『ウホッホ探険隊』:1986、日本

榎本登起子は食品会社の研究施設で働く夫の和也から電話を受けて、「土曜には帰れる。日曜は子供たちと遊びにに行ける」と言われる。和也は「君に話がある」と告げるが、電話で具体的な内容を明かそうとはしなかった。土曜日、登起子は息子の太郎と次郎を連れて港へ行き、フェリーで戻った和也を迎えた。一家は車で帰宅し、太郎はスタイルを良くするために通っている区民プールへ出掛けた。太郎が戻ってから、一家は夕食を取った。和也が就寝前に歯を磨いていると、太郎が「もっと父さんの服が欲しい」と声を掛けた。和也は太郎の部屋へ行き、一緒に服を選んだ。
翌日、一家は公園へ出掛け、次郎がラジコン飛行機を飛ばした。4人は親子に別れてボートを漕ぎ、次郎は「僕らは探検隊の船だ。怪しい船を発見して追跡するんだ」と語った。和也が「ウホッホ」と咳き込むと、彼は「怪しい音だ。僕らはウホッホ探険隊だ」と述べた。昼食の後、和也は太郎と2人になり、「背が高くなった」と告げる。太郎はモデルの仕事をしているクラスメイトに勧められ、プールで泳いでいることを語った。将来の夢を訊かれた彼が「何も決めてない」と答えると、和也は「応援するからな、ずっと」と告げた。
次郎が2人だけの会話に不満を漏らすと、和也は「次郎にも秘密の話がある」と口にした。次の朝、和也は次郎を小学校へ送り届ける時に、「秘密の話って何?」と訊かれる。彼は次郎に、アルバムから自分と登起子の2人だけ写っている写真を見つけて内緒で送ってほしいと頼んだ。太郎は和也は登起子と2人になりたがっていると知り、中学校の手前で車を降りた。和也は登起子とホテルのロビーへ行き、他愛も無いことを話す。彼は少しためらいを見せてから、「女がいる」と打ち明けた。
週刊誌のインタビュア・ライターとして働く登起子はカメラマンを伴い、プロ野球選手の景浦を取材した。登起子が夫婦関係について質問すると、景浦は軽い調子で女遊びについて語った。取材が終わった後、景浦は登起子とのツーショット写真をカメラマンに撮らせた。和也は研究施設の中で、同僚の美際良子とデートした。登起子は息子たちと夕食を取っている時、和也からの電話で「いつ来られるんだ?」と訊かれる。モヤモヤして仕事にも影響が出ていると言われた彼女は、「こちらから連絡します」と告げた。
翌日、登起子は実家を訪れ、父と離婚してから1人で暮らしている母のくに子と会う。和也に愛人がいることを彼女が明かすと、くに子は「心配させて来てほしいだけじゃないの?」と述べた。和也は上司や同僚と共に、カラオケスナックへ出掛けた。彼は良子からデュエットを求められ、「歌は苦手だから」と断る。しかし不機嫌になった良子が他の男性所員とのデュエットを嫌がったので、仕方なくOKした。良子は間奏中に「この前帰った時、奥さん抱いた?」と尋ね、和也が「抱かないよ」と言うと「嘘」と口にした。和也は施設の部屋に戻り、良子が来たので一緒に過ごした。
