『嘘喰い』:2022、日本

3年前。東京にあるビルの屋上で、斑目貘が賭郎21代屋形の切間創一に勝負を挑んでいた。壱號立会人の能輪美年が同席し、弐號立会人の夜行妃古壱が立会を担当した。貘は切間に、「1時間以内に、この上空を飛行機が飛ぶか飛ばないか」という賭けを持ち掛けた。彼は飛ぶ方に賭け、お屋形様は飛ばない方に賭けた。お屋形様の部下は密かにスマホを操作し、東京の飛行機を全て運航停止させた。カリカリ梅を口に放り込んだ獏は、「アンタの嘘、俺が喰ってやるよ」と余裕たっぷりに告げた。
獏は事前にセスナ機を手配しており、民間空港から離陸しようとしていた。しかしお屋形様の放った殺し屋はピザ配達員を装って空港に現れ、操縦士を始末した。夜行は敗北した獏に発砲するが、命は奪わなかった。彼はお屋形様が殺す価値も無いと判断したことを伝え、会員権を剥奪して賭郎から追放した。賭郎の創設は安土桃山時代で、博打の場で規律を乱す者を初代のお屋形様が成敗したことが始まりだった。地位や権力を問わず、あらゆる者から博打の負けの代償を取り立てることが組織の基盤となった。
2022年、御影島。漁師たちがサイコロを使った賭けをしていると、獏が現れた。彼は胴元に100万円の札束を渡し、「アンタの嘘、喰ってやるよ」とカリカリ梅を食べた。獏は賭けに勝利した上で、胴元のイカサマを暴いた。彼は友人から、佐田国一輝が屋形越えを狙っていることを知らされた。佐田国はメタンハイドレートの研究で注目を集める存在だったが、研究所の爆発事故で大怪我を負っていた。佐田国に先を越されることは我慢できず、獏は屋形越えのために戻ることを決めた。
財務大臣の小野寺昌弘は佐田国を邸宅に招き、ポーカーで勝負を挑んだ。目蒲鬼郎が立会人を担当し、佐田国は秘書の仁科流伽を伴っていた。小野寺は全敗を喫し、3億円の支払いを拒んだ。彼は警護の連中に指示し、目蒲を始末しようとする。目蒲は警備の面々を殺害し、小野寺を制圧した。佐田国は目蒲から専属立会人にさせてほしいと言われ、佐田国は考えておくと告げて車に戻った。運転席の草波渉が「これで仇は取れましたね」と言うと、彼は「雑魚を殺したところで、あいつらの無念は晴れん」と述べた。
横浜に来た獏は飲み物の自販機を使おうとするが、小銭の持ち合わせが無かった。フリーターの梶隆臣が自販機を利用すると、当たりが出た。獏が隣で物欲しそうな様子を見せていると、梶は当たった分の缶を差し出した。獏は礼を言い、運がいいと梶に告げる。しかし梶は全く喜ばず、この程度の運しか回って来ないと愚痴る。そこへ闇金の回収業者が現れ、友人の借金を肩代わりした梶に返済を迫った。獏は適当な嘘を並べて回収業者を怯ませ、その場から退散させた。
獏は闇金の返済義務が無いことを梶に教え、鞍馬蘭子が経営するカジノクラブ「クララ」を訪れた。獏はルーレットの台へ行き、ゲームを始めた。彼はディーラーが自由に目を出せると見抜き、あらかじめ梶に作戦を指示していた。梶は獏に言われた通りに動き、500万円を手に入れた。獏が店を出ると、蘭子が待ち受けていた。彼女は「どうして戻って来たの」と鋭く見据え、賭郎の会員権は剥奪されたままであること、いつでも賭郎が切間の命令で獏を殺せることを語った。
梶は獏に、自分を仲間にしてほしいと頼む。しかし獏はカジノで稼いだ金を使って人生を立て直すよう告げ、その場を後にした。梶は大金で豪遊するが、まるで満足感を味わえなかった。佐田国は「クララ」で大金を稼ぎ、蘭子が勝負を持ち掛けた。佐田国は圧勝し、力の差を見せ付けた。従業員が店を去ろうとする佐田国に銃を向けると、仁科も銃を構えた。そこへ蘭子の側近であるレオが来て、従業員を制した。店に獏が現れ、賭けをしようと告げる。しかし佐田国は相手にせず、「お前とやる意味は無い。俺と勝負したければ、賭郎の資格を取り戻してから来い」と告げて立ち去った。
蘭子は電話で獏から飲みに誘われ、バーへ出向いた。獏は賭郎の会員権を譲ってほしいと言い、あるいは譲ってくれそうな人を知らないかと質問する。蘭子は九重大郎の名前を挙げ、公園で相手を探すが賭けから生きて帰った者はいないと教える。獏は戻って来た梶を仲間として受け入れ、公園で九重から声を掛けられる役を任せた。九重が「ウチの庭でゲームをやってみないか」と梶を誘うと、獏が歩み寄って自分も加えるよう持ち掛けた。
九重は獏と梶を豪邸へ連れて行き、時間内にペットから鍵を奪って脱出するゲームを説明した。彼は賞金1千万を用意していたが、獏は賭郎の会員権を要求した。困惑した九重だが、結局は承諾した。梶は時限爆弾を取り付けられ、夜行が立会人を務めた。九重の「ペット」は銃を持った男たちのことで、ゲームが始まると獏と梶は命を狙われた。獏と梶は森に設置された罠を見破り、逆に罠を仕掛けて敵を次々に制圧した。九重は人間兵器のロデムを放ち、獏たちを襲わせる。しかし九重を盗聴していた獏はロデムの弱点を知っており、眠らせて勝利した。九重は獏を殺そうとするが、夜行に阻止された。
夜行は梶に、賭郎の会員権が譲渡されることを説明する。獏を同行させるのは自由だと彼は言い、自分が専属の立会人になると告げた。梶は怖気付いてしまい、会員になることを拒否して去った。戦いで深手を負った獏は意識を失い、目を覚ますと蘭子に介抱されていた。獏は行き場を失ったロデムに「マルコ」という別名を与え、蘭子の専属料理人として暮らせるよう手配した。梶は獏の元へ戻って謝罪し、会員になることを承諾した。
佐田国は仁科と行動しながら、過去を振り返った。かつて彼は実験室の仲間と共に、メタンハイドレートの画期的な採掘方法を突き止めた。小野寺から日本政府への協力を要請された彼は、無償で世界中の国々に提供するつもりだと告げて断った。果物を装った爆弾が実験室に届き、佐田国は仲間を失って自身も重傷を負った。小野寺の仕業だと確信した彼は、復讐心に燃えた。そこへ草波が現れ、「賭郎の頂点に立てば夢が叶う」と持ち掛けた。
梶が賭郎の新たな会員になった件で、立会人は集まって話し合う。獏が戻って来たことを聞かされた能輪は面白がり、そのまま放置するよう指示した。獏と梶は賭郎の会場へ出向き、佐田国と戦うことになった。佐田国は20億の賭け金を用意していたが、獏の所持金は5千万だった。彼は「人主」になると言い、モニター越しに見ている観客に向かって自分に賭けるよう呼び掛けた。最初は少額しか出さなかった観客だが、蘭子が「5億円出す」と口にしたことで一気にレートが跳ね上がり、20億に到達した…。

