『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』:2021、日本

私立百花王学園。視鬼神真玄は皇伊月とトランプのギャンブルで対戦し、余裕の態度を見せていた。焦る伊月に、彼はスマホを見せた。そこには伊月の銀行口座の残高が表示されており、どんどん金額が減っていた。伊月が止めてもらうために敗北を認めると、「蛇喰夢子はどこだ?」と視鬼神は尋ねた。生徒会室には五十嵐清華、夢見弖ユメミ、生志摩妄、西洞院百合子、黄泉月るな、そして仮面を付けた3年の副会長が集まっており、そこに桃喰綺羅莉が到着した。賭場使用料と上納金の徴収を強化したこと、上納金ランキングを発表して金額が少ない下位100名を家畜に決定したことを報告し、生徒会の権力は盤石だと語った。
しかし綺羅莉は「本当にそうなのか?」と呟き、百合子やユメミも疑問を抱いていた。一か八かの公式戦を挑んで来る家畜が増えたため、百合子とユメミは精神的に疲弊していた。新渡戸九は全てが夢子から始まったと考えており、百合子たちは彼女を恨んでいた。夢子の元気が無い様子を見た鈴井涼太は、美味しいスイーツを御馳走しようと持ち掛ける。しかし夢子は「お金ならありますので」と預金通帳を見せ、32億以上の残高を見た鈴井は驚愕した。運動が苦手な夢子は、体育祭が近付いているので気持ちが沈んでいるのだった。
早乙女芽亜里が夢子と鈴井の前に現れ、ツキが無くなったことを嘆いた。彼女は賭場に生徒会の手入れが入ったため、儲けた金を全て没収されていた。鈴井は家畜の呪いではないかと指摘し、「その呪いに掛かるとどんどんお金が無くなり、最後は家畜になってしまう」と説明した。さらに彼は呪いが伝染すること、2年前には全校生徒の半分以上が家畜になったことを教える。開拓地長の討嶋は本当の話だと言い、「金が無いなら働いて返すしかないでしょ」と芽亜里を開拓地へ誘う。開拓地は家畜に強制労働させる場所であり、現在は体育祭のための仕事を担当していた。
清華は綺羅莉に、上納金の総額が先月と横ばいで0円の生徒が増えていると報告する。家畜が100人を超える可能性があり、諸悪の根源である夢子を何とかすべきだと彼女は訴える。ユメミは綺羅莉から「もう初めているんでしょ?」と問われ、夢子を潰す伝説のギャンブラーを連れて来たと語る。彼女が視鬼神を部屋に招くと、るなは動揺を示した。2年前から停学中の危険な男だが、夢子を倒すにはリスクを負う必要があると清華は語る。綺羅莉は彼女から、視鬼神に正式に夢子潰しを依頼する許可を求められた。仮面の副会長は反対するが、綺羅莉は承認した。
視鬼神は夢子を潰して彼女が持つ30億円の回収を果たすよう依頼され、成功と引き換えに正式な復学を要求した。清華が芽亜里と伊月も潰すよう依頼すると、視鬼神は既に伊月を潰したことを告げた。芽亜里は伊月から「お金、欲しくないですか」と持ち掛けられ、その話に乗った。どうしても倒してほしい相手がいるのだと伊月は言い、視鬼神との対戦を依頼した。視鬼神は自分の代役として家畜の葱韮を出し、「参加費は100万円。お前が勝ったら1000万円やる。ただ負けたら、こいつの家畜札を首から下げろ」と芽亜里に告げた。
芽亜里は視鬼神に挑発され、その対決に乗った。ギャンブルの種目はデュエル・ダイス・スタッキングで、4つのサイコロをコップの中で積み上げる。1番上に乗ったダイスの目と高さを掛けて点数にして、1つも積めなければ0点の3本勝負だ。1回戦、芽亜里は3×4段で12点を獲得するが、葱韮は1つも積めなかった。彼は負けを確信して「死にたくない」と絶叫し、視鬼神の手下たちに取り押さえられる。葱韮が「負けたら窓から飛び降りさせられる」と言うので、芽亜里は驚いた。
芽亜里は「いじめの片棒担がせてたってわけ?」と憤慨し、「こんなのギャンブルじゃない」と帰ろうとする。視鬼神は手下たちに、葱韮を窓から突き落とすよう命じる。芽亜里はゲームをやめるため、伊月に200万円を出すよう指示する。しかし伊月は1円も持っておらず、芽亜里は視鬼神から「こいつのジャンプか、お前が家畜になるか」と選択を迫られた。車椅子の葱韮に「お前のせいだ」と非難される幻覚に恐怖した彼女は、敗北を受け入れた。
