『映画 ST 赤と白の捜査ファイル』:2015、日本

残り48時間。警視庁科学特別捜査班「ST」の百合根友久は、警視庁から赤城左門に電話を掛けた。彼は赤城の勝手な行動を咎め、「今日を含めてあと3日で、僕はSTを辞めなきゃいけないんですよ」と告げる。赤城は火事になっている部屋で一方的に電話を切り、目の前の炎を見つめながら「さよなら、キャップ」と呟いた。残り56時間。港南区の交差点に、空き巣の常習犯である3名を乗せた護送車がやって来た。近くのコンビニにいた男はスマホを使い、信号を赤から青に変えた。護送車はセダンと衝突し、拳銃を奪った囚人3名は護送車から抜け出してコンビニを襲撃した。
すぐに3人は捕まるが、監視カメラの映像がネットに拡散され、「警察は死刑囚3名に逃げられた」という虚偽の情報が広まった。赤城は松戸紫織と池田草介に、ハッカーが信号のシステムを操作して事件を誘発したこと、ネットに動画を上げたことを教える。青山翔は犯人が囚人の仲間ではないこと、目的は力の誇示であることを松戸と池田に話す。赤城は2人にコンビニの防犯カメラの映像を見せ、そこに写る男が犯人だと指摘した。
既にSTの結城翠や黒崎勇治、山吹才蔵たちは、犯人がシンガポールのIT企業を辞めたばかりの鏑木徹というプログラマーだと突き止めていた。鏑木の住所も判明していたが、赤城は松戸と池田に偽のデータを渡した。筒井桃子と牧村真司がデータにあったアパートへ行くが、そこは空き室だった。百合根は赤城が偽のデータを渡したと知り、電話で怒りをぶつけた。赤城は鏑木のアパートを訪れており、火だるまの遺体を見ていた。電話を切った彼は眼鏡を拾い、パソコンのデータをUSBにコピーした。
赤城は百合根を除くSTのメンバーに電話を掛け、指示を出した。筒井と牧村が鏑木のアパートに到着すると、出て来た赤城は「中で鏑木が死んでる」と伝えた。警視庁に戻った彼は、結城にUSB、山吹に眼鏡を渡した。松戸の事情聴取を受けた赤城は、鏑木は他殺だと断言する。根拠を問われると、彼は「今はそれを言える時ではない」と答えた。赤城は単独行動の理由について、「鏑木が警察の汚職を暴こうとしていた。だから捜査本部より先に会って口封じをしたかった」と説明した。
赤城は鏑木を殺した犯人が弱みを握られた警察関係者である可能性に言及し、詳しく説明している内に頭を抱えて「そう来たか。謎が全て解けてしまった」と言い出した。彼は「第一の容疑者は俺じゃないか」と告げ、自分を逮捕するよう松戸に要求した。そこへデータの解析を終えた結城たちが現れ、赤城の横領を示す記録が見つかったことを松戸に報告した。赤城は留置場に入れられ、STは解散処分となった。百合根は松戸と池田から、3日後に警察庁刑事局特殊犯罪対策室へ異動になることを確認された。
犯行動機を問われた赤城は、口封じが目的ではないと告げ、「鏑木は許し難いことをした」と述べた。STのメンバーが赤城の犯行を疑おうとしないので、百合根は腹を立てた。彼は赤城が「鏑木を殺した」と嘘をついた理由が分からず、三枝俊郎に相談した。本人に訊くよう助言された百合根だが、赤城に面会を拒絶される。そこで彼は筒井の前で池田を殴り、傷害罪で逮捕された。彼は赤城の隣の独房に収容され、「鏑木の許し難いことって、フギンと関係ありますか」と質問した。
百合根はシンガポールの会社で鏑木と同僚だった堂島菜緒美と接触し、情報を聞き出していた。鏑木は会社で働いている時、暴露ウイルスのフギンを趣味で作っていたのだ。赤城も既にフギンの情報は掴んでおり、「鏑木は死んでない」と百合根に教えた。彼は真犯人を追うと言い、警察署から脱走した。百合根は池田から、STのメンバーが志願して赤城を追跡する特別チームに参加したことを知らされた。4人が赤城の無実を信じようとしないので、百合根は激しく苛立った。
百合根は菜緒美に電話を入れ、赤城が会いに行くはずだと伝えた。菜緒美がホテルの部屋に戻ると、鏑木と銃を持った3人の手下が待ち受けていた。彼らは菜緒美に、外に待機させてある車に乗るよう要求した。菜緒美はバスルームに娘の椿が隠れていると気付き、鏑木たちに知られないように部屋を出た。鏑木たちが手で行くのと入れ違いで、百合根がホテルに到着した。彼は先に来ていた赤城と遭遇し、一緒に菜緒美の部屋を調べることにした。松戸は池田に、フギンについて調べるよう指示した。
赤城は部屋を見て、菜緒美が4人の男たちに拉致されたことを見抜いた。彼は百合根に、検死官が鏑木の仲間であること、火事になった部屋に遺体を用意して偽装工作したことを教えた。2人は椿を発見し、鏑木の目的はムニンだと知らされる。詳しく聞こうとした赤城だが、ホテルに筒井たちが駆け付けた。椿は逃げる方法を知っていると言い、赤城と百合根を屋上へ案内して隣の建物に飛び移るよう促した。赤城は瞬時に計算し、ジャンプ台を作って無事に飛び移った。百合根は椿を背負い、何とか飛び移った。
青山は松戸に、赤城を見つけ出す方法を思い付いたと告げる。彼女はSTのメンバーと共に「殺人鬼の警察官2名が逃亡した」と虚偽の情報をネットに流し、赤城と百合根の写真もアップした。椿は赤城と百合根に、ムニンはフギンのワクチンソフトで母も作れると説明した。赤城と百合根を見つけた市民は、スマホで撮影してネットに情報をアップした。三枝哲郎は人事課への異動で退屈を感じている菊川吾郎の元へ行き、「たまには汗をかいてみませんか」と持ち掛けた。
青山たちは集まった情報を分析し、赤城の居場所を特定した。赤城は幼馴染のキグルミ工房に避難し、今後は連れて行けないと椿に通告した。筒井たちは工房を包囲するが、菊川と人事課の面々がキグルミ姿で攪乱している間に赤城と百合根は逃亡した。港に移動した赤城は黒崎と合流し、百合根に手錠を掛けた。驚いた百合根が説明を求めると、赤城は「恨むなら鏑木を恨め」と告げた。彼は黒崎のバイクで港を去り、STのオフィスに戻った。すると結城が不在で、赤城は青山がわざと百合根の元へ行かせたことを悟った。
青山は赤城に、鏑木の一味が5人であること、目的が金銭であることを知らせた。結城は百合根の元に現れ、事情を説明した。残り48時間、赤城は鏑木の部屋から青山たちに連絡を入れ、百合根の横領を捏造したデータがあることを教えた。鏑木の目的が邪魔なSTの解散にあると悟った赤城は、百合根の名前を自分に書き換えるよう指示した。彼は逮捕されて脱走し、鏑木を追う考えを話した。出番が無いと聞いた青山たちが協力を拒むと、赤城は「俺を見つけることが出来たら一緒に戦うことを認めよう」と条件を出した。
百合根は結城から話を聞き、STのメンバーが自分のキャリアに傷を付けないために尽力してくれていたことを知った。全く気付かなかった自分を恥じた百合根は、「次は僕の番です」と口にした。山吹は赤城が持ち帰った土を分析し、青山は鏑木のアジトが変圧器工場跡地だと突き止めた。鏑木の一味はワインオークション会場に乗り込み、数名を射殺した。彼らはネット中継を使い、1時間以内に1億ドルを用意するよう政府に要求した…。

