『王妃の館』:2015、日本
パリへ向かう飛行機で眠っていた作家の北白川右京は、王妃が赤ん坊をバルコニーから落とす夢を見た。目を覚ました彼は、参加している豪華ツアーのコンダクターである朝霧玲子から声を掛けられた。ツアーの参加者は北白川の他に、OLの桜井香、実業家の金沢貫一、その恋人であるミチルの4名だ。パリに到着した一行はリムジンに乗り、宿泊場所であるシャトー・ドゥ・ラ・レーヌに到着した。日本語で「王妃の館」を意味するホテルで、ルイ13世がアン王妃に贈った邸宅をルイ14世が改装し、多くの著名人が宿泊している。
玲子から部屋の鍵を受け取った北白川は、執筆の準備を整えた。すぐに玲子が呼びに来て、一行はパリ観光へ出掛けた。一行がホテルを出た途端、従業員は一斉に各部屋の荷物を片付けた。しばらくすると、戸川光男がコンダクターを務める低価格ツアーの客がホテルに到着した。近藤誠、オカマのクレヨン、香取良夫と部下の早見りつ子、そして丹野二八という面々である。こちらは「昼間は部屋での時間を存分に楽しんでもらう」という名目で、夜になってからパリ観光へ出掛けるスケジュールとなっている。
低価格ツアーの一行に用意された3つの部屋は、豪華ツアーと全く同じである。201号室になった近藤は、相手が男性というので相部屋を了承したのに、クレヨンだったので困惑した。北白川の205号室を割り当てられたのは、香取&りつ子だ。2人は地図を広げ、北白川を見つけ出す強い意欲を示す。203号室の丹野は鞄から女性の写真を取り出し、「パリに着いたぞ。懐かしいだろ」と呟く。低価格ツアーの面々がホテルを出ると、従業員は一斉に荷物を片付け、豪華ツアーが来た時の状態に部屋を戻した。
北白川はツアーのスケジュールに従わず、ルーブル美術館へ行こうとする。玲子は困り顔で「他のお客様の迷惑になりますので」と言うが、北白川は無視して走り出した。慌ててツアーの面々が追い掛け、玲子はスタッフに頼んで入館を許可してもらった。北白川がルイ14世の肖像画を眺めていると、香が来て「この絵が見たかったんですか」と尋ねた。すると北白川は、「ルイはこんな顔じゃない。所詮は虚像。私が探しているのは、ルイの本当の顔ですからね」と言う。「どうして分かるんですか、あれが本当の顔じゃないって」と香が訊くと、彼は「ルイ14世は数え切れないほどの傷を負ったはずだ。それが、この絵からは少しも感じられない」と述べた。
低価格ツアーの面々は食堂で夕食を取り、戸川は客たちに自己紹介を促す。近藤は警察官、クレヨンは二丁目パブのスター、香取&りつ子は出版社勤務と話すが、丹野は名前しか言わなかった。旅行会社の経営者である玲子は部下の戸川を呼び出し、心配する彼に「この2つのツアー代金が無ければ、ウチは倒産する」と告げる。夕食の席に戻った玲子は北白川たちに「先程のようにハプニングはご遠慮ください」と言い、団体行動を乱さないよう求めた。
戸川は二件目の店で近藤から「何か隠してませんか」と問われ、強烈な不安を紛らすために酒を煽った。ホテルに戻った北白川は、廊下を歩いている内に作品のアイデアが浮かんだ。部屋に入った彼は、原稿に向かって執筆を開始した。王妃の館に住むディアナには、右脚を引きずる幼い息子のプティ・ルイがいた。ある日、ヴォージュの市場へ出掛けたルイは、道端に倒れているムノンという男に気付いて声を掛けた。太陽にやられて休んでいると話すムノンに、ルイは水を与えた。ルイの名前を聞いて、男は驚いた表情を見せた。
北白川がペンを走らせていると、香がスイーツの差し入れに現れた。北白川が執筆に没頭しているので、彼女はスイーツを置いて部屋を去った。翌朝、戸川が店で目を覚ますと、低価格ツアーの客は王妃の館に戻っていた。慌ててホテルへ戻った戸川は、客が豪華ツアーの客と遭遇していないことを知る。戸川に電話を掛けても応答が無かったため、玲子が機転を利かせて北白川たちを朝食クルーズへ連れ出していたのだ。
