『俺物語!!』:2015、日本

ゴリラのような風貌で巨体の持ち主である剛田猛男は、中学校の卒業式を迎えた。彼は友人たちから愛され、下級生の男子から慕われる存在だ。下級生の男子たちが「ボタン下さい」と群がると、猛男は第2ボタンを「これだけは」と死守した。ずっと憧れていた加賀見に渡したいと思っていたからだ。彼が加賀見を見つけ、後を追った。すると加賀見は、イケメンの砂川誠に告白していた。砂川は表情を全く変えず、クールに「俺はアンタのこと、全然好きじゃない」と告げた。
砂川は同じアパートの隣同士に住む幼馴染の猛男を見つけると、「もういいの?帰ろう」と告げる。加賀見が泣き出すのを見た猛男は、「なぜ好きじゃない?せめてボタンくらい」と砂川に告げる。しかし女子にモテモテの砂川は、全てのボタンを取られていた。そこで猛男は自分のボタンを洗い、砂川から加賀見に渡すよう促した。砂川は加賀見の元へ戻り、ボタンを手渡した。何も知らない加賀見は、「大事にするね」と嬉しそうに告げた。
集英高等学校に進学した猛男は、初登校の日を迎えた。父・豊、母・ゆり子と朝食を取った彼は、砂川と一緒に学校へ向かう。その途中、川で溺れた小学生の男子が助けを求めているのに気付いた猛男は、飛び込んで救助した。しかし通り掛かった老夫婦からは誘拐犯と誤解され、小学生の母親は砂川に礼を述べた。それでも猛男は全く気にせず、そのまま学校へ向かった。高校の女子たちは砂川を見て騒ぐが、猛男には御馴染みの光景だった。砂川は女子たちに全く興味を示さず、クールな様子だった。しかし彼が女にモテモテなのは事実であり、クラスメイトのオサム&ノブ&稲垣は戦々恐々としていた。
学校からの帰り道、砂川はナンパ男に付きまとわれて嫌がっている他校の女子に気付き、猛男に教えた。猛男はナンパ男を威圧して、その場から追い払った。助けてあげた大和凛子が泣き出したので、怖がられていると思った猛男は「失礼します」と走り去った。しかし彼が砂川の所へ戻ると、彼女は追って来た。「お礼、まだ言ってなくて。ありがとう」と告げる彼女の笑顔を見た猛男は一目惚れし、心の中で「好きだ」と叫んだ。
次の日、猛男は柔道部員から「大将戦を戦える人間がいないんだ。俺たちを助けてくれ」と対抗試合への出場を頼まれるが、大和のことで頭が一杯だった。彼は内容を全く理解しないまま、柔道部員の頼みを引き受けた。大和は親友の菜々子&アユ&千春に、助けてくれた相手に一目惚れしたことを打ち明けた。自信の持てない彼女は不安を吐露するが、親友たちは「大丈夫」と背中を押した。大和が待っていると、猛男と砂川が歩いて来た。すると親友たちは、惚れた相手が砂川だと思い込んだ。
大和は猛男に駆け寄り、「改めて、ちゃんとお礼しようと思って。良かったら一緒にと思って」と自作のチーズケーキを差し出す。初めてチーズケーキを食べた猛男は、「美味い」と興奮する。大和が「彼女とか、要るんですか」と尋ねると、猛男は彼女が砂川に恋をしたと思い込む。彼はショックを受けるが平静を装い、「大丈夫だ。彼女はいない」と告げた。猛男は大和の恋を応援してやろうと考え、「また何か作ってくれないか。スナを連れて食べに来るから」と口にした。
翌日以降、大和はザッハトルテやマカロンなど様々なお菓子を作って持参し、猛男は「美味い」と興奮した様子で食べた。そして大和の表情を見る度に、彼は心の中で「好きだ」と叫んだ。大和が試合を見に来たがっていることを砂川から聞いた猛男は、「もちろん構わん。2人で見に来てくれ」と告げた。柔道部の対抗試合に出場した猛男は、尾安化高校の大将である岩山と戦った。猛男は一本勝ちを収め、客席で見ていた大和は興奮した。
試合を終えた猛男が会場を出ると、大和が待っていた。彼女は「お腹が空くと思って」と言い、大量のおにぎりを差し出した。猛男は校舎の屋上でおにぎりを食べ、砂川が褒めていたことを大和に教えた。彼は親切心のつもりで、「これからは、俺無しでも大丈夫だ。2人で上手くやれ」と告げる。しかし大和が泣き出したので、彼は狼狽する。大和が「帰る」と口にして走り去ったので、猛男は慌てて後を追う。しかし砂川が大和に声を掛ける様子を目撃した猛男は、その場を静かに立ち去った。
