『ウタヒメ 彼女たちのスモーク・オン・ザ・ウォーター』:2012、日本

井口美恵子は病院でマンモグラフィー検査を受け、暗い表情で廊下のベンチに座り込んでいた。すると友坂かおりが「先生、無理、胸が取れちゃう」と騒ぎ、検査室から出て来た。美恵子は目を逸らして無視しようとするが、かおりは「先輩」と笑顔で声を掛けた。改めて顔を確認した美恵子は彼女の自己紹介を受け、ようやく商社の秘書時代の後輩であることに気付いた。おとなしかった秘書時代と全く違う軽い態度なので、美恵子は困惑した。帰りのバスでも彼女が赤裸々な話をするので、美恵子は恥ずかしくなった。
美恵子は専業主婦をしているが、夫の幸輔は質問しても全く答えてくれず、夫婦の会話は全く無い。高校1年生の娘・沙耶子は部屋に引き篭もっており、ドアの外から呼び掛けても返事は無い。美恵子は姑の秋枝が仲間と開いたパッチワークギャラリー展へ赴き、手伝いをする。かつて幸輔の給料が下がってローンが払えなくなった時、秋枝は「妻として、こういう時、何か無いの?蓄えとか?」と美恵子に尋ねた。何も無いことを美恵子が告げると、彼女は「もっといいご縁があったのにね」と嫌味っぽく告げた。その嫌味っぽい態度は今も変わっておらず、美恵子は帰りの車内で苛立ちを見せた。
夜、美恵子は近くのコンビニ「フォー・リバース」へ行き、立ち読みしている沙耶子を見つける。「帰ろっか」と美恵子が言うと、沙耶子は黙ったまま店を出て行く。「明日、学校に呼ばれてるの。義務教育じゃないんだから、高校なんか行かなくったっていいよね」と美恵子が明るく話すと、彼女は家へと走った。次の日、美恵子は幸輔の実家へ行き、秋枝に頼まれた荷物をまとめる。幸輔の部屋に入った彼女は、夫が寝ているのを見つけて驚いた。煙草を辞めたはずの幸輔だが、灰皿には大量の吸い殻があった。
美恵子が「会社は?電話しようか?送ろうか?」と言うと、幸輔は「放っておくこと、出来ない?疲れない?」と告げる。キョトンとした妻の表情を見て、彼は「疲れないんだよな」と諦めたように立ち去った。帰りの車で苛立っていた美恵子は、カーラジオから流れて来る『スモーク・オン・ザ・ウォーター』で男子生徒のアマチュア・バンドに憧れていた高校時代を思い出した。かおりは美恵子の家を訪ね、3ヶ月前にネットで出会った青年実業家に48万円を預けたら消えたことを語る。詐欺だと指摘された彼女は、「男の人って分からない。あんなに楽しかったのに」と泣き出した。美恵子は1万円を渡し、「もう騙されないでよね」と告げた。
美恵子はフォー・リバースの前へ行き、前夜も見たパート募集の張り紙を改めて確認する。夜、彼女は幸輔に、パートで働くことを告げたが、反応はそっけなかった。美恵子が社長の勝田芳彦と話していると、かおりが様子を見に来た。バックヤードで防犯カメラを見ていた時、美恵子は万引き女に気付いた。女が店から走り去ったので、美恵子は若い店員の石川達樹に知らせる。「俺、バイトだし」と石川が何もしないので美恵子は追い掛けるが、もう女は姿を消していた。
エイミー・ワインハウス風の格好をした広田新子が店に来て、何も喋らずに手振りだけで煙草を注文した。彼女は「サンキュー」と中指を突き立て、買い物を終えて店を去った。後日、仕事を終えて店を去ろうとした美恵子は、あの時の万引き女・立花雪見を見つけて尾行した。彼女は真宮建設の社宅へ戻ろうとする雪見に声を掛け、万引きを指摘した。すると雪見はぶっきらぼうな態度で、商品を返した。美恵子が店へ行って社長に説明するよう求めるが、雪見は拒絶した。
美恵子は連れて行こうとするが、雪見は強い力で彼女を振り回した。公園で遊んでいた娘の樹里亜が来ると、雪見は笑顔で接した。美恵子は「後で連絡するから」と携帯番号を教えるよう求めた。夜、美恵子はかおりと共に、料理店で雪見と会った。「理由を知りたいの」と美恵子は言い、「何でも話せる友達がいない」「家族がいても一人だって感じる」と幾つも質問を投げ掛ける。その質問は全て、美恵子自身が感じていたことだった。
美恵子が共感していると、かおりが怒り出して雪見に「何がストレスよ。欲求不満でしょ」と文句を言う。彼女が警察に電話を掛けるよう美恵子に告げると、雪見は「したきゃしなさいよ」と開き直る。彼女が社宅暮らしの苦労と夫への不満を捲し立てると、かおりは同情した。早々に帰ろうとした美恵子だが、雪見の誘いに負けてカラオケにも付き合う。美恵子はかおりと雪見の前で、娘の不登校や姑と夫の嫌味など、日頃の不満をぶちまけた。
別の部屋から『スモーク・オン・ザ・ウォーター』が聞こえると、酔っ払った美恵子は「バンドで演奏したら気持ちいいだろうなあ」と言う。すると、かおりはバンドを組もうと提案し、雪見も賛同した。美恵子は「気持ちいいだろうなあって言っただけよ」と乗らないが、気持ち良く帰宅した。翌日、かおりは別れた夫の南一成と会い、最後の慰謝料を受け取った。まだ彼に未練のあるかおりは、食事に誘う。だが、南は困った様子で「これから仕事が」と告げた。南が若い女と歩いているのを見つけた彼女は、いきなり腕を組んで話し掛ける。南は困った様子で腕を振りほどき、「変わらないねえ、君は」と告げて立ち去った。
