『L・DK』:2014、日本

高校3年生の西森葵は、親友の渋谷萌がクラスメイトの久我山柊聖に告白する現場を見守った。柊聖は学校一のイケメンで、成績は優秀、スポーツも万能で、女子たちの人気を独占している。大勢の生徒たちがいる場所で「好きです」と叫んだ萌だが、柊聖は冷たく「うざい、目障り、興味ない」と告げて立ち去った。それを見ていた女子生徒たちは、「やっぱりね」と笑った。葵が「萌がどんだけ勇気出して告白したと思ってんの」と責めると、柊聖は顔を近付けて「アンタも俺とヤリたいわけ?」と凝視した。
葵が蹴りを入れると、柊聖は階段から転げ落ちた。柊聖は葵に、背負ったり肩を貸したりしてアパートまで運ぶことを要求した。葵が柊聖を背負って目的地へ到着すると、それは彼女の住むアパートだった。驚いた葵が部屋番号を訪ねると、柊聖は1週間前から隣の部屋に住んでいることが判明した。葵は柊聖に指示され、部屋の掃除や料理もやらされた。葵は誤ってスプリンクラーを作動させてしまい、部屋は水浸しになった。
大家の星野カズミは葵に、業者に頼んだし保険に入っているので大丈夫だが、順番待ちで1ヶ月ほど掛かると話す。柊聖はカズミから「その間、どうする?」と訊かれ、葵の部屋で暮らすことを強引に決めた。翌日、学校で普通にサッカーをする柊聖を見た葵は、自分が騙されたことに気付いた。柊聖は勝手にベッドを退かすなど、マイペースな同居生活を送って葵を苛立たせた。一方、酷い言葉を受けて失恋したはずの萌が「ますます好きになっちゃったかも」と言うので、葵は困惑した。
同棲がバレて2年の女子が退学になることをクラスメイトから聞かされた葵は、柊聖のことで不安を抱く。萌たちの見ている前で柊聖が鍵を渡そうとしたので、葵は焦った。葵はアパートに幾つもの注意メモを張り付け、柊聖が帰宅したらビシッと言ってやろうと考える。だが、彼が親友の佐藤亮介を連れ帰ったので、葵は慌てて身を隠した。柊聖は葵が隠れているのを見つけ、わざと亮介にバレそうな行動を取る。亮介が葵と遭遇すると、柊聖は「隣の子」と紹介した。
柊聖に追い出された葵は、同じアパートに住む三条亘の営む店を訪れた。雨の中を走って来た葵がクシャミをすると、三条は傘と上着を貸した。葵はカズミから、柊聖がバイト代で家賃を支払っていることを知らされた。カズミと息子の宏太は、日曜日に開く柊聖の歓迎パーティーに葵を誘った。葵は柊聖と一緒にいる現場を萌に目撃され、隣に住んでいるだけだと釈明した。歓迎パーティーには、柊聖の兄である草樹と幼馴染で元カノの水野桜月もやって来た。柊聖は動揺するが、桜月は平然と笑顔で接した。
自分たちを意識して柊聖に体を寄せる桜月の態度を見た葵と萌は、「感じの悪い女」と認識した。柊聖は桜月に「約束、覚えてるよね」と言われ、「忘れるかよ」と答えた。三条は彼に、「いい加減に気持ちで葵ちゃんに近付かないでくれるか。この1年、兄貴代わりとして見て来たんだ。傷付けけるようなことしたら、許さねえからな」と告げる。柊聖は鼻で笑い、軽く受け流した。葵は桜月から、「柊ちゃんは誰とも付き合わないよ。好きになっても無駄ってこと」と告げられた。
アパートに戻った葵が落雷を怖がっていると、柊聖は彼女の手を握った。翌朝、カズミは葵に遊園地の招待券を2枚渡し、自分は行けそうにないのだと話す。葵は「萌と行きます」と言うが、そこに現れた柊聖が「俺、行きます」と告げた。遊園地に到着すると、彼は「練習してやるよ。デート、したこと無いんだろ」と言う。柊聖は葵の手を取り、「俺、アンタの困ってる顔見るの、好きかも」と微笑した。様々な遊具に乗ったりゲームに興じたりして、葵は柊聖とのデートを大いに楽しんだ。
来月の7月7日に開催される花火大会のポスターを見つけた葵は、「このイベントの最後に7回、ハートの花火が上がるの。その間にキスしたカップルは結ばれるって言われてて」と柊聖に話す。柊聖に「アンタに男が出来なかったら、俺と来るか?」と言われ、葵はドギマギした。遊園地を出た後、柊聖は葵に「なんか悪かったな。けど俺、アンタと出掛けたかった」と口にした。柊聖がキスしようとしたので、葵は緊張しながら目を閉じた。すると柊聖は彼女の口をつまんで笑い、「ビビりすぎ。大事に取っときな」と告げた。
葵は萌に、柊聖を好きになったと打ち明けた。葵が詫びると、萌は「今日からは全部報告しなよね」と告げて応援することにした。宝石店に飾られている星形のネックレスを見た葵は、「可愛い」と漏らす。柊聖が「買えば?」と言うと、「無理無理、お金無いもん」と彼女は述べた。2人が食料の買い出しから戻ると、桜月が待っていた。同居の事実について問われた柊聖は、「ああ。工事が終わるまで仕方ないだろ」と告げた。
桜月から「言ったよね、好きになっても無駄だって」と告げられた葵は、「あいつとは、もう別れたんですよね」と対抗心を示す。すると桜月は、「柊ちゃん、貴方に2年前のこと話してないよね。私たちは離れられない関係なの」と口にした。翌日、葵は草樹と遭遇し、事情を尋ねた。草樹は自分たちが愛情の無い家庭に育ったこと、幼馴染の桜月は親身になって柊聖の世話を焼いていたことを話す。しかし続きを知りたがる葵に「タダじゃ教えない」と告げた彼が不意に唇を奪ったので、ショックを受けた葵は逃げ出した。
カメラマンの草樹は仕事現場に柊聖を呼び出し、母親から預かった金を差し出す。柊聖は受け取りを拒むと、草樹は葵のことを話題に出す。草樹が葵にキスしたと知らされ、カッとなった柊聖は彼を殴り付けた。柊聖は泣いている葵を見つけ、「簡単にキスされてんじゃねえよ。大事に取っとけって言ったのに」と告げる。葵が「ゴメン」と言うと、彼はキスして「これでリセットな」と口にした。ずっと一緒に柊聖といたいと考える葵だが、今の関係が壊れことを恐れ、距離を保とうとする。しかし桜月の挑発で不安になった葵は、好きだと告白した。2年前のことを引きずっている柊聖は「俺は、そういう感情は持てない。嫌なんだよ。俺のせいで傷付くアンタ、もう見たくない」と言い、葵に別れを告げた…。

