『orange-オレンジ-』:2015、日本

高宮菜穂は高校2年生の始業式を迎えた朝、登校する途中で桜並木を見上げていた。彼女が鞄に目を向けると、いつの間にか手紙が入っていた。差出人を確認すると、自分の名前が記されていた。遅刻しそうになったので、菜穂は急いで学校へ行く。2年6組の担任になった中野幸路が話している間に、菜穂は手紙を開封した。すると、そこには「私は10年後の未来から手紙を書いています」「どうして叶えてもらいたいお願いがある」「私と同じ間違いを繰り返さないように、この手紙にはこれから起こる出来事と、その時に選んでほしい道を書いておきます」といった文章が綴られていた。
手紙の続きを読むと、東京から転校生が来ること、成瀬翔という名前であること、隣の席に座ることが記されていた。その通りの出来事が起きたので、菜穂は困惑した。始業式が終わった後、菜穂が手紙を読むと「この日だけは翔を誘わないでほしい」と書いてあった。しかし菜穂の友人である須和弘人が、「一緒に帰ろう」と翔に声を掛けた。一度は断った翔だが、須和だけでなく仲間の茅野貴子、萩田朔、村坂あずさからも誘われ、結局は承諾した。須和は歩きながら、翔に仲間たちを紹介した。
帰宅した菜穂は日記を書こうとした時、本当に未来の自分が手紙を書いたのだと感じる。彼女は怖くなり、手紙を机の引き出しに入れた。翌日から10日間、翔は学校に来なかった。気になった菜穂は何か書いてあるのではないかと考え、手紙を取り出した。すると、4月20日に翔が2週間ぶりに登校すること、ソフトボールの試合で自分が代打を頼まれること、断って後悔したこと、自分が翔を好きになることが記されていた。
4月20日、翔は久々に登校し、休んでいた理由については明確にしなかった。中学時代にソフトボールの経験がある菜穂は、クラスメイトから代打を頼まれた。ピッチャーの豪速球を見た菜穂は断ろうとするが、手紙のことを思い出して引き受けた。彼女は手紙にあった助言で気持ちを落ち着かせ、タイムリーヒットを放った。試合の後、菜穂は翔に、「周りに迷惑を掛けなければ誰も気付かない」という思いで我慢ばかりしていることを話した。すると翔は、「見てるよ、俺は。気になる」と言う。ドキッとした菜穂は、「私も翔のこと、ちゃんと見てるよ」と告げた。この一件で、菜穂は手紙に書いてあることが全て本当に起こるのだと確信した。
10年後、26歳の菜穂は須和と結婚し、男児に恵まれていた。高校時代の仲間が久しぶりに集まり、須和は「行くぞ、翔との約束を叶えに」と口にした。高校2年生の菜穂は手紙を読み、「10年後の今、翔はここにはいません」という文章を目にした。翔は須和から「今日も弁当無いの?」と問われた時、「母さん作ってくんないから」と告げた。菜穂の手作り弁当を見た彼は「俺にも作って来てよ」と言うが、すぐに「冗談」と笑った。
未来からの手紙には、弁当を作らなくて後悔したこと、だから作って翔に渡してほしいことが綴られていた。菜穂は翔の分も弁当を作って登校するが、渡す勇気が出ないまま放課後になってしまった。菜穂が正門の前で待っていると、翔は須和と一緒に出て来た。翔が菜穂に「一緒に帰ろう」と告げると、須和は気を利かせて立ち去った。翔は菜穂に、始業式の日に母親が死んだこと、だから休んでいたことを打ち明けた。同じ後悔を繰り返したくないと思った菜穂は、弁当を差し出して「明日も持って来る。明後日も、明々後日も、毎日」と言う。すると翔は笑顔を浮かべ、「ホントは期待してた。すっごい嬉しい」と述べた。
10年後の菜穂と仲間たちは、翔の祖母である初乃を訪ねた。菜穂は「あの頃、翔が悩んでたって、後で知りました」と告げ、須和は初乃に「あれはホントに事故だったんですか」と問い掛けた。未来からの手紙には、翔が19歳の冬に事故死したと記されていた。そして「私達が後悔しているのは、翔を救えたという事」と書かれていた。手紙の続きには、1週間の仮入部だけで翔がサッカー部を辞めてしまうこと、本当は入りたがっていることが記されており、無理にでも入れてあげてほしいと書いてあった。しかし菜穂が何も行動しなくても、翔は正式にサッカー部に入部した。
