『美しい星』:2017、日本

大杉重一郎は誕生日を迎え、レストランで家族と夕食を取ろうとする。しかし妻の伊余子と娘の暁子は来たが息子の一雄が現れず、重一郎は「来れないなら最初にそう言えよ」「時間を自由に使えるからフリーターなんだろ」と悪態をつく。伊余子がなだめても彼の苛立ちは収まらず、「まだ就職する気ねえのかよ」と吐き捨てた。電話が掛かって来ると、彼は席を外した。ファンから握手と写真撮影を求められ、彼は笑顔を作って応じた。一雄が店に来ると、重一郎は席へ行くよう指示した。重一郎はテーブルへ行き、「こういうイベントってまだ必要?」と面倒そうに言う。彼は母と妹の前で、父への嫌悪感を露骨に示した。
翌日、今野彰がキャスターを務めるニュース番組では、参議院の温暖化対策委員会に参加した自友党の鷹森紀一郎が次世代エネルギー研究開発の推進を訴える様子が報じられた。気象予報士の重一郎は待機している最中、アシスタントの中井玲奈にぶっきらぼうな態度を見せた。本番に入ると彼は笑顔を浮かべ、愛嬌を振りまいた。仕事を終えた彼はホテルへ行き、愛人の玲奈とセックスした。帰りの車で、重一郎は近藤を馬鹿にする言葉を並べ立てた。目の前が急に光に包まれ、彼は意識を失った。
重一郎は車ごと田んぼに突っ込んでおり、通り掛かった警官に起こされた。彼が遅刻してテレビ局に着くと、玲奈が代役を務めていた。重一郎は本番を終えた玲奈に声を掛け、「車で話している途中から覚えてないんだ。何か光ったでしょ」と言う。しかし玲奈は全く理解できない様子で、重一郎が「薬を飲ませて仕事を奪ったな」と疑いを掛けられて「変なこと言わないで下さい」と怒った。重一郎は近藤に謝罪し、「しばらく休んでもいいよ」という旨の冗談を言われた。
重一郎は空を撮影しているADの長谷部収に気付き、声を掛けた。長谷部がUFOを撮ろうとしていることを聞いた重一郎は、昨晩の体験を説明した。すると長谷部はアブダクションだろうと言い、重一郎に専門書を貸し出した。重一郎はアブダクションの証拠である痣が体に残っていないか調べるが、何も見つからなかった。重一郎は玲奈を連れ出し、何か変なことは無かったかと尋ねた。玲奈は何も心当たりが無い様子で、重一郎が体の痣を調べようと服の中を覗き込むと大声を上げて拒否した。夜の番組でNASAが火星表面の水の観測に成功したニュースが報じられ、それを見た重一郎は涙をこぼした。
メッセンジャーとして働く一雄は、高校時代の野球部の後輩である阿部に声を掛けられた。阿部はサラリーマンとして働いており、一雄の恰好を見ると自由で羨ましいと述べた。彼は高校時代の一雄が本気でプロを目指していたと感じており、仲間も同じ気持ちだったと明かす。今でもメッセンジャーの仕事で体を鍛えているのかと尋ねられた一雄は、「アホか」と軽く笑って否定した。阿部は会議のために去る時、一雄の姿を連射で撮影して「谷口とかに送ってもいいですか」と告げた。
仕事に戻った一雄は、危険な運転をする車と激突しそうになった。腹を立てた一雄は、無視して走り去る車を追い掛けた。車は駐車場で急に停止し、ドアが開いた。一雄が避けられずに自転車から落ちると、三輪直人という男が出て来て取り押さえた。三輪は一雄の服を調べ、怪しい物を持っていないことを確認した。車に乗っていたのは鷹森と第一秘書の黒木克己、第二秘書の三輪で、一雄は悪質なパパラッチと勘違いされたのだ。鷹森は一雄に謝罪し、名刺を渡した。
一雄は恋人とプラネタリウムへデートに出掛け、鷹森との一件を話した。彼がキスして体をまさぐると、恋人は「ちょっと、やめて」と嫌がる。それでも一雄が続けると恋人は激怒し、「ホテル代ケチってこんな場所でするとか、高校生でも無いわと去った。音声ガイドが水星について語ると、映像の水星が巨大化して一雄に迫った。伊余子は料理が上手な主婦仲間の丸山梓から、特別な水を使っていると聞く。丸山は和歌山に地球でも有数のパワースポットがあり、地下の源流から取った水だと話した。
丸山が出したコーヒーにも、その特別な水が使われていた。別の主婦仲間は半年前から使い始めて肌質が変わったと言い、丸山は「美しい水」のペットボトルを1本ずつプレゼントすると告げた。値段について伊余子が訊くと、主婦仲間は「それなりに高いが、友達に勧めるなどしてディストリビューターのランクを上げれば安く買える。ボーナスも貰える」と説明した。帰宅した伊余子は美しい水を使って料理を作り、確かに味が違うと感じた。彼女は美しい水を売る会員になり、丸山の勧めで100ケースを仕入れた。
