『陰陽師0』:2024、日本

平安京の北に位置する大内裏は国家中枢機能であり、その中には内裏と呼ばれる天皇の居城がある。平安時代、政治は帝を頂点に一部の貴族や官僚に仕切られ、政策は占いによって決められていた。その占いを行っているのが、国家公務員である陰陽師だ。陰陽寮は陰陽師の職場であり、陰陽師を目指している者の学校も兼ねていた。学ぶ者は学生(がくしょう)、その指導者を博士と呼んだ。生まれながらにして貴族でない者が出世するためには官僚になるしか無かったが、狭く険しい道だった。
陰陽師としての出世は、学生から「得業生」と呼ばれる上級の学生になり、陰陽師、博士、陰陽頭へと進んでいく。しかし全ての陰陽師が目指すのは蔵人所陰陽師、すなわち帝専属の陰陽師になることだ。そして現在、そこは空席となっていた。陰陽寮では最年長の平郡貞文を始めとして丈部兼茂や小野春光、佐伯義忠といった学生たちが学んでいた。彼らは陰陽頭の藤原義輔、天文博士の惟宗是邦、陰陽博士の賀茂忠行、暦博士の葛木茂経たちから様々な知識や技術を教わっていた。
忠行の直弟子である安倍晴明は片付け作業に参加せず、兼茂たちから陰口を叩かれた。晴明には「キツネの子で呪術が使える」という噂があったが、学生たちは眉唾だと思っていた。晴明は眼前で両親を殺されており、犯人を見ているはずだが顔を思い出せずにいた。彼は僧侶の寛朝から、恨みや恐怖の心を捨てて事実のみを見れば犯人の顔も思い出せるはずだと助言された。公達の面々は晴明に声を掛け、呪術で人を殺せるのかと冷やかすような態度で質問した。試しに蛙を殺してみるよう言われた晴明は、葉ぱを投げて爆死させた。
その様子を見ていた醍醐天皇の孫で雅楽家の源博雅は晴明に興味を示し、陰陽寮を訪ねた。晴明は頼みの内容も聞かずに断り、「陰陽師が扱う問題の大半はつまらないことが原因なので興味が無い」と言い放つ。彼は蛙を殺しておらず、幻覚を見せただけだと明かした。馬鹿にされた博雅は腹を立てるが、困っているのは自分ではなく従妹の徽子女王だと告げる。興味を覚えた晴明が徽子の元へ向かう様子を、貞文が密かに観察していた。
晴明は徽子から、夜中に琴が勝手に鳴り出すこと、切れた弦を張り替えても現象が続いていることを聞かされた。博雅は徽子に惚れていることを晴明に見抜かれ、身分が違うのだと告げる。夜中に琴が鳴ったので、晴明は博雅と共に現場へ赴く。彼は鳴っているのが琴ではなく、何かと共鳴していることに気付いた。晴明が軒下を調べていると、徽子がやって来た。金色の龍が徽子に襲い掛かるが、晴明は博雅が用意したガラス瓶に封じ込めた。屋敷を出た彼は、博雅には見えない龍を解放した。
泰家が自宅の井戸で遺体となって発見され、呪いの札が発見された。博士たちは泰家が呪い殺されたと確信するが、義輔は「こんなことが知れたら我々の権威が地に落ちる」と語り、表向きは自殺として処理することになった。「次の得業生は誰にしましょう?」と是邦が言うと、忠行は晴明を推挙した。あまりにも露骨なひいきだと是邦は指摘するが、晴明より才能がある者がいるのかと問われると答えに窮した。義輔は彼らに、次の得業生を決めるための案を示した。
是邦は学生たちに泰家の死因か呪いだと明かし、秘密にするよう釘を刺した。彼は「犯人と動機を解明することを昇級試験とする」と話し、最初に突き止めた学生を次の得業生にすると通達した。晴明が「得業生に興味が無い」と去ろうとすると、是邦は候補からは外すが試験は受けろと命じた。忠行は晴明に、帝の陰陽師を目指さないのかと尋ねた。晴明は孤児だった自分を拾ってくれたことへの感謝を示しつつも、陰陽師の仕事には全く興味が持てないと語る。彼は陰陽師について、「存在しない鬼を広めて恐怖を吹聴し、怪しげな占いや儀式を用いて不安を煽る仕事」と扱き下ろした。
学生たちは得業生を目指し、情報を集めるために東奔西走した。貞文は義輔に、学生全員の筆跡を見せてほしいと頼んだ。学生たちは泰家の家を調べようとするが、使用人に追い払われた。晴明は家を見るため、博雅に同行してもらった。井戸に向かう足跡を目にした晴明は、泰家が激しい喉の渇きに苦しんで井戸に向かい、犯人が背後から突き落としたと推理した。泰家の母である小槻薫子は晴明に目もくれず、博雅に犯人を捕まえてほしいと頼んだ。晴明は泰家の遺体を観察し、毒を盛られていることに気付いた。
貞文は深夜に書庫へ忍び込み、密かに行動した。翌朝、晴明が書庫で調べ物をしていると、貞文が来て「何をしてる?」と鋭く告げた。博雅は帝から、晴明が龍を退治した出来事について質問された。女宮たちが噂を信じて晴明を悪く言うと、博雅は腹を立てて反論した。帝は彼に、徽子への恋文を届けてほしいと頼んだ。貞文は晴明に、自分が45歳で家が百姓であること、帝の陰陽師を目指していることを話す。彼は木簡の筆跡が一致したと指摘し、晴明が泰家を殺した犯人だと断定して是邦に引き渡した。
捕縛された晴明は落ち着き払って犯行を否定し、貞文が筆跡を真似て罪を着せたのではないかと告げる。是邦は調査が終わるまで監禁するよう指示し、学生たちが晴明が連行しようとする。そこへ博雅が来て「徽子様がさらわれた」と叫ぶと、晴明は縄を解いて逃亡した。博雅は晴明から説明を求められ、徽子に恋文を届けた時のことを話す。徽子は「読んでしまったら断れない」と泣き、博雅から文が欲しかったと告げる。彼女が屋敷を飛び出すと、黄色い龍が現れて連れ去った。
晴明は博雅と共に森へ入り、母の遺体が握っていたのと同じ人形を発見した。離れた場所にある屋外の舞台では、顔を隠した男が呪いの舞を踊っていた。貞文は春光と義忠を引き連れ、晴明を捜索する。春光と義忠は捕まえても貞文が出世するだけだと考え、その場で殺そうとする。貞文は反撃し、3人は呪いに侵されて激しく戦った。晴明は博雅の姿を見失い、いつの間にか両親の死を目撃した場所に迷い込んでいた。母の遺体を見て涙を流した彼は怒りに我を忘れるが、博雅が吹く笛の音で森に戻って来た…。

