『映画 賭ケグルイ』:2019、日本

上流階級や政財界の子女が数多く通う名門校の私立百花王学園では伝統的にギャンブルが行われており、それに伴う階級制度が存在する。ギャンブルは生徒会が管理しており、上納金を支払えない非協力傾向生徒は家畜として扱われることになる。家畜にも公式戦という一発逆転のチャンスがあり、半年前には歩火樹絵里が生徒会長の桃喰綺羅莉に挑んだ。ヨーロピアンブラックジャックで勝負した樹絵里だが、綺羅莉に破れて人生計画表を取り上げられた。
現在、百花王学園の新渡戸九や犬八十夢たちは、蛇喰夢子に注目していた。夢子は転校して1ヶ月で、生徒会役員の皇伊月、西洞院百合子、生志摩妄を次々に倒した。さらに彼女は早乙女芽亜里と結託して生徒会に大損害を与え、夢見弖ユメミと豆生田楓にも勝利していた。生徒会書記の五十嵐清華は綺羅莉や黄泉月るなたちに、賭場が荒らされていること、看過できない集団が現れたことを報告した。その集団とは村雨天音が率いる「ヴィレッジ」で、樹絵里も幹部として参加していた。
ヴィレッジは旧校舎を占拠し、非ギャンブルと生徒会への不服従を掲げて支持者を増やしていた。生徒会はヴィレッジの壊滅と村雨の排除を決定し、清華は夢子の制圧も取り入れた計画を提案した。夢子は樹絵里からヴィレッジに来てほしいと誘われ、全く興味が無いと言って断った。しかし新渡戸と話した夢子は鈴井涼太を誘い、旧校舎へ見学に赴いた。十夢は手下たちに芽亜里を拉致させ、仲間になってほしいと持ち掛けた。十夢たちは賭場を荒らし、生徒会に反抗していた。生徒会の誘いを断ったことを持ち上げられた芽亜里は気持ち良くなり、十夢の誘いに乗った。
夢子と鈴井が旧校舎に行くと、ヴィレッジの面々が共同生活を送っていた。木渡潤がヴィレッジに参加しているのを見て、鈴井は驚いた。村雨はギャンブルを全面的に否定し、ヴィレッジの面々は彼に心酔していた。村雨は夢子から「生徒会長とギャンブルがしたい」と言われ、「ギャンブルは何も生み出しません。そして何も救いません」と話す。夢子は過去に村雨が綺羅莉とのギャンブルで勝利したことを指摘し、「村雨さんともギャンブルがしたい」と告げて去った。
生徒会は生徒代表の指名選挙の開催を発表し、「代表に選ばれれば活動資金3億円と、人生計画表・白が与えられる」と約束する。選挙は2人1組によるギャンブルで、それ以外の生徒には1千万円の融資で投票するよう指示し、参加しなければ退学にすると通告した。夢子は生徒会への復帰を狙う伊月から一緒に参加しようと誘われるが、「もう組む相手は決まっている」と断った。十夢は芽亜里に仲間がいると告げて旧校舎へ案内するが、ヴィレッジの面々から冷たく無視された。
美化委員が旧校舎に現れ、ヴィレッジに対して退去を要求した。妄は「従わなければ代理執行する」と通告し、投票資金を置いて去った。十夢が「戦うんだ。全員で立候補して確率を上げるんだ」と呼び掛けると、ヴィレッジの面々は賛同する。しかし村雨は「私は賭けない。ギャンブルでは何も救えない」と言い、樹絵里が「このままではヴィレッジが無くなってしまいます」と告げても考えを変えなかった。樹絵里がギャンブルで綺羅莉に買った過去に触れると、村雨は「生徒会長は怪物だ。勝てるのは同じ怪物だけ。勝っても私という怪物が残る。怪物は必ず人を傷付ける」と述べた。
芽亜里が村雨を「腑抜け」と扱き下ろすと、夢子も同調した。夢子は鈴井と一緒に指名選挙に参加することを宣言し、芽亜里は立候補した木渡と組むことにした。十夢は村雨の元を去り、樹絵里は彼女と組んで指名選挙に出ることを決めた。指名選挙には50組の生徒が参加し、予選会ギャンブルでは票争奪ジャンケンが実施される。全員にはジャンケンのカードが1枚ずつ配られ、勝てば相手の手札を奪える。20枚を手に入れた者から、順番に予選を通過できるというルールだ。
ゲームの時間が10分しか無いため、スタートすると生徒たちは一斉に動き出した。そんな中で夢子だけは全く焦らず、ノンビリとした態度を見せる。伊月は薬師寺透という男子と組んでカードを大金で買い取り、トップで予選を通過した。鈴井は夢子に問われ、自分のカードがパーだと答える。夢子は自分もパーだと答え、相変わらず動こうとしなかった。芽亜里&木渡が予選を通過し、慌てた鈴井は勝負に出ようと考える。そんな彼に和気屋喪部美という女子生徒が声を掛け、序盤で負けて1人1万円でカードの情報を売っていると話す。何を持っている人を捜しているのかと問われた鈴井は、グーを集めてほしいと依頼した。
樹絵里&十夢が予選を通過し、鈴井は蜂須賀淳之介という男が19枚までカードを集めていることを知った。鈴井は蜂須賀から勝負を要求され、彼のパートナーが喪部美だと知る。喪部美は鈴井を騙し、カードの情報を調べていたのだ。蜂須賀は余裕の態度でチョキを出すが、夢子はグーのカードで勝利した。彼女は鈴井に嘘を教えていたのだ。こうして夢子と鈴井は、予選を通過した最後の1組になった。4組が並んだ時、伊月は薬師寺が特別転入生のロボットだと明かした。
るなが「役者は揃ったかな」と言うと、綺羅莉は「まだ全部じゃないわ」と呟く。村雨は旧校舎で佇み、綺羅莉にギャンブルで勝利した時のことを思い出す。彼は姉である月見の借金と人生計画表を破棄するため、綺羅莉にギャンブルを挑んだのだ。しかし勝利を報告した彼の眼前で、月見は「なんてことしてくれたの。何も分かってない」と冷たく言い放って自殺したのだ。樹絵里は旧校舎に飛び込み、十夢がいなくなったことを仲間に話す。十夢は両手を鎖で拘束され、口を塞がれた状態で監禁されていた。
指名選挙の本選会場では準決勝が始まり、まずは夢子&鈴井と伊月&薬師寺がステージに現れた。準決勝で行われるのは支持率争奪ゲームで、プレイヤーには1から7のカードとジョーカーの8枚が配られる。1ターンごとに1枚ずつカードを出して、最も大きい数字を出した者が勝利となる。同じカードは無効で、ジョーカーはオールマイティーだがバッティングによる無効はある。ペアが4勝するか手札が1枚になれば、ゲームは終了する。生徒による投票の総数が支持率となり、それと勝利数を掛けた最終ポイントで勝負は決まる。
ゲームが始まる前の段階では、伊月が生徒に金を撒いて高い支持率を得ていた。彼女は勝ったも同然だと確信するが、夢子は余裕の態度を崩さなかった。第1ターンは鈴井が勝利し、第2ターンは鈴井と薬師寺がジョーカーでバッティングして夢子が勝った。第3ターンは伊月と薬師寺がジョーカーと7を出し、初めて勝利した。しかし第4ターンは夢子と伊月が7でバッティングし、鈴井が勝った。そして最後のターンは夢子がジョーカーで勝利し、31%の支持率と勝利数を掛けた69ポイントで決勝進出を決めた。
夢子は次の出番を待っていた芽亜里に、あることを頼んだ。生徒会は準決勝の第2試合を始めようとするが、樹絵里は十夢が見つからずに1人で現れた。そこへ村雨が駆け付け、十夢とのメンバー交代を願い出た。清華はルールに従って却下しようとするが、綺羅莉が許可した。事前支持率は30%対70%で、圧倒的に優勢な芽亜里と木渡は勝ち誇った。しかし村雨はカードの位置を全て記憶できる能力の持ち主で、第4ターンまで全てバッティングを誘って完勝した。
決勝戦の事前支持率は63%対36%で、村雨と綺羅莉のチームが優勢だった。しかし第1ターンでは樹絵里が間違ったカードを出し、鈴井が勝利する。樹絵里が謝罪すると、村雨は「大丈夫。結果的には良かった」と言う。その様子を見て、夢子はため息をついた。芽亜里は十夢を発見するが、生徒会の仕業でないことを分かっていた。夢子は第2ターンでも鈴井が勝つと予言し、その通りになった。樹絵里が泣いて村雨に詫びると、夢子は睨み付けた。彼女は三文芝居をやめるよう要求し、樹絵里が負けるために参加したことを指摘する…。