監督は佐藤東弥、原作は今野敏『ST 警視庁科学特捜班』シリーズ(講談社文庫刊)、脚本は渡辺雄介、製作は中山良夫&福田博之&堀義貴&市川南&細野義朗&鈴木伸育&薮下雄也&柏木登&桜井徹哉、ゼネラル・プロデューサーは奥田誠治、エグゼクティブプロデューサーは神蔵克&伊藤響&門屋大輔、プロデューサーは森雅弘&藤村直人&星野恵、撮影は小原崇資、照明は名取孝昌、美術/デザインは小池寛&樫山智恵子&乾友一郎、編集は松竹利郎、音楽は木村秀彬、主題歌『太陽』はファンキー加藤。
出演は藤原竜也、岡田将生、志田未来、芦名星、窪田正孝、三宅弘城、渡部篤郎、瀬戸朝香、林遣都、田中哲司、柴本幸、水上剣星、ユースケ・サンタマリア、安達祐実、鈴木梨央、永岡佑、和希沙也、加藤翔、樽見貞幸、太田美恵、河野達郎、伊藤竜翼、菊地廣隆、鮫島光博、岩男和樹、佐久間千空、野間清史、吉田雄樹、石塚良博、萬歳恵子、伊藤祐輝、五位野隆雄、矢作則子、櫻井泰之、橋本幸子、杉吉結、堀口恭平、吉本真二、原田憲明、柏村栄行、三宅重信、山元隆弘、北岡龍貴、塚田帆南、荒谷ほのか、橋本優希、中田敦夫、夏葉えりか、いいぐちみほ他。


