『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』:2012、日本

警視庁刑事部捜査一課管理官の鳥飼誠一は、警察庁長官の池神静夫に「警察機構維新改革建白書」なる書類を提出していた。しかし池神は「何度言ったら分かるんだ。こんな物、実現するはずがないだろ」と冷たく言い、その書類をゴミ箱に捨てた。鳥飼は「無罪判決が確定しました」と言い、検察側から戻って来た6年前の少女誘拐事件に関する証拠品を差し出した。それは犯行に使われた拳銃だ。「だったら保管庫に持って行けばいいだろう」と軽く言う池神は、6年前の事件など全く覚えていなかった。
12月21日、警視庁湾岸警察署。犯人逮捕のために商店街で張り込みを続けていた刑事課強行犯係係長の青島俊作と盗犯係の恩田すみれは、事件が解決したので戻って来た。お台場では国際環境エネルギーサミットが開催されており、刑事課の緒方薫と森下孝治は警備に向かう。青島たちが署内に入ると、いつもより随分と人が少なかった。栗山孝治は署長となった真下正義から直々の命令を受け、本来は鑑識の仕事である指紋の照合を行っていた。篠原夏美はスピード違反の取り締まりから戻って来たが、それも真下の命令だった。
強行犯係の面々が本来と異なる業務をやらされていると知り、青島は真下に抗議した。しかし真下の取り巻きである魚住二郎と中西修は、彼が刑事課統括官も兼ねていることを告げる。真下は青島とすみれに、エネルギーサミットの開催で人手不足のため、命令系統を一本化して指揮することにしたのだと説明した。彼は青島に、交通課と会計課の手伝いを命じた。一方、すみれは過去の事件で弾丸を受けたことが原因で左胸部の神経に障害が残り、耐え難い痛みに苦しんでいた。彼女は魚住に辞表を提出し、誰にも秘密にするよう頼んだ。既に彼女は、明日の夜行バスで大分へ帰郷することを決めていた。
会計課の手伝いに赴いた青島は、エネルギーサミット会場の日本科学未来館前で男性が拳銃を持った人物に拉致される事件が発生したという知らせを受け、すぐに出動した。現場に到着した青島や伸次郎、夏美たちは、手分けして聞き込みを行った。湾岸署に戻った青島が大会議室の準備を進めていると、交渉課課長の小池茂がやって来た。誘拐事件に切り替わる可能性があるためだという。そこへ、男性の死体が海浜トンネルで発見されたという知らせが届いた。それは連れ去られた男性で、何者かに撃ち殺されていた。
捜査会議が1時間の延期となり、青島たちは待機を指示された。警察庁では官房審議官の室井慎次が幹部会議に呼び出され、事件の概要について説明を受けた。次長の安住武史は室井に、情報収集を命じた。犯行に使われた拳銃は過去の事件で警察が押収した物で、3時間前に保管庫から持ち出されていた。池神は「ここを対策班にしよう。指示はこの部屋から出す。臭い物には蓋をしようか」と告げた。
青島は捜査会議が始まる前に、お茶と水を注文するよう研修生の王明才に指示してあった。しかし間違えて注文したため、届いたのは大量のビールだった。しかも業者から返品不可と言われてしまい、青島は頭を抱える。署の予算で大量のビールを購入したことが発覚すれば、大問題になるからだ。そこへ真下が来たので、青島や伸次郎たちは慌ててビールを隠した。青島は何としてでも隠蔽すると決めた。
鳥飼が管理官として湾岸署に到着し、捜査会議が始まった。被害者の体内から弾丸が摘出されているにも関わらず、「拳銃の種類は不明」という捜査報告が出たため、青島たちは疑問を抱く。彼らは王を利用し、そのことを質問させた。池神と電話を放した鳥飼は「言わなくていい」と指示を受け、「報告はありません」と告げた。安住は鳥飼に、所轄を排除して本庁捜査員だけで捜査するよう命じた。鳥飼はそのことを捜査会議で話し、捜査情報は全て文書で自分に届けるよう指示した。
青島たちはビールを覆い隠し、危険物だと偽って触れさせないようにする。池神や安住たちは、証拠品を持ち出した人物を割り出した。その人物が偽名を使わなかったため、筆跡から特定されたのだ。犯行現場は人込みの中であり、わざと見せ付けているようにしか思えない。安住は動機について疑問を抱き、池神は「関係の無い者は部屋から出ろ」と命じた。室井は「確保の命令が出ないのは、被疑者が警察官だからですか」と質問する。そこへ警察行政人事院情報技術執行官の横山邦一が現れ、「共犯者が必ずいます。拘束せずに泳がして、仲間を捕まえる」と説明した。横山は隠蔽のプロと呼ばれる男だった。