手紙の続きには、翔が先輩の上田莉緒から告白され、付き合うことになると記されていた。その文面通り、翔は莉緒から告白される。手紙には、翔に貸した消しゴムを返してもらったらケースを外し、自分の気持ちを正直に伝えるよう書いてあった。菜穂が指示通りにケースを外すと、「上田先輩と付き合っていいと思う?」と書いたメモが入っていた。菜穂は翔の靴箱へ行き。「だめ」と書いたメモを入れる。しかし翔はメモを見る前に莉緒から返事を求められ、付き合うことを決めてしまった。
手紙には「自分から声を掛けてあげてほしい」と記されていたが、菜穂は莉緒に遠慮して翔と距離を置いてしまう。その様子を見た須和は、「菜穂が逃げてたら、翔、話できないだろ」と言い、翔から相談されたことを明かした。そこで菜穂は翔に声を掛け、「何でも話して。聞くから」と言う。翔が莉緒と別れるつもりだと話すと、菜穂は驚いて翻意させようとする。翔は菜穂のメモを見たことを話した後、「それに、先輩より気になる人がいる」と口にした。
物理の授業で、中野は生徒たちにタイムトラベルに関する仮説を話す。時間の流れの1点で改変が起きた時、時間軸が分かれてパラレルワールドが生まれる。新しい世界では過去を変えたとしても、元の世界には全く影響が出ない。だからタイムパラドックスは起きないという説だ。この説が正しいとすれば、例え翔を救うことが出来たとしても、手紙をくれた今の菜穂の未来は変わらないことになる。それを知った菜穂は、悲しい気持ちになった。
未来からの手紙には、「文化祭で最後に打ち上がる花火を、プールで翔と二人で見る。その思い出だけは、消さないで」と記されていた。菜穂は翔から、タイムトラベルできるなら未来と過去のどちらへ行きたいかと質問される。菜穂は未来だと答え、翔の意見を訊く。すると翔は過去だと答え、「過去へ行って後悔を消したい」と述べた。「後悔って何?」と菜穂が静かに問い掛けると、翔は何も答えなかった。菜穂が文化祭の花火を2人で見ようと誘うと、翔は笑顔で了解した。
7月19日、文化祭の最終日が訪れた。菜穂はプールへ行こうとするが、翔との関係に嫉妬した莉緒から荷物運びを命じられる。しかし貴子とあずさが駆け付け、荷物運びを自分たちに任せてプールへ急ぐよう促した。菜穂はプールで待つ翔と合流し、一緒に花火を見た。夏休み、菜穂たちは仲間6人で祭りへ行くことにした。しかし須和たちは気を利かせて当日にドタキャンし、菜穂と翔は2人だけで祭りに行く。2人は楽しい時間を過ごすが、幼い息子を連れた女性を見た翔は母の美由紀を連想して暗い表情になった。
菜穂は翔と神社へ行き、願い事をする。何をお願いしたか訊かれた翔は、母親に話し掛けたと答えた。しかし何を話したか問われても、彼は明かそうとしなかった。菜穂は手紙の助言を思い出し、母親のことを聞き出そうとする。はぐらかしていた翔だが、「翔の後悔って、お母さんを救えなかったこと?」という質問で態度を変える。彼は母の体調がずっと悪かったこと、始業式の日は午後から病院へ付き添う予定だったこと、朝から言い争いになってしまったことを明かす。
翔が須和たちに誘われて寄り道していた時、母から早く帰るよう求めるメールが届いた。しかし翔は面倒になり、「子供じゃないんだ、一人で行けるだろ。邪魔するな」と返信してしまった。帰宅した翔は、車で出掛けた母が湖畔で自殺したことを知った。「俺がちゃんと見てあげていたら、救えたはずなのに」と翔は吐露し、菜穂の前で泣き出した。帰宅した菜穂が手紙に目を通すと、「翔の後悔は、きっと『お母さんを救えなかった事』だと思うから。どうか翔を後悔から救ってあげて。それができたら、翔の事故を防げたかもしれない」と綴られていた。
10年後の菜穂たちは初乃から、翔が死ぬ前に残した手紙を見せられる。そこには「俺に何かあったら、みんなには事故だと伝えて下さい」と書いてあった。初乃は菜穂たちに、自転車に乗っていた翔が自分から走行するトラックの前に飛び出したらしいと話す。高校2年生の菜穂は手紙の続きを読み、翔が事故死ではなく自殺だったと知る。手紙には「翔に死を選択させないでほしい。どうか翔の心を救ってほしい」と記されていた。抱え切れなくなった菜穂は、須和に手紙のことを打ち明けた。信じてもらえないかもしれないと感じる菜穂だが、須和は自分にも未来からの手紙が届いたことを話す…。

