『ULTRAMAN』:2004、日本

硫黄島研究施設で怪物が暴れ、建物を破壊し始めた。研究者の水原沙羅は銃を構えるが、引き金を引くのをためらった。その間に怪物は崖 から海に飛び込み、姿を消した。航空自衛隊の真木舜一はF15Jイーグルのパイロットとして活動してきたが、その週で退官することを 決めていた。真木には継夢という5歳の息子がおり、先天性の疾患があった。次に倒れたら、助かる可能性は20パーセントだと医者から 言われていた。真木は継夢と一緒に過ごす時間を増やすため、退官を決めたのだった。
正体不明の飛行物体が発見され、スクランブル要請を受けた真木は同僚の倉島剛と共に出動した。倉島がマシントラブルで帰還した後、 真木は謎の赤い発光体と衝突し、謎の巨人を目にする。イーグルは山中に墜落し、真木はレストランに辿り着き、経営者夫婦に「電話を 貸してほしい」と頼んだ直後、彼は倒れ込んで気を失った。意識を取り戻すと病院で、妻の蓉子と継夢が付き添っていた。真木は精密検査 を受けるが異常は見られず、それどころか骨折一つ無かった。
基地に戻った真木は上官の尋問を受け、事故について説明した。彼は倉島の前で、誰も赤い発行体について触れようとしないことに苛立ち を示した。彼は退官し、家族と遊園地で過ごした。その様子を、水原密かに監視していた。真木は星川航空に就職し、セスナの操縦士と して働き始めた。1ヶ月が経過したある日、真木は社長の万城目から、蓉子と継夢が飛行場へ来ることを知らされる。万城目は「午後の 仕事はショートフライトが一件だけだから、それが終わってから一緒に飛んだらどうだ」と勧めた。
真木がショートフライトの客として乗せたのは水原だった。彼女は雑誌の取材と偽っていた。セスナが離陸した直後、陸自のヘリが接近 した。水原は真木に拳銃を突き付け、誘導に従って封鎖した国道に着陸するよう要求する。セスナを降りた真木は、待機していたジープに 乗せられた。そのジープには、防衛庁内に設置された対バイオテロ特務機関BCSTの責任者・曽我部一佐がいた。曽我部は真木に、水原が BCSTの科学担当官で作戦の立案者であることを教えた。
水原と曽我部は真木をBCSTの施設に連行し、1ヶ月前から監視下に置いていたことを明かした。3ヶ月前、太平洋沖に未確認飛行物体が 墜落し、一隻の深海作業艇が消息を絶った。回収された船体は大破していたが、操縦者の海上自衛官・有働貴文は奇跡的に生還した。その 証言から、作業艇を破壊したのが青い発行体であることが判明した。生還から1週間後、硫黄島研究施設に収容されていた有働は発行体の 影響で凶悪な怪物「ザ・ワン」に変貌し、逃亡した。紛れ込んだヤモリを体内に同化させ、その能力を顕在化させたのだ。
曽我部は真木に、有働が他の生物を吸収して進化する怪物になったのだと告げた。真木にも初期的変化が表れており、水原と曽我部は有働 と同じような怪物に変貌すると確信していた。水原たちは、真木を地下室に閉じ込める。水原はザ・ワンをおびき出すため、真木をエサに しようと考えていたのだ。彼女の狙い通り、ザ・ワンは施設に現れた。待ち受けていた攻撃部隊の矢代たちは、水原が用意した毒入りの 銃弾を一斉に浴びせた。しかし進化したザ・ワンには全くダメージを与えられなかった。
ザ・ワンが巨大化して暴れ始めたため、矢代たちは退避した。逃げ遅れた水原がザ・ワンに追い詰められた時、地下室の扉を破壊した真木 が現れる。彼は「今の内に逃げろ」と水原に叫んだ。真木はザ・ワンに襲われ、尻尾に弾き飛ばされた。立ち上がって彼は光に包まれ、 咆哮と共に銀色の巨人「ザ・ネクスト」に変身した。ザ・ネクストは水原を守って戦うが、途中で力が弱まってしまう。傷を負ったザ・ ワンを追い掛けようとしたところでザ・ネクストは倒れ、真木の姿に戻った。
真木が意識を取り戻すと、施設の医務室にいた。水原は彼に、有働が監禁されている時、もう一つの光が自分を追って来ると予言していた こと、そいつを殺すと言っていたことをを語った。水原は自分を守った真木を殺さず、しばらく様子を見ることにした。ザ・ワンを殺す ための協力を要求する彼女に、真木は「俺は普通の人間だ。なんで、あんな化け物と戦わなきゃいけないんだよ」と声を荒げた。すると 水原は、ザ・ワンが新宿の地下トンネルで暴れ、犠牲者が出ていることを教えた。
真木が水原や曽我部たちと共に施設を出ようとした時、継夢が幼稚園で倒れた映像が脳内に飛び込んできた。真木はジープを奪って逃走 した。曽我部が射殺許可を取ったため、水原は急いで真木の後を追い、倉島に連絡を入れた。真木が病院に到着すると、水原が現れた。 真木は「奴との戦いで死ぬかもしれない。一目でいい、息子に会わせてくれ」と懇願する。そこへ倉島が姿を現し、水原に銃を向けて 「行かせてやれ」と脅した。水原は真木に10分の猶予を与えた。
病院に駆け込んだ真木は、女医から継夢に異常が見られないこと、倒れたのは精神的な問題であることを知らされた。継夢は気丈な態度で 、真木に「僕は大丈夫だから、お仕事に行って」と告げる。「治ったら飛行機に乗せてくれる?」と言われた真木は、「約束だ」と指切り した。真木を車に乗せた水原は、有働が恋人だったことを明かした。真木と水原が地下トンネルに入ると、苦しそうな表情の有働が現れた 。それはザ・ワンが水原の心を乱すために用いた作戦だった。水原は感情を抑え、毒性を強化した銃弾を撃ち込むが、ザ・ワンを仕留める ことは出来なかった。地上へ飛び出したザ・ワンを倒すため、真木はザ・ネクストへと変身した…。

