『SP 革命篇』:2011、日本

警視庁警備部警護課第四係の面々は、本会議へ向かう国会議員の警護を担当することになった。尾形、笹本、山本、石田が与党の議員を担当する中、井上だけは野党党首の土山を警護することになった。最後に部屋を出た尾形は、井上の机の引き出しに手紙を入れた。同じ頃、テロリストの連中が国会議事堂へ潜入する準備を整えていた。革命を企てる政治家集団の滝川や安斎たちは若手官僚たちと部屋に集まり、前祝いのパーティーを開いていた。滝川は警護課理事官である梶山からの電話を受け、「あまり騒ぎ過ぎないで下さいよ」と釘を刺された。滝川は「そっちは大変だな。革命がなった暁には、共に祝杯を上げよう」と告げた。
公安の田中はテロ一味の中里に襲撃された時の様子を思い出し、病院で目を覚ました。彼は怪我を負った状態で病院から抜け出し、係長の室伏に連絡を入れた。田中は尾形の実家を出た直後に襲撃されたこと、尾形が身分を詐称して入庁していること、本物の尾形が別にいることを報告した。与党幹事長である伊達の警護を担当している笹本は、井上のことを尋ねられた。後で少しだけ合流することを笹本が話すと、伊達と秘書である横溝の表情が変化した。
伊達と国会議事堂へ向かいながら、尾形と密会した時のことを回想する。「迷ってるのか?俺たちの悲願を最高の形で実行できるのは今しかないんだぞ。麻田に復讐するためだけに、俺たちは生きて来た。そうだろ。安心しろ。お前が立てた計画は完璧だ」と伊達が告げると、尾形は「貴方を信用してもいいんですね」と確認した。横溝は伊達を議事堂へ送り届けた後、梶山に電話を入れて井上の配置を尋ねる。書類を調べた梶山は、訓練のはずの井上が警護に入っていることを知った。「尾形は私たちの計画に気付いてるんですかね」と横溝が口にすると、梶山は「そうだとしても、尾形と井上が手を組むことはありませんから」と述べた。 テロリストの連中は記者や見学ツアーの客に化けて、議事堂に入り込んだ。土山を議事堂まで送り届けた井上は、伊達や新四係の木内たちを見て嫌な予感を覚えた。衆議院第二議員会館の方には、エアコンのクリーニング業者に化けたテロリスト4人組が侵入した。午後1時に本会議が開かれると、野党議員の荻原によって内閣不信任案の緊急動議が提出された。尾形は石田に無線連絡を入れ、仲間3人を連れて3階第1委員室の検索を命じて「本庁からの緊急の要請だ」と嘘をついた。
第二議員会館を簡単に占拠した4人組は、変電室に爆破装置を仕掛けて立ち去った。安斎たちは国会議事堂を占拠するシミュレーションを開始し、意見を求められた滝川は「国会で警察活動が許されているのは衛視だけだが、武器を持った外敵の襲撃を想定していない。ただ、SPは別だ。議事堂内で唯一、武器の携帯を許されている」と語り始める。彼の説明した通りに、テロリストと第四係を除くSPの連中は行動を開始していた。
見学ツアーに紛れ込んでいたテロリストの東郷は衛視2名を殴り倒し、客を去らせた。テロリストは衆議院棟を孤立させるため、参議院棟と繋がる8つの廊下を封鎖した。幾つもの地雷を配置し、衛視にも地雷を踏ませて動けなくしたのだ。SPチームは本会議場の出入り口を1ヶ所だけ残し、他は全て封鎖した。何か起きると感じた井上は委員室の検索を中断し、本会議場へ向かう。尾形は実行部隊の全員を集結させ、本会議場へ乗り込んだ。彼は威嚇発砲し、騒ぐ議員たちを黙らせた。
銃声を耳にした井上は、すぐに記者クラブのテレビを付けて本会議場の様子を確認する。尾形はマイクの前に立ち、国会議事堂と衆議院棟が自分たちの支配下に入ったことを宣言した。彼は仲間に命じ、数名の議員に爆弾付きのベストを着用させた。それから彼は政府関係者に対して、2つの要求を出した。1つは「革命活動が終了するまで無用な敵対行動を行わないこと」、もう1つは「テレビ放送を中止せず、内容に一切の改変を加えないこと」だった。
尾形は「我々の目的は、今から議事堂内で起こる事実を余すことなく国民に伝えることだ」と言い、第二議員会館を爆破することで爆弾の威力を示した。彼は「計画が無事に遂行された暁には武装解除し、投降する予定である。諸君らが取るべき最良の方法は何もせず、テレビを見ていることだ」と述べた。警護課第一係の霧島は革命グループの面々に対し、配置に就くよう指示した。新四係の連中が井上たちの拘束に向かおうとすると、霧島は出来る限り拳銃を使わないよう命じた。
尾形は閣僚に対する代表質問の開始を宣言し、真実のみを述べるよう要求した。東郷は内閣官房長官の田辺を指名して演壇に立たせると、半年前に上場したバイオベンチャーについて尋ねた。東郷は田辺が未公開株を買って儲けていたことを暴露し、汚職の事実を記したメールを大手マスコミに一斉送信した。尾形はメールを受け取ったマスコミに対し、内容を改変せず、30分以内に会社のトップサイトに掲載することを要求した。
続いて指名された国土交通大臣の吉原は、演壇に立つことを渋った。すると麻田が立ち上がり、尾形たちに向かって「こんなことをして何になる?君たちは国家の足元を危うくしているんだ。本当に国を憂えているなら、今すぐに武装を解いて投降するんだ。後のことは何とかしよう。一国のリーダーである私が約束する」と告げた。すると尾形は冷めた表情を浮かべ、「仮想の脅威を作り出して人心を惑わせ、その機会に乗じようとする。いかにも政治家らしいやり口だな。安心しろ。こんなことぐらいで国家の基盤が揺らぐことは無い。それは既に実証済みだろう」と言い、腐敗している政治家たちを糾弾した。
井上は警護課長である中尾からの電話を受け、尾形を除く第四係の4名がテロリストに加担していないことを説明した。すると中尾は、連絡係として記者クラブに待機せよ、テロリストに襲われたら抵抗せずに投降せよと命じた。井上は承服の返事をせずに、電話を切った。井上が「係長は止めて欲しいんです。動きましょう」と言い、部屋を出て行こうとした。すると石田が井上を呼び止め、「係長は俺たちを裏切った。SPの名誉を汚した。お前は許せるのか」と問い掛けた。
井上は「そんなことはどうでもいいんですよ。早くしないと手遅れになります」と声を荒らげ、石田に掴み掛かった。山本が制止した直後、彼らの居場所を突き止めた新四係の連中が乗り込んで来た。拳銃を突き付けられた井上たちは投降せず、隙を見て襲い掛かった。全員を昏倒させて拘束すると、石田は井上たちに「各階を偵察し、情報を集めるんだ」と命じた。地下一階を偵察した井上は中里に襲われるが、反撃して失神に追い込んだ。一方、横溝は鹿島と電話で会話を交わし、「例の件、そろそろ手配してもらえますか」と告げる…。