翌朝、良子は同僚に頼み、和也にベタベタしている写真を撮ってもらった。彼女は登起子に、その写真を送り付けた。登起子は和也に電話を掛け、写真が送られて来たことを話す。「僕が送ったんじゃないよ」と和也が否定すると、登起子は週末に行くことを告げた。次の日、登起子はロック歌手の定岡勉をインタビューする仕事に行くが、時間が過ぎても一向に現れず、電話を掛けても繋がらなかった。すると定岡の妻のみどりが来て、彼とマネージャーが二日酔いで寝ていることを伝えた。みどりは「酒飲んで二日酔いになるぐらい、嫌なことがあったんでしょ」と語り、まるで悪びれた態度を見せなかった。
週末、登起子は子供たちを母に預かってもらい、研究施設へ赴いた。最寄駅に着くと大雨が降っており、和也が車で迎えに来た。彼は良子について、まだ仕事をしていることを告げた。研究施設に戻った和也は、登起子とビールを飲んで焼き肉を食べた。食事が終わると、良子が部屋にやって来た。彼女は全く悪びれた態度を見せず、「自然とそうなったんです」と言う。和也が「距離が離れていたら、物理的に何も出来ない」と自身を正当化すると、登起子は「距離が離れていても、お互いに頑張って生きてると思ってたんです。私たち以外のことを考えてるなんて思いもしませんでした。残念です」と告げた。
和也が「僕は幾らでも嘘をつくことが出来る。だが知らないから信じられる、知ったから信じられないってのは嫌だった。どんな制裁を受けても、現実をそのまま見せて判断してもらうしかないと思ったんだ」と話すと、「制裁なんておかしいわ。みんな正しいと思います。おのおののモラルの違いだけだと思います」と良子は語る。登起子は苛立つが、良子は自分の意見の正しさを主張した。良子が酔い潰れて眠り込んだため、登起子は和也と共にベッドまで運んだ。
帰宅した登起子は、夕食の時に太郎と次郎から和也との会話について質問された。「つまんないことよ」と登起子が誤魔化すと、太郎は「おかしいよ」と責めた。次郎からシチューが美味しくないと不満をぶつけられた登起子は、「どうしてそんなに苛めるの?」と泣いた。彼女は定岡を取材するため、ライブハウスへ赴いた。定岡は登起子を軽い態度で口説き、馬鹿にするような態度を取った。定岡は「子供が2人いるみたいに見える」と言い、登起子が「子供が2人います」と告げると大笑いした。
翌日から登起子は仕事を休み、ずっと家で過ごす。子供たちが学校へ行った後、彼女はアルバムから写真が抜き取られていることに気付く。和也は良子から「こないだから夫婦の時間が見えちゃうの。会わなきゃ良かった」と言われ、「向こうだって、こっちの時間が見えたわけだし」と告げた。太郎は友人の豪邸に招かれ、妹を紹介された。友人は太郎に、妹がアルバムを見てタイプと言っていたことを教えた。次郎は登起子から写真をどこへやったのか問われ、和也に頼まれて送ったことを打ち明けた。
太郎は登起子が勝手に部屋を片付けたと知り、文句を言う。太郎と次郎は些細なことで喧嘩になり、止めに入った登起子は突き飛ばされる。太郎が入浴している時、次郎は悪戯でブレーカーを落とした。突然の停電で登起子は食器を落とし、泣き出してしまった。彼女はみどりからの電話で「お願いだから、すぐに来てくれない?」と泣いて頼まれ、車で赴いた。すると定岡は愛人を連れ込んでおり、登起子が非難すると馬鹿にして笑い飛ばした。登起子は酔い潰れたみどりを家に連れ帰り、布団で寝かせた。翌日、彼女は子供たちと公園に出掛け、キャッチボールをした。帰宅した彼女は、「お母さん、お父さんと別れていい?」と切り出した…。