監督は川村泰祐、原作は渡辺あゆ『L・DK』(講談社『別冊フレンド』連載)、脚本は松田裕子、製作は木下直哉&平城隆司&入江祥雄&間宮登良松&古賀誠一&吉川英作&川城和実&風間建治、企画は遠藤茂行、プロデューサーは木村元子、アソシエイトプロデューサーは柳迫成彦、ラインプロデューサーは中林千賀子、撮影は北山善弘、照明は鈴木敏雄、録音は小松将人、美術は黒瀧きみえ、編集は松尾浩、音楽は遠藤浩二。
主題歌「君色デイズ」 Honey L Days 作詞:KYOHEI/ヒロイズム、作曲:KYOHEI/ヒロイズム、編曲:soundbreakers。
出演は剛力彩芽、山崎賢人、中尾明慶、岡本玲、白石美帆、藤井隆、高島礼子、福士誠治、桐山漣、石橋杏奈、栗山航、末永真唯、橋本祥平、小原好美、寺田心、田窪一世、misono、小野明日香、園ゆきよ、富田千晴、山田ジェームス武、安田聖愛、涼、日中泰景、阿部翔平、山川紗弥、佐藤里穂、菅井菜穂、三浦圭祐、ごっちくん、石田隼、影山樹生弥、小松樹知、坂本優太、高尾勇次、蓮沼裕之、真辺照太、丸山隼、御園レイヤ、横田剛基、吉原拓弥、赤池紗也加、石戸香穂、今井聖弓、大坂美優、替地桃子、斎藤亜美、寺川里奈、萩原和佳奈、長谷川あかり、葉月、松尾寧夏、三田寺理紗、三宅唯真、山田帆風、山地まり、優希、吉田優華ら。


