『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』:2018、日本

幼少期、波平(なみひら)久瑠美は学校のお遊戯会で『オズの魔法使い』のドロシーを演じた。その時に自分が発した「やっぱりウチが一番だわ」という台詞を、22歳になった久瑠美はその通りだと思っている。生まれ育った町も、家族や友達も、ママ譲りの色白も、自分を好きと言ってくれる恋人の小西俊郎も、全て彼女は大好きだ。彼女は俊郎と同じ東京プリンスハイアットグループから内定を貰い、喜んでいた。しかしグリーンランド遊園地企画事業部出向を命じられ、彼女は落胆した。
グリーンランドのある熊本県に到着した久瑠美は、路面電車に揺られながら暗い表情を浮かべる。彼女は荒尾駅からタクシーに乗り込み、グリーンランドへ赴いた。彼女が園内に入った直後、何者かが紙袋に入った時限爆弾をのタイマーを作動させた。久瑠美は同じく新入社員の吉村豪太郎と共に、スタッフの玉地弥生から制服を渡される。久瑠美が派手な制服を見て困惑していると、弥生は「緊張しなくて大丈夫。これさえ頭にいれておけば何とかなるからさ」と壁に掲げてある「五か条の鉄則」を教える。久瑠美は全く気にしなかったが、吉村はスマホで五か条の鉄則を撮影した。
いつもヘラヘラしている上園と、無表情な沼田も挨拶にやって来た。久瑠美は先輩スタッフたちから「なみへい」と苗字を間違えられ、その場で否定する。しかし弥生は「それなら一発で覚えてもらえる」と言い、「なみへい」の名札を使うよう勧めた。業務連絡を受けた弥生たちが事務所を飛び出したので、久瑠美と吉村は後を追う。弥生たちは2人にスタッフの隠語を説明し、トイレへ向かった。するとスタッフの南原カツヨが待っており、ずっと紙袋が放置されたままになっていると言う。
久瑠美は弥生たちから中を確認するよう指示され、確認すると時限爆弾のタイマーが動いていた。久瑠美と吉村が動揺していると、弥生たちは紙袋を別の場所へ運ぶよう指示する。トイレを出ると、スタッフの美月たちが次々に行き先を指示した。指示に従った久瑠美と吉村は、ローカルヒーローショーが行われているステージに出た。ヒーローが紙袋を奪おうとするので、久瑠美は必死で守ろうとする。だが、それは全てスタッフが仕掛けたドッキリだった。弥生たちは作戦成功に大喜びするが、久瑠美は疲労感に打ちのめされた。
翌朝、久瑠美は俊郎に電話を掛け、「もう嫌だ」と不満を漏らした。俊郎が「そう言うなって。久瑠美の配属は、グリーンランドの園長の直々の希望なんだろ」と告げると、彼女は「そうらしいけど、なんで私なんだろう?」と口にする。俊郎は「毎年、各店舗から優秀な社員を決める。MVPなら本社勤務だ。グリーンランドの魔法使いに色々と教えてもらえ」と語り、歓迎会で仲良くなるよう勧めた。その夜、久瑠美は馬肉屋「さくら」で開かれた新人歓迎会に遅れて参加し、既に酔い潰れて眠っている園長の宮川を目にした。
久瑠美が小塚慶彦のことを尋ねると、スタッフは「この10年で集客率を170%も上げた」「考えた企画は全て実現させている」「五か条を作ったのも彼」などと話す。歓迎会に小塚は現れなかったが、弥生は久瑠美に「新人研修を自分が担当すると張り切っていた」と教えた。翌朝、小塚は久瑠美のアパートのチャイムを激しく鳴らし、車に乗せてグリーンランドへ連れて行く。彼は豚のサチコが飼われている場所へ案内し、昨晩から熱が下がるまで添い寝していたことを話す。豚の世話を手伝わされた久瑠美は、糞の始末に顔をしかめた。
「小塚さんって、企画事業部ですよね?」と彼女が尋ねると、小塚は「俺なんて雑用係みたいなもんだから」と語る。彼が爆弾騒ぎの台本も書いていたことを知り、久瑠美は不快感を示す。全く客の姿が無いので吉村が「今日って、休みですか?」と口にすると、小塚は「平日はこんなもんだ。土日がかき入れ時だから」と語る。ゆっくり研修をすればいいと言う彼に、久瑠美はMVPで本社勤務を狙っていることを話す。小塚は久瑠美と吉村に、最初の研修として100個の袋を使い切るまでのゴミ拾いを命じた。彼は今年が開園50周年で、春休みのイベントが目白押しで忙しいのだと語った。
久瑠美は「ゴミ拾うために大学を出たわけじゃないです」と反発し、企画を考えたいと訴える。すると小塚は、「じゃあ考えてみ?ただしゴミ拾いの余った時間な」と告げた。吉村は真面目にゴミ拾いをするが、久瑠美は途中で事務所に戻って企画書を作成する。彼女は企画書を提出するが、小塚は全く目を通さず机に置いて立ち去った。久瑠美が適当にゴミ拾いを終えると、小塚はヤギの世話を命じた。久瑠美が新たな企画書を書き上げて提出すると、小塚はゴミの分別作業を指示した。
宮川は久瑠美を呼び出し、「ここを魔法の国にしたいんだ。自然が一杯で、みんなが笑顔でいられるような」と語る。久瑠美は「それってディズニーシーになりたいってことですか」と半ば呆れたように質問するが、宮川の答えを待たずに仕事へ戻った。彼女は小塚から次々に仕事を押し付けられ、苛立ちを隠せなかった。久瑠美は弥生たちに、「あの人のどこが魔法使いなんですか。過大評価ですよ」と愚痴をこぼした。企画書を全く見てもらえないので、彼女は小塚に「なんでこんな意地悪するんですか。雑用ばかり押し付けて」と反発する。「俺は面白いけどな」と小塚が笑顔を要求すると、久瑠美は「ふざけないでください」と怒鳴って事務所を去った。