今野敏の警察小説『ST 警視庁科学特捜班』を基にしたTVドラマ『ST 赤と白の捜査ファイル』の劇場版。
赤城役の藤原竜也、百合根役の岡田将生、青山役の志田未来、結城役の芦名星、黒崎役の窪田正孝、山吹役の三宅弘城、三枝役の渡部篤郎、松戸役の瀬戸朝香、池田役の林遣都、菊川役の田中哲司、筒井役の柴本幸、牧村役の水上剣星は、TVシリーズのレギュラー。
他に、鏑木をユースケ・サンタマリア、菜緒美を安達祐実、椿を鈴木梨央が演じている。

時系列を入れ替えて、「残り48時間」のシーンを最初に配置している。だが、この仕掛けには何の意味も感じない。
どうせ開始から15分ぐらいで、そのシーンに到達するのだ。それなら、時系列順で進めてもいいんじゃないかと。
あと、15分ぐらいで同じシーンに到達した時、冒頭と同じ様子が1分ぐらい続くのは単なる二度手間になっているし。
しかも、粗筋でも触れているけど、後で「残り48時間」を改めて描くシーンがあるし。こっちは必要不可欠な手順だから、余計に冒頭の時系列シャッフルは余計なんだよなあ。

「残り48時間」「残り38時間」など、何度も残り時間を示す文字が表示される。だが、残り時間が0になるまでに事件を解決しないと大勢が死ぬとか、時限爆弾が起動するとか、そういう類のタイムリミットではない。何度も表示される残り時間は、百合根がSTを去るまでのタイムリミットだ。それまでに事件を解決できなかったとしても、特に大きな問題があるわけではない。
なので、その残り時間が焦りを生むようなことは無いし、緊迫感にも全く繋がっていない。
「STを離れる前に事件を解決したい」という百合根にとってのタイムリミットに過ぎず、物語を盛り上げる上では何の意味も無い。
そんな要素を粒立てている時点で、ピントがズレている。

百合根が菜緒美とコンタクトを取って情報を得たことを赤城に話すシーンで、鏑木がシンガポールの会社で勤務していた頃の要素が挿入される。この時、鏑木は自分のパソコンでフギンの開発に没頭し、それを菜緒美が見ている。
それはおかしいだろ。なんで会社のパソコンで、勤務中に堂々とフギンを開発しているんだよ。自宅でやれよ。
そんな場所で作っていたら、菜緒美だけじゃなくて他の同僚にも目撃されるリスクがあるだろうに。
そうなれば、そこから情報が漏れる可能性が高くなるだろうに。

