『映画「おそ松さん」』:2022、日本

おそ松、カラ松、チョロ松、一松、十四松、トド松は、松代と松造の間に生まれた松野家の6つ子である。彼らはクズで童貞でニートで、その日は新台目当てで朝からパチンコ店の列に並んだ。そこへトト子が通り掛かったので彼らはデートに誘うが、罵声を浴びせられた。6つ子は順番待ちを巡って言い争いになり、おそ松は話の流れで店の前に排便しようとする。そこへ店員が現れ、6つ子は殴られて追い払われた。おそ松は弟たちから非難され、チビ太のおでん屋で酒を飲んで荒れた。イヤミが来ると、彼は暴力を振るった。そこへ弟たちが現れて謝罪し、6つ子は仲直りした。
カラ松たちは先に帰宅し、おそ松は高級車を見つけて小便を浴びせた。そこに車の持ち主である老夫妻が現れたので、おそ松は慌てて弁明しようとする。彼の顔を見た夫妻は、驚いた表情で「善松」と口にした。おそ松は家に戻ると、「明日から社長の養子になる」と偉そうな態度を示した。老紳士の大金田時男は、世界的大企業であるアプリコッツの社長だった。老夫妻は20年前に一人息子の善松を交通事故で亡くしており、おそ松が瓜二つなので養子に迎えると言い出したのだった。
話を聞いたカラ松たちは、「顔が同じだから養子になるのは自分たちでもいいはずだ」と気付いた。おそ松が焦って家を飛び出そうとすると、カラ松たちが捕まえた。そこへ老夫妻が訪ねて来ると、6つ子は自分を売り込もうとして争いになった。松代と松造が好きな息子を連れて行くよう促すと、老夫妻は「考え直させてもらう」と言う。そこへトト子が現れ、「やれば出来る子なんです」と6つ子を擁護するトト子は玉の輿を狙って6つ子を売り込んだのだが、老夫妻は「しばらく頑張りを見て1人を選ぶ」と決めた。
おそ松は東大に入るため、図書館で猛勉強を始めた。カラ松は最強の男を目指し、肉体の鍛錬に励んだ。チョロ松はリアル女子と話して、大人の振る舞いを身に付けようと考えた。一松は就職することが大事だと考え、会社の面接を受けた。トド松は人脈を使い、起業することにした。十四松は海外に渡ってメジャーリーガーになるため、たくさんのバットを集めた。おそ松はトト子に話し掛けられても、勉強の手を止めなかった。彼はトト子に、「一人ぼっちになる役目は、長男が引き受けた方がいいんじゃないかって」と話した。
おそ松は図書館で本を手に取ろうとした時、ハルという少女と知り合った。チョロ松はホストクラブで働き、ナンバー1になった。面接で落ちた一松は黒服の男から招待状を渡され、「本気で人生を変えたいのなら」と告げられた。チョロ松は鬼頭組幹部のレイジと、兄弟分の盃を交わした。ハルは通っている予備校の参考書をおそ松にプレゼントし、受験しないことを明かした。チョロ松は店に誘おうとハルに声を掛けるが、「時間は、もっと人に誇れるように使いなよ」と言われて本気で恋をした。
一松が招待状に書かれていた会場に行くと、大勢の男たちが集まっていた。そこに現れたのは幸福金融を起業したトド松で、「これから皆さんには殺し合いをして頂きます」と告げた。カラ松はニューヨークのアパートで目を覚ますが、記憶を失っていた。そこにブロンド女が来て、砂浜に倒れていたことを教えた。鞄を探ったカラ松はCIAの身分証を見つけ、それが自分だと思い込んだ。十四松はタイムスリップし、農村の人々から用心棒として雇われた。カラ松は女からCIAの身分証が夫の物だと言われても理解せず、部屋を去った。
トト子、イヤミ、チビ太は物語の収拾が付かなくなり、頭を抱えた。3人は互いを罵り、喧嘩になった。そこへ物語終わらせ師のエンド、クローズ、ピリオドが現れ、6つ子が迷い込んで抜け出せなくなった話を終わらせると約束した。トド松が参加者に殺人ブラックジャックを始めさせようとすると、エンドは「以前にゲームに参加したことがある謎の老人」として話に介入した。カラ松は詐欺師のオータムが集めた犯罪チームに参加するが、ピリオドが「因縁のあるラスボス」として名乗り出た。
おそ松はハルに声を掛けられずにいるチョロ松に気付き、「恋から逃げてるだけだ」と指摘する。そこへクローズが「恋敵だけど親友」として現れ、彼らを後日談の世界に引き込もうとする。しかしおそ松には通用せず、チョロ松は勇気を貰って「ここからが試合開始だぜ」と告げた。エンドは一松たちに、全員で手を組めば殺し合う必要は無いと説いた。トド松が最強のデッキを見せると、エンドは身分を隠した会長として振舞う。彼はルール違反を指摘し、一松の勝利を宣告した。しかし一松は納得せず、ゲームを続けるようトド松に要求した。トド松は承諾し、次のゲームとして地獄ポーカーを用意した。
カラ松は格闘でピリオドを倒し、パスワードを入力して次元爆破スイッチを解除した。ピリオドは敗北を認め、国に帰るよう促す。カラ松がピリオドが抱える個人的な事情を詳しく知りたがり、何度も質問を重ねた。何とか話を終わらせようとするピリオドだが、カラ松は日本に戻らずニューヨークに留まることを決めた。おそ松がハルと話していると、クローズが来て後日談を始めようとする。しかしチョロ松が現れ、作戦は失敗に終わった。
クローズは「誰かが作った話」に持ち込もうとするが、おそ松に阻止された。ハルが走り去ったので、チョロ松は慌てて追いかけようとする。クローズはチンピラとして彼の腹をナイフで刺し、物語を終わらせようとするが、これも失敗に終わった。彼はおそ松とチョロ松を殴って昏倒させ、強引に終わらせようとする。ところが、おそ松がハルと図書館で出会う場面に戻り、ループ物に突入してしまう。エンドは夢オチに持ち込もうとするが、失敗に終わった。彼は一松をゲームで勝利させ、物語は終わるはずだった。しかしカラ松やピリオドたちが犯罪グループとして会場に乱入し、激しく暴れる。物語終わらせ師の3名前、いつの間にか物語に入り込んでしまう…。