小塚は企画書を読んでいたが、弥生から内緒にする理由を問われて「別に。ただ今じゃねえかなってさ」と答えた。久留美は俊郎に電話を掛けて不満を吐露するが、「どう考えても久留美が悪いでしょ。有り得ないからね、上司にそんな態度取るの」と注意される。俊郎は彼女に「もう学生じゃないんだからさ」と冷たく言い、電話を切った。久留美は宮川に、「小塚さんに言ってもらえませんか。園長がせっかく期待して直々に採用してくださったのに」と相談した。すると宮川は大笑いし、「期待してない。面白い名前だなあと思ってさ」と言う。久留美は早稲田大出身の自分が学歴で評価されたと思っていたが、宮川は「学歴枠なら東大出身の吉村くん」と教えた。
吉村は久留美から「嫌じゃない?東大まで出てさ」と問われ、「卒業間近に研究室に残れないことが分かって、あったかい仕事したいと思ったんです」と答えた。沼田が点検中に転落して右足を怪我したため、カツヨは久留美と吉村を呼び出して協力を要請した。吉村たちが沼田を車椅子に乗せると、久留美は救急車を呼ぼうとする。沼田たちが「何があっても緊急車両は入れない」という鉄則を持ち出して却下すると、吉村は遊園地の外で救急車に待機してもらうことを提案した。沼田が救急車で搬送され、スタッフは仕事に戻った。
久留美は来園者のカップルからお化け屋敷の場所を訊かれるが全く分からず、通り掛かった吉村が案内した。その様子を見ていた小塚が声を掛けると、久留美は「吉村君と違って役立たずってことぐらい分かってますから」と言う。彼女が「この1ヶ月を無駄にしたんですね。怒ってますよね」と口にすると、小塚は「なんかいいよ、お前は。いつも予想外で」と話す。彼はヒーローの代役を担当していたことを明かし、「笑えるってことは、役に立てるってことだろ。俺たちがいるのは、そういう場所」と語った。
迷子の子供がいるという連絡が弥生から入ると、小塚は詳細を聞く。母親と喧嘩したと聞き、彼は隠れる可能性があるのでアナウンスは避けることに決めた。彼はスタッフに、風船を配っったりヒーローのコスチュームを着たりして子供を引き付けるよう指示した。久留美も捜索に加わり、男児のスニーカーを池で発見する。彼女は迷わず池に飛び込むが、直後に迷子発見の連絡が届いた。いつも小塚が笑っていることを久留美が宮川に話すと、「家族が増えるのが嬉しいんだろうな」という言葉が返って来た。スニーカーの持ち主である男児が久留美の元へ聞いて礼を言い、風船をプレゼントして去った。
7月。アイドルグループ「フライングモッチー」のライブが翌日に迫ると、久留美は小塚から現場担当者を任された。しかしマネージャーから来園の連絡があったのに、到着したのは夜遅くになってからだった。マネージャーは道が混んでいたと言い、久留美たちは食事を用意していたが「途中で済ませた」と告げられる。マネージャーは「まずは乗り物を動かしてよ」と要求し、担当者から大丈夫と言われたと話す。久留美は連絡を受けた時、「閉演から30分ぐらいなら」とOKしていたのだ。既に多くの従業員が帰っていたが、小塚は「チェックインしてもらって、ここへ30分後に来てください」と承諾した。小塚はアテンドを久留美に任せ、「後はよろしく」と言う。小塚は慌てて準備を整え、スタッフを呼び戻して乗り物を動かした。
8月。スタッフが花火大会に向けて準備を進める中、久瑠美は俊郎が会いに来ることになったので浮かれていた。俊郎が予定より早く来てグリーンランドに姿を見せ、久瑠美を抱き締めた。彼が事務所へ出向いてスタッフに土産を渡すと、小塚は久瑠美に休憩を与えた。仕事に励むようになっていた久瑠美は、俊郎から「ここはダメだな。敷地を有効活用してないし、お客さんも全然いない。久瑠美の言ってた通りだよ」と言われて戸惑った。久瑠美が園内を案内しても、俊郎は全く興味を示さなかった。
俊郎は東京へ帰って来るよう誘い、「ちょっと遠距離、キツいなって」と言う。久瑠美が「頑張って、やっと仕事も覚えてきて」と口にすると、俊郎は「それはMVP獲るためでしょ。もう久瑠美は頑張らなくていい」と話す。久瑠美が「弱音はダメ、仕事を頑張ってもダメ。私にどうなってほしいの?」と尋ねると、彼は「分かんねえけど、俺は前の久瑠美が好きだったから。また東京で楽しくやろうよ」と語る。久瑠美は「無理だよ。前みたいにはなれないよ」と言い、別れを告げた。
花火大会の当日、久瑠美たちの準備したイルミネーションが急に消えてしまうトラブルが発生する。このままでは中止になってしまうが、久瑠美は「ちょっと考えがあります」と言う。彼女は美月に頼んで「魔法を掛けさせていただきます」とアナウンスしてもらい、他の照明を全て消す。久瑠美は花火を楽しんでもらう演出として、トラブルを利用したのだ。花火が打ち上がっている間にスタッフが設備を点検し、故障の原因を突き止めて修理した。久瑠美は小塚から、いい作戦だったと褒められた。
9月。沼田は飲み会で悪酔いし、50周年企画の新しいアイデアを出すようスタッフに要求した。小塚も酔っ払い、久瑠美と吉村に「俺はもう、やりたいことは大体やった」と話した。軽い冗談だと思っていた久瑠美と吉村だが、酔い潰れた小塚を車に乗せた時に彼の退職願を発見した。2019年3月31日で小塚がグリーンランドを辞めると知った久瑠美は、他のスタッフには内緒にするよう吉村に指示する。宮川と話した久瑠美は、小塚が早くに両親を亡くしていること、自分探しでヒッチハイクをしていたらグリーンランドに辿り着いたことを知る。久瑠美と吉村は小塚がやり残したことを知りたいと考え、弥生に教えてもらった彼の企画ノートを調べる…。

