『伊藤くん A to E』:2018、日本

かつて『東京ドールハウス』という大ヒットドラマの脚本を手掛けた木村文乃は、ドラマ研究会のシナリオ講座で講師を務めている。彼女が「街でバッタリと好きな人に出会う」というシチュエーションについて話すと、生徒の1人が「有り得ない」と否定して他の面々も賛同する。しかし伊藤誠二郎という生徒は、「こないだ好きな子と偶然会ったよ」と言う。「ロマンが無いねえ、それでドラマ書けるの?」と彼は言い、「運命の人って、絶対にいると思うんですよ。ねえ矢崎女史」と莉桜に笑顔で問い掛けた。
『ヒロインみたいな恋しよう』という本を出版した莉桜は、発売記念サイン会&トークショーに赴いた。彼女は会場に集まった女性客に愛想を振りまきながら、つまらない連中だと心の中では見下していた。控室に戻った彼女の元に、ドラマのプロデューサーである田村伸也がやって来た。「ネタになりそうですか?」と彼が訊くと、莉桜は「主体性の無い女たちに何を言っても無駄」と一蹴する。しかし彼女は観客のアンケート用紙の中で4枚だけ、AからDの付箋を貼って分けていた。
田村が「気になってる女の子がいるんじゃないですか」と言ってアンケート用紙に目を通すと、莉桜は「どうしようもない女ばっか」と口にする。しかし田村は「新作のネタになるかもしれませんよ」と告げ、等身大の女性たちの無様で切実な恋愛像になると言う。彼は莉桜に、次のクールで放送する予定だった久住健太郎の企画が飛ぶかもしれないのだと明かした。田村は莉桜に、『東京ドールハウス』を超えるようなドラマを作ろうと持ち掛けた。
伊藤は自転車を走らせて書店へ行き、莉桜の本を立ち読みしている島原智美に声を掛けた。莉桜のイベントに行ったと話す智美に、伊藤は名前だけは知っていると告げる。ラーメン屋へ移動した伊藤は、智美から頼んでおいた菓子を受け取って「後で払うわ」と言う。「誰かにお土産?」と智美が訊くと、彼は「職場の子」と答えた。伊藤が「好きな子が出来た」と言うと、智美はショックを隠して笑顔で「なんだ、良かった」と口にした。
莉桜はAのアンケートを書いた智美を家に呼んで話を聞き、「好きな男とSEXまでいけない女」として分類した。智美は5年前に合コンで伊藤と知り合い、彼だけがエスカレーターに乗っていると感じて付き合い始めた。しかし伊藤は好きな子がいると打ち明けた日、智美が「どこかに泊まろう。もっと一緒にいたい」と言うと「好きな子に誠実でいたい」と断って去った。莉桜から「セックスしたいんですか、付き合いたいんですか」と問われた智美は、「どうしたいのか分かりません」と答えた。莉桜は智美に断捨離を勧め、気持ちの整理が付くまでは伊藤との連絡を断つよう助言した。
伊藤は学習塾の瞬栄セミナーへ行くが、目当ての野瀬修子が来ていなかったので菓子の袋を置いて去った。修子は遅刻して塾へ向かう途中、無料の自己開発セミナー『トータル・エモーションズ』のチラシを受け取る。そんな物で変われるはずがないと彼女は呆れ果て、塾に行く。塾長は「また遅刻か」と言い、昨日の小テストの採点も間違いだらけだったと指摘する。修子が謝ると、彼は「君のすいませんは、もう聞き飽きたよ。いつも上の空だよな」と告げた。
修子は菓子の袋に気付き、伊藤の「修ちゃんの好きなグミだよ。今日、一緒に帰ろう。16時に裏口で待ってる」という手紙を読んで顔を歪める。彼女はバイト仲間の瑞穂から、早く帰るよう促される。修子が「気味が悪い」と伊藤への不快感を示すと、瑞穂は「あんまり邪険にしない方がいいよ。塾長の甥で、実家は千葉の大地主らしい」と述べた。莉桜が帰宅すると、久住が来ていた。久住から新しい企画は自分の穴埋めではないかと問われた莉桜は、即座に否定した。