雪見は樹里亜の言葉で、近所の主婦が自分を馬鹿にして「結婚できて良かった」と言っていることを知った。かおりはギターを購入し、コンビニで働く美恵子の元へやって来た。彼女は「美恵子さんのね」とギターを渡して代金を請求し、自分はキーボードを買ったことを話す。美恵子が「こんなの頼んだ覚え無いんですけど」と言うと、かおりは「こういうことしないと私、もう駄目なのよ。お願い」と話す。そこで美恵子は承諾し、店にベースを募集する張り紙を出した。
新子が店に来たので、美恵子とかおりはバンドに誘う。新子は「どういうのがやりたいわけ?」と尋ね、バンドに参加した。4人で集まると、新子は「プロ経験があるのは私だけなんだから、私の指示に従ってもらうよ。やる以上は真摯に向き合わないと、いい音が出ないの」と生意気な態度で告げた。新子は体力作りのランニングから始めさせるが、プロ時代のバンド名を訊かれると話題を逸らした。彼女は心療内科を訪れ、夫・ひろふみのために処方された薬を薬局で購入した
達樹は美恵子に、紅陽高校でチャリティー・コンサートがあるので出ないかと持ち掛けた。美恵子は断るが、話を聞いた他のメンバーは乗り気になった。美恵子は娘の高校であることを話し、「母親がコンサートに出て笑い者になったら、ますます娘が学校に行けなくなる」と言う。すると新子は「笑い者になんなきゃいい」と語り、「親がマジにその姿見せなきゃ娘がマジになるわけないよ。アンタ、自分のためにマジになってないよ」と説く。
「コピーでいい。1曲だけ」と告げても美恵子が難色を示すので、かおりは「しょうがない、やめよう」と告げる。それは美恵子の気持ちを変えさせる作戦で、雪見と新子も調子を合わせる。かおりの狙い通り、美恵子はコンサートに出ることを決意した。しかし雪見は夫の健志から仙台への転勤を告げられ、夜遅くになって美恵子に電話を掛ける。だが、寝ていた美恵子は「明日聞くから」と電話を切る。翌日、雪見がスーパーで万引きをして店長に捕まり、連絡を受けた3人は慌てて駆け付けた。
雪見が仙台へ行くことを話すと、新子は「誰か心当たりある、ドラムの代わり?」と言い出す。その偉そうな態度にかおりが腹を立て、2人は言い争いを始める。美恵子と雪見も加わり、4人は口喧嘩になった。4人は互いに罵り合い、そして泣いた。バンドの計画が挫折した後、幸輔は美恵子のギターを見つけるが、「沙耶子が欲しいって?」と訊く。美恵子は「前に私が洗面所でギター弾く格好してたの、見たじゃない」と言うが、幸輔は覚えていない様子だった。
美恵子は「私のこと全然目に入ってないのね」と言い、友達4人で練習していたことを明かす。幸輔が「バンドごっこね」と言うので、彼女は「悪い?」と告げる。幸輔は「別に、いいんじゃない」と、興味が無さそうな様子を示した。美恵子は沙耶子に呼び掛け、「この家、何なのかなあ。なんでこうなっちゃったの?そんなに居心地悪い?」と2人に問い掛ける。「御飯が出て来たり、炊事、洗濯しなくていい。それが家庭?私は何?」と彼女が泣きながら訴えると、沙耶子は「しなくていいよ」と告げる。
美恵子が「だって、しなかったら貴方たち」と言い掛けると、幸輔は「会社、辞めて来た。異動になった。研究所員じゃなくなった。営業マン。リストラかなあ」と告げた。沙耶子は神社で達樹に声を掛けられ、「猫、好き?」と言われる。彼は捨て猫を沙耶子に抱かせて、「自分、嫌い?」と問い掛ける。「大嫌い」と彼女が答えると、達樹は「俺は自分大好き」と述べた。沙耶子が猫を連れて帰宅すると、美恵子はミルクの用意をしたり、「キャットフード買って来なきゃね」などと言う。
すると沙耶子は、「この猫、私のだから。いつだってママは先回りして」と泣き出した。美恵子は沙耶子の学校で演奏するつもりだったこと、でもバンドが空中分解したことを話す。美恵子は涙を浮かべ、「ママだって分かってる。いつも空回りして。パパやお婆ちゃんも、最初は喜んでくれた。ごめんね、沙耶ちゃん。ママ、取り戻したい。沙耶ちゃんもパパも、昔みたいに」と語った。沙耶子は猫を美恵子に抱かせ、ミルクを温めた。
病院を訪れた美恵子は、マンモグラフィーの検査で問題が無かったことを医師から聞かされる。安堵して病院を出た彼女は、乳がんと診断された女が電話で「やりたいこと、一杯ある。私、死ねない。死にたくない」と嗚咽している様子を目撃した。美恵子はメンバー3人を集め、「コンサートに出ます」と一方的に宣言した。かおりと新子もバンドに戻り、スタジオで練習することになった。ドラムのピンチヒッターとして、恵美子は達樹を呼んだ。そこへ雪見が来るが、「ちょっと練習見に来ただけ」と告げて去ろうとする。恵美子たちは後を追い掛け、雪見もバンドに戻った…。

