『陰陽師』:2001、日本

時は平安時代。右近衛府中将・源博雅は怨霊に取り憑かれた中納言・藤原兼家に頼まれ、陰陽寮の陰陽師・安倍晴明の屋敷へ向かった。博雅は若い女性・蜜虫に出迎えられるが、彼女は晴明に仕える式神であり、蝶へと姿を変えた。
晴明は兼家の屋敷に向かい、庭の瓜に呪(しゅ)が掛けられていることを指摘した。彼は瓜を割って中に潜んでいた蛇を外に出し、呪を掛けたのが川で死体となっていた女性だと突き止めた。その事件をきっかけに、晴明と博雅の交流は始まった。
都では、左大臣・藤原師輔の娘・任子が帝の子・敦平親王を産んだ。敵対心を燃やす右大臣・藤原元方は、先に帝の子・広平親王を産んでいた娘・祐姫に怒りをぶつける。元方は陰陽頭・道尊の力を借りて、敦平親王に呪を掛けた。
博雅から敦平親王を救ってほしいと依頼された晴明は、彼に笛を吹くよう要求する。晴明は博雅の笛の音を聞いて現れた謎の女・青音を引き連れ、敦平親王の元へ向かった。そして晴明は、道尊の掛けた呪から敦平親王を解放した。
元方は晴明と青音に罪を着せ、捕獲する。彼は部下に晴明を殺させようとするが、師輔に見つかって止められる。帰ろうとした晴明達だが、道尊に操られた男に青音が斬られてしまう。だが、その夜、彼女は何事も無かったかのように復活する。
150年前、桓武天皇は謀反の疑いで弟の早良親王を殺害し、祟りを恐れて長岡京を捨てて平安京に遷都した。彼は早良親王の怨霊を鎮めるための儀式を行ったが、その際に青音は人魚の肉を食べさせられ、不老不死の体となっていたのだ。
道尊は帝への恨みを募らせる祐姫を操って博雅を殺害しようとするが、失敗に終わる。道尊は早良親王を甦らせ、その怨念を利用して都を滅ぼそうとする。晴明は青音と蜜虫を連れて都へ向かうが、博雅が道尊に殺されてしまう…。

監督は滝田洋二郎、原作は夢枕獏(文藝春秋刊)、脚本は福田靖&夢枕獏&江良至、製作総指揮は植村伴次郎、企画は近藤晋、 製作は原田俊明&気賀純夫&瀬崎巖&江川信也&島谷能成、プロデューサーは林哲次&濱名一哉&遠谷信幸、共同プロデューサーは平野隆 &田中渉&大川裕、アソシエイト・プロデューサーは鶴崎りか、撮影は栢野直樹、編集は冨田功&冨田伸子、録音は小野寺修&柿沢潔、照明は長田達也、 美術は部谷京子、特撮監督は尾上克郎、キービジュアル・コンセプトデザイン・衣装デザインは天野喜孝、VFXエグゼクティブは二宮清隆、 メイクアップ・イフェクツ(イフェクトは間違い)は原口智生、特殊造型(造形は間違い)は伊藤成昭、殺陣は諸鍛冶裕太&山田一善、 VFXスーパーバイザーは石井教雄、音楽は梅林茂、音楽プロデューサーは梅林茂&吉澤博美。
出演は野村萬斎、真田広之、伊藤英明、岸部一徳、柄本明、萩原聖人、小泉今日子、今井絵理子、夏川結衣、宝生舞、矢島健一、 石丸謙二郎、石井愃一、螢雪次郎、下元史朗、木下ほうか、国分佐智子、八巻健弐、白井雅士、二橋進、大村正泰、城戸裕次、小柳友貴美 、立原瞳、山本麻生、山口美香、高橋拓未、神宮卓、岡元次郎、清家利一、武田滋裕、藤田健次郎、岡田良治、平井賢治、高尾一生、 中島崇文、岩瀬裕二、入江康之、内海陽子、平山美花ら。


夢枕獏の原作を映画化した作品。夢枕氏の熱烈な出演依頼を受けた狂言師の野村萬斎が、1985年の『乱』以来となる映画への出演を承諾し、平安時代に実在した陰陽師・安倍晴明を演じている。もちろん、これが初めての主演となる。
ダジャレで申し訳無いが、野村萬斎の魅力が満載の映画である。
とにかく、彼だけは完全に別格なのである。
まさに「圧倒的」という表現がピッタリとハマるような存在感で、彼の表情、台詞回し、立ち振る舞い、それら全てが素晴らしいのだ。
晴明に対抗する道尊を演じる真田広之も、熱い演技を見せてくれる。クールで落ち着いた佇まいの晴明に対して、野心に燃える道尊というコントラストをキッチリと表現してくれる。もはや貫禄さえ感じるほどに、悪役としてのスケールを醸し出している。

さて、以上が誉めるべきポイントである。
1人でスクリーンに映って演技をしている時に、それに耐え得るのは野村萬斎と真田広之ぐらいのものである。
で、映画の出来映えなのだが、これはハッキリ言ってどうしようもないレベルである。

まずは前述の2名以外の面々についてだが、女性陣は揃って精彩を欠いている。
これは役者の技量だけの問題ではなく、祐姫を演じる夏川結衣に『八つ墓村』のパロディー(としか思えない)のような芝居しかさせないようなシナリオにも問題はある。
蜜虫を演じる今井絵理子は明らかにミスキャストだが、セリフが少ないのが救いか。
ミスキャストと言えば、早良親王が萩原聖人というのも違和感がある。道尊が力を利用しようと考えるほど強い怨念を持っているようには、とても見えないのだ。
博雅を演じる伊藤英明は、驚いたり怖がったりする時の表情だけはハマっている。しかし、何しろ古めかしい言葉を無理に喋らされているために、台詞回しが学芸会のようになってしまっている。彼に時代劇のセリフは荷が重過ぎたということだろう。

CGはチープで実際の映像から浮いてしまっているが、それは許容範囲としよう(製作費は10億円らしいし)。だが、宝生舞演じる瓜の女の特殊メイクが顔から浮いてしまっていることや、道尊のカラス(っぽいモノ)が作り物であることを強く主張しているのはツライ。
最初の内は、あの鳥はオモチャだという設定なのかとさえ思ってしまった。

ストーリーはエピソードとエピソードが上手く結び付かず、てんでバラバラになってしまっている。それもあって、本来はスケールの大きな内容のはずなのに、なぜだが小ぢんまりした印象になっている。オカルトの雰囲気や様式美も感じさせてくれない。
道尊が早良親王を甦らせて、いよいよ大々的なバトルが展開されることになるのかと思いきや、青音の愛情によって早良親王が怨念を捨ててしまう。まだ晴明が何もしておらず、道尊と全く戦わない内に、あっさりと勝手に終結させてしまう。
早良親王が去った後、「とりあえず形だけでも」ということなのか、晴明と道尊が戦うことになる。しかし、特撮で見せる派手な呪術の攻防が繰り広げられることは無く、とてもクライマックスとは思えないような地味な手合わせだけで終わってしまった。

 

*ポンコツ映画愛護協会