横山は鳥飼に電話を掛け、「そこに捜査一課の久瀬智則警部がいるね。拳銃を持ち出したのは彼だ」と告げた。電話を切った彼は、「さて、身代わりは見つかりましたか」と問い掛ける。翌朝、青島は鳥飼たちから、石川哲という男を重要参考人として内密に任意同行するよう指示される。石川は拉致現場近くで目撃されているという。青島たちは石川を連行し、鳥飼と彼の部下たちに引き渡した。取調室に入る石川たちを青島が見送っていると、すみれが来て「昨日、恐喝未遂で彼を取り調べた。説教して夕方に帰したの」と告げた。
青島は鳥飼の元へ行き、石川にアリバイが成立していることを教えた。ところが鳥飼は本庁に、「青島の取り調べで石川が自供した」という報告書を提出した。鳥飼は捜査会議でも、石川の逮捕を報告した。青島が意見を述べようとすると、鳥飼は無視して捜査会議の解散を宣言した。室井と電話で話した青島は、自分が取り調べたことになっていると知る。アリバイのある男が犯人にされたことを聞かされた室井は、「私に預けろ」と口にした。
青島はビールの存在が露呈したため、真下に「これは押収品です。署内のある部署が捜査費用を使って購入したんです。世間に知れたら署長が責任取らされますよ」と語った。真下は狼狽し、ビールを隠すよう命じた。室井は鳥飼と電話で話し、石川を容疑者として送検することを聞かされる。鳥飼は淡々とした口調で、「警察官の犯罪を隠蔽しろとの上からの指示です」と述べた。所轄からの報告書があると隠蔽が発覚するため、鳥飼は揉み消していた。
建築中のビルで男性の変死体が発見され、青島たちは現場へ向かう。捜査本部で土門優治という被害者の名前を聞いた真下は顔色を変え、「知ってます」と告げた。土門は6年前に起きた少女誘拐事件の被告で、2年前に逮捕されていた。まだ交渉課にいた真下は、その事件を担当していた。だが、土門は2週間前に無罪判決が出て釈放されていた。今回の犯行でも、久瀬が持ち出した拳銃が使われていた。
青島はすみれが痛そうに顔を歪めているのを目撃し、伸次郎を取調室に呼んで「すみれさん、なんかあったの?」と尋ねる。伸次郎は酔っ払った彼女から事情を聞かされたが、内緒にするよう頼まれていた。しかし青島に凄まれた彼は、弾丸の残留物の後遺症があって仕事を続けることは出来ないらしいと打ち明けた。青島はすみれと2人きりになり、そのことについて話す。「すみれさん、辞めないよね?」と青島は期待を込めた笑みを浮かべ、刑事課に戻った。
青島は6年前の事件が気になり、夏美たちに調べさせた。当時6歳の新谷ひろみという少女が誘拐され、身代金要求の電話があった。北品川署に捜査本部が設置され、創設されたばかりの交渉課が投入された。真下や彼の部下だった小池たちが誘拐犯と交渉し、共犯者がいることが判明した。だが、犯罪捜査規定を理由に、捜査は途中で打ち切られた。交渉から48時間が経過しても犯人に接触できなかった場合、指揮権が交渉課から捜査一課に移るのだ。その後、捜査一課はローラー作戦を開始したが、それに気付いた誘拐犯は逃走した。翌朝、潜伏場所で射殺された少女が発見された。土門は容疑者として逮捕されたが、証拠不充分で無罪となっていた。
伸次郎は青島に、小池が捜査本部に留まっていることを教えた。青島は小池の元へ行き、それとなく誘拐事件のことで探りを入れてみた。その動きを知った横山は、「仕方がありません。ウチで小池を聴取します」と述べた。青島が何も聞き出せない内に鳥飼が来て、「貴方を聴取する」と告げる。すると小池は笑みを浮かべた後、警察庁と繋がっているマイクに向かって「アンタたちが交渉を打ち切ったからだ」と怒鳴ってから連行されていった。久瀬は監視の公安2名が目を離した隙に姿を消した。
鳥飼の部下たちから聴取を受けた小池は、「6年前、もう少しで女の子を助けられたのに、バカな上司が邪魔をしたせいで殺された」と語った。彼は殺した相手が6年前の事件の主犯と共犯者であることを告げる。6年前の誘拐事件では、久瀬も被害者家族のケア担当として関わっていた。安住たちが事件の隠蔽方法を思案する中、鳥飼は青島に辞職を勧告し、室井を新しい捜査本部長にしてから責任を取らせて辞職させるよう提案する。池神は彼の案に乗り、室井を捜査本部へ向かわせる。彼は安住に、青島と室井のことをマスコミにリークして彼らの責任であることを既成事実にするよう命じた。
室井が湾岸署と来るのと入れ違いで、すみれは荷物をまとめて出て行った。鳥飼は青島の元へ行き、辞職勧告書を突き付けた。青島は憤慨するが、警察手帳とバッジを渡すしか無かった。同じ頃、久瀬は真下の幼い息子を誘拐していた。室井と遭遇した青島は、彼もクビになることを聞かされた。真下は妻の雪乃から電話を受け、息子が久瀬に誘拐されたこと知る。青島は鳥飼に「これは俺たちの事件だ」と鋭く言い放ち、事件の捜査に赴いた。久瀬は6年前の犯人の手口を模倣していた…。