監督は星田良子、原作は五十嵐貴久『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』(双葉文庫)、脚本は神山由美子、製作は山田良明&小川泰&水口昌彦&升田年則&籏啓祝&宮崎恭一&堀徹&稲垣しず枝&山国秀幸、プロデューサーは井口喜一&宮下史之、アソシエイト・プロデューサーは竹内一成、撮影は川田正幸、照明は高山喜博、録音は関根光晶、美術は古谷良和、編集は平川正治、音楽プロデューサーは高野昭彦。
主題歌『あの微笑みを忘れないで』ZARD 作詞:坂井泉水、作曲:川島だりあ、編曲:葉山たけし。
メイン・テーマ『Ichihana』小島良喜、作曲:小島良喜、編曲:小島良喜。
出演は黒木瞳、真矢みき、木村多江、山崎静代(南海キャンディーズ)、西村雅彦、佐野史郎、相島一之、六角精児、栗咲寛子(新人)、太田基裕、赤座美代子、久保田磨希、三原康可、島田洋八、田実陽子、三谷萌夏、川嶋秀明、海島雪、野本光一郎、森澤早苗、小貫加恵、櫻井りかこ、望月美寿々、合田理佐子、山川キャサリン、藤田エミ、國分優理、村瀬継太、佑多田三斗、寒川登代志、高柳公康、白石徳生、藤崎卓也、川崎ゆかり、、白石挙大、阿部龍向、岸靖人、小野木英人、佐藤匠、松坂康司、田中健太郎、石谷威、神保亮平、清水陽介、大原亜未香ら。


