『映画 謎解きはディナーのあとで』:2013、日本
宝生グループ令嬢で警視庁国立署刑事でもある宝生麗子はヘリコプターをチャーターし、執事の影山と共にアジア最大の豪華客船であるスーパースター・ヴァーゴへ向かっていた。残業があったため、横浜からの出航時間に間に合わなかったのだ。シンガポールへ向かうヴァーゴはプリンセス・レイコ号という別名もあり、麗子とは縁の深い船だ。今回が最後のクルーズだが、麗子は10年ぶりの乗船となる。麗子が船に到着すると、船長の海原真之介が出迎えた。
客室支配人の藤堂卓也は18年から麗子に毎年招待状を送っており、久々の再会を喜んだ。藤堂の案内で、影山と麗子は船内を移動した。素敵な王子様との出会いを妄想する麗子だが、風祭モータース御曹司である国立署警部の風祭京一郎と遭遇してしまう。風祭は友好のシンボルとしてシンガポールに贈られる有名芸術家の作品“Kライオン”を警護するため、船に乗り込んでいたのだ。国際的な窃盗犯が乗船するという情報が、インターポールから寄せられたのだという。
風祭は防犯装置を自慢げに披露し、Kライオンの警備に自信を見せた。影山たちが部屋を去った後、風祭は誤ってKライオンの片方の翼を壊してしまった。彼は警備主任の松茂準一に気付かれないよう、慌てて誤魔化した。乗客の高円寺雄太は、兄の健太に風祭が乗っていることを知らせた。2人はKライオンを盗み出そうと目論んでおり、風祭がいると知っても考えは変わらなかった。宝生家の専用ラウンジに入った影山は、“セイレーンの涙”と呼ばれる石を防犯装置のボックスに入れた。麗子が船に乗る時は、それを持って行くのが宝生家のしきたりになっているのだ。
夜、影山と麗子がウェルカム・パーティーの会場へ行くと、ちょうど歌手の凛子がステージで歌い終えたところだった。凛子は乗客たちに、海上花火をデッキで見物するよう促した。スロットの設置している場所では、乗客の熊沢美穂が当たらないことに文句を言っていた。凛子は影山と麗子に、美穂がニコニコ恵比寿通り商店街の福引に当選して乗船していることを教えた。そこに藤堂が現れ、凜子が自分の娘であることを影山たちに告げた。
一人の男性が海に転落したため、藤堂は救助のためにエンジンを停止させた。予備電源に切り替わるまで船内は停電になり、その機会を狙って高円寺兄弟はKライオンを盗み出そうとする。しかし風祭が部屋に戻って来たため、彼らは泥棒を断念した。電気が付く直前、影山は廊下を走り去る不審な人影を目にした。影山、麗子、風祭が引き上げられた転落者を見に行くと、船医の結城千佳が調べていた。転落者は拳銃で撃たれ、既に死亡していた。影山と麗子は、犯人が殺害後に救命胴衣を着せていることに疑問を抱いた。
藤堂はクルーズを中止し、最寄りの港に寄港しようと考える。松茂が全員の聞き取り調査と持ち物検査をする必要性を話すと、風祭は器物損壊の罪で並木や山繁、あずみ、由香から責められることを想像した。慌てた彼は寄港すべきではないと主張し、「犯人が逃亡する恐れがある」と告げた。被害者の身許は、シンガポール人実業家のレイモンド・ヨーと判明した。ブリッジには「このままシンガポールを目指し、寄港と同時に全員を解放せよ。それまでは外部との連絡は禁止。ルールを破れば新たな犠牲者が出る」というファックスが届いた。その発信元は、船内ということしか分からなかった。
翌日、レイモンドの船室の現場検証が行われ、影山は窓が少しだけ開いていることに着目した。藤堂は乗客からの依頼が殺到していることを明かし、人員を回してほしいと告げる。そこで麗子は、影山にそちらへ回るよう指示した。3日後、松茂はコックと機関員の3人で密会していた。「まさか、こんなことになるなんて」とコックが漏らし、松茂は「どうする?」と問い掛ける。機関員は強い態度で、「もう準備しちまったんだよ。やるしかねえ」と口にした。
