『S -最後の警官- 奪還 RECOVERY OF OUR FUTURE』:2015、日本

品川管内で銃器を使用した人質立て籠もり事件が発生し、特殊急襲捜査班のNPS、航空自衛隊、警視庁のSAT、陸上自衛隊が合同で動くことになった。NPS隊長の香椎秀樹は隊員の神御蔵一號や林イルマ、古橋誠二朗、速田仁、梶尾竜一、上野耕司たちに対し、指示があるまで待機するよう無線で告げる。突入で負傷者が出た場合、航空自衛隊が救助することになっている。建物の屋上から発砲する犯人たちをイルマが狙撃し、ヘリコプターで接近した部隊が降下した。
だが、それは合同訓練であり、一號が眼前の敵を殴ろうとしたところで香椎が中止を命じた。訓練を見学していた内閣総理大臣の南郷雅文は、その迫力に感心した。南郷は日本の未来へ繋がる政策の1つとして、原子力エネルギーサイクル事業の復活を掲げていた。そのために彼は、MOX燃料を積んだ輸送船「第2あかつき丸」がフランスへ向けて出航させた。そんな中、元警察庁次長でNPS創設者の霧山六郎は「人の心を束ねる方法は1つ。目の前に迫った国家存亡の危機」と考えていた。警察庁長官官房審議官の天城光は彼に、「そのためのシナリオは出来上がっています。それを演じる役者も戻って参りました」と言う。
彼らが言う役者とは、「M」のコードネームを持つ国際テロリストの正木圭吾である。霧山と天城は目的を達成するため、海上保安庁の巡視船「くにしま」に搭乗しているSSTを利用しようと目論んでいた。SST隊長の倉田勝一郎たちが警戒を強める中、第2あかつき丸に潜入していたテロリスト集団が動き出した。一方、倉田の息子たちを乗せた若峰学園小学校のスクールバスが、武装した外国人の覆面グループに乗っ取られた。
一號や幼馴染の棟方ゆづるたちは、梶尾と奥村麻美の婚約を祝う食事会を開いた。看護師仲間やゆづるの祖父である耕三たちが集まる中、梶尾はゆずるが医者の松井から求婚されたことを喋ってしまう。ゆずるはイルマから「もうOKしたんですか」と問われ、仕事の忙しさを理由に返答していないと告げる。香椎は科学警察研究所・研究主任の横川秋に頼み、過去に戦闘経験のある所在不明者をリストアップしてもらう。有力候補の資料の中から、香椎は神門健という男に着目する。
NPSにはバスジャック事件が発生したという報告が入り、その情報は倉田にも伝わった。彼は部下から息子のために戻るよう促されるが、任務を優先する。第2あかつき丸が無線に応答しないことを知った直後、倉田たちは仲間が甲板で捕まる様子を確認した。テロリスト集団は発行信号を使い、「プルトニウムは貰った。東京を狙う」とメッセージを送った。首相官邸の危機管理センターでは緊急対策会議が開かれ、天城は「情報によると、海保のSの隊長は全力を出し切れる状態にありません。もう1枚のカードを切る必要があるんじゃないですかね」と口にした。
SATの中丸文夫や山中一郎たちは巡視船「くにしま」に乗り込み、船長の高村たちと作戦会議に入った。バスジャック事件の方は、NPSとSITが担当することになった。天城は香椎に電話を掛け、プルトニウムを奪った犯人から連絡があったことを知らせる。正木は南郷に対し、「これから幾つかの要求を出す。まず30分以内に俺の仲間たちを釈放してもらおうか。プルトニウムだけでなく、バスの子供たちの命を預かっていることも忘れるな」と述べた。
香椎は古橋に正木の捜索を指示し、イルマには狙撃位置へ向かうよう指示した。SSTとSATは互いに作戦の指揮権を主張し、激しく対立する。伊織は倉田に「我々には経験がある」と言い、かつて戦った相手が犯人だと告げた。正木は南郷に最初の要求の進捗状況を確認すると、次の要求として「SSTとSATによる第2あかつき丸へのアタックを5分以内に中止しろ」と述べた。南郷は苦悩した末に攻撃中止を決断し、第2あかつき丸は東京湾へ入った。しかし正木は「残念だな。約束の時間を10秒過ぎた」と言い、電話を切った。
イルマは指示を受けて狙撃し、SITがバスに突入して犯人グループを捕まえた。しかしイルマは、倉田の息子が銃弾を浴びたことを知った。NPSは正木の携帯の発信源を突き止め、ショッピングモールに潜入する。しかし正木は彼らの動きに気付いており、1人を捕まえて拳銃を向ける。突っ込もうとする一號は仲間たちに制止され、香椎が駆け付けて「正木に手を出すな」と告げる。彼は正木に、「お前の確保はプルトニウム爆破のトリガー。だから陸にいるんだろ」と言う。
