『アンフェア the answer』:2011、日本
病院占拠事件の後、警視庁刑事部捜査一課の雪平夏見は警察の機密文書が隠されたUSBメモリを密かに入手していた。現在、東京を 追われた彼女は、北海道西紋別署に勤務していた。雪平は課長の一条道孝と交際中だが、その関係を周囲には隠している。一方、東京では ネイルガンによる連続殺人と死体遺棄事件が発生していた。3番目の死体発見現場で警視庁刑事部鑑識課の三上薫と所轄の刑事・山路哲夫 が話していると、フリーのジャーナリストをしている雪平の元夫・佐藤和夫が現れた。山路から「雪平は?元気か」と訊かれた彼は、 「連絡取ってませんから」と答えた。
3番目の犠牲者の身許が、武田信彦だと判明した。事件の犯人だと警察が考えていた人物だ。1人目の犠牲者は土井建設の経理部長・ 新城俊樹。現場には彼の部下・田島恵介の遺留品が残されていた。警察は重要参考人として指名手配したが、死体で発見された。そして、 現場には武田の指紋が残されていたのだ。警視庁捜査一課の課長・小久保祐二は、仲間割れだと推察した。武田の死体発見現場から、佐藤 の指紋が発見された。小久保は佐藤の逮捕を部下に命じた。
雪平は佐藤が重要容疑者になったと知るが、人を殺すとは信じられなかった。彼女は三上に電話を掛け、武田が北海道にいたことがあると 知った。雪平に会いに来た佐藤は、「次は俺が殺される。これは連続殺人に見せ掛けた予告殺人なんだよ。つまり次は俺が殺されるって ことだ」と言う。「どうして貴方の命が狙われてるの?」と雪平に問われると、自分が書いた連続殺人事件に関する記事が犯人を怒らせた のではないかという推測を述べた。
佐藤は雪平に、解析を頼まれていたUSBを返した。「中身は?今度は見れた?」と訊かれ、彼は「いや、それ、ファイルじゃなくて、 プロテクトドングルっていう物らしい。つまり鍵だ。特定のパソコンに挿した時だけ、パソコン内のデータが開くようになってる」と説明 する。「じゃあ、この鍵に合う扉の持ち主を捜し出せば、最後の黒幕に行き着くってこと?」という質問に、佐藤は「そういうことだ」と 答えた。彼は「ほとぼりが冷めるまで行方を眩ます」と言い、雪平の元を去った。
その夜、雪平は尾行に気付いた。しかし身を隠してから尾行者を確かめようとすると、姿を消していた。翌朝、雪平の家に一条や西紋別署 の刑事・大野たちが現れた、彼女は佐藤殺害の容疑で逮捕されてしまう。現場から雪平の指紋が発見されたのだ。雪平が署で聴取を受けて いると、東京地検の検察官・村上克明が現れた。彼は「私が取り調べます」と言い、一条たちを強引に取調室から追い出した。
しばらくして、雪平は拳銃を村上に突き付けて人質に取り、部屋から出て来た。西紋別署の外に出た雪平は、村上に車を運転させて逃走 した。しかし、それは村上が「このままだと犯人にされますよ」と提案した芝居だった。彼は「警察は何かを企んでいるんです。僕は検察 の人間として、それを確かめたいんです。そのためには雪平さんの協力が必要なんです」と、運転しながら語った。雪平は佐藤に要求し、 佐藤の死体が発見された現場へ向かう。彼女が現場検証している様子を、謎の男が物陰から観察していた。
村上は別の車も用意しており、自分は変装し、雪平を隠れさせて検問を突破した。武田の死体発見現場にやって来た雪平は、謎の男が見て いることに気付いた。村上は自分の家が所有しているという使われていないビルへ雪平を案内し、用意した部屋に通した。村上が去った後 、雪平は侵入してきた謎の男に襲われた。そこへ村上が戻ると、男は彼の左腕を刺して逃走した。村上を追って来た一条が現れ、雪平を 介抱した。彼は村上を殴り倒し、「雪平は俺が預かる。お前は足手まといなんだよ」と怒鳴った。