事件解決の糸口が全く見えない麗子は、影山に捜査状況を説明することにした。最初に麗子や風祭たちは、停電になった後でステッキを持った長髪の男がスイートルーム・フロアへ向かうのを見たという高円寺兄弟の証言を得た。船内新聞の編集者である枕崎美月は、取材でレイモンドに会っていた。レイモンドは彼女に「面白い奴に会った」と話したという。乗船の目的について、レイモンドは京極天とポーカーをする約束をしているのだと語っていた。
麗子や風祭たちは、醤油メーカーの御曹司である京極と会った。レイモンドに恨みを持つ者について訊かれた彼は、敵は大勢いただろうと告げる。レイモンドは過去に詐欺まがいのM&Aで巨万の富を築いており、海運業で世界を制した香港のリー財閥を破綻に追い込んだのも彼の仕業と噂されているらしい。捜査状況を聞かされた影山は、「今回の事件、皆目見当が付きません」と述べた。デッキへ出た麗子は、凛子と遭遇した。凛子は恋人であるコック見習いの石川天明と待ち合わせをしているのだという。「最後のクルーズだから、もしかしてプロポーズかも」と麗子は告げた。
翌朝、凛子は専用ラウンジを訪れ、石川が行方不明となったことを話す。彼女は影山たちに、石川が周囲を気にして落ち着かなかったことがあったと語る。その夜、凛子のステージを見守っていた藤堂は、スパークリング・ウォーターを飲んだ直後に苦悶して倒れた。何者かが強心剤を混入したのだ。幸いにも、藤堂の命に別状は無かった。海原は影山たちの前で、藤堂から長髪でステッキの男を見たという報告を受けていたことを明かした。
なぜ黙っていたのかと風祭に問われた海原は、「その男はファントム・ソロスかもしれない」と口にした。さらに彼は、18年前にソロスがヴァーゴに潜り込んだことがあると明かす。ただし、その時は被害が無かったため、公表は避けていたという。ソロスのことを知らない麗子に、影山は世界一の怪盗だと教える。犯行文以外は自分に繋がる証拠を一切残さず、誰も素顔を知らない存在だ。18年前のソロスの狙いは不明で、警備員に追われて負傷し、海に消えていた。
藤堂は影山たちに、18年前にソロスの姿をチラリと見ていること、長髪でステッキを持っていたことを話す。麗子は自分もソロスと会っていた事実を思い出し、影山と2人になった時にそのことを話す。18年前、麗子はヴァーゴに乗っていた。彼女は相手がソロスとは知らないまま、負傷した仮面の男を匿って手当てしてあげていた。影山と麗子はランドリー・マネージャーのバラジ・イスワランと会い、出航から一度もシーツを交換していない部屋が2つあることを知った。その内の1つは高円寺兄弟の部屋だ。影山たちが部屋へ行くと、兄弟は「自分たちは映画監督と脚本家だ」と告げた。
もう1つの部屋に宿泊しているのはマイケル・クワンという香港人で、パスポートの写真で長髪だった。影山たちが部屋に行くと、石川が全裸で土下座した状態で死んでいた。室内を調べると、わずかに爆薬の粉が採取された。その夜、影山が麗子を呼びに行くと、彼女は不在だった。室内には封筒が置いており、中には「秘密を知った者には死を。ファント・ソロス」という英語の手紙とレイモンド、藤堂、石川、麗子の写真が入っていた。
影山は海原から、ブリッジに麗子の誘拐を伝えるファックスか届いたことを知らされた。犯人は「22時までに現金100万ドルをヘリポートに置け」と要求していた。影山は50万ドルを持参していたが、残り50万ドルを工面する必要があった。彼はカジノで京極とポーカー対決をするが、負けてしまう。すると数日前に影山のおかげで大勝ちした美穂が現れ、110万ドルのチップを差し出した。同じ頃、高円寺兄弟はKライオンを盗み出そうとしていたが、警報が鳴り響いて風祭に捕まった。
