『映画 みんな!エスパーだよ!』:2015、日本

高校生の鴨川嘉郎は、愛知県東三河の豊橋市に住んでいる。ベタベタする父の舌郎と母の律子に呆れながら夕食を終えた彼は寝室に戻り、ベッドでオナニーを始める。その日のオカズとして最初に彼が選んだのは、転校生の浅見紗英だ。そこから書店の店長を務めるケイコ、スマートボール店の孫娘であるサヤ、教師のしずか、地元新聞の記者をしているタエコ、その友人である東三河署捜査一課刑事のミツコと妄想を移動させながら、彼はオナニーを続ける。
「運命の人と結ばれたい」と思いつつ、嘉郎は迷っていた。しかし17年前に産まれた嘉郎は、その3ヶ月前に運命の人と出会っていた。妊娠中の律子が産婦人科を訪れた時、隣に座っていた妊婦の腹にいる女の子が彼に話し掛けたのだ。「心の声で繋がっている」と彼女に言われた嘉郎は、後に見つけ出す時の合図となる歌を教わっていた。彼はオナニーする時も必ず、運命の人の断片を見ていた。だが、その顔は決して見えないのだった。
その夜、嘉郎が射精する瞬間、宇宙からの光が地球へ降り注いだ。それが全ての始まりだった。一方、幼馴染でクラスメイトの美由紀も、同じ日にオナニーで絶頂に達していた。翌朝、朝食を食べようとした嘉郎には、両親の心の声が聞こえた。しかし、まだ彼はテレパシーの能力を会得したことに気付いていなかった。東三河高校に登校した美由紀も同級生の心の声が聞こえるが、やはりテレパシー能力には気付いていなかった。
学校へ行った嘉郎は周囲の人々の声が聞くこえたため、ようやくテレパシー能力があると気付いた。親友のヤスに声から掛けられた彼は、紗英に視線をやった。彼女のスカートが風でめくれると、嘉郎は勃起した。美由紀の蹴りを浴びた嘉郎は、勃起に気付かれた。美由紀に呆れられた嘉郎は、テレパシーで会話していることに気付く。嘉郎は紗英が運命の人だと信じていたが「絶対に渡しでオナニーするよな」という心の声を聞いてショックを受けた。
博士の浅見隆広は助手の秋山多香子と共に、超能力の研究を続けていた。東京ではバカにされていた浅見だが、豊橋市で多数の超能力者が出現していることを知り、ようやく成果が発揮できると考えた。嘉郎は書店で超能力に関する本を読み、「エスパーは悪に立ち向かい、世界を救わねば」と考える。しかしエスパーがオナニーを禁じられると知り、彼は困惑する。喫茶店『シーホース』に立ち寄った彼は、マスターのテルに念動力が備わったことを知る。ただし、テルが動かせるのはエロい物だけだった。
翌日、登校した嘉郎は、同級生の榎本洋介に瞬間移動があることを知る。ただし彼は服を脱いで裸にならないと、瞬間移動できなかった。浅見と秋山は街にいるエスパーたちを見つけ出し、エスパー研究所に集合させる。浅見は嘉郎たちと違う高校に通う矢部直也を紹介し、透視能力があることを説明した。浅見は自己紹介し、秋山には予知能力があることを話した。美由紀が超能力に目覚めた理由を尋ねると、浅見は「君たちは幾つかの条件を全てクリアした」と言う。
19世紀のミネソタ州ダルースでも同じ現象が起きており、天体配列によって起きる宇宙からの光の反射が原因だと浅見は説明する。そして「童貞か処女」「オナニーの最中」「本人が能力を自覚する」という条件を満たした者だけがエスパーになるのだと、浅見は語った。彼はダルースではエスパーが皆殺しになっていること、能力を悪用しようとするエスパーもいることを話し、何かあれば連絡するよう告げた。「力を合わせて街を守らねばならない」と言われた嘉郎は、ヒーローとしての使命感を燃やした。
そこへ風呂上がりの紗英が現れ、嘉郎は彼女が浅見の娘だと知った。紗英は榎本に好意を抱き、嘉郎には何の関心も抱いていなかった。美由紀は嘉郎たちに同調せず、一緒に行動することを避けようとする。その頃、渡し船の新人船頭である神谷秋子は、不審な行動を開始していた。彼女は通り掛かった女子高生に触れて動きを停止させ、胸を揉んで抱き付いた。紗英が友人たちと歩く姿を見た秋子は、大いに興味をそそられた。
嘉郎たちがシーホースでパーティーを開いていると、スナックでホステスをしているエリが寿司を差し入れた。そのパーティーには美由紀や紗英、嘉郎の両親も参加した。エリは永野や榎本の能力を見て感激するが、紗英は「エスパーってこんなのばっかなの?変態」と幻滅して去った。浅見と秋山はミツコ&タエコと共に深夜の学校へ赴き、しずかから異様な事態が起きていることを知らされる。教室に入った浅見たちは、大量の人形が積んであるのを目撃した。人形を調べた浅見は、特殊な催淫剤が入っていることを知る。彼は敵エスパーの仕業ではないかと推測するが、まだ嘉郎たちには話さなかった。
嘉郎は豊橋で産まれた紗英が合図の歌を口ずさむのを聞き、運命の人だと確信する。アメリカから来たボルナレフ愛子という英語教師が新しく赴任し、生徒たちに「この街にエロスの花を咲かせるべきです」と訴えた。愛子は嘉郎と2人になり、記憶を読み取る能力を披露した。秋子の小屋から現れた大勢の女子校生たちは、上着をはだけてブラジャーを見せた状態で渡し船に乗った。次の日、秋子が謎の息を街に向かって吐くと、街にはエロが蔓延した。嘉郎が学校に行くと、大勢の生徒たちが上着を脱いで下着を見せていた。
愛子は美由紀と永野の能力を読み取り、メモリーリーディングのエスパーだと明かした。しずかは露出度の高い水着姿で登壇し、「勃起してごらん」と呼び掛けた。市役所庁舎には「ラブホテル無料化」「豊橋にヌーディストビーチを」「風営法撤廃」を訴えるセクシーコスブレのデモ隊が押し寄せ、人質を取って市長との面会を要求した。。駆け付けた浅見が説得交渉に入ろうとすると、愛子が「ちょっと待って下さい」と叫んだ。
愛子がデモ隊に行動の理由を尋ねると、リーダーの女は「ハルマゲドンで生き残るためだ」と訴える。その背後から秋子が現れ、「私たちはこの世界を守るための最終戦争を始めるだに」と告げる。彼女はエスパーだと明かし、「身勝手な人間どもに守る価値などあるのか。そんな連中、死ねばいいと思わないのか」と浅見に問い掛ける。浅見は全く惑わされず、愛子は「能力を誤った方向に使ってはならない」と秋子を諭す。秋子は「話し合っても無駄みたいじゃ。邪魔になるなら殺すだけだで」と言い、下僕たちに指示を出す。
そこへジュリー・バブコックというエスパーが現れ、デモ隊の全員を人形に変身させた。秋子は高笑いで姿を消し、ジュリーも現場から立ち去った。浅見はミツコから、水着姿の女強盗団が銀行でゴーゴーダンスを踊るだけで去る出来事や、駅前のパチンコ店でストリッパーがセクシーショーを開く出来事が起きたことを聞かされる。小屋に戻った秋子は通り掛かった紗英の頭に触れ、動きを停止させた。嘉郎と美由紀が対岸に来たので、彼女は渡し船に乗せる。2人の会話を聞いていた秋子は、後で1人になった美由紀に接触した。
深夜になっても美由紀と紗英に連絡が取れないので、嘉郎や浅見たちはシーホースに集まって心配する。そこへリサが来て、紗英が帰宅するのを見たと告げた。翌日、美由紀は姿を消したままで、嘉郎とエスパー仲間は愛子と共に街を歩いて敵を捜す。そこへ紗英から電話が掛かり、嘉郎は呼び出しを受けた。彼が指定された場所へ行くと、夢で見た場所だった。そこへ紗英が現れ、「お父さんの研究を手伝ってくれて、ありがとう」と手を握ね。紗英は「いいんだよ、好きにして」と抱き付き、セックスを求めた。
紗英の積極的な態度に嘉郎が困惑していると、ジュリーが現れた。彼女が能力を発揮すると、紗英は人形に変化した。ジュリーは嘉郎や浅見たちに、紗英がコピーであること、自分が悪意を浄化する能力者であることを話す。彼女はダルースで生き残ったエスパーの子孫であり、豊橋市を救うために来日したのだ。浅見は痴漢被害や行方不明者が渡し船で続出していることをミツコから聞き、嘉郎を女装させて囮に使う。張り込んでいた秋山は現れた秋子に触れ、その行動を読み取る。秋子が拉致した女性たちを眠らせている公会堂へ向かったので、嘉郎たちは後を追った…。

