『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』:2023、日本
美神アンナが栗田一秋の声で目を覚ますと、知らない部屋で2人とも縛られていた。そこへ風真尚希が現れ、データを渡すようアンナに要求した。彼はアンナのネックレスを奪い、「残りはどこだ」と尋ねた。アンナが黙っていると、風真は栗田を殺害した。それはアンナが見た夢だった。アンナが仮住まいの探偵事務所へ行くと、風真と栗田は1千万円の報酬が入る依頼が入って喜んでいた。依頼人は榎戸力丸という老人で、2日前に愛犬の獅子丸を誘拐され、犯人から電話で2千万円を要求されていた。
アンナたちは身近な人間が犯人だと確信し、調査を進めることにした。朝食を買いに出たアンナの様子を、何者かが監視していた。その夜、閉店の貼り紙がある建物をアジトにしている長髪の男は、空き巣事件の発生を伝える警察無線を傍受していた。彼は2人の仲間に電話を入れ、警察に注意するよう告げた。2人の仲間は、千曲鷹弘と四万十勇次が使う車に細工を施した。ホームレスの取材を終えた神田凪沙は、工事現場で交通整理のバイトをしているアンナに気付いて声を掛けた。アンナは凪沙から誘われたルームシェアを断って独り暮らしを始めており、そのために金が必要なのだと語った。
アンナは凪沙からネックレスが小さくなっていることを指摘され、データの半分は隠してあるのだと述べた。警官2人が空き巣事件の聞き込みに来ると、アンナは凪沙に促されて別の世界に入った。彼女は5分前に通ったホームレス風の男が変装した犯人だと推理し、警官に教えた。凪沙は改めてルームシェアに誘うが、アンナは断った。「窓」と呼ばれる男がアンナを観察しており、電話を掛けて「そろそろ始めよう」と口にした。
翌朝、またアンナは昨日と同じ悪夢で飛び起きた。家を出た彼女は尾行している窓に呼び掛け、昨日から付けている理由を尋ねた。窓の名刺には数式が書いてあり、アンナが意味を尋ねると「貴方と貴方の友達には、残された時間が無いということです」と述べた。「ほら」と彼が指差すと、タカとユージと小山川薫が乗る車が猛スピードで走って来た。ブレーキの壊れた車は、停まっていた車両に衝突した。そこへダンプカーが突っ込んで来て、タカとユージと薫は死亡した。
アンナが風真&栗田と事務所に戻ると榎戸が来ており、犯人から電話で仮装通貨ではの支払いを要求されたと話す。アンナが電話を受けて上原黄以子の元へ行くと、路上で刺されて倒れていた。黄以子は窓の名刺を持っており、アンナに看取られて死亡した。姫川烝位は風真&栗田とオープンカフェで話している時に毒殺され、騙されて事務所に来た緋邑晶はダーツで殺された。星憲章は突き落とされて死亡し、リュウ楊一&リンリンと凪沙も殺された。だが、それは全てアンナが見た夢だった。
凪沙は事務所で風真&栗田&緋邑と会い、アンナが身近な人々を殺される夢ばかり見ていることを教えた。風真は栗田に、最近はアンナに避けられていることを漏らした。栗田は凪沙たちに、自分と始が好きだった破裏拳ポリマーのレアフィギュアを探していることを話した。風真は電話を受け、「そろそろ始めようかと」と告げられた。夜、アンナは交通整理の先輩から、空き巣が捕まったこと、盗んだ物が1体100万円のレアなフィギュアだったことを聞かされた。
アンナの前に窓が現れ、「はじめまして。でも貴方は、きっとそう感じてないんじゃないかな」と告げた。彼は菅朋美の研究施設を資金面でバックアップしていた超富裕層の代理人だと自己紹介し、アンナが見た悪夢の内容を全て言い当てた。真相を知ってみたいと思わないかと窓は言い、残りのデータの隠し場所を教えるよう迫った。彼はアンナに、協力しないと夢が現実になると脅しを掛けた。そこへバイクに乗った男たちが現れ、窓を殺して逃亡した。彼らは閉鎖された児童養護施設「にじの庭」に戻り、仲間と合流した。シンヤをリーダーとする一団は、ある人物の指示を受けて動いていた。
