『嫌な女』:2016、日本

幼少期の夏の日に起きた出来事を、今でも石田徹子は覚えている。その日、彼女と同い年の従姉妹である小谷夏子は、祖母からお揃いのワンピースをプレゼントされた。すぐにワンピースを着た夏子に対し、祖母から「良く似合う」と褒められた徹子は戸惑いを示す。すると夏子は彼女のワンピースを奪い取り、ハサミを使って引き裂いた。母親から「なぜそんなことをするの」と責められた彼女は、「だって、私の方が似合うもん。人と同じなんて嫌」と号泣した。徹子は母が夏子を慰める様子を見ながら、ワンピースを拾い上げた。
子供の頃から一人ぼっちの寂しさを抱えてきた徹子は、司法試験に合格して萩原法律事務所に採用された。坂口博之という男と出会い、やがて結婚した。しかし仕事を得ても家族を作っても、心の空白は埋まらなかった。ある雨の日、法律事務所に依頼者として夏子が現れた。久しぶりに姿を見せた彼女は、「久しぶり、全然変わってないね、この感じ。相変わらず地味っていうかさ」と笑いながら言う。徹子が困惑した様子で黙り込んでいると、夏子は構わず「婚約してた男に慰謝料を請求されててさ」と告げる。
夏子は所長の萩原道哉と事務の大宅みゆきに、「私は全然悪くないんですよ。好きじゃないから婚約破棄しただけ」と軽く話した。徹子はワンピースのことを覚えているかと問い掛けるが、夏子は覚えていない様子だった。徹子は婚約破棄の相手である農家の西岡章夫と会い、「突然冷めたって言われて、納得できるわけねえべ。男だって傷付くべ」と言われる。ただし彼が訴えを取り下げないのは慰謝料が目的ではなく、本当は徹子に未練がある様子だった。
徹子は夏子が西岡のマンションを自分名義に変えさせようとしていたこと、それを向こうの両親に止められた途端に婚約破棄したことを知る。徹子が電話で「騙そうとしてたわけじゃないよね?」と確認すると、夏子は「だったら何?関係ないでしょ」と開き直ったように言う。徹子が「事実なら訴えられたら不利になるんです」と説明すると、夏子は笑って「そんなの、本気だったって言えば済むじゃない」と告げた。
唖然とした徹子の「なんで結婚詐欺師の真似なんか。騙される方も騙される方ですけどね」という言葉に、みゆきは「楽しかったんじゃないですか。どんなカップルにも幸せな時期はありますから」と述べた。西岡が事務所へ話し合いに来ると、夏子は「裁判で争うなんて嫌なの。だって一度は愛し合ったのに悲しすぎるじゃん」と告げる。「やっぱり別れたくない。請求は取り下げる。親は説得した。戻って来てくれよ」と西岡が言うと、請求を取り下げると聞いた夏子は「ラッキー」と喜ぶ。夏子は復縁をキッパリと拒否して立ち去るが、西岡は「なっちゃんといると楽しかったんだよな」と思い出の写真を眺めて頬を緩ませた。
夏子が弁護料を払わずに姿を消したため、徹子は萩原から注意された。みゆきは夏子について、「人に夢を見させる天才もしれませんね」と口にした。依頼主の女性について徹子が「本人に離婚する気は見られませんし、これ以上、時間を掛けても意味は無いかと」と言った時、萩原は「話を聞いてあげるのも大事ですよ。先生は冷たい、事務的だ。話を聞いてくれる人に替えてくれと、クレームも色々と入ってますしね」と語る。全く動じずクールな態度を示す徹子に、萩原は「疲れませんか、そのヒール」とピンヒールの高さを指摘した。徹子は夫から「しばらく距離を置かないか」と言われた時も、やはりクールに「うん」と告げただけだった。
季節が過ぎて、磯崎賢という若い弁護士が事務所に赴任した。萩原は彼に、「訴訟に勝つことだけが、依頼人の満足ではないんです。勝率よりも、依頼人の満足度を上げるべきなんです」と説いた。「教育係として何とか言ってください」と意見を求められた徹子は、「私は別に」と無表情で告げた。そんな徹子の前に、夏子が現れた。彼女は大型トラックに乗せてもらって現れ、赤毛のウィッグを着用して派手な服を着ていた。
徹子の左手を見て離婚に気付いた彼女は、「お互いバツイチじゃん」と軽く言う。夏子は仕事を持って来たと言い、自分から絵を購入した嶋正義に1年も経ってから返金を求められているのだと語る。「私は何にも悪くないのにさ。知り合いから仲介頼まれただけなのにさ」と悪びれずに話す夏子に、「徹子は前回の弁護費用、誰が払ったと思ってるの?」と告げる。夏子に反省する気が無さそうなので、徹子は断る。しかし萩原が引き受けると言って磯崎に任せ、徹子はサポートする羽目になった。
嶋は安アパートで暮らしていたが、絵の購入費は二百万円だった。誰が見ても贋作なのは明らかで、徹子は「その価値が無いことぐらい分かりませんか」と質問する。嶋は弱々しい声で、「夏子さんが、滅多に手に入らない、いい絵だからって」と漏らした。磯崎は痴情のもつれだと確信し、徹子は「やっぱり夏子は夏子でした」と口にした。徹子と磯崎は夏子から病院へ呼び出され、彼女が橋本敬一郎という初老患者と話している様子を目撃した。橋本の病状は芳しいとは言えず、その日は話すことさえ無かった。夏子は徹子に、自分は内縁の妻だと告げた。