正木は南郷に連絡を入れ、自分と仲間を第2あかつき丸へ運ぶよう要求した。正木は立ち去る際に一號を挑発し、「俺を確保しようなんて考えるなよ。俺を止めたきゃ殺すしかないんだよ」と言い放った。テレビのニュースで情報を知った霧山は、シナリオに無かった行動に困惑して「なぜ戦わん?」と呟く。翌朝、天城は霧山と会い、「シナリオが変わってしまった。これ以上のゲームは不可能ですね」と冷淡に告げる。霧山は国のための計画をゲーム呼ばわりすることに激昂するが、天城は「私は楽しければいいんです」と言う。霧山が心臓の持病で苦しむと、天城は薬を隠して「お前はもう必要ない。くたばってくれ」と立ち去った。
霧山は駆け付けた香椎に対し、正木がシナリオを書き換えたことを伝える。霧山は中央アフリカの傭兵キャンプで少年時代の正木と会ったこと、本名が神門健であることを教えた。伊豆諸島南西に浮かぶ星ヶ浦島島が正木の生まれ故郷であり、30年前に産廃埋立地のリゾート計画が持ち上がった。多くの島民が賛同する中、昔から島守を務めてきた一家だけは反対した。その家長が暴漢に襲われて死亡し、推進派に雇われた人間の仕業だと目された。その後、リゾート計画は中止され、多くの島民は荒廃した島を去った。
一號は正木の目的が父親と島を奪われた復讐ではなく、他に意味があるはずだと確信する。正木が「プルトニウムを返してほしければ、閣僚19名全員で会いに来い」と要求すると、古橋は海外にいる4名が帰国する翌朝まで待ってほしいと要請する。正木は了承するものの、ペナルティーとして1人に付き2億円の身代金を請求した。閣僚会の場へ赴いた香椎は、内通者がいることを指摘した。怒号が飛び交う中、南郷は「要求を飲んでも、正木がプルトニウムを返すとは思えない。それでも状況を打破できると言うのかね」と香椎に問い掛ける。香椎は「はい」と即答し、そのために認めて頂きたいことがあります」と告げた。
香椎はNPSとSAT、SSTの合同ミッションを許可してもらい、巡視船「くにしま」に乗り込んだ。イルマは倉田と会い、息子を誤射したことについて詫びた。すると倉田は、「アンタのミスじゃなかったようだ」と言う。警察からの連絡で、息子が犯人に飛び掛かったことが判明していたのだ。一號は「正木の身柄を確保して考えを聞きたい」と思っていたが、伊織は「俺は容赦なく奴を倒す。倒さなきゃいけない相手だ」と告げた。
香椎は船内の情報を調べるため、交渉団に同行して第2あかつき丸に乗り込むことを中丸や倉田たちに話した。丸腰であることを条件に、古橋が正木に認めさせていたのだ。次の日、南郷と閣僚たちは第2あかつき丸へ向かい、合同部隊が配置に就く。横川は一號のために、新型のガーディアンを用意した。政府代表団の交渉が開始され、南郷は正木たちに30億円の現金を提示した。彼がプルトニウムの変換を要求すると、正木は「分かった。港までお送りしよう」と告げた。
交渉の様子を映像で監視していた中丸は、正木が政府代表団もろとも東京湾に突っ込んでプルトニウムを撒くつもりだと見抜いた。そんな中、テロリストの1人が「こけで終わりじゃ退屈でしょ」と言い出し、閣僚の1人に拳銃を向けて香椎を挑発する。香椎は男に飛び掛かり、腹に銃弾を浴びながらも拳銃を奪い取った。彼は正木に銃を向け、「お前の目的は何だ。手段はともかく、霧山と同じように、この国の未来のために動いていたんじゃないのか」と質問する。 正木は「あんな茶番で何が変わる?警察力を高めるだけでは、この国は変わらない。俺は俺の信念でのみ動く」と言い、香椎の右膝を撃ち抜いた。正木は「俺を止めたければ殺すしかないぞ。これから理不尽を突き付けてやる」と言い、政府代表団に向けて発砲する。甲板でも激しい銃撃が開始され、中丸の指示を受けた伊織やイルマたちが犯人グループを狙撃して動きを分断する。正木は投降を求める香椎を無視し、手下が暴れるのを傍観する。突入部隊の一號たちは伊織とイルマの援護を受け、第2あかつき丸へ乗り込んだ…。