監督は本広克行、脚本は君塚良一、製作は亀山千広&永田芳男、プロデューサーは立松嗣章&上原寿一&安藤親広&村上公一、協力プロデューザーは石原隆&高井一郎&臼井裕詞&金井卓也、ラインプロデューサーは巣立恭平、撮影は川越一成、照明は加瀬弘行、美術制作は後藤正行、美術監督は梅田正則、美術プロデュース/デザインはあべ木陽次、美術は大倉謙介、録音は加来昭彦、編集は田口拓也、シリーズ音楽は松本晃彦、音楽は菅野祐悟。
主題歌『Love Somebody CINEMA Version IV』歌:織田裕二、作詞:織田裕二with MAXI PRIEST、作曲:GARDEN、編曲:松本晃彦。
出演は織田裕二、深津絵里、柳葉敏郎、ユースケ・サンタマリア、小栗旬、伊藤淳史、内田有紀、小泉孝太郎、筧利夫、真矢みき、水野美紀、北村総一朗、小野武彦、斉藤暁、大杉漣、香取慎吾、佐戸井けん太、小林すすむ、甲本雅裕、遠山俊也、川野直輝、滝藤賢一、津嘉山正種、大和田伸也、前原実、真柴幸平、佐藤正行、山口年男、赤池公一、白木隆史、森啓一郎、山本栄治、久保貫太、本間剛、山路和弘、貴山侑哉、ムロツヨシ、すわ親治、掛田誠、浜田学、佐藤誠、大波誠、迫田孝也、浜田信也、古川りか、李千鶴、幸田尚子、中野剛、青山草太、西ノ園達大、岩田知幸、反田孝幸、安部賢一、浦田キンタ、日比大介、花戸祐介ら。


フジテレビ製作の連続TVドラマ『踊る大捜査線』の劇場版第4作。
青島役の織田裕二、すみれ役の深津絵里、真下役のユースケ・サンタマリア、室井役の柳葉敏郎、スリー・アミーゴスの北村総一朗&小野武彦&斉藤暁、魚住役の佐戸井けん太、中西役の小林すすむ、緒方役の甲本雅裕、森下役の遠山俊也、安住役の大和田伸也など、TVシリーズからのレギュラー陣が勢揃いしている。
小林すすむは、これが遺作となった。
沖田役の真矢みき、新城役の筧利夫、夏美役の内田有紀、小池役の小泉孝太郎、池神役の津嘉山正種、横山役の大杉漣、倉橋役のムロツヨシのように、TVスペシャルや劇場版から加わった面々もいる。
鳥飼役の小栗旬、伸次郎役の伊藤淳史、栗山役の川野直輝、王役の滝藤賢一は、前作で初登場した面々だ。

今回のゲストは、久瀬役の香取慎吾。
他にゲスト俳優と呼べる新顔が見当たらないのは、彼1人の訴求力で充分ということなのか、今までの顔触れで充分ということなのか、その考えは良く分からない。
その他に、石田剛太が前作に引き続いて警視庁刑事部交渉課の渡辺敬祐として登場したり、貴山侑哉が『歳末特別警戒スペシャル』と第3作に続いて捜査一課の細川役で出演していたり、TVシリーズにイメクラ店長役で出演して『秋の犯罪撲滅スペシャル』ではホストクラブ店長だった武野功雄が警備員に転職して登場したり。
三上市朗が毎度の如く『スタートレック』のライカー副長のコスプレで登場したり、永野宗典が第3作とは別路線のバス運転手として登場したり、北山雅康が第3作に引き続いて坂下始(劇場版第1作の犯人)を演じていたり、田口主将がTVシリーズ第1話と同じ浮浪者の役で登場したりと、小ネタ的なキャストも何人かいる。

