『おもひでぽろぽろ』:1991、日本
東京でOLをしているタエ子は27才で独身。ある時、彼女は会社から10日間の休暇をもらって旅をすることにした。その行き先は、姉のナナ子が嫁いだ山形。タエ子は東京生まれの東京育ちで、田舎に対する強い憧れがあったのだ。
旅の準備や山形へ向かう途中で、彼女は小学5年生の頃の自分を思い出す。隣のクラスの広田との淡い初恋、生理のことを友人が男子に話してしまい、女子全員がからかわれるようになったこと、芝居が高く評価されてスカウトが来たことなど。
タエ子が駅に着くと、彼女より2つ年下の親戚の青年トシオが迎えに来ていた。彼の案内で、タエ子は田舎の様々な風景を目にする。紅花摘みも経験し、田んぼの草取りや乳しぼりも手伝った。すっかり田舎の気分を満喫するタエ子。
タエ子はトシオから、彼が情熱を傾けている有機農業についての話を聞く。タエ子はトシオや中学1年生の姪ナオ子に、小学5年生の頃の話をする。いよいよ東京に帰る前日、タエ子はトシオの家族から、彼と結婚して田舎で暮らさないかと誘われる…。監督&脚本は高畑勲、原作は岡本螢&刀根夕子、製作は徳間康快&佐々木芳雄&磯邊律男、プロデューサーは鈴木俊夫、制作プロデューサーは宮崎駿、企画は山下辰巳&尾形英夫&斯波重治、キャラクターデザインは近藤喜文、作画監督は近藤喜文&近藤勝也&佐藤好春、場面設計は百瀬義行、美術は男鹿和雄、色彩指定は保田道世、音楽は星勝、主題歌は都はるみ。
声の出演は今井美樹、柳葉敏郎、寺田路恵、伊藤正博、北川智絵、山下容里枝、三野輪有紀、飯塚雅弓、押谷芽衣、小峰めぐみ、滝沢幸代、石川匡、本名陽子、増田裕生、佐藤広純、後藤弘司、石川幸子、渡辺昌子、伊藤シン、仙道孝子、古林嘉弘、市川浩、近藤芳正、武藤真弓、大城誠晃、小島幸子、飯尾摩耶、林亜紀、井上大輔、山本剛ら。
ヒロインと同年代の女性をメインターゲットに考えたと思われる、ノスタルジーをくすぐるように作られた映画。タエ子とトシオの声は、今井美樹と柳葉敏郎が担当している。
声を録音してから絵を描くというプレスコ方式なので違和感は少ないが、タエ子とトシオの顔が今井美樹と柳葉敏郎に似ているのはやり過ぎだろう。昭和40年代に小学生だった人は、タエ子が思い出す小学生時代のエピソードに、「ああ、あるある」と思うことも多いだろう。「ライディーン」「想い出の渚」「ひょっこりひょうたん島」「好きになった人」など、当時のヒット曲を使っているのもノスタルジーを煽る。
だが、ふと思うのだ。同じノスタルジーを感じさせるアニメ作品ならば、さくらももこの『ちびまる子ちゃん』の方が遥かにクオリティが高いのではないかと。あの作品の方が笑いのセンスに溢れている分、単なるノスタルジーでは終わっていない。間違った田舎賛歌への否定や、タエ子とトシオの恋愛など、ノスタルジー以外の要素も無いわけではない。しかし、結局はノスタルジーの中で負けている。「大人の観賞に耐えうる作品」と言えば聞こえはいいが、おそらく子供は楽しめないだろう。
今作品を楽しめる観客層は、かなり狭いと思う。アニメということで微妙な心理の動きを表情や動きで表現できないと考えたのか、やたらタエ子が自分の心境を語る台詞が多い。「この気持ちはなんだろう」とか「握手したいと思った」とか、それは思っていればいいことで、モノローグで語らせるものではない。説明的すぎるのだ。
絵の描き方が完全にアニメ的というわけでなく、キャラクターの頬にシワを付けたりして実写に近付けている。これがあまり見栄えの良いものではなく、どこか微妙に気持ち悪かったりもする。リアルにしたつもりなのだろうが、逆に不自然さを感じてしまう。最大の疑問は、「この作品をアニメという形で映像化する意味は何?」ということ。これまでのスタジオ・ジブリ作品の場合、「実写化は技術的に難しい」「実写化すると製作費が莫大になる」など、“アニメ作品である理由”が存在した。しかし、この作品には、そういったモノが見当たらない。
舞台は現代だし、実写映画で充分に作れたはず。製作費にしても、ひょっとするとアニメより実写の方が低く抑えられたかもしれない。実写で出来るモノを、あえてアニメ映画で作る理由が、この作品からは見えてこない。
アニメ映画が目指すべきは、実写に限りなく近付くことではあるまい。