五十嵐貴久の小説『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』を基にした作品。
監督は『僕らのワンダフルデイズ』の星田良子、脚本は『アジアンタムブルー』『子宮の記憶 ここにあなたがいる』の神山由美子。
美恵子を黒木瞳、新子を真矢みき、かおりを木村多江、雪見を山崎静代(南海キャンディーズ)、幸輔を西村雅彦、南を佐野史郎、健志を相島一之、勝田を六角精児、沙耶子を栗咲寛子、達樹を太田基裕、秋枝を赤座美代子が演じている。

恵美子とかおりは最初から知り合いだからいいとして、万引きをした雪見を捕まえた当日に、もう仲良しになっちゃうというのは、かなり拙速だと感じる。
それまで無愛想だった雪見が、急に不満を吐露し、酔っ払ってフランクになるというキャラの動かし方に、無理を感じてしまうのだ。
ただし、そこに強引さを感じる一番の理由は、山崎静代の演技力が足りていないってことだ。
せめて慣れ親しんでいる関西弁で演じさせれば、まだ少しはマシだったかもしれないけど、標準語だと余計に芝居の稚拙さが目立つ。

かおりがギターを買って恵美子に渡した後、ベース募集の張り紙が店に出される。
だけど、まだ「雪見がドラムで参加する」ってことが確定したわけじゃないよね。それを確認する手順を経ないまま、ベース募集の張り紙が出されるのは手落ちに思える。
あと、新子のバンド参加も少々の強引さは感じるが、それよりも「プロだと思い込む」というところの無理が大きい。なんでロッカー風の格好をしているというだけで、プロだと思うのか。
しかも、ちゃんとベース担当なんだよな、この女。それは都合が良すぎるだろ。

バンドが結成された後、それぞれが楽器演奏の練習に励むシーンってのは、ほとんど無い。だから当然のことながら、「最初は下手だったけど少しずつ上達していく」とか、「壁にぶつかるけど、努力して乗り越える」とか、そういう「演奏者としての成長」ってのは全く表現されていない。
そういうのが無いまま「バンドの空中分解」という展開に至るので、「そもそもバンドとしての形を成していたのか。そのままコンサートに出たら、ちゃんと演奏できるレベルにあったのか」ってことが気になってしまう。
それと、薄っぺらい練習シーンの中に1つ酷い描写があって、それは雪見が社宅のゴミ捨て場でゴミ箱を叩いて練習する様子だ。
それ自体が酷いってことじゃなくて、ゴミ捨て場の外で幼い樹里亜が「お母さん」と泣いているのだ。それなのに、雪見は完全に無視して(もしくは気付かずに)、練習を続けるのだ。
練習を優先して子供の面倒をないがしろにする、子供を泣かせるってのは、絶対にやっちゃダメだろ。せめて、後で気付いて詫びる手順があればともかく、そのままスルーなんだぜ。

酔っ払った時に『スモーク・オン・ザ・ウォーター』を聴いて、「それを演奏するためにバンドを組もう」ってことになるのは強引さも感じるが、まあ良しとしよう。
ただし、恵美子とかおり、雪見にとってはストレス発散が目的なのだが、新子の参加理由が良く分からない。
終盤になって、「実は夫と一緒にデビュー寸前まで行ったけどダメで、夫はうつ病になっている」ということが明らかになる。
だけど、それと「バンドに参加したい」という気持ちが上手くリンクしていない。

姑との確執は、バンド活動が続く中で何も変わらない。そもそも序盤に登場した後、姑は全く話に絡まない。
娘との不和は、バンド活動と全く関係の無いところで、捨て猫がきっかけとなって変化する。
その猫は神社で達樹が沙耶子に渡すのだが、たまたま彼が現れて猫を渡すというのは、かなり無理のある展開だ。
そりゃあコンビニで沙耶子を見たことはあっただろうけど、まるで親しくなかったわけで。それが急に「自分、嫌い?」とか「俺は自分大好き」とか言い出すんだぜ。都合のいいキャラとして動かしてるなあ。