磯崎の調査報告を聞いた徹子は、彼と共に夏子の元夫である熊田喜昭を訪ねた。夏子が金に困っている様子は無かったかという磯崎の質問に、熊田は彼女が自己破産寸前の状態だと教えた。その理由を熊田は知らなかったが、借金の一部を肩代わりしていた。「離婚したのに、なぜ肩代わりを?」と徹子が訊くと、彼は「やっぱり、彼女が心配で」と答えた。熊田とは違い、小学生の息子は夏子について「僕には関係ないし」と冷淡な態度を示した。
徹子が弁護していると聞いた彼は、「弁護士って、お金さえ貰えれば、どんな人でも守るんですね」と告げた。徹子と磯崎は夏子が絵画詐欺を働いたアメ横へ行き、たまたま遭遇した若い男に彼女のことを尋ねた。写真を見せられた男は「ああ、あのババアか」と言い、「すげえ目立ってたよ。いい歳して、若い女子に混じって必死で若い男に声掛けてたよ」と語った。嶋は若い女子ではなく夏子を選んだ理由を徹子と磯崎に問われ、「ほっとけなくて。彼女だけには誰も足を止めなくて」と答えた。さらに彼は、「太田という男のせいです。あの男から彼を救ってあげたかったんです」と語った。
徹子と磯崎は太田俊輔に会い、夏子に仲介を頼んだのが彼だという証言を得た。ただし太田は、金額を指定したことは否定する。「付き合ってるんでしょ」と徹子が訊くと、彼は「人のウチに勝手に上がり込んで料理作ったりしてましたけど」と迷惑に思っていることを話す。太田は「痛いんですよね。ウザいんで死んでくれねえかな。結婚するんですよ。だから邪魔すんなってつってんだろ。その子、いいトコの一人娘でさ。せっかく手に入れた金の鳴る木、あんな女のせいで手放すなんてゴメンなわけ」と語り、徹子を脅した。
徹子は病院へ行き、夏子に「太田さんに貢いでたんでしょ。だから自己破産寸前で。それで橋本さんだったわけ?若い男との恋の痛手を癒やしてくれたから、恩返しに、献身的に看病を」と告げる。夏子が「そんなわけないでしょ。誰も俊輔の代わりにはならない」と否定していると、橋本の息子の敬介が妻子を伴って病室へやって来た。敬介は「帰れよ。内縁だかなんだか知らないけど、金目当ての奴なんか認めないからな」と怒鳴るが、妻に促されて病室を去った。
夏子は橋本から「俺が死んだら、遺産全部、貰ってくれないか」と言われ、「そこまで言うんだったらね」と口にした。「もし俺の呼吸が苦しくなったら、スイッチを止めてくれないか」という彼の頼みも、夏子は快諾した。徹子は橋本と同室の近藤高明から、夏子が遺産を貰えるかどうか質問される。彼は敬介が滅多に顔を出さないこと、夏子は毎日来ていること、自分のような身寄りの無い人間にも優しいことを語る。近藤は夏子が人生で楽しかったことについて彼女が教えてくれたと話し、遺言書を作ってほしいと徹子に頼んだ。彼は徹子にビデオメッセージを録画してもらい、妻に謝罪する言葉を語った。それを聞いていた徹子は、涙を流した。
徹子はみゆきに、「初めてなんです、相手の気持ちに共感できたの。自分でもまだ戸惑ってます」と語る。すると、みゆきは「徹子先生は傷付くのが怖くて他人と距離を取っていただけ。それに先生は変わりましたし。きっと夏子さんの影響もあるんじゃないかしら。正反対だから。夏子さんは、他人の中に入り込んで、常に特別になりたいと思っている。徹子先生は、周囲と距離を置き、人とかかわることを避けて平凡でいようとしている。でも夏子さんと関わる内に、少しずつ」と話す。徹子が「なっちゃんがひまわりだとしたら、私は月見草なのかな」と口にすると、彼女は「貴方がひまわりで、夏子さんが太陽」と述べた。
夏子は息子の幸一に誕生日プレゼント渡すため、熊田の家を訪れた。しかし帰宅した幸一は「要らねえよ、今さら母親みたいなことすんじゃねえよ」と声を荒らげ、彼女を拒絶した。夏子は熊田に笑顔で「元気そうで何よりじゃん」と告げ、その場を去る。彼女は酔っ払って太田の家へ押し掛けるが、「結婚が決まったから」と嫌がられる。強引に部屋へ入った彼女は、婚約者の神谷真里菜を見て激しく苛立つ。夏子は「アンタより前から付き合ってんの」と喚き散らし、迷惑そうな態度を取る太田に襲い掛かった。
夏子は警察に連行され、徹子が身柄の受け取りに出向いた。「さっさと手を切りなさいよ、みっともない」と諭された夏子は、「うるさい。私はね、アンタみたいにひからびるのは嫌なの。私はこれで終わる女じゃないの」と怒鳴る。夏子は早足で立ち去り、徹子は深く傷付く。徹子は坂口の家を訪ねるが、女性が一緒にいることを知ってショックを受けた。彼女は「今度は絶対に失敗しないでね」と気丈に振る舞い、その場を後にした…。