監督は英勉、原作は河本ほむら・尚村透(掲載 月刊「ガンガンJOKER」スクウェア・エニックス刊)、シナリオ原案は武野光&河本ほむら(小説『賭ケグルイ戯』より)、脚本は高野水登&英勉、製作は依田巽&細野義朗&中野伸二&松浦克義&勝股英夫&藤倉尚&佐竹一美&渡辺章仁&吉川英作&舛田淳、企画・プロデュースは松下剛&岩倉達哉、エグゼクティブプロデューサーは小竹里美&丸山博雄&阿部隆二&楮本昌裕&宇田川寧、プロデューサーは尹楊会&柴原祐一、撮影は小松高志、照明は蒔苗友一郎、録音は加来昭彦、美術は佐久嶋依里、編集は相良直一郎、衣装は白石敦子、音楽は未知瑠、主題歌『アイフェイクミー』は そらる。
出演は浜辺美波、高杉真宙、森川葵、池田エライザ、矢本悠馬、宮沢氷魚、福原遥、伊藤万理華、三戸なつめ、中村ゆりか、松田るか、岡本夏美、柳美稀、松村沙友理、小野寺晃良、中山求一郎、秋田汐梨、山西竜矢、菊池真琴、木村舞輝、小川裕輔、千葉祐輝、中島桃子、瀬沢夏美、岡本樹、高橋里央、若村柚那、柳井愛美、岡田賢飛、若林廉也、岸本茉李花、岩田愛理、山下信平、大野美彦、永澤まい、山本文香、成原佑太郎、市川耕大、加藤瑠華、秋宮はるか、藍沢真伍、白木孝宜、月乃帆風、朝比奈加奈、大矢剛康、本田拓海、近藤笑菜、清家伶緒奈、原田里佳子ら。


