『宇宙ショーへようこそ』:2010、日本

美しい自然に囲まれた村川村に、朝が訪れた。小学5年生の小山夏紀はラジオ体操の音を耳にして、慌てて飛び起きた。彼女が庭へ行くと、既に2年生の従妹・鈴木周、周の母・恵、夏紀の母・清水が揃っていた。音に合わせて、4人はラジオ体操を始める。どっちが早起きできるか勝負していたので、周は「私の勝ち」と元気よく言うが、夏紀はすっかり忘れていた。夏紀は服を着替え、朝食の席に着く。そこには夏紀と周の祖父・藤四郎や夏紀の父・健一、周の父・丈夫たちもいる。
藤四郎は畑で山葵を作っているが、夏紀から「今日は畑、どうだった?」と問われると「やられた、グチャグチャだ」と答える。夏紀と周は山葵ふりかけをたっぷりと御飯に掛けて食べる。朝食を済ませた夏紀は、周を自転車の後ろに乗せて出発する。小学校の全校生徒5人だけで、小学校に1週間泊まり込むことになっているのだ。夏紀たちが小学校へ行くと、既に6年生の佐藤清、4年生、西村倫子、3年生・原田康二が来ていた。
周は自転車を降りると、すぐにウサギ小屋へ行く。夏紀の不注意で逃げられたウサギのぴょん吉が戻っているのではないかと思ったのだが、小屋は空っぽのままだった。康二を送って来た父の一と母の京子が車で去り、子供たちだけになった。教室に入った清は、まず宿題を済ませようとする。しかし他の4人が全くやる気になっていないのを見て、「森に行って、ぴょん吉でも捜すか」と提案した。
森を散策中に足を滑らせて転落した康二は、ミステリーサークルを発見する。5人で行ってみると、周が傷付いて倒れている犬を発見する。5人は犬を学校へ連れ帰り、手当てしてやった。子供たちが三角ベースで遊んでいると、犬が窓から飛び出してボールをキャッチした。犬が立ち上がって「まずはお礼を。おかげで助かりました」と人間の言葉を喋ったので、子供たちは唖然とする。すると犬は「私はポチ。アニマル星域のプラネット・ワンから来ました」と自己紹介した。
清が地球に来た目的を尋ねると、ポチは「植物の研究に来た。50億年前に絶滅した種を見つけたのです。その花はズガーンと言って、貴方のように美しい」と周の手を握る。そして「この未開の星の物は持ち出し禁止でね。ここで研究をしていたのだが、奴らが来た。私は戦い、密漁は阻止したが、傷付いてしまった」と説明する。だが、ポチは故郷の星に戻り、もう地球へは戻って来ないつもりだという。
ポチが「別れる前に、個人的な礼がしたい。何か願い事は無いか」と言うので、夏紀は「ぴょん吉を探してほしい」と告げるが「無理だ」と却下された。続いて康二が、中止になった修学旅行に清を連れて行ってほしいと頼む。清が「先生と2人で行ってもなあ」と消極的な態度を見せると、夏紀が「じゃあ、みんなで行こう」と言い出す。ポチから「どこに行きたい?」と問われた清は、「出来るだけ遠くに」と返答する。ポチは「了解した。では月まで案内しよう」と口にした。
ポチと5人の子供たちはジャングルジムごと浮遊し、そのまま宇宙空間へ出る。そして円盤型のタクシーに乗り込み、月へ向かう。ポチは5人を月面都市“グレート・ビギナーズ”へ案内した。到着するとロボットが来て、入管審査を受けることになった。5人のデータは、宇宙管理センターに記録される。入国管理官のロボットは「地球は宇宙連盟に入っていないので、宇宙旅行は出来ない」と周に説明した。そして「次のテストに正解したら、特別にパスポートをあげます。ただし間違えたら宇宙迷子預かり所行きです」と述べた。
質問に正解した周は、パスポートを受け取った。他の面々もパスポートを貰い、グレート・ビギナーズの中へと進む。様々な種類の宇宙人が街を歩く中、5人はポチの案内で「スペース・バーガー」という店に入った。ポチが商品を注文し、ハンバーガーとポテトとコーラが運ばれてきた。その時、街中のスクリーンにTV番組「ザ・宇宙ショー」が写し出された。最高責任者のネッポが司会を務め、全宇宙で生放送されている人気番組だ。マリーというポチと同じ星の宇宙人が登場し、歌い始めた。
ポチはレポートを提出し、帰りの便を手配することにした。彼は「買い物でもしててくれ」と言い、子供たちに月面都市の金を渡す。ポチはレポートを提出した直後、地球行きが全面通行禁止になったことを知った。彼は子供たちの元へ戻り、地球へ帰れなくなった事情を説明する。ポチの出した密漁団に関するレポートが影響したのだ。ポチは「方法はある。一旦、他の星に向かい、そこから戻ればいい」と、故郷のプラネット・ワンへ行くことを提案した。しかし、そこまでは20年も掛かるという。
清が「7日の6時までに戻らなきゃならないんだよ。出来れば、もっと早く」と焦ったように言うと、ポチは「ギャラクシー超特急を使えば楽勝なんだがなあ。お金は掛かるが、何とかする」と告げる。ひとまずポチは子供たちをホテルに宿泊させ、父親のタローに電話して金を貸してほしいと頼むが、無言で切られてしまう。翌朝、彼は子供たちに、「資金面の援助は得られなかった。しかし旅費は何としても稼ぎ出す」と言う。彼はギャンブルで当てようと考えていた。