監督は中田秀夫、原作は迫稔雄『嘘喰い』(集英社ヤングジャンプ コミックス刊)、脚本は江良至&大石哲也、製作は高橋雅美&池田宏之&勝股英夫&今野義雄&瓶子吉久&渡辺章仁&森川真行、エグゼクティブプロデューサーは濱名一哉、プロデューサーは森川真行、アソシエイトプロデューサーは坂井清子&石塚清和&渡邉義行&庄島智之、撮影は今井孝博、照明は木村匡博、録音は加藤大和、美術は塚本周作、衣装は加藤哲也、編集は青野直子、音楽はfox capture plan、主題歌『リヴ』はB'z。
出演は横浜流星、佐野勇斗、白石麻衣、三浦翔平、本郷奏多、鶴見辰吾、村上弘明、森崎ウィン、木村了、徳井優、赤星昇一郎、唐橋充、櫻井海音、野村祐希、結城モエ、護あさな、加藤翔、木原勝利、ボブ鈴木、長友郁真、岩瀬亮、松尾淳一郎、川守田政人、山崎画大、吉村和彬、タツキ・マイアミ、松本実、蔵原健、イワゴウサトシ、金原泰成、中村祐志、武田祐ー、鈴木理学、大宮将司、コング、大内厚雄、當間ローズ、飛鳥凛、朝井莉名、米村秀人、香衣、荒井レイラ、村上航、竹内ももこ、小池唯、水木梨乃、モウジーン兼史、KaIto他。