監督は橋本光二郎、原作は高野苺『orange』(双葉社刊)月刊アクション連載、脚本は松居凛子&橋本光二郎、製作は市川南、共同製作は戸塚源久&山本浩&岩田天植&吉川英作&高橋誠&宮本直人、エグゼクティブ・プロデューサーは山内章弘、企画・プロデュースは石黒裕亮、プロデューサーは神戸明、プロダクション統括は佐藤毅、ラインプロデューサーは阿久根裕行、撮影は鍋島淳裕、照明は かげつよし、録音は久野貴司、美術は古積弘二、編集は瀧田隆一、音楽は大友良英。
主題歌はコブクロ『未来』作詞:小渕健太郎、作曲:小渕健太郎・黒田俊介、編曲:コブクロ。
出演は土屋太鳳、山崎賢人、竜星涼、山崎紘菜、桜田通、清水くるみ、真野恵里菜、草村礼子、森口瑤子、鶴見辰吾、内田菜月、安田聖愛、森田想、須賀一天、田中六文銭(ポセイドン)、東間ひだり、ミロ、原山紅花(テレビ信州アナウンサー)、高橋俵大、森悠、佐々木萌詠、栗原沙也加、高濱レイカ、瀬戸かほ、佐倉星、栗原卓也、金井勝実、村田優一、小西貴大、岡駿斗、齊藤大河、小林美貴、奥村萌、井出朱音、高橋憧子、永井彩音、小林裕太郎、溝端希望、五藤慎也、千賀健次郎、山田愛梨、中田青渚、高橋光宏、松沢有紗、笠松将、FUNNY MONSTER(石部菜奈美、野口里紗、谷口満里奈、草間菜帆)ら。


高野苺の同名漫画を基にした作品。
菜穂を土屋太鳳、翔を山崎賢人、須和を竜星涼、貴子を山崎紘菜、朔を桜田通、あずさを清水くるみ、莉緒を真野恵里菜、初乃を草村礼子、美由紀を森口瑤子、中野を鶴見辰吾が演じている。
監督&脚本の橋本光二郎は『鈴木先生』や『スプラウト』などのTVドラマを手掛けてきた人で、これが映画デビュー作。
共同脚本の松居凛子は何の情報も出て来ない正体不明の女性なのだが、公開前に「脚本:金子ありさ」という情報が出ていたので、もしかすると変名なのかもしれない。

冒頭、桜を見上げていた菜穂が鞄に視線をやり、手紙を見つけて差出人を確認するという一連の動作に合わせて、「16歳の春、私宛てに一通の手紙が届いた。差出人は、私?」というモノローグが重なる。
このオープニングから既に、「全て喋らせなくてよくねえか?」という疑問が湧く。
例えば、差出人の名前を見た彼女が「私?」と口に出すような形にして、それ以外の部分はモノローグによる説明を全て排除しても良かったんじゃないかと。

差出人の名前を見た菜穂は少し考えた後、手紙を開封しようとする。しかし腕時計に目をやると、ハッとした表情になり、慌てて走り出す。
つまり「遅刻しそうだと気付いたから慌てる」というシーンなんだけど、わざとらしいったらありゃしない。
これは土屋太鳳の演技力が稚拙なのではなくて、そういう行動自体がわざとらしいのだ。
そこに限らず、全体を通して「土屋太鳳の芝居は下手なのか」と思わせる状況が続く。
でも冒頭シーンから推測する限り、演技力じゃなくて演技指導の問題が大きいのではないかと思われる。

中野が教室を出て転校生を呼びに行き、連れて戻って来るシーンでは、翔の顔が写らないようにしてある。後ろ姿や顔の下半分だけが写るアングルだけで構成している。
でも、顔が見えないようにしている意味がサッパリ分からない。それは「既に山崎賢人だってことは公開前の情報で分かっているから」ってことじゃなくて、演出として意味不明ってことだ。
これがスター映画で、「いよいよスターが登場する」という勿体の付け方をする意味があるなら、その演出も理解できる。でも、そうじゃない。
また、既にヒロインや観客が何らかの形で翔の顔を知っており、「転校生が、その男だった」という驚きを与える狙いがあるなら、これも理解できる。でも、そこが初登場なので、どういう意図なのかサッパリ分からないのだ。

翔は転校して来たばかりなのに、菜穂や須和たちは最初から「カケル」と下の名前で呼んでいる。そして始業式の日から、いきなり「一緒に帰ろう」と誘う。かなり不自然な行動だ。
そりゃあ始業式の日だから、そんなに下校するまでの時間は無かったかもしれない。
ただ、一緒に帰ろうと誘う前に、まずは教室で話し掛けて、自己紹介したり、相手のことを尋ねたりという手順があるべきじゃないかと。
まさか、「こういうのが現代の高校生にとってはベーシック」ってわけでもあるまい。