河本ほむら&尚村透による漫画『賭ケグルイ』を基にしたTVドラマの劇場版。TVシリーズのシーズン2に続くオリジナルストーリー。
監督&脚本の英勉、共同脚本の高野水登は、いずれもTVシリーズからの続投。
夢子役の浜辺美波、鈴井役の高杉真宙、芽亜里役の森川葵、綺羅莉役の池田エライザ、木渡役の矢本悠馬、るな役の三戸なつめ、清華役の中村ゆりか、伊月役の松田るか、百合子役の岡本夏美、妄役の柳美稀、ユメミ役の松村沙友理、新渡戸役の小野寺晃良など、TVシリーズのレギュラー陣も続投。
他に、村雨を宮沢氷魚、樹絵里を福原遥、十夢を伊藤万理華が演じている。

ギャンブルを題材にした作品だが、頭脳ゲームの面白さは期待しない方が賢明だ。
ポーカーフェイスで相手を騙すようなキャラクターは皆無に等しく、大半の人間は感情を大げさなまでに表現する。
それでも、きっとやり方次第では、「心理的な駆け引き」「相手の裏をかく騙し合い」という面白さを表現できないことは無いんだろう。
だが、そういう面白さも乏しい。一応は騙し合いを描いているのだが、高度な心理戦だと感じる部分は乏しい。

じゃあ何が売りなのかというと、それは「若手俳優たちのオーバーアクション合戦」に尽きると言っていいだろう。
ただ、浜辺美波は既にTVシリーズでオーバーアクションを見せているし、『センセイ君主』でも似たような大仰な芝居をやっている。なので、そこに新鮮味は無い。
そういう意味では、福原遥が得をしていると言っていいだろう。
劇場版で初めて登場する上に、他の出演作でも今回のようなキャラは演じてこなかったはず。なので「福原遥のこんな演技は初めて」という部分は、引き付ける力が強いと言っていいだろう。

票争奪ジャンケンのエピソードに入った時、「これって『カイジ』じゃないのか」と言いたくなる。
『カイジ』の限定ジャンケンとルールは異なるが、ジャンケンのマークが描かれたカードで争うってのは同じだ。
で、その上で『カイジ』と比較すると、あの作品ほどヒリヒリした痛みのある空気や、ギリギリまで追い詰められる心理描写なんてのは全く無い。勝利で得られる褒美や負けて落ちる場所のレベルも、まるで違うしね。
「そもそも作品のテイストが違うんだから、そこを比べちゃダメよ」と思うかもしれないが、だったら比較されるようなゲームを持ち込まない方が絶対に得策でしょ。

芽亜里は「1枚同士ならあいこはノーカウント」ってことで、最初に指名した相手とチョキであいこになる。その上でグーの木渡に情報を教え、木渡が同じ相手に勝負を要求して勝つ。
これを「巧みなコンビプレー」として描いているけど、まず「なぜ芽亜里は相手がチョキと分かったのか」という疑問がある。そこは何も説明してくれないのよね。
また、木渡が「2枚になったら1枚の奴に挑めば、勝てる確率は3分の2」と話すけど、3分の1は負けるわけで。なのに全て勝っている感じなので、そこは確率論だけで進めていいのかと。
ジャンケン自体は普通にやらなきゃいけなくて、そこには「相手が何を持っているのか、何を出すのか」という探り合いの心理戦があるはずだが、そういうのは完全に無視している。