修子は伊藤からのLINEを無視し、アパートに戻った。ルームシェアをしている宮田真樹は、修子が何年も前の服を着ているのを見て笑う。修子は「今はバイト生活で、服に掛けるお金なんて無いし」と言い、今のバイトについて「いいよ、続かなくても。学芸員に復帰するまでの仮の姿だし」と告げる。真樹は「仮の姿だって思うから身が入らないんじゃないの?」と話すが、修子の考えは変わらなかった。面接を受けていた学芸員の結果を伝える電話が修子に掛かって来たが、不採用を通告された。
修子がアパートを出ると、塾長に住所を聞いた伊藤が待ち受けていた。彼は修子に付きまとい、交際を求めた。修子がキッパリと断ると、彼は「自分のこと、どれほどのモンだと思ってるわけ?」と高慢な態度で告げる。彼が「俺にそんな態度で、どうなってもいいわけ?」と脅すように言うと、修子は彼を睨み付けて走り去った。莉桜はBのアンケートを書いた修子と会い、「言い訳ばかりで動き出せない女」として分類した。
修子は塾を辞めようと思っていることを莉桜に話し、「今は仮の姿で、本当の自分じゃないんです」と言う。莉桜は辛辣な口調で、「なら、本当の貴方はどんなに凄いんですか?どんな瞬間でも、自分は自分です」と述べた。修子は真樹から「本気で学芸員の仕事探してんの?選り好みしてるようにしか見えない」と指摘され、「どうせ私は根無し草ですよ。仕事してるのが、そんなに偉いの?」と反発する。真樹は彼女に、「幾らでも変わるチャンスがあるのに、それを見逃してるのは修ちゃん自身だよ」と告げた。
莉桜はAとBの取材経過を田村に見せ、このまま続けてもいいのかと尋ねる。本当に連ドラになるのかと彼女が尋ねると、田村は編成部が本格的に動き出していることを知らせる。田村から「無様で切実な女たちのドラマ。矢崎莉桜の真骨頂じゃないですか」と言われた莉桜は、彼と交際していた頃の出来事を思い出す。田村から結婚することを明かされた時、彼女はショックを隠して「じゃあ、もうやめないとね、こんなことは」と口にしていた。
莉桜がマンションに戻ろうとすると、伊藤が笑顔で待ち受けていた。莉桜が部屋に招き入れると、「僕たちクリエーターにとって恋愛って必要なんですかね」と伊藤は質問する。莉桜が「恋愛すると色んな物語を描けるからね」と言うと、彼は「ですよね。やっぱり」と喜ぶ。伊藤は放送中のドラマを辛口批評するブログを始めたと明かして、莉桜にも見てほしいと告げる。伊藤が「批評の仕事も向いているかもしれないです」と言うと、莉桜はドラマの批評もシナリオの役に立つかもしれないと述べた。
瞬栄セミナーへ赴いた伊藤は、修子が辞めたと知って落胆した。彼は智美の元へ行き、「今の俺には智美しかいない。生まれ変わる」と口にする。智美が喜んでいると、伊藤は生まれ変わるために「トータル・エモーション」という会社の自己啓発セミナーを受けることを話す。彼は入会金の20万円が必要だと話し、智美が金を貸すと言い出すように仕向けた。莉桜は智美から相談され、今の状態から抜け出すのに20万円が安いか高いか考えるよう説いた。
トータル・エモーションの講座に赴いた伊藤は、修子の姿を見て浮かれる。「塾はシナリオライターになるまでの繋ぎ。仮の姿から生まれ変わるために講座を受けようと思うんだ」という伊藤の言葉を聞いた修子は、自分も同じだと気付いて立ち去った。智美は伊藤と会って20万円を差し出すが、「貸してなんて一言も言ってないよね。君のそういう所が苦手なんだよ」と疎ましそうに言われる。何かに使うよう告げても拒否された彼女は、「じゃあ私が自分のために使う」と告げて去った。智美から話を聞いた莉桜は、自分を追い詰めていたのだと指摘し、「やっと答えが出たじゃない」と述べた。
田村は莉桜が書いたAとBのプロットを読み、同じセミナーが登場することに気付いた。彼が「ひょっとして同じ男?」と訊くと、莉桜は「まさか。偶然でしょ」と告げる。本当に自分が執筆できるのかと彼女が確認すると、田村は次のプロット次第だと言う。そこで莉桜は、CとDは親友同士だと告げる。神保実希は先輩の伊藤に頼まれ、TVドラマのADのアルバイトを紹介した。伊藤から会えないかというメールを受け取り、彼女は喜んだ。親友の相田聡子が「片想いを卒業か」と言うと、実希は「そういうんじゃないよ」と否定しながらも頬は緩んでいた。
