『ウェディング・ハイ』:2022、日本

結婚式場の「マトリモーニオ・トーキョー」でウエディングプランナーとして働く中越真帆は、バスから降りる人々を笑顔で出迎えた。彼女は「おめでとうございます」と声を掛けた後、新郎新婦と親族が待機している部屋へ赴いた。彼女はノックしてからドアを開けると、「時間です」と告げた。新郎の石川彰人と新婦の新田遥が出会ったのは2年前だ。遥は大学時代から付き合っていた彼氏と別れたばかりで、彰人は独身生活を謳歌しながらも同級生が次々と結婚していく状況に若干の焦りを覚えていた。
そんな中、彰人と遥は共通の友人を通じて知り合った。彰人の猛アタックで、2人は出会ってから1ヶ月後に付き合い始めた。そして交際から約1年で彰人がプロポーズし、遥は快諾した。遥は式場選びを始めるが、彰人は準備が面倒だったり予算が掛かったりすることから本音では結婚式が嫌だった。しかし今後の夫婦生活を円滑にするため、遥の意思を尊重した。遥は気に入った式場を見つけ、ブライダルフェアを予約した。彰人と遥は真帆のカウンセリングを受け、式場を見学したり今後のことを打ち合わせたりした。
彰人は遥から、オーバークロスの色について意見を問われた。カタログを眺めた遥は「選り取り見取り」と感じるが、彰人は「選択地獄」と辟易していた。どうでもいいと思っている彰人だが、喧嘩になるのを避けるため、真剣に選ぶフリをした。選んだ理由を問われた彼は、適当に答えを捻り出した。すぐに遥が「私はこの色が気に入ってる」と別の色を挙げたので、彰人は賛同するフリをした。その後も彰人はウェディングドレスや靴の選択を求められ、真剣に選ぶ芝居を余儀なくされた。
彰人と遥は真帆に会い、式の日取りを4月18日の昼間に決めた。遥は上司の井上課長、彰人は上司の財津部長に、結婚式での挨拶を頼んだ。遥は高校のダンス部からの親友である沙和と里奈に、余興でのダンスを頼んだ。彰人は結婚式に招待する客の線引きに、頭を悩ませた。彼はバーへ行き、高校からの親友である直樹、洋一、誠と酒を飲んだ。マスターの村木は彰人と初対面だが、結婚を知って酒を出した。彰人が直樹たちに余興で太鼓を叩くよう頼むと、村木は「楽しみだなあ」と口にした。彰人は村木も呼んだ方がいいのかと考え、直樹たちに相談する。村木が「投げ縄を余興でやろうか」と売り込むので、彰人は結婚式に招待することにした。
遥は大学のサークルで先輩だった倉田大輔と遭遇し、来月の18日に結婚することを決めた。彼女は「人数の関係で高校の同級生までしか呼んでいない」と説明するが、それは嘘だった。大学のサークル仲間を呼ばないのは、元カレがいるからだった。実家に戻った彰人は親族と会い、父の紀夫が余興で手品をやりたがるので承諾した。叔父の充は縄抜けをやりたがるが、それは断った。遥は魚屋を営む父の大造がマグロの解体ショーをやりたがっていると母から聞かされ、仕方なく承知した。
結婚式当日。八代裕也は大学のサークルからの友人である宗介、大輔と一泊二日の温泉旅行に来ていた。前日の夜、彼は大輔から、元カノの遥が結婚することを聞かされた。裕也は遥に親が持ち込んだ見合い話を相談され、腹を立てて「すればいいんじゃない」と告げた。そのせいで喧嘩になり、2人は別れていた。宗介と大輔は結婚するのが見合いの相手だと決め付け、奪いに行くよう裕也をけしかけた。その時は平静を装って受け流していた裕也だが、翌朝になって奪いに行くと決意した。
宗介と大輔は応援し、裕也に同行した。時間的に式には間に合わず、裕也は披露宴会場へ乗り込むことにした。宗介と大輔は披露宴会場がゴチャゴチャしているので気を付けるよう助言し、入るタイミングも難しいと告げた。新婦を奪われる新郎側から民事訴訟で損害賠償を求められる可能性を彼らが指摘すると、裕也は心が揺らいだ。しかし彼は自分を奮い立たせ、マトリモーニオ・トーキョーに到着した。彼は澤田紀昭という男を見つけて披露宴会場を尋ねるが、「スタッフじゃないんで」と言われた。
澤田は場所を移動して椅子に座り、財津、充、相馬慎治と並んで煙草を吸った。相馬は彰人の高校時代の後輩で、結婚式の映像制作を依頼されていた。彼は高校時代に見たロシア映画に衝撃を受け、夢を抱いて映像制作会社に就職した。しかし任される仕事は街ブラ番組の撮影で、現在は先輩から引き継いだ『空気階段のぶらぶら街道』のディレクターを務めていた。このまま年を取って才能が枯れてること不安を覚える中、彼は彰人から結婚式の映像制作を頼まれた。彼は「自分の映画」として全力を注ぎ込み、渾身の映像を完成させた。
財津は3年前にキャバクラ嬢と不倫し、妻と娘にバレた。必死に謝って離婚は免れたが、家庭での居場所を失った。さらに自分のミスで会社でも不倫がバレてしまい、社員からの信頼は完全に失墜した。そんな中で彰人から結婚式でのスピーチを依頼され、財津は感激した。彼はイメージ挽回に繋がると考え、スピーチを練った。『空気階段のぶらぶら街道』を見た彼は笑いの重要性を感じ、落語やお笑い番組を見て研究した。彼はお笑いライブも観戦し、スピーチを完成させた。
披露宴会場では、相馬の手掛けた映像が流された。それはロシア語の字幕の付いた作家性の強い映像だったが、皆が感動して拍手したので相馬は充実感を覚えた。財津はスピーチで招待客を爆笑させ、満足感に浸った。井上は今までに何度も乾杯の音頭を担当し、お笑い芸人の真似で笑いを取って来た。しかし今回は財津が本物の面白スピーチを披露したことで、緊張と不安に見舞われる。彼は芸人の真似を捨てたスピーチで笑いを取り、喜びを感じた。
相馬の映像も財津と井上のスピーチも予定より大幅に長かったため、真帆とキャプテンの加藤友梨は焦りを覚えた。真帆は彰人と遥に予定より1時間も押していることを伝え、今のままでは披露宴の途中で切り上げることになると説明した。彰人と遥は余興を幾つかカットすることを提案され、仕方なく承諾しようとする。しかし不満を漏らす遥を見た彰人は今後の結婚生活を懸念し、何とか余興をカットせずに対処してほしいと真帆に要請した。
真帆は加藤とアテンダントの豊島瞳、アシスタントキャプテンの松波浩司を集めて状況を説明し、余興はカットしないと宣言した。4人は手分けして、沙和や直樹、紀夫、大造、総料理長、司会者の日下部郁美、相馬、遥の恩師の樋口良子たちに協力を要請した。真帆たちはケーキ入刀の時間を10分から3分に短縮し、樋口のスピーチも短く済ませてもらった。お色直しの退場時には、テンポの速い音楽を流した。コース料理はワンプレートに変更し、キャンドルサービスは一斉に点灯させ、お祝いメッセージは3分に再編集してもらった。余興は太鼓、ダンス、マジック、マグロの解体ショーを、同時に披露してもらった…。