監督は小中和哉、脚本は長谷川圭一、監修は円谷一夫、製作は円谷英明&久松猛朗&竹内淳&川城和実&近藤邦勝&島本雄二&鈴木暁& 原裕二郎、チーフプロデューサーは鈴木清、プロデューサーは吉田剛&渡辺伸吾&久保聡&大岡大介&種村達也&横山真二郎&小松賢志& 岡崎剛之、製作協力プロデューサーは渋谷浩康&小山信行、撮影・VFXスーパーバイザーは大岡新一、編集は松木朗、録音は弦巻裕& 鶴巻仁、照明は和泉正克、美術監督は大澤哲三、特殊美術デザイナーは高橋勲、本編美術デザイナーは稲付正人、 殺陣は車邦秀、特技アクション監督は岡野弘之、特技監督は菊地雄一、フライングシーケンスディレクターは板野一郎、 音楽は小澤正澄&池田大介&鎌田真吾、音楽プロデューサーは玉川静、音楽監督は田靡秀樹、音楽監修はTAK MATSUMOTO(B'z)、 主題歌「NEVER GOOD-BYE」はTMG、テーマ曲「Theme from ULTRAMAN」はTAK MATSUMOTO。
出演は別所哲也、遠山景織子、大澄賢也、草刈正雄、永澤俊矢、隆大介、裕木奈江、広田亮平、角田英介、佐藤夕美子、エド山口、 森川正太、清水一哉、奈良坂篤、石原辰己、駒田健吾(TBS)、岡村洋一、堀岡真、八下田智生、奥薗日微貴、千葉誠樹、那須佐代子、 曽我部あきよ、安室満樹子、小野日路美、遠藤真宙、濱川歩、山崎崇史、辻本晃良、市村直樹、三木秀甫、高橋勇義、長谷川恵司、 山本諭、岩本淳也、木下政信、真田幹也、山本寿夫、阿部満、岡野弘之、寺井大介、岩崎晋弥、田辺信彦、赤澤啓志、森英二、永田朋裕、 相馬絢也、安藤道泰、岩田栄慶、横尾和則、矢部敬三、岩上弘数、翁長卓、中村博亮、梶本明志、矢島星児、宇賀神明広、笹川大輔、 藤田信宏、倉富益二郎、鷹見洋介ら。


「ULTRA N PROJECT」の一環として製作された映画。
真木を別所哲也、水原を遠山景織子、有働を大澄賢也、万城目を草刈正雄、倉島を永澤俊矢、曽我部を隆大介、蓉子を裕木奈江、継夢を 広田亮平、星川航空整備員の一平を角田英介、事務員の由利子を佐藤夕美子が演じている。
監督の小中和哉と脚本の長谷川圭一は、『ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ 光の星の戦士たち』『ウルトラマンティガ& ウルトラマンダイナ ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』のコンビ。