アンナは朋美の元へ赴いて窓の名刺を見せ、数式の意味を尋ねた。朋美は黄金螺旋の式だと教え、遠い所から近付いて最後は風真と栗田を殺すのだと解説した。長髪男は仲間2人をアジトに呼び出し、ギャラをくれる窓が殺されたことを話す。2人は「中途の命令が来ない限り、ターゲットを1人ずつ殺す契約だ」と言い、「ギャラが保証されない限りは働かない」と反発する長髪男を殺害した。アンナが悪夢で目を覚ますと、心配した風真が部屋を訪ねて来た。風真が鞄を落とすと、中からハサミと電波探知機が飛び出した。
電波探知機が鳴ったので、アンナは発信源を探った。彼女が壁を壊すと、巨大な機械が埋め込まれていた。星を呼んで見てもらうと、それは外部から脳や体に刺激を与えて特定の夢を見せる装置だった。アンナは風真と星に、夢に出て来た男が現実にも現れたこと、目の前で殺されたが死体が消えたことを話す。「現実かどうか分からない」と彼女は困惑を示すが、窓の名刺は手元にあった。アンナが2週間前にマンションを契約した不動産屋へ行くと、閉店して誰もいなかった。
アンナと風真は事務所へ戻る途中、凪沙と出会った。そこへバイカー集団が現れ、凪沙を殺して逃亡した。アンナが自分のせいだと感じて嘆いていると、栗田は「誰かにとって大切な物だから、始はデータを残した。俺に任せろ」と告げた。アンナが歩いているとバイカー集団が現れ、ネックレスを強奪した。しかしアジトに戻った一味が中身を確認すると、データではなくアンナ&風真&栗田のビデオメッセージだった。そこへ神奈川県警捜査一課の面々が乗り込み、一味を捕まえた。
一味は凪沙の殺害を否定し、「善と悪の区別も付かねえのか」と吐き捨てた。アンナ&風真&栗田は車に乗り、一味を連行するパトカーに同行した。風真は一味が鉄パイプで窓やアンナを襲撃したにも関わらず、凪沙がナイフで刺し殺されたことへの疑問を抱いた。そこに電話が掛かり、「見つけましたよ」と言われた風真は本物なのかと確認した。直後、ダンプカーがタカたちのパトカーに激突し、その場から逃走した。タカたちは重体に陥り、病院に搬送された。アンナは敵の作戦を逆手に取るため、マンションに戻って眠りに就く。監禁されている部屋を冷静に観察した彼女は、部屋に飾られているトマトの絵が悪夢の鍵を握っていると推理した…。は入江悠、脚本は秦建日子、製作は沢桂一&高橋雅美&藤島ジュリーK.&高津英泰&下田淳行&藤本鈴子&出來由紀子、エグゼクティブプロデューサーは飯沼伸之&田中宏史&三上絵里子、企画・プロデューサーは北島直明、プロデューサーは星野秀樹、ラインプロデューサーは及川義幸、撮影は冨永健二、照明は中村晋平、録音は古谷正志、美術は高橋努、装飾は谷田祥紀、編集は佐藤崇、VFXスーパーバイザーは赤羽智史、音楽は横山克。
出演は広瀬すず、櫻井翔、江口洋介、佐藤浩市、笹野高史、橋本環奈、真木よう子、勝地涼、中村蒼、富田望生、大島優子、上田竜也、奥平大兼、加藤諒、南野陽子、魔裟斗、栄信、岡宏明、駒木根葵汰、三島あよな、芹澤興人、川瀬陽太、高橋里恩、伊澤彩織、田邊和也、成田瑛基、一條恭輔、山岸健太、喜多貴幸、指出瑞貴、東景一朗、松村光陽、児玉拓郎、吉岡睦雄、浜島大将、中上サツキ、梅舟惟永ら。
日本テレビ系の『日曜ドラマ』枠で放送されたTVドラマ『ネメシス』の劇場版。
TVシリーズの総監督だった入江悠が監督を務めている。
脚本はTVドラマ『そして、誰もいなくなった』『特命刑事 カクホの女』の秦建日子。
アンナ役の広瀬すず、風真役の櫻井翔、栗田役の江口洋介、朋美役の橋本環奈、凪沙役の真木よう子、タカ役の勝地涼、ユージ役の中村蒼、薫役の富田望生、上原役の大島優子、星役の上田竜也、姫川役の奥平大兼、リュウ役の加藤諒、緋邑役の南野陽子、リョータ役の駒木根葵汰、リンリン役の三島あよなは、TVドラマの出演者。
他に、窓を佐藤浩市、榎戸を笹野高史が演じている。粗筋で触れたように、「アンナが窓に声を掛けられた後、周囲の人間が次々に殺される」ってのは、全て夢の出来事だ。
「実は夢でした」とオチが明かされるまでは、不可解さを幾つも感じることになる。
まずタカたちが死んだ時点で、「そこからカットが切り替わるとアンナが事務所に戻っている」ってのが変でしょ。