視鬼神は屈服させた芽亜里をスクリーンに映して夢子を挑発し、出て来いと呼び掛けた。彼は生徒会に対し、何が起きても責任を持つ確約を要求する。妄が拳銃を突き付けて「夢子は私がやる」と言うと、彼は「弾無しの銃で何するつもりだ」と奪い取った。視鬼神は「こいつは俺の銃だ。弾もあるぞ」と告げ、妄が「それは会長に貰ったモンだ」と反論すると「元は俺のだ」と口にした。るなは視鬼神に無期限の停学処分を通告し、綺羅莉は「あの放送では夢子は出て来ない」と招待状を出す考えを明かした。
家畜になった綺羅莉は、開拓地へ送られることになった。夢子は鈴井から彼女を助けてほしいと頼まれるが、「早乙女さんはお望みではないと思いますが」と断った。夢子は招待を受け取っており、生徒会室へ出向いた。視鬼神は夢子に、「お前と同じ30億円を用意した」と告げる。すると夢子は、「負けたら学園を去って二度と関わらない」という誓いを要求する。「お前が負けたら、お前からギャンブルを奪う」と視鬼神が言うと、夢子は対決を承諾した。
視鬼神が用意したギャンブルは、ブラック・テキサス・ホールデム・ポーカーだ。クラブとスペードのカードだけを使用し、役はワンペアとツーペアのみ。フラッシュとストレートは無しで、それ以外は通常のテキサス・ホールデムと同じルールだ。第1ターンが始まり、夢子は視鬼神をジョロウグモに例えた。彼女は視鬼神が家畜を使って百合子とユメミを精神的に追い詰めたこと、報道倶楽部を利用して生徒会の焦りを煽ったことを指摘した。
夢子は最終的に10億円をレイズし、2のワンペアで勝利した。彼女が「私には、生徒会がなぜ貴方を特別視するのか分かりません。なぜ停学処分に?」と尋ねると、視鬼神は「なぜだと思う?」と不敵に笑う。その直後に北校舎の資料保管室が爆発し、彼は「続けようぜ」と告げた。第2ターンが始まり、夢子は自分が揃えた役で場所が決まると見抜いた。勝負を見守る鈴井たちが爆発を恐れる中、彼女は使用されていない清掃用具室になる役で勝利した。
第3ターンに入り、夢子はキングのペアが成立した。体育倉庫の爆発が確定し、彼女は「爆発したら体育祭、中止になっちゃうのかなと思って。今は誰もいませんし」と余裕を見せた。すると視鬼神は勝負を続け、合計50億円をレイズする。彼はスクリーンを出現させると、体育倉庫が開拓地の宿舎になっていることを教えた。視鬼神は高笑いを浮かべ、夢子は負けを認めた。視鬼神は生徒会室に呼ばれ、復学が認められた。視鬼神は「だが、足りない。もう1つ欲しい物がある」と言い、生徒会長の椅子を要求した。清華は自身の命を懸けて勝負を要求するが、綺羅莉は視鬼神の要求を受け入れた。
生徒会長の交代式の日が迫り、視鬼神は学園のルールを変えた。毎月の上納金額を最低1億円に引き上げ、達成できなければ家畜にすると発表した。2年前に生徒の半分を家畜にしたのは視鬼神で、今度は全員を家畜という絶望に染め上げようとしていた。鈴井はギャンブルを奪われた桃子が落ち込んでいるのではないかと心配するが、彼女は体育祭が無くならないことを嘆いていた。鈴井は開拓地の宿舎を訪れ、夢子の手紙を芽亜里に渡した。
交代式が行われ、生徒会長に就任した視鬼神は綺羅莉の首に家畜の札を下げた。そこへ夢子が現れ、視鬼神にギャンブルを要求する。その権利を失っている夢子だが、芽亜里が来て視鬼神に公式戦を申し込んだ。夢子は芽亜里の代理として勝負する形になるため、視鬼神は拒否できない。夢子は「私が勝ったら、貴方が奪った物を全て返して頂きます」と言い、綺羅莉も視鬼神にギャンブルを要求した。負けた者が学園を去る条件で、三つ巴の対決が行われることになった。視鬼神は妄、綺羅莉は清華、夢子は鈴井と組み、指名ロシアンルーレットの勝負が始まる。それは出すカードによって誰が誰を撃つかを決めるギャンブルで、拳銃には実弾が装填されていた…。

