『アンフェア the movie』:2007、日本

雪平夏見は警視庁刑事部捜査一課から警視庁公安部総務課に異動となった。彼女は管理官の斉木陣と共に、事件の捜査に当たる。斉木は 「終わり良ければ全て良し」という考え方の持ち主だ。ある朝、雪平は検視官の三上薫に電話を掛け、頼んでいる調査の進捗状況について 尋ねる。彼女は三上の協力を得て、警察内部の不正が書かれている極秘文書を探っているのだ。
雪平は電話を掛けながら、幼い娘・美央の学校への送迎をベビーシッターのマキコに任せた。2人が出掛けた後、雪平は電話を切った。 その直後、駐車場で雪平の車が爆発炎上し、マキコが犠牲となった。美央は大怪我を負い、豊洲警察病院に搬送された。マキコの両親と 連絡が付いたため、雪平は美央のことを看護師の浩子に託し、病院を後にした。
雪平と入れ違いで、豊洲警察病院に若い男達が現れた。彼らは頭部全体を覆い隠すタイプのマスクを被り、銃を構えて病院を占拠した。 浩子は美央を抱いて病室から連れ出し、人目に付かない場所に避難させた。その直後、浩子はマスクの男に発見され、その場で射殺された。 警視庁刑事部捜査一課特殊班は捜査本部を設置し、管理官の山崎哲夫が陣頭指揮を執ることになった。
雪平は斉木に付き添われてマキコの両親に面会するが、激しい抗議を受けた。2人の元を去った後、雪平は斉木に刑事を辞職したいという 気持ちを吐露した。爆発事件の直前、美央の顔さえ見なかったことが雪平の心の傷となっていた。テレビのニュースでテロリスト集団に よる病院占拠事件を知った雪平は、急いで捜査本部へ向かう。三上は捜査本部で病院の図面を示し、対テロ用に設計され、篭城に適した 要塞となっていることを説明した。
捜査本部に現れた雪平は捜査に加わりたいと申し出たが、山崎に拒否された。その直後、テロリスト集団は人質を解放した。だが、その中 に美央の姿は無かった。警視総監や入江次長ら警察庁の上層部は緊急会議を開き、山崎に連絡を入れた。山崎は、人質は解放されたが 所在不明者2名がいることを説明した。入江は山崎に、テロリスト集団の狙いが極秘入院している篠崎警察庁長官にあると睨んでいた。 警視総監は最優先事項を長官救出に設定し、第一SAT隊の突入を指示した。
娘が中にいる雪平は激しく抗議するが、警視総監も入江も聞く耳を持たなかった。雪平は斉木に電話を掛けて助けを求めるが、どうする ことも出来ないという返答だった。病院正面から突入した第一SAT隊の前に、テロリスト集団が現れた。その直後、ロビーで爆発が起き、 と第一SAT隊の通信が途絶えた。病院にはテロリスト集団のリーダー・後藤国明が現れ、待ち受けていた部下の戸田らが出迎えた。後藤 は病室で待ち受けていた蓮見杏奈の元へ行き、コンピュータの操作を任せた。
捜査本部を出た雪平は、三上の制止を振り切って裏口から潜入しようとする。翻心が無理だと悟った三上は、雪平に同行することにした。 後藤や戸田は防護服を身に着け、研究室へ向かった。彼らは細菌兵器を慎重に運ぶが、戸田が落としてしまう。すぐに彼らは避難しようと するが、戸田が誤って防護服を破いてしまう。後藤は戸田を感染病棟に残し、ドアをロックした。そこに美央が迷い込んでいたことを、 後藤は全く知らなかった。
後藤は捜査本部に連絡を入れ、斉木を交渉役に指名した。後藤は斉木からの通信に対し、警察庁が機密費を不正流用してプールした裏金 80億円を用意しろと要求した。斉木の確認に対し、警視総監や入江次長は裏金の存在を否定し、第二SAT隊の突入を命じた。だが、 テロリスト集団は外部からの連絡で、第二SAT隊が下水道から来ることを知った。
突入した第二SAT隊は、待ち受けていた第一SAT隊によって全滅させられた。その様子を目撃した雪平と三上は、第一SAT隊が テロリスト集団の仲間だと知った。2人は第一SAT隊に見つかり、攻撃を受ける。三上が敵を引き付けている間に、雪平は病院へと潜入 した。美央がいるはずの602号室に向かった雪平だが、そこは無人だった。
彼女は山崎に連絡を入れ、第一SAT隊が敵とグルであり、警察内部に内通者がいる可能性があると告げた。雪平は「今は地下にいて、 これから602号室に向かう」と嘘を告げた。捜査本部では、声紋分析でテロリスト集団の首謀者を突き止めた。後藤国明は元SAT指揮官 で、警察学校の教官も務めていた人物だ。しかし彼は警察内部の領収書の改ざん問題を告発したことで、辞職を余儀なくされ。そして彼は 、無実の罪で8年間の刑務所暮らしを強いられていた。
602号室にテロリスト集団が現れ、雪平の仕掛けた爆弾で死亡した。これにより、雪平は内通者の存在を確信した。三上から連絡があった ため、彼女は「一階のロビーで待ち合わせを」と告げた。だが、ロビーには蓮見とテロリスト集団が待ち受けていた。三上と山崎、この 2人が内通者であるという疑惑が、蓮見の中で湧き上がった。
後藤は捜査本部へ連絡を入れ、入金を要求した。警視総監と入江が拒否すると、後藤は長官を射殺した。後藤は30分以内に指定口座へ入金 するよう要求し、それが出来なければ黒色壊組菌を使うと脅迫した。斉木は山崎達に、病院内部に細菌兵器を取り扱う研究室があることを 説明する。黒色壊組菌は人から人へと感染し、保管分全てが散布されれば東京都民の8割が1週間以内で死亡する。
雪平は感染病棟に辿り着き、ドア越しに娘との再会を果たした。しかしドアはロックされており、パスワードを入れなければ開けることは 出来ない。座り込んだ戸田は黒色壊組菌に感染し、体が黒ずんでいた。捜査本部と連絡を取った雪平は、黒色壊組菌のことを知らされた。 美央の様子を確認すると、彼女にも既に感染の症状が現れていた。入江は貴重な抗血清の使用を拒否し、事件の解決を要求する。雪平は娘 を救うため、バイオテロを阻止して抗血清を手に入れようとする…。