雪平は佐藤から「警察の人間を信じるんですか」と問い掛けられ、「ここまで連れて来てくれたお前には感謝してる。でも、あたしは一条 を信じたい」と告げた。村上は、一条に捜査資料を渡して去った。雪平は一条と共に山路、三上の2人に会い、情報提供を求めた。東京の 3件と佐藤のケースでは、死体が発見された時の状態が異なっていた。村上について質問すると、山路は「元検事総長の息子ということで 、謹慎処分で済んでいる」と説明した。雪平は一条に山路に内緒で、三上に証拠品のDNA鑑定を依頼した。
雪平は一条と体を重ね、翌朝を迎えた。一条は彼女に、「お前が何を望んでるのかは知らないが、これ以上、正義を貫くのは無理だ。巨悪 は倒せない。刑事を辞めて、どっか遠くへ行こう。俺が幸せにするから」と告げる。雪平は「これが全部終わったら」と答えた。また ネイルガン殺人事件が発生し、一条は電話を受けて死体発見現場へ赴いた。彼は密かにビデオカメラを回し、その現場を雪平に見せた。 すると、十字架に磔にされている死体は雪平の格好に似せてあった。雪平が驚いていると、携帯に謎の男から電話が入った。男は雪平が 黒いセダンの後部座席に乗っているのを知っており、「プレゼント、気に入ってくれた?」と言う。
三上からの情報により、雪平は謎の男が結城脩という人物だと知る。雪平は結城が出掛けるのを確認してから、彼の家に忍び込んだ。奥の 部屋に行くと、死体の写真で壁が埋め尽くされていた。その中には婦警時代の自分の写真もあり、何本もの釘が撃ち込まれている。だが、 全ての写真を確認てても、佐藤の死体は見つからなかった。それに雪平が気付いた直後、結城が買い物から戻って来た。気付かれないよう 抜け出そうとした雪平だが、結城に見つかって殴り倒され、監禁されてしまう…。監督・脚本は佐藤嗣麻子、原作は秦建日子『推理小説』(河出書房新社)、製作は堤田泰夫&亀山千広&瀧藤響孔&山田良明&市川南、 エグゼクティブプロデューサーは臼井裕詞、プロデューサーは吉條英希&種田義彦&豊福陽子&稲田秀樹、撮影は佐光朗、照明は加瀬弘行 、美術は林田裕至、録音は阿部茂、編集は穂垣順之助、VFXスーパーバイザーは石井教雄、アクション監督は小池達朗、資料協力は マイケル アリアス、音楽は住友紀人。
主題歌『LOVE IS ECSTASY』:中島美嘉、作詞:中島美嘉、作曲:Nickii、編曲:根岸孝旨。
出演は篠原涼子、佐藤浩市、山田孝之、阿部サダヲ、加藤雅也、大森南朋、寺島進、香川照之、吹越満、横山めぐみ、モロ師岡、福井博章 、河野洋一郎、矢柴俊博、浜近高徳、大西武志、杉内貴、関口あきら、野村修一、八幡朋昭、田実陽子、中村祐樹、岡田謙、徳秀樹、 安部賢一、重村佳伸、藤井宏之、宮本京佳、藤井宏之、島田彩夏(フジテレビアナウンサー)、松元真一郎(フジテレビアナウンサー) 他。
2006年にフジテレビ系列で放送されたTVドラマ『アンフェア』の劇場版第2作。
劇場版第1作『アンフェア the movie』の続編。
雪平役の篠原涼子、小久保役の阿部サダヲ、三上役の加藤雅也、山路役の寺島進、佐藤役の香川照之は、TVシリーズからの出演者。他に 、一条を佐藤浩市、村上を山田孝之、結城を大森南朋、武田を吹越満、大野をモロ師岡が演じている。
TVシリーズ、スペシャル版ドラマ、劇場版第1作と全ての脚本を手掛けてきた佐藤嗣麻子が、今回はシナリオだけでなく監督も担当して いる。『アンフェア』というタイトルは、この映画にふさわしい。