監督は園子温、原作は若杉公徳『みんな!エスパーだよ!』(講談社『ヤングマガジンKCスペシャル』所載)、脚本は田中眞一&園子温、製作は依田巽&太田哲夫&石川豊&大田圭二&松本篤信&森谷雄&鈴木伸育&宮本直人、エグゼクティブプロデューサーは小竹里美&福田一平&高柳寛哉、プロデューサーは松下剛&高田健太郎&森谷雄&武藤大司、アソシエイトプロデューサーは阿部真士&朴木浩美&増山紘美、ラインプロデューサーは鈴木剛、撮影は神田創、照明は藤森玄一郎、美術は松塚隆史、録音は小宮元、編集は伊藤潤一、アクション指導は匠馬敏郎、音楽は原田智英、主題歌『ラブメッセージ』は岡村靖幸。
出演は染谷将太、池田エライザ、真野恵里菜、マキタスポーツ、深水元基、柾木玲弥、安田顕、神楽坂恵、柄本時生、高橋メアリージュン、冨手麻妙、サヘル・ローズ、今野杏南、星名美津紀、筒井真理子、イジリー岡田、武田航平、関根勤、板野友美、清水あいり、星名利華、篠崎愛、志村玲那、秋月三佳、サイボーグかおり、柴小聖、岡村いずみ、染谷有香、小泉梓、木乃江祐希、朝比奈加奈、大沢まりを、金子元彦、美岳、晴奈、甘能千晴、園崎愛海、皆川鈴夏、茶谷伊織、高柳結恵、月島花、雨下いのり、西田藍、間宮葉月、柴田あさみ、中世古麻衣、鬼頭果住、成瀬魅珠、千草里菜、志藤彩那、真保栄千草、辻有紀香、藤井愛、磯田有希、星野優菜、七瀬なな、野崎絵里菜、冨田留美子、前野公美子、大塚ありさ、杉浦まみ、加藤あみ、八木心愛、永田佑樹、永田愛依佳、飯田海翔ら。