丹野はフランス人の男から「また荒稼ぎする気か」という電話を受け、「関係ないだろ」と告げた。彼は部屋に落ちていたネックレスを見つけ、戸川に知らせる。ちょうど近藤も部屋にカツラが落ちていたことで、戸川に抗議していた。ネックレスを調べた近藤は、カオリとアルファベットで刻まれているのを見つけた。近藤は「清掃係が何をするか確かめたい」と言い、観光に出掛ける予定をキャンセルする。戸川は何とか考えを変えてもらおうとするが、丹野もキャンセルを決めた。
戸川は娘の美雪から電話を受けた後、ツアー客を説得して何とか外へ連れ出した。玲子は金沢から、カツラを間違えたので取りに戻りたいと頼まれる。ミチルも化粧品を取りに帰りたいと言い出し、玲子は必死で2人を説得する。戸川はツアー客が夜にホテルへ戻ると、「ここのスイートルームは、夜は使えないんです。屋根裏の寝室に泊まって頂きます」と嘘をついた。客たちが抗議すると、「スイートルームは重要文化財なんです。保護のため、夜に寝ることは禁じられておりまして」と彼は適当な言い訳を用意した。まだ納得してもらえないので、フランス革命時の幽霊が出ると付け加えて承諾してもらった。
りつ子は屋根裏部屋に入ると、香取に「北白川先生って、ここまでするほど凄いんですか。最近は新作も出してないし」と質問する。彼女が「スランプって噂もありますよ」と言うと、香取は「スランプなんてのは二流作家の言い訳だ。先生は違う」と声を荒らげた。北白川がホテルを出て散歩していると、悪酔いしている近藤に声を掛けられた。クレヨンを傷付けたことへの悩みを吐露する彼に、北白川は本当の自分と正直に向き合うよう諭した。
アイデアが浮かんだ北白川は急いでホテルへ戻り、小説の続きを書き始めた。ルイが広場で同年代のオーギュストと仲間たちに虐められていると、ムノンが助けてくれた。ルイは「戦争ごっこをしていただけなんだ」と嘘をつき、「僕の足が悪くて、オーギュストたちみたいに速く走れないのがいけないんだ」と述べた。ムノンが「優しい子だ」と口にすると、ルイは「昨日の夜もママを悲しませてしまった」と言う。彼はムノンと家へ向かい、「またパパのことを訊いてしまった。毎日、夢を見るよ。いつかパパがママと僕を迎えに来てくれて、仲良く御飯を食べるんだ」と語る。ディアナはムノンを見ると、なぜ今になって現れたのかと問い掛けた。
ペンを置いた北白川は香の部屋へ行って一緒にお茶を飲み、学生時代からの恋人に婚約破棄されたこと、婚約破談金を使うためにツアーへ参加したことを聞かされた。彼のことが忘れられない香に、北白川は「女は記憶に化粧をして美しくなる。本気で愛し合った男と女なら、必ずそうなりますよ」と告げた。次の日、戸川は胃腸の痛みに苦しみながらツアー客をベルサイユへ案内する。一方、ロンシャン競馬場へ行く予定だった豪華ツアーの面々も、北白川の提案でベルサイユへ来ていた。
玲子は戸川と電話で話し、絶対に鉢合わせしないよう釘を刺した。鏡の回廊を見物した北白川は、無理に明るくしているのはルイ14世が闇を恐れたからではないか、この輝きは恐れの反動ではないかと考えた。強烈な下痢に耐えられなくなった戸川は、ツアー客に「ここを絶対に動かないで」と頼んでトイレへ行く。しかしツアー客は約束を守らず、自由行動を取った。玲子は低価格ツアーの面々に気付いて動揺し、トイレから戻った戸川を睨んだ。丹野だけが動かずに待っており、観光客とフランス語で話していた。戸川が再びトイレへ駆け込んだ後、丹野は退屈を口にする金沢&ミチルと遭遇する。丹野は2人に、「もっと面白い所を紹介しようか」と持ち掛けた。
北白川は食事を運ぶ面々を見て、アイデアを思い付いた。ムノンは宮廷調理人で、ルイ14世の命令を受けて2555もの献立を完成させた。ルイ14世はムノンに、「その中でも珠玉の料理を食したい」と告げた。するとムノンは、「陛下がお望みの方々とお食事をして頂きたく」と頼んだ。ムノンはディアナを訪ねて事情を説明し、ルイに「今日は贈り物を持参しました。太陽王の晩餐」と告げる。ムノンがディアナとルイに用意したのは、ルイ14世に出したのと同じ料理だった。その夜、父と母子は離れた場所で同じ料理を口にしたのである。