冒頭に不恰好なモノローグがあることは前述したが、これが最初だけに留まらない。それ以降も、「なんだ、誘って良かったじゃん」「売れなくて良かった。みんなカレーパン、好きだもんね」「この手紙、ホントに私が。やだ、怖い」など、菜穂のモノローグが頻繁に用いられている。
彼女の心情は、全てモノローグによって説明される。
モノローグで心情を表現することが、全てダメだとは言わないよ。だけど、そこに全て頼るのは不細工でしょ。
「勝てた。初めて。逃げてばかりいた臆病な私に」とか、いちいち言葉にしない方が効果的なことも多いし。

10年後の菜穂は、高校時代に何があったのかを全て知っている。そして自分と同じ間違いを繰り返してほしくないから、手紙を送っている。
そうであるならば、なぜ「そういう行動を取るべき理由、避けるべき理由」を書かないのか。
高校生の菜穂は、そういう行動を取るべき理由が分からないんだから、最初の内は手紙の内容に従わないのも当然だ。
本気で「間違いを繰り返したくない」と思っていたのなら、なぜ最初に「こういう事情で」ってのを詳しく書かないのか。

10年後の菜穂は、「同じ間違いを繰り返さないように」ってことで、これから起こる出来事と選んでほしい道を手紙に記している。
ただ、例えば「始業式の日は翔を誘わないでほしい」ってのは、翔を救えなかった後悔に繋がることだから理解できるが、「ソフトボールの代打を引き受ける」ってのは全く無関係でしょ。それは単純に、自身の人生に対する後悔でしょ。
そんな些細なこと、個人的なことまで「後悔してほしくない間違い」として手紙に記すのは欲張り過ぎだろ。大切なことだけに限定しておけよ。
あと「この日、私は翔を好きになる」ってのは、いちいち書く必要も無いだろ。そんなことを書かなくても、絶対に好きになるんだからさ。

手紙は一気に全てが届いており、何日分も同封されていたはずだ。それなのに、菜穂が何日にも分けて少しずつ読むのは変だろ。
怖いと感じて封印した後、再び手紙を読んで「全て実際に起きる」と確信した後は、一気に最後まで読みたくなるのが普通じゃないのか。そして、最後まで事前に読んでおけば、対策も立てやすくなるというものだ。
それなのに、なぜか手紙に書いてある出来事が起こる直前になってから読んだりするのよ。
事前に情報を入れておかないから、翔が2週間も学校を休んだことについて笑いながら「ゲームでもしてたの?」と尋ねるような、デリカシーの無い行動も取っている。それは新たな後悔を増やすことになるでしょ。

菜穂が手紙を最後まで一気に読まず、小分けにして何日も掛ける理由は、劇中では何も説明されていない。
それもそのはず、腑に落ちる理由など用意できるはずも無いからだ。
それは全て、「10年後のシーンに合わせて、それとリンクする手紙を読む」という構成上の理由によるものだ。
そういう形になってしまうのは、残念なぐらい理解できる。ただ、理解は出来るが、だからって賛同できるわけではない。
ストーリー進行の都合に合わせるため、ヒロインが不自然極まりない行動を余儀なくされているのだ。

手紙には「翔が19歳の冬に事故死した」と書いてあるが、その後には「かなしそうにしていたら、いつでも助けてあげてほしい」とある。
それは筋が通らないでしょ。悲しそうな翔を助けたところで、事故は防げないでしょ。
「翔を後悔から救うことが出来たら事故を防げたかもしれない」と手紙にはあるけど、まるで理屈が通っていない。
本当に救いたいと思っているのなら、何月何日に、事故が起きたのか、場所はどこなのか、どういう事故なのかを詳細に記すべきでしょ。
そうすれば、その当日に翔が現場へ行くことを阻止することで事故は防げる可能性が生じるわけで。

っていうかさ、実際は事故じゃなくて自殺なのに、なぜ最初は「19歳の冬に事故死した」と書いておいて、後になって「実は自殺でした」と明かすのか。
自殺したことを最初に記した上で、それを防ぐためにはどうすればいいのかという助言を送るべきでしょ。菜穂だって、自殺すると知っているかどうかで対応が大きく変わって来るはずで。
あと、事故にしろ自殺にしろ、「正直に気持ちを伝えて」ってのはズレた助言でしょ。
それは本人が好きと言えなかったことに対する後悔であって、翔を救えなかった後悔とは別物だ。

