『うずまき』:2000、日本

黒渦町に住む女子高生の五島桐絵が走っていると、同級生の山口満が急に現れて驚かせた。「僕と付き合ってくれないか?」と言われるが、 桐絵は本気にせず、「ごめんなさい、ホント急いでるの」と立ち去った。彼女は幼馴染みの斎藤秀一の父・敏夫が道でしゃがみ込み、 カタツムリにビデオカメラを向けているのを見掛けた。声を掛けても、敏夫は全く反応しなかった。
トンネルで秀一を待ち受けた桐絵は、自転車の後ろに乗せてもらった。秀一は自転車を走らせ、美容室の前を通過した。店員の希実ミキは 、看板が無くなっていることに気付いた。桐絵はブランコに座り、敏夫を見掛けたことを秀一に告げた。秀一は「親父は最近、ちょっと 変なんだ」と漏らす。この頃、秀一は元気が無かった。秀一から「俺と駆け落ちしないか。そんなこと出来るわけないよな」と言われ、 桐絵は戸惑った。「気にしないでくれ」と秀一は告げた。
桐絵の父・泰雄は陶芸家で、美術賞を獲得した。工房を敏夫が訪れ、ろくろを回す作業風景をビデオカメラで撮影した。彼は「陶芸こそ、 渦巻きの芸術と言っていい。どうです、私に一つ作ってくれませんか、特別、目の回ってくれそうな皿を一枚。表には渦巻き模様を描いて ください」と言い出した。「私はね、渦巻きというものに何やら神秘的なものを感じるんですよ。渦巻きは素晴らしい」と、敏夫は言う。 ビデオカメラを異常に近付けてくるので、泰雄は困惑した。
桐絵は昔のアルバムを見て、秀一との幼い頃の思い出を回想した。桐絵の母が死んだ時、秀一は励ましてくれた。翌日、桐絵が学校で親友 の石川志穂と一緒に歩いていると、また山口が急に現れた。志穂が「そんなことして気を惹こうとしても、桐絵には恋人がいるからムダよ」 と言っても、山口は「斉藤秀一だろ、あんな暗い奴、ほっとけよ」と、まるで気にする様子を見せなかった。
学校の螺旋階段から男子生徒の宮崎が墜落死し、目撃した桐絵はトイレへ駆け込んで嘔吐した。宮崎はアクロバットの真似をしていて転落 したらしい。志穂が「あの死に顔、笑ってるように見えなかった?普通笑うか」と口にすると、個室から関野恭子と子分2人が現れた。 関野は「彼は幸せだったのよ」と言い、煙草を吹かした。煙草をドアに擦り付けると、小さな爆発音がした。彼女たちは「他人から注目 されるって幸せなことじゃない?」「注目されない人間なんて生きている意味が無いわ」などと述べた。
桐絵から話を聞いた秀一は、「その階段って螺旋階段だろ。渦巻きだ」と言う。彼は「渦巻き模様は人の目を中心に惹き付ける力がある。 だから、渦巻きに取り憑かれた人間も人の目を惹き付けようとするんだ。その死んだ奴も、きっと渦巻きに取り憑かれたんだ」と言う。 「この町に禍々しいものを感じる。渦巻きに呪われている」と彼は語るが、桐絵は何も感じなかった。
秀一は「親父の渦巻きへの凝り方は異常だ。会社にも行かず、町で見つけた渦巻き状のものを集めて、それに見入っている。病気だよ」と 語る。昨晩も敏夫は、美容室の看板が渦巻き模様だったので、それを盗んで帰宅した。夕食の席では鳴門巻きばかり食べ、味噌汁を箸で かきまぜて渦を作ったという。桐絵が笑うので、秀一は「笑い事じゃないんだ。ウチに来れば分かる」と告げた。
秀一が桐絵を伴って帰宅すると、母の雪枝が敏夫に殴られていた。敏夫の渦巻きコレクションが全て捨てられていたからだ。秀一は「俺が 捨てたんだ」と明かし、雪枝は「昔の貴方に戻って、目を覚まして」と頼む。すると敏夫は「渦巻きってのは、別にモノじゃなくても 構わない。渦巻きは自ら作り出すものなんだ。自分の体で表現できるんだ」と言い出した。彼はメガネを外し、黒目をグルグルと高速回転 させて渦巻きを作った。それを見た桐絵は失神した。
そんな出来事があって以来、桐絵は秀一を避けるようになった。ある雨の日、クラスメイトの片山徳夫が遅刻して教室に現れた。彼の体は ヌルヌルだった。最近、片山は雨の日しか学校に来ない。クラスメイトの津村一樹は、生物教師・横田育男に「そいつ、めちゃくちゃ足が 遅いんですよ、カタツムリの方が速い」と告げて笑った。片山が席に着こうとするので、津村は足を引っ掛けて転倒させた。津村は片山を 見下ろして「気持ち悪いんだよ」と漏らし、蹴り飛ばした。片山の背中が、異様に盛り上がった。
大雨の中、桐絵の帰り道に、また山口が出現した。彼はプレゼントの箱を差し出し、しつこく「開けてみて」と迫る。桐絵が開けると、 ビックリ箱だった。「もうやめて、これ以上、アタシに構わないで」と桐絵は走り去るが、山口は「必ず君を振り向かせてみせる」と全く 諦める様子を見せなかった。帰宅した桐絵は、泰雄から完成した皿を敏夫の元へ持って行くよう頼まれた。
桐絵が斎藤家へ行くと中は暗く、誰も出てこなかった。裏へ回った桐絵は、洗濯機の中で死んでいる敏夫を見つけて絶叫した。葬儀の時、 雪枝が空を見て悲鳴を上げた。火葬場の煙が渦を巻いていたのだ。雪枝は倒れてしまい、救急車で病院へ運ばれた。桐絵は、渦巻きの煙が とんぼ池へ向かうのを目にした。秀一は桐絵に、「手遅れにならない内に、この町を出よう」と持ち掛けた。
桐絵が秀一と話していると、緑山新聞社社会部の田村一郎が現れた。数週間前、敏夫が会社を訪れて「町の歴史が知りたい」と言うので、 資料を見せたという。「なぜ彼が奇妙な死に方をしたか、記事にしたいわけじゃなく、それを突き止めたい。その死には深い意味がある ような気がする」と、彼は言う。秀一は父が撮影していたビデオの映像を見せた。敏夫は死ぬ時もビデオを回していた。彼は洗濯機に雪枝 の手鏡を持ち込んでいた。ビデオを預からせて欲しいと田村が言うので、秀一は貸し出した。
桐絵が田村に車で送ってもらうと、泰雄が道に飛び出してきた。泰雄は泥だらけで、「平気だよ。とんぼ池の土を取ってきたんだ」と言い、 ヘラヘラと笑った。秀一が病室に行くと、雪枝は渦巻きを恐れるあまり、指紋を全て削ぎ落としていた。夜、悪夢で目を覚ました桐絵は、 陶器が割れる音を耳にした。工房へ行くと、泰雄は「早く戻って寝なさい」と怒鳴った。
桐絵は体育の授業中、関野の髪が異常なほどカールしているのを目にした。関野は、その渦巻きヘアーを得意げにアピールした。津村は 異常に水分を摂取し、その背中は盛り上がっていた。田村は書物を集めて鏡と蛇信仰の関係を調べ、とんぼ池から大量の古鏡が発掘された 記事に着目した。桐絵が見舞いに行くと、秀一は「お袋は渦巻きの形をしたものは全て親父の最後の姿に見えるっていうんで、指紋や旋毛 も見せないようにしてる」と言う。病室へ行くと、雪枝は指と頭に包帯を巻いていた。
秀一は田村からの連絡で、「有力な手掛かりが得られたからとんぼ池に向かう。君も来てくれないか」と告げられた。桐絵が秀一と共に 歩いていると、山口が現れた。彼は「永遠に僕を忘れられないようにしてあげるよ」と言い、田村が運転する車の前に飛び出した。山口は 車にはねられて死亡し、田村も衝突によって命を落とした。雪枝は敏夫の幻覚に見舞われ、自ら命を絶った。彼女が焼却された時の煙も、 やはり大きな渦を巻いた。さらに、その渦の中には、雪枝の顔が浮かび上がった…。