夫との関係も、バンド活動を始めたからといって、何も変わっちゃいない。コンサートの招待状を送ると来てくれるけど、どういう心境の変化が旦那に起きたのかは良く分からない。
一方、そもそ美恵子には「お節介を焼き過ぎる、やたらと干渉したがる」という悪い癖があり、それが夫や娘との関係を悪化させていたわけだが、それについてもバンド活動を続ける中で改善されることは無い。空回りしていることは自覚していたようで、それを娘には謝っているけど、夫には謝ってないし。
夫に「貴方は私を見ていない」と責めていたけど、美恵子も夫への思いやりに欠けていたわけで。
でも、それを反省したり、変えようとしたりしている様子は無いのよね。

バンドが空中分解する喧嘩のシーンは、ものすごく強引だ。
雪見が夫からバンドを禁じられた後、かおりが偉そうな態度の新子に突っ掛かるのは、「さっきまで仲良くやっていたのに、急にどうした?」と言いたくなる。
2人が言い争っていると雪見が「馬鹿」と罵るのも、やはり「急にどうした?」と言いたくなる違和感に満ちている。
かおりと雪見の言い争いに恵美子が割って入るのはともかく、「2人とも下品よ」という台詞は違和感がある。

かおりと雪見が「馬鹿」と言い、新子が「アンタって女はさ、得体が知れないよ」と告げるのも、「いつも上から目線でさ」と責めるのも、これまた強引な展開に感じる。
なんで急に全員の関係が悪化するのか、そこを自然に思わせるようなモノが何も無い。
かおりが「だから家族も崩壊するのよ。娘は引き篭もりだし」と恵美子に告げるとか、そんな風に「些細なきっかけから言い争いが始まり、それぞれの私生活をエグるような発言に発展する」という展開を描きたかったのは良く分かる。
しかし、段取りだけが先走り、それをスムーズに進めるための作業が追い付いていないのよ。

クライマックスとなるコンサートのシーンは、ものすごくダラダラしている。
まず、おばさんだと知った生徒たちが笑い出すが、演奏が始まるとザワザワも消える。そんなに練習していなかったのに、しかも最近までド素人だったはずなのに急に上手くなっているのは違和感しか無いけど、でも上手に演奏しているんだから、「笑っていた生徒たちも演奏が上手いので受け入れ、大いに盛り上がる」ってことにすればいい。
ところが、緊張でガチガチの新子が全く動かないので演奏が中断し、客席から笑いが出てゾロゾロと帰り出す展開になる。恵美子は「誰だって失敗はするでしょう」と言うが、客席の状態が変わらないので、「キーボード、かおり。バツイチと結婚詐欺にもめげない40歳」などとジョークを交えたメンバー紹介を始める。
そこでピアノのBGMを流し、感動的に盛り上げようとしているけど、そんなトコに感動なんて無いよ。
あと、それによって生徒たちが戻って来るってのは都合が良すぎるし、高校生ってそんなに甘くないと思うよ。

しかも、そういう諸々を全て大目に見ても、まだ問題は残っている。
「ともかく感動的に盛り上げて、緊張で逃げ出したがっていた新子も前向きな気持ちになって、ようやく演奏が始まり、生徒たちが盛り上がって」という展開になるのかと思いきや、なぜか都合良く来ていた小学生の子供たちが新子を見て「あっ、文房具屋のおばさんだ。何、変なカッコしてんの」と騒ぎ出すと、新子は逃げ出してしまうのだ。
どんだけ「演奏が始まると見せ掛けて、まだ始まらないを繰り返したら気が済むのか。
もう完全に気持ちが冷めちゃうわ。

で、美恵子が「いい歳してみっともないと思うかもしれないけど、人は年を取るほど臆病になるの。人生の辛いとか苦しいとか一杯体験してきたから。新子を連れて来るから、待っててくれる?」というと生徒たちが「待ってるぞむ」と拍手をするんだけど、無理があり過ぎ。
なんでマトモに演奏も聴いていないのに、全員が応援する気持ちになってんだよ。なんで情が入ってんだよ。優しすぎるでしょ。
しかも、新子は会場の裏や校庭にいるのかと思ったら、家に帰ってるんだぜ。それを連れ戻しに行って、説得して、また会場に戻って来るって、どんだけ時間が掛かるのよ。それを「待っててくれる?」ってのは、調子が良すぎるわ。
で、戻ると生徒たちは去っているけど、演奏が始まると一斉に戻って来て盛り上がるんだぜ。んなアホな。

(観賞日:2015年4月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会