監督は平野俊一、原作は小森陽一(原作)&藤堂裕(作画)『Sエス -最後の警官-』(小学館 ビッグコミック)、脚本は古家和尚、エグゼクティブプロデューサーは渡辺正一、企画は那須田淳、プロデューサーは韓哲&大原真人&下田淳行&青木真樹、協力プロデューサーは大澤祐樹、技術プロデューサーは浅野太郎、アソシエイトプロデューサーは諸井雄一&大内雅子、撮影監督は山本英夫、撮影は小林純一、照明は小野晃、美術は永田周太郎、録音は小高康太郎、編集は松尾浩、VFXスーパーバイザーは宮崎浩和、音楽は高見優&木村秀彬、音楽プロデューサーは志田博英。
主題歌は「流れ星」MISIA 作詞・作曲:里花、編曲:服部隆之。
出演は向井理、綾野剛、新垣結衣、大森南朋、オダギリジョー、吹石一恵、青木崇高、土屋アンナ、嶋政宏、近藤正臣、池内博之、平山浩行、高橋努、平山祐介、本宮泰風、淵上泰史、本田博太郎、朝加真由美、菅原大吉、恵俊彰、辰巳琢郎、中村ゆり、平岳大、平岩紙、ふせえり、朝倉えりか、夕輝壽太、君沢ユウキ、八木菜々花、弥香、サントス・アンナ、並樹史朗、信太昌之、国枝量平、森永徹、松永英晃、小田桐一、佐藤瑠生亮、田中奏生、山田日向、尾谷大三郎、テット・ワダ、米村亮太朗、千葉哲也、白石朋也、志賀龍美、田中仁、唐橋ユミ他。
ナレーションは田口トモロヲ。


『ビッグコミック』で連載された漫画『S -最後の警官-』を基にした連続ドラマの劇場版。
監督の平野俊一と脚本の古家和尚は、いずれもTVシリーズのスタッフ。
一號役の向井理、伊織役の綾野剛、イルマ役の新垣結衣、香椎役の大森南朋、正木役のオダギリジョー、ゆづる役の吹石一恵、横川役の土屋アンナ、中丸役の嶋政宏、霧山役の近藤正臣、古橋役の池内博之、速田役の平山浩行、梶尾役の高橋努、嵐役の平山祐介、山中役の本宮泰風、上野役の淵上泰史、耕三役の本田博太郎、花役の朝加真由美、天城役の菅原大吉らは、TVシリーズの出演者。
他に、倉田を青木崇高、南郷を辰巳琢郎、内閣危機管理監を恵俊彰が演じている。

まず指摘したくなるのは、「タイトルが無駄に長いよ」ってことだ。
そもそも『S -最後の警官-』という段階で、サブタイトルがある形になっている。
その映画版ってことなら『S -最後の警官- 劇場版』とか『映画 S -最後の警官-』でもいいだろう。
とは言え、映画用に「奪還」と付けるぐらいなら、まあ別に構わない。いちいち目くじらを立てるほどのことではない。
ところが、「奪還」で終わればいいものを、その後に「RECOVERY OF OUR FUTURE」と付けるので「うるせえよ」と言いたくなってしまうのだ。

TVシリーズの劇場版ってのは、番外編や後日談になるケースが多い。それでもドラマ版を見ていなけりゃ付いて行くのは簡単じゃないだろうけど、まだコミューン映画としては誠実な部類と言ってもいい。
いや、本音を言っちゃうと、それでもホントは望ましくないと思うのよ。ただ、そんなのは余裕で許せちゃうようなケースも存在するのだ。
それが「TVドラマでは物語が完結せず、劇場版に繋げる」という策略を取るケースだ。「続きは映画館でね」ってヤツである。
それは商売人としては狡猾なのかもしれないが、映画人としては唾棄すべき不誠実な手口である。