大和は砂川と2人きりになり、「あんな迷惑だなんて気付いてなくて。猛男君に嫌われちゃった」と泣いた。砂川は猛男と大和が両想いであることを知っており、「猛男の気持ちを代弁することは出来ないけど、猛男って昔から変わらないんだよ」と言う。彼は幼少期の猛男のエピソードを語り、「大和さんのこと、嫌ってなんかなくて、ただ不器用っていうか」と口にした。すると大和は笑顔を浮かべ、「凄く良く分かった。ウチ、頑張る」と前向きな気持ちになった。
大和は菜々子たちに、猛男と砂川が並んでいる携帯の写真を見せた。菜々子たちは相変わらず、大和の好きな男が砂川だと誤解していた。「ウチなんて全然相手にされてなくて」と大和が漏らすと、友人たちは合コンの開催を提案した。そこで大和は、猛男に「友達から合コンを頼まれたから、人を集めてくれない?」とLINEを送る。合コンのことを知ったオサムたちは名乗りを挙げ、猛男は「俺はパス」と告げる砂川も強引に承諾させた。
猛男のグループと大和のグループは、遊園地で対面した。大和が猛男を紹介したことで、ようやく菜々子たちは誤解に気付いた。大和の惚れた相手が猛男だと分かった途端、彼女たちは砂川への積極的なアプローチを開始した。しかし猛男は砂川が他の女子と仲良くすることに憤慨し、大和と近付けようとする。猛男は菜々子とアユが自分を嘲笑している内緒話を耳にするが、気にせず立ち去ろうとする。しかし大和が「猛男君はカッコイよ」と真剣に抗議する様子を見て、彼は嬉しそうな表情を浮かべた。
猛男は砂川と一緒にお化け屋敷を歩きながら、「大和は本当にいい奴だ。俺にまで優しい。だから泣かせないでやってくれ」と告げる。砂川が「わざわざ言う必要ないと思ってたから言わなかったけど」と口にすると、猛男は言葉を遮って「待て」と告げる。彼は匂いを嗅ぎ、「臭い」と告げた。その直後、お化け屋敷で火事が発生したので非常口から非難するよう指示するアナウンスが入った。一行は合流するが、栗原たちは「非常口は煙が充満して無理だ」と言う。
砂川は入り口からの脱出を考えるが、炎に遮られていた。他の客も出られなくなる中、猛男は壁に体当たりを浴びせて破壊した。避難経路を確保した彼は、残されていた面々に外へ出るよう指示した。設備の棺が大和に向かって倒れて来るが、猛男が支えて彼女を守った。猛男は砂川に、大和を連れて脱出するよう告げた。しかし外へ出た大和は猛男が心配で中へ戻り、一緒に棺を支える。猛男は棺を向こう側へ押し倒し、大和を抱えてお化け屋敷から脱出した。
砂川は猛男に、「前に猛男、どうして誰とも付き合わないのかって訊いてきたよな。わざわざ言う必要ないと思ってたから黙ってたけど、俺にコクってきた子たち、みんなお前のこと悪く言ってたんだよ。でも大和さんは違う」と話す。遊園地でバイトしていた加賀見は猛男に声を掛け、「剛田がお客さんたち助けたんでしょ。さすが、ミスター人間離れ」と笑う。そこへ大和が現れると、彼女は「もしかして、彼女?」と猛男に尋ねる。「まさか、そんなはずないだろ」という猛男の言葉に、大和はショックを受けた。
翌日から猛男はスランブに陥り、大和の幻聴が聴こえるようになった。大和は菜々子から、中学時代に猛男が加賀見に片想いしていたという情報を知らされた。大和は「話したいことがあるの」とLINEを送って猛男を呼び出し、買い物に付き合ってほしいと頼む。「もうすぐ砂川君の誕生日でしょ。菜々子が集英中の子から聞いたの。みんなでプレゼントしようって話になって。一緒に選んでほしくて」と彼女が話すと、猛男は「ようし、任せておけ」と快諾した。凛子は猛男と話し、彼には他に好きな相手がいると誤解する。それでも凛子は気丈に振る舞い、「好きな人のこと、相談してね」と明るく告げる…。