監督は英勉、原作は赤塚不二夫『おそ松くん』、脚本は土屋亮一、製作は勝股英夫&藤島ジュリーK.&市原高明&本間道幸&松岡宏泰&藤田浩幸&赤塚りえ子、企画・プロデュースは菅原大樹、エグゼクティブプロデューサーは西山剛史&和田佳恵、プロデューサーは柳原雅美&宇田充&甘木モリオ、撮影は小松高志、美術は金勝浩一&乙竹恭慶、照明は蒔苗友一郎、録音は照井康政、VFXスーパーバイザーは村上優悦、編集は相良直一郎、音楽は橋本由香利、主題歌はSnow Man『ブラザービート』。
出演は向井康二(Snow Man)、岩本照(Snow Man)、目黒蓮(Snow Man)、深澤辰哉(Snow Man)、佐久間大介(Snow Man)、ラウール(Snow Man)、渡辺翔太(Snow Man)、阿部亮平(Snow Man)、宮舘涼太(Snow Man)、橋ひかる、前川泰之、桜田ひより、加藤諒、濱田マリ、光石研、榎木孝明、南果歩、栗原類、八木莉可子、厚切りジェイソン、忍成修吾、石あかり、城後光義、増田修一朗、中村祐志、宮下かな子、前川和也、山内昭宏、井頭愛海、師岡広明、斧口智彦、伊藤風喜、善積元、徳永達哉、廻飛呂男、春木生、森島律斗ら。
声の出演は櫻井孝宏、中村悠一、神谷浩史、福山潤、小野大輔、入野自由。


赤塚不二夫の漫画『おそ松くん』を基にしたTVアニメ『おそ松さん』の実写版。
監督は『賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』『東京リベンジャーズ』の英勉。劇団「シベリア少女鉄道」代表の土屋亮一が脚本を担当している。
6つ子を演じているのは、Snow Manのメンバー。おそ松役が向井康二、カラ松役が岩本照、チョロ松役が目黒蓮、一松役が深澤辰哉、十四松役が佐久間大介、トド松役がラウール。残りのメンバーは、渡辺翔太がエンド、阿部亮平がクローズ、宮舘涼太がピリオド役。
トト子を橋ひかる、イヤミを前川泰之、チビ太を桜田ひより、ハタ坊を加藤諒、松代を濱田マリ、松造を光石研、老紳士を榎木孝明、老婦人を南果歩、善松を栗原類、ハルを八木莉可子、オータムを厚切りジェイソン、レイジを忍成修吾、橋本にゃーを石あかり、村長を城後光義が演じている。
アニメ版の6つ子を演じた櫻井孝宏、中村悠一、神谷浩史、福山潤、小野大輔、入野自由が、同じキャラクターの声で出演している。