脚本・監督は佐藤嗣麻子、原作は夢枕獏『陰陽師』シリーズ(文藝春秋)、製作は山田邦雄&木下直哉&飯窪成幸&長瀬俊二郎、企画は濱名一哉、エグゼクティブプロデューサーは関口大輔、プロデューサーは守屋圭一郎、協力プロデューサーは高橋雅美、撮影は佐光朗、照明は加瀬弘行、美術は林田裕至&愛甲悦子、録音は猪股正幸、衣装デザインは伊藤佐智子、編集は穗垣順之助、VFXプロデューサーは井上浩正、VFXスーパーバイザーは吉田裕行、アクション監督は園村健介、特殊メイクデザイン・特殊造形は藤原カクセイ、音楽は佐藤直紀、主題歌はBUMP OF CHICKEN『邂逅』。
出演は山�ア賢人、染谷将太、奈緒、國村隼、小林薫、北村一輝、安藤政信、村上虹郎、板垣李光人、桐山漣、石田法嗣、高橋里恩、嶋田久作、眞島秀和、筒井真理子、吹越満、山崎一、賀屋壮也(かが屋)、浦井のりひろ(男性ブランコ)、平井まさあき(男性ブランコ)、福田裕也、島崎義久、あらいはんぱ、歌川貴賀志、伊藤雄太、宇賀神亮介、奥津裕也、市原朋彦、高品雄基、杉本泰郷、倉冨なおと、伸哉、颯駿介、松村陸斗、葉山侑樹、宮本龍之介、田中尚樹、佐藤岳人、鳥居功太郎、井上雄太、河村晃太郎、平良太宣、小結湊仁、宮澤佑、若尾颯太、後藤田しゅんすけ他。
ナレーションは津田健次郎。


