『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』:2014、日本
西暦2199年、月面第7騎兵連隊は敵空母艦隊機の攻撃を受けて孤立し、甚大な被害を受けた。隊員の斉藤始や永倉志織、倉田勝、天城敏郎、古橋弦らは救援を要請するが、一向に友軍が来る様子は無かった。斉藤たちが未知の戦艦を目撃した直後、第一艦隊旗艦「キリシマ」が到着した。斉藤たちは喜ぶが、連隊長の桐生悟郎は死亡した。山南修が艦長を務めるキリシマには、空間防衛総隊司令長官の土方竜が乗船していた。土方は斉藤から「救援が早ければ連隊は壊滅しなかった」と非難され、「特務艦護衛のために展開していた」と説明した。斉藤が未知の戦艦について尋ねると、彼は「宇宙戦艦ヤマトだ。俺の親友の船。そして人類最後の希望だ」と答えた。
ヤマトの地球抜錨から7ヶ月。大マゼラン外洋銀河間空間を航行中のヘルム・ゼーリック専用艦「ゼルグートII世」では、艦長のバシブ・バンデベルが将校のマイゼル・ドラムからガミラスの陥落とデスラーの戦死を知らされていた。その直後、バンデベルの艦隊は突如として出現したガトランティス艦隊の奇襲を受け、あっという間に全滅した。ヤマトはコスモリバースを受領してイスカンダルを抜錨し、1ヶ月が経過した。桐生美影は直属上官の新見薫と共に、異星言語の解読に当たっていた。彼女は新見がスカウトした技術科のエースで、言語学者の卵でだ。彼女は私的日誌を綴り、ヤマトでの出来事を記録している。
ガイペロン級多層式航宙母艦「ランベア」の艦長代理を務めるフォムト・バーガーがメリア・リッケを思い出していると、少年兵のミルト・エヴァンスが呼びに来た。バーガーは老兵のヴァンス・バーレンから、停船命令が届いたことを聞かされた。ゲルバデス級航宙戦闘母艦「ミランガル」から届いた停船命令だが、バーガーは承服できなかった。ミランガル艦長でメリアの姉であるネレディア・リッケがヤマトへの攻撃が禁じられたことを伝えると、バーガーは強い復讐心を口にした。
ネレディアが「この宙域には魔女が棲んでいる。過去に何隻もの船が消息を絶っている」と話すと、バーガーは「くだらない迷信だ」と笑い飛ばす。直後にバーガーは女性の歌声を耳にするが、バーガー以外の搭乗員には聞こえていなかった。ガトランティスのグタバ遠征軍大都督を務めるゴラン・ダガームは波動砲を手に入れるため、ヤマトに攻撃を仕掛けた。ダガームからの通信を受けた古代進は、戦う意志が無いことを伝える。しかしダガームが船の明け渡しを要求したため、彼は毅然とした態度で拒否した。
ガトランティス艦隊がヤマトを攻撃すると、自由浮遊惑星が近くにあると知った古代は逃亡を指示した。彼が惑星への降下を指示すると、宇宙生物の群れがヤマトに張り付いた。宇宙生物はエネルギーを吸収し、ヤマトの出力は低下した。古代がワープを進言すると、真田志郎は承諾した。ヤマトはワープによって宇宙生物を振り切り、ガトランティス艦隊から逃げ延びた。しかしボイド空間に迷い込んでしまい、ヤマトは操舵不能に陥った。
ヤマトは未知の惑星にある人工的な浮遊物に引き込まれ、真田は沖田十三に「何者かの意志が介在していると考えるのが妥当です」と報告した。古代、新見、美影、沢村翔、相原義一は惑星探査用の特殊艇「コウノトリ」に乗り込み、調査のために海へ潜る。桐生は女性の歌声を聞き、ヤマトではコウノトリとの通信が途絶えた。惑星表面に異変が発生し、コウノトリは海を突き抜けて地球の熱帯雨林に似た場所に出た。コウノトリはガミラスからのメーデーを受け取り、古代たちはジャングルを捜索することにした。
ジャングルに入った美影は、来たことがあると告げた。小さい頃、母のフィールドワークに同行した時に見た景色と似ていると彼女は語る。一行がメーデーの発信源に辿り着くと、そこには戦艦「大和」の残骸があった。謎の構造体が惑星表面を覆い尽くし、ヤマトは物理的にコウノトリと隔絶された。古代たちが大和に入ると、救難信号は消えた。美影は「やっぱり来たことがある」と言い、大戦中に大和ホテルと呼ばれた場所だと沢村に教えた。