監督は英勉、原作は河本ほむら&尚村透『賭ケグルイ』(掲載 月刊「ガンガンJOKER」スクウェア・エニックス刊)、脚本は高野水登&英勉、製作は依田巽&細野義朗&中野伸二&橋本真司&宇田川寧&渡辺章仁&舛田淳&松下幸生、企画・プロデュースは松下剛&岩倉達哉、エグゼクティブプロデューサーは小竹里美&丸山博雄&阿部隆二、プロデューサーは柴原祐一、共同プロデューサーは尹楊会、撮影は小松高志、照明は蒔苗友一郎、録音は加来昭彦、美術は佐久嶋依里&加藤たく郎、編集は相良直一郎、VFXスーパーバイザーは小坂一順、衣装は白石敦子、音楽プロデューサーは杉田寿宏、音楽は未知瑠、主題歌『checkmate』はmilet。
出演は浜辺美波、高杉真宙、藤井流星(ジャニーズWEST)、松田るか、岡本夏美、柳美稀、松村沙友理(乃木坂46)、小野寺晃良、池田エライザ、森川葵、矢本悠馬、三戸なつめ、中村ゆりか、中川大志、田中圭、生田絵梨花(乃木坂46)、長井短、染野有来、松田篤史、高野光希、高橋里恩、前原滉、西村涼太郎、新納直、六車勇登、武田智加(HKT48)、折目真衣、小林亮太、朝倉滉生、園田あいか、伊織もえ、永吉幸一郎、夏目日紗乃、宗綱弟、布目直樹、吉田梨緒那、桜川シュウ、藤崎舞、鈴木大南、高坂友理、明日花美鈴、伊東明音、沖耕大、山方まゆ、宮瀬紗英、道又愛、工藤純大、安蒜太人、関川ゆか、大内真佑花、廣瀬優里、やましょー他。


河本ほむら&尚村透による漫画『賭ケグルイ』を基にしたTVドラマの劇場版第2作。
監督&脚本の英勉、共同脚本の高野水登は、いずれもTVシリーズからの続投。
夢子役の浜辺美波、鈴井役の高杉真宙、芽亜里役の森川葵、綺羅莉役の池田エライザ、木渡役の矢本悠馬、るな役の三戸なつめ、清華役の中村ゆりか、伊月役の松田るか、百合子役の岡本夏美、妄役の柳美稀、ユメミ役の松村沙友理、新渡戸役の小野寺晃良など、TVシリーズのレギュラー陣も続投。
他に、視鬼神を藤井流星、咲良を生田絵梨花、幸子を長井短、討嶋を中川大志、二郎を田中圭が演じている。

前作の主要ゲストは宮沢氷魚、福原遥、伊藤万理華の3名。今回は藤井流星、生田絵梨花、長井短、中川大志、田中圭なので、人数としては増えている。
しかし中川大志はTVシリーズに豆生田楓役で出演していたし、ネットドラマ『賭ケグルイ双』から続投の生田絵梨花と長井短は回想シーンでチラッと写るだけ。そして田中圭は、1シーンだけのカメオ出演。
つまり実質的には、藤井流星だけに頼る形なのだ。
それは負担が大きすぎるでしょ。
しかも彼が演じる視鬼神というキャラクターは、悪役としての魅力が乏しいのだ。

芽亜里が視鬼神を批判し、「こんなのギャンブルじゃない」と指摘するシーンがある。
まさに彼女の言う通りで、視鬼神は最初から最後まで、マトモにギャンブルをしていない。
それは「イカサマをしている」とか、そういう問題ではない。例えイカサマであろうと、視鬼神がギャンブルという範疇において卑劣な方法を取るのであれば、それは悪役として一向に構わないのだ。
彼が悪役として完全に失格なのは、「伝説のギャンブラー」という異名と中身が全く合致していないってことなのだ。