夢枕獏の小説『陰陽師』シリーズから着想を得て、晴明の青年時代を描く完全オリジナルストーリーの映画。
脚本・監督は『アンフェア the answer』『アンフェア the end』の佐藤嗣麻子。
晴明を山�ア賢人、博雅を染谷将太、徽子を奈緒、忠行を國村隼、義輔を小林薫、是邦を北村一輝、貞文を安藤政信、泰家を村上虹郎、帝を板垣李光人、兼茂を桐山漣、春光を石田法嗣、義忠を高橋里恩、茂経を嶋田久作、寛朝を眞島秀和、薫子を筒井真理子、使用人を吹越満、左大臣を山崎一が演じている。

津田健次郎の渋くて低い声によって、平安時代の陰陽師や陰陽寮に関する説明が行われる。いかにも重厚さのある時代物のような雰囲気を感じさせるナレーションだ。
ところが5分ぐらい経った辺りで是邦の授業シーンが少し描かれると、「千年以上前の言葉のままでは何かと不便なので、ここからは現代語でお送りする」という注釈が語られる。
これが軽妙な調子のナレーションなら、別にいいかもしれない。
あるいは「重厚な話と思わせて、実はユーモラスな作品」という落差を狙う演出なら、それも分かる。

しかし実際に見れば分かるが、そういうことではない。
なので、「だったら最初から是邦に現代語に喋らせれば済んだだろ」と言いたくなる。
それで「なんで平安時代の人間が現代語で喋ってるんだよ」と文句を付けるような観客なんて、ほとんどいないでしょ。仮にいたとしても、気にする必要も無いし。
余計なことをやっておいて、ツダケンにナレーションで言い訳させたことによって、そこで一気に映画が安っぽくなってしまうのだ。

是邦が登場した後は、博士と陰陽頭が学生に授業をしている様子が描かれる。
これが「主要キャラクターの紹介」という意図を持った手順ならともかく、ホントに「こういう授業が行われています」ってのを見せるだけなのだ。
だったら、そんなトコを丁寧に描く必要は無いよ。
そこで博士と陰陽頭が学生に開設する知識や技術は、全て晴明に喋らせたり実践させたりすればいい。そうすることによって、「いかに晴明が特別な人物か」ってのをアピールするために利用すればいい。

山�ア賢人は完全にミスキャスト。
安倍晴明って、もっと食えない奴で、どこか胡散臭い雰囲気さえ漂う人物の方がいいと思うのよね。でも今回の晴明は、「アウトローを気取っている硬派な不良高校生」みたいなイメージになってんのよ。
もっと言っちゃうと、カッコ付けてる一匹狼みたいな感じだ。
若い頃の晴明だから若さが見えるのは悪いことじゃないのかもしれないけど、「若いのに妙に大人びて達観した部分があり、泰然自若としている奥底の知れない人物」みたいなキャラの方が良くないか。
この映画の晴明はストレートに若さが見えて、コレジャナイ感が強いんだよね。

映画の冒頭、寛朝の「その夢は過去の記憶です。何が見えますか」という問い掛けの声が聞こえ、晴明は丘の上にいる人影に気付く。晴明の近くには遺体が埋められており、両手が土の上に出ている。人影が一瞬で飛んで来て、父を斬り捨てる。そして晴明は、夢から覚める。
でも、後で「晴明が寛朝の元を訪れている」ってのを描くシーンがあって、そこで同じ夢の映像が描かれるんだよね。
別の角度から描くとか、新たな映像が追加されるとか、そんなことは皆無の全く同じ映像だ。
だったら、冒頭の描写は無くても良くないか。2つ重ねるなら、少しぐらいは変化を付けた方が良くないか。