渡辺あゆの同名少女漫画を基にした作品。
タイトルを正しく表記すると「L」と「DK」の間は黒丸じゃなくてハートマークなのだが、文字化けの可能性があるので使わない。
監督は『こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE 〜勝どき橋を封鎖せよ!〜』『映画 ひみつのアッコちゃん』の川村泰祐、脚本は『劇場版 カンナさん大成功です!』『ごくせん THE MOVIE』の松田裕子。
葵を剛力彩芽、柊聖を山崎賢人、亮介を中尾明慶、萌を岡本玲、カズミを白石美帆、教師の恩田を藤井隆、浴衣店の店主・小夜子を高島礼子、草樹を福士誠治、三条を桐山漣、桜月を石橋杏奈、宏太を寺田心が演じている。

萌は大勢の生徒がいる前で急に「好きです」と大声で叫ぶが、あまり好意的には評価できない告白方法だ。
柊聖の場合は冷たく突き放したけど、他の男子だったとしても、大勢が見ている前で大声の告白を受けたら困惑するし、恥ずかしいだろう。だから葵が「萌がどんだけ勇気出して告白したと思ってんの」と柊聖を非難するのは、正しいようで正しくない。
勇気を出しての告白でも、もうちょっと状況を考えるべきでしょ。
確かに柊聖の言い方は酷かったけど、萌の方にも問題はあるぞ。

そういう引っ掛かりから始まる本作品は、少女漫画をバカにするような表現になってしまうが、「いかにも少女漫画」と感じさせる展開のオンパレードだ。
だから、この映画を充分に満喫するためには、「その手のノリを全面的に受け入れる」というモードになっておくことが必要だ。映画を見る前に、そういうモードに気持ちを切り替えておくことが大きなポイントになる。
見始めてから、「ああ、そういう映画なのね」と気付いてモードを切り替えようとしても、かなり難しいモノがある。
これは、そういう映画である。

まず導入部からして、思わず笑ってしまうような展開が用意されている。「ひょんなことからヒロインが男と同棲する」という展開だ。
これは少女漫画に限らず、多くの漫画やTVドラマで古くから何度も使われてきたネタだ。ようするに悪く言えば「使い古されたネタ」ということになる。
多く使われてきたってことは、それだけ多くの人々が好きなネタという言い方も出来る。ただし、さすがに最近では滅多に見なくなっていた。
それはたぶん、使う側の人間が「そろそろ厳しいんじゃないか」と感じたからだろう。
しかし本作品では、そんなネタを堂々と使っている。しかも全く捻らず、真正面から使っている。
その大胆さは、なかなかのモノである。

葵は柊聖に壁ドンで「アンタも俺とヤリたいわけ?」と言われ、蹴り飛ばすと彼は階段から落ちて怪我をする。
背負ったり肩を貸したりしてアパートに到着すると、隣の部屋だと判明する。
葵は柊聖を運ぶだけでなく、部屋の掃除や料理も要求される。文句を言いつつも、葵は指示された仕事を遂行する。
トランクスや裸を見た葵はアタフタし、柊聖の方はクールに振る舞う。
何から何まで、どこかで見たことのある光景、っていうか少女漫画で見たことのある光景だ。

文句を言いながらも料理まで引き受けた葵だが、上半身裸の柊聖が体を寄せたことに焦り、フライパンに酒を投入して炎が高く上がる。そのせいでスプリンクラーが作動し、部屋が水浸しになる。元に戻すには1ヶ月ほど掛かるためにカズミが「その間、どうする?」と柊聖に尋ねると、彼は葵の部屋で同居することを勝手に決める。
そこまでの経緯も含めて、無理から無理へと繋ぐ無理のコンボ攻撃だ。
特に無理が強いのは、「女を拒絶している柊聖が、自ら葵との同棲を決める」という部分だ。
しかし、そういう無理を何の抵抗も無く「素敵な偶然」として受け入れられる人だけが、この映画を楽しむ資格を有することになるのだ。