監督は大九明子、脚本はバカリズム、製作は高橋敏弘&堀義貴&大熊一成&井田寛、エグゼクティブプロデューサーは吉田繁暁&津嶋敬介、プロデューサーは田渕みのり&石田聡子&河野美里&奥村麻美子、撮影は中村夏葉、照明は常谷良男、美術は西村貴志、録音は小宮元、編集は米田博之、音楽は見優、音楽プロデューサーは高石真美、主題歌は東京スカパラダイスオーケストラ『君にサチアレ』。
出演は篠原涼子、中村倫也、関水渚、岩田剛典、高橋克実、向井理、皆川猿時、中尾明慶、浅利陽介、前野朋哉、宮尾俊太郎、六角精児、尾美としのり、池田鉄洋、臼田あさ美、片桐はいり、泉澤祐希、八木将康、川野直輝、佐藤晴美、山田佳奈実、おくつようこ、大森つばさ、伊勢志摩、久保田磨希、中川大輔、岡野陽一、永島聖羅、原扶貴子、空気階段、ヒコロヒー、丸山優子、篤見澪、河邑ミク、高木直子、田所ちさ、井上源大、佐藤尊、川鍋花歩、佐藤真由美、鈴木夢、金島清史、田中帆乃佳、松本貴弘、川本龍輝、葉月美優、青木貞雄、太田正徳ら。