清が「僕、働く。みんなは待っててくれ」と口にすると、他の子供たちは「自分も働く」と手を挙げる。5人は求人雑誌を読み、それぞれが別の場所でバイトをすることにした。夏紀は配達会社、周は託児所、康二は宇宙の何でも屋「インクショップ」、清は宅配業者で働き始めるが、倫子だけはなかなか決められない。夏紀は調子に乗って事故を起こし、クビになった上に借金まで作ってしまう。
康二はインクショップの看板娘・インクと親しくなり、幻の星ペットスターのことを知る。康二はから、インクは父親のルビーンの方が詳しいからと、尋ねるよう勧められる。メビーンによれば、ペットスターは銀河を変えるぐらいの宝が眠っていると言われているが、誰も発見できていないのだという。ルビーンは新型エンジンを開発し、それを積んだロケットを売り出そうとしていた。その頃、倫子は清と同じ宅配業者で働き始めていた。
広場で寝そべっていた夏紀は山葵スナックの袋を開けようとするが、勢い余って飛んで行く。それが歩いていた宇宙人の口に飛び込んだ。宇宙人は「ズガーン!」と叫ぶ。彼は夏紀の元へ行き、「それを売ってくれ。これだけ払う」と興奮した様子で所持金を見せる。すると周囲にいた面々も、みんな「売ってくれ」と集まって来た。その様子に、密漁団のボグナー、ヘストン、ロビーが気付いた。
一日のバイトが終わり、子供たちは全員の稼いだ金を集める。夏紀が出した金を見て、ポチは仰天する。それだけでギャラクシー超特急に乗るには充分な金額だった。夏紀が「山葵を売っただけなのに」と山葵の入った袋を取り出すと、ポチは「ズガーン!」と倒れ込む。彼が「それがズガーンだ」と言うので、夏紀は「私、宇宙刑務所行き?」と慌てる。ポチは「まあ現地人だから大丈夫だろう。だが、これ以上は売らない方がいいな。誰かに目を付けられたら危険だ」と忠告した。
翌朝、子供たちとポチはギャラクシー超特急に乗り込む。列車は超速で飛行し、あっという間にM45プレアデス星団へと到達した。密漁団の連中も乗り込んでおり、5人とポチを監視していた。途中の駅で、宇宙ショーのマニアであるゴーバが乗り込んできた。康二が「でも、どこでも見られるんじゃ」と言うと、ゴーバは「俺は出来るだけ近付いて、ショーがどうやって作られているのか知りたいんだ」と語る。深夜にトンネルで渋滞したため、列車は一時停止した。
トンネルを抜けて宇宙管理センターを通過中、ポチと親しいセンター職員のトニーがやって来た。「今度は何の調査だ」という問いに、トニーは「ある闇市場でズガーンという植物が出回るという噂があってな。記録上では滅びているはずだから、調査に行くんだ」と答える。子供たちとポチはバスに乗り換え、プラネット・ワンへ向かった。ポチは地球行きの手続きをするため、自分が教授をしている王立大学へ赴く。密漁団が夏紀のバッグを奪って車で逃走したので、ポチは追跡した。ポチは山葵の入ったバッグを奪還し、密漁団を捕まえて警察に引き渡した。密漁団が持っていたプレートには、ソンブレロ古代文字が刻まれていた。
ポチは「地球行きの船は明後日の朝になった。それまで家で休んでくれ」と言い、子供たちを自分の家へ連れて行く。彼は父のタロー、母のハナコと暮らしている。家にはマリーと一緒の写真が飾られており、ポチは「同じ研究室にいたんだ」と子供たちに説明した。タローが古代生物治療学を使った個人病院をやっていると知った清は、康二と一緒に見学させてもらう。ポチは父に山葵を渡し、「これがズガーンなのか、あるいは似た植物なのか」と口にした。タローは分析用の機械に入れ、「明日には結果が出る」と述べた。
次の日、ポチは周が夏紀に「夏ねえちゃんなんて知らない」と怒って走り去るのを目撃した。夏紀が「やっぱり、別のウサギ飼ってこよう。じゃないと周ちゃん、許してくれない」と漏らすので、ポチは理由を尋ねる。事情を知った彼は、「周さんがいなくなったとする。誰かが、じゃあ代わりの子を捜して来ると言ったら、どうする?」と問い掛けた。夏紀が「代わりなんているはずないじゃない」と怒ると、彼は「ぴょん吉にはいるのか?」と尋ねた。
夏紀はハッとして、「だって、でも、どうすれば」と口にする。ポチが「謝ればいい」と促すと、彼女は「謝ったよ、何度も」と主張する。ポチは「しかし、お前はなぜ悪いのか気付いていなかった。ヒーローが偉大なのは勇気を持っているからだ。間違いを間違いと認めること。それは立派な勇気だ。恥ずかしいことではない」と諭した。一方、清は周に、「夏紀にどうしてほしいんだ?」と質問する。すると周は「前のお姉ちゃんに戻ってほしい」と答えた。
清がどういうことか尋ねると、周は「時々こっちに来てた時は、だらしなくて、カッコなんか付けなくて。一緒に暮らすようになってから、すごくお姉ちゃんぶって遊ぶんじゃなくて、遊んであげてるって感じで」と語る。清は「それを、そのままぶつけてみろ」と優しく説いた。夏紀と周は、共に謝った。その時、空から光線が伸びてきた。ポチの家は破壊され、周が連れ去られた。ポチは、敵の目的がズガーンで、周は巻き添えにされたのだと確信する。そして彼は、犯人がネッポであることも確信していた…。