北白川がトイレで小説の続きをボイスレコーダーに吹き込んでいると、隣の個室に金沢が入って来た。彼は北白川に気付くと、ミチルにプロポーズしようと考えていることを打ち明けた。北白川は不安を抱く彼の相談を無視し、思い付いた文章を吹き込む。たが、それを助言だと誤解した金沢は、プロポーズを決意した。一方、戸川はツアー客から感謝されて泣き出し、教会へ赴く。北白川が無断で教会の懺悔室に入っているとも知らず、「信じてくれている人に嘘をついているので苦しい。でも嘘を守らないと、好きな人を苦しめちゃうことに」と戸川は吐露した。すると北白川は神父を装い、「本当に守りたい物を大切にして下さい」と説いた…。監督は橋本一、原作は浅田次郎(集英社文庫刊)、脚本は谷口純一郎&国井桂、製作総指揮は早河洋、製作は平城隆司&水谷晴夫&遠藤茂行&木下直哉&間宮登良松&福田浩幸&石川豊&山本晋也&浅井賢二&茨木政彦&樋泉実&笹栗哲朗&大辻茂、企画は長井富夫、エグゼクティブプロデューサーは林雄一郎、Co.エグゼクティブプロデューサーは新井麻実、プロデューサーは伊藤伴雄&遠藤英明&青柳貴之、アソシエイトプロデューサーは村上弓、撮影監督は会田正裕、美術は中澤克巳、助監督は井川浩哉、照明は泉田聖、編集は只野信也、録音は舛森強、VFXスーパーバイザーは戸枝誠憲、衣裳デザイナーは高橋正史、音楽は佐藤準、エンディング曲『PLAISIR D'AMOUR』唄は小野リサ。
出演は水谷豊、田中麗奈、吹石一恵、尾上寛之、青木崇高、中村倫也、安達祐実、緒形直人、石橋蓮司、石丸幹二、山田瑛瑠、安田成美、井之上隆志、菊池銀河、山中崇史、野口かおる、大川春菜、魏涼子、川先宏美、磯部泰宏、上原剛史、加藤楷翔、藤井基ら。
浅田次郎の同名小説を基にした作品。
監督は『臨場 劇場版』『相棒シリーズ X DAY』の橋本一。
脚本は『能登の花ヨメ』の谷口純一郎と国井桂による共同。
北白川&ムノンを水谷豊、玲子を田中麗奈、香を吹石一恵、戸川を尾上寛之、近藤を青木崇高、クレヨンを中村倫也、ミチルを安達祐実、金沢を緒形直人、丹野を石橋蓮司、ルイ14世を石丸幹二、プティ・ルイを山田瑛瑠、ディアナを安田成美、侍従長を井之上隆志、オーギュストを菊池銀河が演じている。TVドラマ『相棒』が高視聴率を記録して何シーズンも続くロングシリーズになったことで、テレビ朝日は主演俳優である水谷豊の御機嫌を取るための接待映画を製作するようになった。
2012年の『HOME 愛しの座敷わらし』、2013年の『少年H』、そして本作品である。
前の2本は、決して興行成績が良かったわけではない。しかしテレビ朝日からすると、『相棒』シリーズは局の看板とも言える人気ドラマなので、主演俳優にヘソを曲げられては困る。
なので、もちろんヒットした方が望ましいことは確かだが、「水谷豊の望む企画を映画化する」という目的さえ果たせば、それで一応の条件はクリアしているのである。まず最初に感じるのが、「その導入部はホントに正解だったのか」ってことだ。
最初に夢を見ている北白川を登場させるのだから、こいつが主役だと観客が思うのは当然だろう。っていうか水谷豊が演じているんだから、もちろん主役に決まっている。
しかしホテルに到着すると、ツアーの面々を紹介する手順に入る。一行が去ると、今度は低価格ツアーの面々を紹介する手順になる。
最初に主要キャストを紹介しておくってのは、普通であれば間違っちゃいない手順だ。しかし本作品の場合、水谷豊を接待するための企画であり、言ってみりゃ水谷豊のスター映画だ。