監督は小林義則、原作は秦建日子『推理小説』(河出書房新社)、脚本は佐藤嗣麻子、製作は谷泰三&亀山千広&島谷能成、企画は 籏啓祝&清水賢治&市川南、エグゼクティブ・プロデューサーは臼井裕詞、プロデューサーは吉條英希&稲田秀樹、 ラインプロデューサーは小林正知、技術プロデューサーは佐々木宣明、美術プロデューサーは津留啓亮、撮影は大石弘宜、美術は柳川和央 、照明は花岡正光、録音は芦原邦雄、編集は穂垣順之助、音楽は住友紀人、主題歌『I'm Here』&劇中歌『Reason Why』は伊藤由奈。
出演は篠原涼子、江口洋介、椎名桔平、成宮寛貴、加藤雅也、阿部サダヲ、濱田マリ、寺田農、大杉漣、寺島進、遠山景織子、 朝加真由美、加藤ローサ、向井地美音、工藤俊作、浜田晃、佐藤誓、小原雅人、安田暁、鈴木祐二、谷本一、原田佳奈、 政井マヤ、緒方昭一、Anatoli Krasunov、Ivan Semenov、坂本三成、山本忠、野貴葵、和田智、佐野元哉、城元大輔、金時むすこ、 与古田康夫、鳥木元博、南風佳子、仮屋ルリ子、法福法彦ら。


2006年に関西テレビ放送が制作し、フジテレビ系列で放送された人気シリーズ『アンフェア』の劇場版。
シリーズ終了後にTVスペシャル「アンフェア the special コード・ブレーキング〜暗号解読〜」が放送され、その続編として本作品が 製作された。
雪平を篠原涼子、斉木を江口洋介、後藤を椎名桔平、三上を加藤雅也、山崎を寺島進、入江を大杉漣、警視総監を寺田農、戸田を成宮寛貴 、蓮見を濱田マリ、浩子を加藤ローサ、美央を向井地美音が演じている。

今や、テレビ局は映画制作の主導権を握るようになっている。
いつしか「TVドラマで人気が出たら劇場版」というのが、映画制作において大きな流れとなった。
これまで多くの「TVドラマの劇場版」が作られてきたが、果たして「全国公開の商業映画」にふさわしい作品が幾つあるだろうか。
たぶん、片手で充分に足りてしまうのではないだろうか。テレビ局の映画班が高い志を持って制作に臨んでくれればいいのだが、「テレビ で人気があったから、映画にしてもっと稼ごう」という安易な搾取精神のみで、大して手間も時間も掛けず適当に作っている映画が少なく ないのではないか。
この映画も、まさに安易な搾取精神だけで適当に作られた典型的な作品だ。
このスクリプトでゴーサインを出してしまうってのはイカンだろうと。
「独立したオリジナル作品なら練り直すところだけど、公開予定も迫っているし、どうせテレビ版のファンが来るだろうから、これでいいん じゃねえか」という考えだったのかと。

