『ヲタクに恋は難しい』:2020、日本
株式会社『ロケッツ』に中途採用で就職した桃瀬成海は、同僚の森田悠季たちと一緒に上司である石山邦雄のレクチャーを受講した。彼女がレクチャーを終えて悠季と歩いていると、向こうから幼馴染の二藤宏嵩が同僚の坂元真司と一緒に現れた。成海は同じ会社と知って驚き、慌てて取り繕う。彼女が早々に去ろうとすると、宏嵩は「まだコミケとか言ってんの?」と問い掛けた。成海は悠季からコミケについて質問され、必死で誤魔化した。彼女は宏嵩の元へ行き、夜に会う約束を取り付けた。
その夜、成海は宏嵩と居酒屋で会い、自分がオタクであることを会社では内緒にするよう要求した。「もしバラしたにゲームオタクを公表する」と成海は脅すが、宏嵩は「隠してるつもりも無いし」と気にする様子も無かった。成海は前の会社で付き合っていた同僚にオタクがバレて、振られてしまった。おまけに元カレが腐女子だと社内で言いふらしたため、居辛くなって辞職していた。オタクの生き辛さを吐露する成海に、宏嵩は自分と付き合うよう提案した。互いにオタクなら何かと便利だと言われ、成海はOKした。
しかし成海は悠季から宏嵩と付き合っているのかと問われ、ただの幼馴染だと告げる。悠季が宏嵩に好意を持っていることを話すと、成海は付き合っていないと断言した。一方、宏嵩は声優アイドルオタクの坂元から成海と付き合っているのか問われると、「はい」と即答した。成海に避けられていると気付いた宏嵩は、逃げる彼女を追い掛けて「ゴメン、好きだなんて言うんじゃなかった」と告げる。その瞬間、2人とも「言われていない」「言っていない」と気付く。成海は宏嵩に抱き付き、嬉しい気持ちを素直に伝えた。
宏嵩は成海の部屋を訪れ、オタク封印縛りデートを提案した。オタクを隠すための訓練だと言われ、成海は渋々ながらも承知した。2人は渋谷でデートするが、成海は気が緩んで何度もオタク的な言葉を口にしてしまった。宏嵩がオタ禁デート終了を宣言すると、彼女は安堵してオタクとしての妄想を吐き出した。宏嵩は家に戻ってゲームをやる気分になれず、バーに入った。すると先輩の小柳花子が、大きな荷物を置いて飲んでいた。宏嵩が何をやっていたのか尋ねると、彼女は「色々よ」と詳しく語ることを避けた。
宏嵩は花子に、恋人の趣味を隠したり抑え付けたりするのは悪いことだろうかと相談する。彼が「彼女のためにやったことだが、正しいかどうか分からなくなった」と漏らすと、花子は「彼女に趣味があるなら、その趣味ごと愛してやるぐらいの度量は無いわけ?」と激怒した。宏嵩は成海がコミケに出す同人誌を完成させていないと知り、作業を手伝った。コミケの当日、成海のブースには多くのファンが訪れ、彼女は喜んだ。成海が買い物に出る間、宏嵩は売り子を引き受けた。すると「イケメンがBL18禁を売っている」という噂が広まり、大勢の女性が行列を作った。
数日後の金曜、宏嵩は成海を自宅デートに誘った。深い関係を求められるのではないかと緊張していた成海だが、宏嵩はゲームに誘った。成海はゲームに没頭するが、不意に宏嵩からキスされて狼狽した。その一件以来、2人の間は何となくギクシャクするようになる。そんな中、成海は石山から、ハワイでの商品撮影に雑用係として同行するよう命じられた。彼女は宏嵩に「相談したいことがある」とメールを送るが、「しばらく忙しい」と返信が来る。成海は社内を捜すが、どこにも宏嵩の姿は見当たらなかった。成海はプロジェクトのチーフである樺倉太郎から、「仕事の邪魔だけはすんなよ」と鋭く睨まれた。
成海が居酒屋での打ち合わせに参加すると、出発前までの手伝いを担当する坂元も来ていた。彼女は別テーブルにオタク仲間の未来たちがコスプレ姿で集まっているのを見つけ、興奮して写真を撮った。仲間に教えられて樺倉たちの視線に気付いた成海は、慌てて打ち合わせに戻った。樺倉に「知り合いか」と訊かれた彼女は、即座に否定した。最寄駅が一緒だったため、成海は樺倉と同じ列車に乗る羽目になった。会話に困った成海が恋人について尋ねると、樺倉は「喧嘩してしばらく会ってない」と答えた。