監督は根岸吉太、原作は干刈あがた(福武書店刊)、脚本は森田芳光、企画は岡田裕、製作は岡田裕&宮坂進&波多腰晋二、プロデューサーは山本勉&横山宗喜、撮影は丸池納、照明は木村誠作、美術は木村威夫、録音は小野寺修、編集は川島章正、音楽は鈴木さえ子。
出演は十朱幸代、田中邦衛、村上雅俊、本山真二、藤真利子、加藤治子、柴田恭兵、時任三郎、斉藤慶子、陣内孝則、速水典子、重松収、入江正徳、生田智子、河村有実子、野口雅弘、坂東明、木下健三郎、村上智子、瀬田ひろ美、中田ちえこ、角間明美、網干豊久、千葉哲也、直井ひろか、高橋芳彦、岡田和子、本庄和子、野川ひとみ、河合康史、山下陽子ら。
声の出演は津川雅彦。


干刈あがたの同名小説を基にした作品。
監督は『探偵物語』『ひとひらの雪』の根岸吉太郎。
脚本は『メイン・テーマ』『そろばんずく』の森田芳光。森田芳光が脚本だけで監督を担当しないのは、1983年の『3年目の浮気』に続いて2作目。彼は根岸監督の要請で脚本を担当したらしい。
登起子を十朱幸代、和也を田中邦衛、太郎を村上雅俊、次郎を本山真二、良子を藤真利子、くに子を加藤治子、景浦を柴田恭兵、カメラマンを時任三郎、みどりを斉藤慶子、勉を陣内孝則が演じている。

和也役に田中邦衛を起用したのは、たぶんTVドラマ『北の国から』のイメージが強いから、「あえて逆を狙って」ってことじゃないかと思う。『北の国から』だと、妻に浮気された男を演じていたしね。
だけど残念ながら、シンプルに「完全にミスキャスト」という結果に終わっている。
まず研究施設の研究員というのが違うし、同僚と浮気するようなタイプにも見えない。
そして仮に浮気したとしても、それを平気な顔で妻に明かすようなタイプにも見えないのだ。

和也は怪しまれているわけでもないのに、わざわざ自分から「女がいる」と登起子に打ち明ける。その心境がサッパリ分からない。「嘘をついているのが苦しい」と、罪の意識を感じているわけでもなさそうだし。
それを告白して、何をどうしたいのかと。それで離婚してくれと言い出すわけでもないし。
で、浮気を堂々と告白しておいて、写真のことで電話を受けるとバツが悪そうな口調だし、登起子と良子が顔を合わせる時は気まずそうな様子なのよね。
それは浮気を隠していいたのにバレた奴の態度だろ。

次郎が冷蔵庫からジュースを取り出してグラスに注ぐシーンで、なぜかヘンテコなカメラワークが入る。たぶんジュースの容器にカメラが取り付けられていて、その視点で次郎がジュースを注ぐ様子を映し出すのだ。
でも、その演出意図がサッパリ分からない。特に意味は無いけど、やってみたかっただけじゃないかと。
全編に渡って色々と凝った演出が散りばめられているなら、それも映画の味わいになったかもしれない。
でも、その1シーンだけなので、すんげえ邪魔だわ。

粗筋にも書いたように、太郎が友人から妹を紹介されたり、兄弟喧嘩に登起子が巻き込まれたり、次郎が悪戯でブレーカーを落としたりというシーンが後半に用意されている。
だけど、そういうのが何の意図で描かれているシーンなのか、良く分からないんだよね。少なくとも、後の展開に上手く繋がっているとは感じない。
太郎が女にモテるためにオシャレを意識しても、それと両親の離婚問題は絡んで来ない。兄弟喧嘩に登起子が巻き込まれて転倒しても、そこでシーンが切り替わるから影響は何も無い。
停電に関しては登起子が泣き出す展開に繋がるけど、別に無くてもいいと感じる程度だし。物語の厚みには貢献していないんだよね。

和也は登起子を良子に会わせた時、「幾らでも嘘をつくことが出来る。だが知らないから信じられる、知ったから信じられないってのは嫌だった。どんな制裁を受けても、現実をそのまま見せて判断してもらうしかないと思ったんだ」と話す。
それは正直で立派な態度のように装っているけど、実際は卑怯極まりない態度だ。
自分で決断せず、全て登起子に預けているのだ。「そっちが判断したことでしょ」ってことで、結果の責任を負わせているのだ。
和也が身勝手なだけの男にしか見えないので、明確な反省も断罪も無いまま、何となく許されたかのようになっているのはモヤモヤする。

完全ネタバレを書くと、和也は良子から別れを告げられ、久しぶりに家族と会う約束を取り付ける。登起子はデートのようなウキウキした気分で子供たちを連れてレストランへ行き、和也から良子と別れたことを聞かされる。ここで映画は終わる。
何だか尻切トンボのような終幕だが、何となく家族関係が修復されそうな予感を抱かせるのだ。
でも、これだと「夫が身勝手に浮気して、愛人に捨てられたから家庭に戻る。それを妻と子供たちは無条件で受け入れる」って形になるわけで。
当時はそういう男尊女卑みたいな考え方が主流だったのかもしれないけど、何だかモヤモヤするわ。

(観賞日:2022年5月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会