晴明が公達の前で蛙を殺すシーンと、博雅をネズミで脅かすシーンは、彼の才能の一端を示す手順ではあるが、映像的には地味だ。ただ、いずれも幻覚を見せているだけなので、そこはケレン味たっぶりにVFXで飾り付けなくても別に構わない。
一方、金色の龍が現れるシーンは、かなり派手に演出している。ただ、ちっとも金色の龍には見えないので、わざわざ徽子に「龍」と言わせても「それを龍と思える感覚は凄いよなあ」と嫌味っぽい感想を抱いてしまう。
あと、鮮やかすぎる色彩も、いかにも「CGでござい」という映像なので、果たして正解だったのかどうか。
それ以降の幻想シーンも全て、ちょっと色彩が明るすぎるんじゃないかと感じる。悪い意味で特撮ヒーロー物っぽいと言うか、もっと酷い言い方をするなら安っぽいというか。

学生時代の話だから仕方が無いんだけど、今回の晴明は陰陽師の術を使って活躍することが無い。式神を操ることも無く、前半は探偵&マジシャンみたいなキャラクターになっている。
縄を解いて逃亡する時には、急にワイヤーワークを使った格闘アクションを披露する。その後には貞文たちが武器を使う格闘アクションもあるが、陰陽師ってそういう類のスキルを持つ職業だったかな。
特に晴明のアクションに関しては、ほぼ『るろうに剣心』なんだよね。
そういうのをやりたいのなら、『陰陽師』じゃなくて他の作品でやった方がいいんじゃないか。『陰陽師』で描くべきアクションとは、全く毛色が違うように思うんだよねえ。

今回は博雅と徽子の恋愛劇を大きく扱っているが、もっと「若き日の晴明」にフォーカスを絞り込んだ方が良かったと思うんだよね。
原作ファンからすると、博雅は晴明の相棒で主要キャラなので、若い頃の悲恋が見られるのは歓迎できるのかもしれない。
だけど映画単体で見た場合、晴明に比べると博雅の一般的な認知度は圧倒的に落ちるはずだし。
せめて博雅と徽子の恋愛劇が面白ければともかく、そういうわけでもないし。

ネタバレになるが、呪いの舞を踊っていたのは是邦。その是邦を退治するため、晴明は呪文を唱えて白い龍を放つ。
ひょっとすると、このクライマックスを際立たせるために、そこまでは晴明の陰陽術を地味にして勿体を付けたのか。
まさか、そんなことは無いよね。仮にそうだとしたら、その出し惜しみは何の価値も無いし。
白龍が是邦を襲うシーンにしても、「そこまで待たせただけのことはある」と思わせるような見せ場になっているわけではないし。

晴明が是邦を退治して現実世界に戻ると、「ようやく失っていた記憶を取り戻しました。貴方だったんですね、私の両親を殺したのは」と言い出す。そして完全ネタバレになるが、犯人である義輔と対峙する。
でも、とんなきっかけで晴明が記憶を取り戻したのかは、サッパリ分からない。
「記憶が蘇った」ってのを表現するような映像演出も無く、台詞だけで説明しているのも雑だし。
その後には義輔が動機や犯行の手口を語る回想パートが入るが、安い2時間サスペンスみたいになってるし。

義輔はベラベラと「解決編」としての説明を語り終えると、晴明を刺し殺そうとする。
この「刺し殺そうとする」というシーン、緊張感は皆無。
そしてネタバレになるが晴明は幻影で、逆に義輔が呪術で退治される。ここの呪術は、さすがに特殊効果で飾り付けている。
ただ、話が止まっている中での呪術なので、クライマックスとしての盛り上がりには欠ける。
構成としては、その前の「是邦を白龍で退治する」というシーンの方が、クライマックスとして適しているんだよね。

(観賞日:2025年12月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会