監督は舛成孝二、原作はベサメムーチョ、脚本は倉田英之、企画は夏目公一朗&勝股英夫、プロデューサーは落越友則、ラインプロデューサーは外崎真、製作総括は植田益朗&越智武&寺田篤、製作は岩上敦宏&服部洋、キャラクターデザイン&作画監督は石浜真史、場面設計は竹内志保、メカニック作画監督は渡辺浩二、プロダクションデザインはokama&神宮司訓之&竹内志保&渡辺浩二、サブキャラクターデザインは藪野浩二&森崎貞、演出は畑博之、色彩設計は歌川律子、美術監督は小倉一男、CG監督は那須信司、撮影監督は尾崎隆晴、編集は後藤正浩、音響監督は菊田浩巳、音響効果は倉橋裕宗、録音調整は名倉靖、絵コンテは舛成孝二、宇宙ショーオープニング 絵コンテ・演出・原画は湯浅政明、音楽は池頼広、主題歌はスーザン・ボイル『フー・アイ・ワズ・ボーン・トゥ・ビー』。
声の出演は黒沢ともよ、生月歩花、吉永拓斗、松元環季、鵜澤正太郎、藤原啓治、中尾隆聖、五十嵐麗、小野坂昌也、竹田雅則、宮本充、飯野茉優、江川央生、伊藤和晃、日高のり子、銀河万丈、飛田展男、三木眞一郎、平田宏美、納谷六朗、滝知史、恒松あゆみ、塾一久、林遼威、小田敏充、雪野五月、伊藤美紀、斎藤千和、MAKO、櫛田泰道、菊地祥子、菊本平、勝沼紀義、遠藤大智、拓磨、吉開清人、大原崇、岡林史泰、荻野晴朗、河田吉正、須嵜成幸、高中宏之、高橋研二、田久保修平、樋口智透、足立友、尾崎麗奈、杉浦奈保子、中島アキ、永田依子、広瀬有香、山口享佑子、相澤瑠星、木村真那月、田中愛生、松浦愛弓、渡辺哲史ら。