監督は波多野貴文、原作は小森陽一『オズの世界』(集英社文庫刊)、脚本は吉田恵里香、製作指揮は加太孝明&志賀司、製作は齋藤力&志賀玲子&勝股英夫&森広貴&吉崎圭一&小野田丈士&小西啓介&木下暢起&板東浩二&臼井龍至&松井智、エグゼクティブプロデューサーは安藤親広、プロデューサーは長谷川晴彦、アソシエイトプロデューサーは関根健晴、撮影は小松高志、照明は蒔苗友一郎、録音は湯脇房雄、編集は穂垣順之助、美術は平井淳郎、衣裳は森口誠治、音楽は白石めぐみ、主題歌「Wonderland」はDream Ami。
出演は波瑠、西島秀俊、柄本明、橋本愛、濱田マリ、中村倫也、岡山天音、深水元基、戸田昌宏、朝倉えりか、久保酎吉、コング桑田、植木祥平、井下宜久、國島直希、兒玉宣勝、荒川泰次郎、白鳥樹理、錦戸彩夏、森咲知子、山岡蘭、日野葵、瑞希悠奈、咲井綾音、泉心和、美意識タカシ、服部さやか、天野夏美、武井辰将、田中音麻、桑田侑典、上村元三、中川美樹、村上史子、永田美佐子、松岡聖菜、末松佳実、桑路ススム、荒木健次、長野結希、谷川未来、森野康徳、村上差斗志、ハレルヤ緒方、大木聡士、比嘉文子、河地泰幸ら。