迫稔雄による同名漫画を基にした作品。
監督は『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』『事故物件 恐い間取り』の中田秀夫。
脚本は『マンハント』『みをつくし料理帖』の江良至と、『去年の冬、きみと別れ』『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』の大石哲也による共同。
貘を横浜流星、梶を佐野勇斗、蘭子を白石麻衣、佐田国を三浦翔平、目蒲を本郷奏多、小野寺を鶴見辰吾、夜行を村上弘明、レオを森崎ウィン、草波を木村了、九重を徳井優、能輪を赤星昇一郎、棟椰を唐橋充、お屋形様を櫻井海音、ロデムを野村祐希、仁科を結城モエが演じている。

冒頭、お屋形様の部下はスマホ1つで、東京の飛行機の運航を全て停止させる。
貘が提案するゲームの内容も事前に察知しているからこそ、空港に殺し屋を差し向けてセスナの操縦士も始末できるんだろう。インフラを支配する力も情報収集力も、それぐらいチートなわけだ。
その能力がエグすぎるので、「絶対に勝てないだろ」と感じてしまう。
しかも、それぐらい強大な権力を持っていたら、仮に負けそうになっても、色んな手を使って勝ちにしたり、相手を始末して無かったことにしたり出来そうだぞ。

お屋形様が卑怯な手を使うので、もはや賭けとして成立していないようにも思うが、貘もそれに対抗して手を回している。
どっちも賭けとしては完全にイカサマだけど、「それも含めて賭けの内」ということなんだろう。
なので、それは良しとしておこう。そこは全面的に受け入れておかないと、何も始まらない内から終わってしまうのでね。
ただ、「イカサマがバレたら負け」ってことなのかどうか、その辺りも良く分からないんだよね。そこは手落ちに感じるぞ。

っていうかさ、根本的な問題として、貘が屋形越えを狙った3年前のシーンから始める構成自体が、大きな失敗なのよ。
それだと、主人公が敗北するシーンから始まることになる。そのため、貘がカリカリ梅を食べて「アンタの嘘、喰ってやるよ」と言い放つのが、「勝利の合図」として成立しなくなるのだ。
それを「勝利の決め台詞」として観客に印象付けるためには、勝利するシーンから始めた方が絶対にいいでしょ。
3年前の出来事は、後から回想で挿入すればいい。

そこから2022年に切り替わって御影島のシーンが描かれるが、ここから話を始めればいいのよ。
ここは「胴元のイカサマを見抜いた上で貘が勝利する」という内容なんだから、彼のギャンブラーとしての凄さをアピールする意味でも間違いなく効果的だ。
あと、サイコロ賭博というのも大きい。3年前のシーンだと、その場で貘が提案した「上空を飛行機が飛ぶか否か」というゲームなので、いきなり「良くあるギャンブル」から外れちゃってるし。
っていうか、どうせ今回は貘の屋形越えが描かれないんだから、3年前の出来事は断片的に触れるか、極端に言えば台詞で触れるだけでも構わないぐらいなのよ。

キャラクターは見た目からして誇張されており、演者の芝居も大げさになっている。そもそも荒唐無稽な話なので、それが悪いとは全く思わない。
ただし残念ながら、それを演出が受け止め切れていない。もっと振り切ったケレン味や突き抜けたB級感覚があれば、それだけでも随分と印象は変わっただろう。
ただし、それよりも深刻な問題が配役にあって、ミスキャストと演技力不足の嵐なのだ。
特に酷いのが白石麻衣で、高圧的な姐御キャラも、「貘に惚れているが素直になれない」というキャラも、上手く表現できていない。

九重の賭けに至っては、もはやギャンブルの能力なんて全く関係の無い殺人ゲームでしかない。
銃で撃って来る敵から逃げるとか、森に仕掛けられた罠を見破るとか、逆に罠を用意して敵を倒すとか、そんなのギャンブルでも何でもない。
例えギャンブラーとして優れた能力を持っていても、それとは全く別の才能が必要になるゲームだ。
そんなゲームが描かれることで、「これは何の能力によって、何の頂点を目指す争いなのか」ってのがサッパリ分からなくなってしまう。

梶は貘の仲間としてギャンブルの世界に身を置きたいと希望するが、貘は平穏に暮らすよう勧める。それでも梶は仲間になることを希望し、貘の元へ戻る。しかし九重とのゲームに勝利して会員権を手に入れると、「住む世界が違う」と言って去る。でも、すぐに考え直して、また貘の元へ戻る。
そういう梶の出入りを、「めんどくせえなあ」と感じてしまう。
ビビって逃げ出すのは、心情としては理解できるよ。話として無理があるわけではないよ。
でも全体の構成を考えると、貘の忠告に従わず自らゲームの世界へ舞い戻って来たのに、また逃げ出すってのが、「なんだかなあ」と思っちゃうのよ。

