『SP 野望篇』:2010、日本

警視庁警備部警護課第四係の井上薫、尾形総一郎、笹本絵里、山本隆文、石田光男は、六本木ヒルズで開かれた地雷撲滅キャンペーンのイベント会場で警護の任務を担当した。イベントには人気タレントの他に、国土交通大臣の吉原剛も参加している。配置に就いた井上は、頭の痛みを覚えた。石田は上着に片手を入れている不審な若者の存在に気付き、仲間たちに知らせる。だが、若者が上着から手を出すと、そこに握られていたのはお菓子だった。
気になる男に目を留めた井上は、彼が傘をステージに投げ、大爆発が起きることを予知した。井上は集まった観客を押し退けて男に近付き、笹本に連絡を入れる。笹本が男に声を掛け、後ろに下がるよう求めた。そこに井上が駆け付け、男の腕を掴む。すると男は井上の手を振りほどき、笹本を突き飛ばして彼にぶつけた。男が逃走すると、井上は尾形に傘を渡して後を追う。トラックの荷台で戦った後、男は地下鉄の構内に逃げ込む。井上が男を取り押さえたところへ、笹本、山本、石田が駆け付けた。
第四係の面々は会議室に呼び出され、警護課長の中尾義春から「今回はお手柄でした。ただし、容疑者追跡の際に取った手段は適切な職務遂行の域を超えています。以後、決して度の過ぎた行動を取ることの無いように」と言われる。中尾は尾形だけを部屋に残し、「麻田総理を救った貯金のおかげですよ。麻田総理から警察庁長官に直々の電話があったそうです。寛大な処置を取るようにってね」と述べた。
中尾が「満足ですか。ただの動く壁では収まらない。井上は君が目指すそんなSPの理想像を体現してるわけですからね」と話すと、尾形は「私の理想には、まだ足りていません」と口にする。「組織というのは、そんなに甘いものじゃないですよ。特に国家権力に関わる組織はね。理想は気付かれないように隠しておいた方がいい」と中尾が話すと、尾形は「気付かれないような場所に隠しておくと、必要な時に見つけられなくなるかもしれませんので」と述べた。
与党幹事長の伊達國雄が開いた資金集めのパーティー会場では、六本木ヒルズのイベント会場で第四係の様子を観察していた田中一郎が給仕として働いている。彼が視線を向けた先には、警護課理事官の梶山光彦、防衛大臣秘書官の滝川英治、外務省国際テロ対策協力室主任の安斎誠といった面々の姿があった。パーティー終了後、尾形は伊達と梶山たち3名が待つホテルの一室を訪れた。安斎は「お久しぶりです、先輩。今朝の不細工なテロ、先輩が立案したんですか?」と尾形に話し掛けた。
安斎は「西島先輩の件、残念でしたね。でも西島先輩は昔から詰めが甘かったから、仕方ないですよね」と言い、滝川は「そろそろ我々の革命を実行する時が来たように思うんですが。西島さんや尾形さんが模索していたソフトランディングの方法では、この国は変わりません。今、この国に必要なのは手に触れるぐらいの濃密な危機感です」と語る。尾形から意見を求められた伊達は、「立場上、大っぴらに手助けは出来ないが、可能な限りバックアップはするつもりだよ」と述べた。
伊達は尾形たちに、「何にせよ、私が要職にある間に君たちの革命を実行してもらえると助かるなあ」と言う。梶山、滝川、安斎が先に部屋を去った後、伊達は尾形に目障りな井上の排除を要求した。尾形は「仲間に引き入れるつもりですから」と静かに告げた。尾形が部屋を出て行った後、伊達は秘書・横溝雅治の前で「この国で革命と名の付く物が成功した試しがあったかなあ」と皮肉っぽく呟いた。
田中は妻を伴い、会社の上司である室伏茂の家を訪れた。室伏は妻と共に田中夫婦を出迎え、家に招き入れる。だが、実は室伏と田中、それに2人の妻を装っていた女性たちも、全て公安の人間だった。その家は爆弾テロを企む連中を張り込む本拠地になっており、田中は同僚の三井に「早めに踏み込んだ方がいい」と告げる。彼は室伏に、梶山とつるんでいる顔触れが尾形と大学で「雄翔会」というサークルの仲間だった面々だと報告した。「深く掘ったら、お宝が出てきそうか?」と室伏が尋ねると、田中は「分かりません。ただ、死んだ西島と何らかの関係があるのは確かだと思います」と答えた。室伏は「もうちょっと掘ってみるか。ただ、忘れるな。メインはあくまで西島の自殺の背後調査だ」と告げた。
尾形は井上に連絡を入れ、2人が初めて出会った場所へ呼び出した。「俺たちがここで出会ったのも、上司と部下になったのも、偶然だと思うか。違うぞ。全ては必然だ」と彼が語ると、井上は「私の両親が殺されたのも必然だというんですか」と口にする。尾形は「お前が麻田と向き合うのを拒めば、両親が死ぬことは無かった」と言い、「お前の意志と能力を大義のために使え。俺たちの手で、この国の腐り切ったシステムを変えてやるんだ。お前のような子供を二度と生み出さないようにな」と述べた。
井上が「一体、何をしようっていうんですか」と問い掛けると、尾形は「寝惚けた国民の意識を覚醒させる」と言う。目的のためには手段を選ばないという尾形の考え方に、井上は激しく反発した。尾形の誘いを断った井上は、自分たちを張り込んでいる人物の存在に気付いた。物陰から様子を窺っていた田中は自分が気付かれたと感じるが、井上が感知したのは別の男だった。井上は尾形に「また近い内に話そう。忘れるなよ、お前はこっち側の人間なんだ」と言われ、「何度言われようと、私の意志は変わりません」と告げた。
伊達が地元選出議員の応援で埼玉県へ行くことになり、第四係の面々が警護を担当する。井上たちは後援会の合同集会や応援演説、激励パーティーで伊達の警護に当たる。伊達は井上の様子を観察し、強い不快感を抱いた。任務を終えて本庁へ戻る途中、井上たちは尾形からの電話で、北朝鮮が弾道ミサイルを日本海に向けて発射したことを知らされた。尾形は井上たちに、緊急閣僚会議へ向かう田辺官房長官をピックアップして警護するよう指示した。
尾形は井上たちに指示を出した直後、梶山からの電話を受けた。梶山は尾形に、どのチームを田辺の警護に派遣したのか尋ねた。第四係を送ったことを告げた尾形に、梶山は「こちらもチームを送っておきました。こんな時のために飼っておいた連中です。国家的な事件が起きてるんです。一介の警察官の殉職なんて、誰も気にしませんよ」と述べた。梶山から「僕がしたことは間違ってますか」と問われた尾形は、「間違えてないさ」と答えて電話を切った…。

