち込んだのは、単に「アニメの世界が実写に変化する」というだけでは面白味が足りないという判断だったのかもしれない。しかし、その設定を持ち込んだことによって、完全に整合性が取れなくなって話が破綻している。
例えばイナホは実写化した途端に、妙な薬の調合を始めている。
だが、再びアニメに戻った時、どういうことが起きるのか。イナホの中身も元の状態に戻るのだから、薬の調合に対する興味は失せるはずだ。それでも調合を始めた薬は残っているはずだから、それを彼女はどう思うのか。
ケータ以外の人間は実写化しても順応しているだし、実写化していた時の記憶が無いってこともないわけで。

エミにしても、同じことが言える。
彼女はデザイナーへの興味を失い、ファッション雑誌を捨てるよう母に頼んでいる。猫が好きだったはずなのに、実写化すると飼い犬を可愛がっている。
しかしアニメに戻った時、母が雑誌を捨てたことについて、どう思うのか。また、犬はアニメの時には飼っていないはずなのに、なぜ実写化した途端に登場するのか。再びアニメに戻った時、その犬はどうなるのか。
まるで説明が付かないのである。

1つの世界の質感がアニメから実写へ変化したはずなのに、途中からパラレルワールド的な概念も入り込んできて、ルールがメチャクチャになっている。
ケータは「あの子(カナミ)が2つの世界を繋げてしまった」と言っているけど、「ケータの世界とカナミの世界が合体した」ということではないでしょ。ケータの世界が、アニメから実写に切り替わったってことだったはずでしょ。
ところがカナミは現実の世界にいる人物なので、ここで完全に破綻してしまう。
カナミが現実の世界をアニメに切り替えたのなら、ケータも「現実にいた少年がアニメに変化する」ってことじゃないと筋が通らない。

カナミの世界とケータの世界がパラレルワールド的な構造だと想定した場合、「ケータの世界でコアラニャンの鼻を押した時、その場所にいる人物が実写に切り替わる」という事態の説明が付かない。
フミカやクマたちにしても、アニメのキャラが実写化するのではなく、現実の世界に「別のフミカやクマ」がいなきゃダメなはずだけど、そうじゃないわけで。
そういう設定の破綻が気になって、まるで話に入り込むことが出来ないのだ。

カナミは「時間が戻ってほしい。有り得ないと思いながら、そんな奇跡が起こることを祈った」と語るが、だったら「その思いによって時間が逆戻りした」という展開に繋がるのが自然じゃないのか。
ところが、その後に彼女が「もしあのクジラ(の看板)が空を飛んだら。そんなバカげたことが起こる世界なら、私の足だってきっと前みたいに」と言い、その思いが世界を変化させたという説明になっている。
そこでの考えの飛躍は受け入れるとしても、だったら「実写の世界で看板のクジラが空を飛ぶ」という状態でもいいわけであって。世界をアニメに変化させる必然性は全く無い。
また、カナミが「以前のように踊れるように自分の世界を変化させた」ということであっても、「だからケータたちの世界が実写に変化する」ってのは全く筋が通らないし。

ようするに、「現実世界に暮らすカナミが自分の世界をアニメに変化させた」という設定と、「アニメである『妖怪ウォッチ』の世界が実写化された」という設定が、上手く融合していないのだ。
ただし、「どうやったら上手く融合するのか」と問われたら、「融合しない」と答える。そもそもの設定に無理があるのだ。
「アニメの世界に入り込むことを望む少女」をキャラとして登場させるなら、彼女だけがケータたちの世界へ入り込むという形を取るしかないんじゃないか。
っていうか、どんな方法を取ったとしても、普段の『妖怪ウォッチ』をメタ化することに繋がるわけだから、やっぱり仕掛けとして失敗だと思うんだけどね。

ホゲホエールとの戦いでは、「アニメの世界ではケータ側が有利、実写の世界ではカナミとホゲホエールが有利」ってことで、互いに何度も2つの世界を入れ替える展開が用意されている。
それを面白い趣向として持ち込んでいるんだろうけど、「面倒だなあ」と感じるだけ。最終決戦ぐらいは、いつもの2Dアニメの映像で描けばいいのに、と言いたくなる。
だから、その後に用意されているクジラマンとの戦いが実写メインになっているのも、「いや違うだろ」と言いたくなる。実写を使った仕掛けを持ち込むにしても、その遊びをクライマックスまで持ち込むのはどうなのよ。
興行成績を上げるために「いつもの妖怪ウォッチとはガラリと異なる仕掛け」を用意したのかもしれないが、それが結果としてはシリーズの耐久力を著しく削っているように感じるんだよあ。

(観賞日:2018年2月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会