「ULTRA N PROJECT」は、円谷プロダクションが「ネオスタンダードヒーロー」を生み出すために立ち上げた企画で、2004年に 『ウルトラマンノア』が雑誌連載され、同年10月にテレビシリーズ『ウルトラマンネクサス』の放送が開始、そして12月に本作品が公開 された。
この映画には続編も予定されていたが、『ネクサス』の視聴率も本作品の興行も不振だったために「ULTRA N PROJECT」が自然消滅し、 おのずと続編の企画も中止になった。
内容はテレビシリーズ『ウルトラマン』第1話「ウルトラ作戦第一号」のリメイクとなっており、「第1話の出来事が現代社会で実際に 発生した場合」を想定してシナリオが作られている。『ノア』や『ネクサス』と同一の世界観で作られており、『ネクサス』の5年前の 出来事という設定になっている。防衛庁の全面協力を受け、本物のF-15が使用されている。
また、フライングシーケンスディレクターとしてアニメーターの板野一郎が参加し、空中戦のシーンでは彼が得意とする「板野サーカス」 が繰り広げられる。

序盤、退官を決めた真木が倉島から「本当に後悔しないのか」と問われ、自分が自衛隊のパイロットになった理由として、幼少時代に 戦闘機を見て憧れたことを語るシーンがある。
そこでは、夏休みに戦闘機を見た時の回想シーンも挿入されている。
だが、わざわざ映像を挿入してまで「子供の頃に憧れた」という設定を説明していることが物語において大きな意味を持って来るのかと いうと、何も無い。
真木がどういう理由でパイロットになろうと、そんなことは映画にとって何の意味も持たない。

冒頭で真木に病気の息子がいることが示されるが、それで退官したという設定も、物語において何の意味も持たない。
どういう理由で退官しようが、っていうか退官していなかったとしても、物語には何の影響も与えない。家族との関係は、ほぼ無価値と 言ってもいい。
途中、息子が倒れた知らせを受けて急いで病院へ駆け付けた時の回想シーンが挿入されるが、「だから何?」という感じ。
一応、「家族を守るために戦う決意をする」というところへ繋げたいようだが、家族との絆や愛情を描くドラマが薄いので、そこで物語が 盛り上がる、こちらの感情が高ぶるという作用が無い。

出動した真木は、未確認物体について「サーチポジションだ。もうすぐ見えるぞ」「ロストした?」といったセリフを語るが、ものすごく 説明的だ。
衝突した後の「俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ」というセリフや言い回し&その時の映像表現&BGMは、ものすごく安っぽい。
後者に関しては、なぜロックなビートに乗せて描いちゃったんだろうか。もっと幻想的で奥行きを感じさせる表現にした方が良かったん じゃないの。幼い子供向けアニメみたいな表現に感じられる。
いや、そういう年齢層を狙って作ったのなら、まだOKだけど、むしろ大人向けってことを意識して作ったはずでしょ。それなのに、 すげえ子供っぽい仕上がりってのはマズいでしょ。

水原たちは1ヶ月に渡って真木を監視し、記者だと偽ってショートフライトに出た後、銃で脅して着陸させる。強引な手法を咎める真木に 、水原は「それほどまでに事態は切迫しているのよ」と言うが、だったら、わざわざフライトを予約してセスナに乗り込み、ヘリで誘導 するという手間を掛けるのは何なのかと。むしろセスナを降りている時、仕事をしていない時に拉致した方が楽でしょうに。
セスナを飛行場の無い場所に着陸させるという危険を冒させるのも、アホにしか見えないんだよな。
それが例えば真木の腕前を確かめるためということなら、まだ分からないではないが、そうじゃないんだからさ。普通に飛行場に着陸 させればいいでしょうに。BCSTは防衛庁の組織なんだから、自衛隊の基地にでも着陸させればいいんじゃないの。
その危険な着陸シーンを見せ場か何かとして持ち込んだわけでもなく、そこはサラッと処理しちゃうんだし。

それと、いきなり有無を言わさず拉致するんじゃなくて、まずは普通に会って事情を説明し、協力を求めればいいんじゃないの。
その手順を踏まないのも理解できない。
真木は少し前まで空自の人間だったんだから、国家や地球の危機に関わる問題だと言われたら、話ぐらいは聞く気になると思うんだけど。
で、それで協力を拒否されたら、力ずくで従わせるという形にすりゃいいのに。
最初から高圧的で支配的な態度ってのは、「こいつらを悪玉に見せたい」という意識が強く出すぎているように感じられる。

