『薄化粧』:1985、日本
殺人罪で逮捕された坂根藤吉は、脱獄に成功して炭坑を渡り歩く。彼が逮捕されるきっかけは、彼が働いていた炭坑で発生した落盤事故だった。遺族との補償交渉を任された藤吉は、会社から預かった金を着服した。
藤吉は事故で夫を亡くした地所テル子に言い寄り、深い関係になる。妻・ふくみと息子も殺害した藤吉は、テル子が胸を患って入院すると金を貸した男の妻・すゑと肉体関係を持った。その娘・弘子にも近付こうとするが、拒否されてしまった。
藤吉は弘子の家をダイナマイトで爆破し、その事件と妻子殺しが明るみに出て逮捕されたのだった。脱獄して逃亡生活を続ける藤吉は、小料理屋の女将・ちえと出会った。2人はやがて、惹かれ合うようになった…。監督は五社英雄、原作は西村望、脚本は古田求、製作は升本喜年&遠藤武志&西岡善信&宮島秀司、プロデューサーは徳田良雄&高橋泰、撮影は森田富士郎、編集は市田勇、録音は大谷巌、照明は美間博、美術は西岡善信、衣裳は松田一雄、音楽は佐藤勝。
主演は緒形拳、共演は藤真利子、浅野温子、川谷拓三、宮下順子、浅利香津代、大村崑、笑福亭松鶴、竹中直人、菅井きん、松本伊代、小林稔侍、柳沢慎吾、萩原流行、花沢徳衛、二瓶正也、中村錦司、宮川珠季、芝本正、荻原郁三、山本一郎、有川正治、中西宣夫、花岡秀樹、諸木淳郎、小舟秋夫ら。
殺人を繰り返して逃亡する男と、彼に関わった女達の姿を描く。
藤吉を緒形拳、ちえを藤真利子、テル子を浅野温子が演じている。
役者は熱演している。それは認める。
もう一度書こう。
役者は熱演している。それは認める。
それだけは。時間経過の通りに物語が進むのではなく、過去と現在が入り混じりながら展開する。
時間軸の行ったり来たりが効果的に使われているのなら構わないが、ただエピソードの順番を把握するのが大変になっているだけである。非常にややこしい構成になっているので、物語がリズムに乗ることを拒否する。
展開が分かりづらいので、現在から回想に入るという構成はともかくとして、回想シーンは時間経過の通りに進めた方が良かったと思う。藤吉には、破天荒な悪党としての魅力があるわけではない。
同情すべき犯罪者としての哀愁が漂っているわけでもない。
彼の犯罪には仕方の無い理由があるわけではなく、完全に自己中心的だ。
彼に感情移入することは、かなり難しいだろう。では藤吉を追い掛ける刑事はどうなのかといえば、個人的な恨みがあるわけでもないし、それほど執念が見えてくるわけでもない。
最初から単なる脇役キャラクターという以上の扱いは受けていないということもあるし、そこへの感情移入も無理だろう。というか、そもそも登場人物の内面が見えてくるような深い人間描写は無い。
なので、感情移入もヘッタクレも無いのである。
監督は今作品で男女の愛を描きたかったらしいが、ただ女好きの身勝手な殺人鬼がフラフラしているだけの話にしか思えないのである。