監督は波多野貴文、原案・脚本は金城一紀、製作は亀山千広&藤島ジュリーK.、エグゼクティブプロデューサーは石原隆&和田行&島谷能成&加太孝明、プロデューサーは関口大輔&稲葉直人&中島久美子&古郡真也、撮影は相馬大輔、照明は和田雄二、録音は阿部茂、美術プロデュースは宮崎かおる、美術デザインはd木陽次&竹中健、美術進行は福井大&宮崎淳一、編集は穂垣順之助、VFXディレクターは山本雅之、アクション監督は大内貴仁、音楽は菅野祐悟、主題歌はV6「way of life」。
出演は岡田准一、堤真一、香川照之、真木よう子、松尾諭、神尾佑、山本圭、春田純一、野間口徹、蛍雪次朗、大出俊、江上真悟、平田敦子、堀部圭亮、平岳大、伊達暁、古山憲太郎、近江谷太朗、波岡一喜、入山法子、蓉崇、三元雅芸、光山文章、村岡希美、山田キヌヲ、松本たけひろ、津村知与支、柄本佑、吉満涼太、クノ真季子、中井澤亮、渡部飛鳥、高橋努、眞島秀和、板垣雄亮、谷田歩、やべけんじ、スズキジュンペイ、前田剛、山田伊久磨、馬場・場番、大口兼悟、伊方勝、本郷壮二郎、宮平安春、四宮勘一、日下部そう、多田淳之介、チョウソンハ、中川智明、二階堂智、小村裕次郎、後藤健、田中伸一、安部賢一、土師正貴、本宮賢二、松末博行、角田明彦、吉元哲郎、須田邦裕、是近敦之ら。