監督は河合勇人、原作は「俺物語!!」(作画:アルコ、原作:河原和音)(集英社「別冊マーガレット」連載)、脚本は野木亜紀子、製作は中山良夫&渡辺直樹&市川南&堀義貴&藪下維也&沢桂一&由里敬三&熊谷宜和、ゼネラルプロデューサーは奥田誠治、エグゼクティブプロデューサーは門屋大輔、企画・プロデュースは佐藤貴博、プロデューサーは田中正&山本章&佐藤譲、撮影は足立真仁、照明は市川徳充、美術は古積弘二、録音は日下部雅也、編集は瀧田隆一、音楽は岩崎太整。
主題歌『No.1』槇原敬之 作詞・作曲:槇原敬之。
出演は鈴木亮平、永野芽郁、坂口健太郎、寺脇康文、鈴木砂羽、森高愛、高橋春織、恒松祐里、健太郎、篠田諒、小松直樹、高田里穂、中尾明慶、池谷のぶえ、安井順平、緑友利恵、渋川清彦、後藤ユウミ、小池榮、久松夕子、佐藤奈織美、吉田憲祐、中川真桜、白石拳大、鈴木築詩、宮坂健太、森田想、平田敬士、影山樹生弥、大崎飛瑠、上妻成吾、相馬眞太、上村海成、梅澤日向、重岡陽人、三塚宏明、大武聡志、木下藤吉、鈴木りんだ、北村友彦、鈴木晃平、浅野優貴、葛西優大、富田海人、長田プリン、堀越大耀、田口遼翔、はすみ奈緒、あずき他。


作・河原和音、画・アルコのコンビによる人気の同名漫画を基にした作品。
監督は『花影』『映画 鈴木先生』の河合勇人。
脚本は『図書館戦争』『図書館戦争 THE LAST MISSION』の野木亜紀子。
猛男を鈴木亮平、大和を永野芽郁、砂川を坂口健太郎、豊を寺脇康文、ゆり子を鈴木砂羽、菜々子を森高愛、アユを高橋春織、千春を恒松祐里、栗原を健太郎、ノブを篠田諒、稲垣を小松直樹、加賀見を高田里穂、大和をナンパする男を中尾明慶が演じている。

大抵の少女漫画ってのは、男が読むには向いていない。「少女漫画なんだから当たり前だろ」と思うかもしれないが、その通りではある。
ただ、もう少し具体的な理由を挙げると、「少女漫画のヒロインが惹かれる相手は、男からすると嫌われるような不愉快なタイプばかり」ってのが大きな理由だ。
少女漫画のヒロインが惚れる相手って、「自己中心的でオラオラ系だけど、たまに優しい」とか、「高慢だけど、悲しい過去がある」とか、そういう設定が多い。
つまり性格や行動は厄介なのに、それでもヒロインは惹かれちゃうのだ。

一方、ヒロインに思いを寄せる他の男子も登場するケースが大半だ。
そして、そういう「噛ませ犬」としての男は大抵の場合、人間的に良く出来ている。
例えばヒロインの相手役みたいに「たまに優しい」ってことじゃなくて、常に優しかったりする。ヒロインに振られた後でも、まだ優しかったりする。とにかく人間的には、ヒロインの相手役より遥かに出来た奴ってことが多い。
なので男からすると、「なぜヒロインは彼を選ばないのか」ってのも納得しかねるのだ。