監督は波多野貴文、原案・脚本は金城一紀、製作は亀山千広&藤島ジュリーK.、エグゼクティブプロデューサーは石原隆&和田行&島谷能成&加太孝明、プロデューサーは関口大輔&稲葉直人&中島久美子&古郡真也、撮影は相馬大輔、照明は和田雄二、録音は阿部茂、美術プロデュースは宮崎かおる、美術デザインはd木陽次&竹中健、美術進行は福井大、編集は穂垣順之助、サウンドデザイナーはTom Myers、デジタル/ビジュアルエフェクツスーパーバイザーはRobert Skotak、VFXディレクターは山本雅之、アクション監督は大内貴仁、音楽は菅野祐悟、主題歌はV6「way of life」。
出演は岡田准一、堤真一、真木よう子、香川照之、松尾諭、神尾佑、山本圭、春田純一、野間口徹、蛍雪次朗、堀部圭亮、大出俊、江上真悟、平田敦子、丸山智己、伊達暁、古山憲太郎、近江谷太朗、大林丈史、吉満涼太、クノ真季子、中井澤亮、平岳大、波岡一喜、入山法子、蓉崇、三元雅芸、光山文章、高橋努、村岡希美、山田キヌヲ、松本たけひろ、ダイヤモンド・ユカイ、でんでん、菅原大吉、野仲イサオ、三田村賢二、中井祐樹、TETSU、遠藤要、綾野剛、松田沙紀、小宮久美子、及川ナオキ、内ヶ崎ツトム、市山英貴、西明彦、板垣克、遊木康剛、稲留正樹、廻飛雄、小柳こずえ、高木広子(フジテレビアナウンサー)、山口尚美、河西裕介、藤井宏之、塚原大助、鹿野良太、岩川幸司、道井良樹、菅原一真、山中達矢、後野知史、宇都隼平、樋山和佳、小林星蘭、渡邊音ら。


2007年11月から2008年1月までフジテレビ系で放送されたTVドラマ『SP 警視庁警備部警護課第四係』の劇場版2部作の前編。
監督と脚本はTVシリーズに引き続き、波多野貴文と金城一紀。
井上を岡田准一、尾形を堤真一、笹本を真木よう子、伊達を香川照之、山本を松尾諭、石田を神尾佑、麻田を山本圭、室伏を春田純一、田中を野間口徹、田辺を蛍雪次朗、吉原を大林丈史、横溝を堀部圭亮、伊勢崎を大出俊、中尾を江上真悟、原川を平田敦子が演じている。

登場人物のキャラクター設定や相関関係、世界観や今までの経緯に関する説明は、全く用意されていない。TVシリーズの劇場版では、それは当たり前のことだ。だから今さら、この映画だけに文句を付けても仕方が無いかもしれない。
ただ、この映画は「番外編」や「その後の物語」という内容ではなくTVシリーズの完結編として作られており、TVシリーズを見いないと分からない部分が多い部類に入る。
何度か意味ありげな回想シーンが入るが、それはTVシリーズを見ていないと意味不明なだけなのだ。
そんな作品をTVシリーズ終了直後ではなく2年が経過してから公開していることを考えると、TVシリーズのファンだった人に対する配慮としても、今までの粗筋を軽く説明しておいた方が親切設計だったんじゃないかと思うんだけどなあ。