もはやTVドラマの劇場版では当たり前の現象だが、ドラマ版を見ていない人は、全く話に付いていけない。いわゆる「いちげんさん、 お断り」って奴である。
「TVドラマと劇場版第1作を見て来た人」だけをターゲットにしている映画なのだ。映画の冒頭に前作までのハイライトが用意されて いるが、その短い説明で理解できるのは、ドラマ版と前作を見ていた人だけだろう。
全ての観客に対して門戸が開放されているわけではないのだから、ある意味ではアンフェアだ。公開当時、篠原涼子と佐藤浩市のベッドシーンが宣伝されていたけど、ぶっちゃけ、そこに強い訴求力ってあるのかな。
どうせ篠原がオールヌードになっていないことは、映画を見なくても分かり切っているんだし。
これがさ、例えば「清純派で売っている10代の若手女優が初めてベッドシーンに挑戦しました」とか、そういうことなら、まだ分からない でもないよ。でもさ、もう30歳を過ぎた女優さんが、全裸を披露するわけでもない普通のベッドシーンをやっただけで、だから何なのか と。
っていうか、そこを売りにしている時点で、この作品の失敗は決まっていたのかもしれないね。そのベッドシーンに限らず、シャワーを浴びている最中に結城が侵入して来るとか、監禁されてスリップ姿にされるとか、どうも篠原涼子 のセクシーさをアピールしようという意識が見え隠れするんだけど、どうなのかねえ。
私は篠原涼子に全く色気や艶っぽさを感じないけど、そこは置いておくとしてもさ。
シャワーを浴びていたところで結城が来るけど、どうせ『Zero WOMAN 警視庁0課の女』の飯島直子みたいに全裸で待ち伏せるわけでも ないしさ。「the answer」というサブタイトルを見た時点で、「ああ、きっと全ての答えは出ないままで終わるんだろうな」と予想は付いていたけど 、その通りになった。
「USBメモリの中身は警察の裏金やマネーロンダリングに関する情報」ということは明かされているが、ひょっとして、それが答えと いうことなのか。
だとしたら、「その程度のことなら、いちいち謎にしておく必要も無いし」と脱力するわ。
警察の裏金作りなんて現実にも行われていることであり、まるでインパクトは無い。そこを「解答」として提示されても、ザキヤマっぽく 「〜からの?」と言いたくなる。
それと、たかが裏金作りとマネーロンダリングに関する機密を隠蔽するために、警察があれほど手の込んだ大仰なことをやったのかと思う と、ちょっとバカバカしくねえか、無駄に手間を掛けすぎてないかと思っちゃうぞ。TVドラマから見ている人なら、このシリーズでは必ず裏切り者が出ることは容易に予測できるだろうし、その通りの展開が待っている。
さらに言えば、「裏切り者はレギュラーの中から出る」「新たに加わったキャストは裏切る」というのも、やはり容易に予想できるだろう 。
だから、小久保、三上、山路の中の誰かが裏切り、一条や村上も裏切ることが予想できる。
もっと言っちゃうと、小久保は最初から雪平を捕まえようとしている設定なので、「裏切り者」の条件を満たしておらず、三上か山路が 裏切ることが予想できる。
で、どっちの方が捜査に深く関与しているかを考えると、おのずと答えが出てしまうわけだね。結城が一条の命令で行動しており、一条と佐藤と三上がグルだったということになると、辻褄が合わなくなってないか。
グルであるならば、結城がビルで雪平を襲っている時、佐藤が戻ってきて邪魔するのは変でしょ。