熊本県荒尾市の遊園地「グリーンランド」をモデルにした小森陽一の小説『オズの世界』を基にした作品。
撮影もグリーンランドを中心に行われている。
監督は『SP 野望篇』『SP 革命篇』の波多野貴文。脚本は『ヒロイン失格』『センセイ君主』の吉田恵里香。
久瑠美を波瑠、小塚を西島秀俊、宮川を柄本明、弥生を橋本愛、カツヨを濱田マリ、俊郎を中村倫也、吉村を岡山天音、上園を深水元基、沼田を戸田昌宏、美月を朝倉えりかが演じている。

冒頭、幼少期の久瑠美が『オズの魔法使い』でドロシーを演じている様子が写し出される。
現在のシーンに切り替わると、「生まれ育った町も、家族や友達も、ママ譲りの色白も、自分を好きと言ってくれる恋人の小西俊郎も大好き」ってことを彼女がナレーションで説明する。「絶対、離れたりしない。生まれ育ったこの町で、大好きな人たちと幸せに暮らしていく」と語った後、グリーンランドーの出向が決定してガッカリする様子が写し出される。
「幸せな様子を描いておいて一気に突き落す」ってのは、コメディーの導入部として間違ったことは何もやっていない。
ただし、そこの処理が雑なので、たぶん製作サイドが狙っていたであろう効果は得られていない。

まず問題は、「この町が大好き」という部分で欲張ったせいで、何となくボンヤリしているってことだ。
そこで久瑠美は「家族や友達も、ママ譲りの色白も、恋人も」と好きな対象を広げているけど、そこがダメなのだ。そこは「この町でずっと暮らしたい」という気持ちだけに絞り込むべきだ。
さらに言うと、そこが田舎じゃダメで、東京であることが重要なのだ。
品川駅は写っているけど、「東京であること」のアピールが弱い。久瑠美が「東京から離れたくない。都会での暮らしが大好き」と思っていることを強調すべきなのだ。

その後にも問題があって、それは久瑠美が俊郎に内定を報告して通知を見せるシーン。
その表現だけでは、彼女が何の会社に就職したのか全く分からない。
その後、久瑠美が落胆してから「東京プリンスハイアットグループ」ってのが台詞で出て来るけど、タイミングが遅い。先に「有名ホテルチェーン」ってのを示しておくべきでしょ。
あと、俊郎が「1年目から希望の企画事業部」と言っているけど、つまり久瑠美は企画事業部を希望していたわけだ。
だったらグリーンランドへ出向になる可能性は充分に考えられたはずで、それが決まって落胆するのはアホにしか思えないぞ。

