『植村直己物語』:1986、日本
1973年、グリーンランドで犬ぞりの訓練をしていた植村直己が日本に一時帰国した。彼は馴染みの店の近くに住んでいる野崎公子という女性に出会い、心を惹かれる。彼は公子に自分の書いた本を手渡す。公子は本を読み、植村直己について知る。
植村は大学時代、優れた登山家である友人の小川に連れられて初めて雪山登山に挑んだ。そこでの失態を恥じた彼は、猛トレーニングを開始した。4回生の時、小川のアラスカでの経験を聞いた村は、海外への憧れを強く抱くようになった。
植村は就職もせず、海外へ飛び出した。フランスでアルバイトをしていた彼に、小川達のグループからヒマラヤ登頂の誘いが来た。第一次アタックに失敗したグループは、元気の残っている植村を第二次アタックに挑ませる。植村は期待に応え、登頂に成功した。
その後は単独での登山を続け、植村は五大陸の最高峰単独登頂に成功。彼は目的を山から極地へと転換する。公子と結婚した植村だが、冒険への意欲は全く衰えることが無い。彼は南極大陸を犬ぞりで横断する計画を立てるのだが…。監督は佐藤純彌、原作は植村直己、脚本は岩間芳樹&佐藤純彌、製作は田中壽一&高橋治之&高山裕、企画は入江雄三&北野栄三、プロデューサーは水谷和彦、撮影は並木宏之、山岳撮影は阿久津悦夫、編集は鈴木晄、録音は橋本泰夫、照明は川島晴雄、美術は徳田博、衣装は万木利昭、音楽はウィンダム・ヒル、音楽監督は村井邦彦&ウイリアム・アッカーマン。
主演は西田敏行、共演は倍賞千恵子、古尾谷雅人、若林豪、大滝秀治、小澤栄太郎、山本圭、井川比佐志、左とん平、丹阿弥谷津子、日色ともゑ、菅井きん、乙羽信子、山岡久乃、池部良、藤木悠、倉田保昭、辻萬長、伊藤敏八、山田辰夫、磯部勉ら。
世界的な冒険家、植村直己の人生を描く作品。
撮影にはフランス政府観光局やシャモニ観光省、ネパール王国観光省などが協力。また、音楽製作にはウィンダム・ヒル創始者ウィル・アッカーマンの他、エリオット・メイザー、フィル・アーバーグ、マーク・アイシャムといった面々が参加している。前半は公子が本を読むという形で植村直己の過去が回想されるのだが、その内容を話す公子の台詞があまりに説明的。単純な時間経過で植村直己の人生を描いていった方が良かったと思う。前半を回想形式にした効果が見られない。
直己が金を稼ぐためにバイトをする場面や、公子との恋愛や、結婚式の風景や、そういう場面に時間が割かれている。
しかし、観客はそういった場面を見たいわけではないはずだ。植村直己が危険な冒険に挑む姿を見たいのだ。日常生活の場面は大幅にカットしても良かった。どうも彼の全てを描こうとしたようで、そのために散漫な印象を受ける。冒険のシーンもかなり淡白に描かれている。開始から終了までを描くことがなく、いきなり途中の場面を描いたり、登頂の瞬間を描かなかったりする。だから達成感や喜びが視聴者には全く伝わってこない。
冒険に挑む男の熱気、緊張感、大自然の迫力、そういった「気」が抜け落ちている。カメラワークでも、アップや引きのタイミングを完全に外しているように感じる。なんだか全て逆の方向に演出しているように感じてしまうのだ。大切な場面を全て削ぎ落としたため、盛り上がりを生むことなく、カタルシスを与えることに失敗している。中途半端にドラマとして作ろうとしたのも失敗ではないだろうか。ドキュメンタリータッチで描いた方が面白くなったのでは。
奥さんが「帰ってきてよ!」と叫び、「まだ夫が生きていると信じている」と言って映画はオシマイ。なんともスッキリしない終わり方。
そりゃ植村さんが遭難して消息不明だから仕方ないのかもしれんが、もう少し爽快感の残るエンディングには出来なかったのだろうか。