この『S -最後の警官-タイトルが無駄に長いなんちゃらかんちゃら』も、そういう手口を使った作品である。
ドラマ版で敵として登場した正木は、最終話でも逮捕されたり命を落としたりすることは無いまま退場した。そうなると、もちろん「正木との決着」を付ける必要があるので、それを劇場版で見せましょうってことだ。
TVシリーズの劇場版だから改めて言うまでもないだろうが、それ以外の部分でも「一見さんのための説明」は用意されていない。
登場人物や相関関係、置かれている状況や世界観などは全てドラマ版で説明しているので、いきなり映画だけを見た人は「何が何やらワケが分からん」ってことになることが確実だ。

それでも映画から入ったという大胆不敵な人、もしくは不用意な人のために忠告しておくと、この作品を楽しむためには1つのハードルを越える必要がある。
幾つものハードルではなく、たった1つのハードルさえ越えればいい。
ただし、そのハードルは、かなりの難関だと言っていいだろう。
それは「徹底的に荒唐無稽な映画、おバカ満開な映画ってことを受け入れるべし」というハードルだ。
そこさえクリアできれば、きっと貴方は本作品を大いに楽しめるはずだ。

この映画に登場する「NPS(警察庁特殊急襲捜査班)」なる組織は、架空の部隊である。
そんなNPSの活躍を、この作品はシリアスかつ重厚なテイストで描写している。
ってことは、「NPSが存在する」という大きな嘘に説得力を持たせるために、その周囲はリアリティーを追求して丁寧で繊細なディティールを積み重ねる見せ方をするのが普通の考え方ではないかと思う。
たくさんのリアリティーで武装することによって、大きな嘘に「本物っぽい力」を持たせることが出来るのだ。

ところが、この作品のアプローチは、そういう方法を採用していない。それどころか、むしろ荒唐無稽を助長するかのような戦略を取っている。
だから当然のことながら、「NPS」という組織には何のリアリティーも感じないし、描かれていることの全てがバカバカしさに満ち溢れる状態と化している。
これがハチャメチャなコメディーであれば、そういう見せ方も分からなくはない。
しかし、シリアスで重厚なテイストにしておいて、それなのに「リアリティーって美味しいの?」ってな作りになっているので、困惑してしまうのだ。

「全てにおいてリアリティーが乏しい」という問題について説明するのは、実は1点を挙げるだけで終わらせることが出来る。
それは、NPSの狙撃手を新垣結衣が演じているってことだ。
ねっ、リアリティーなんて皆無でしょ。
そのキャスティングだけでも、いかに本作品がリアリティーを軽視しているかが分かろうというものだ。たぶん他の部分でリアリティーを追求したところで、そのキャスティングが全てを荒唐無稽に染めてしまうぐらいの力を持っている。
ただし不幸中の幸いと言うべきか、他も全てリアリティーなんて無視しているので、ある意味では新垣結衣の起用も「作品の色に合っている」ってことになるのだ。

この映画のために用意されたストーリーも、「バカバカしい映画」として受け入れるならば、かなりの面白さを感じさせてくれる仕上がりとなっている。
序盤からバスジャックとシージャックという2つの事件が発生するのだが、この前者のバスジャック事件に関しては「それを起こす必要性がゼロ」という面白さなのだ。
「バスジャック事件に息子が巻き込まれているから倉田は全力を出せない」→「それを理由にして天城がSATをシージャック事件に出動させる」という流れになっているが、いちいち説明するのも面倒なぐらいバカバカしい設定だ。
そんなことだけのために、わざわざバスジャック事件を用意しているのである。

あえて面倒な説明を書いてしまうと、「息子のことで倉田は全力を出せないから、SATを使おう」という天城の提案を、南郷たちが簡単に飲むのが不自然。
っていうか、その程度で簡単にOKしちゃうような連中なら、たぶん何も無い状態でも口八丁で丸め込むことは出来ただろう。
っていうか、どっちにしろ海で起きた事件なのにSATが派遣されるってのは、相当に無理がある。
それを納得させるための筋書きとしてバスジャック事件を用意しているのだが、何の説得力にも繋がらないどころか、むしろバカバカしさを助長している。