莉桜は聡子を呼び、「C:親友の恋に同様」と分類する。聡子は莉桜に、初めての彼氏に実希が浮かれ過ぎているのではないかと心配していることを語る。莉桜は彼女に、彼氏を見極めて親友を守ってあげるべきだと告げる。話を聞いた田村は、莉桜は煽っていることを指摘する。莉桜は全く悪びれず、聡子は心配しているのではなく嫉妬しているだけだと告げる。莉桜は聡子を焚き付けたことで、親友の彼氏を奪うかもしれないと考えていた。彼女は次のクールのドラマ脚本を書く気満々だったが、田村は上司から旬の脚本家を連れて来るよう指示されていた。
伊藤は実希の誕生ケーキを予約するためケーキ店ー赴き、そこで働く聡子と遭遇する。彼は聡子から実希の初めての彼氏だと聞き、動揺を示した。聡子は伊藤に、どんな相談にも乗るので、いつでも話してほしいと告げた。莉桜は実希と会い、「D:好きな人に処女を捧げたい女」として分類した。実希は初めて伊藤と2人で会うことに、すっかり浮かれていた。ジャズバーに出掛けた彼女はホテルに誘われて快諾し、自ら服を脱いで「お願いします」とベッドに寝た。伊藤は困惑し、「いきなり丸投げされても」と口にした。
実希は伊藤とセックスしなかったが、聡子には関係を持ったと嘘をつく。彼女は莉桜と会い、ホテルの一件から伊藤に避けられているかもしれないと話す。「処女だから重いと思われているのかも」と漏らす彼女に、莉桜は「捨てた方がいいかもしれませんね」と言う。聡子は莉桜と会い、伊藤から誘われたことを話す。彼女は伊藤とジャズバーへ行き、実希がネットで調べた情報ばかり喋って辟易したことを告白された。聡子は伊藤とホテルへ行き、関係を持った。
セックスが終わると、伊藤は「俺がどうしたら喜ぶか、ちゃんと分かってるもんな」と嬉しそうに言い、実希への不満を聡子に語る。伊藤が「ああいう重い女って苦手なんだよね」と疎ましそうに話すと、聡子は彼がシャワーを浴びている間に部屋を出て泣いた。彼女は莉桜の前でも涙を流し、「なんでこんなに違うんですか。実希に比べたら、私なんて」と漏らす。莉桜は全く表情を変えず、「誰かと比べなきゃダメなの?」と冷静に告げた。
久住は莉桜の部屋を訪れ、実希のファイルを見て顔を強張らせた。同じ大学出身だと思い出した莉桜が知り合いなのかと尋ねても、彼は何も答えなかった。莉桜は田村に電話を掛けて久住が怪しいと告げ、楽しそうに話す。伊藤は莉桜に長編を書くことにしたと明かし、自分の前に現れた女の子たちの視点で1人の男を描く内容だと説明する。コンクールに応募するつもりだと伊藤が話すと、莉桜は「せっかくの長編なのに勿体無い。焦らない方がいい」と述べた。
実希は莉桜に会い、「もう先輩のことは吹っ切れました」と言う。「それは嘘ですね」と指摘された彼女は、「ホントです。自分のために、早く先に進みたいんです」と口にする。彼女は久住を誘い、処女を奪ってほしいと頼む。ずっと実希に惚れていた久住は、彼女の覚悟を確かめてから承諾する。伊藤は聡子に電話を掛け、「また会いたいなあと思って。君のことが好きになってきたみたいなんだ」と軽く言う。彼が実希と別れたことを話すと、聡子は「いつも逃げてばかりで、どんなに惨めでも、実希みたいに人を好きになってことなんて無いんでしょ」と批判した。彼女は伊藤を罵り、電話を切った。
伊藤は実希に電話を掛け、今から会いに行くと告げた。久住とセックスする直前だった実希だが、慌てて服を着替えた。部屋のチャイムが鳴ると、久住はドアほ開けないよう告げて「俺じゃダメか?」と言う。しかし実希は完全に無視し、すぐにドアを開けて伊藤を迎え入れた。一方、莉桜は田村に電話を掛け、実希と久住が知り合いだったことを嬉しそうに話す。そんな彼女に、田村はAからDの男が同一人物であること、それがシナリオ講座に通う伊藤であることを教える…。