若杉公徳の漫画を基にしたテレビ東京の深夜ドラマ『みんな!エスパーだよ!』の劇場版。
監督はドラマ版に引き続き、『TOKYO TRIBE』『新宿スワン』の園子温が担当。園子温と共同で脚本を担当したのはドラマ版からの続投となる田中眞一で、これが初めての映画。
嘉郎役の染谷将太、紗英役の真野恵里菜、永野役のマキタスポーツ、榎本役の深水元基、矢部役の柾木玲弥、浅見役の安田顕、秋山役の神楽坂恵、ヤス役の柄本時生、律子役の筒井真理子、舌郎役のイジリー岡田、江崎役の武田航平は、ドラマ版の出演者。
ドラマ版で美由紀を演じていた夏帆が降板し、代役にモデルの池田エライザが起用された。他に、愛子を高橋メアリージュン、秋子を冨手麻妙、ジュリーをサヘル・ローズ、ミツコを今野杏南、タエコを星名美津紀、しずかを清水あいり、サヤを星名利華、ケイコを篠崎愛が演じている。

TVドラマの劇場版が製作される場合、「ドラマ版が終わった、その後の出来事」を描くケースが大半だ。しかし本作品は、ドラマ版の後日談を描く内容ではない。「ドラマ版が始まる前の物語」というわけでもない。「ドラマ版では描かれなかった、それと同時期に起きていた物語」というわけでもない。
この映画を一言で表現するなら、「最初からやり直し」である。
ドラマ版と似ているが、ちょっと異なる内容が描かれる。分かりやすい表現を使うなら、ドラマ版のリメイクだ。
『イヌゴエ』から始まるAMGエンタテインメントの動物映画シリーズを知っている人なら、「あのシリーズのドラマ版に対する劇場版」と捉えれば分かりやすいかもしれない。

つまり「ドラマ版と似ているアナザー・ストーリー」であり、完全オリジナルの内容ではないわけだ。なのでドラマ版を見ていて、物語を楽しみたいと考える人は、この映画を見る価値が随分と低くなる。
ただし、そもそもドラマ版からして、物語の価値や意味なんて著しく低い扱いになっていた。
そもそも園子温という人はストーリーテリングに対する意識が低く、「話を上手くまとめる」とか「整合性を考慮する」ってことへの興味が乏しい人という印象がある。
そしてTVドラマ『みんな!エスパーだよ!』は、そういう園子温監督の特徴が分かりやすく出ている仕上がりだった。

TVドラマ『みんな!エスパーだよ!』は、ザックリ言っちゃうと「とにかくエロい深夜ドラマを楽しんでね」という作品だった。
かつてはドラマにエロの要素が持ち込まれることもあったが、最近は難しい状況になっている。
そんな中で、珍しく「エロ」を全面に押し出したドラマが、『みんな!エスパーだよ!』だった。
もちろんTVドラマなので、あくまでもソフトなエロである。せいぜいパンチラや下着姿が限界という程度のエロだ。