ただし、それは女性の読者に合わせているのだから当然のことだ。少年漫画だと、これが完全に逆転する。
例えば『タッチ』のヒロインである浅倉南は、たぶん大抵の女性からすると「嫌な女」でしかないだろう。なので少女漫画としては全面的に正しいのだが、男が読むには向かないってことだ。
しかし『俺物語!!』は、そういう少女漫画のパターンに該当しない。剛田猛男は男から見ても、ものすごく魅力的な奴なのだ。その友人である砂川はイケメン担当だが、こちらも性格の良い奴だ。
だから、それを映画化した場合、女性だけでなく男性でも素直に楽しめる仕上がりになる可能性は充分に秘めている素材なのだ。

『俺物語!!』を実写化するのは、ほぼ不可能ではないかと思っていた。それは、剛田猛男を演じることの出来る俳優など存在しないだろうと思ったからだ。
そりゃあ体がゴツくてゴリラ顔の男は、捜せば見つかるだろう。しかし、それなりの演技力は求められるし、何より映画の主役ってことを考えると無名役者ってのは厳しい。
また、あまり年を取り過ぎていると、高校生役ってのが難しくなる。
様々な条件を考慮すると、実写化には不向きな素材ではないだろうか。

しかし、そんな不可能を可能にしたのが、鈴木亮平である。
肉体改造を得意とする鈴木亮平は、クランクインの直前まで参加していたTVドラマ『天皇の料理番』のために20kg減量し、この映画のために30kg増量するという無茶なことをやっている。
しかしメイクも含めて、すっかり「実写版の剛田猛男」に成り切っている。年齢的な問題は、まるで気にならない。
この作品の場合、鈴木亮平の実年齢との違いぐらいなら余裕で許容範囲だ。

しかし残念ながら、奇跡の主演男優を見つけておきながら、この映画は素材の秘めている可能性を発揮できているとは言い難い。
鈴木亮平は見た目で剛田猛男に成り切っているだけでなく、その大げさな芝居によって現実離れしたキャラクターを漫画チックに演じている。この作品の場合、そういうアプローチが大正解だ。
ところが、そこに演出が全く追い付いていない。
だから剛田猛男という男の現実離れした圧倒的な存在感が弱くなってしまうし、映画としての面白味も薄くなっている。

それと、猛男の気持ちがあまり伝わって来ないのもマイナスだ。
原作漫画の場合、猛男のモノローグが多用されていた。それを映画版ではバッサリと削り落としているのだが、それに代わる心情の表現方法を何も用意していない。
もちろん、彼が大和を好きなのは分かるのだが、細かい心情が伝わらない。その繊細な心情表現も、剛田猛男というキャラクターの魅力だ。だから、武器を1つ失っているようなモノだ。
ナレーションやモノローグは映画の質を下げることに繋がるケースもあるが、この映画では活用すべきだった。

序盤の段階で、猛男が男からモテモテなのも、砂川が女にモテモテなのも、表面的には伝わって来る。しかし見せ方が下手なので、導入部に観客を引き込む力が足りていない。
オープニングでは猛男が男からモテモテなのを見せた後、砂川が女からモテモテなのを見せた方が効果的だ。
あと、それが中学の卒業式なのか高校の卒業式なのかが分かりにくい。
分かりにくいと言えば、シーンが切り替わっても卒業から高校の初登校までの時間経過が全く伝わらない。

この映画の大きな間違いは、「猛男と大和が互いの気持ちを知り、晴れて両想いになりました」ってのをゴールに設定していることだ。
それって、原作だと1巻で片が付く内容なのだ。『俺物語!!』ってのは、2人が両想いになってからの物が垂が大半なのだ。
そりゃあ、「カップルが両想いになる」ってのを着地点にした方が、シナリオを作りやすいのは間違いない。でも、それだと普通の恋愛劇とまるで変わらない。
『俺物語!!』を映画化するのなら、そこへ安易に逃げるのは避けないとダメでしょ。