視鬼神は冒頭の伊月との対決で、ギャンブルの腕前を全く見せていない。伊月の残金がどんどん減るのを見せて、それを止めてほしい彼女に敗北を認めさせるだけだ。
芽亜里との対決でも、夢子との対決でも、基本的に手口は一緒だ。対戦相手を脅迫し、敗北を認めさせるのだ。
つまり彼は、ずっと脅迫によって相手に敗北を飲ませているだけであり、ギャンブルで勝利しているわけではないのだ。
ザックリ言うと、恐喝を繰り返しているだけのチンピラ風情に過ぎないのだ。

しかも視鬼神は、相手の弱みを握るために策を講じることさえ無い。どういう方法か要らないが口座を操作したり、無関係な人間を人質に取って脅したりするだけなのだ。
ギャンブルでの高度な頭脳戦を仕掛けることが無いだけでなく、そういう部分でも知恵を使っていない。
仮にイカサマだらけの卑怯な奴であっても、ギャンブラーとして狡猾さを見せるのであれば、夢子の強敵として成立する。しかし視鬼神はギャンブラーじゃなくて単なるクズ野郎に過ぎないので、ラスボスとしての価値が皆無なのだ。
何しろ脅しの道具が無くなれば、たぶん夢子どころか鈴井にさえ負けるぐらいのチンケな奴に過ぎないのだから

だから、どういうギャンブルで勝負しようと、そのルールについて詳しい説明が入ろうと、ほぼ無意味と化しているんだよね。
そのルール内で優位になろうが不利になろうが、どうであれ視鬼神は勝負と何の関係も無いトコで脅迫の材料を用意しており、それを使って相手に敗北を要求するわけだから。
もう夢子が対決する時点では彼の手口が明確になっているので、「夢子が勝つのか負けるのか」という緊迫感も期待感も何も無い。
だって、「どうせまた、卑怯な材料で脅迫して負けさせるんでしょ。時間的にも、また中盤だし」と、ものすごく冷めた気持ちになってしまうのだ。

視鬼神には「欲望の色が見える」という設定があり、途中で夢子のオーラ的なモノを見るシーンもある。だが、それが彼の特殊能力だったとしても、ギャンブルには全く利用していないから無価値&無意味だ。
夢子の「何が見えようと、所詮はハッタリ」という指摘は、その通りなのだ。
夢子は視鬼神を「自らを怪物のように見せ掛けてはいますが、貴方の本質は周到な準備と絡め手」と評し、罠と餌で獲物を狩るジョロウグモだと告げる。その通りだし、しかも怪物らしさを観客に感じさせることさえ出来ていない。
登場シーンから一貫して、彼には雑魚っぽさが強烈に漂っている。「背後に黒幕がいる設定だったりするのか」と、邪推したくなるぐらいだ。

完全ネタバレだが、視鬼神は指名ロシアンルーレットでも銃弾を装填する生徒を買収し、自分が撃たれる時だけダミーに交換させている。
つまり視鬼神は純粋にギャンブルの内容だけを見た場合、1度も相手に勝っていないのだ。
そんな指名ロシアンルーレットの途中で綺羅莉は「貴方はつまらないのよ」と視鬼神に言い放ち、夢子は実弾が装填されたことを示唆する発言をする。実弾の心当たりがある視鬼神は、たちまち怯えた様子を見せる。
卑劣な方法で夢子たちに敗北を認めさせていた視鬼神の化けの皮が剥がれることで、逆転劇のカタルシスを味わってくれという趣向になっているんだろう。

でも視鬼神が雑魚なのは最初からバレバレだし、途中で夢子も「本質は周到な準備と絡め手」と指摘しちゃってるからね。なので、視鬼神の雑魚っぷりが露呈するのは既定路線にしか思えないし、ビビりまくって敗北する様子を見せられても「でしょうね」と冷めた気持ちになっちゃうんだよね。
あとさ、この指名ロシアンルーレットで夢子と綺羅莉が撃たれずに済むのって、完全に運だけでしょ。そこは運任せじゃなくて、「実は視鬼神の上を行く巧妙な手口で実弾を回避していた」という趣向でも用意しておくべきじゃないのか。
もちろん運もギャンブルには大切な要素だろうけど、それだと夢子と綺羅莉もギャンブルの能力で勝ったとは言い難いぞ。
まあ、それを言い出したら、そもそも指名ロシアンルーレットというギャンブル自体が「ほぼ運任せ」のゲームなんだけどさ。

(観賞日:2022年10月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会