支持率争奪ゲームでは、夢子が伊月に勝った直後に「2勝すればいいと思わせ、7とジョーカーを無駄遣いさせるのが狙いだった」と語る。
でも伊月を追い込むには、まず先に2勝しなきゃいけないわけで。そして、その2勝は策略通りの必然じゃなくて、偶然に頼っているわけで。
それに、7とジョーカーを無駄遣いさせる作戦にしても、伊月がボンクラだから簡単に乗っちゃっただけにしか見えないし。
用意されたゲーム自体に新鮮味や斬新さは無い上に、前述したように心理戦としての面白さも期待できない。

芝居が変だと感じる箇所が、幾つかある。
最も気になるのは、夢子が決勝戦の途中で事件の真相を暴露するシーン。
完全ネタバレを書くが、十夢を拉致したのは樹絵里の仕業だ。さらに彼女は、わざと負けようと目論んでいる。
彼女は綺羅莉に敗北して熱烈な信者になり、村雨を勝負の場に引きずり出した上で敗北させ、ヴィレッジを壊滅しようと企んでいたのだ。そうすることで、綺羅莉に気に入ってもらおうというのが彼女の狙いだったのだ。

そのシーンで、夢子が樹絵里の裏切りを暴露した時、それを知って「嘘だ」と漏らす十夢の反応が変だ。まるで笑っているかのようにしか見えないのだ。
たぶん本人としては、「まさか、信じられない」という感情を表現しているつもりなんだろう。でも表情は、頬が緩んでいるように見える。なので演技を間違えているし、それでOKを出した監督のセンスにも大いに問題がある。
また、綺羅莉の反応も変だ。夢子が真相を暴露している間、彼女は楽しそうに笑みを浮かべている。ところが樹絵里が熱烈な信仰心を語ると、冷たい表情になる。
でも、わざと樹絵里が負けるつもりだと判明した時点で、綺羅莉のギャンブル美学に反する行為でしょうに。その段階で、樹絵里を嫌悪し、軽蔑するような態度を取るべきじゃないのか。
「ヴィレッジ壊滅の目的で意図的に負けようとするのは面白いけど、それが自分のためだと分かって態度を変える」というのは、キャラの見せ方を間違えていると感じるぞ。

樹絵里の目的が判明しても、次の第3ターンでは彼女の狙い通りになっている。そして第4ターンに入ってから、夢子の反撃が開始される。
でも、これだとタイミングが遅いと感じるんだよね。真相を暴露された樹絵里が開か治ったかのように高笑いを浮かべて勝ち誇ったら、すぐに夢子が反撃を開始して彼女を焦らせた方がいいと思うのよ。
あと、樹絵里の裏切りを知った村雨が激しく動揺するので、ただでさえ「圧倒的に強い男」という印象に綻びが出ているのに、完全に崩壊しちゃってるぞ。
チート能力を持つような奴のはずなのに、夢子に全く叶わない程度の奴にしか見えなくなっちゃってるぞ。

第3ターンが終わった後、芽亜里と木渡はショックで沈んでいるヴィレッジの連中に立ちあがるよう呼び掛ける。そこでは何の反応も無いが、十夢が熱く訴えると全員が同調する。
「芽亜里たちの時点で立ち上がれよ」と言いたくなるが、そこは置いておくとして、ヴィレッジの連中はアジトを包囲している生徒会に戦いを挑む。
でも、そういう格闘アクションなんて要らないよ。
ギャンブル映画なんだから、決着は全てギャンブルで付けろよ。

「樹絵里が村雨を敗北させるために対決の場へ引っ張り出し、全ては彼女の思惑通りに進んでいた」ってことになると、村雨というキャラが弱くなる。彼はカードの位置を全て記憶できる能力の持ち主で、綺羅莉にも勝ったことがあるぐらい圧倒的な強さを誇るギャンブラーだ。
しかし「樹絵里の掌の上で転がされていた」ってことで、ただの噛ませ犬みたいになってしまう。
ホントだったら、夢子と村雨の対決がメインイベントになるべきじゃないのか。それなのに、村雨が樹絵里の存在アピールのための道具と化している。
村雨か樹絵里か、夢子が倒そうとする相手を最初から1人に絞って、そこで対決の構図を作った方が良かったんじゃないか。

(観賞日:2022年1月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会