あと、バイオテロの特務機関が乗り出してくるってのは不可解。だって、怪物が暴れて、それを阻止しようという作戦でしょ。
それってバイオテロじゃないでしょ。
そういう特務機関が出て来るってことは、怪物への変貌はウイルスによる感染という解釈なのか。だとすると、1ヶ月も真木を放置して いたらダメでしょ。さっさと隔離すべきでしょ。
あと、そのウイルスがどういう感染経路を辿るのかを調べ、他の人間への感染を防ぐための対策を練るべきだと思うが、そういう気配は 全く見られない。兵士たちは誰も防護服を着用していないので、空気感染は無いということが既に分かっているんだろうか。
例えば怪物に傷付けられたら感染するとか、そういう可能性は考えられるんだけど、そういうことは調べているのかね。そんな様子は 見られないけど。

水原はザ・ワンを待ち受ける実行部隊に銃弾を渡して「毒性は確認済みよ。百パーセント殺せるわ」と言っているが、相手は未知の怪物 なのに、しかも進化していく生き物なのに、それで確実に殺せると、なぜ断言できるのか。
ザ・ワンが全くダメージを受けないことに驚き、「毒に対する免疫抑制が強化されている」と言っているが、強化されなかったら 殺せたのか。
なぜ、そこまでザ・ワンの毒に対する強さを知ることが出来たのか。
ザ・ワンを捕まえて研究していたのか。それが分かるまでは言うことを聞いていたのか。

真木は地下でザ・ワンに襲われた時、ザ・ネクスト(これがウルトラマンということになっている)に変身する。
カラータイマーが丸くないとか、そういう造形に関しては、特に否定的な印象は受けなかった。
ただ、赤い発行体がザ・ネクストで、青い発行体がザ・ワンという設定なんでしょ。ザ・ネクストに変身する前に、真木の目が赤く光ると いう描写もある。
それぐらい「赤」をザ・ネクストのイメージカラーにしているのなら、変身する時の光が青っぽいってのは、どうなのかと。
そこは赤くすべきじゃないの。

真木が連行された後、星川航空の飛行場で万城目や蓉子たちが心配していると、そこに倉島が現れる。
それ以降、万城目たちが説明を要求するとか、抗議するといった描写は無い。
いったい倉島は、どういう説明をして納得させたんだろうか。
その倉島は、ほとんど存在価値の無い状態なんだが、ザ・ネクストが危機に陥った時に助けに来るってのは、防衛庁の協力を得ているから 、少しはイーグルに活躍の場を与えておかなきゃマズいだろうっていう下手な計算なのか。

水原と有働の恋愛関係は、上手く活用されているとは言い難い。むしろ中途半端な形で盛り込むより、バッサリと削ぎ落した方がスッキリ する。
終盤、地下トンネルにザ・ワンが有働の姿で現れて水原を動揺させるとか、そんな展開も要らない。もう有働の姿に戻る必要性は無い。
なんで「いよいよウルトラマンと怪獣の最終決戦」という所に来て、そんなチンタラした時間帯を設けるのか。
そこだけ急に、ザ・ワンが悪知恵の働くキャラになっているのも不自然だし。

「真木がザ・ワンと戦う使命感に目覚める」という部分が、上手く表現されていない。
「それは俺の役目だ」と強い口調で言い切るようになるのは、たぶん「息子と妻を守るため」という意識が生じたからだと思うんだけど、 そこが上手く繋がっていない。
病院のシーンの後、水原と有働が恋人だったことを聞かされるシーンなんて挟まず、病院を出て来た彼が水原に対してすぐに「俺は奴を 倒す。約束したんだ、息子を飛行機に乗せてやるって」とかなんとか言えば、もっと分かりやすかっただろうに。

ザ・ネクストが空を飛ぶとCGになるが、これが安っぽい。
空中戦を描きたかったようだが、そんな安っぽいCGで処理するぐらいなら、地上で怪獣プロレスをやってくれた方がマシだ。
ザ・ネクストとして空を飛ぶシーンを、真木がイーグルのパイロットであることを重ね合わせているのも、ピンと来ない。ザ・ネクストは 空を飛ぶのがメインの仕事や能力じゃないんだし。
真木とザ・ネクストが会話を交わす、心を通じ合わせるという描写も終盤まで無いし、申し訳程度なので、だったら、いっそ無い方がいい。

(観賞日:2011年9月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会