『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』の大九明子が監督を務めた作品。
脚本は『劇場版 架空OL日記』『地獄の花園』のバカリズム。
真帆を篠原涼子、彰人を中村倫也、遥を関水渚、裕也を岩田剛典、財津を高橋克実、澤田を向井理、井上を皆川猿時、相馬を中尾明慶、宗介を浅利陽介、大輔を前野朋哉、村木を宮尾俊太郎、大造を六角精児、紀夫を尾美としのり、充を池田鉄洋、加藤を臼田あさ美、樋口を片桐はいり、直樹を泉澤祐希、洋一を八木将康、誠を川野直輝、沙和を佐藤晴美、里奈を山田佳奈実が演じている。

映画の冒頭で中越真帆が登場し、「ウエディングプランナー 中越真帆」と文字が出る。そして「結婚式。それは婚姻を成立させるため、人々の前で結婚の誓約をする儀式」などと、真帆がナレーションを語る。
こういう始まり方なのだから、彼女が主人公だと思うのは不思議じゃないだろう。
ところが真帆が「時間です」と告げて彰人と遥が部屋を出ると2人の名前が表示され、彰人と遥がナレーションを担当する展開に入る。
そんなに簡単に視点を移動させるのなら、最初から「彰人と遥の物語」として始めれば良くないか。

彰人はオーバークロスの色について訊かれる直前、同棲中の部屋で観葉植物を眺めると「俺の植物」とスーパーインポーズが出る。
同様に、彼が部屋を眺めると「俺の城」、近所の住人を見ると「俺のご近所さん」、スカイツリーを眺めると「俺のスカイツリー」と出る。
彰人はベッドにはジャマを畳んで置いてあるが、それを遥が何も気にせず移動させると「そうですか」と心の声が出る。
そんな感じで、結婚式を挙げる当事者の心情を描くことが中心になる。
だったら最初から、それでいいだろ。真帆から始めたのは何だったのか。

ナレーターが早々と彰人と遥に交代した後は、結婚に関するデータも挿入し、「結婚式を無事に迎えるまでのハウツー物」っぽい方向性も見える。だが、その方向性がずっと続くわけではなく、その箇所だけで終了する。
「彰人が本音を隠して遥に合わせている」ってことが最初に提示されるので、そこを使って喜劇を進めて行くのかと思いきや、そういうわけでもない。
式の日取りが決まった後、遥が準備をする様子も色々と描かれる。
でも、そこに笑いの種は何も無い。

彰人が村木を招待すると決めるのは、「なんでそうなるんだよ」と言いたくなる。
もちろんギャグとして用意された手順なのは分かっているけど、あまりにも無理がある。「彰人が頼まれたら断れない性格」ということで押しているならともかく、そうじゃないからね。
そして準備のパートが済んで結婚式当日に戻ると、今度は裕也の視点に切り替わる。グランドホテル形式になっているのかというと、そういうことではない。
だから、「ただ視点が散っているだけ」になっている。

裕也が遥を奪いに行こうとするのは展開の強引さが気になるが、喜劇としては分からなくもない。
ただ、本人が冷静な判断力を欠いて暴走するのはともかく、宗介と大輔がノリノリで同行するのは違うだろ。
冗談でけしかけたのに、本気になったので焦るとか、止めようとするとか、そういう動かし方をすべきだろ。
こいつらも同調させたら、「裕也がヤバいことを言い出してる」ってのが笑いにならない。
あと、裕也が遥と付き合っていた頃を振り返るパートは、完全に時間の無駄遣い。