久瑠美は「俊くんと一緒にいたいから同じ会社に」と言うけど、だったら、なぜ地方出向の無い部署を希望しなかったのか。
っていうか、そこにも少し引っ掛かることがあって、それは「久瑠美の希望は俊郎と一緒にいることなのか、それとも東京にいることなのか」ってこと。そこも変に欲張ったせいで、散漫になっちゃってんのよね。
もしも俊郎と一緒だったら、熊本県でも良かったのか。それとも、やっぱり東京でずっと暮らしたいのか。そこは、どっちか片方に絞り込んだ方が良かったんじゃないか。
もっとハッキリ言ってしまうと、俊郎は排除しても良かったんじゃないか。このキャラクター、あまり上手く使いこなせていないぞ。

久瑠美は路面電車で熊本県を移動している間、ずっと憂鬱な表情を浮かべている。
もちろん、「本当は東京に残りたかったのに、熊本県に飛ばされてしまった」ってことでガッカリしているのは分かるのよ。ただ、映像として写し出されるのは、熊本の街並みや美しい風景などであって。
そこに「ガッカリする理由」を見つけ出すことが困難なのだ。
久瑠美の気持ちは、映画の段取りとしては理解できる。しかし、これっぽっちも共感できない。
これって、実は大きなハンデなのだ。そこからのリカバリーは、かなり難しい作業になる。

映画として分かりやすいのは、「異動になった先は寂れたド田舎で、グリーンランドは全く繁盛しておらず閑古鳥が鳴いている」という設定にしておくことだ。
そうすればヒロインの落胆は腑に落ちるし、共感は難しくない。
しかしグリーンランドは大盛況という設定なので、そういう筋書きが使えないのね。
あと細かいことを言うけど、タイトルに「オズランド」とあるからヒロインの働く遊園地はオズランドなのかと思ったらグリーンランドなのね。

久瑠美がグリーンランドに到着した直後、何者かが時限爆弾を仕掛ける様子が挿入される。
後で「実は新人へのドッキリ」ってことが判明するけど、それまでは「サスペンス」としての仕掛けになっている。そして、それは邪魔な要素でしかない。
まだ「久瑠美が新しい赴任先に到着しました」というトコまでしか話は到達しておらず、グリーンランドの説明も主要キャラの紹介も全く済んでいないのだ。
その段階で、いきなり「何者かが時限爆弾を仕掛けた」という本筋から外れた要素を持ち込むのは望ましくない。

せめて弥生や吉村を登場させ、「グリーンランドはこんな場所で、こんな仕事をします」ってのをザックリと紹介した後で、事件爆弾が仕掛けられる様子を挿入すべきだろう。
っていうか、冷静に考えると、そんなシーンの挿入は必要ないよね。
そこを排除して、いきなり「トイレで時限爆弾が発見される」という手順から入っても問題ないでしょ。
そうすれば、前述した問題は解消した上で、なおかつ「それなりのサスペンスと、コメディーとしてのオチ」に繋げる仕事もクリアできるし。

最初に弥生が「五か条の鉄則」を教えた時、その内容を観客にはハッキリと教えない。壁に文字が書いてあるのは分かるが、そこを1つずつ読み上げるようなことはしない。
それは別にいいとして、引っ掛かるのは鉄則の内容だ。
「どんな急用でもお客の前では走らない。」「辛くてもお客の前でトイレと言わない。」「落ちている物は全て落とし物と思え。」「お客の前では大声出さず笑顔絶やさず。」「何があっても緊急車両は入れない。」という5つなんだけど、それが「守るべき基本事項」でホントにいいのか。
1つ目が「どんな急用でもお客の前では走らない。」ってあるけど、その時点で何か違う気がするのよね。いや、もちろん守った方がいい規則だとは思うけど、1つ目かな。
それに、なんで2つ目で早くも「お客の前でトイレと言わない」という細かい注意事項になってんだよ。それは『セブンルール』で例えれば6つ目に出てくるような内容だぞ(分かる人だけニヤッとしてね)。
あとさ、「お客様」じゃなくて「お客」と呼んでいる時点で、グリーンランドの質の低さが良く分かるわ。