一条が結城を差し向けたのを知らないとは言わせないぞ。その直前に佐藤は一条と会っているんだし。
そこで妨害する意味は何なのか。「雪平を助けることで信用させる」という狙いがあるのか。
まどろっこしい戦略だなあ。
ただ、そうだと仮定しても、やっぱり整合性が取れなくないか。この映画の弱点は、既に「警察の機密情報を追及しようとする雪平と、彼女を始末して機密を隠蔽しようとする警察上層部」という図式 が出来ているにも関わらず、そこをハッキリとした形で物語のメインに据えることが出来ず、他の猟奇殺人事件を絡める形を取っている ことだ。
一応、「連続殺人鬼が雪平を狙っているのは警察関係者の指令によるもの」という形にしてあるけど、そもそも、そこに無理が あるしね。
なんで警察が雪平からUSBメモリを奪うのに、サイコ殺人鬼を使うのかと。
どういうセンスだよ、それって。劇場版第1作に関しては、たぶん「これがヒットしたら続編を」という目論見もあっただろうから、別の事件を軸に据えても、まあ良しと しよう。
ただ、今回はタイトルに「the answer」と付けちゃった以上、もっと真正面から、察上層部との対決を描くべきじゃないのかと。
ただし、そこを掘り下げるとなると、ホントに敵は巨悪なので、たかが女刑事の力で対抗できるものではない。
でも完全に敗北させると、バッドエンドになる。だからって雪平に勝たせようとすると、かなり巧妙に作らないと、御都合主義が 際立ったり、荒唐無稽になったりする。
だから、そことマトモに向き合うのは避けて、脇に置く構成にしたのかな。ただし、じゃあ「警察との対決」という筋を後ろに置きながら、猟奇殺人事件を中軸に据えた本作品はどうなのかと考えると、かなり 荒唐無稽なんだよね。
まず「雪平そっくりの格好で磔にされていた犠牲者は誰なんだよ。まるで無関係だろ」という部分が引っ掛かる。
まさか、予告編で「雪平が磔に」というインパクトを与えるためだけに用意されたシーンじゃないよね。
あと、終盤、結城が雪平の誘いに乗って手を組むのは、あまりにも不自然で無理があるぞ。何よりも荒唐無稽なのは、USBメモリに関する描写だ。
まず「USBメモリを“USB”と省略するのって普通なのかな?」という部分が気になるが、そこは置いておくとして。
ラスト近く、村上はUSBメモリを手に入れ、自分のデスクでパソコンに挿し込んでデータをゲットする。
だが、近くに置いてあった携帯に雪平からの着信が入り、着信音が鳴った途端、USBメモリが爆発してデータが飛ぶ。
いやいや、なんちゅう都合のいい仕掛けだよ。それは佐藤が事前に細工していた仕掛けで、「暗号が解かれた瞬間から、佐藤が用意しておいたノートパソコンにデータが転送される。
転送終了後に携帯を鳴らすと、データごと破壊できる」というものだ。
だけどさ、検察で使っているようなパソコンなら、データが外部に漏れないようなセキュリティーが用意されているもんじゃないのか。
あと、もしも携帯電話がUSBメモリの近くに無かった場合、その仕掛けって作動しないよね。その仕掛けが作動する直前、北海道にある雪平の家に置かれているノートパソコンが写るんだけど、なぜ警察はそれを押収しなかったのか 。
そもそも、殺人の容疑者として逮捕されたのなら家宅捜索ぐらいするはずなのに、すげえキレイなままだぞ。
あと、雪平は佐藤が殺害された現場を調べた時、廃船の底に隠してあったUSBメモリをゲットするんだけど、いつ隠したのか。
ずっと黒幕サイドが雪平を監視していたはずなのに、それを隠す時は都合よく見ていなかったのね。
あと、なんで廃船の底なのか。(観賞日:2012年4月2日)