車の爆破事件のシーンで、雪平は美央を抱き締め、うろたえて「誰か救急車を呼んで」と言うばかり。
でもキャラ的なことを考えると、そこは緊迫した面持ちながら電話で救急車を呼び、迅速に対応しながらも娘を心配する母親の顔を見せる という形の方がいいんじゃないの。そんなに簡単に、導入部から雪平の弱さ・脆さを見せちゃってもいいのか。そんなキャラだっけ、 雪平って。
あと、そもそも美央を巻き込むスクリプト自体、どうなのかっていう気持ちも無くはないんだよな。
「雪平に単独行動を取らせるため」ということなら、娘の存在が無くても彼女は単独行動を取るタイプでしょ。
たぶん「親子の絆」ってのを強く打ち出したかったんだろうけど、結果としては大して膨らまないし。
泣かせようとしていることは、痛々しいほど良く分かるんだけどね。

で、その爆破事件で娘が入院してから話が転がっていくわけだが、「どこが変でしょうか」という観点でツッコミを入れてもらう ために作った映画なのかと思うぐらい、不可解な箇所の連続。
まず戸田が浩子を殺す意味が全く無い。彼らが無差別殺人のテロリストということならともかく、他の人質は一人も殺していないのだ。
後で彼は「犯行を目撃されたから射殺した」と理由を説明するが、「犯行」ってのは何を意味しているのかと。病院占拠という意味なら、 マスクの奴らがやったってのは他の連中だって見てるぞ。
で、浩子はたまたま戸田と遭遇しただけで、顔を見たわけでもなく、病院占拠の真の目的を見たわけでもない。
「犯行を目撃されたから」という言い訳には、無理がありすぎる。

三上は検視官なのだが、捜査本部で病院の内部構造に関する説明を担当する。
山崎は雪平に「公安は無関係だから入ってくるな」と言っているが、三上だって無関係でしょうに。
斉木は公安の管理官だが、なぜか爆発物処理の専門技術も持ち合わせている。
この映画に登場する警察ってのは、どうやら役割分担がハッキリ定まっておらず組織系統がグチャグチャのようだ。
ひょっとして、それも警察組織の腐敗を表現するための戦略なのかね。

警察庁の幹部会議は、全く緊張感が無い。警視総監と次長の2人以外は、そもそも発言さえ無い。
会議って話し合うものだと思うんだが、意見が交わされるという様子は全く無い。
その緊張感の無さは組織の腐敗を示すためのものかとも思ったが、しかし「警察庁長官を助ける」という目的はあるわけだし、やはり単純 に緊張感を醸し出すことが出来ていないだけなんだろう。
そもそも敵の目的や正体が良く分かっていない段階で、SAT突入を簡単に決めてしまうってのも、ちょっと信じ難い展開だ。

で、そのSATは、堂々と病院の正面から突入する。
いやいや、そんな無茶な。
普通、敵に気付かれないよう注意して、別のルートを選ばないか。あと、複数のグループら分かれて行動したりしないのか。
後になって、第一SAT隊は後藤の仲間だと分かるが、しかし突入経路を指示するのは上の役目でしょ。
つまり、正面突破は「敵とグルだから」ということで説明が付くものではなく、警察があまりにもボンクラすぎるってことになる。

確か病院は要塞になっているはずなんだが、雪平は簡単に潜入できてしまう。
敵に気付かれないよう慎重に行動したわけでもなく、関門を幾つか突破したわけでもなく、あっさりと潜入できてしまう。
そのことにテロリスト集団は全く気付かない。
この病院って、監視カメラとか無いのか。いや、あったよな、間違いなく。後藤たちがいる部屋に、監視モニターがあったもんな。
だったら、なんでテロリスト集団は、それを見て行動しないのかと。

この病院、恐ろしい細菌兵器があったり、長官が入院したりするような場所にしては、警備システムがユルユルだ。
隔離病棟との遮断もドア一枚しか無いし、そこ専門の警備員も見当たらないし。
っていうか、長官が入院するような場所に、そんな恐ろしい細菌兵器を保管するなよ。
あと病院が占拠された後、後藤はどこから入って来たんだよ。

テロリスト集団は、もう病院に現れた時の態度からしてバカっぽいんだけど、やっぱりバカだった。
恐ろしい細菌兵器を落として割るって、なんちゅうマヌケなんだ。おまけに防護服を机の角に引っ掛けて破いてしまうって、もう底無しかと。
っていうか防護服、弱すぎ。
安いナイロン製なのか。
そんなに簡単に破けてしまうのでは、防護服としての役目を果たせないぞ。