猛男と大和の恋愛劇って、「傍から見ればバカップルだけど、でも純粋で真っ直ぐだから微笑ましい」「猛男は決してイケメンじゃないから大和とは美女と野獣コンビみたいに見えるけど、女が惚れるのも納得できる男」ってのを描くことに意味があると思うのよね。
そこを重視するなら、2人がカップルになるまでの物語は「序章」に過ぎない。
なので2人が付き合い始めた後、周囲の人々が示す反応の変化を利用して、「猛男は素晴らしい男」「2人はお似合いのカップル」ってのを描くことを意識すればいいんじゃないかと。

ゴールに設定するポイントを間違えたせいで、ストーリーに色々とギクシャクする箇所が生じている。
本来なら、大和は猛男と付き合い始めてから、恋人がいない双方の友人を誘って合コンを開くのだ。ところが映画では、凛子が猛男に「砂川と仲良くやれ」と言われた直後、合コンを開いている。
それは友人から「(猛男君が)友達思いならさ」ってことで提案されたことだけど、それが凛子と猛男の関係を近付けることになると、どうして思ったのか。
そもそも、友人たちは惚れた相手が砂川だと誤解しているわけで、それでも素直に大和を応援できるのか。既に大和が砂川と交際しているならともかく、まだ一方的に惚れているという状況なんだから、それなら「自分も砂川と付き合いたい」と思うんじゃないのか。

加賀見から「彼女?」と問われた猛男が「まさか、そんなはずないだろ」と答えたことで、凛子がショックを受けるのも引っ掛かる。
まだ付き合っていないんだから、「彼女?」という質問に否定で返すのは当然でしょ。
付き合っていないにしても、両想いであることが確認できていれば、ショックを受けるのは分かるのよ。でも猛男は「大和は砂川が好き」と誤解しており、だから2人の交際を応援する立場を取っている。
そういう状況で「彼女ではない」と言われた凛子がショックを受けるのは、思い上がりなのかと言いたくなるわ。

その辺りは全て、「猛男と大和が両想いになる」という地点をゴールに設定しておきながら、本来なら交際がスタートした後で描かれる原作のエピソードを少し改変しつつ持ち込んでいるから生じた問題だ。
ただし、「そういうエピソードを持ち込まざるを得なかった」という事情もあるのだろう。原作の「2人が両想いになる」という地点までの物語を普通に描くと、中身がスッカスカになるし、長編映画としてのボリュームに全く足りないのだ。
オリジナルのエピソードを盛り込めば中身は厚くなるが、それだと原作から大きく逸脱する。また原作のキャラクターも使えなくなる。
だから、そういう構成にしたんだろう。勝手な推測だが、そういうことなんじゃないかと思う。
ただ、どういう理由であれ、結果として構成に失敗していることは否めないのよ。
しかも強引に原作のキャラクターを何人か使っているけど、昔から猛男に惚れていた砂川の姉は登場させないし。

柔道部の対抗試合にしても、猛男が「大和は砂川に惚れている」と誤解している状態で描かれるから、ただ単に「相手の大将に一本勝ちを収めた」というだけのシーンになっている。
そこは猛男が大和と付き合っていれば、「モテない相手の大将が、女にうつつを抜かしている猛男への対抗心を燃やす。しかし猛男は愛する相手がいる男の強さを見せ付ける」ということで、大きな意味のあるシーンになるはずだ。
それと、試合の後に大和がおにぎりを出すのはダメでしょ。彼女が作るのは、お菓子だけに限定しておくべきでしょ。
それって細かいことに思えるかもしれないけど、大和のキャラクター造形に関わる重要なポイントだぞ。