樺倉は成海に一杯だけ付き合うよう要求し、缶チューハイを買ってビル屋上へ連れて行った。しかし彼は何本も飲んで悪酔いし、恋人への不満を吐露する。樺倉は泣きながら、大概のことは許しているのに一言だけで恋人が腹を立てたことを語った。翌日からプロジェクトの仕事が始まるが、成海はミスを重ねて樺倉に叱責される。しかし少しずつ仕事に慣れて行き、樺倉も彼女を認めるようになった。そんな中、ようやく宏嵩からメールが入り、成海はクラブチッタ川崎に呼び出される…。脚本・監督は福田雄一、原作は ふじた「ヲタクに恋は難しい」(一迅社)、製作は石原隆&野内雅宏&堀義貴&市川南、プロデューサーは若松央樹、撮影監督は工藤哲也、撮影は鈴木靖之、美術は遠藤善人、照明は藤田貴路、録音は柿澤潔、編集は臼杵恵理、アソシエイトプロデューサーは片山怜子、ラインプロデューサーは鈴木大造、ミュージカル作曲は鷺巣詩郎、作詞は及川眠子&藤林聖子&福田雄一、振付は上島雪夫&HIDALI、劇伴音楽は瀬川英史&日向萌&酒井麻由佳、音楽プロデューサーは溝呂木友子。
出演は高畑充希、山ア賢人、斎藤工、菜々緒、賀来賢人、今田美桜、若月佑美、佐藤二朗、ムロツヨシ、真凛、鈴木咲、大坂美優、生越千晴、木島杏奈、峯石桃花、内田真礼、三宅晴佳、大水洋介(ラバーガール)、飛永翼(ラバーガール)、コーシロー、山本亜依、加藤里保菜、山本文香、黒木ひかり、鹿野祥平、蕪崎俊平、江口大輔、天城サリー、海乃るり、倉岡水巴、西條和、白沢かなえ、涼花萌、高辻麗、武田愛奈、花川芽衣、帆風千春、宮瀬玲奈ら。
ふじたによる同名漫画を基にした作品。原作の第1巻の内容を映画化している。
脚本&監督は『斉木楠雄のΨ難』『50回目のファーストキス』の福田雄一。
ミュージカル・パートの作詞も及川眠子&藤林聖子と共同で担当している。
成海を高畑充希、宏嵩を山ア賢人、樺倉を斎藤工、花子を菜々緒、坂元を賀来賢人、悠季を今田美桜、未来を若月佑美が演じている。
内田真礼と三宅晴佳が、本人役で出演している。佐藤二朗が石山役、ムロツヨシがバーのマスター役で出演している。佐藤二朗がレクチャーする様子から映画をスタートさせているが、これが福田雄一作品ってことをアピールするにはいいだろう。
しかし、「人気漫画の映画化」として考えると、最悪と言ってもいいぐらいだ。福田雄一が原作への愛やリスペクトではなく「俺の映画」ってことを、佐藤二朗というランドマークを使ってアピールしているけだからね。
そのシーンはストーリー展開だけ考えれば必要性など無く、単に佐藤二朗のショーケースになっているし。
でも福田雄一に任せた時点で、それは覚悟しなきゃいけないことだ。本来ならば、成海は「いつもはオタクを隠して普通のOLとして暮らしているが、趣味の話題になると熱が入ってヤバくなる」という人物であるべきだろう。
ところが彼女は普段から言動が変で、オタクじゃなくても「非モテのヤバそうな奴」になっている。それはキャラ造形としてダメだろ。
一方、宏嵩は「オタクの上に無愛想だからモテない」と言われているけど、イケメンなんだからオタクであろうと絶対にモテるだろ。
しかもゲームオタクって、そんなに気持ち悪いとか言われがちなオタクでもないし。成海は「コミケに行っているのか」と問われているので、アニメか漫画のオタクなんだろうってのは何となく分かる。宏嵩は居酒屋で成海とゲームをしているし、ゲームオタクってのは導入部で示されている。
でも、そこのアピールが弱い。オタクにも色々あるわけで、もっと具体的な情報を序盤で出しておくべきだ。
成海に関しては、オタクとして何かを愛でたり集めたりしている様子も無い。宏嵩に関しては、「廃人寸前のゲームオタク」と成海が言っているけど、そこまで異常な熱があるようには全く見えないし。
まずは「2人が重度のオタク」ってことをハッキリと示してから話を始めることが何よりも重要なのに、そこの作業が弱い。オタクに対する感覚が、かなり古いんじゃないかと感じる。成海や宏嵩の言動に、「いつの時代だよ」とツッコミを入れたくなってしまう。
これが「あえて本人たちがネタとしてやっている」ってことならともかく、そういうわけでもないんだよね。もちろん誇張はあってもいいと思うが、その感覚にズレを感じる。
あと、明らかにオタクを馬鹿にしてるよね。馬鹿にして笑いを取ろうとするのは福田作品の特徴だけど、この映画でオタクを馬鹿にするって絶対にやっちゃいけないことでしょ。オタクが自虐するならともかく、非オタクがオタクを馬鹿にするってのはアウト。