入口が勝手に閉じて消滅し、大きな絵画に変化した。沢村は焦り、相原はヤマトと交信できなくなっていることに気付いた。一行が船の奥へ進むと、バーガー、ネレディア、バーレン、クリム・メルヒの4人がいた。古代たちはザルツ人だと誤認され、バーガーは美影にメリアの面影を見た。いつの間にか古代たちの持っていた銃は消え、服装も変化していた。所属を問われた古代は「極秘任務なので言えない」と説明し、納得してもらう。バーガーたちは「色々と試したがホテルからは出られない」と言い、5人を部屋に案内した。
古代たちは脱出の方法を模索しながら、奇妙な共同生活を送ることになった。1週間が経過して食糧が減り、メルヒは苛立ちを見せた。美影は「飢えは争いを呼び覚ます」というジレル人女性の声を耳にするが、他の誰も聞いていなかった。ネレディアは彼女に、ジレル人は絶滅した種族だと語る。桐生からジレル人について問われたバーガーは、人の心を読む化け物のような種族だと答えた。さらにバーガーは、ガミラスにジレル人の生き残りである女性が2人いたことを教える。一方、ダガームはガトランティス丞相のシファル・サーベラーから、大帝のために静謐の星を見つけ出す任務を必ず達成しろと釘を刺された…。総監督・脚本は出渕裕、原作は西ア義展、企画は石川光久&河野聡&西ア彰司、プロデューサーは群司幹雄&藤澤宜彦&鈴木忍、統括プロデューサーは上山公一&古川寛高&黒田康太、制作プロデューサーは下地志直&小山剛弘、CGディレクターは上地正祐、チーフメカニカルディレクターは西井正典、チーフディレクターは別所誠人、アソシエイトプロデューサーは森下勝司&大河原健&田中快&黒澤豪&松原哲也&松本英晃&有吉篤史&飯塚寿雄&柴田昭男、エグゼクティブプロデューサーは長谷川隆一&三本隆二&小野口征&後藤能孝&二宮清隆&吉田健太郎&奥野敏聡&井上俊次、キャラクターデザインは結城信輝、メカニックデザインは石津泰志&玉盛順一朗、セットデザインは青木薫&高倉武史&小林誠、撮影監督は青木隆、美術監督は谷岡善王、色彩設定は鈴城るみ子、編集は小野寺絵美、構成協力は山文彦、脚本協力は大野木寛、総作画監督は結城信輝、メカ総作画監督は西井正典、色彩設定は鈴城るみ子、美術監督は谷岡善王、CGプロデューサーは今西隆志、音響監督は吉田知弘、音楽プロデューサーは西ア彰司、音楽は宮川彬良、エンディングテーマ『Great Harmony 〜for yamato2199』は平原綾香。
声の出演は菅生隆之、小野大輔、岩男潤子、桑島法子、鈴村健一、大塚芳忠、久川綾、中村繪里子、近木裕哉、國分和人、赤羽根健治、千葉優輝、千葉繁、麦人、土田大、藤原啓治、細谷佳正、平川大輔、田中理恵、チョー、諏訪部順一、園崎未恵、立花慎之介、ふくまつ進紗、広橋涼、田坂浩樹、宇垣秀成、茂木たかまさ、石塚運昇、小川真司、江原正士、森功至、東地宏樹、雨谷和砂、吉開清人、斉藤次郎、階俊嗣、河本啓佑、大友龍三郎、甲斐田裕子、田中正彦、石井康嗣、浜田賢二、伊勢文秀、菊本平、坂巻学ら。
「宇宙戦艦ヤマトシリーズ」40周年記念作品として製作された長編アニメーション映画で、『宇宙戦艦ヤマト2199』のサイドストーリー。
総監督と脚本は『宇宙戦艦ヤマト2199』の出渕裕が務めている。
沖田役の菅生隆之、古代役の小野大輔、森役の桑島法子、島役の鈴村健一、真田役の大塚芳忠、新見役の久川綾、美影役の中村繪里子、沢村役の近木裕哉、バーガー役の諏訪部順一らは、『宇宙戦艦ヤマト2199』の声優陣。
他に、桐生悟郎を森功至、斉藤を東地宏樹、永倉を雨谷和砂、ネレディアを園崎未恵、メルヒを立花慎之介、ミルトを広橋涼が担当している。
『宇宙戦艦ヤマト2199』の第24話と第25話の間に起きた出来事という設定になっている。『宇宙戦艦ヤマト2199』の終盤において、ヤマトの面々は波動エネルギーを兵器に転用したことをスターシャから批判されている。そしてスターシャはヤマトそのものをコスモリバースに作り替え、波動砲は封印された。
スターシャと約束を交わしたばかりなので、今回は簡単に波動砲を使うわけにはいかないという状態になっている。