監督は廣木隆一、原作は柚木麻子『伊藤くん A to E』(幻冬舎文庫刊)、脚本は青塚美穂、製作は村田嘉邦&竹田青滋&瀬井哲也&楮本昌裕、プロデュースは春名慶、チーフプロデューサーは浅野敦也&丸山博雄&岡本東郎、プロデューサーは松本桂子&尹楊会&成瀬保則&行実良、撮影は桑原正祀、照明は北岡孝文、録音は深田晃、美術は宮原奈緒美、衣裳は金順華、編集は野本稔、音楽は遠藤浩二。
主題歌『Joker』androp Lyric:Takahito Uchisawa、Music:Takahito Uchisawa。
出演は岡田将生、木村文乃、佐々木希、志田未来、池田エライザ、夏帆、田中圭、中村倫也、田口トモロヲ、山下リオ、戸田昌宏、岡本夏美、長田成哉、山田キヌヲ、一井直樹、吉谷彩子、古谷佳也、白石糸、三島ゆう、日中泰景、長田涼子、沢本美絵ら。


柚木麻子の同名小説を基にした作品。
2017年8月から10月まで全8話のTVドラマが深夜枠で放送され、その劇場版として製作された。
監督の廣木隆一、脚本の青塚美穂は、いずれのドラマ版からの続投となる。
伊藤を岡田将生、莉桜を木村文乃、智美を佐々木希、修子を志田未来、聡子を池田エライザ、実希を夏帆、田村を田中圭、久住を中村倫也、塾長を田口トモロヲ、真樹を山下リオ、田村の上司を戸田昌宏、瑞穂を岡本夏美が演じている。

映画はドラマ版の続編ではなく、大半は焼き直しである。ドラマ版ではAからDのエピソードが描かれていたが、映画はそこにEを加えて構成したという感じだ。
だからドラマ版を見ている人からすると、「ほぼ再放送」という状態になってしまう。
ではドラマ版を見ていない人は新鮮な気持ちで楽しめるのかというと、これも微妙なのだ。と言うのも、ドラマの総集編的な内容になっているため、カットされている箇所が多いのだ。
そうなると、ドラマ版を見ている人なら脳内補完できるが、そうじゃない人にとっては説明不足ってことになる。でも、事前にドラマ版を見たら、今度は「ほぼ同じことの繰り返しを見せられる」ってことになるわけで。
諸々を考えると、この映画は企画として大きな間違いをやらかしているとしか思えないのである。

最初のシーンで、シナリオ講座に来ている岡田将生の姿を見せている。その後、AからDのエピソードを描く時、全ての相手である伊藤が岡田将生であることも見せている。
だから観客は最初から、「AからDの女性が語る伊藤は全て同一人物であり、それはシナリオ講座に来ていた男だ」ってことを知っている。
でも、それを莉桜もAからDの女性たちも、全く知らない設定だ。なので田村が「ひょっとして同じ男?」と訊いて莉桜は「まさか。偶然でしょ」と答える会話が、アホ丸出しにしか聞こえなくなる。
後半には「莉桜が事実を知って驚く」という展開があるが、こっちからすると「いや、とっくに知ってるし」と冷めた気持ちになってしまう。

どうせドラマ版を見ていた人からすると、「全て同一人物」ってのは分かっている事実だろう。
だが、そうであっても、そこを隠したまま進める以外に手は無いのだ。
その事実をバラしたまま話を進めるのは、オチを先に喋ってから漫談をやるようなモノだ。
オチの他に何か魅了できるような趣向でもあればともかく、そんな物は何も無いわけで。ドラマ版を見た人も欺けるように、オチの向こうに新たな捻りを用意しているわけでもないわけで。

っていうかオチの問題も含めて、なぜドラマと映画を、ほぼ同じ内容で作ったのかと理解に苦しむ。
しかも、ホントにドラマの総集編として作ったのならともかく、わざわざ別で映画を撮影したにも関わらず、ほぼ同じ内容なんだよな。
まず映画ありきで宣伝目的のドラマを作ったにしても、連動企画として作ったとしても、それぞれ異なる内容にすべきじゃないかと。映画を重視するなら、ドラマ版は前日譚にしておくとかさ。
そこの手間や労力を惜しんだら、そりゃあ映画がポンコツに仕上がるのも仕方が無いだろう。