監督は黒木瞳、原作は桂望実『嫌な女』(光文社文庫刊)、脚本は西田征史、製作総指揮は大角正、製作は武田功&木下直哉&三宅容介&丹下伸彦、エグゼクティブプロデューサーは関根真吾、プロデューサーは福島大輔&寺西史&市山竜次、アソシエイトプロデューサーは稲垣竜一郎、企画・プロデューサーは一色真瑠、キャスティングプロデューサーは福岡康裕、ラインプロデューサーは杉崎隆行、撮影監督は渡部眞、照明は和田雄二、録音は矢野正人、美術は小澤秀高、編集は柳澤和子&大畑英亮、ウェディングデザイナーは神田うの、音楽は周防義和&Jirafa、音楽プロデューサーは高石真美。
主題歌『いのちの歌』竹内まりや Words by:Miyabi(竹内まりや)、Music & Arrangement by:村松崇継。
出演は吉田羊、木村佳乃、永島暎子、ラサール石井、寺田農、織本順吉、中村蒼、古川雄大、袴田吉彦、竹中直人、田中麗奈、国広富之、金子昇、テット・ワダ、近藤公園、愛原実花、岡本麗、佐々木希、宅間孝行、高田敏江、加島潤、伊東幸純、北島美香、森レイ子、亜呂奈、水石亜飛夢、杉山裕右、絲木建汰、黄地格樹、兒玉宣勝、西郷豊、増田眞澄、田口翔大、佐藤瑠生亮、川北のん、河内ひより、大塚洋、田邊和也、石井浩、古口拓也、柳澤龍太郎、小林裕弦、小田萌紅、義山望、松本妃代、雪中梨世、菊地裕子、加藤桃子ら。