この映画って、オタクに対する愛や優しさが皆無なんだよね。成海が宏嵩から交際を提案されて採用すると、バックダンサーが登場してミュージカル・シーンになる。それはオープニングだけでなく、これはミュージカル映画なのだ。
でも、ミュージカル映画として作る意味や必要性を全く感じない。普通にラブコメで良くないか。あまり作品の内容との親和性も感じないし。
あえてミュージカルにする意味を探すなら、「高畑充希の持ち味を活かす」ってことが挙げられる。
でも、それなら周囲のメンツもミュージカル向きの俳優を揃えるべきだろう。最初のミュージカル・シーンで、宏嵩は成海と並んで踊るが、ずっと無愛想なままだ。
それは彼のキャラクターを考えると、何も間違っていない。
ただ、映画の導入部であること、1発目のミュージカル・シーンであることを考えると、「楽しく明るくワクワクさせてくれる」という内容の方が望ましいので、つまらなそうに踊る姿は邪魔だ。
なので、彼は踊りに参加させなくても良かったんじゃないか。そして、「無愛想だった宏嵩が少しずつ変化し、ラストのミュージカルでは笑顔で踊る」という流れにでもすれば良かったのでは。坂元は宏嵩から声優オタクと言われると、「声優アイドルオタク」と訂正する。
でも、いわゆる「声優アイドル」と呼ばれるような声優を応援している人が、「声優アイドルオタク」と自覚しているものかと疑問を覚える。むしろ、「声優アイドル」という呼び方を否定したくなるんじゃないかと。
あと、そういう人って声優全般を好きなケースが多いだろうし。
しかも、『ラブライブ!』のμ'sみたいなグループのファンならともかく、坂元の推しって内田真礼なのよ。それで声優アイドルオタクを自称しているのは、かなり引っ掛かる。成海が宏嵩から交際を提案されて迷わず「採用」と答えたのは、「互いに便利だから」という説明に納得したのが理由のはずだ。
それを考えれば、宏嵩から自分への恋心を打ち明けられたら激しく驚くはずだ。そもそも、彼女が宏嵩に惚れているかどうかも、その時点では明確に示していなかったし。
なので、それまでの彼女からすると、狼狽して変な言動を取ってしまってもおかしくない。
ところが、その時だけは落ち着いて冷静に行動し、すぐに抱き付いて素直な気持ちを吐露している。
それはキャラの動かし方として変だろ。成海は宏嵩から交際を提案された時、喜んでOKしていた。それなのに、悠季から質問されると交際を否定する。それは流れとして変だ。
そこで否定するなら、宏嵩との交際をOKする意味が無い。今まで通り、幼馴染の親友ってことでも、そんなに状況は変わらないでしょ。
あと、交際をOKしてから、成海と宏嵩が恋人として行動するシーンが何も無い内に「交際を否定する」という手順に入るのも上手くない。
幾つかの手順を飛ばしているように感じる。オタクの情報が、ものすごく浅い。薄っぺらい表面を適当になぞっているような感じだ。マニアックな部分に、ちっとも入っていかない。
実在する作品名とか、スタッフの個人名とか、キャラクターの名前とか、ほとんど出て来ないんだよね。「梶裕貴」とか「FGO」といった言葉はあるけど、ホントに申し訳程度。
一方、成海がオタクとして早口で喋るシーンでは、ニコニコ動画のように画面上を大量の文字が流れる演出になっている。でも、その感覚が古臭い。
文字を入れるんだったら、オタク用語が出た時に注釈を出すような演出の方がいいんじゃないか。「FGO」とか、説明無しだと何のことやらサッパリでしょ。成海がゲームオタクっぽいことを言ったり、宏嵩がアニメオタクっぽいことを言ったりするシーンがあるが、これはダメでしょ。
そりゃあ、アニオタだけどゲームも好きだとか、ゲーオタだけどアニメも好きだとか、そういうケースは幾らでもあると思うよ。でもネタとしては、そこの住み分けをハッキリとやっておいた方がいい。
そうじゃないと、せっかく用意したカテゴライズとしての趣向がブレちゃうでしょ。境界線はクッキリと付けた方がいいでしょ。