京極との勝負で100万ドルを工面した影山は、現金を詰めたスーツケースを持ってヘリポートに向かった。するとカードが置いてあり、「1番救助艇に人質はいる」と書かれていた。影山が救助艇に行くと麗子は拘束されており、近くには時限爆破装置が置いてあった。影山は麗子の拘束を解くことが出来ず、爆破装置の解除にも失敗した。タイマーが0になっても爆発は起きなかったが、救助艇は海に落下した。犯人からの脅迫メッセージが届いたため、海原は影山と麗子の捜索を断念した。漂流の末に、影山たちは無人島へ辿り着いた。影山は麗子に、一連の事件が全てソロスを騙った別人の仕業であること、その目的がセイレーンの涙にあることを話す…。監督は土方政人、原作は東川篤哉 『謎解きはディナーのあとで』(小学館刊)、脚本は黒岩勉、製作は亀山千広&藤島ジュリーK.&都築伸一郎&細野義朗&市川南&山田良明、企画は立松嗣章、プロデューサーは金井卓也&成河広明&永井麗子、撮影は栗栖直樹、照明は平野勝利、録音は田中靖志、美術は きくちまさと、編集は河村信二、音楽は菅野祐悟。
主題歌は嵐 『迷宮ラブソング』作詞:伊織、作曲:iiiSAK,Dyce taylor、編曲:Trevor Ingram。
出演は櫻井翔、北川景子、椎名桔平、野間口徹、中村靖日、岡本杏理、田中こなつ、中村雅俊、宮沢りえ、鹿賀丈史、竹中直人、生瀬勝久、伊東四朗、桜庭ななみ、要潤、黒谷友香、甲本雅裕、大倉孝二、児嶋一哉(アンジャッシュ)、村川絵梨、団時朗、六角精児、田中要次、石井正則、ダイヤモンド☆ユカイ、志賀廣太郎、中野美奈子、アベディン・モハメッド、津村知与友、伊東心愛、ホウ・シェイ、シンシン、ジリ・バンソン、甲斐恵美利、手塚りのあ、グウェイン・トウィ、リファットら。
2011年にフジテレビ系で放送された連続TVドラマ『謎解きはディナーのあとで』の劇場版。
ドラマ版で演出を手掛けていた土方政人が、映画初監督を務めている。
ドラマは東川篤哉の同名推理小説が基になっていたが、劇場版ではオリジナルのストーリーが用意されている。
影山役の櫻井翔、麗子役の北川景子、風祭役の椎名桔平、並木役の野間口徹、山繁役の中村靖日、あずみ役の岡本杏理、由香役の田中こなつは、TVシリーズのレギュラー陣。
他に、藤堂を中村雅俊、美穂を宮沢りえ、海原を鹿賀丈史、健太を竹中直人、京極を生瀬勝久、凛子を桜庭ななみ、石川を要潤、千佳を黒谷友香、松茂を甲本雅裕、雄太を大倉孝二、バラジを児嶋一哉(アンジャッシュ)、美月を村川絵梨、レイモンドを団時朗が演じている。私はTVシリーズを見ていないのだが、開始から10分辺りで、「これはTVドラマの2時間スペシャルとして作られていたら、それなりに面白かったんじゃないか」と感じた。それは、麗子のナレーションで彼女自身や影山、風祭といったレギュラー陣のキャラクター紹介が行われ、カラフルな補足映像が挿入されたり、影山の発する言葉が文字として実体化されたりする漫画的な表現に感じたことだ。
しかし、そこから10分ぐらい経過した辺りで、「やっぱりTVドラマのスペシャル版としても厳しいな」という感想を持った。
そう感じた1つ目の理由は、ジャズ歌手としてステージに立つ凛子がリップ・シンクであるこということ。
そりゃあ桜庭ななみにジャズを歌わせたら、とてもプロとは思えないような仕上がりになるだろう。でも、凛子をジャズ歌手役で登場させたいなら、ちゃんと歌える人を起用すべきでしょ。