莉桜はトークショーに来た女性たちを完全に見下しており、アンケートについても無意味だと一蹴している。しかし彼女は、4人だけは別に取り分けているのだ。
ってことは興味を示したはずだが、その4人だけピックアップした理由は全く分からない。
その時点で「ネタになる」と感じていたのなら、田村への対応は筋が通らないよね。ってことは、「ネタになるとは思わないけど気になった」ってことだよね。
そのポイントは何なのか。それを何も教えてくれないのだ。
「4人のアンケートは全て相手が伊藤だった」という共通項は、映画版では提示されていないのだ。

莉桜が田村からアンケートをネタにして新作を執筆するよう勧められたら、「4人を呼んで詳しい話を聞く」という手順に移ればいいはず。
でも、そこからシーンが切り替わると、伊藤が自転車を走らせて書店へ行く様子が写し出される。伊藤サイドから描いているわけだ。
そのまま少し話を進めてから、莉桜が智美から話を聞いているシーンになる。
でも、この構成は上手くない。修子のパートでも、まず伊藤が塾へ行くシーンから始めるが、これも同様だ。

修子のパートでは、最初に伊藤の行動を描く。その後に修子を登場させ、しばらく彼女を追ってから、「莉桜が修子に取材している」という様子が描かれる。
でも、そういう流れにすると、視点の移動が「まとまりの無さ」に直結してしまう。
まず莉桜が修子に話を聞く様子から入り、「修子が話す内容」として彼女のパートを描いた方がいい。伊藤の視点からのシーンは、完全に削除した方がいい。
その方が、間違いなくスッキリと整理されたはずだ。

修子のパートに入った後、途中で智美のパートとミックスされる展開に入る。この辺りは伊藤サイドから描く形を取っているが、その方が処理が簡単なのだろう。
それは分かるが、伊藤サイドから描くと「無様で切実な女たちの物語を描く」というテーマからは完全に外れる。
なぜなのかは言わずもがなで、そこでは伊藤が主役になっているからだ。
そもそも智美と修子のパートをミックスさせる構成からして賛同できない。先に智美のパートを終わらせてから修子のパートに入り、その中で「智美のパートのあの部分は、ここと繋がっていたのか」と分かるような形を取ればいいんじゃないかと。

聡子と実希のパートは、最初から並行して進めている。しかし、ここは先に片方のパートを描いて(実希から始めた方が良さそうかな)、もう片方のパートに入ってから「実はさっきの女性の親友が彼女でした」と明かした方が面白くなるんじゃないか。
この映画の構成だと、「莉桜が4人のアンケートに興味を持ち、取材して伊藤との関係について聞く」という仕掛けと上手く合っていないように感じるんだよね。
パートの途中で莉桜の個人的なシーンを何度も挟んでいるが、これもゴチャゴチャさせているだけだ。
ひょっとするとドラマ版との違いを出そうとして色んな趣向を施したのかもしれないが、だとしても全て裏目に出ていると言わざるを得ない。

莉桜は取材した女性たちから真剣に相談されても、シナリオのネタとしか考えていない。彼女たちはファンなので信頼しているが、莉桜は無様になるよう煽る。
そこに罪の意識など皆無で、楽しそうに「最高に無様だから、書いてて楽しいわ」と言う。それは強がりや虚言ではなく、心底から言っている。
そんな奴なので、伊藤を批判できないぐらいクズだ。一応は主人公のはずだが、見事なぐらい好感度が低い。
構成を考えると、彼女は狂言回しでもいいようなキャラだが、「実は莉桜が伊藤にとってのEだった」という展開があるので、没個性というわけにはいかない。
で、「実はE」ってのは終盤に明かされるのだが、莉桜は前述したようなクズっぶりが充分すぎるほどアピールさけているため、「無様な女」としての展開を見せられても、同情心も応援する気持ちも全く湧かないのよね。

終盤、調査対象である4人の無様さと切実さを高い場所から見て馬鹿にしていた莉桜が、「実は伊藤にとってのEだった」「田村が自分のプロットではなく伊藤のプロットを選んだ」ってことを知ると、自らも無様さと切実さをさらけ出す。
4人の女性たちは傷付くが、新たな一歩を踏み出そうとする。
「5人の女性たちは辛い目に遭ったが、精神的に成長した」という形になっている。
ただ、それに伴って、クズでしかない伊藤が何のしっぺ返しも食らわず、「女性たちが成長するために役立つ存在だった」ってことで肯定されるような形になっているのは、どうにもスッキリしないモノが残るなあ。

(観賞日:2019年11月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会