だから、「とにかく水谷豊を目立たせる、際立たせる」ってことを第一に考えるべきなのだ。そもそも水谷豊だって、独自のアイデアで髪型や派手な服装を用意し、「いかにも風変わりで目立つキャラクター」として北白川の外見を造形している。
そんな特異な見た目にしてあるんだから、「そいつだけが特別である」ってことを重視すべきであって。
この映画のような導入部でも北白川が主人公であることは伝わるが、水谷豊のスター映画としては全くアピールが足りていない。
主要キャストの紹介パートより先に、「北白川の特異性」を示すためのシーンを用意した方がいい。それぞれのツアーが観光に出掛けた後も、やはり「北白川だけをダントツで目立たせる」という意識は乏しい。相変わらず、他の面々の様子も並行して描く。
「玲子と戸川が会社の倒産を回避するために仕掛けた作戦」ってことが明らかになる中、北白川は他の面々より少し目立つ程度の扱いだ。
そもそもの問題として、主要キャストが多すぎるという問題を感じる。
これが「物語が進む中で少しずつ登場したり出入りしたりする」という形なら、それほど問題は大きくない。しかし最初の時点で「2つのツアーの客たち&コンダクター」が一斉に登場し、そのまま全員が出ずっぱりで話が進むので、「北白川が主人公」という形を取るには厄介なことになってしまう。とは言え、その部分を変えようとすると話の根幹が変わってしまうので、さすがに「ツアーを片方だけにする」ってことは出来ない。2つのツアーが並行して進む形は、絶対に改変できない。
ではツアー客の人数を減らせるかと考えると、これも難しい。ツアーなのに、2人や3人ってのは変だろう。
それに人数が少なかったら、玲子の会社の倒産を回避するための資金も調達できないだろうし。
そうなると、そこの問題を解決するのは、容易ではない。
正直に言って、私には何もアイデアが思い付かない。玲子と戸川は互いのツアー客が顔を合わせて計画が露呈することを避けるために、色々と対策を講じる。ピンチが訪れてハラハラしたり、その場で上手く誤魔化して切り抜けたりする。
例えば戸川は酒を飲み過ぎ、その間にツアー客はホテルへ戻ってしまう。そのことで戸川は焦るが、玲子の機転でピンチを脱出する。
この2人が主役であれば、それで何の問題も無い。しかし繰り返しになるが、この話は北白川が主人公のはずだ。
それなのに、北白川が全く関与していない所で「戸川のミスでピンチが発生し、彼がハラハラし、玲子の機転でピンチを脱出する」という展開を用意するのは、焦点がズレているとしか思えない。基本的に、この話は「マイペースな北白川に玲子と戸川が翻弄され、アタフタしながら何とか対処する」という形を取るべきじゃないかと思うのだ。
低価格ツアーに北白川を関与させるのは難しいかもしれないけど、それでも何とかしなきゃダメよ。
セレブツアーの方は何の問題も無く「北白川に振り回される」という形を取れるのだが、それはルーブル美術館とベルサイユのシーンだけ。ルーブルの後には「金沢とミチルがホテルに帰りたいと言い出す」という手順があり、そこでは北白川が単なる傍観者になってしまう。
そういうの、全く要らないからね。もうね、極端なことを言っちゃうと、北白川を覗く面々は全て「凡庸な人々」でも構わないぐらいなのよ。そして、北白川の言動に対するリアクターとして使えばいい。
ある者は玲子と同様に振り回され、ある者は怒りを覚え、ある者は共鳴する。そのように、とにかく北白川を中心とする相関関係を構築すべきなのだ。
それなのに、そもそも「玲子が北白川に振り回される」という部分からして徹底されていない。
船上で急に北白川がフランス語を喋り始めた時、すぐに玲子が落ち着き払って次の台詞を言うとか、そういうのもアプローチとして完全に間違い。玲子は徹底して「北白川に困らされる」という役回りを担うべきなのだ。中盤辺りからは、「近藤の悩みが北白川の言葉で解決される」とか、「婚約破棄した相手を忘れられない香に北白川が助言を与える」とか、「北白川の音声記録を助言だと誤解した金沢がプロポーズを決意する」とか、様々な形で北白川が周囲の面々と絡む展開が用意されている。