桂望実の同名小説を基にした作品。
先に2016年3月6日から4月10日までNHKのBSプレミアム放送されたTVドラマがあり、そこで徹子役を演じた黒木瞳の働き掛けで映画化が実現した。当初は女優として参加する予定だったが、準備を進めていく中で初監督を務める気になったそうだ。
そもそも公開の5年前に映画化権を自ら取得しており、ドラマより先に企画していたってことだね。
脚本は『アフロ田中』『信長協奏曲(コンツェルト)』の西田征史。
徹子を吉田羊、夏子を木村佳乃、みゆきを永島暎子、萩原をラサール石井、橋本を寺田農、近藤を織本順吉、磯崎を中村蒼、太田を古川雄大、敬介を袴田吉彦が演じている。

黒木瞳としては、この映画を成功させ、監督としての新たなキャリアを重ねていこうという強い気持ちがあったはずだ。
と言うのも、順調に女優としてのキャリアを重ねているように思われがちだが、本作品の数年前から状況は変化している。
まずキャリアの危機が生じたのは、娘の起こした事件が報じられた時期だ。この事件はネットでは騒がれたものの、夫が電通の人間ということも影響したのかか、大半のマスコミは黙殺した。しかしイメージダウンに繋がったことは確かだ。
また、所属事務所の社長が死去したことをきっかけに独立した行動も、女優としてのキャリアにはマイナスに作用しているようだ。

さて、かなり気合いを入れて黒木瞳が撮った映画だが、興行収入は6200万円。仮に製作費がそこまで高くないにしても、興行的には完全に失敗だと断言できる。
それも当然と言えば当然で、これまで黒木は監督としての勉強を何もしていないのだ。
TVドラマや舞台で演出の仕事を重ねていたわけでもない。以前から監督業に強い興味を持っていて、女優として仕事をしながら演出を見て学ぼうとしていたわけでもない。この映画を製作する際、急に「自分が監督したい。出来るかも」と言い出したのだ。
つまり、思い付きみたいなモノなので、そりゃあ成功する可能性の方が低いだろう。よっぽど天性の才能がありゃ別だけどさ。

まず最初に感じるのは、「徹子の心情がサッパリ分からん」ってことだ。
オープニングから彼女のモノローグが入り、「ずっと一人ぼっちの寂しさを抱えていた」「家族を作っても心の空白は埋まらなかった」と説明する。しかし、「なぜ?」と言いたくなるのだ。
彼女は両親から疎外されていたわけではない。まあ家族のシーンは無いけど、少なくとも母親や祖母からは愛されていたようだ。
なので、どういう事情で彼女が幼少期から孤独を抱えるようになったのか、それがサッパリ分からないのだ。

しばらくすると、「いつの間にか、腹を立てたり嫉妬したりするよりも、受け入れることを選ぶようになっていた」というモノローグも入る。だが、これも「そういう性格になった経緯や理由は何なのか」ってのがサッパリ分からない。
「こういう風になりました」ってのを語るだけでは、徹子に共感することが難しい。
あえて俯瞰で捉えるとか、登場人物を突き放すとか、そういう演出を持ち込む作品もあるよ。でも本作品の場合、徹子にモノローグを担当させていることから考えても、彼女に感情移入させることが望ましいはず。
ハードボイルドとして、主人公に語らせているわけでもないしね。