後藤は最初に捜査本部と連絡を取る際は、普通に喋っている。
ところが次に話す時には、ヴォイス・チェンジャーを使っている。
どういう心変わりがあったのかと。
まさか一度目はヴォイス・チェンジャーを使うのを、うっかり忘れていたというわけでもあるまい(この映画の製作陣のことだから、 可能性ゼロとは言えないが)。
そんで一度目の声紋分析で後藤の正体がバレるが、そもそも隠そうという気も無いように思える。
じゃあ二度目の通信で声を変えた意味は何なのかと。
ただの気まぐれかい。

完全ネタバレだが(っていうか、どうせ前半でバレバレになっているから隠す必要も無いと思うが)、斉木は後藤と繋がっている。
で、その斉木は、どうやって内部情報を後藤に伝えたのか。
少なくとも雪平が「602号室へ向かう」と連絡した時は、捜査本部にいたはず。そこには他にも大勢の警官がいる。密かに連絡を取るのは 可能だぞ。
「実は画面に写っていない時間帯に本部の外に出て連絡を取り、また戻った」という、観客に対して卑怯な設定なのか。
だとしたら、なるほどタイトル通りアンフェアだな。
あと、斉木と後藤が病院内で顔を合わせた時、そこで「敵対している」という芝居をする意味も無いよな。邪魔な雪平を殺せば済む話だ。
「犠牲者を出したくない」というヒューマニズムの持ち主でもないんだし。
いや、それ以前に、斉木が雪平の危機を救う意味も無いよな。
あと「邪魔な奴を殺せばいい」ということでは、蓮見が三上を生かしておいたのも必要性が無いな。

テロリスト集団は、美央の病室とロビーに現れた後、雪平を捜索する素振りは全く見られない。
後藤がそれに関して部下から報告を受ける、もしくは指示を出すという場面も無い。
で、斉木は雪平が602号室へ向かったという内部情報を後藤に伝えられたのだから、彼女が隔離病棟にいることも伝えられるはず(雪平 から連絡があったのだから)。
なのに、隔離病棟にテロリスト集団は現れない。
で、雪平は何の心配も無く、のんびり娘と喋っている。
っていうか、そんなに悠長に喋っている暇があったら、さっさと敵を倒すなり抗血清を探すなり行動しろよ。抗血清を入手した後も、 なんで斉木を追い掛けて地下に行くのかと。あれだけ娘を助けるために必死になっていたのだから、まずは抗血清を打ちに行けよ。
で、ようやく隔離病棟に行っても、娘を抱き締めたり話し掛けたりしている。
そんなことよりも、さっさと抗血清を打てよ。

この映画に限って言えば、検挙率ナンバーワンという雪平の優秀さは一向に見られない。
「平凡な刑事が難事件に巻き込まれる」という話なら別にいいけど、そうじゃないでしょ。「型破りで強引&ワンマンだが凄腕の刑事」と いう設定のはずでしょ。
この映画だと、そのワンマンな部分だけが強調され、ただのジコチューな女になっているぞ。
っていうか結局、雪平って何も解決してないよな。
敵が勝手に仲間割れして、後藤と斉木は警察の人間に射殺されているわけだから。
抗血清を手に入れたのも、雪平じゃなく斉木だし。

テロリスト集団(というか後藤)の目的と、そのための行動が乖離しているように思える。
後藤の目的は、自分を陥れた長官と次長に復讐し、腐った警察組織を叩き潰すことのはず。
バイオテロで大勢の犠牲者が出ても、次長は痛くも痒くも無いぞ。それで責任を追及されたとしても、辞職すれば済む程度のことだ。
バイオテロが真の目的のためのブラフだったとすれば、わざわざ細菌兵器を持ち出すリスクを犯す必要は無い。それを使うと脅すだけで 済む。
つまり実際に細菌兵器を持ち出してセットするのは、普通なら不必要だが、観客を騙すためだけに取られた行動になってしまうのだ。
話の作りとして、アンフェアにも程があるぞ。

完結編と銘打たれて公開された映画だが、実際には何も完結していない。
斉木を射殺した犯人を謎のままにして、さらに引っ張ろうという意識が露骨に見えている。
間違い無く、続編まで考えて製作されている。
アンフェアって、そういう意味なのかと。
まあ、たぶん「『踊る大捜査線』の夢よ、もう一度」ってことなんだろうな。
その飽くなき商魂は大したものだ。
拍手を送るよ、冷笑と共に。

(観賞日:2008年4月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会