わざわざ言うまでもないだろうが、「TVアニメ『おそ松さん』の実写版」ってのは建て前に過ぎず、実際は「Snow Manの主演映画」として製作されている。
彼らの主演映画を作るに当たって、多くの腐女子を虜にした『おそ松さん』という作品を利用しているわけだ。
当然のことながら、Snow Manが演じているので6つ子は顔も身長も全く違う。そもそも、似せようともしていない。同じカツラを被り、色違いでお揃いのジャージを着ているだけで、ただの双子コーデだ。
トト子やイヤミ、チビ太たちと違って、コスプレにもなっていない。
そこは「おそ松さんであること」ではなく、「Snow Manであること」が重視されているのだ。

そこに無理があることは製作サイドも重々承知だったようで、冒頭から「そもそも実写でやるような話じゃないし」「無理してまでやるような企画なの」「髪型と服だけで6つ子を表現って厳しくない?」などと6つ子に言わせている。
それ以降も、メタ的なツッコミの台詞を幾つも用意している。
でも、それがギャグになっているかというと、答えはノーだと断言できる。
ハッキリ言って、ただの言い訳にしかなっていない。

劇中でトト子たちが言っているように、6つ子が別々に行動し、どんどん物語の収拾が付かない方向に進んでいく。
そもそもアニメ版もデタラメな内容だったし、本家『おそ松くん』だってアバンギャルドな作品だった。
だから脱線するのが全面的に悪いとまでは思わない。
そもそも本筋もクソも無いような話なので、何を脱線と呼ぶべきかも分からないし。
ただ、30分で1話が終わるTVシリーズなら何とかなっても、長編映画だとキツい。

台詞ではギャグとして自虐的なことを言っているけど、マジで実写でやるような話じゃないし、無理してまでやるような企画でもないんだよね。
幾らギャグとして笑ってもらおうとしても、「的を射た意見」になっちゃってんのよ。
1編の長編として構成しているのもキツくて、せめて短いスケッチを串刺し式に並べれば少しはマシになったかもしれない。
それでも、「安っぽいギャグ映画」の枠内からは抜け出せないんだけどね。

Snow Manが6人組のグループであれば、『おそ松さん』の実写版で主演させるってのは、企画としては分からなくもない。
いや、それでも実写化に無理があるのは間違いないんだけど、会議の中で話題に上がったとしても理解は出来る。
でも6人組じゃないので、「なんで?」と言いたくなるんだよね。
あと、「瓜二つの6つ子がデタラメに行動する」ということでギリギリで成立するようなコントばかりなので、それをSnow Manがやっても単なる三文芝居、もしくはコント番組のつまらないパロディーコントにしかならない。

Snow Manは9人組なので、6つ子に入り切らなかった3人のために、「物語終わらせ師」というキャラクターを用意している。
こいつらは「6つ子と瓜二つ」という設定でもないので、「同じグループのメンバーが瓜二つのキャラを演じる」という仕掛けを完全に殺すことになっている。
物語終わらせ師が登場すると「収集の付かなくなった物語を終わらせる」という展開に入るが、単に「余った3人の出番を確保するためだけの手順」でしかない。
収集が付かなくなっている物語を終わらせるどころか、余計に悪化させているだけだ。その趣向が、笑いに繋がっているわけでもない。
ギャグは全て上滑りしており、ずっとデタラメな遊びを続けているだけだ。

6つ子や物語終わらせ師の言動に対し、頻繁にトト子たちがツッコミを入れることによって、何とかギャグシーンとして盛り上げようとしている。でも、トト子たちの負担が大きすぎるし、それに見合うだけの笑いも生み出せず不発に終わっている。
「物語終わらせ師が奮闘しても一向に話が終わらない」というネタの繰り返しも、完全に失敗している。それぞれの話の断片だけを切り取り、1ヶ所だけをギャグに使っているのだが、土台の部分が弱すぎるから笑いに繋がりにくい。
目指すゴールも目的も見えないまま、ただダラダラと続く話を延々と見せられるだけになっている。
「いつ終わるんだよ、早く終われよ」と、ウンザリした気持ちにさせられる。ジャンル映画のパロディーとしての面白さがあるわけでもないしね。

物語終わらせ師がゴチャゴチャと動き回るデタラメな時間帯が一段落し、ようやく少しはマトモな方向に軌道修正するかと思いきや、さにあらず。
善松が登場して「6つ子はアプリコッツが作った自分のクローン」と言い出し、6つ子が彼の見た目を変えて「もう実写映画的に似てる設定は成り立たない」ってことにする。
そして善松はピリオドの父ということになり、老紳士は少し前の時間帯で一松がやっていたジョーカーのバッタモンに変貌し、善松はハルになる。老婦人はハルの成長した姿ということになり、老紳士はハタ坊に変化する。
他にも色々とあるが、とにかく「めんどくせえ」の一言で片付けたくなる。
ここまで徹底的に酷い映画も珍しい。

(観賞日:2023年6月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会