皮肉なことに、シリアスで重厚なテイストにしたことが、この映画のバカバカしい印象を強くしている。
出て来る連中がバカばかりに見えてしまうのも、それが大きな要因だ。
これがアクション・コメディーであったなら、「だってコメディーだもの」ってのを免罪符として使うことも出来ただろう。
しかし、そういう言い訳が用意されていないので、登場キャラクターによるボンクラ丸出しの行為は全てが「マジにやってるけどマヌケにしか見えん」という状態と化している。

ボンクラなシーンの例を幾つか挙げると、例えば国家の危機を救うための作戦に従事している倉田は、「息子の意識が回復した」という連絡を受ける。傍にいたイルマは、目に涙を浮かべて喜ぶ。
いや、そんな場合じゃねえだろ。連絡した奴は、状況を分かってねえのかと。
外国人テロリストがカタコトの日本語で「俺はクレイジーな男だぜ」ってのを大げさにアピールするのは、ものすごく安っぽい。
なぜかスキンヘッドの1人だけが存在感をアピールするのだが、それも含めて安っぽい。

第4格納庫のシーンがクライマックスとして用意されているが、ボンクラ度数の高さという意味でも一番の見せ場となっている。
正木はマイクロトロンという超高出力加熱装置でプルトニウムを熱し、水素爆発を起こして関東全域を壊滅させようと目論んでいる。エンジニアは脅しとして使うつもりだったが、正木は拳銃で脅して起爆装置を奪い取る。で、それを南郷に渡してスイッチを押せと要求し、断られる。
ただ、南郷が断ったところで、正木が押せば終わりなのよね。
なので、そこは何の意味も無い手順になっている。
何かしらの形で南郷に「総理大臣らしい見せ場」を用意するのかと思ったが、ただのボンクラな奴ってことを露呈するだけだ。

正木は日本を破壊するために強い決意で突き進んでいたのに、香椎が「これがお前が天から与えられた使命なのか。今のお前の姿を見たら、必死に島守を務め、その末に命を落としたお前の父親は何て言うだろうな。お前の成すべきことは、こんなことではなかったはずだ」と説得すると、動きを止めてしまう。
それは警察の取調室で「田舎のお袋さんが云々」と言われて自供する犯人ぐらい陳腐だ。
第4格納庫へ部隊が突入して激しい戦いが繰り広げられる中、ゆずるが松井の求婚を断る様子を並行して描くという構成も、見事なぐらいバカバカしい。
正木が装置を作動させると横川が指示を出してイルマが動くけど、指示する側も受ける側も阿呆にしか見えない。

足りない知恵を幾ら振り絞っても、鈍いオツムを必死に回転させても、「正木は殺すべきでしょ」という考えが変わることは無い。一號が身柄の確保に固執するのが、愚かしいとしか思えないのだ。
そのせいで関東全域が壊滅したとして、それでも「確保すべき」ってことになるのかと。
そりゃあ犯人の考えを聞きたいってのは、それなりに理解できるよ。ただし、それは状況によるでしょ。
目の前に差し迫った危機がある時は、そんなことより事件の解決を優先しなきゃいけないはずで。

今回のケースだと、正木はプルトニウムの水素爆発を起こして関東全域を壊滅させようとしているのよ。
いわゆる「要求を飲ませるために脅しを掛ける」というタイプのテロリストだったら身柄の確保を目指すのも分かるけど、そうじゃなくて大勢を殺すことが目的の奴なのよ。
それを止めるためには、必要であれば殺すべきじゃないのかと。
正木に交渉の余地なんて全く無いことは、最初からバレバレになっているしね。

それなのに「何が何でも犯人を殺さずに身柄を確保する」ってことに固執するのは、「現実を見ていない夢想家」でしかないんじゃないかと思うのよね。
それが評論家やコメンテーターの意見ならともかく、現場で事件を解決しなきゃいけない人間の考えなので、「そんな奴に日本を任せたくないわ」と思うぞ。
「犯人は絶対に殺さず身柄を確保する」ってのは、「テロリストの要求に応じて交渉を選ぶ」ってのと大して変わらんのじゃないかと。

(観賞日:2017年4月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会