法律事務所に夏子が現れると、ドラムの音が鳴り響き、シーンを盛り上げようとする。まずは足元からカメラが上にパンし、首の辺りまで見せる。で、背中を向けていた彼女が振り返り、徹子に気付いて駆け寄るという見せ方をする。
だけど、「最初は顔を見せない」という演出には、何の意味も無い。
だって、そこが成長した夏子の初登場だからね。
あと、夏子を演じているのが木村佳乃なのは大半の人間が知っていることなので、それを隠すという意味もないし。

それと、「久しぶり、全然変わってないね、この感じ。相変わらず地味っていうかさ」と夏子は言うけど、それも「こっちは相変わらずかどうか知らんし」と言いたくなる。
何しろ、吉田羊と木村佳乃が会うシーンは、そこが初めてだからね。
そりゃあ「徹子が地味な女」ということは、それなりに示してあるよ。でも成長した夏子との関係は、全く描写されていなかったわけでね。
幼少期のシーンでも、2人の関係性を充分に示していたとは到底言い難いし。なんせ会話も交わしていないからね。

夏子が「金払う必要なんか無いよね。私、死んでも払いたくないの」と言うと、徹子は幼少期の彼女を連想する。だけど、それって上手く結び付かないんだよね。
だって、こっちからすると、幼少期の夏子に対する印象は「他人と同じことを極端に嫌がる」という性格であって。
それって、「婚約破棄したけど慰謝料を払いたくない」と主張する行為と、どういう関連があるのか分からない。「死んでも嫌なの」という台詞で関連付けているみたいだけど、ちと無理がある。
それと、夏子が事務所へ来るシーンには「雨の中でデカい雷鳴の音」という演出があるんだけど、まさか「夏子が嵐を呼ぶ女」という意味じゃないよね。もはやギャグじゃないと成立しないぐらい、わざとらしい雷鳴なんだけど。

夏子は純粋に彼女を愛し、信じていた西岡を騙し、マンションを奪い取ろうと企む。失敗すると婚約を破棄し、弁護料も払わずに消える。
この一件に関して、夏子は何の擁護も出来ないクソ女である。「嫌な女」というレベルでは留まらない。
ここで与えた最低のクソ女という印象を挽回するのは、よっぽどのことが無い限り難しい。そんな「よっぽどのこと」は、後の展開には用意されていない。
っていうか、他の部分で何があっても、その一件の後始末が無かったらリカバリーにならない。具体的には、「最初から西岡を騙すつもりじゃなかった」とか、「実は西岡の方に問題があった」といった事情が明らかになり、「夏子は醜悪な結婚詐欺もどきじゃなかった」という風に事実が変化することでも無いと無理だ。
そういう設定は無いので、つまりリカバリーできていないってことになる。

久しぶりに現れた夏子は、徹子が肩代わりした弁護士費用を支払う気など全く見せない。彼女は新たな問題を抱えているが、今回も自分の正当性を悪びれずに主張する。そして今回の案件も、やはり「惚れた男の弱みに付け込んで、財産を搾取してから捨てる」という手口の詐欺である。
西岡の時と同様、全く擁護できる部分など無い。
ところが困ったことに、この作品では夏子の行為が全面的に正当化されてしまうのだ。
いや無理だわ。
ひょっとすると「夏子は男に楽しい時間を与えたんだから、別にいいでしょ」とか、「騙される男が悪い」とか、そういうことなのか。

しばらく話が進むと、「夏子が内縁の妻として献身的に橋本を介護している」とか、「ほとんど見舞いにも来ない敬介が夏子を責める」とか、「夏子が入れ上げた太田がクズ野郎」といった要素を用意して、夏子に同情心を向けさせようと画策している。
それらの部分だけを取ってみれば、確かに「橋本に対する夏子の介護は金目当てじゃない」とか、「敬介に夏子を非難する資格など無い」とか、「太田は文句無しにクズ野郎」とは言えるよ。
でも、だからって、そこまでに夏子がやってきた行為が全て正当化されるわけではないでしょ。
「それはそれ、これはこれ」でしょ。