大学に通う暁子は、教授から「僕のゼミに参加しないか」「春休みに研究室を手伝ってくれないか」と下心丸出しで誘われた。広告研究会の栗田に「ミスコンがあるから説明会に来て」と誘われた暁子は、「興味がない」と断った。それでも栗田が執拗に付きまとうので、彼女は怒鳴って走り去った。夜の街でストリートミュージシャンのギターの音を耳にした暁子は、気になって歩み寄った。演奏していた竹宮薫は、歌い終えて去ろうとしていた。暁子が「明日もここでやってますか」と尋ねると、彼は金沢から来て1週間ほど歌っていたこと、今日で帰ることを話した。
薫は自作の歌『金星』のCDを差し出し、購入を求められた暁子は1500円を支払った。自宅でCDを再生した彼女は生で聴きたいと思い、ライブ情報を調べて会場に出掛けた。薫は暁子に気付くと、「見せたい物がある」と旅館へ連れて行く。彼は2年前に曲が作れなくなったこと、夜中に目が覚めてメロディーが体の奥から溢れたことを話す。明け方までギターを弾いていた彼が窓の外を見ると、空飛ぶ円盤が浮かんでいた。その時、彼は自分がどこからきて何のために歌っているのか初めて分かった。
薫は暁子に、「僕の歌は地球に一瞬だけ蘇る金星の記憶なんだ。僕は金星人。君も同じ」と語った。彼に「君は自分の美しさを憎んでる。負い目に感じてる。だけど君は悪くない」と言われた暁子は、「何か思い出しそう」と口にした。薫は「その後も円盤は何度か現れ、そのタイミングも分かるようになった。それが今日の午後なんだ」と言い、暁子を海へ連れて行った。浜辺に立った薫が空に向かって儀式のように両手を動かし始めると、暁子は真似をした。
一雄はスーツ姿で鷹森を訪ね、黒木から仕事の手伝いを頼まれて快諾した。彼が黒木や鷹森たちとエレベーターに乗ると、14階でドアが開くと待ち伏せていた男が全員を射殺する映像が脳裏に飛び込んで来た。一雄が動揺していると、同じ映像が繰り返し脳裏に飛び込んだ。暁子が薫と一緒に手を動かし続けていると、空飛ぶ円盤らしき2つの光が出現した。一雄は14階でドアが開くと、外にいた男を蹴り付けた。だが、その男は銃など持っていなかった。重一郎が自宅にいると家が揺れ、伊余子が購入したペットボトルが全て倒れた。重一郎が窓から外に目をやると、空飛ぶ円盤が見えた。
その夜のニュース番組で、重一郎は天気予報を簡単に済ませると「もっと深刻なのは地球温暖化」と熱く訴えた。彼は「地球人の皆さん、まだ間に合います」と行動を起こすよう呼び掛け、変なポーズを取った。本番が終わってからプロデューサーの加藤に諫められた重一郎は、自身の行動の正当性を主張した。玲奈に「最後のふざけた格好は、どういう意味ですか」と訊かれた彼は、「ふざけてないよ。火星人」と真面目な顔で答えた。
暁子は栗田に「歪んだ美しさを元に戻したい」と告げ、ミスコン出場を決めた。重一郎は翌日も地球温暖化について危機意識を持つよう訴え、最後に変なポーズを取った。その次の日も、やはり彼は地球温暖化について熱く訴えてから変なポーズを取った。一雄は事務所へ忘れ物を取りに行き、黒木が泣いてすがる鷹森を蹴り飛ばす様子を目撃した。黒木に気付かれた一雄は焦り、その直後に見えない力で吹き飛ばされて意識を失った。
一雄が目を覚ますと近くに黒木がいて、「見た目が良くて話が上手いから使える男だと思っていたが、人間は弱い。そこに自分の意思が無いことに耐えられないそうだ。やっぱり、人間のことを人間に任せるのは無理なのかな」と問い掛けた。一雄が戸惑いつつ返答すると、黒木は「君は目覚めたんじゃないのか。水星人だろ」と告げる。そして彼は、「地球の人間たちが決められないことを決めてやればいい。と言うか、それ以外、我々がここでやることは何も無い」と語った。
黒木が「地球は美しいか」と問い掛けると、一雄は「美しいと思います」と答える。「美しさの理屈が人間には分からない」と黒木が話すと、一雄は「僕は分かります」と返した。伊余子は会員になってから2ヶ月なのに優秀な成績を残し、「美と恵みのつどい」で表彰された。招待された鷹森に同行していた黒木は伊余子に声を掛け、重一郎を称賛した。彼は「ご主人と私たちは普通の人間たちより高い位置から地球の未来を見ている」と言い、「ご主人は火星辺りですか」と述べた。
重一郎は太陽系連合の使者として人気になり、番組の視聴率も跳ね上がった。玲奈は進んでいた交代の話が無くなり、重一郎に激しい怒りをぶつけた。暁子はカフェにいる時に儀式を行い、超常現象を引き起こした。彼女は自宅で吐き気を催し、心配した伊余子が声を掛けた。生理が来ていないことを指摘された暁子は、「もう私は月の影響を受けないの」と告げた。病院で診察を受けた彼女は、妊娠が判明した。伊余子から相手は誰なのかと詰問された暁子は、「私は処女のまま妊娠したの。私、金星人だから」と落ち着き払って告げる…。