百合根は青山たちが赤城の殺人を疑わず、追跡チームに参加したことに腹を立てる。
でも、青山たちが赤城の無実を知っており、彼の指示を受けて動いていることはバレバレだ。何しろ、赤城が鏑木の部屋を調べた時、青山たちに指示を出すシーンが描かれているしね。
赤城の無実がバレバレなのは、何の問題も無いのよ。だけど、「青山たちが赤城の無実を知った上で、百合根に事情を知らせずに動いている」ということまでバレバレなのは、話が浅くなっちゃってるなあ。
それなら、逆に「青山たちが赤城の指示で動いている」ってことを明確に示した上で話を進めた方が良かったんじゃないか。それならそれで、話を面白くする方法もありそうだぞ。

鏑木が交差点の衝突事故映像を拡散させた時も、青山たちが赤城と百合根の偽情報を流した時も、市民が赤城と百合根を発見した時も、 鏑木がオークション会場を襲った時も、それに反応する、ネット民による大量の書き込みが画面に表示される。
「ネット社会の恐ろしさ」みたいなモノを表現したかったのかもしれないが、そんなに効果的な演出とは思えない。むしろ、なんか安易じゃないかと感じる。
あと、赤城と百合根を撮る市民がスマホを掲げて2人に接近する時も、オークション会場の事件を知った市民が一斉にスマホを取り出す時も、その動きが大仰なのよね。
わざとやっているにしても、なんか陳腐な演出だと感じるなあ。

結城が百合根の元へ行き、今までの事情を詳しく説明するってのは、かなり不細工な手順になっている。そんな強引な方法を取らないと、「百合根が赤城たちの思いを知る」という手順を上手く消化できないのは、根本的にシナリオの不備なんじゃないかと。
あと、そこで赤城が青山たちに自分を追わせた理由が「鬼ごっこで自分を見つけたら一緒に戦っていい」と条件を付けたからってことが分かるけど、そんな必要は全く無いのよね。
彼は「STが仲間割れしたように見せ掛ける。解散したと言うより効果的だろう」と話すけど、鏑木の目的はSTの解散なんだから、それが確認できた時点で計画に出るだろうに。
だから青山たちが赤城の偽情報をネットに流して追跡するのは、無駄にリスクを負っているだけのバカな行動でしかないのよ。

終盤、赤城や百合根たちは、ネット中継されたオークション会場の事件が事前に撮影されたフェイク映像であることを見抜く。鏑木の一味は大勢の人間を雇い、芝居をさせていたのだ。そんなフェイク映像を流した目的は、それを見た人々のパソコンをフギンに感染させて、アジトでムニンのオークションを開いて高値で売却することにあったのだ。
だけどムニンを高く売るのが狙いなら、わざわざ大勢を役者として使い、手間を掛けてフェイク動画なんて作成する必要はない。
鏑木は天才的なハッカーなんだし、多くのパソコンを感染させる方法なんて他に幾らでも思い付くはずだろ。
そのフェイク動画は、観客を脅かすためだけの仕掛けになっている。

あとさ、そもそも「ムニンをオークションに出して高値で売却する」という計画自体に無理があると思うんだよね。その時点でムニンを持っているのは鏑木たちしかいないけど、ワクチンソフトなんて能力の高いハッカーなら作れそうなモンでしょ。
鏑木は「ムニンがあれば世界を支配できる」と言うけど、絶対に無理だよ。
それとさ、フェイク動画で鏑木一味が顔を晒しているのもバカにしか思えないぞ。力を誇示したい連中だとしても、今後のことを考えれば顔バレは避けた方が賢明でしょ。
この作品って赤城を天才的な捜査官として描こうとしているんだけど、それよりも「周囲の連中がバカばっかり」という印象の方が圧倒的に強いぞ。

(観賞日:2022年7月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会