先に桜庭ななみありきなら、歌手という設定を変えればいいだけだ。凛子がジャズ歌手という職業設定は、必要不可欠というわけではないんだから。影山がセイレーンの涙を防犯装置に入れるシーンも、「やっぱりダメだな」と感じた原因の1つになっている。
そんなモノを唐突&不自然に登場させたら、それが犯人に狙われるのはバレバレだ。そこの陳腐さは相当に厳しいモノがある。
その手の雑な描写も含めて、全体的に『月曜ドラマランド』や『ボクたちのドラマシリーズ』を連想させる。
ようするに、映画にするようなシロモノじゃないってことだ。レイモンドの死体が発見された後、影山と麗子が「なぜ救命胴衣を着けているのか」という疑問を抱くのには驚いた。
麗子はともかく、影山って頭脳明晰な名探偵のはずじゃないのか。
しかも、そこで疑問を抱いただけでなく、そのまま後半に入って全ての謎を解き明かす手順に入るまで、その疑問を解明できていない。
いやいや、誰がどう考えたって、それは救助活動をさせるためでしょうに。
こんなのを「大きな謎」として後半まで引っ張っている辺りに、この映画の底の浅さが見て取れる。「乗客からの依頼が殺到している」ということで影山がそちらの担当に回されるのだが、そこから影山が乗客の依頼を受けて行動したり、それに関連して事件解決の手掛かりを入手したりする様子は全く描かれず、すぐに3日後へ飛ぶ。
だったら、そこの展開は要らんでしょ。後から「実は、そこから影山が幾つかの行動を取っていました」というのが描かれるんだけど、「だから意味がある展開だ」とは感じない。そんな風に後から「こんなことがあった」とチョロッと説明するだけで終わるような構成を、いびつだと感じる。
それと、あっさりと3日後に飛んでしまうのなら、「シンガポールに到着するまで残り7日」という時間制限を設けている意味が無いぞ。それなら最初から「残り4日」ということにしておけばいい。
影山が別の仕事に回った後の麗子や風祭たちの捜査を静止画のコラージュだけで済ませるってのも、すげえ淡白で雑に感じるし。そこでキャラクターを紹介したり、ミスリードを図ったりすればいいのに。3日後に移った後、松茂を含む乗員3人組が何やら深刻そうな表情で計画を話し合っている様子が描かれるが、麗子たちが聞き込みを行うシーンで彼らを紹介しておくべきだろうに。影山たちが乗船した後、主な登場人物はサラッと登場しているのだが、それだけではキャラ紹介として不充分だ。
っていうか、そこを排除してもいいから、聞き込み調査のシーンを用意して主要キャラを登場させるべきだ。
3日後になってから麗子が影山に「こういう捜査をした」というのを説明する形になっているのだが、ものすごく不格好。影山が安楽椅子探偵のキャラ設定だからそういうことにしてあるんだろうけど、今回の場合は同じ船に乗船しているわけだから、「影山が捜査現場に同席していないので、その場で推理することが出来ない」という環境ではないのだ。
それなのに、3日後にならないと麗子が状況を何も説明せず、それまでは影山の推理が全く進行しないってのは、不自然極まりないわ。麗子は影山に捜査状況を話した後、「とにかく、なぜ遺体に救命胴衣を着せたのか、そこが謎なのよね」と言うのだが、重要なのはそこじゃないだろ。
影山は「今回の事件の犯人、かなりのキレ者かと」と告げるがこっちサイドがボンクラなだけにしか見えんよ。
金田一一や江戸川コナンなら、とっくに解決しちゃってるんじゃないか。
少なくとも、救命胴衣の理由はとっくに解き明かしていると思うぞ。全体的に粗すぎるんだよな。だから多くのキャラクターが、何のために登場しているのか良く分からない存在になっている。
登場させるなら、ちゃんと容疑者として使おうよ。