監督はHiguchinsky、原作は伊藤潤二、脚本は新田隆男、脚本協力は保尾知佳、プロデュースは三宅澄二、企画プロデューサーは宮崎大、 プロデューサーは陶山明美&椋樹弘尚&梶田裕貴、エクゼクティブプロデューサーは黒澤満&横濱豊行、スーパーバイザーは梶研吾、撮影 は小林元、Avid編集は遠山千秋、ネガ編集は三陽編集室、録音は鶴巻仁、照明は和栗一彦、美術は林田裕至、ビジュアル・エフェクト・ スーパーバイザーは小田一生、ビジュアル・エフェクト・プロデューサーは小林謙一、特殊造形は原口智生、CGIディレクターは 大塚康弘、陶芸指導は松井寛、音楽は鈴木慶一&かしぶち哲郎、エンディング・テーマは「Raven」Do As Infinity。
出演は初音映莉子、フィーファン、大杉漣、高橋惠子、堀内正美、佐伯日菜子、諏訪太朗、でんでん、手塚とおる、阿部サダヲ、 シン・ウンギョン、三輪明日美、高野八誠、仲根紗央莉、田中康暉、村上有紀、浜田麻希、大山琢人、深津智男、瑞木智乃、松田章、 滝本ゆに、丹野由之、冬雁子、西川亘、林真奈美、御幸菜穂子ら。