2007年11月から2008年1月までフジテレビ系で放送されたTVドラマ『SP 警視庁警備部警護課第四係』の劇場版2部作の後編。
監督と脚本はTVシリーズに引き続き、波多野貴文と金城一紀。
井上を岡田准一、尾形を堤真一、笹本を真木よう子、伊達を香川照之、山本を松尾諭、石田を神尾佑、麻田を山本圭、室伏を春田純一、田中を野間口徹、田辺を蛍雪次朗、梶山を伊達暁、木内を古山憲太郎、横溝を堀部圭亮、滝川を平岳大、安斎を波岡一喜、霧島を二階堂智が演じている。

まず冒頭、「いつものように第四係が出勤した朝」というところから始めているのは引っ掛かる。
『SP 野望篇』で「ついに革命が開始される」というところまで持って来たのに、また「平穏な朝」から始めちゃうのかと。もう雰囲気としては、最初から「いよいよ」という段階まで高まっていた方がいいんじゃないかと。
そりゃあ1本の映画として見れば、「いつものような朝」から初めてピークへ向かう構成にするのが正解かもしれんよ。だけど前編で既に「1本の映画として成立させる」という作業を半ば放棄しているんだから、その続きであることを全面的に押し出した方がいいんじゃないかと。
しかも、野望篇で描かれた官房長官襲撃事件の2ヶ月後という設定なんだよな。そんなに時間が経過してんのかよ。せめて次の日にでもしてくれよ。

国会議事堂を占拠する手順を滝川が台詞によって細かく説明して、そのナレーションベースで革命グループの動きが描写される。
ある程度は仕方が無いかなあと思うんだけど、あんまりテンポが良くないし、「それによって緊迫感を高める」という効果も出ていない。
もう彼らの目的は最初から分かっているのに、尾形が占拠を宣言するまでに映画開始から40分ほど掛かってしまうってのは、ちょっとモタモタしているような印象になってしまう。
幾つかの作業は描写を省き、井上たちが偵察した時に「ここはこうやって封鎖したのか」と知る形にして、後から見せるようにしても良かったんじゃないかな。

「これは1970年代の映画なのか」と思ってしまうぐらい、革命グループに古臭さを感じてしまう。
それはテロ計画や行動が古臭いということではなく、その目的や主張が古臭いと感じるってことだ。
尾形は「我々は今から国家権力の中枢がいかに腐敗しているか、いかに空虚であるかを実証する。この革命の真の目的は、諸君を覚醒させることだ。従順は美徳ではない。諦めも美徳ではない。この国のシステムに理不尽と不平等と不誠実を感じている者がいるならば、今から起こることに括目せよ。そして自らの頭で考え、立ち上がれ」と語るのだが、まあ見事なぐらい陳腐だわ。
それで立ち上がる奴なんて、ほとんどいないだろう。
ネットで英雄視する連中や持ち上げる連中は大勢出て来るかもしれんけど、実際に行動を起こすのは、ごくわずかだろう。