裕也は遥を奪うために会場へ向かおうと決意したのに、温泉旅館を出る時に何枚も写真を撮影したり、途中のサービスエリアで食事休憩を取ったりする。これは、どういうつもりで持ち込んだ演出なのかサッパリ分からない。
宗介と大輔がノンビリしていて、裕也が急かしたり焦ったりするってことなら分かるのよ。でも裕也も一緒になって、呑気な行動を取っているのだ。
これだと、どう頑張っても笑いに繋がることは無いでしょ。
あと、「教会じゃなくて披露宴だと難しい」などと言われても裕也は全く意に介していないのに、損害賠償のことを言われた途端に動揺するのはギャグの見せ方として半端。
それなら、宗介と大輔が何気なくネガティヴなことを言う度に裕也が動揺する形にしておいた方がいい。

澤田が場所を移動して煙草を吸い始めると、相馬のナレーションで「相馬のこれまで」の回想パートに入る。それが終わると、今度は財津のナレーションで「財津のこれまで」の回想パートに入る。
でも「相馬が渾身の映像を完成させた」ってことに触れるなら、そのまま実際に映像が流れる手順へ移った方がいい。
それを後回しにするなら、「結婚式に関連して色々な思いを巡らす人々」の様子を何人も並べて、後半に入って一気に「その結末」を描く構成にした方がいい。
相馬と財津だけで終わるのは、中途半端だと感じる。

あと、相馬が結婚式の映像を「自由に作る自分の映画」と捉えて全力を注ぐのは、コメディーとしての誇張にしても無理がある。
それは、財津がスピーチを依頼されて感動し、「イメージ挽回のため」と意気込むのも同様。
たかが結婚式のスピーチぐらいで、不倫で失墜したイメージの回復なんて無理だろ。
相馬が作ったゲージツ気取りの映像で全員が感動するってのも、あまりにも不自然だわ。どう考えても、ポカーンとされるのがオチだろ。

財津にしろ井上にしろ、「スピーチで笑いを取って満足する」というエピソードでは何の笑いも生まれない。
そのスピーチ自体で、実際に映画の観客を笑わせようとしているわけでもないしね。むしろ、そごて笑いを取るのは無理だと判断したのか、全く内容は見せていないし。
その判断は正解だと思うけど、「緊張して臨んだスピーチで爆笑を取って喜ぶ」というネタ自体は、どういう狙いがあるのか謎だ。
単純に、「成功して良かったね」と思わせたかったわけでもあるまいに。

真帆とスタッフが披露宴の時間短縮に挑む作戦が開始されると、「ここだけで1本の映画にすれば良かったんじゃないの」と思ってしまう。
真帆が時間短縮に挑むことを決意すると、彼女の語りで「これまで」を回想するシーンが挿入されるが、豊島が話し掛けて途中で遮る。その後、沙和と直樹も「これまで」を振り返ろうとして、途中で遮られる。
こういうネタをやるために、あえて裕也や相馬や財津たちで「これまで」を回想するパートを何度も用意していたのかもしれない。ただ、仮にそうだとしても、それを含めても要らないなあ。
「途中で遮る」という1つのギャグと引き換えにするには、マイナスの方が圧倒的にデカいからね。

時間短縮作戦が始まっても、ちっとも話は面白くならない。ワンプレートに変更するのも、キャンドルサービスを一斉に点灯させるのも、お祝いメッセージは3分に再編集するのも、ただ「上手くやったな」と感じるだけで、どこにも笑いの種は無い。
4つの余興を同時に披露してもらうのも同様だ。だからって、「感心する」という方向で面白さが感じられるわけでもない。
余興を見た招待客は拍手しているけど、「素晴らしい余興を見た」という感激は皆無だ。
全ての場面において、面白さの担保が机上の空論で終わっている印象だ。

披露宴が終わっても、まだ時間はたっぷりと残っている。
後は何をするのかと思ったら、「実は披露宴が開かれている裏で、こんなことが起きていました」ってことで、逃亡犯が逮捕されるまでの様子を回想シーンで描く。
その前から逃亡犯は登場しているし、逮捕には裕也や村木が関与しているので、唐突に挿入される全く無関係なエピソードというわけではない。
だけど綺麗に伏線を回収しているわけでもなく、ハッキリ言って蛇足になっている。

(観賞日:2023年10月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会