生瀬勝久や児嶋一哉は、それなりに大きな扱いをされているけど、まるで容疑者に入って来ない。
ダイヤモンド☆ユカイや志賀廣太郎、中野美奈子といった面々は、わざわざカメラがアップにして抜いたりするけど、まるで意味の無い存在だ。
「こんな人も出ています」ということをアピールするためだけのアップは、ものすごくカッコ悪いぞ。藤堂はスパークリング・ウォーターを飲んで苦悶するが、薬を混入した犯人に彼を殺す狙いが無いことは明らかだ。
本気で殺害を狙っていたのなら、確実に殺せるような薬を使うはずだからだ。そんな薬を入手するのが無理なら、他の方法を選ぶだろう。
つまり苦悶させることだけが目的というのは容易に推理できる。
そこで騒ぎを起こしている間に他の目的を遂行しようとしているわけではないので、そうであるならば、おのずと犯人が誰なのかは見えてくる。序盤でセイレーンの涙を防犯装置に入れておきながら、後半に入るまで、それには全く触れずに物語が進んでいく。
そこから観客の目を逸らしたいってのは分かるけど、登場した時点で不自然さ満点なので、それは無理だわ。
あと、セイレーンの涙はともかくKライオンに関しては、そこに観客の意識を誘導したいんじゃないのかよ。つまりKライオンを何者かが盗もうとする、もしくは盗まれるという話をメインにすべきじゃないのか。なのに殺人事件がメインになることで、話がバラついちゃってるぞ。
っていうか殺人事件がメインなら、Kライオンが狙われているという設定は邪魔なんだよなあ。そこが上手く融合していない。
解決篇に入ると、実はKライオンを狙う窃盗犯がメインの事件に関わっていることが明らかになったりするのだが、それでも「要らねえなあ」という印象は変わらない。
Kライオン関連の要素が物語に厚みや面白味を加えるモノになっておらず、単に余計だとしか思えない。ファントム・ソロスは超有名な世界的怪盗という設定だが、それにしては影山が麗子に説明するまでは全く言及されない。風祭が「世界的な窃盗犯がKライオンを狙っている」と話した時に、「それはひょっとするとソロスでは」という考えを影山も風祭も全く抱かない。
その後、高円寺兄が「Kライオンを手中にしてみろ。俺たちも大怪盗ファントム・ソロスの仲間入りだ」と言っているが、ソロスが何者かという説明は入らない。その後すぐに、ソロスが物語に深く関わって来るわけでもない。
だったら、そこでソロスの名前なんて出さない方がいい。
あと、「ファントム・ソロスの仲間入りだ」というのは表現としておかしい。ソロスってのはグループ名ではなく、特定の人物なんだから。
あえて訂正するなら、「ファントム・ソロスのような大怪盗の仲間入りだ」でしょ。高円寺兄弟が明らかに話から浮いているってのもキツい。わざと浮いた存在にしてあるのかと思うぐらいだが、意図的だとしても、それはそれで失敗だし。
別におバカなキャラでもいいんだけど、ソロスを目指して本気で泥棒をやっているはずなのに、それにしてはKライオンを狙う行動が少なすぎる。停電の時に狙った後は、誘拐騒動の時まで全く動かない。
それじゃダメでしょ。頻繁に狙ってるけど失敗を繰り返している、ということなら分かるけど。
何しろ、途中で3日後に平気で飛んじゃう構成になってるけど、ってことは、その3日間は全く行動していないってことになるし。松茂を含む乗員3人組が何やら深刻そうな表情で計画を話し合っている様子が何度か挿入されるが、これは何のミステリーにも繋がっていない。こいつらが犯罪を企てているようには全く見えないからだ。
ここにミスリードさせることが出来ていないので、高円寺兄弟ほどではないにせよ、やはり邪魔な奴らという印象になる。
っていうか、この映画、ミスリードのための要素が全く見当たらないんだよな。