普通に考えれば、幾ら蹴りを入れたからと言って、「アパートまで送り届け、部屋を掃除し、料理を作る」ってのを全て承諾するのは無理がある。
普通に考えれば、幾らスプリンクラーを作動させて部屋を水浸しにしたからと言って、自分の部屋で同居させるなんて無理がある。
しかし、それを見ている女性からすれば、「イケメン男子と同居できるんだから、こんなに素敵な出来事はない」ってことになる。
葵は「好きでもない男の人と同居って」と漏らしているが、どうせ好きになることは決まっているので、そこは何の問題も無いのだ。

序盤の段階で、「最初は柊聖を嫌悪していた葵だが、ある出来事をきっかけに気持ちの変化が起きて、だんだん好きになっていく」「柊聖は葵を拒絶しようとするが、こちらも惚れるようになる」「柊聖が女に冷たいのは過去のトラウマがあって、その原因となった女が後から登場する」「葵と柊聖、それぞれが別の相手から惚れられる」「最終的には全ての問題が片付き、葵と柊聖がカップルになる」など、多くの事柄に関する予想が付く。
そして、その予想は、ほぼ正解する。これは、そういう映画である。
「ヒロインの恋の相手は、最初は嫌な性格の奴として登場する。ヒロインは怒りや苛立ちを覚えるが、その男の意外な一面を見たことで心を惹かれ、彼が抱えている秘密を知って、ますます好きになる」というのは、少女漫画の典型的なパターンである。
そして、その手の話に共通するのは、「最初から性格のいい男がヒロインに惚れるけど振られる」というパターンだ。普通に考えれば、そっちの方が幸せになれる可能性は高そうなのだが、「嫌な奴だけど、私だけには別の一面を見せる」ってのが女性をキュンとさせるのだ。

ずっと冷淡な態度を取っていた柊聖だが、葵の作った料理を食べると「マジ美味いよ」と笑顔を見せる。これは大きなポイントだ。
前述した「普段は嫌な奴なのに、そういう一面を私だけに見せてくれる」というポイントを、この映画は序盤から投入している。早い段階で、女性客を惹き付ける手順を入れているわけだ。
まあ、そんなことをしなくても、この手の話が好きな女性客は大丈夫だろうけどね。
実のところ、「普段は嫌な奴なのに、たまに笑顔」ってのは、「いつもは乱暴なのに、たまに優しい」というDV男と大して変わらない。
でも、そういうトコに多くの女性がキュンキュンするのは事実なので、それを使わない手は無いよね。

葵は風呂から上半身裸で出て来た柊聖に焦ったり、勝手にベッドを退かした彼を責めたりしている。
しかし、それはあくまでも痴話喧嘩のレベルでしかない。
まだカップルが成立したわけではないから、もちろん実際に「痴話喧嘩」としてやっているわけではない。しかし本気で嫌悪していたら、そんなレベルでは済まないわけで。
ようするに、あらかじめ定められた「だんだん柊聖に惚れて行く」というラインに従って、葵というキャラクターは動かされているのだ。

何しろ葵は、鍵を奪い取ろうとした時、不意に抱き締められるとドキッとしている。
それは、まだ同居生活が始まって間もない頃、「柊聖のマイペースぶりにイライラしている」ってのを見せた直後の出来事だ。
彼の振る舞いに苛立っていても、ちょっと抱き締められただけで途端にドキドキしちゃうわけだから、まあ簡単な女性だわな。
でも、こういう映画にキュンキュンしたがっている女性ってのは、そういう柊聖みたいなツンデレっぷりが大好物なのだから、それを使わない手は無いよね。

同居がバレたら退学だと言われても、柊聖は学校で葵とイチャイチャ(もはやイチャイチャと言ってもいいだろう)したり、部屋に友人を連れ込んだりする。
それはマイペースというよりも、ただのバカでしかない。傍から見れば、かなりイライラさせる行動だ。
しかし、それを「素敵」と感じられるセンスこそが、この映画を楽しむためには重要だ。
葵が熱を出してフラつくと湿布を荒っぽく張るのも、いわゆるツンデレだ。
そもそもテメエの身勝手で追い出したから葵は熱を出したのだし、それに対する謝罪は無いのだが、それでも「ツンデレがたまらん」とキュンキュンできるセンスこそが、この映画を楽しむためには重要だ。