そもそも、太田に入れ上げて利用されたことについては、夏子も男たちを騙しているので「自業自得だろ」としか思えないし。
あと、太田のクズっぷりが極端すぎて、「夏子に同情させるための仕掛けが下手すぎる」と感じるんだよね。
ホントに女を騙しまくっている狡猾な詐欺師なら、相手弁護士の前で、そこまで露骨に「俺はクズです」ってのはアピールしないだろうと。
わざわざ分割画面まで使って夏子が橋本を介護している様子を並行で描き、彼女への同情心を誘っているけど、なんか場面がゴチャゴチャしちゃってるし。

徹子は近藤のビデオメッセージを録画し、涙をこぼす。
だけど、それまでクールに徹していた彼女の心を揺り動かし、涙腺まで緩ませるほどの強い力を、近藤のメッセージには感じない。
彼は妻に対する過去の態度を反省して謝罪するんだけど、そんなのは珍しくもないことでしょ。
「お前の存在の大きさが分かった。今さらだけど、お前には優しい顔でいてほしいんだ。お前との思い出だけは灰に出来ねえ。冥土まで持って行くよ。俺と結婚してくれて、本当にありがとう」と語るけど、何の流れも無くて、そこだけ浮いちゃってるし。徹子が自身の人生や身内との関係を重ね合わせるような箇所だって、何も見当たらないし。

後半、ついに徹子が耐え切れなくなって怒りを爆発させ、夏子は全く反省しないまま、掴み合いの喧嘩が勃発するシーンがある。しばらく喧嘩を続けて落ち着くと、「2人が仲直りしました」という展開になる。「男同士が喧嘩して仲良くなる」ってのが昔の青春映画や漫画で良く使われていたけど、それと似たようなことをやっているわけだ。
男の友情と同じパターンが、女だと絶対に成立しないとは言わない。だから、「殴り合って仲直り」というケースがあってもいいだろう。
でも、この映画における「掴み合いから仲直り」というシーンは、その説得力を全く持っていない。
何しろ、ほぼ一方的に夏子に非があるし、彼女は全く反省も謝罪もしていないからね。
ちなみに前述した「男が喧嘩して仲直り」というシーンだと、ほぼ謝罪が附随するからね。

終盤、みゆきが病気で死亡するという展開が用意されている。 そこまでに、彼女が何かしらの病気を抱えていることを示すための台詞が、全く無かったわけではない。しかし申し訳程度だったし、死が訪れるほど体調が悪い様子は皆無だった。
なので、彼女が死ぬのは、あまりにも唐突で違和感が強い。「徹子がみゆきに影響を受け、仕事ぶりが大きく変化する」という展開に繋げようとしているのは分かるけど、死なせる必要性は感じない。
っていうか、「みゆきの死で変化」という展開にしたら、その直前の夏子との喧嘩は無意味になるでしょ。
あと、みゆきが萩原に「徹子には絶対に言わないように」と口止めしていた理由がサッパリ分からんぞ。

その後、夏子が太田の結婚式会場に乗り込むが追い払われ、でも徹子と磯崎の協力で中に入るという展開がある。徹子は太田がクズっぷりを見せ付けた時の映像を会場に流し、夏子は彼の指示で絵画詐欺をやっていたことを暴露する。
だけど前述したように、太田が露骨にクズっぷりをアピールするのは不自然だろ。相手が撮影していることも、事前の説明で知っているんだし。
あと、夏子は真里菜にやり直すよう告げ、「彼女と自分自身に向けて」ってことで竹内まりやの『元気を出して』をアカペラで歌うんだけど、「なぜ急に歌う?」と違和感を抱くぞ。
それで綺麗にまとめているつもりかもしれないけど、何もまとまっちゃいないぞ。

(観賞日:2018年5月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会