なんで窓を詰問しようとしないのか、っていうか窓がタカたちの死を見せるだけで消えたのは何のつもりなのかと言いたくなるし。そこで浮かんだ諸々の疑問は「だって夢だから」ってことで理屈は通る。だけど、「全て夢でした」という内容にしていること自体に対し、大いに疑問が沸くぞ。
あと「夢だから何でも有り」ってことなのかもしれないけど、姫川以降の殺害はアンナが現場で目撃していないというのも、見せ方としてどうなのかと。
「そもそも夢オチってのはどうなのか」ってのをひとまず置いておくとして、全ての殺人に対するアンナの反応を見せた方が良くないか。
どうせ夢オチをバラした時点で脱力感と冷めた気持ちを与えることになるのは確実なので、それなら最初から「これは夢」と匂わせる形で見せた方がいいんじゃないかと。アンナが窓に指摘するように、「身近な人間が次々に殺される夢を見せて、それが現実になると言って脅しを掛ける」ってのは、とても回りくどい手口だ。「アンナのデータを手に入れる」という目的を考えた時に、そんな無駄な手間を掛ける意味や必要性を全く感じない。
「予知夢」ってことにも意味は無くて、観客を脅かすための安っぽい仕掛けに過ぎない。
アンナのデータを狙うグループを1つじゃなくて2つにしているのも、物語に深みや面白みをもたらす効果には繋がっていない。ただ単に、無駄にゴチャゴチャさせているだけだ。
ギャラが確約されていないのに「契約だから仕事は続ける」と言い、大事な通信係の長髪男を殺す連中の行動はバカにしか見えないし。アンナの部屋を訪ねて来た風真は、床に置いた鞄を蹴飛ばす。すると鞄の中から、大きなハサミと電波探知機が飛び出す。
その都合の良さには、苦笑せざるを得ない。
あのデカさの鞄にハサミと電波探知機だけ入れてアンナの部屋を訪ねるって、どんな都合の良さだよ。
ただ、「その程度のことなんて」と思っちゃうほど、壁に埋め込まれている巨大装置の出現には笑っちゃったわ。
たぶん「脅威と驚愕のシーン」のはずなんだけど、まあバカバカしさしか感じないわな。アンナの眼前で凪沙がバイカー集団に殺された後、カットが切り替わると「アンナが警察病院のベッドで目を覚ます」という様子が映る。薫の案内で遺体安置室へ移動したアンナは、凪沙の遺体を確認する。
つまり、そこは「夢かと思ったら現実だった」という見せ方にしているわけだ。
でも、ただ脱力させるだけの肩透かしに終わっている。
何だろうなあ、エセ『インセプション』みたいなことをやろうとしているのかなあ。
「夢か現実か」ってのは多くの作品で使われるモチーフだが、上手く乗りこなせているとは到底言えない。終盤に入るとアンナたちは敵の作戦を逆手に取るため、星の協力を取り付けた上でアジトに乗り込む。すると周囲の景色が駐車場やカフェや路上へと次々に切り替わり、その中で一味と戦うことになる。
だけど、ここで次々に風景が切り替わる必要性が分からん。
敵からすると「アンナたちを倒す」ってのが目的であり、そのために景色の切り替えは全くの不要だ。
「面白いアクションシーンのための絵作り」という演出的な狙いがあったのかもしれないが、だとしても効果は出ていないし。敵を倒した後に「ブレインコントロールは眠ってる間だけとは限らない」とアンナが話すが、後から乗っけた設定にし思えない。
そして、そんな設定を乗せる意味も感じない。
栗田は「ネタが分かれば逆手に取るのは簡単だ」と言うが、確かに敵を同士討ちさせるために原が映像を加工しているものの、「まあ都合がいいことで」と冷めた気持ちになるだけ。
とにかく、一応のクライマックスであるアジトの戦いにも、見せ場としての力は乏しい。アジトの戦いで「敵との対決は終了」ってことになるが、風真が言うように実行犯を見つけただけで、黒幕も超富裕層の名前も分からないままだ。
こっちは序盤から下っ端が動いていることは知っているので、今回の黒幕ぐらいは退治してくれないと何も終わった気がしないぞ。
これで「俺たた」的に締め括られても、途中で投げ出したようにしか感じられない。
一応は「風真がデータを細分化して全世界に送信し、もう醜い争いが起きないようにした」という形にしてあるけど、それで全てがスッキリ解決したとは到底言えないし。(観賞日:2024年9月12日)