っていうかさ、そもそも手紙の最初で「始業式の日に翔の母親が自殺して、そのことで彼が後悔を抱いて自殺する」という事実を説明しておけば、全て解決できた問題でしょ。
そういう事情が分かっていれば、菜穂は翔と一緒に寄り道しようとせず、仲間が誘ったとしても強引に帰らせていただろうし。
翔が約束通りに帰宅して病院に同行すれば、母親は自殺しない。母親が自殺しなければ、翔は後悔しない。翔が後悔しなければ、自殺もしない。
つまり、翔を救うことが出来るのだ。

ところが、手紙には「この日だけは翔を誘わないでほしい」と書いているくせに、それ以降の文面は「菜穂が翔を誘った」という前提で記されているのだ。そんで後になって「始業式の日に翔が早く帰らなかったから母親が自殺した」と知る流れになるので、おのずと菜穂は「自分たちのせい」と感じることになる。
つまり、そこの間違いや後悔を繰り返す羽目になるわけで。
そりゃあ、最初に詳しい事情を母親の自殺を食い止めたら、それで話が終わっちゃうことぐらい分かるよ。
だけど、話を先に進める段取りのせいで、未来の菜穂も現在の菜穂も愚かで腹立たしい奴になっちゃってるのよ。

後半に入り、菜穂だけでなく須和にも手紙が届いていたことが判明する。
だけど、この2人だけに手紙が届く理由は何なのか。なぜ他の仲間には手紙が届いていないのか。
10年後の未来にも仲間として集まり、翔が事故じゃなく自殺だったことを一緒に聞いているんでしょ。だったら、全員に未来の自分から手紙が届くべきじゃないのか。
あと、須和にも手紙が届いていると判明した後、しばらく彼のターンに入っちゃうのが、構成として不細工なんだよな。それなら、いっそ手紙は菜穂だけに届いている設定にした方がマシだわ。

菜穂と須和が翔を救うために協力することを決めた後、手紙に「リレーのアンカーに選ばれた翔が転倒してビリになり、責任を感じる。翔のために、メンバーから外してほしい」と書いてあることが明らかにされる。
だけど、それを「翔のために』って言っちゃうのは違うだろ。甘やかし過ぎだろ。
そこで責任を感じることと、彼が自殺するこは何の関係も無いんだし。
手紙が「翔を自殺から救う」という目的から外れることが、あまりにも多すぎるわ。

菜穂は手紙に「喧嘩して謝れないまま翔が亡くなった」と読んだのに、そこに書いてあった過去の自分と同じ行動を取ってしまう。
まず肺炎になった祖母のことで翔を怒らせてしまうのは、無神経な言葉だったとは言え、向こうが怒っちゃうので仕方がない。っていうか向こうが一方的に怒鳴るだけなので「それは喧嘩じゃないだろ」と思うけど、とりあえず置いておくとしよう。
夜になって電話を掛けても相手が出ないのも、まあ仕方がない。
ただ、翌朝になって彼と会った時、過去の自分と同じく「寒いね」の言葉だけで済ませるのは、どういうつもりなのかと。放課後に謝罪するからリカバリーは出来ているけど、登校した時に謝罪しない理由が無いでしょ。

終盤に入り、10年後の須和が菜穂に「手紙、書いてみないか。過去の俺たちに」と提案するシーンがあって、この夫婦だけで考えた計画だったことが判明する。
だから過去の世界でも2人にしか手紙が届かないってのも、筋は通っている。
だけど、そういう問題じゃないのよ。
ぶっちゃけ、「どうやって過去の自分たちに手紙を届けたのか」という部分で腑に落ちる説明は何も無いけど、そこは大きな問題じゃないわ。この2人にしか未来からの手紙が届かないことの方が、もっと大きな問題だわ。

最終的には「翔が自転車でトラックに突っ込む直前になって急ブレーキを掛け、自殺せずに済んでハッピーエンド」という形になっているけど、ものすごく引っ掛かるのよ。
中野がタイムトラベルに関する仮説を話した時、菜穂は「翔を救うことが出来ても、、手紙をくれた今の自分の未来は変わらない」と知ってショックを受けていたはずだ。
ところが、それ以降の彼女は、普通に翔を救おうとしている。そして最終的に翔の自殺を阻止したら、それで満足している。
でも、それはパラレルワールドを生んだだけであって、元の世界の翔は自殺しているわけで。
それはホントに「翔を救えた」と言っていいのか。いや言えないだろ。

(観賞日:2017年7月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会