でも、そういう「人生の指南役」という役回りだけを担当するにしては、まず登場した時の見た目のインパクトが強すぎる。
もう1つの問題として、「だったら最初に主人公として登場させるのは望ましくない」ってこともある。
あくまでも「ツアー客の1人」として登場させ、控えめにしておいた方がいい。ただし、北白川だけは「アイデアを思い付いて小説を執筆する」という手順を何度も与えられており、やっぱり主人公として目立たせようという意識はあるので、そうなると単なる人生の指南役だけではバランスが悪い。
前述したように、マイペースで周囲を振り回す役目も担当させた方がいいはずだ。 それを描いた上で、指南役も兼任するってことなら分かるんだけどね。
小説を執筆する時以外は他の面々と同じ程度の扱いで、でも人生の指南役を務めるってのは、扱いとして上手くないんじゃないかと。そもそも、前半は何の兆しも無く、後半に入ると「北白川の言葉が周囲の人々を救う」という展開が立て続けに起きるので、計算が下手なのかと思っちゃうぞ。
それと、エピソードの中で、北白川が自らの意志で助言するケースと、勝手に助言と誤解されるケースが混在しているのは統一感が無いと感じる。
あと根本的な問題として、北白川の助言で人々の考え方や行動が変化するエピソードは、どれも魅力的じゃないのよね。
そこは本来なら、笑いが一切無かったとしても、心地良くなるような内容になっているべきでしょ。でも、まあ面白くないのよ。
意外性がゼロなのはいいとしても、予定調和のドラマとしての質も著しく低いわ。この映画、2つのツアーが並行して進むだけでなく、北白川が執筆する小説の内容が映像化される劇中劇を含む構成になっている。その劇中劇では主要キャストを日本人が担当し、日本語の台詞によって演じられる。
その時点で陳腐な印象が強いが(コメディーであっても、そういう問題ではない陳腐さに包まれている)、それよりも深刻なのは「まるで面白くない」ってことだ。
北白川の新作小説なんだから、それは面白くなきゃマズいはずでしょ。
でも、何をどう楽しめばいいのかサッパリ分からない凡庸な話なのだ。そして劇中劇は陳腐だとか面白くないというだけでなく、さらに他の問題も抱えている。
それは、「現実パートと全く関連性が無い」ってことだ。なので、そこをバッサリと削っても、何の支障も無いのである。むしろ、その方が間違いなくスッキリした構成になるのである。
水谷豊がムノンを演じているが、何しろ現実パートとリンクしていないので、「だから何なのか」という感想しか沸かない。現実パートでは北白川や玲子がルイ14世について講釈を垂れるシーンが何度もあるが、それによって劇中劇との連携が成立しているわけではない。
そもそも北白川たちの講釈からして、ただ退屈なだけで「だから何なのか」という感想だし。終盤、策略が露呈した玲子を落ち着かせた北白川はアイデアを思い付き、急いで部屋に戻って執筆を再開する。それはいいとして、なんで他の面々も部屋へ同行し、原稿を回し読みするのかサッパリ分からない。無理があり過ぎだろ。
それと、北白川が書いた最後の劇中劇はミュージカル形式になるのだが(踊りは無くて子供たちと群衆が歌うだけ)、ただ唐突なだけであり、『レ・ミゼラブル』の下手な模倣にしか感じない。
おまけに、せっかく石丸幹二を起用しておきながら歌わせないという愚かしさ。劇中劇がエンディングを迎えるとツアーの面々が感涙している様子が写るけど、こっちの気持ちは逆に冷める。
そんな風に諸々を考えていくと、「そもそも水谷豊のスター映画として、この企画は正解だったのか」という疑問さえ湧いて来るのよね。
だけど、なんせ水谷豊の希望で実現した映画なので、そりゃあ仕方が無いわなあ。(観賞日:2016年10月17日)