小学館の「週刊ビッグコミックスピリッツ」で不定期連載された伊藤潤二の同名漫画を基にした作品。
監督のHiguchinskyはミュージック・フィルム出身で、これが映画デビュー。外国人じゃなくて、本名は樋口暁博。ケラリーノ・ サンドロヴィッチみたいなモンか。
桐絵を初音映莉子、斎藤秀一をフィーファン、敏夫を大杉漣、雪枝を高橋惠子、田村を堀内正美、関野を佐伯日菜子、泰雄を諏訪太朗、 山口を阿部サダヲ、志穂を三輪明日美、津村を高野八誠が演じている。

初音映莉子とフィーファンの芝居が完全に学芸会レベル。
ちなみに「フィーファンって誰だよ?」と思ったら、男性ファッション誌のモデルだったらしい。
2人とも、わざと気の抜けたような芝居を付けているのかと思うぐらい、大根芝居だ。何となく、1980年代辺りの自主制作映画って、 こういう風なノリがあったようなイメージがあるけど。
眠気が来て欠伸をする際の初音映莉子の大根芝居とか、もう完全に「わざとだろ、それは」としか思えない。やたらと不自然で不必要な セリフやリアクションを入れる辺りも、1980年代の自主制作映画チック。カメラワークや編集の不器用な感じまで、自主制作っぽさがある。
もしくは、ちょっとノスタルジーを醸し出そうという意識が感じられる辺りからすると、大林宣彦を意識してるのかな。
大杉漣や高橋惠子はキッチリとした芝居を見せていて、それと若いメンツによる気の抜けた学生芝居とが、まるでフィットしていない。
全員を恥ずかしくなるような学芸会テイストに統一してあるならば、それはそれで、やり方次第では何とか形になったかもしれない。
でも、そこを統一しようとする意識が見えないってことは、それは演出じゃなくて単純に大根ってことか。

他にも、色々と引っ掛かる箇所がある。
まず冒頭、トンネルで秀一を待ち受けた桐絵が「お帰りなさい、今日は私の勝ちだね」と言うが、どういう勝負だったのかサッパリ 分からない。
螺旋階段から宮崎が墜落死する前のシーン、廊下の左右でうなだれて突っ立っている複数の生徒がいるが、それを桐絵と志穂が無視 するのは何なのか。
もちろん演出として生徒を無言で立たせているんだろうけど、それはどういう狙いなのか。墜落死を見たのに、志穂が全く動じていない のは何なのか。

片山が遅刻して教室に現れた時、津村は「めちゃくちゃ足が遅いんですよ」と笑い、志穂も「片山ってホント動き鈍いよね」と言うが、誰 もヌルヌルを気にしないのは何なのか。
片山の背中が盛り上がっているのに、誰も指摘しないのは何なのか。
そういう「普通なら気にするポイント」を華麗にスルーする不条理さを受け入れさせようとするのなら、有無を言わさず巻き込む圧倒的な クレイジー・パワーが必要なはずだか、そういうモノは全く無い。
あるいは、「ヒロインだけは変だと気付いているが、周囲は平然と受け入れている」という形にするか、「巻きの不条理さも含めて 受け入れるか、そういうことなら、まだ納得できるけど。

変なことが色々と起きても、死者が増えても、ちっとも恐怖は高まらない。すげえ淡々と進んでいく。
だって、恐怖がエスカレートしていくような演出やシナリオになってないんだから当然だ。
ただ単に、奇妙な奴らがいて、奇妙な出来事が起きるのを、順番に並べているだけで、少しずつ恐怖に侵食されていく、不安が広がって 行くという印象が全く無いのよ。
渦巻きに魅入られる病、及び渦巻き恐怖症がエスカレートしていく、広がって行くという印象に関しても同様。

人間の体の一部が渦巻き状に変化したり、ヒトマイマイに変貌したりという特殊メイクでグロテスク&おバカな見世物小屋感覚を体験 させてくれるのかと思いきや、そこもチープ。
っていうか、背中が盛り上がるんだから、服を突き破って殻が出現し、人間から完全なるヒトマイマイの姿に変貌する過程を見せてくれる のかと思いきや、バッサリと省略してしまう。
っていうか、たぶん伊藤潤二だから、原作も普通のホラーじゃなくて、シュールでコミカルな部分のある怪奇モノなんじゃないかと推測 されるわけで、それを映像化するとなると、開き直っておバカホラーにするか、ジャパニーズ・ホラーにするために思い切り脚色して しまうか、どっちかじゃないとキツいんじゃないかなあ。
正直、いわゆるJホラーの枠内で企画するとしたら、伊藤潤二の作品って映像化に向いているとは思えないんだよなあ。

もっと「渦巻きの虜になる」とか「渦巻き模様になって死ぬ」とか、そういうところを「恐怖が突き抜けると滑稽になる」という風に 捉えて、そういう方向性で強調して作った方が良かったんじゃないの。
まあ、どうであれ、映像的なインパクトが弱いし、おまけに話が進むに連れてショボくなっていくという始末なんだから、どうしようも ないわな。
予算の問題はあるだろうけど、それを言い訳に出来ないほどショボい。
ただ不条理をダラダラと垂れ流しているだけでは、映画にならないのよ。

(観賞日:2010年2月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会