あえて言うなら「ソロスの仕業」というのがミスリードだけど、そもそもソロスの正体が分かっていないので、それじゃあミスリードとして機能しない。乗員や乗客の中の誰かを容疑者だと思わせないといけないのに、誰も容疑者になっていない。麗子が影山に捜査状況の説明し、その様子が回想されるシーンがあるが、それは観客に複数のキャラを犯人候補として意識させる作業も果たしておらず、ミスリードをやっているわけでもない。乗客や乗員の中で少し不審な行動を取るのは石川ぐらいだが、だからといって「レイモンドを殺した犯人」として疑わせるようなモノではない。しかも途中で死んでしまう。
誰も「こいつが怪しい」と感じさせる奴がいないまま話が進行し、影山が「こいつが犯人」と言い当てる手順に到達したら、「まさか、あの人じゃなくて、この人が」という意外性や驚きが弱くなってしまうでしょうに。
前述したように「ソロスが犯人」というところだけが唯一のミスリードなのだが、ソロスがレイモンド&石川の殺人や麗子の誘拐を実行していないことはバレバレだ。「誰も正体を知らない世界的な怪盗」と紹介されているわけで、そんな奴が復讐のために人を殺したり、身代金を要求して女を拉致したりするなんてのは不可解だ。
つまり、唯一のミスリードでさえも、ミスリードとしては全く機能していないということになる。麗子が誘拐されて時限爆破装置がセットされ、タイムリミット・サスペンスになる辺りでは、「これってミステリーじゃなかったのかよ」と言いたくなる。
しかも、そこに緊張感は全く無い。
何しろ、時限爆破装置が動いている中で、影山が金を工面するためにポーカー勝負を始めちゃうし。
そんなトコロよりも、麗子を見つけ出そうとしたり、時限爆破装置を解除しようとしたり、そういう行動にサスペンスがあるんじゃないかと思っちゃうのよ。影山がポーカーで金を工面しようとしている時、高円寺兄弟がKライオンを盗み出そうとしている様子も並行して描かれるのだが、これは緊張感を煽るわけでもないし、メインのエピソードと上手く絡み合っているわけでもない。
後から「実は犯人に利用されていた」ということが明らかになり、関連性があったことは分かるのだが、高円寺兄弟が話に入り込めていない異分子という印象は変わらない。
影山と麗子が無人島に流される展開になると、ますます「何がしたいんだよ」と言いたくなる。フワフワしていて、まるで話のピントが絞り切れていないなあと感じる。
タイトルに「謎解き」とあるのに、謎解きの面白さを全く追及してくれない。その上、サスペンスや恋愛劇など他の要素に謎解きの弱さを補うだけの魅力があるわけでもない。単に「色んなことをやろうとして、どれもマトモに消化できていない」と感じるだけだ。
ちょっとずつ食い散らかして、それで終わっていると感じるだけだ。影山が麗子に「犯人はソロスを騙った別人で、狙いはセイレーンの涙」と告げる時、初めて「セイレーンの涙はブルーダイヤの原石で、長らくはリー財閥が家宝にしていた。競売で麗子の父が落札した」ということが明かされる。
満足な情報を観客に与えないまま話を進め、後になって「実はこういうことでして」と色んなことを明かすのだから、そりゃあ謎解きの面白さなんて味わえるはずもない。
そこから影山が事件の真相を説明する手順に入るのだが、「あの時のアレは、そういうことだったのか」というスッキリ感は無い。それを味わうには、こっちに与えられているヒントがあまりにも少なすぎる。そこまでに提示された手掛かりを全て集めても、影山が語る事件の真相には、まるで辿り着かない。
だから、ただ影山の推理を淡々と聞かされるだけになってしまう。(観賞日:2014年9月1日)