劇場版1作目の時は、「これを映画でやる必要があるのか。テレビの2時間スペシャルで充分じゃないのか」と思った。
2作目の時は、「前作が大ヒットしたから続編を作りたくなるのは分かるけど、やっぱりテレビの2時間スペシャルでいいんじゃないか」と思った。
3作目の時は、「さすがに賞味期限が切れているだろ。それに和久さんが登場することも不可能になったんだし、もう2作目で打ち止めにすべきじゃなかったか」と思った。
そして、この4作目である。
もはや、何を言えばいいのだろうか。

そもそも、前作が既に「シリーズの同窓会」という状態だったのに、それ以上、何をやろうというのか。同窓会なら一度で充分だし、そして同窓会をやっちゃったら、そこから話を続けるのは無理でしょ。
もう味が無くなっているのに、まだ噛み続けようというのか。
明らかに「稼げるコンテンツなので、まだまだ利用したい」という商業主義によって作られた続編であり、それ以外の企画意図は何も見えて来ない。
まだ「ファンの熱望を受けて続編を作った」ということならともかく、稼げるコンテンツだから続編を作るってのは、商売人としては間違っちゃいないが、映画人としては、どうだろうね。
この映画の存在意義って、あえて言うなら「水野美紀の久々の登場」ぐらいでしょ。それに、そもそも前作で水野美紀を復活させるべきだったのに、バーニングプロダクションの圧力に負けて出演させなかったわけだから、この4作目で復帰させても素直に称賛できないし。

このシリーズは、作品を重ねるごとにシナリオの出来栄えがどんどん悪くなっていった。
TVシリーズから始まり、君塚良一が「あたかもリアリティー」を構築していたはずの脚本は、劇場版の3作目に至ると、すっかりファンタジーの世界へ突入してしまった。
それは、ファンタジーとして面白いという意味では、もちろん無い。
まるでリアリティーが失われ、ファンタジーとして受け止めないと成立しないようなストーリーになってしまったということだ。

そして今回は、ついに初っ端から破綻したシナリオになっている。
冒頭シーン、青島とすみれが夫婦、伸次郎が従業員として、商店街のから揚げ専門店で働いている。
それは「暴行魔を捕まえるための張り込み」という設定なんだけど、その店も、青島たちも、すっかり「商店街では御馴染みの顔」として人々から認知されており、常連客も付いている。
そんなわけねえじゃん。こいつら、潜入捜査のために、どんだけ長い期間に渡って店を営業してんのよ。
そこまで馴染むには、少なくとも数ヶ月は連続で営業しないと無理だろうに。
幾ら喜劇として描いていても、その嘘はデカすぎる。

池神は警察庁の幹部会議で「さあ、臭い物には蓋をしようか」と言うが、ものすごく違和感のある、いかにも「作られた」と感じさせるセリフだ。
しかし、そんなセリフを使って「彼らのやろうとしていることは、臭い物に蓋をするための行動である」と説明しないと、観客に伝わらないってことなのだ。
でも、そんなのは何の言い訳にもならない。
そんな不自然なセリフに頼るのではなく、本来はドラマの中で伝わるようにしておくべきなんだから。

横山は鳥飼に電話を掛け、「そこに捜査一課の久瀬智則警部がいるね。拳銃を持ち出したのは彼だ」と告げる。
ここで鳥飼が視線を向け、初めて久瀬の顔が画面に登場する(半分しか見えないけど)。
それはキャラの出し入れとして上手くない。もっと早めに、捜査会議が開始された段階で、そこに久瀬がいることを示しておくべきだ。
そうじゃないと、「そこに捜査一課の久瀬智則警部がいるね」と言われても、こっちは分からないんだから。
そこは演じている香取慎吾の知名度に頼り過ぎた構成だ。