猛男と大和が互いに相手の気持ちを誤解したままでいるのは、真相を知っている砂川が猛男に本当のことを明かさないからだ。でも、事実を教えない理由がサッパリ分からない。
そりゃあ、ある程度は泳がせて様子を見るのもいいだろう。
でも、幾ら何でも引っ張り過ぎでしょ。砂川が猛男に大和の気持ちを教えていれば、あっさりと解決した問題なわけで。
「砂川が真相を教えない」ということで、誤解した2人の恋愛劇がダラダラと続くってのは無理があるし、そこには乗れないぞ。砂川が真相を教えないことに関して、腑に落ちる理由なんて何も用意されていないんだし。

遊園地のシーンは本来なら、もっと盛り上がらなきゃいけないはずだけど、バカバカしいとしか感じない。
そもそも合コンなのに遊園地という時点で引っ掛かるが、そこは受け入れておこう。
で、一行はお化け屋敷に入るのだが、なぜ男子と女子が別々で行動しているのか。合コンなんだから、そこはペアを組むべきじゃないのか。
そこは「猛男と砂川が2人で話す」という状況を用意するために、全員に不可解な行動を取らせる羽目になっている。

お化け屋敷では火災が発生するが、原因がサッパリ分からない。
「非常口で煙が充満し、入り口は炎に遮られて出られない」という状況が説明されるが、それは不自然でしょ。非常口に煙が充満しているなら、そっちで炎が上がったはず。
なんで入り口が炎で遮られるのか。どういう構造の建物なんだよ。
そんで猛男は脱出のために壁を破壊しようと体当たりを繰り返すが、どう考えても非常口から逃げようとする方が利口でしょ。煙が充満していても炎で遮られていないんだから、口を塞いで体を低くすれば脱出できるでしょ。

猛男は大和を脱出させた後も棺を支えたままで立ち往生しているが、それは変だろ。棺を床に落として、自分が退ければいいだけだ。
普通の人間だと難しいかもしれないが、猛男は倒れて来た棺を支える怪力の持ち主なので、それは可能なはず。実際、大和が戻って来た後には棺を向こうへ押し倒す怪力を発揮しているんだし。
あと、一度は外へ出た大和が戻って来て一緒に棺を支えるのは、ただ邪魔なだけだろ。
せっかく猛男が棺を支えて助けてくれたのに、その行為も台無しにしているぞ。

原作だと、猛男は大和は交際を開始した後、恋人がいなくてさびしい友人たちのために合コンを開く。そしてカラオケ店で合コンを開き、そこで火災が発生する。
菜々子とアユが逃げ遅れ、炎の中に飛び込んだ猛男が2人を助け出す。そして猛男の男気に触れた菜々子とアユは、思わずキュンとするのだ。
そのエピソードを改変して使ったことで、色々と不具合が生じている。
こんな使い方をするぐらいなら、全く別のエピソードにした方が良かったわ。

この映画だと、猛男はお化け屋敷の壁を破壊して、大勢の人々を助けている。菜々子たちは「助けられたメンバーの1人」に過ぎない。
だから「猛男に命を救われて印象が変わる」という手順も、すっかり弱くなっている。猛男が菜々子たちを抱えて炎の中から助けたわけじゃないので、「凛子を抱えて出て来た時、惚れそうになったもん」と言わせなきゃいけなくなっている。
だけど、それは惚れそうになるポイントが違うし、笑いながら言っているので「ただのリップサービス」に過ぎなくなっている。
本気でキュンとするのとは、全く意味合いが違って来るのよね。そして意味合いが異なることで、エピソードとしての面白味も薄まっている。

猛男がお化け屋敷から人々を助け出した直後、遊園地で働いている加賀見が軽いノリで声を掛けて来るのは、キャラの使い方として全く賛同できない。
そんな間違った使い方(と断言してしまおう)をするぐらいなら、いっそ加賀見なんて再登場させなくていいよ。
どうせ加賀見は、大和は猛男の関係を描く上で「恋の障害」として機能することも無いんだし。
大和が「猛男は今でも加賀見が好き」と誤解するトコでは使っているけど、「そういうことじゃないのよね」と言いたくなるし。

(観賞日:2017年3月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会