弥生たちが久瑠美に事件爆弾を見つけさせるシーンで、五か条の鉄則を利用する。
「落ちている物は全て落とし物と思え。」ってことで、久瑠美に紙袋を拾わせる。久瑠美が驚くと、「お客の前では大声出さず笑顔絶やさず。」で注意する。吉村が警察に連絡しようとすると、「何があっても緊急車両は入れない。」ってことで却下する。
結局、五か条の鉄則って「ホントの遊園地」としての設定よりも、「物語を進行するための都合」を優先して用意されている内容なんだよね。
だから「間違ってるだろ」と言いたくなるわけで。

俊郎は久瑠美に、「毎年、各店舗から優秀な社員を決める。MVPなら本社勤務だ。グリーンランドの魔法使いに色々と教えてもらえ」と語る。
ここで久瑠美は「魔法使い?」と問い掛けているので、その人物について彼女は何も知らないはずだ。
ところが「歓迎会で仲良くなってきちゃいななよ」と言われると、「魔法使いねえ」と返すだけ。
いやいや、魔法使いが何者か全く分かっていないのに、なぜ「それは何者なのか、なぜ魔法使いと呼ばれるのか」を質問しないんだよ。

久瑠美は歓迎会で「東京にも小塚さんの名前、轟いてんの?」と上園に問われると、「あの、小塚さんは?」と訊く。
いつの間にか、彼女は魔法使いが小塚という名前であることを知っているのね。それは「東京にも小塚さんの名前、轟いてんの?」という言葉で察した可能性もあるけど、だとしても無駄に分かりにくいぞ。
そこは「久瑠美に質問された俊郎が、魔法使いの名前や実績を簡単に説明する」という流れにしておけば、何の問題も無いはずで。
歓迎会でスタッフが説明する形にしたかったのかもしれないけど、その仕事を俊郎じゃなくスタッフに委ねたことで得られるメリットなんて何も見当たらないし。

スタッフは小塚について、「この10年で集客率を170%も上げた」と語る。なのでグリーンランドは大勢の客が来ているのかと思ったら、平日はガラガラで閑古鳥が鳴いている。
そうなると、小塚がホントに凄い人なのかどうか微妙だ。
いや、確かに集客率の上昇率だけ見れば凄い人なんだろうけど、それが映像を見ても全く伝わらないんだよね。何しろ、そんな説明があった翌日に「平日は閑古鳥」という情景が描かれているわけで。
そこは嘘でもいいから、「平日でも多くの客が来ている」ってことにしておいた方がいいんじゃないのか。
実際のグリーンランドと大きな違いがあったとしても、フィクションなんだから別にいいでしょ。変に現実と近付ける必要なんて無い。

それを考えると、最初から小塚がグリーンランドにいるよりも、「他の施設で結果を出した魔法使いがグリーンランドに赴任する」という流れにした方が、話を作りやすかったかもしれないね。
ただ、どっちにしても彼の描写を大幅に変更しないと、魔法使いと呼ばれる能力の凄さは全く伝わらないけどね。
「何も特別なことなんてやっていない。当たり前のことを当たり前にやっているだけ」というトコへ着地させるなら、それでも別にいいのよ。
でも、そうじゃないからね。

小塚は久瑠美が提出した企画書を全く読まず、次々に雑用を命じる。久瑠美は激しく苛立ち、「なんでこんな意地悪するんですか」と反発する。それに対して小塚は「俺は(雑用が)面白いけどな」と言い、「そんな怒んなって、スマイル」と能天気に語り掛け、さらに久瑠美の怒りを買う。
もちろん、新入りなのに雑用を拒む久瑠美の態度にも問題はあるけど、じゃあ小塚が全て正しいのかというと、こっちにも大いに問題はある。
彼は企画書に目を通しているのだが、弥生が「なんで、これ(企画書)を見せてあげないんですか」と訊くと「今じゃねえかなってさ」と答える。
でも、企画書を読んでいることを内緒にして、何の意味があるのかと。それは間違った方法でカッコ付けてるだけにしか思えないのよ。