そういう流れを用意するなら、梶が貘の元へ戻って来た後、「殺人ゲームにビビって逃げ出す」という展開に入るまでには、もっと間隔を開けて他のエピソードを重ねるべきだろう。ただし映画の尺を考えると、それは難しい。
なので、「平穏に暮らすよう勧められた梶が一度は貘の元を去ったが戻って来る」という手順か、「住む世界が違うと感じて去るが、また戻って来る」という手順か、どちらか片方を排除した方がいいだろう。
どっちも簡単に戻って来るので、両方を無くしても別にいいけどね。
その程度で映画の評価が大きく変わって来るようなことも無いし。

小野寺は佐田国が協力を拒むと、実験室を爆破する。 でも彼としては、佐田国の研究結果を手に入れたいんでしょ。それなのに実験室を爆破したら、下手をすりゃ佐田国は死ぬし、重要な実験データや装置も失われるだろ。
それを考えると、小野寺の行動は阿呆丸出しにしか思えないぞ。
あと、そもそも佐田国グループの研究内容がフワッとしているんだよね。
そこに物語の主軸が無いのは知っているけど、それにしても設定が雑じゃないか。マクガフィンみたいなモンだから何だっていいとか、そういう問題じゃないだろ。

それと、なぜ草波が佐田国に接触するのか、その理由も良く分からない。こいつの正体や目的は、最後まで謎のままだし。
そんな草波から「賭郎の頂点に立てば夢が叶う」と言われた佐田国が、その話に飛び付くのも良く分からない。
仲間を奪った相手に復讐する手段として「賭郎の頂点を目指す」ってのが、佐田国にとって最適な答えなのかと。なんかバカな方法を選んでいるように見えちゃうのよ。
どうやら佐田国に関わる設定は原作と大きく異なるらしいんだけど、映画用の改変は完全に失敗している。

ロデムは原作だと主要キャラクターのようだから、登場させないと仕方が無いんだろう。でも今回の映画に関しては、明らかに浮いた存在になっている。人間兵器としてのキャラクター設定からして、作品の世界観を構築する荒唐無稽から逸脱したファンタジーになっているし。
そんな奴を無理に登場させても、ストーリー展開には全く必要が無いんだよね。
ただ「蘭子の家で料理人になる」ってだけで、それ以降は全く話に絡んで来ないんだから。シリーズ化を想定した場合、原作と同じ設定で登場させておかないと色々と面倒になるのかもしれない。
でも、この映画が酷評を浴びて完全にコケたから、たぶん続編は作られないと思うし。

貘と佐田国のゲームが始まる前には「人主」のオークションが開かれ、賭けた1人が「ハングマンだ」と言い出すと「負けた側と相棒が吊るし首になる」というルールが採用される。夜行は複数のトランプを用意し、佐田国が1箱を選ぶと裏に「ババ抜き」と書いてあって、特別ルールによるババ抜きでの勝負が決定する。
何かゲームが行われる度にシステムやルールが異なるので、「何でも有りだな」と感じる。
表面的にはルールが設定されているが、実質的には無法地帯と言ってもいいだろう。
それが物語やギャンブルの面白さに繋がっているかと問われたら、迷わず「ノー」と断言できてしまう。

佐田国のゲームに勝利した貘は、彼の目が全く見えていないことを指摘する。
そして佐田国が天井の監視カメラを通して手札を見ていたこと、人工視覚の手術を受けていること、仲間がハッキングした映像を電気刺激で受け取っていたことを指摘する。
でも、その真相を知るための手掛かりを掴んだと思わせる描写は、ゲーム中に全く無かった。
だから全てが終わってから「実はこういう理由で佐田国のカラクリに気付いていた」と説明されても、ただの後出しジャンケンにしか思えないし、ちっとも腑に落ちない。

ゲーム開始前に「負けた者は相棒と共に吊るされる」という条件を飲んでいるので、佐田国がケジメを付けなきゃいけないのは仕方が無い。
ただ、彼は決して醜い私欲を満たすために、賭郎の頂上を目指したわけではない。卑劣な連中に仲間を殺された復讐を果たすため、地位と権力を得ようとしているのだ。
それを考えると、貘が負けた佐田国を口汚く罵り、それを反省したり謝罪したりしないで処刑を見守るというのは、すげえ嫌な感じだ。
あと仁科に関しては完全に巻き込まれ事故みたいなモンだから、ホントに不憫だし。

(観賞日:2023年7月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会