そんな風に思っていたら、自宅デートに誘った時に宏嵩は「アニメはジャンル外」と言っている。だけど、ジャンル外の奴がエヴァのパロディーを自らやるのは整合性が取れないだろうに。成海はオタク封印縛りデートの最中、カップを選ぶ時に「この2つが推しカップなんだけど、この子も救いたいと思って」と饒舌に話し、宏嵩から「オタク的な発言」として罰金を通告される。
でも、それってオタク的な発言ってことじゃなくて、ただ単に変わった奴ってだけでしょ。アニメオタクが何でもかんでも擬人化するわけじゃないでしょ。
あと、男子2人が仲良くしているのを見た成海がヤオイ的な妄想を膨らませるけど、なんか「アニオタ」というより「腐女子」としてのアピールが強すぎて、ここも違和感なんだよな。
なんか成海って、いわゆる「アニメオタク」とは少し違う人種に見えちゃうのよね。宏嵩はオタ禁デートを終えた後、1人でバーに立ち寄る。
でも、いつもは日曜になると家に引き篭もってゲーム三昧の奴が、幾らゲームをやりたい気分になれないからと言って、初めてバーに立ち寄るような行動を取るのは無理があるだろ。バーの『John Doe』という店名も、ゲームオタクが食い付くようなネーミングってわけではないし。
しかも、そこまで無理をして「宏嵩がバーに立ち寄る」という展開を用意する意味がどこにあるのかと考えると、何も無いのよ。
彼が花子と会うのは、バーじゃなくてもいいんだし。宏嵩が「恋人の趣味を隠そうとするのは彼女のためだったが、正しいかどうか分からなくなった」と漏らすと、花子は「彼女に趣味があるなら、その趣味ごと愛してやるぐらいの度量は無いわけ?」と怒る。
でも、それは論点が完全にズレている。
宏嵩は成海の趣味をちゃんと理解しているし、アニメオタクみたいなエヴァのネタをやったりしている。宏嵩が成海にオタ禁デートを提案したのは、会社でバレることを恐れる彼女に練習を積ませるためだ。
なので宏嵩は花子に「そういうことじゃなくて」と説明すべきなのに、なぜか納得してしまう。
いや、おかしいだろ。そのやり取りが終わると、バーでのミュージカル・シーンが始まる。
ここは劇中に用意されているミュージカル・シーンの中で、ダントツに要らない。ムロツヨシから歌い始めるのも違うし、それを抜きにしても邪魔なだけだし。
っていうか佐藤二朗も邪魔だけど、ムロツヨシはもっと邪魔だわ。
あと、純粋にミュージカルとしてのレベルが低いし、ただの悪ふざけにしか思えない。「私の先祖はツタ」といった歌詞の内容も、ただの悪ふざけ。成海はコミケに出す同人誌を作っている最中に転寝し、自分が『モンハン』的なゲーム世界に入り込む夢を見る。 でも、なんでゲーオタ的な夢を見てるんだよ。そこは絶対にアニオタとしての夢を見なきゃダメだろ。
で、そのコミケ当日に宏嵩はイケメンとして噂が広まって大勢の女性が行列を作るけど、ってことは彼がモテない男ってのは成海だけの意見だったのね。
いや、そりゃあ宏嵩がモテ男なのは、演者が山ア賢人ってことを考えりゃ正解なのよ。ただ、それなら彼がコミケのブースで初めてモテモテになるのは変でしょ。会社でも女性社員からモテてないと筋が通らないでしょ。
まさかゲームオタクを隠していないからモテないってことでもないでしょうに。樺倉は成海に恋人への不満を吐露した後、唐突に「踊るぞ」と言ってタップを踏む。そして一緒に踊るよう成海を誘い、そこから2人がデュエットする。
まあ全体を通して言えることではあるのだが、その中でも特にミュージカル・シーンへの入り方が強引で下手すぎるわ。
どうやら、ここは『ラ・ラ・ランド』を意識したシーンらしいが、オマージュにもパロディーにもなっていない。
そもそも、成海と樺倉はカップルでも何でもないんだから、そこで恋人同士のようなデュエットをさせているのも違うだろ。ストーリー進行を考えると、ミュージカル・シーンは全く必要性が無い。全てのミュージカル・シーンが、ただ場面転換のためだけの時間になっている。
ドラマ・パートで描いていない登場人物の心情を歌で伝えるとか、人間関係を歌によって変化させるとか、そういう使い方はしていない。
「オタク同士の恋愛劇」は「ミュージカル」が最後まで融合していないし、ミュージカル部分が邪魔でしかない。
福田監督が『ラ・ラ・ランド』を見て「あんなのを俺も撮りたい」と思っていて、そこに本作品の企画が入って来たので、利用しただけじゃないかと邪推したくなるわ。(観賞日:2021年6月30日)