第9回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞した2005年のTVアニメ『かみちゅ!』を手掛けたクリエイターユニット“ベサメムーチョ”が初めて作った映画。
ベサメムーチョは監督の舛成孝二、脚本の倉田英之、プロデューサーの落越友則によるユニットで、この映画からキャラクターデザインの石浜真史が加わった。
夏紀の声を担当した黒沢ともよ、周役の生月歩花、康二役の吉永拓斗、倫子役の松元環季、清役の鵜澤正太郎は大人のプロ声優ではなく、全員が子役たちだ。
ポチの声を藤原啓治、ネッポを中尾隆聖、マリーを五十嵐麗、ボグナーを小野坂昌也、ヘストンを竹田雅則、ロビーを宮本充、インクを飯野茉優、ルビーンを江川央生、タローを伊藤和晃、ハナコを日高のり子、ゴーバを銀河万丈、トニーを飛田展男、恵を平田宏美、藤四郎を納谷六朗、一を滝知史、京子を恒松あゆみ、倫子の祖父・真彦を塾一久、倫子の弟・寛人を林遼威、健一を小田敏充、清水を雪野五月、清の母・ミツルを伊藤美紀が担当している。

まず最初に言いたいのは、上映時間が長すぎるってことだ。
136分って、大人向けの映画としても、かなり長いぞ。
しかも、この映画はジュブナイルでしょうに。つまり子供向け映画、ファミリー向け映画ということになるはずだ。
子供向け映画で136分って、そりゃ無いわ。
これまでオタク相手のアニメを作って来た面々だから、その辺りの感覚がバカになっちゃってたのか。
子供向け映画ってことを考えると、120分でも長いね。出来れば90分程度で収めたいところだ。

気になるのは、子供たちの冷たさ、薄情さ。
夏紀は周が大事にしていたウサギをバカな行為で逃がしておいて(森に連れ出して特訓しようとしたが、目を離した隙に逃げられた)、まるで悪びれた様子を見せない。
ぴょん吉が戻っていなくて落ち込んでいる周の前でも、頭を掻いて「いやあ、まさか逃げるとは思わなくてさ」と軽いノリで言った上に、「今度、新しいウサギ買って来るからさ」と信じ難い言葉を口にする。
倫子からウサギが逃げた経緯を問われた彼女は、「ほら、ヒーローにはマスコットが必要じゃない?練習したら、そうならないかなあって」と、やはり反省の色が無い。
それに関しては、後半にポチの言葉でハッと気付かされる展開があるけど、あまり心に来るようなドラマに昇華していない(それについては後述)。

周にしても、可愛がっていたウサギがいなくなった割りには、そんなに沈んでいない。
小屋を見た時だけは悲しそうにしているけど、それ以外のシーンでは、まるで引きずっている様子が見られない。
また、傷付いたポチを発見した子供たちは、包帯を巻いた後、校庭に出て楽しそうに三角ベースで遊んでいる。
ポチを心配する素振りは全く無いし、ずっと付き添っていてやろうとする奴もいない。

宇宙へ飛び出すまでに、ダラダラしすぎている。
三角ベースとかどうでもいいから、「手当てしてもらったポチが目を覚ましたら子供たちが心配して見ている」とか、「子供たちがポチに包帯を巻いて様子を見ていたら目を覚ます」とか、ともかくシーンが切り替わったら、すぐにポチが人間の言葉を喋る展開へ移ればいい。
そこからシーンを切り替えてジャングルジムに移動している意味も無い。
そのままの流れで月へ向かえばいい。

あと、普通は宇宙空間へ飛び出したら、そこにはワクワク感ってのがあるはずなのに、それが全く感じられない。
理由の一つは、チェンジ・オブ・ペースが無いからだろう。マッタリした雰囲気のまま、マッタリと空に浮かび、マッタリと宇宙へ出てしまう。
そこは絵作りも上手くないんだよな。
子供たちが空に浮かんだ後、夕暮れの村の光景が写し出されるんだけど、それは要らない。見せるのなら、浮遊している子供たちを含むショットにした方がいい。
しかも、見下ろした景色が小さくなっていく」という絵なら分かるけど、「遠くの山を捉えたカメラが引いて来る」という映像はおかしいでしょ。何視点の映像なんだよ、それは。