青島は鳥飼から石川という男の任意同行を指示されるが、その時点で観客は、そいつがスケープゴートだと分かっている。
それは上手い見せ方とは思えない。
青島たちは石川にアリバイがあると分かって疑問を抱くけど、こっちは「そりゃ犯人じゃないからね」と分かっている。主人公より先に、こっちが裏事情をお見通しってのは、ミステリーとして成立していない。
そこは青島たちが疑問を抱いて調べた結果としてスケープゴートだという事実が判明し、その時点で観客もその事実を知るという形にすべきじゃないかと。
もちろん、先にネタを明かした方が分かりやすいってことはあるけど、そこを種明かしした上で進めるのは無格好だと思うなあ。それに、青島たちが石川を見つけて確保するために行動するシーンが、こっちからすると「無駄な手間」になっちゃうし。

っていうかさ、拳銃を持ち出したのが捜査一課の久瀬だと分かっているのに、「泳がせて共犯者を捕まえる」ってのはバカにしか思えない。泳がせている間に、新たな事件が発生したらどうするんだよ。久瀬を拘束した上で、尋問したり家宅捜索したりすればいいでしょうに。
横山は隠蔽に関しちゃプロかもしれんが、捜査に関してはズブの素人だろ。公安が監視している設定だけど、久瀬の使っているパソコンや携帯電話をチェックしているわけでもないから、外部と好き勝手に連絡できる状態だし。
どうやって共犯者を見つけようとしているのかもサッパリ分からんよ。ただボーッと見ているだけにしか思えん。
しかも、目を離した隙に逃げられるって、バカすぎるだろ。
久瀬が巧妙だったわけじゃないぞ。目を離した隙に逃げただけなんだから。

それと、そもそも久瀬って最初の殺人を遂行した後、なぜ捜査本部へ普通に顔を出していたのかと。
そんな必要性、全く無いでしょ。姿を消しておいて、真下の息子を拉致すりゃいいでしょ。
真下の息子を誘拐する際に、6年前の事件をなぞる意味も良く分からないのよね。
それによって6年前の事件との関連性は分かるけど、既に分かってるし。
だから「6年前の事件をなぞることで真下に苦しみを与える」とか、そういう効果も無いし。

青島は勘だけで捜査を進めていく。「何か怪しい」ってことで誘拐事件について調べ、「何か怪しい」ってことで小池に探りを入れる。
もちろん刑事にとって勘は大切な予想だが、何の裏付けも無く、何の証拠も無いのに、勘だけで突き進むってのはどうなのよ。
真下の息子の事件に関しては「被疑者の気持ちになって逃走する」という捜査方法を取るが、ただ行き当たりバッタリに自転車で走り回っているだけ。
実際、室井から情報を貰ったことで、ようやく久瀬の居場所に近付いている。

で、幾つも倉庫がある中で、青島は真下の子供がバナナの倉庫にいると確信するが、その理由は「子供はバナナが好きだから」だってよ。
なんだ、そのテキトーすぎる決め付けは。
そりゃあ未来館で「子供たちがバナナの展示場所で盛り上がっている」という描写はあったけど、それを伏線と呼んじゃうのはメチャクチャだ。
おまけに、室井に「全捜査員に告ぐ。バナナだ」とマヌケなセリフを言わせ、場違いな緩和を担当させる始末。

で、青島が窮地に陥ったところで、すみれがバスで倉庫へ突っ込んで、それで事件を解決に導くのだが、「やっちまったなあ」という印象しか無い。
クライマックスを派手に盛り上げたかったんだろうけど、バスは無いわ。
そもそも、すみれはどの倉庫に青島たちがいるのか知らないはずだし、しかもバスで突っ込んで下手をすれば青島や真下の子供が犠牲になるぞ。
それと、そもそも左胸に激しい痛みを抱えている奴が、長距離バスで大分まで帰郷しようとしている時点で不自然だよな。
「最後にバスで突っ込ませたい」→「だから長距離バスで帰郷しようとしていることにしておく」という逆算なんだけど、その計算は無茶しすぎ。

犯行動機については、久瀬は「遺族であるシングルマザーと私的な付き合いがあった」という設定なので、個人的な復讐として理解することは出来る(本人が「これは正義だ」とか言っちゃってるので、ちょっとズレは感じるけど)。
ただ、鳥飼や小池に関しては、まるで分からん。
6年前の事件が少女が死んだのは、真下が犯罪捜査規定を杓子定規に守り、捜査一課がローラー作戦という愚かな捜査方法を取ったのが原因であり、警察組織の腐敗が原因ではない。
だから、鳥飼や小池たちが「腐敗した警察を告発して再生させるため」として計画を遂行するのは、完全にズレていると言わざるを得ない。

(観賞日:2013年11月25日)


2012年度 HIHOはくさいアワード:6位

 

*ポンコツ映画愛護協会