だってさ、尾形は「国家権力の中枢がいかに腐敗しているか、いかに空虚であるかを実証する」って言っているけど、そんなことは、いちいち言われなくても大半の国民が分かっているのよ。
分かった上で、それを放置しているのよ。
だから、今さら荒っぽい手口で実証したところで、大半の国民は「ああ、やっぱりね」と受け止めるだけで、昔の学生運動みたいな高まりには繋がらないだろうと思うわけよ。
そして、ごく一部の人間が行動を起こしたとしても、この国は変わらないだろうし。

かなり大掛かりで荒っぽい行動を取って国会議事堂を占拠した尾形たちは閣僚に代表質問を行うのだが、そこで暴露されるのは「親族を利用して未公開株を購入し、儲けていた」とか、「親族が経営する企業に銀行から多額の融資をさせ、その大半が不良債権化した」とか、その程度の内容だ。
国会議事堂を占拠し、第二議員会館を爆破しておいて、それで引き出した情報がその程度なのかと。そんなことを暴露するために、そこまでの行動が本当に必要だったのかと。
「大山鳴動して鼠一匹」とまでは言わないにしても、やっぱり「大半の国民が政治家の汚職なんて何となく分かっているし、その程度の情報を今さら暴露されたところでなあ」と思ってしまう。
それ以外の目的がある尾形とテロリストはともかく、SPの連中は本気で「政治家の汚職を暴く」ということだけで動いていたことになるんだけど、「その程度のチンケな目的でテロを起こしたのかよ。動機が弱すぎるだろ」と言いたくなってしまうぞ。

尾形は「これまで幾人もの総理が、いとも容易くその座を放棄し、猫の目のように短期間で政権が代わって国会の機能が著しく停滞しても、この国が崩壊することは無かった。それ以前に、貴様らが汚職にまみれ、派閥抗争に明け暮れ、失政のツケを溜め続けていても、この国はどうにか前に進み続けている。貴様らの存在意義はどこにある?いい加減、認めたらどうだ?この国の足元を危うくしてるのは、貴様らだということを」と政治家を批判するのだが、その生真面目でストレートすぎる主張も全く心を揺さぶらない。
むしろ、「だからさ、そういうのも今さら言われなくても分かってることだから」と冷めた気持ちになってしまう。
それと、「尾形の主張が古臭い」という以外にも問題があって、それは「テメエの真の目的は、そこには無いんだろうに」と言いたくなるってことだ。尾形の目的は、少年時代から恨みを抱き続けていた麻田への復讐だ。それこそが目的であって、革命だの大義だのってのは建て前に過ぎないのだ。
私怨を晴らすために大勢のSP仲間を巻き込んでいるだけなので、それで「革命のために立ち上がれ」と国民を扇動されても、こっちの心には何も響かないよ。むしろ革命だの大義だのと偉そうなことを言わず、徹頭徹尾、「復讐の鬼」として行動してくれた方が良かったんじゃないかと。

テレビ中継を見ている若手官僚たちから「なんか退屈してきましたねえ。政治家の悪い奴っていうのは別に意外性があるわけじゃないし」という意見が出るが、その通りなんだよな。
だから、そこを糾弾するための革命としてテロを起こされても、なんか尾形がバカバカしくさえ思えてしまう。
そこで若手官僚にそんな台詞を言わせているのは意図的で、そこから滝川と安斎に「このドラマは二部構成になっている」と言わせて、尾形の知らない伊達たちの計画が開始される流れへ持って行くためなんだけど、それも効果的じゃない。
なぜなら、伊達が最初から自分の天下取りのための計画を立てていること、尾形を切り捨てようとしていることはバレバレであり、だから「尾形の知らない第二幕が始まる」という部分さえも予定調和なのよ。

(観賞日:2014年9月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会