で、子供たちの姿が判別できないぐらいの小ささで空を上昇していくカットが入るが、そこはちゃんと姿が見える状態で描くべき。
そこからカットが切り替わると月が写り、そして宇宙に浮かんでいる子供たちの様子が写るが、「空をグングンと上昇して宇宙空間へ」という経緯を省略するのはダメでしょ。
省略するぐらいなら、「目にも止まらぬスピードで上昇した」とか、「ワープして宇宙に移動した」とか、そういう形にしておけばいい。
っていうか、なんでワープ航法にしなかったんだろうか。

あと、宇宙に出たり月に来たりした時の、子供たちの興奮や喜びがイマイチなのもマズいよなあ。
これは演技力のせいもあるんだろうけど、絵としても、そんなに大きな喜びじゃないんだよね。例えば「初めて東京タワーに登った」とか、そういうのと同じ程度か、ひょっとすると、それよりも感動や興奮の度合いが少ない。
だけど、それは「普通では体験できないこと」「現実では考えられない場所」なわけだから、もっと大きな反応が欲しいのよ。
それと月に来た時も、先にその光景を見せちゃうのは良くない。先に子供たちの驚きや喜びのリアクションを見せて、それから「こういう場所に来ました」という絵を見せた方がいい。

グレート・ビギナーズの様子も、まるで魅力を感じないんだよな。
それは「どこかで見たようなイメージの組み合わせに留まっている」ということもあるし、あとはテンポのノロさだなあ。
もうちょっと小気味よいテンポで進めて行った方が良かったと思う。メリハリが無くて、ずっと同じような調子が続くのだ。
抑揚やリズムの変化に乏しい。元気や勢いも足りない。
それと、宇宙ショーって、まるで面白さが分からないんだけど、それなのに子供たちが「面白かったね」とか「私もマリーみたいになりたいな」とか言っているので、「ハアッ?」と思っちゃうんだよな。

子供たちが金を稼ぐために別々の場所でバイトをする展開なんて、全く不要な展開だ。そんなのはバッサリと削ってしまえばいい。
「地球へ帰れなくなって云々」という展開を用意するにしても、ポチが奥の手を言い出して、すぐに地球へ帰れるようにしてしまえばいい。
アルバイトをしたって物語はまるで先へ進まないし、そこを利用してキャラを描写するとか、人間ドラマを描くとか、そういうわけでもないんだし。
インクという新キャラが登場して、康二が仲良くなったりするけど、どうでもいいわ。

とにかく、色んな要素を盛り込みすぎて、話があっちへフラフラ、こっちへフラフラと、散らばりまくっている。
犬の姿をした宇宙人のポチと子供たちが遭遇したんだから、そこの交流を軸に据えて物語を構築していくべきだろうに、なんで月面都市に到着した後、しばらくポチの存在が放置され、康二とインクの交流を描いちゃったりするのか。
しかも、そこは康二だけで、他の面々は全く関与していない。っていうか、そもそも5人をバラバラに行動させちゃってるし。
そのせいで、物語としてもバラバラになってしまう。

これがね、例えばTVシリーズの劇場版で、主要キャラの面々に観客が馴染んでいて、これまでの作品で5人の関係性が充分に描かれていたということなら、別行動を取らせてもいいだろう。だけど、そうじゃないんだからさ。
まだ5人の関係性を充分にアピールできていない段階で、なんでバラバラにしちゃうのか。
インクという新キャラとの関係を描くよりも先に、まず子供たちの関係性を描こうよ。そして、その次がポチとの関係だ。この2つとも満足に描かれていないのに、次のステップへ移るってのは、あまりにも雑。
薄っぺらい交流だから、康二がインクとの別れを惜しんでも、こっちは何も感じるモノが無いし。
なんか「ホントはTVシリーズでやるべき話を、強引に1本の映画として作りました」という感じを受けるんだよな。
「月へ行くまで」「月での出来事」「列車に乗ってプラネット・ワンへ」「プラネット・ワンでの出来事」「周の奪還ミッション」とか、そんな風に分割されている印象を受けてしまう。それぞれのエピソードを膨らませて2話分にすれば、全10話のTVアニメに仕上がるでしょ。