最初は与えられた仕事に不満を漏らしていた久瑠美が、自分の行動の過ちを悟る。ある出来事をきっかけに、グリーンランドでの仕事に遣り甲斐を感じるようになる。
そういう展開を描くのが、迷子が出た日のエピソードだ。
大まかな内容としては、何も間違っちゃいない。目的に対して、それを達成するための流れを用意してある。
でも細かい部分を見ていくと、間違いだらけなのだ。
だから結果として受ける印象が、「段取りは分かるけど全く腑に落ちないし、感動なんて皆無」ということになってしまうのだ。

具体的に言うと、「お化け屋敷の場所をカップルに教えることが出来ず、久瑠美が落ち込む」というシーン。
働き始めてから1ヶ月も経過しているんだよね。
それまで彼女は、1度も来園者から何か質問されることは無かったのか。だとすると、どんだけ来園者数が少ない施設なのかってことになるぞ。
あと、彼女は「企画事業部は企画を立てるのが仕事」と思っているんだから、それで落ち込む必要は無いはずだしね。
その出来事で落ち込むぐらいなら、もっと早い段階で自分の間違いに気付くでしょ。

小塚が「笑えるってことは、役に立てるってことだろ。俺たちがいるのは、そういう場所」などと語るシーンも、上手くないんだよね。
そこは「自分の間違いを悟って落ち込んでいる久瑠美に、小塚が自分たちの仕事を教える」という大事な場所であり、彼の言葉は重要な意味を持っている。見終わった後も心に残るような台詞であれば、それが望ましい。
でも、「ヒーロー役の自分が投げ飛ばされたけど、客に受けていたからOK。そういう場所」ってのは分かるけど、そこまでの小塚が「お客様に笑ってもらうための行動」を見せていたのかというと、そうじゃないからね。
「久瑠美が振り返ってみれば、フラフラしているだけに見えた彼の行動は全てお客様に笑ってもらうためのモノだった」ってことにならないからね。

小塚たちがアイドルグループの機嫌を取るため、夜遅くになってから乗り物を動かすエピソードがある。これを「感動的なエピソード」「小塚たちの素晴らしさを描くエピソード」として用意しているんだけど、「ホスピタリティーの捉え方を間違っている」としか思えない。
もちろん事情によっては、ルールを逸脱しても構わないとは思う。
だけどフライングモッチーに関しては、ただ「彼女たちの機嫌を取るためにマネージャーのワガママな要求を受け入れる」ってことでしかないのよ。
その程度の理由で夜遅くに乗り物を動かすのは、あまりにも軽すぎるわ。むしろ遊園地のスタッフとして、矜持が欠けているのかと言いたくなるわ。

俊郎は久瑠美がグリーンランドへ異動になった時、「大抜擢じゃん。我が東京ブリンスハイアットが誇る遊園地だよ」と言い、そこでの仕事について「いい経験になるよ」と勧めている。
久瑠美が不満を漏らすと、彼女を励ましたり、時には厳しく注意したりしている。でも会いに来た時にはグリーンランドを酷評し、東京へ帰って来るよう誘う。
一応は「遠距離がキツくなった」「前の久瑠美が好きだった」と話すけど、こいつの変節ぶりには無理がありすぎるぞ。
そんなことだから、前述したように俊郎は要らないと感じるのよ。

小塚を送り出すためのサプライズとして、久瑠美は作戦を考える。完全ネタバレを書くが、表向きはバルーンショーの企画で、その裏で時限爆弾騒ぎを起こすというドッキリを仕掛けるのだ。
まあ前半で同じドッキリがあるので、何となく気付く人も少なくないだろうけどね。
ただ、「簡単にネタバレするような仕掛け」ってことよりも、「やたらと時限爆弾騒ぎのドッキリを仕掛けたがる」というスタッフたちの意識が気になるわ。
そんなことを繰り返していたら、ホントに時限爆弾が仕掛けられた時にオオカミ少年みたいになっちゃう恐れがあるだろ。
そもそも、ハッピーなサプライズなら別にいいけど、そういう「マジで大勢の死を匂わせる不謹慎なドッキリ」を楽しそうにやっているのは、遊園地のスタッフとしてどうなのかと思うぞ。

(観賞日:2020年4月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会