今では誰でも簡単にアダルトビデオが観賞できる環境が整っており、それに比べればエロのレベルは随分とヌルい。
しかし、「パンチラを見せてくれるのが夏帆や真野恵里菜」という所に、大きな価値を見出すことが出来たのだ。
それはアダルトビデオには無いエロ、アダルトビデオとは全く異なるタイプのエロだったのだ。
っていうか『みんな!エスパーだよ!』は、「そこに価値を見出せなかったら、他に何があるのか」というTVドラマだったのだ。

そういうドラマ版の精神は、この映画版にも確実に引き継がれている。
「ドラマ?ストーリー?それって美味しいの?」と言わんばかりに、物語をマトモに構築しようとする作業は完全に放棄されている。
ただしドラマ版の場合、1回の尺が実質的に40分程度であり、そこで区切りを付けることが出来るという利点があった。その程度の長さであれば、ストーリーがデタラメだったりドラマがスカスカだったりしても、雰囲気とエロだけで何となく最後まで引っ張ることが出来た(そりゃあ駄目な人もいるだろうけど)。
それが長編映画になると、同じことは通用しない。

2015年は本作品を含め、『新宿スワン』『ラブ&ピース』『リアル鬼ごっこ』と園子温が監督を務めた映画が4本も公開されている。どれも全力投球できればいいのだろうが、さすがに「どこかで手を抜こう」と考えても不思議ではない。
この内、『新宿スワン』は初めて他人の脚本で撮った作品だ。しかし山本又一朗がプロデューサーを担当する力の入った作品であり、雇われ仕事ではあっても失敗は許されない。
『ラブ&ピース』は長年にわたって温めていた念願の企画なので、気合の入る作品だ。
そう考えると、『リアル鬼ごっこ』と本作品は、やっつけ仕事になっても理解は出来る。
いやホントはダメなんだけどね。

ってなわけで、これが後日談ではなく「ドラマ版のリメイク」になっているのは、「そうすることによって、ある程度は手を抜くことが出来る」という計算が働いたのではないかと邪推したくなる。
実際、「超適当」としか思えない仕上がりだからね。
まあ全く別の話を用意したとしても、たぶん充実したドラマなんて無かっただろうけどね。
で、ストーリーの魅力やドラマの充実度を放棄した代わりに重視しているのが、「エロのボリュームを増やす」ってことなのである。

TVドラマの劇場版を作る場合、どこで「映画ならではの価値」を出そうとするのかは製作サイドのセンスが問われる。
良くあるケースは「ゲスト出演者で豪華さを出す」というモノで、他には「海外ロケ」なんていう手もある。
この映画はスケールの大きさで「映画らしさ」を出すべき作品ではないから、簡単に思い付くのは「豪華なゲスト陣」という方法だ。
だがそこは全く重視されていない。前述した顔触れで明白だろうが、お世辞にも「豪華出演者」と呼べるような面々は揃えていない。
そうではなく、ゲストの大半は「エロ要員」なのである。

エロのボリュームを増やすことで「劇場版」としての意味や価値を出そうとする方向性は、全面的に正しいと断言できる。
ただし「そもそも映画にする意味があるのか」と問われたら、そこは答えに窮する。
それと、エロのボリュームを増やそうとする方向性は歓迎できるが、残念ながら映画としての価値が高まっているとは言い難いのが事実だ。
その原因は明白で、「ゲストの面々が分かりやすいエロ要員である」ってことだ。

前述したように、ドラマ版は夏帆や真野恵里菜がエロい役回りを担当してくれたから、ソフトな描写でも価値があったのだ。
しかしながら、言っちゃあ悪いが今野杏南や星名美津紀がパンチラや水着レベルのエロを見せたところで、「だから何なのか」ってことなのだ。
そこには意外性も何も無いでしょ。そういう仕事をやりそうな人が、そういう仕事をやったというだけでしょ。そこに「そのために映画を見る価値」を生む力など無いでしょ。
いや個人的には2人とも嫌いじゃないけどさ。

そういう意味では、夏帆の降板も大きい。
まだ新人の池田エライザが下着姿になっても、夏帆がパンティーを見せるインパクトには遠く及ばないのだ。つまり、単に「エロい格好をするメンバーを増やす」というだけでは、真の意味での「ボリューム増」とは言えないのだ。
この映画では学校の生徒や街の人々、デモ隊のメンバーなど、数多くの女性たちが下着や水着といったエロい格好になっている。しかし、その大半は「誰なのか良く分からない無名の人」なので、それでは価値が低いのだ。
そういう面々が束になって掛かっても、たった1人の「夏帆のパンチラ」には決して敵わないのである。
ってなわけで、板野友美がパンチラも下着姿も見せない時点で、この映画は惨敗が確定したのである。それだけで勝利に繋がるわけではないけどね。
ただ、そういうことを要求できなかった(もしくは要求しなかった)ってことは、「園子温は手抜き仕事だった」と断言しておこう。

(観賞日:2017年3月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会