滑り出しはマッタリしているし、その後もテンションは盛り上がらないのだが、その一方で展開としては、かなり慌ただしい。
月面都市に到着しても、そこの生活や人々に触れるところで多くの時間を割くことは無い。宇宙ショーをやっているが、「ちょっと見た」というだけで、まるで後に引っ張るような気配は無い。
で、すぐにバイトになって、それも一日で終了し、さっさと超特急に乗り込む。
だったら最初から「宇宙列車での冒険」ってことにしちゃえば良かったのに、なんで月を去る時だけ乗り物が違うのかと。
しかも、最初に「修学旅行で月へ」と言っているんだから、「月を舞台にした物語」を予想していたら、そこはあっさりと終わるんだもんな。

タイトルにもなっているぐらいだから、宇宙ショーのシーンが登場した段階で、「たぶん後に繋がる要素なんだろう」とは感じる。また、密漁団が山葵を狙っているとか、そういう「後に繋がりそうな要素」ってのも、それなりに撒いてある。
ただ、伏線の張り方や、張っておく場所には色々と問題が多い。
まず、宇宙ショーと、ズガーンを巡る部分は、どっちかに絞るべきだ。どっちも処理できるほどの余裕は無いよ。
宇宙ショーに関しては、ポチがネッポやマリーの夢を見るシーンが遅い。もっと早めから「過去に何かあったらしい」と匂わせるためのネタを振っておかないと。
っていうかさ、正直に言って、そういうのって邪魔にしかなってないんだよな。
だからホントのことを言うと、どっちも要らないわ。

色んな事を盛り込みすぎて、1つ1つが薄い。
例えばタローの病院を見学した清が、父に「偉いぞ」と褒められたことを回想しているけど、そこまでに清と父の関係性について触れたシーンなんて一度も無かったから、まるでピンと来ない。
そもそも、なぜ彼が見学したいと言い出したのかさえ、良く分からなかったしね。
っていうかさ、プラネット・ワンでのシーンもバッサリとカットしちゃえばいいんだよ。すぐに月から戻る方法が見つかって、戻ろうとしたら悪党に狙われてバトルがあって、それが解決して地球へ戻り、ポチと別れるというだけで1つの話にまとめれば良かったのよ。宇宙ショーの部分も、全く要らないから。

夏紀と周の喧嘩は、かなり後半まで引っ張っている。
だけど、ずっと周が彼女を拒絶しているわけじゃなくて、それなりに仲良くやっているのに、忘れた頃になって怒り出したり、夏紀が済まなそうな態度を見せたりしている。
そんな風だから、ポチが夏紀を諭すシーンが訪れても、そこが全く心を打たない。
そこに至る流れがちゃんと作られておらず、幾つかの点が散らばっているだけだからだ。

周が清に「前のお姉ちゃんに戻ってほしい。時々こっちに来てた時は、だらしなくて、カッコなんか付けなくて。一緒に暮らすように なってから、すごくお姉ちゃんぶって遊ぶんじゃなくて、遊んであげてるって感じで」と語る部分に至っては、もはや流れがどうという問題ではない。
そもそも、その前提条件となる「夏紀が以前の彼女とは違っている」ということを示すための描写など、何も用意されていなかったんだから。
ビフォーが無かったら、アフターとの違いなんて分かるはずがないよ。だから急にそんなこと言われても、まるでピンと来ない。
それを考えると、そもそも「ナツキが最近になって東京から来た」という設定自体、要らないんじゃないか。そして、夏紀と周がウサギのことで揉めているという部分も、バッサリと削ぎ落としてしまえば良かったんじゃないの。
そうした方が、よっぽどスッキリと仕上がる。

悪党の黒幕がネッポであろうと、どうでもいいんだよなあ。そこへ向けての描写も薄っぺらいから、まるでテンションが上がらないし。
しかも、ネッポが自分の野望や達成するまでの経緯、ペットスターについて色々と語るけど、セリフで一気に説明されても、まるで頭に入って来ないんだよな。小学生の子供だと、まるで分かんないんじゃないか。
悪党の目的なんて、もっとシンプルでいいのに。なんで無駄にややこしい設定にしちゃったのか。
あと、ポチとの因縁も要らない。そこも全く厚みが無くて、終盤になってセリフで説明される程度だし。
大体さ、これって「子供たちが冒険を経て少しだけ成長しました」という物語としてまとめるべき内容のはずなんだから、ポチとネッポの因縁とか、どうでもいいでしょ。

(観賞日:2012年10月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会