この映画を楽しむ上では、「荒唐無稽な作品であることを理解し、受け入れる」という作業が求められる。
ハードでシリアスなタッチで描かれているので、一見するとリアリティーを追及した作品だと勘違いしそうになるが、実は荒唐無稽なのだ。
そもそも、岡田准一が主演している時点で、リアリティーを放棄していると考えるべきだ。
あの身長で(正確なデータは分からないが、少なくとも170センチ未満であることは間違いない)、SPに採用されることは無いだろう。

冒頭、井上が警護の最中に頭痛に見舞われて通信に応答できないという様子が描かれるが、そんな奴がSPの仕事を続けているというのも非現実的だ。
それが初めてではなく、井上はシンクロ能力のせいで脳や精神に異常をきたす恐れがある状態なのだから、そんな奴が要人の警護という重要な任務から外されていないってのは有り得ない。
っていうか、シンクロや予知といった特殊能力を井上が持っているという設定からしても、やっぱり本作品は荒唐無稽ってことが言えるだろう。

井上は傘を持った男が爆弾テロを起こすと予知したのに、仲間には要注意者の存在を知らせず、階段を駆け下り、人込みをかき分け、その男に近付こうとする。で、距離を近付けてから、ようやく笹本に男の存在を知らせる。
その行動は不可解だし、SPとして適切な行動とは思えない。
その後、井上は男の腕を掴むが、あっさりと逃げられる。
予知によって相手が爆弾テロを起こすことが分かっているのなら、なぜ強い力で取り押さえなかったんだろう。そこは単純に、失態にしか思えない。

男が逃げ出すと井上は追い掛けるが、それは劇中でも言及されているように、SPの職務を完全に逸脱している。
SPは要人を警護し、迅速に避難させることが仕事だからだ。
ただ、私は見ていないのだが、どうやらTVシリーズの頃から尾形が「動く壁ではないSP」という理想像を井上に見ているということが描かれていたらしい。
しかも井上だけでなく、終盤に襲撃を受けるシーンなんかは他のSPたちも明らかに敵を退治することを最優先し、田辺を危険にさらしているんだよな。

どうであれ、そういうことからも、この作品がリアリティー路線ではなく荒唐無稽に傾いていることは明らかだ。そんな職務違反を繰り返しているような奴が、SPを続けられるはずがないんだから。
そういう「テイストはハードだけど、やってることは荒唐無稽である」ということを全面的に受け入れる必要がある。
井上が爆弾テロ未遂の男を追跡するシーンなんて、「岡田准一にバルクールをやらせたい」という目的を遂行するためだけに用意されていることは呆れるほどに明確だが、そういうリュック・ベッソン的なセンスが漂って来るようなシナリオを許容できる人でないと、この映画を楽しむことは難しい。
格闘アクションに関しては「ジェイソン・ボーン」シリーズを意識していることが明らかだが、そこも「微笑ましい模倣」として受け入れることが求められる。

別に荒唐無稽が悪いというわけではないし、やるなら徹底的にやればいい。
ところが、なぜか中途半端にSPのリテリティーを守ろうとしたのか、逃げた男を追い掛けた井上は発砲しない。
実際のSPなら、拳銃を撃っている時点で失格だ。前述したようにSPは要人を警護して避難させるのが仕事だから、発砲している暇なんて無いからだ。
しかし本作品のSPは絵空事の中のSPなんだから、極端に言えば『あぶない刑事』のタカ&ユージばりにバンバンと撃ちまくったって構わないわけだが、全く撃たない。

狙える距離に男がいて、余裕で発砲できる状況にあるにも関わらず、井上が威嚇発砲もせずに警棒で戦うってのは、ある意味では荒唐無稽ということになる。
ただし、それは今まで書いて来た荒唐無稽とは毛色が異なる。
「岡田准一に格闘アクションをやらせたい」ってのも、たぶん企画が立ち上がった時の狙いの1つだったはず。
だから、それなら拳銃の携帯を認められていない職業設定にするとか、何かの理由で拳銃を使わなくなった設定にするとか、そういうことにでもすれば良かったんじゃないかと思ったりするんだが。

2部作の前篇だから、「後篇に続く」という構成になっているのは当然のことだ。
ただし、それにしても「何も起きず、何も解決しない」というのはダメでしょ。終盤の襲撃事件は「これから大きな事件が起きる」ということを匂わせる前兆に過ぎず、クライマックスとしての力は弱いし。
それなりに謎が解けて、それなりに事件が解決されて、その上で「でも全てが終わったわけではない」ということで後篇に繋げるべきだろう。
こういう「1本では何一つ成立しない」という作品を2部作の前篇で作っちゃうのは、商業映画に携わる映画人としてカッコ良くない手口だと思うぞ。

(観賞日:2014年7月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会