桜月が登場した段階で、明らかに葵は彼女を意識している。
つまり、その段階で既に、葵は柊聖に惚れているってことだ。もはや彼女は、すっかりツンデレ王子の虜なのだ。
だから遊園地デートでも、「デートじゃないし」と言いながら髪を直しているし、すっかり楽しんでいる。
「嫌いか好きへの転換が拙速じゃないか」と思ったりするのだが、何しろ上映時間は113分しか無い。葵が好きになっても、そこで物語を終了できるわけではない。
だから、彼女が柊聖に惚れるまでに、多くの時間を割いている場合ではないのだ。
どうせ惚れることは最初から分かり切っているんだから、そこは段取りとして簡単に片付けてしまえばいいってことだ。

柊聖と桜月が抱えている過去の秘密は、原作は異なっている。
彼氏に振られた桜月から傍にいてほしいと言われた柊聖が放っておけずに付き合い始めるが、上手くいかずに別れた。しかし桜月は諦め切れずにヨリを戻そうとして、2年前にクリスマスに呼び出した。
「来てくれるまで待ってる」と言われた柊聖は無視しようとするが、「もう死んじゃいたい」という電話で駆け付けると救急車で運ばれるところだった。奇跡的に意識は戻ったが、お前が幸せになるまで俺は傍にいると柊聖は約束したってのが真相だ。
まあ、どういう理由であれ、桜月は同情を誘うキャラじゃなく、ちゃんと悪役として動かしているので、葵と柊聖が結ばれても全く問題は無い。

ただし問題は、「どうやって決着を付けるのか」ってことだ。
全く同情を誘わない動かし方をしているとは言っても、桜月が納得する形でケリを付けないと、先へ進むことは出来ない。
そこは葵が対決して別れてもらうのか、それとも柊聖が話し合いで解決するのかと思いきや、存在をすっかり忘れていた草樹が登場し、柊聖に「あいつ(桜月)のことは俺に任せろ。何とかするわ」と告げる。
そんな大事な案件に葵も柊聖も関わらず、脇役が解決しちゃうのかよ。しかも、解決の方法は描かれないから、ホントに解決されたかどうか分からないままで終わっちゃうし。
あと、そこで草樹は急に善玉扱いされてるけど、葵にキスした罪は消えねえだろ。

色々と引っ掛かる点も多いが、基本的には予定調和の連続で構成されている。
予定調和ってのは、観客に安心感をもたらす。例えば吉本新喜劇なんかは、次にどんなギャグが来るかってのを観客は分かっている。それを分かった上で、そのギャグが披露された時に「待ってました」と喜べる。そして重要なのは、「分かっていても笑える」ってことだ。
これは映画においても重要で、予定調和であろうと「分かっていても楽しめる」という中身になっていれば、それは歓迎できる予定調和ということになる。
そこが合格ラインに達していない場合、それは単に「何の新鮮味も無い凡庸な映画」ってことになる。

この映画の場合、真正面から捉えると、合格ラインに達していないことは確実だ。
ただし、ある意味では「分かっていても楽しめる」と言える映画にしあがる可能性はあった。
「ある意味では」という前置きを付けたのは、前述した意味とは異なっているからだ。
登場人物に魅力があるとか、ドラマに厚みや深みがあるとか、丁寧で高品質に仕上げているとか、そういうことで「分かっていても楽しめる」わけではない。
ものすごく陳腐でバカバカしいが、そこを徹底すれば、それを楽しめるのだ。

もしも製作サイドが意図的に使い古されたネタばかりを持ち込み、「その古臭さが逆に面白い」と思わせることを狙っていたとしたら、意外に悪くないセンスと言ってもいいんじゃないだろうか。
ただし、結果的には「もっと開き直って突き抜けた方が良かったのに」と思う出来栄えだ。
っていうか、そもそも製作サイドは、たぶん本気でキュンキュンさせようと思っていたんだろうなあ。
ああ、だけど「こんなモンで誰もキュンキュンしないだろ」とは思わないよ。未だに韓流ドラマで感動できる人だって世の中には大勢いるわけだし、こういう映画が好きな人もいることは間違いない。
だから、そういう人にはオススメする。

(観賞日:2015年12月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会