ただ、「何が起こっても俺たちは波動砲無しで切り抜けるしかない」とか「波動砲が使えれば」という台詞はあるものの、その制限を充分に活用できているとは言い難い。
例えば「大ピンチで誰かが波動砲を使うべきだと主張し、古代が反対する」とか、「決断に迫られて波動砲を使うべきかどうか苦悩する」といった厚みや深みのあるドラマは用意されていない。宇宙生物の群れがヤマトに張り付いて出力が低下するのは、ピンチのシーンではある。ただ、ガトランティスの戦艦も宇宙生物のせいで沈んでいるんだよね。
むしろダメージとしては、ガトランティス艦隊の方が大きいかもしれない。なので、なんか違うなと。
しかも、そこから「別空間に迷い込んで云々」という展開に突入するので、ますます「ガトランティスに襲われたヤマトが、戦闘を避けながら何とか切り抜けようとする」というミッションからは遠ざかってしまうのだ。
オープニングから「ガトランティスの脅威」をアピールしておいて、ガトランティスとの戦いの図式から簡単に外れるってのは、どういう計算があってのことなのか。古代たちが大和ホテルに入ると、「俺は『宇宙戦艦ヤマト』を見ているはずなのに、いつの間にか『スター・トレック』になっていたぜ」みたいな状態になる。
完全に合致する作品があったわけじゃないけど、何となくTVドラマ版『スター・トレック』のエピソードみたいなノリを感じるのよね。
そもそも『宇宙戦艦ヤマト』で『スター・トレック』をやること自体に違和感はあるが、それでもTVシリーズの1エピソードとしてなら、まあ構わないかなあと思う。
でも、長編映画でそれをやるのは違うんじゃないかと。しかも、持ち込むなら持ち込むで徹底してミステリーをやればいいものを、そこに集中できているわけでもないんだよね。バーガーが美影にメリアの面影を見るとか、美影と沢村の間に恋愛感情が芽生えるとか、変なトコに色気を出しちゃってるんだよね。
それが作品全体に厚みをもたらしているのかというと、ドラマとしては中途半端に終わっているし。肝心なミステリーの方も、薄味になってるし。
あとさ、美影を語り手として使うのは別にいいけど、森雪の存在意義がゼロに等しいってのは、いかがなものかと思うぞ。
今回の森雪って、ほぼ何もしてないよね。「ヤマトとガミラスの面々がガトランティスを倒すために共闘する」という終盤の展開に全くワクワクしないのは、ホテルでのドラマが不足しているってのが最大の原因だ。
古代とバーガーの間に対立が起きるタイミングが遅いし、バーガーが古代たちの正体を知って怒りを見せたと思ったら、その直後に和解しているし。
「憎しみはあったけど、相手を少しずつ理解して気持ちに変化が訪れる」みたいな充実したドラマは、全く用意されていないんだよね。ガトランティスの位置付けや描き方が不充分なのも、終盤の高揚感が乏しい要因として少なからず影響している。
「ガトランティスが捜索していたのは大和ホテルがある星だった」ってことにして、そこまで分離状態にあった「ヤマトがガトランティス軍から狙われる」というエピソードと「大和ホテルでヤマトのとガミラスの面々が呉越同舟する」というエヒソードを繋ぎ合わせているが、後付けの設定みたいな形になっているし。
あと「ガトランティス軍」と書いたけど、正確に言うと「ガトランティス軍のごく一部」に過ぎないのよね。ダガームの艦隊がヤマトを狙うのは「ガトランティス軍」としての指令じゃないし、波動砲を奪おうとする理由は何となくフワッとしているし。
終盤に入ると完全に「反乱分子」になっちゃってるし、だから「強大な敵」という印象は受けないんだよね。最終決戦では「バーガーが仲間を助けるために自らを犠牲にして戦う」という展開があるが、「無理があり過ぎるなあ」と感じるだけだ。
「材料が全く足りていないのに調理したけど、やっぱり美味しく仕上がらなかった」という感じになっている。
だから「バーガーは無事に生き延びていた」と判明しても、脱力感に見舞われるだけだ。
あと結局、「美影とメリアが瓜二つ」という設定は、ほとんど意味が無いモノになっているよね。それが理由でバーガーが美影を救おうとするとか、彼女に疑似恋愛するとか、そういうことも無いし。(観賞日:2024年8月12日)