監督は吉田大八、原作は三島由紀夫『美しい星』(新潮文庫刊)、脚本は吉田大八&甲斐聖太郎、製作は依田巽、藤島ジュリーK.&市村友一&吉川英作&中川雅也、エグゼクティブプロデューサーは小竹里美、Co.エグゼクティブプロデューサーは松下剛、プロデューサーは朴木浩美&鈴木ゆたか、撮影は近藤龍人、美術は安宅紀史、照明は藤井勇、録音は矢野正人、編集は岡田久美、音楽は渡邊琢磨。
出演はリリー・フランキー、亀梨和也、橋本愛、中嶋朋子、佐々木蔵之介、羽場裕一、春田純一、友利恵、若葉竜也、坂口辰平、藤原季節、赤間麻里子、武藤心平、川島潤哉、板橋駿谷、水間ロン、今村美乃、岩谷健司、樋井明日香、滝沢涼子、阿部朋子、小林美紀、小山田みずき、吉牟田眞奈、井上肇、板垣雄亮、金子岳憲、師岡広明、近藤フク、遠藤留奈、橘輝、小久保寿人、和田瑠子、山田帆風、豊森ちはや、臼井千晶、高尾美有、加藤康貴、山本和樹、逢坂由委子、高森ゆり子、エマヌエレ・ベルジェーゼ、アレッサンドロ・ダマト他。


三島由紀夫の同名小説を基にした作品。
監督&脚本は『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』の吉田大八。
共同で監督を務めたのは、これまで吉田大八作品で助監督を務めて来た甲斐聖太郎。これが脚本家としてのデビュー作であり、今回もチーフ助監督を務めている。
重一郎をリリー・フランキー、一雄を亀梨和也、暁子を橋本愛、伊余子を中嶋朋子、黒木を佐々木蔵之介、今野を羽場裕一、鷹森を春田純一、玲奈を友利恵、薫を若葉竜也、長谷部を坂口辰平、栗田を藤原季節、丸山を赤間麻里子が演じている。
吉田大八は学生時代に原作を読んでおり、映画化は念願の企画だったそうだ。

日本文学を何作も英訳していたドナルド・キーンだが、三島から何度も依頼されたにも関わらず、『美しい星』だけは気に入らずに承知しなかったそうだ。
別に私はドナルド・キーンの熱心な信奉者じゃないし、彼の判断が常に正しいとは思わない。
ただ、『美しい星』の英訳を拒んだ件に関しては、懸命な判断だったんじゃないかと。
原作は読んでいないけど、この映画を見たり軽く情報を調べたりした限りでは、三島のオカルト趣味が強く出過ぎており、悪い意味でバランス感覚を失っているんじゃないかと思うので。

重一郎は奇妙な体験について長谷部から「アブダクション」と言われた時、即座に信じている。
でも、そういう超常現象的なモノを妄信するタイプには全く見えなかったので、物語が大きく動き出す初っ端の部分から大いに引っ掛かってしまう。
まずは「バカバカしい」と思って相手にしないとか、「半信半疑だが、それ以降も奇妙な現象が続くので気になって調べる」とか、そういう手順が無いのよね。
そこに主眼が無いにしても、その後の荒唐無稽に引き込むためには、そういうトコのディティールって意外に大事なのよ。

これは大杉家の他の面々のケースでも、同じことが言える。
伊余子は宇宙人だと気付くわけじゃないが、急に怪しいマルチ商法にハマる。
でも、なぜ彼女が「この水で確かに味が変わる」と信じ込み、それだけでなく「自分でも会員として周囲に勧めよう」という積極的な活動に突入するのか、それがサッパリ分からないのだ。
例えば「家に居場所が無いと感じていた」とか「自分の存在意義に不安を覚えていた」みたいな背景が丁寧に描かれていればともかく、そんなのは何も無かったわけで。

暁子にしても、なぜ出会ったばかりの男から「僕は金星人。君も金星人」と言われて、それを素直に信じてしまうのか。どう考えたって、そんなのは「ヤバい奴」以外の何者でもないだろうに。
薫との関係が少しずつ深まって、その中で手順を踏んで洗脳されていくのならともかく、そういう丁寧な行程は何も無いわけで。
あと、薫が作った『金星』の歌が、どこにでもありそうな普通の曲なのもマイナスだわ。そこが奇抜で変な歌なら、少しは説得力が増したかもしれないのに。
後から「実は彼が作ったわけじゃない」と判明し、普通の曲である説明は付くけど、そうなると「根本的な設定からしていかがなものか」と思っちゃうし。

番組で変なポーズを取った重一郎は玲奈に「最後のふざけた格好は、どういう意味ですか」と訊かれ、「ふざけてないよ。火星人」と言う。
でも、それって質問に対する答えになっていないんだよね。
重一郎が火星人だとして、「そんな火星人の貴方が取ったポーズは何の意味があるんですか」という疑問に対して、何の答えも示していない。
「火星人なら意味が分かるはずでしょ」ってことなのかもしれないけど、何でもいいから解説させてしまえば良かったのに。

重一郎は予定に無かった地球温暖化に関する熱い講釈をするだけでなく、何日も続けて変なポーズを取る。
そんなヤバい行動を繰り返しているのに、なぜか番組を降板させられない。
「視聴率がいいから」ってことらしいけど、それで許されるレベルを遥かに超えて、重一郎は過激で偏った主張を声高に訴える。番組の進行を無視することもあるのに、それでもクビにならない。
番組出演した鷹森を批判し、免許停止処分を匂わされ、ようやくテレビ局が動くけど、この辺りは色々と不自然さや強引さを感じるなあ。

重一郎が生放送で急に変なポーズを取るのは、とても滑稽だ。
そこに代表されるように、表面的にはナンセンスなコメディーとしての描写を徹底した方が良かったんじゃないか。そして「笑いと恐怖は紙一重」ってのを利用して、不気味さが滲み出て来るような趣向にすれば良かったんじゃないかと。
やけに重厚さがあって、やけにシリアスなんだよね。
もしも監督が本作品をコメディーとして作ったつもりなら、その狙いは形になっていないと言わざるを得ないし。

何よりも厄介なのは、「地球温暖化の危機」というテーマに関しては荒唐無稽にせず、真面目に意見を戦わせていることだ。
これがウザいのなんのって。ただの面倒な活動家による、迷惑で退屈な講釈を延々と聞かされているようなモンだからね。
そういうのがやりたければ、喜んで聞いてくれる人が集まる場所で好きなだけやってくれよ。
「時代設定が違うから、原作にある核戦争の危機という問題を地球温暖化に変更した」ってことなんだろうけど、そういう問題じゃないのよ。

大杉家の面々が本物の宇宙人ではない可能性は、かなり濃厚だ。一番の根拠は、薫がインチキな男であることが仲間の女性から明確に説明されるからだ。
薫は出会った女を片っ端から口説いて金を借り、返さずに姿を消している。そして『金星』という歌は女性が作詞と作曲を担当しており、薫は歌っただけだった。そんな薫が「君も僕と同じ金星人だ」と話したことで暁子は「私は金星人」と言い出すわけだから、思い込みの可能性が高い。
そうなると、「暁子は思い込みだけど、重一郎と一雄は本物の宇宙人」って可能性も低いだろう。
最終的には「重一郎は本物の火星人だったかも」と思わせる描写で煙に巻いているけど、「たから何なのか」と思うだけだ。
「風変わりだけど面白い映画」になる可能性も充分にありそうな作品だけど、実際には「ただ風変わりなだけの映画」に終わっている。

(観賞日:2024年5月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会